ルカシェンコ氏「ロシア国防相解任は無理」 内幕明かす

ルカシェンコ氏「ロシア国防相解任は無理」 内幕明かす
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR286SI0Y3A620C2000000/

『ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏と、プーチン大統領との仲介役を務めたベラルーシのルカシェンコ大統領。27日、武装蜂起の収束に至った内幕を明かした。ロシアのショイグ国防相らの解任を求めるプリゴジン氏に「解任は無理だ」などと説得。ベラルーシでの安全の保証を条件に翻意させたという。

ベラルーシ国営ベルタ通信などが伝えた。プーチン氏は24日午前、ワグネルによる南部ロストフ州の南部軍管区司令部の占拠を受け、緊急のテレビ演説をした。

プーチン氏は直後にルカシェンコ氏に電話をかけ、ロシアの状況について詳しく説明。ルカシェンコ氏は「状況が複雑であることが理解できた」と振り返った。

プーチン氏はテレビ演説で、武装蜂起への参加者を罰すると明言した。ルカシェンコ氏はプーチン氏に「(対応を)急ぐ必要はない。私がプリゴジン氏と話そう。『悪い平和』でも、戦争よりもましだ」と提案した。ルカシェンコ氏はプリゴジン氏と20年来の知人とされる。

一方のプーチン氏は「無駄だ。彼は電話に出ないし、誰とも話そうとしない」と述べた。こうしたやりとりは30分ほど続いたという。

その後、ルカシェンコ氏はロシア連邦保安局(FSB)らの協力を得て、ロストフにいるプリゴジン氏との電話にこぎつけた。同日午前11時に最初の協議を開いた際、プリゴジン氏は興奮状態にあり、罵り合いも交えて約30分間協議した。

要求を聞くと「ショイグとゲラシモフ(参謀総長)を引き渡せ。プーチンに会わせてくれ」と訴えた。ルカシェンコ氏は「こんな状況では応じない。プーチン氏は会うどころか、電話でも話さないだろう」と説得した。

プリゴジン氏は「我々は正義を望んでいる。モスクワに行く」と述べた。ルカシェンコ氏はロシア軍と衝突すると警告したが、ワグネルの部隊はモスクワへと進軍した。

ルカシェンコ氏によると、モスクワの南方200キロメートルの位置にロシア軍による防衛線が張られており、総勢で1万人規模の部隊が動員されていた。「(ロシア軍と戦えば)虫けらのように潰される」。そう伝え、これ以上の進軍をやめるよう求めた。

説得を重ねた背景に、ベラルーシも影響を受けかねないとの懸念もあった。「この状況はロシアだけのものではない。混乱がロシア全土に広がれば、次は我々だ」。電話協議では反乱部隊を鎮圧するため、ベラルーシ軍をモスクワに派遣する考えも示唆した。

ベラルーシとロシアは連合国家を形成している。1994年から大統領を務めるルカシェンコ氏は「欧州最後の独裁者」と呼ばれ、強権的な政治姿勢で知られる。

両者の電話協議は6、7回に及んだ。ルカシェンコ氏は「あなたをベラルーシに連れていき、あなたと仲間(戦闘員)の絶対的な安全を保証する」と約束。最終的にはプリゴジン氏は受け入れ、24日夕方までに武装蜂起を撤回することで合意した。

ルカシェンコ氏はその後、改めてプーチン大統領に電話した。合意内容を守るよう打診し、プーチン氏は「約束したことはすべて実行する」と応じた。プーチン氏は26日のテレビ演説で戦闘員らについて「希望者はベラルーシに行くこともできる。私の約束は守られる」と強調した。

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

今回の事件の本質は、「ロシア支配階層内部での主導権争い」である。

室町時代の「御所巻」のように、自らの軍事力を用いながらショイグ国防相らの更迭要求をプーチン大統領につきつけるという一種の賭けに出たプリゴジン氏だったが、軍の一部が賛同してワグネルに合流するといった自らに有利な流れにはならず、事実上敗北して身を引いた形。

武装蜂起の計画を事前に知っていた(相談を受けた?)スロビキン航空宇宙軍司令官が拘束されたと、ロシア紙モスクワタイムズが報じている。

今回の一件によりプーチン大統領の権威に傷が付いたことは間違いあるまい。精鋭であるワグネルの解体は、対ウクライナ戦争を続ける上でロシアに不利な要素である。

2023年6月29日 7:43 』