ブラジルはなぜ「ロシア寄り」なのか、4つのその理由

ブラジルはなぜ「ロシア寄り」なのか、4つのその理由
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30499

『サンパウロの政治学者スチュンケルが、米国外交専門メディア「フォーリン・ポリシー」ウェブサイトに5月18日付で掲載された論説‘How to Understand Brazil’s Ukraine Policy’において、ブラジルのルーラ大統領のウクライナ問題についての立場を理解する上で、4つの要素が重要であると論じている。要旨は次の通り。
(grebeshkovmaxim/Yurchello108/gettyimages)

 ルーラが昨年10月の選挙に僅差で勝利し、1月に大統領に就任したことは世界の多数の国を安心させたが、ウクライナ戦争に対するルーラの一連の発言は、西側諸国の政府を苛立たせている。

 ルーラは4月上旬、ウクライナは和平交渉のためにクリミア半島の割譲を検討すべきで、「ゼレンスキーはすべてを望むことはできない」と述べ、中国訪問時には米国が戦争を長引かせたと発言した。ルーラは、キーウとモスクワがこの紛争に等しく責任を負っているとも主張した。

 欧米諸国はルーラのレトリックを強く批判してきた。ルーラのウクライナで仲介役を果たそうという野心は、欧米が歓迎しウクライナがブラジルを公平だと認めない限り成功しそうにない。それでも、欧米指導者たちは、ブラジルの考え方の根源にあるものを理解したほうが良い。ウクライナ問題で南半球を中心とする新興・途上国「グローバルサウス」が欧米との協調に消極的なのは、南北関係におけるより広範な力学を示すもので、世界の将来を左右する可能性がある。

 ウクライナに対するブラジル政府の姿勢と、交渉により戦争終結を目指すルーラの熱意には、4つの重要な要因がある。

 第1点:ロシアは常にブラジル外交政策において、伝統的に重視されてきた。その背景には、ラテンアメリカを自らの勢力圏と扱う米国に対する対抗するという面もあった。

 第2点:欧米主導の国際秩序に対する不信感。特に、イラク戦争やリビアへの北大西洋条約機構(NATO)の介入が欧米の論理により正当化され、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの重要国際機関が欧米によって牛耳られていることに対する不満がある。ウクライナ支援のための欧米主導の同盟についても同様の不信感や不満がある。

 第3点:ブラジルは、多極化した世界秩序の構築に積極的に参加することで戦略的な自律を維持できると考えている。その観点から、ロシアを1つの極と位置付け、欧米のウクライナ支援にはあえて参加しない。

 第4点:経済的および政治的混乱で終止符を打たれた2012年以前のブラジルの活発な外交政策に復帰し、グローバルな貢献を行うとのルーラの信念がある。』

『イランの核開発に関するブラジルの野心的な構想が欧米の賛同を得られず失敗したように、ルーラのウクライナの和平交渉も同じ運命をたどるかもしれない。ブラジルは、ラテンアメリカにおける民主主義の後退や国際犯罪の増加から、気候変動に至るまで、世界的・地域的な課題において重要な役割を担っている。ルーラのエネルギーは、そちらに費やした方がよいかもしれない。

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 ルーラのウクライナ問題解決に貢献したいとの熱意と、繰り返されるロシア寄りの発言について、このスチュンケルの論説は、ブラジル外交全体の枠組みとその背景から論じている点で興味深い。

 スチュンケルは4つの重要な要素を上げているが、留意すべきは、これらの要素の中には、いわゆるグローバルサウス諸国が共有する点があることである。

 これまでの国際秩序は、結局は、欧米諸国の主導によるもので、その利益に資するものであり、世銀、IMFの意思決定過程からブラジルなどの新興国が事実上排除されることに強い不満がある。ウクライナ戦争についても、ロシア非難や経済制裁などが欧米の論理で行われていることにグローバルサウスは疑念を抱き、武器支援や制裁には参加しないわけである。

 そこで、ウクライナ戦争について、交渉による停戦を目指すために仲介的な役割を果たそうとするルーラの和平イニシアチブは、ウクライナへの武器支援と経済制裁でロシアを撤退させる欧米主導のウクライナ支援同盟とは一線を画すものとして、グローバルサウスの支持を得る余地がある。
ルーラは仲介者にはなり得ない

 しかし、ブラジルが、昨年3月2日のロシア批判決議に賛成し、今年2月23日のロシア撤退決議にも賛成しながら、無条件で交渉による停戦を仲介することには違和感があり、また、ブラジル経済を支える農業に不可欠な肥料をロシアからの輸入に依存していることや、スチュンケルが理解すべきとする第1の要素として掲げたロシアとの長年の友好関係が、公正な仲介者としてウクライナに受け入れられるとは思えない。

 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)の「平和で安定し、繁栄した世界に向けて」と題するアウトリーチセッションにルーラは招待国首脳として、また、ゼレンスキーもゲストとして急遽対面出席した。ブラジル紙の報道によると、ルーラは同セッションで、ウクライナの領土保全の侵害を非難し、紛争解決手段としての武力行使を強く否定しつつも、人命の損失を止めるために戦闘を停止し平和について話し合うべきと主張してきたと述べ、国連の場で紛争当事者が説明し議論すべきと発言した由である。

 予想された、ルーラとゼレンスキーの1対1の首脳会談は実現しなかった。日程上の行き違いがあったものと思われるが、ゼレンスキー側のプライオリティが高くなかったのではないかとも推察される。

 調停者となるためには双方紛争当事者の合意が必要であり、この点で、上記の論説が指摘している通り、ルーラの和平イニシアチブが成功する可能性は低く、ルーラは地域問題や気候温暖化問題にそのエネルギーを集中した方が良いということかもしれない。』