「子を持つことがリスクに」 強すぎる家族主義が重荷
「#生涯子供なし」識者はどう見る③ 東洋大学・西野理子教授
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD07DDA0X00C23A6000000/
※ 『――子供を持つリスクとはなんでしょうか。
「仕事が不安定で、普通に生きていれば安定した生活を持てるという見通しが、自分にも子供にもない。教育費は親が負担する。子供が自立できなければパラサイト(寄生)して自身の財産を食い潰す存在になり得る。子供が人生のどこかで挫折するとやり直せない。子供が成人しても犯罪者になれば親がバッシングされる――というような社会では子供を持つことはリスクになる」』…。
※ 世の中、何でも「リスクとリターンの衡量」、「コスト・パフォーマンスの追求」か…。
※ 「瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆ いづくより来りしものそ目交(まなかい)にもとなかかりて安眠し(やすいし)なさぬ」
「銀(しろがね)も 金(くがね)も玉も 何せむに 優れる宝 子にしかめやも」じゃ無かったのか…。
『日本人にとって子供を持つ意味はどのように変わってきたのか。東洋大学の西野理子教授(家族社会学)は、昨今の若者にとって「子供を持つことがリスクになった」と話す。その背景には、家族で全てを背負おうとする「強すぎる家族主義」があるという。
――歴史上、子供を持つ意味はどう変遷してきましたか。
「大まかに言うと、前近代では子供は労働力であり、親の老後の面倒をみてくれる存在だった。近代ではそうした意味合いは薄れ、いることが親の名誉になるとか、親を楽しませてくれるといった存在になっていく。子供を『消費財』としてみるということだ。この場合、経済的余裕がないとたくさんの子供を持つのは難しい」
――近代でも、世代によって子供を持つ感覚は違いますか。
「今の80?90代の人たちにとって、子供を持つかどうかは考えるまでもないことだった。95%の人が結婚する『皆婚社会』で、普通に生きていれば子供ができた。その後、徐々に結婚が人生の一つの選択肢になり、子供も授かるというより持つ持たないという選択の対象になっていく」
――近年は子供を持たない選択をする人が増えています。
「日本では昔から、子供を持つことはおおむね『幸せなこと』と考えられてきた。今の若い人には『幸せなのだろうけども、自分にはとてもできないなあ』という感覚があるのではないか。その中には、子供を持ちたいけど経済的に無理で諦めている層と、経済力があっても子供を持つことはリスキーだと考える層がある」
――子供を持つリスクとはなんでしょうか。
「仕事が不安定で、普通に生きていれば安定した生活を持てるという見通しが、自分にも子供にもない。教育費は親が負担する。子供が自立できなければパラサイト(寄生)して自身の財産を食い潰す存在になり得る。子供が人生のどこかで挫折するとやり直せない。子供が成人しても犯罪者になれば親がバッシングされる――というような社会では子供を持つことはリスクになる」
――それが家族形成への意欲をそぐということでしょうか。
「そうだ。特に日本では、自分の親と同居し続けるという選択肢があるので、わざわざリスクを冒して新しい家族を形成する必要性が薄い。高度成長期の若者は、親世代が貧しかったり、自身や配偶者の所得が上がっていくという将来への期待があったりしたから、結婚していった。低成長期になると、先行きがわからない配偶者を選んだり子供を作ったりするより、豊かな親といた方がリスクが少ない」
――どうしたらよいでしょうか。
「子供を持つことがリスクにならないように社会制度を整えていく必要がある。日本では、高度成長期に『近代家族』と呼ばれる家族像が庶民にも確立した。夫は会社員、妻は主婦で、子供の教育に力を注ぎ個室を用意した。外の社会と家族が分離し、家族が極めて特別な存在になった」
「この近代家族像があまりに強固なものとして残っている。家族だけですべてを解決しなくていいんだよ、子育ては楽しいことがたくさんあるよ、子供はなんとか羽ばたけるよ、という社会にしていかないと、家族形成は難しい。強すぎる家族主義が家族を滅ぼすことになる。世界を見ても、少子化が進むスペインやイタリアなども同様の傾向がある」
――実際、子供を持たない人が増えてきています。
「結婚や子供を持つかどうかの自由は必ず保障されるべきだ。そうした多様な生き方が存在することが、ポスト近代的な社会といえる。その上で、子供というのは次の社会を支えてくれる存在だという共通認識は必要だと思う。子供が増えることは子供がいない人にもメリットがある。その認識が欠けていると、子育ての負担を社会で分かち合うことはできないだろう」
にしの・みちこ 全国規模の家族調査プロジェクトや、個人のライフコースを追跡するパネル調査などに携わり、家族の変遷を研究。編著に『夫婦の関係はどうかわっていくのか』『よくわかる家族社会学』など。
読者アンケート、子供がいない人の3割は「子供を望まない」
日経新聞が2月に実施した読者アンケートでは、子供がいない人のうち3割程度の人が「子供を望まないし、過去にも望んだことがない」と答えた。
望まない理由を聞いた自由記述欄の中には、「どれだけ努力しても、きちんとした子供に育つか分からず、リスクが大きいから」「現在の日本では、子供は持ったもの負けの印象が強い」といった回答もあった。子供を持つことの不安と同時に、子供を持つ人への厳しい視線が、今の日本社会には混在しているようだ。
西野子教授は「家族を社会に開いていくほうがいい」と言う。家族形成のリスクを減らし、子供を持つことは楽しいという意識がより強まれば、子供を望む人が増えていくかもしれない。
(福山絵里子)
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②身寄りのない高齢者 「支援現場すでにギリギリ」
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花村遼
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ひとこと解説「未来への投資のために社会全体で子供を育てていく」という考え方が非常に重要だと思う。子育てをしながら働くと、子供の急な発熱への対応など、少なくない頻度で急な対応が生じ、その時に、周りの理解とフォローが不可欠。ただし、それが行き過ぎると、子を持たない選択をした方々が割を食い、逆差別となり分断を生むような例も頻繁に見られる。子を持つ選択をした人へのフォローに加え、子を持たない選択をした人が気持ちよくそれをサポート出来る雰囲気づくり、それが報われる仕組みも重要であり、お互いが気持ちよくサポートしあえるようなマネジメントのバランスこそが重要だと考える。
2023年6月14日 8:03 』