予定が狂ったウクライナ軍の反攻作戦、慣れ親しんだ防御戦術に回帰
https://grandfleet.info/us-related/ukrainian-military-counterattack-off-schedule-returns-to-familiar-defensive-tactics/
『ニューヨク・タイムズ紙は2日「反攻作戦の初手で躓いたウクライナ軍は欧米流の戦術を脇に置き、自分達が最も慣れ親しんだ戦術に回帰している」と報じており、専門家達は小規模部隊に依存する第2波攻撃でロシア軍の防衛ラインを突破できるか疑問視している。
参考:Ukrainian Troops Trained by the West Stumble in Battle
予定が狂った反攻作戦が今後どの様な展開を見せるか誰にも分からない
待望の反攻作戦は西側製兵器を装備した部隊による大規模攻撃を前提した作戦=諸兵科連合作戦で、ロシア軍陣地に向かって前進する機械化部隊を工兵部隊、砲兵部隊、防空部隊などが支援し、この統合された戦力群が防衛ラインを突破するだろうと期待されていたのだが、異なる部隊間の協調が上手く行かず、敵の大砲や攻撃ヘリからの攻撃に無防備な状態で機械化部隊は前進することになり、ウクライナ軍は反攻作戦の初期段階で予想を超える損害を被ってしまった。
出典:Telegram経由
ニューヨク・タイムズ紙は米政府関係者や軍事アナリストの話を引用し「反攻作戦の初手で躓いたウクライナ軍は欧米流の戦術を脇に置き、自分達が最も慣れ親しんだ戦術に回帰している。砲弾が飛び交う地雷原に機械化部隊を突入させるのではなく、大砲や長距離ミサイルでロシア軍を消耗させることに重点を置いており、欧米で訓練を受けた戦力の第2陣で小規模な攻撃を仕掛けている」と報じている。
さらに「NATOは西側製装備、欧米での訓練、大量の弾薬供給に支えられたウクライナ軍が大きな成果をあげると期待していたが、今回の戦術変更は『期待が実現する見込みがない』という明確なシグナルだ」と指摘したが、カーネギー基金のマイケル・コフマン氏は「反攻作戦自体は失敗していない。問題はウクライナ人が慣れ親しんだ最善の方法=防御戦術で戦えるよう支援するのではなく、数ヶ月間の訓練で欧米流の戦い方に変更し、万全の準備を整えていたロシア軍にぶつけるというアイデアにある」と主張。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
米国や欧州諸国は「投射火力量で戦場を制圧してロシア軍を消耗させるという古典的な防御戦術は弾薬在庫を枯渇させるため、異なる部隊が高度な協調攻撃を実施する諸兵科連合作戦の方が効率的だ」と考え、訓練の大半を防御ではなく攻撃に転じる方法に割いたが、最前線を訪問してウクライナ軍指揮官や兵士から聞き取り調査を行った米政府高官やアナリスト達は「欧米で訓練された旅団は4週間から6週間しか諸兵科連合作戦の訓練を受けておらず、この部隊は6月初旬の作戦でミスを犯して後退した」と証言しているのが興味深い。
この証言に登場するアナリスト達は「反攻作戦の進展が遅い原因、ウクライナ軍の作戦スキルが不足しているため」で紹介したフランツシュテファン・ガディ氏、コンラッド・ムジカ氏、ロブ・リー氏、マイケル・コフマン氏のことで、6月初旬の作戦ミスとは「予め安全を確保していた進路を無視した部隊が地雷に遭遇して損害を被る」「何の調整もなく夜間攻撃の時間を変更して砲兵部隊が無意味に射点を晒す」といった内容だ。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
欧米当局者は「約2週間の反攻作戦に投入された装備の20%が損傷もしくは破壊されてしまった」と明かしており、前線視察に参加したアナリスト達も「新しく習得した戦術を戦場で初めて使用し、これを上手く機能させるのは誰がやっても困難で、これをロシア軍が大砲を撃ちまくってくる戦場でやれば尚更だ」と、特にロブ・リー氏は「新しい装備に慣れ親しみ、部隊の結束力を高めるために与えられた時間は短く、命じられた任務の内容は困難で、彼らは信じられないほど過酷な状況に置かれていた」と述べている。
戦術を慣れ親しんだ防御戦術に戻したウクライナ軍は「欧米で訓練された部隊」の第2陣を大規模運用ではなく小規模な部隊に分割して攻撃を繰り返しており、フィリップ・ブリードラブ元NATO司令官は「もし彼らがロシア軍の防衛ラインを突破するようなことがあれば、再び戦術を機動戦に戻すかもしれない」と述べているが、ジェーンズのアナリストは「小規模部隊による攻撃戦術は大量の死傷者、装備の喪失、最小限の領土解放で終わる可能性が極めて高い」と指摘しており、予定が狂った反攻作戦が今後どの様な展開を見せるか誰にも分からない。
出典:PHOTO BY Senior Airman Duncan Bevan
因みにNATOもウクライナも「制空権や航空優勢を確保した上で反攻作戦を実施するのは不可能」と承知していたはずで、ここに少数のF-16が加わっていたとしても結果に大きな違いはなく、大規模な航空作戦で制空権を確保して徹底的な空爆を実施し「最後に地上部隊が敵を蹂躙する」という戦い方は「圧倒的な航空戦力を持つ米軍」が「能力的に格下のイラク軍」に実現できた話だ。
これをロシア軍相手に再現するのは不可能なので、欧米諸国やウクライナは「地対空ミサイルで敵の制空権を拒否(前線に近づけば近づくほど低空域にギャップが生まれる)した状態で実施される反攻作戦=諸兵科連合作戦を想定していた」という意味だろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ
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投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 38 』
『 名無し
2023年 8月 03日
返信 引用
一部では第一次大戦のようと言われていますがとんでもない、新しい戦争のカタチを呈していますよね。
前例のない戦場の状況に従来のドクトリンが通じないのは至極当たり前なので、時間はかかりますが今回の戦訓を元に新しい戦い方が練られていくんじゃないでしょうか。
かつてここのサイトでもたびたび紹介されていましたが、米軍ではあらゆる兵科に、コックにでさえカウンターUAV技能を習得させる方向らしいですが、この動きは諸外国にも広まっていくと思います。
12
gepard
2023年 8月 03日
返信 引用
最初観測任務だけだったドローンがどんどん進化して、今や両軍が運用する数万円のFPVドローンが戦車を撃破する様子を見るとWW1の新兵器の恐竜的進化を意識せざるを得ないですね。
恐らく将来は分隊単位にドローン兵科を配置してサポートする時代が来ると思います。
25 』
『
ななし
2023年 8月 04日
返信 引用
少なくとも専門家が、航空優勢を取れない上に砲弾や装備に限りがある(消耗を是としない)状況下で迅速に反攻を実施するなら諸兵科連合で連携して攻めるのが選択肢として一番妥当、と踏んだのでしょう
もちろんウクライナも納得の上で
逆に言えばそれ以外で攻めるならなんらかのデメリット、例えば損害の度合いであるとか侵攻スピードの遅さなどを甘受する必要があったと
しかしながら諸兵科連合には連携のスキルと兵士の質が重要でそれが結局なしえなかった、なのでやれることをやれるようにしたのが現状でしょう
なるほど欧米流でも成功は出来なかったかもしれない、しかし少なくとも目標を達成するためにそれより適切な案は出なかったということです
5
ak
2023年 8月 04日
返信 引用
なんかこう、「がんばったね、で褒められるのは小学生まで」
と言う言葉を思い出すような、
どうしても反攻始めないと「政治的に終わるから」と、ダメ元でやってみたけど、やっぱり駄目だったよ。
という事で、無駄に消費された西側から搔き集められた兵器・弾薬と、ただでさえ擦り減っているのに強制徴兵で集めた兵士を無駄に磨り潰す。
こういう政府を支援するのもいいかげん止めた方が良いと、諸国が思うようになるのは当たり前の事なんですがねぇ。
4 』
『
gepard
2023年 8月 03日
返信 引用
ウクライナ軍は「欧米で訓練された部隊」の第2陣を大規模運用ではなく小規模な部隊に分割して攻撃を繰り返している
→突破後に戦果を拡張するはずの戦略予備を浪費している実態だ。
諸兵科連合能力の低さもあるがウクライナ軍の大きな問題点として大隊・中隊レベル以上の攻勢を組織できている様子がない。主攻軸と見られるロボティネでの攻撃すら50両以下の規模に過ぎない攻撃を繰り返して意味のない損耗を重ねている。恐らく上級司令部の調整能力が低く複数の部隊間連携が取れていない。
総動員で失った兵卒は確保できても士官・将校の充足は間に合っていないことが大きいのではないだろうか。
24
アイスノン
2023年 8月 03日
返信 引用
広大な戦場では現実的に徹底させられる作戦をするしかないってことか。
保守的な人は多いものだし、究極の緊張を強いられる中で不馴れな戦術は難しいってことだな。
現場で2つの派閥で争う訳にもいかん。
ただ人的にも武器的にも消耗度の高い作戦では勝てないことはウクライナも認識しているだろう。
7 』
『 朴秀
2023年 8月 03日
返信 引用
ロシア軍をバカにしすぎたのはありそう
14
Whiskey Dick
2023年 8月 04日
返信 引用
※米国や欧州諸国は「投射火力量で戦場を制圧してロシア軍を消耗させるという古典的な防御戦術は弾薬在庫を枯渇させるため、異なる部隊が高度な協調攻撃を実施する諸兵科連合作戦の方が効率的だ」と考え
西側の諸兵科連合作戦とやらは所詮充分な航空支援があるから成り立つわけで、ロシア軍の大砲と航空機を制圧できない状態で機甲部隊を突撃させるのは自殺でしかない。しかもロシア軍が撤退した場所には大量の地雷が埋められている、こんなものどうやって処理するんだ。
「古典的な防御戦術は弾薬在庫を枯渇させる」つまり大砲砲弾の枯渇を誤魔化すためにウクライナ人に自殺作戦を強いているのだ。大砲が無いのなら西側が大量に保有している戦闘機とヘリコプターを数百機ぐらいウクライナに供給せよ、ロシア軍を全面撤退させウクライナを西側の一員に迎えるのならばそのぐらいの覚悟はできるはずだ。
12 』
『 neko
2023年 8月 03日
返信 引用
こんなに厚い防御線を突破できる軍なんてアメリカ以外ないんじゃないの?
自衛隊なら可能?英仏独とか可能なのかね?
17
ナ
2023年 8月 04日
返信 引用
教科書通りなら独仏程度の戦力があれば理論上は可能と言われてましたね
もっとも欧州最強格の独仏並の軍備をウクライナに整えるのは非現実的だし、仮に可能でもそれほどウクライナを強化してしまって良いのかという議論はされてましたが
4
拓也さん
2023年 8月 04日
返信 引用
フランスはともかく今のドイツ軍に突破できる力があるかと言えば怪しいかも。ポーランド軍だったらいけそう。素人の想像に過ぎませんが。
9 』
『 たむごん
2023年 8月 03日
返信 引用
ウクライナ軍、小集団の攻勢では、部隊は消耗。
消耗した戦力で、突出部を防衛する必要がありますから、もう手一杯でしょう。
ウクライナ軍が、突破したとしても戦線が凸凹になった状態で、防衛する必要があります。
ロシア軍が、逆襲してこれば、常に小包囲の危機に晒されるているのではないでしょうか。
大国相手の総力戦、戦場になると悲惨ですね。
ウクライナは、本土荒廃・人口激減した中で復興しなければなりません。
日本も他人事ではなく、防衛力増強と外交の大事さを感じます。
6 』
『 匿名さん
2023年 8月 03日
返信 引用
戦争は、純粋に物理的なもの。
プロパガンダを上手くやっても、戦場を変えることはできない。
根拠なき熱狂には、暴落が必然である。
反攻作戦の失敗は、ゼレンスキー政権の失墜へ繋がりえる。
停戦をという人がちらほらいるが、NATO会議で、停戦すれば加盟の話を進めると約束してもらった以上、
ロシアは停戦に応じることはないだろう。
もはや、進むことも戻ることもできなくなった難破船。
大量の難民がEUへ流入して、EU崩壊の危機が再来しないとも限らない。
どこまでも迷惑な国である。
19
bbcorn
2023年 8月 04日
返信 引用
ロシアが大損するだけの馬鹿な侵略やめて撤退したら
何も問題ないんですけど 忘れてます?
11 』
『 アジアの純真
2023年 8月 03日
返信 引用
予備兵力はかなり前から転用と逐次投入で消耗しており、既に書類上の存在に過ぎないという噂がありますがどうなんでしょう。最近の腐敗ぶりを見ると消耗の穴埋めに現地で部隊の引き抜きとかやってそうだなとか思いました。
12
反革命分子
2023年 8月 04日
返信 引用
火力がないので装甲兵力の機動戦でなんとかする・・・
なんだか電撃戦じみたやり方に感じるけど、かつてのドイツにはあった航空優勢と近接航空支援はない。諸兵科連合なら何とかなる、というのは一体どのような論理で出てきたものなのだろう?
8
bbcorn
2023年 8月 04日
返信 引用
前線でロシア兵を削り 後方で兵站をつぶす。
最初からずっとそうだろ 基本戦略は何も変わってないけど。
2 』
『 匿名
2023年 8月 04日
返信 引用
伝統的にロシア系列の国家が防衛に徹すると強い
序盤に醜態晒したのが少なくない楽観論を生み出し巡り巡ってロシアに有利に働いて見えるのは何とも皮肉な
10
ポンポコ
2023年 8月 04日
返信 引用
ウクライナ軍が「慣れ親しんだ防御戦術に回帰」は当然です。
ロシア軍の火力優勢を相殺するためには、陣地や要塞に籠ることが必要だからです。
1 』
『 2023年 8月 04日
返信 引用
こっちの記事は正確な分析だね
結局この攻勢の主役となるべきだった虎の子の部隊は東側流でも西側流でもない中途半端でただ練度の低い部隊にしかなれていなかったということだろう
ウクライナの運用が悪かったわけではなく、ただ西側の戦力整備計画が立案段階から悪かった
9
匿名
2023年 8月 04日
返信 引用
キーウ首都攻防戦で、12万のロシア軍を5万のウクライナ軍が防いだが、ウクライナ軍の正規部隊がそれでかなり損耗している動員兵でたてなおしているから、西側もできることはしてそう。
ロシア軍の空爆はどうみても増えているから、少数部隊に分けたのも、ロシアの航空優勢で、西側とウクライナ軍で現実にあわせた仕方ない点はありそう。
ロシアの最新戦闘機を前線に投入されると、ウクライナ軍戦闘機は戦えないから、ロシア軍支配地域はロシア最新戦闘機の航空優勢にありますからね。
地上大部隊でのロシア軍航空優勢での戦いは、被害が増えるだけだから、少数部隊での突撃のほうがロシア軍空爆被害少ない。
3
ポンポコ
2023年 8月 04日
返信 引用
ロシア軍のキーウ侵攻と撤退は政治的なもので、へルソン西岸からの撤退と同じく戦略的な判断だと思います。当時、行われていた停戦交渉なども影響したのでしょう。』
『 58式素人
2023年 8月 04日
返信 引用
素人が勝手なことを言うと。
ウクライナ軍が行なっているのは、WW1でロシアのブルシーロフ将軍の始めた浸透戦術に思えます。
長大な戦線の敵防御陣地を、多数の小規模部隊で小当たりに当たって防御の弱点を探し、そこに浸透して突破口を開き、自軍の戦力をそこに集中していくやり方と思えます。
オーストリアハンガリー軍相手にガリツィア(今の西ウクライナ地域です)で成功していますね。
ブルシーロフ将軍は、ロシア革命後に赤軍の最初の参謀総長となり、
浸透戦術はソ連軍の最初のドクトリンになっていたようです。
これが、ソ連軍/ロシア軍の根幹にあるのだと思います。
その後、トハチェフスキー将軍の全縦深同時突破戦術に変わりましたが。
あちこちの記事を読んでいても、ロシア軍が突撃歩兵にさせているのも同じ浸透戦術に思えます。
ガリツィアでは、最終的にロシア軍は成功しましたが、犠牲も多かったようです。
ロシア軍は開始時63.3万人で死傷/捕虜50万人、オーストリアハンガリー軍は
開始時46.7万人で死傷/捕虜96.2万人(最小推定値、増援のドイツ軍/トルコ軍共)です。
成功すると戦果も大きいですが、自軍の犠牲も大きいのがわかります。
ウクライナ軍が今やっているのは、これと思います。
必要なものは、大量の銃火器/砲と弾薬類と大規模な戦術輸送能力と思えます
1 』
『 ウルフリック
2023年 8月 04日
返信 引用
NATO式諸兵科連合ドクトリンって要は電撃戦ドクトリンの改良版でしょ?
通信機能や情報作戦力で圧倒し少なくとも攻勢正面では制空権を確保して戦闘攻撃機がタイムリーに火力支援できるというのが前提条件じゃん。ロシア軍相手にそれが出来る国なんてアメリカ軍ぐらいしかいないでしょうが
そんな無意味な責任のなすりあいをする暇があるなら、もっと砲弾と防空ミサイルをやるべきだろうし
装備面で言えば地雷原を効率的に除去できる装備をやったほうが遥かに建設的
それとウクライナ軍の現在の戦術はどうやら小部隊を使った浸透戦術のようなので、それに向いた装備の供給をしたほうがコスパが良いじゃん
2 』