【解説】 ウクライナの反転攻勢、どうなれば成功なのか

【解説】 ウクライナの反転攻勢、どうなれば成功なのか
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-65887116

『ウクライナ軍が反転攻勢に出ている。だがウクライナ側は「反転攻勢と呼ぶな」、「これは攻撃であり、私たちの土地からようやくロシア軍を追い出すチャンスだ」と訴えている。

その主張は理解できる。しかし、実際に成功するには何が必要なのか?

まず、ウクライナが最近、激戦の末に領土をわずかに奪還していることに気を取られるべきではない。ウクライナが東部ドネツク州と南東部ザポリッジャ州で、半ば放棄されていた集落を取り戻しているのは確かだ。

数カ月にわたって膠着(こうちゃく)状態が続いた後、戦闘の汚れを身につけたウクライナ兵が、弾痕だらけの建物の前で青と黄色の自国旗を勝ち誇ったように掲げる姿は、ウクライナ国民の士気を高めるのにうってつけだ。

だが、戦況を大局的に見れば、これは本筋のことではない。

反攻で最も重要なのはロシア支配地域の南部、ザポリッジャ市とアゾフ海の間にある地域だ。

ここは「陸上回廊」と呼ばれ、ロシアと、同国が不法に併合したクリミア半島を結ぶ役割を果たしている。下の地図でわずかに紫色の地帯は、昨年の侵攻初期から状況がほとんど変わっていない。

もしウクライナがこれを二分割し、奪還した地点を維持できたなら、反攻はほぼ成功と言えるだろう。

西側にいるロシア軍を孤立させ、クリミアに駐留するロシア軍への補給を困難にすることになる。

ただ、それは必ずしも戦争の終結を意味するものではない。この戦いは何年も続くと予測する人もいる。それでも、いずれ必ずや行われる和平交渉に、ウクライナは有利な立場で臨むことができる。

counter offensive
Presentational white space

一方、ロシアもかなり前にこうした地図を眺め、同じ結論に達している。

ウクライナが兵士らを北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に送って訓練を受けさせ、この夏の反攻作戦に向けて12個の機甲旅団を準備していた間に、ロシアは「世界で最も手ごわい防衛線の要塞」を築いた。

アゾフ海を目指して進んで来るウクライナ軍を、ロシアは地雷やコンクリート製の対戦車障害物(「竜の歯」)、砲撃拠点、広くて深い塹壕で待ち構えている。この塹壕は、ウクライナに供与された戦車「レオパルト2」や「M1エイブラムス」を足止めさせるものだ。

これらすべては、ウクライナの装甲車とその乗組員が突破口を見つけようとして止まっている間に、砲弾の雨を浴びせるようあらかじめ調整されている。

まだかなり初期段階ではあるが、これまでのところ、ロシアの防衛はしっかりもっている様子だ。

Photo by Russia’s defence ministry claiming to show destroyed western-supplied Ukrainian armoury in the southern Zaporizhzhia region. Photo: 10 June 2023

画像提供, Russian Defence Ministry/EPA-EFE/REX/Shutterstock
画像説明,

ロシア軍は、ウクライナ軍が西側から供与された戦車を多数破壊したと主張し、この画像を公開した。10日にザポリッジャ州で撮影したものだとしている

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Presentational white space

ウクライナはまだ戦力の大半を投入していない。現在の動きは、ロシアの砲撃拠点を明らかにし、防衛線の弱点を探るための偵察攻撃だ。

ウクライナは士気の点で勝っている。兵士らのモチベーションは高く、侵略者から自分たちの国を解放しようと戦っている。

ロシア兵の大半はそうしたモチベーションをもっていない。さらに、多くの場合において、ロシア兵の訓練、装備、リーダーシップはウクライナ兵のものより劣っている。

ウクライナの軍参謀本部は、同国軍が一定の突破を果たせば、ロシアの士気は低下し、それが戦線に広がってロシア兵らは戦意を失うと考えるだろう。

ウクライナにとって有利な点は、ほかにもある。NATO諸国から提供された兵器の質の高さだ。ソヴィエト連邦時代に設計された装甲車と異なり、NATOの戦車や歩兵戦闘車は直撃弾に耐えることも珍しくない。少なくとも中にいる乗員を守るので、その乗員は戦い続けることができる。

しかし、ロシアの砲撃やドローン(無人機)攻撃に、それで十分に対抗できるのか?

ロシアはウクライナよりはるかに大きな国で、より多くの資源がある。この戦争を始めたウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナを消耗させて来年までこの行き詰まりを引き延ばせれば、アメリカをはじめとする同盟国が高コストの支援に疲れてしまい、停戦のため妥協するようウクライナに圧力をかけ始める可能性があると承知している。

空からの援護

検討すべき最後の点として、空からの援護(あるいはその欠如)の問題がある。低空からの十分な支援なしに、よく掘られた塹壕の敵を攻撃するのはかなりリスクが高い。

ウクライナはそれを知っている。だから、F16戦闘機を西側に強く求めてきたのだ。

しかし、F16を製造するアメリカが同機の供与を認めたのは、5月下旬になってのことだった。その時点で、ウクライナの反攻はすでに準備段階に入っていた。

動画説明,

ウクライナ・ドネツク州ネスクチュネで同国の兵士が国旗を掲げる場面とされる映像がソーシャルメディアに投稿された
Presentational white space

ウクライナにとっては、戦況を大きく変えられるF16の投入のタイミングが遅すぎたため、同機が反攻の初期で重要な役割を果たせなかったのは致命的だった。

だが、だからといって、ウクライナが負けるというわけではない。

ウクライナは繰り返し、機敏に動き、戦略に優れ、独創性に富んでいることを証明してきた。南部の都市ヘルソンでは、ロシア軍の後方拠点をたたいて補給を不可能にし、同軍を見事に追い出した。

イギリス製の巡航ミサイル「ストームシャドウ」など、射程距離の長い兵器を手に入れたウクライナは今、同じことを狙っているだろう。

プロパガンダ戦で相反する情報が飛び交うなか、この戦争の最終的な勝者がはっきり見えてくるには、まだ数週間、あるいは数カ月さえ、かかるかもしれない。

(英語記事 What will it take for Ukraine’s offensive to succeed?)』