ウクライナ・レンドリース法案は旧レンドリース法案ほど劇的ではない

ウクライナ・レンドリース法案は旧レンドリース法案ほど劇的ではない
https://grandfleet.info/us-related/the-ukrainian-lend-lease-bill-is-not-as-dramatic-as-the-old-lend-lease-bill/

『2022.05.6

議会で可決されバイデン大統領の元に送られたウクライナ・レンドリース法案は旧レンドリース法案のような劇的なもではなく、Lend-Leaseに刻まれた精神が重要だと米ディフェンスメディアは報じている。

参考:New Lend-Lease Act For Ukraine Isn’t Same As Famed WWII Program
バイデン政権はウクライナ支援を行う上で「法的に何も困っていない」というのが実情らしい

ウクライナを支援するため米議会はウクライナ・レンドリース法案(正式名称はウクライナ民主主義防衛レンドリース法案/S.3522)を圧倒的多数で可決、米国を含む世界中のメディアが「武器や物資をより効率的にウクライナへ送ることを可能にする第二次世界大戦のレンドリース法案を復活させた」と報じたが、どうやらウクライナ・レンドリース法案は旧レンドリース法案とは役割が異なるらしい。

出典:Public Domain レンドリース法に署名するルーズベルト大統領

欧州がナチス・ドイツとの戦いに突入していた当時の米国は中立法の影響で交戦国に資金を貸し付けることも、現金決済以外の方法で交戦国に武器や物資を提供することも禁じられており、これを覆すため当該国の防衛が米国の安全保障にとって重要であると大統領が判断すれば「あらゆる軍需物資を当該国に売却、譲渡、交換、貸与、賃貸、処分することを認める」と規定したのが旧レンドリース法案だ。

しかし現在の米国は中立法のような制限を受けておらず、米国の安全保障にとって緊急事態が存在すると大統領が判断すれば議会の承認手続きなしに「国防総省が手に入れられるものは何でも自由に当該国に送ることが出来る大統領権限(PDA)」を有しており、ウクライナへの武器や物資の輸送もPDAの活用のよって支援決定から24時間~48時間以内に輸送が始まっている。

ただしPDAの欠点は1年間に大統領がPDAを行使して武器や物資を送れる量を1億ドルに限定している点だが、これについては議会がPDAの上限引き上げ(1億ドル→30億ドル→50億ドル)を随時認めているためバイデン政権はウクライナ支援を行う上で「法的に何も困っていない」というのが実情らしい。

出典:U.S. Air Force photo by Mauricio Campino

では「ウクライナ・レンドリース法案をなぜ議会は用意したのか?」だが、旧レンドリース法案ほど劇的に米国の支援が変わる訳ではないものの「Lend-Lease」と言葉は米国の歴史に深く刻み込まれており、最も重要なのはLend-Leaseに込めら法の精神だと米ディフェンスメディアは報じている。

つまり第二次世界大戦を勝利に導くのに不可欠だった米産業界のパワーを「ロシアとの戦いに投入する」と国民に示すため、歴史的なLend-Leaseの名を引き継いだウクライナ・レンドリース法案を用意したという意味だ。

因みに米産業界のパワーをロシアとの戦いに投入すると言っても現代戦で用いられる武器は複雑化しているため簡単に増産できる訳では無い。

出典:U.S. Marine Corps photo by Cpl. Jennessa Davey

特に半導体不足は顕著で国防生産法による優先割当を望む企業は多く、増産準備にかかるリードタイムを加味すると1年~2年後にならないと驚異的な生産力が発揮できないと指摘されているので、圧倒的な武器や物資がウクライナに送られるのは当分先の話になるが、米ディフェンスメディアは「戦争において士気は物理的側面の3倍重要だというナポレオンの言葉を思い出せばいい」と付け加えている。

追記:ウクライナ・レンドリース法案はロシア軍のウクライナ侵攻を受けて急遽用意されたものではなく、2021年12月~2022年2月中旬までに議会へ提出された3つあるウクライナ支援法案の1つらしい。

関連記事:米下院、上院に続きウクライナ支援のためレンドリース法の復活を可決
関連記事:米上院、ウクライナ支援のためレンドリース法の復活を全会一致で可決

※アイキャッチ画像の出典:Nancy Pelosi
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投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 18  』


無能
2022年 5月 06日

返信 引用 

経済や国交の断絶以外で切れるカードってあとどの位残ってんだ?
7

    ぬ
    2022年 5月 06日
    返信 引用 

諸刃の剣だけど第三国への制裁かなぁ…?
いくらロシアが凋落してもそれはあくまでも西側経済圏からの締め出しってだけで、第三世界の発展途上国までもがロシア経済からの脱却ができるとは思えないんだ
24
        無能
        2022年 5月 07日
        返信 引用 

    アフリカで思い出したけど、ロシア海軍に寄港地を提供してるスーダンに援助と圧力をかけるのは有効な手ですね。
          
    2022年 5月 06日
    返信 引用 

国際海峡やスエズ運河などをロシア関連船に対して封鎖

ロシアと取引する国への徹底した制裁
9
    general
    2022年 5月 06日
    返信 引用 

ロシアと取引したりロシア国内に利権を有したりする企業や個人にバンバン制裁をかければいい
4
    ブルーピーコック
    2022年 5月 07日
    返信 引用 

親露国の切崩し。それ以外だとスポーツ大会へのロシア選手の参加禁止や、ロシア国籍者とその家族の国外追放とか、非人道的と逆に罵られそうなやつなら幾つかは。
2
    業者
    2022年 5月 07日
    返信 引用 

二次制裁を厳しくするのが一番効くね。

例えば、欧州の一部の国はロシア産石油・ガスの購入をやめていないけれど、ロシアとの取引に関わった関係者の関係者に制裁課されるとなると、巻き添え的な米国の制裁を恐れてまともな銀行や取引先がみんな手を引いていくから。

以前、仕事でイラン取引に関わっていたけれど、トランプ政権になって制裁が厳しくなってから、送金手段が失われ(円でもユーロでも銀行のコンプライアンスチェックが通らない)、貨物保険は引受先が無くなり、船社はイラン寄港を断ってきて詰みました。

そもそも、イラン取引を継続するリスクと収益のバランスから考えて、まともな会社は継続できません。中国ですら、商業銀行に影響が出ないようイラン取引には専用の特別な銀行を使う等、米国の制裁を気にしています。

二次制裁は本当に威力があるよ。二次制裁を強化すれば、ロシアはゆっくりとイラン、北朝鮮に近づいていくと思う。
6 』