岐路に立つロシア、和平か混迷か ワグネル反乱
欧州総局長 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR244ND0U3A620C2000000/
『ロシアの民間軍事会社ワグネルが武装蜂起するという「事変」が起きた。内部の権力闘争で、盤石にみえたプーチン体制が大きく揺らぐ。ウクライナでの和平につながるのか、それとも混迷がさらに深まるのか。岐路に立つロシアは歴史的な局面にさしかかる。
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一時はモスクワに進軍する構えをみせたワグネルの部隊。結局は撤収することで合意し、ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏がベラルーシへ出国すると報じられた。今回の反乱の背景には、ロシア正規軍との確執がある。欧州の外交・安全保障関係者の多くは、プリゴジン氏が衝動的でなく、念入りに準備したうえで決起したとみる。
ウクライナの戦場でワグネルは弾薬不足に悩まされてきた。戦闘員も数万人と、それほど大きくない。プーチン大統領に忠誠を誓う正規軍や警察などと正面からは戦えないのはプリゴジン氏自身がよくわかっていたはずだ。モスクワへの円滑な進軍にも違和感が残る。
2つの仮説がある。一つはワグネルがロシアを混乱させたいウクライナ情報機関など外部の支援を取り付けていたという観測。もう一つがプーチン体制に不満を募らせたロシアの軍・治安組織の一部がひそかに反乱に協力し、シナリオを描いたという分析だ。
元ロシア反体制派ジャーナリストで、いまは欧州レジリエンス・イニシアチブ・センター(ERIC)所長のセルゲイ・スムレニー氏は、ワグネルがロシア南西部をすんなり影響下に置いた点に着目する。「これまでプーチン体制を支えてきた治安・軍要員(シロビキ)の一部がワグネルに加担したのかもしれない」と電話取材に語った。
焦点は、ロシア情勢がどうなるか、そしてウクライナ戦況にどう影響するか。
24日公開のビデオで語るロシアのワグネル創設者プリゴジン氏=24日(ワグネル提供・ゲッティ=共同)
「プーチン大統領の視線は(ウクライナでの)前線から国内の騒乱に移らざるをえない。これは短期的にはウクライナ軍にとってプラスだ」。24日夕、ウクライナのヤツェニュク元首相は日本経済新聞の取材に断言した。「長い目で見た場合の結果はまだわからないが、ロシア国内外を問わず、プーチン体制の権威を著しく損なうものであることは間違いない」
プーチン体制の「終わりの始まり」につながる可能性のある今回の事変。20世紀初頭のロシア革命、あるいはソ連末期のクーデターと異なるのは、欧州にもロシアにも高揚感がほとんどないことだ。
「プーチン大統領と(ワグネルを率いる)プリゴジン氏がともに戦争犯罪人であることを忘れてはならない」。ヤツェニュク氏は手厳しい。別の欧州政界の重鎮は私の取材にプーチン氏を「ソファに座っているテロリスト」、プリゴジン氏は「戦場にいるテロリスト」と表現した。
ワグネルに触発され、ロシア国民が蜂起することへの期待感は当初からなかった。それでもプーチン大統領は身内の離反に戸惑い、対応が後手に回っているフシがある。来春のロシア大統領選に向け、次の反乱があるとの噂も飛び交う。
だからこそ和平のチャンスという声が欧州にはある。「国内安定に注力する」というのがロシアにとって停戦理由になるかもしれない。
一方、プーチン氏がさらなる強硬路線に傾く可能性も排除できない。追加動員などで「総力戦」に移行するシナリオだ。今回の反乱は乗り越えてもロシア内で権力闘争の芽はくすぶり続け、核リスクも再浮上する。米情報機関は今回、ロシアの核の管理が不安定になることを警戒していた。
第2次大戦末期の1944年7月、ナチス・ドイツで反ヒトラー派の将校らによるクーデター未遂事件があった。反乱は鎮圧され、計画は失敗したものの、ドイツは1年もたたずに敗戦し、欧州における戦争が終わった。今回のロシアにおける反乱も欧州、そして世界秩序の先行きを大きく左右する起点になるかもしれない。
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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
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今後の展望プリゴジン氏とワグネルが最終的にどうするのか、どうなるのかが見えておらず、事態は収拾されたというにはほど遠い状況です。
米情報筋は水曜くらいから今回の兆候をつかんでいたとNYタイムズ紙は報じていますが、政府首脳はまだ全く反応を示しておらず、事態の推移を注視しています。
巨大な核兵器国が内戦に陥るというのは、悪夢のシナリオです。プーチン体制が相当弱体化していることが白日の下にさらされたわけで、今後の主要国の政策が影響を受けることは必至です。
内戦よりは安定を優先させるべきとの考慮も強くなるでしょうから、難しい選択を迫られる局面が続くと思われます。
2023年6月25日 10:31いいね
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赤川省吾
日本経済新聞社 欧州総局長
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今後の展望プリゴジン氏はベラルーシへ。国際犯罪組織に区分されるワグネルを率いる同氏は欧米に亡命できず。しばらくベラルーシで、おとなしくするのかもしれません。
ほころびが目立つものの、なおロシアは侮れない軍事大国。ウクライナのヤツェニュク元首相は取材に「ウクライナにも自由主義陣営にもロシアは脅威」と強調し、ウクライナのNATO加盟を認めてほしいと訴えました。
24日、私は欧州の首脳・閣僚級を含め多くの関係者を取材しました。日本を含めた西側が引き続き「ロシア制裁強化+ウクライナ支援拡大」で戦争終結を目指すべきだとの論調は変わらず。岸田首相が出席する7月のNATO首脳会議(@リトアニア)での議論に注目です
2023年6月25日 9:21 (2023年6月25日 9:37更新) 』