「ブリコジンの反乱」を招いてしまった「プーチンの狂気」とこれからロシアを待つ「ヤバすぎる展開」
https://gendai.media/articles/-/112397?imp=0
※ 『サイコパシー(精神病質)、マキャヴェリズム(権謀術数主義)、そしてナルシシズム(自己陶酔症)の3つの特性で構成される『ダーク・トライアド』というパーソナリティ特徴』か…。
※ 覚えておこう…。
『6月24日、「ロシアに混乱を招いた原因を見つけ出す」「死ぬ覚悟はできている」などとして突如「モスクワへの進軍」を宣言した民間軍事組織ワグネルと創始者ブリコジン。
その後またたく間にモスクワの南、約500kmのボロネジの軍事施設を制圧しさらに北上、200kmあまりのリペツク州に迫っているかと25日の時点で世界各国の報道機関に報じられ、モスクワでは25日および月曜日の26日にも市民に対して外出禁止や仕事やが学校を休むことなどが発令され、ロシア正規軍の都市防衛部隊も急遽展開するという、緊迫の情勢を見せていた。
Gettyimages
しかしその直後ブリコジンは一転して「ロシア人の血が流れることの責任の大きさを認識」と宣言してベラルーシへ転進、その後同国のルカシェンコ大統領が仲介役を買って出たことや、プーチン大統領もブリコジンへの捜査を停止し出国を認めること、ルカシェンコ大統領への謝意などを示したことが矢継ぎ早に報じられた。一方で、その後ブリコジンの消息が聞こえないことなども多く取り沙汰されている。
ロシアで今いったい何が起きているのか? なぜ前例のないほどの「プーチンの弱腰」という例外状況が生じているのか、発端となったブリコジンとプーチンの蜜月が生まれた背景、そして確執の経緯について、本誌が報じた記事を改めてお送りする。
前編記事『「モスクワへ進軍」から1日で「ベラルーシに転進」したワグネル創設者エフゲニー・ブリコジンとプーチンとの「蜜月と確執」の経緯』より続く。
5月の時点でブリコジンを切り捨てていたプーチン
なぜプーチンは、5月の時点でそんなプリゴジンを容赦なく切り捨ててしまったのか。一説には、プリゴジンの政治的野心と反乱を抑えるためと考える向きがある。前出の中村氏が語る。
「プリゴジンに弾薬を渡すと、ウクライナとの戦争のために使わず、ロシアに攻め上がってくるのではないか、といった報道が出ています。それによれば、プリゴジンの目的は、自分がロシアの大統領になること。ここへきて、ウクライナと手を組み、軍事クーデターに動く可能性が出てきています」
実際、5月14日には、プリゴジンがウクライナ政府に対してロシアの侵攻部隊の位置情報提供を提案した、と米ワシントン・ポストが報じている。
だが一方で、プリゴジンの粛清はあまりにも合理性に欠ける、という意見もある。前出の名越氏もそう考える一人だ。』
『ワグネルとブリコジンは一部では英雄的存在
「このままワグネルが前線地帯から撤退すれば、ロシアはより敗色濃厚になります。それにプリゴジンは今や愛国勢力の英雄的存在で、彼を支持する軍事ブロガーたちにもフォロワーが100万人ほどいる。それらを敵に回すと考えれば、プリゴジンを粛清することなど正気の沙汰と思えません」
はたして「皇帝」は何を考えているのか―おそらくは、この戦争泥沼化の失態の責任を誰に押しつけ、自らの身をいかにして守るかということだ。前出の中村氏はこう指摘する。
「現在の戦況は、完全にロシアがウクライナに負けている状態です。そこで、プーチンはプリゴジンに失敗の責任を取らせようとしているのではないでしょうか。まさに『トカゲの尻尾切り』です」
権力を掌握し、恒久的に維持しようとする独裁者は、けっして自分の非を認めようとはしない。それどころか、「どうせ代わりの者などいくらでもいる」と、下の者に責任を被せて追放し、追及から逃れるのが常だ。
プーチンがプリゴジンにそうするように、独裁者が、かつて盟友だった者に罪を被せ、粛清した事例は過去にも存在する。
ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーが、親友エルンスト・レームを粛清した「長いナイフの夜事件」がそうだ。
photo by gettyimages
レームは、ヒトラーが党首になる前からの数少ない友人であり、互いに「俺」「お前」で呼び合う間柄だったという。そんな彼が率いる軍事組織「突撃隊」は、ナチ党の集会の警備や護衛に加え、反対党の襲撃などの実行部隊を担う、いわばヒトラー子飼いのテロ組織でもあった。
だが、ヒトラーが国のトップに立ち、権力を得ると、徐々に突撃隊が邪魔な存在になっていく。
「突撃隊による過激な暴力活動は、ナチスの暗黒面として批判されている。このままでは自分も糾弾され、権力の座を追われかねない。ならば幕僚長のレームに責任をなすりつけ、一掃すれば、大義名分にもなる。そうとなれば粛清するしかない」
こう考えたであろうヒトラーは、1934年、レーム率いる突撃隊関係者ら1000人以上を処刑。親友をも殺して、トカゲの尻尾切りを完遂したのである。』
『肥大するナルシシズム
普通の人間であれば、人格を疑われるような責任逃れはそうできない。だが、独裁者は良心の呵責なく尻尾を切り取り、「すぐにまた生えてくる」とばかりに平然としている。そこには、どんな心理が働いているのか。
軍事心理学が専門である同志社大学教授の余語真夫氏が解説する。
「多くの独裁者に共通するのは、サイコパシー(精神病質)、マキャヴェリズム(権謀術数主義)、そしてナルシシズム(自己陶酔症)の3つの特性で構成される『ダーク・トライアド』というパーソナリティ特徴を持つということです。この3つの特性はすべて、他者への無関心や冷淡さに向かう傾向があり、自分の行動で他人に不利益が生じようとも、罪悪感を持つことは一切ないのです」
心理学の世界では、「悪の3大気質」とも呼ばれるダーク・トライアド。中でも、ナルシシズムという特性だけは、時代を問わず、ほぼすべての独裁者が有している。そう指摘するのは、早稲田メンタルクリニックの精神科医・益田裕介氏だ。
photo by gettyimages
「独裁者は自分の目的を達成するため、部下を捨て駒のように扱うのが常です。その結果、次第に周囲は本音を言わなくなっていき、孤独感が募ります。すると、その寂しさを紛らわす心理作用として、自己暗示的に『ナルシシズムの強化』が行われるのです」
こんなプレッシャーに耐えられるのは自分しかいない。周囲は無能な人間ばかり。自分は運命に選ばれている。こうしたナルシシズムは、重度の人間不信と背中合わせだ。
「こうなると、もはや猜疑心の塊となり、誰も信じられなくなってしまう。だからトカゲの尻尾切りも平気で行えるわけです。この精神状態に一度なってしまうと、元に戻ることはほぼありません。プーチンも今、そういった状態にあるのでしょう」(益田氏)
すでにプーチンは、プリゴジンに次ぐ新たな「トカゲの尻尾」を探しているかもしれない。
関連記事『プーチン体制が「崩壊」した後、ロシアは「41の共和国」に大分裂する…!』もぜひあわせてお読みください。
「週刊現代」2023年5月27日号より 』