[FT]響かぬデサンティス氏 ジャナン・ガネシュ

[FT]響かぬデサンティス氏 ジャナン・ガネシュ
インターナショナル・ポリティクス・コメンテーター
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB213170R20C23A5000000/

『トランプ前米大統領が平均的な支持者に何を与えているか少し考えてみよう。全米各地で価値観を共有する大勢の仲間との一体感。混沌とした世の中を導いてくれる父親のような存在。前大統領が規範に逆らうような言動をした時の興奮。

前大統領が2024年11月の大統領選挙を制したからといってこれ以上何を得られるだろう。政策が実現したところで、ほかに何が手に入るのか。確かに公約が達成されればそれに越したことはないが…

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『確かに公約が達成されればそれに越したことはないが、それ以前に支持者はほとんど宗教的な啓示を受けたように精神的に十分満たされている。

大統領選に向け、共和党候補の指名争いに名乗りを上げたロン・デサンティス・フロリダ州知事が、ポピュリズム(大衆迎合主義)のこうした性質を理解しているかは不明だ。理解しないうちは前大統領に取って代わることはできまい。デサンティス氏は本選での勝ち目と行政能力の高さを売りにしている。だが党の予備選で有権者がそのどちらかを重視するなら、勝負はもうついたといえる。

前大統領は18年の中間選挙で民主党に下院の多数派奪還を許し、20年の大統領選では自身が敗れた。米ギャラップの80年余り続く世論調査で、任期中に支持率が一度も50%に届かなかったのは前大統領だけだ。

2期目続投を不正に阻まれたという誤った見方が広がっているのを考慮しても、デサンティス氏やニッキー・ヘイリー元国連大使の方が大統領選でよい結果を残せると内心思っているトランプ支持者は多いに違いない。それでも前大統領への支持は揺るがない。デサンティス氏やヘイリー氏は仲間意識を授けてはくれないし、前大統領ほどリベラル層を怒らせることもないからだ。

合理的思考のせいで気づかない

デサンティス氏が誇る行政能力はさらに意味を持たない。リベラル層が常に実務能力を備えたデマゴーグ(扇動政治家)の出現を恐れてきたとはいえ、ポピュリズムに共鳴する有権者が必ずしもそのような人物を待ち望んできたわけではない。

メキシコ国境の壁を建設できなかったことで前大統領はどれだけ支持基盤を失っただろう。国民が記憶する限り最大規模の保護主義的な法案の成立(編集注、22年のインフレ抑制法)に感謝して、前大統領の支持者がどれほどバイデン大統領に乗り換えたのか。

デサンティス氏は気の毒なほど論理的だ。現代の政治とは、何かを「成し遂げる」ことだと考えている。合理的な思考のせいで、かつての教会や労働組合に代わって人々の帰属意識を高めることがいかに大事かに気づいていない。この一点でその思考はリベラル層と変わらない。

左派は絶え間なくポピュリストの懸念に応えようと、海外に出て行った製造業に国内回帰を促したり、下部組織への権限委譲を進めたりしている。何と単純な発想か。

おそらく最初のうちは、ポピュリズムの原動力は具体的な物への不満だっただろう。ところが16年ごろから国民の分断が深まると、どの集団に属するかの方が重要になり始めた。前大統領はそれをライバルの誰よりも強く感じ取っている。

有権者は文化戦争に勝ちたいのか

デサンティス氏には政治が文化に影響されていると映る。文化は制度によって形作られ、そうした制度が保守派から左派に引き渡されたと信じている。

「タラハシー(フロリダ州の州都)のグラムシ」と呼べそうなデサンティス氏だが(編集注、20世紀初頭のイタリア共産党指導者グラムシは、資本家階級が権力を握ったのは文化的制度を支配したためと考えた。同様にデサンティス氏は、左派が力を持ったのは文化的制度を押さえたからだと捉えている)、問題を突き止めるだけでは終わらない。左派に対抗するため、粘り強く右派のヘゲモニー(覇権)を打ち立てようとしている。

そのあおりを受けたのが米ウォルト・ディズニーであり、フロリダ州の教育行政だ(編集注、デサンティス氏は州内の学校での性的少数者をめぐる教育に制限をかけた。これをディズニーが批判したことで、激怒した同氏がディズニーに与えられていた「自治権」の廃止に動いた)。

右派のヘゲモニーの確立にデサンティス氏は前大統領より努力している。この点も前大統領と張り合ううえではプラスにならない。ポピュリズムに傾倒する有権者がそもそも「文化戦争」に勝ちたいのかどうか、筆者にはもはや見当がつかない。

有権者は文化戦争に関わるだけで存在意義を得られる。どちらかと言えば勝つより負けることで仲間意識が育まれるし、絶えず攻撃にさらされていれば連帯感がより強まる。筆者の見立て通りなら、選挙でいい結果を残せない、細部の詰めが甘いといった前大統領の弱点をデサンティス氏がいくら言い立てても、それほど痛手にはならない。

それでもイメージは支配階級

デサンティス氏は「政治のバイブズ理論」(編集注、有権者は候補者を主張や手腕ではなく演説の仕方や帰属集団などで選ぶという考え方)研究のいい事例になる。同氏が誠実で実行力のあるポピュリストだということは大した問題ではない。

同氏が醸し出す既得権益層のイメージはアイビーリーグ(東部の名門私立大)を卒業し、海軍への入隊経験を持つことによる。気難しそうな話し方や清廉潔白な印象、それに整った髪形、地味な身なりなどの平凡な外見にも負うところが大きい。

大きな州を率いてきた実績さえ不利に働く。いわゆるポピュリストは官僚のように忍耐強くデサンティス氏の報告書に目を通したり、考えを実行に移したりはしない。テレビ討論会でデサンティス氏と相対した前大統領が、米人気アニメ「ザ・シンプソンズ」の主人公のように「ナード(ださい奴)」と大声で毒づく姿が目に浮かぶようだ。

つまり筋金入りの右派で、前大統領よりはるかに質素な環境で育ったのに、デサンティス氏はまるでブッシュ家(編集注、比較的穏やかな主張を掲げる裕福な共和党の政治家一族)の子孫のようにみなされている。

他にも著名な仲間がいると思えば同氏の慰めになるだろう。スナク英首相だ。何しろジョンソン元首相より早く欧州連合(EU)からの離脱を支持し、財務相時代には新型コロナウイルスのワクチンが登場しないうちに外食費用を補助する政策を打った。もちろん、ポピュリストの間では支配階級の一人だと思われている。

By Janan Ganesh

(2023年5月30日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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