ワグネル反乱、政権揺るがす ロシア軍造反なく痛み分け
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR251JX0V20C23A6000000/
『ロシアの民間軍事会社ワグネルによる反乱は24日、わずか1日で収束した。盤石にみえたプーチン政権に与えた衝撃は大きい。プーチン大統領の権威が失墜し、ウクライナ軍事侵攻の継続にも影響する可能性がある。
「ワグネル、でかした!」。ロシア南部の都市ロストフナドヌーでは24日夜、撤収するワグネル部隊の戦車や装甲車を若者が取り囲み、歓喜のシュプレヒコールを上げた。戦闘員に握手を求め、手にしたスマートフォンで…
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『戦闘員に握手を求め、手にしたスマートフォンで記念写真を撮った。
若者たちは軍幹部の汚職や利権を「悪」と呼んだワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏に共感した。大義のないまま長期化するウクライナ侵攻へのえん戦気分も、政権に挑んだワグネルへの期待につながった。
ワグネルがもたらした社会の急激な変化について、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力幹部アレクサンドル・ホダコフスキー氏は通信アプリのテレグラムでこう驚きを表現した。「わが国はもう以前とは異なる。ワグネルの隊列はアスファルトの上だけでなく人々の心を走り、社会を分断した」
ワグネルの反乱はプーチン政権が自ら招いた危機でもある。受刑者だった企業家のプリゴジン氏を自ら重用し、獅子身中の虫としてしまった。
軍と対立を深めたワグネルを見限り、正規軍の指揮下に入るよう強要した。これに焦りを募らせたプリゴジン氏が、正規軍から先制攻撃を受けると察知して反乱を選んだ。
その結果、プーチン政権はあわやクーデターかという危機に陥った。盟友のルカシェンコ・ベラルーシ大統領の仲介で何とか反乱を収束させたものの、プーチン氏の権威失墜は鮮明だ。
プーチン氏は24日朝の緊急演説で、ワグネルを「裏切り者」と呼び、厳しく処罰する方針を示していたが、プリゴジン氏のベラルーシ亡命を認めた。わずか半日後に前言を撤回した。「強い指導者」というロシア国内でのプーチン像が大きく揺らぐ。
ロシアの政治専門家タチヤナ・スタノバヤ氏はテレグラムで「彼(プーチン氏)にとって最大の敗北だ」と指摘した。ウクライナ軍事侵攻を優位に展開し、2024年のロシア大統領選を圧勝に導こうとしたプーチン氏に思わぬ落とし穴になりかねない。
ワグネルの部隊は首都モスクワの南方200キロメートルまで迫ったが、プリゴジン氏はそのまま突進する判断はできなかった。
政府幹部や地方知事は反乱直後から大半がプーチン氏への支持を表明した。米シンクタンクの戦争研究所は24日、「ロシア軍からの造反者を得ようとしたようだが、(プリゴジン氏の)見込みが甘かった」と指摘した。プーチン氏との痛み分けともいえる。
プリゴジン氏自身にも体制を破壊する目的まであったかは疑わしい。服役中の野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏や亡命したオリガルヒ(新興財閥トップ)のミハイル・ホドルコフスキー氏らのように反体制派ともリベラル派ともいえない。プーチン氏や政権幹部と同じ保守強硬派だからだ。
一方で、戦争研は政権やロシア国防省が抱える深刻な弱点が露呈したとして「クレムリンは現在、非常に不安定な状態にある」との見方を示した。
ワグネルはウクライナ東部バフムトの攻略で主力を務めるなど、重要な戦力となってきた。現場の兵士や指揮官が今回の事態でプーチン氏や軍首脳への失望を深め、すでに問題視されている士気や規律の一段の低下を招く可能性がある。
ウクライナ軍と協力するロシアの反体制派による同国領への越境攻撃も起きている。ウクライナ側は本格的に開始した反転攻勢でロシア軍の防御陣地突破を図りながら、ロシア国内や占領地域での破壊工作を拡大し、補給面など継戦能力の低下を狙う見通しだ。
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説 今回の一件はロシア支配階層内部での抗争。プリゴジン氏は自らの軍事力を用い、プーチン大統領に対して「直訴」を図った形である。
この行動に関し日本のSNSでは「御所巻(ごしょまき)」という言葉がトレンド入りした。室町時代に将軍がいる御所などを大名が軍勢で取り囲んで要求を認めさせようとしたことを指す。
プリゴジン氏はプーチン大統領に対し、ショイグ国防相およびゲラシモフ参謀総長の更迭を求めた。ワグネルが撤収しプリゴジン氏がベラルーシへの退去を受け入れたのは、そうした要求がある程度通ったと判断したからと推測される。となると、そうした更迭人事があるかどうか、ない場合にプリゴジン氏がどう反応するかが焦点になる。
2023年6月26日 7:33 』