ロシアの民間軍事会社、37社乱立 騒乱の火種に

ロシアの民間軍事会社、37社乱立 騒乱の火種に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR27DLJ0X20C23A6000000/

『ロシアで乱立する民間軍事会社が同国内の波乱要因となっている。国際情報会社によるとロシアには37社の民間軍事会社があり、うち25社は正規軍の兵力を補充するためにウクライナを拠点に活動しているもようだ。ワグネルの反乱を受けて、新たな騒乱の火種になりかねないとの懸念も強まっている。

国際情報会社モルファーが4月下旬に発表した分析によると、2023年3月時点でロシア国内には37の民間軍事会社が存在する。3割にあたる11社はロシアがウクライナ侵攻を開始した22年2月以降に設立された。

ロシアには民間軍事会社を規制する法律はないが、傭兵(ようへい)行為に対する罰則規定はある。ロシア政府は国民の反発を招きかねない正規軍の追加動員を避けつつ、柔軟に兵力を補充する目的で、軍の別動隊として民間軍事会社を黙認してきた。激しい戦闘が続くウクライナの最前線にも軍事会社の戦闘員は積極的に送り込まれている。

ワグネル以外に国営天然ガス企業、ガスプロムや新興財閥(オリガルヒ)の経営者が出資する民間軍事会社が相次いで設立された。「リダウト」という民間軍事会社には、プーチン大統領に近いオリガルヒのゲンナジー・ティムチェンコ氏などが資金を出しているとされる。ガスプロムは「ファケル」「ポトーク」といった軍事会社を設立し、一部は激戦地である東部ドネツク州の要衝バフムトの戦闘に参加しているもようだ。

オリガルヒなどは兵力不足で苦戦する正規軍を支援し、プーチン政権に貸しを作っているとの見立てもある。一方、米シンクタンクの戦争研究所は4月下旬、バフムトでワグネルとガスプロム系の民間軍事会社によるアピール競争が激化し、あつれきが生じているとの分析を公表した。

モルファーのデータで民間軍事会社が活動する地域を大陸別でみると、アフリカが19カ国と首位となった。ワグネルの場合だとアフリカ西部のマリで軍の指導員を派遣するなど治安維持への協力だけでなく、中央アフリカで関連企業が木材伐採事業を展開しているとされる。

ロイター通信は26日、ロシア大統領補佐官を経験したスルコフ氏がロシアの民間軍事会社を廃止すべきだと述べたと報じた。ウクライナ侵攻が長期化する中、民間軍事会社の利用は軍組織の指揮権を分断し統率に影響を与えると指摘した。

ワグネルによる武装蜂起により、民間軍事会社が正規軍の指揮権を無視し、暴走するリスクが露呈した。プーチン氏は26日夜のテレビ演説で「祖国にとって最も困難な試練を共に乗り越えることができた」と述べたが、他の民間軍事会社による反乱の可能性も払拭できない。

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広瀬陽子
慶応義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説

民間軍事会社は多くの国に存在するが、ロシアの場合、違法な存在であるにもかかわらず、政治と不可分の存在になっているという異常な特徴がある。

今回問題となったワグネルの活動・維持費はロシア政府が支払っていたことが、プーチン大統領の口から明らかになった。違法な存在を政府が支えていたことを大統領が認めることも異常であるが、まさにそのことが民間軍事会社が、ロシアの政治において必須であることを意味する。

ワグネルは政府の汚れ仕事、特に、アフリカや中東での非公式な活動のほとんどを担ってきた。そのようなワグネルの謀反はロシアの政治運営に極めて深刻であるが、民間軍事会社の乱立状態はロシアの新たなリスクだといえよう。

2023年6月30日 8:08

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察

そもそも国を守る軍隊は国軍であり、議会によってガバナンスされなければならない。ロシアは形のうえでは民主主義の国である。民間軍事会社の存在が認められているというのはプーチンの私有物になっている。同時に、プーチン自身は墓穴を掘ってしまった。本人は心のなかで後悔しているはずである。逆に考えれば、プーチンへの権力集中が行き過ぎたため、やりたい放題である。心配なのはポストプーチンのロシアは相当混乱するのではないかということである
2023年6月30日 6:58 』