中国、20~22年融資10兆円焦げ付き 一帯一路に転機

中国、20~22年融資10兆円焦げ付き 一帯一路に転機
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『【北京=川手伊織】中国の金融機関が海外に融資する債権の焦げ付きが膨らんでいる。2020~22年に融資条件の再交渉などに応じた事実上の不良債権は768億ドル(約10兆7000億円)で、17?19年の4.5倍となった。新型コロナウイルス禍やインフレが新興国経済を直撃したためだ。中国は広域経済圏構想「一帯一路」を推進し新興国への影響力を高めてきた。問題債権を放置すれば、自国の金融リスクにも飛び火しかね…

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『問題債権を放置すれば、自国の金融リスクにも飛び火しかねない。

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中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は13年に一帯一路を提唱した。インフラ資金への期待から中国と協定を結んだ国は150を超した。

米シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)によると、19年までの一帯一路向け投資は年1000億ドルに上った。コロナの流行で節目が変わった。20年以降は年600億?700億ドル台に減った。

新興国経済が落ち込み、融資の焦げ付きが目立ってきたからだ。借り手の要求に応じて、金利など融資条件の再交渉や債務の免除に応じる例が増えた。

米調査会社ロジウム・グループの調べでは、こうした当初の約束通りに返済されない「問題債権」は20?22年に計768億ドルに達した。感染拡大前の17?19年は170億ドルだった。コロナ流行初期の20年が487億ドルと突出して多いが、22年も90億ドルと19年の2.8倍だった。

問題債権の累増に伴って、外貨の融通など資金援助も増えている。世界銀行や米民間調査機関のエイドデータ研究所の分析では、中国はアルゼンチンやパキスタンなど20を超す新興国に対して、08?21年に2400億ドル分の支援を行った。このうち3割は20年以降の2年間に実施した。

資金支援の7割を占めたのが、互いに通貨を融通する通貨スワップ協定の利用だ。外貨の支払い能力が落ちた新興国に人民元を貸し出し、債務返済支援の一端を担った。

対外債務が膨らみ債務不履行(デフォルト)に陥ったスリランカも一例だ。世銀などによると、通貨スワップ協定を活用したり中国の国有銀行から換金しやすい資金の支援を受けたりした。

日本などが議長を務める債権国会合で、中国はオブザーバーとして参加している。今後は具体的な協議に応じるかが焦点となる。

不良債権を放置すれば、中国の金融リスクを高める恐れもある。中国の外貨準備高は4月末時点で3兆2000億ドルを上回る。世界一の規模だが、途上国向け融資などすぐには動かせないお金も多い。焦げ付きが増えれば、中国の外貨不足懸念が高まる可能性は否定できない。

企業や個人が中国の銀行口座を通じて実際に海外とやり取りしたお金は、23年1?3月まで2四半期連続で流出が流入を上回った。輸出の停滞などで、海外から流れ込みにくくなっている。流出超過が続けば、海外融資に回すお金の余力も小さくなる。

さらに習指導部は米国に対抗するため、国内で半導体産業などの育成強化を急いでいる。産業政策へ優先的に資金を振り向ければ、一帯一路など海外投融資の推進にも影響しそうだ。

23年は習氏が一帯一路を提唱してから10年の節目だ。年後半には、中国で4年ぶりに首脳会議を開く。融資の焦げ付きが膨らむなか、債務国との向き合い方や今後の投資姿勢をめぐり、中国側がどう情報発信するかに関心が集まる。

伊藤忠総研の玉井芳野客員研究員は「中国は相手国の債務問題に配慮しつつ、新興国への影響力拡大や資源確保のため、今後も一帯一路を活用していく」とみる。そのうえで「投資額は緩やかな増加も見込まれるが、コロナ前のピーク水準に戻るとは考えにくい」と語る。

中国側の姿勢によっては、一帯一路に参加する国の対応にも変化が出てくる可能性がある。

すでに主要7カ国(G7)で唯一の参加国であるイタリアは距離を置こうとしている。ロイター通信によると、同国政府高官は24年初めに期限を迎える一帯一路の協定を更新する可能性は非常に低いとの認識を示した。

中国への輸出が輸入に比べて伸び悩み、自国の経済成長という観点から期待した効果が出ていないためだ。

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益尾知佐子
九州大学大学院比較社会文化研究院 教授
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分析・考察 中国の一帯一路のやり方はちょっと変わってきているのではないかと思います。国際政治の中で中国の味方を増やすために一帯一路を活用する方針は変わりませんが、この記事にあるように融資の焦げ付きは中国自身にとってマイナスです。代わりに最近、中国がよく途上国に働きかけているのが、法執行協力(実質的には警察協力)やサプライチェーンの共同構築、中国による先進技術の提供などです。中国は、治安を確保しながら現代化の道を歩む中国型の発展モデルをパッケージ提供することで、非西側諸国の支持を長期的に確保していこうとしているように見えます。
2023年5月31日 23:25いいね
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柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 よく指摘されていることだが、中国は「一帯一路」イニシアティブで途上国を債務のワナにはめているといわれている。しかし、実態は中国自身がそのワナに嵌っているのではないか。途上国のインフラPJに投融資して、当該国が債務のワナにはまることがあるが、そのインフラPJのすべては安全保障上価値があるとはかぎらない。それよりも、中国経済が減速しているなか、中国自身は金欠に悩んでいる。貸した金を取り立てたいが、取れる財源がない。債務の棒引きすると、ほかの途上国も一斉に棒引きを求めてくる。その負の連鎖はすでに始まっている
2023年6月1日 6:37』