ウクライナ反攻開始、成否分ける機動性 3つのポイント

ウクライナ反攻開始、成否分ける機動性 3つのポイント
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『ロシアの侵攻を受けるウクライナが、領土奪回に向けた本格的な反攻を始めた。第2次大戦後、最大級の陸戦になる見通しで、同国は米欧が供与した兵器をテコにロシアの防衛線を突破し、早期に大きな戦果をあげたい考え。ロシア側は戦線を膠着状態に持ち込んでウクライナ軍を消耗させる戦略だ。今後の戦況のポイントをまとめた。

・南部防衛線の突破
・東部のバフムト奪還
・求められるスピード

南部防衛線の突破

当面の焦点は、ウク…

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『当面の焦点は、ウクライナ軍がザポロジエ州など南部地域を奪回できるかだ。8日から本格化した反攻では同州の主要都市メリトポリや港湾都市ベルジャンシク、隣のドネツク州のマリウポリの方面へ進軍を始めた。

ウクライナ側はアゾフ海に面する地域まで南進し、ロシアの占領地域を東西に分断。2014年から占領下にあるクリミア半島への補給線も絶ち、それぞれ孤立した地域を包囲、奪回する戦略を描く。

ロシア側はウクライナ側の攻撃に備え、昨夏から塹壕(ざんごう)や地雷埋設などで一帯の要塞化を進めてきた。英国防省はロシア軍がザポロジエ州で120キロメートルにわたる3層構造の防御陣地を構築したと分析する。

ただ、幅10キロメートルにわたるとされる陣地がどれだけ機能するかは未知数な面もある。米戦略国際問題研究所(CSIS)は9日の報告書で「塹壕の掘削に当たる業者の多くは軍事工学の経験が欠けていた可能性が高い」と指摘。戦車の進軍を防ぐ防御物も「品質のばらつきは顕著だ」と述べた。

防衛線の維持には10キロメートルあたり1万人程度の練度の高い部隊が必要になる。ただ「新兵が多い今のロシア軍では精鋭を配置できるのは20キロメートル程度」(西側の軍事関係者)との見方もある。ウクライナ側はロシア軍の守りが手薄な前線を早々に探り当て、戦車などの機甲部隊で突破しようと模索する。

東部のバフムト奪還

ウクライナ軍が同時に攻勢をかけているのは、東部ドネツク州の最激戦地バフムト方面だ。10日にはバフムト周辺の前線で1400メートル前進できたと発表した。

バフムト周辺ではロシア軍が1年に及んだ戦闘で多大な犠牲を出しながら徐々に支配地を広げ、5月に町の制圧を宣言した経緯がある。しかし同月には多くの戦闘を担った民間軍事会社ワグネルの部隊が撤退。守りが弱くなっているとの見方も出ていた。

バフムト周辺はプーチン政権が威信をかけて攻め取っただけに、一帯を奪回できたらウクライナにとって大きな戦果になる。ウクライナ軍にはバフムトへの攻勢でロシア軍の戦力を東部防衛に回させ、南部の戦いを優位に進める狙いも透ける。

求められるスピード
反転攻勢に出たウクライナ側は、早期に何らかの目覚ましい戦果を出す必要がある。苦戦を強いられ膠着状態に陥った場合、莫大な軍事援助を続けてきた西側諸国で同国の継戦能力への疑念が広がり、支援の手が緩む懸念があるからだ。西側から早期停戦に向けた譲歩を求める圧力がかかる可能性もある。

CSISは「戦争の次の段階は、ウクライナ軍が消耗戦から機動戦に移行して領土を奪還する能力にかかっている」と指摘する。昨秋の北東部ハリコフ州の戦いでウクライナ軍は南部にロシア軍をおびき寄せた上で手薄になった同州を不意打ちし、広大な領土を奪回した。
ウクライナ軍は戦線の早期打開に向け、同様のサプライズ攻撃を繰り出す可能性もある。ロシア側もウクライナの奇策を警戒しており、双方で相手の裏をかこうとする工作が激しくなることも予想される。

(ウィーン=田中孝幸)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説 ウクライナ軍の反攻開始を、10日の記者会見でゼレンスキー大統領が認めた。同軍は前進しているようだが、ロシア軍が一部で攻勢を撃退したようだとの見方も出ている。民主主義陣営に属する者としては正義に勝ってほしいのはむろんだが、ウクライナ軍が意外に苦戦するのではという不安もぬぐえない。対戦車濠、「竜の歯」と呼ばれる戦車などの進軍を阻む障害物、そして最終防衛線である塹壕と、3層構造になっているところに正面から突っ込むのは、戦術的には良策ではない。第2次世界大戦中にドイツ軍が旧ソ連軍に敗北したクルスク大戦車戦に似たような面もある。新型戦車の威力を過信して周到に準備された防衛陣に突っ込み、失敗したのである。

2023年6月12日 7:33 』