軽空母としても使えるスペインの強襲揚陸艦「ファン・カルロス1世」
https://kaiyoukokubou.jp/2023/06/20/spain-juan-carlos/


『目次
スペイン最大の軍艦は地中海の安定に欠かせない多用途艦
F-35Bステルス戦闘機の搭載で強力な軽空母へ
わざわざ強襲揚陸艦+軽空母を持つ理由は飛び地領土を守るため?
スペイン最大の軍艦は地中海の安定に欠かせない多用途艦
かつて「太陽の沈まぬ国」と言われたスペインは最盛期と比べて国力は落ちたものの、地中海の入口に位置する戦略的重要性は変わっておらず、NATO加盟国として一定の軍事貢献も求められます。そのため、スペイン海軍は「無敵艦隊」を誇っていた時代よりは小規模ながらも、フランスやイタリアとともにNATO地中海艦隊の一翼を担う存在としてイージス艦と強襲揚陸艦すら保有しています。特に、強襲揚陸艦「ファン・カルロス1世」はスペイン最大の軍艦であるのみならず、状況に応じて軽空母としても使えるのが特徴です。
⚪︎基本性能:強襲揚陸艦「ファン・カルロス1世」
排水量 19,300t(基準)
全 長 230m
全 幅 32m
乗 員 295名(操艦要員)
速 力 21ノット(時速38.9km)
航続距離 9,000浬(約16,000km)
兵 装 20mm機銃×4
12.7mm機銃×2
デコイ発射機
輸送力 兵員900名以上
戦車46両など
艦載機 ヘリコプター12〜20機
F-35B戦闘機×12(予定)
建造費 約800億円
独裁者フランコの死去後、スペインを民主化に導いた功績で知られる国王の名前をいただくこの強襲揚陸艦は、もともと運用していた中古揚陸艦を置き換えるために揚陸作戦を中心としつつ、航空作戦や人道支援にも対応できる多用途艦として建造されました。
全通式の飛行甲板には中型ヘリ向けのスポットが6つ設けられており、小型ヘリであれば8機、大型のCH-47輸送ヘリでも4機の同時運用が可能です。また、格納庫はCH-47またはV-22オスプレイが10機は入るほど広いですが、飛行甲板での露天係止を行えばさらに数を増やせます。
そして、この格納庫の下にある車両用のスペースには最大46両のレオパルト2戦車を載せられるうえ、直結したウェルドックを用いてそのまま上陸用舟艇で揚陸できます。このウェルドックも上陸用舟艇4隻、高速ゴムボート6隻を収容できる広さが確保されており、揚陸作戦をしない場合は追加の車両スペースとしても使用可能です。一応、海上自衛隊の「おおすみ型」輸送艦のようにエア・クッション型のLCAC揚陸艇も運用可能ですが、設計の制約で1隻しか搭載できないため、基本的には使わない方針です。
強襲揚陸艦「ファン・カルロス1世」と後部ウェルドックから発進した上陸用舟艇(出典:スペイン海軍)
ほかにも、揚陸作戦を支援するために集中治療室1つと手術室2つ、ベッド22床などが整備されているので、災害救援でも使える簡易病院船という一面も持っています。
F-35Bステルス戦闘機の搭載で強力な軽空母へ
充実した揚陸設備を誇る「ファン・カルロス1世」ですが、前述の飛行甲板には固定翼機も想定したスキージャンプ台が設置されていて、格納庫はフォークランド紛争でも活躍したハリアー戦闘機を10機ほど搭載できますが、将来的には最新のF-35B戦闘機に更新される見通しです。
これは2013年に退役したスペイン唯一の空母「プリンシペ・デ・アストゥリアス」の役割も引き継ぐことに加えて、予算の関係で強襲揚陸艦に軽空母機能を盛り込んだ形ですが、このあたりは同じ地中海地域を担当し、強襲揚陸艦としての機能も与えられたイタリアの空母「カヴール」と境遇が似ていますね。
さて、F-35Bを載せる場合は「戦闘機12機+ヘリ12機」の編成になるようですが、このF-35B×12機という航空戦力はアメリカ海軍の原子力空母やフランスの空母「シャルル・ド・ゴール」にこそ敵わないものの、地中海ではこれらに次ぐ強力な航空打撃力と戦力投射能力といえます。
わざわざ強襲揚陸艦+軽空母を持つ理由は飛び地領土を守るため?
ただし、「ファン・カルロス1世」は1隻だけの建造で終わったので稼働率を維持するには苦労しますが、スペインがそこまでして強襲揚陸艦(軽空母)を保有する理由は何でしょうか?
これには大きく分けて2つの理由があります。
まずは、冒頭と述べたように責任ある加盟国としてNATO地中海艦隊に戦力を提供するため。そして、もうひとつが大西洋と地中海、そして北アフリカにあるスペイン領を守るためでしょう。スペインは大西洋上のカナリア諸島、地中海上のバレアレス諸島に加えて、実は北アフリカにも飛び地(セウタとメリリャ)を領有しています。
地中海を挟んだ対岸のアフリカ大陸にあるにもかかわらず、EU圏に属するこれら飛び地は植民地時代の名残であることから隣接するモロッコが返還を要求していて、近年は亡命するための中継点として多くの難民が押し寄せる不安定さを抱えています。したがって、スペインは「対岸の有事」を見据えた揚陸能力、戦力投射能力を確保しておかねばならず、国力的に厳しくても強襲揚陸艦が必要なのです。
⚪︎関連記事:イタリアの軽空母「カヴール」、その多目的な能力と任務とは?』