ナゴルノカラバフ問題解決へ? 勢力再編が進む南コーカサス
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30365




『アゼルバイジャンとアルメニアの指導者が和平協議を再開する。関係者によれば、欧州連合(EU)のミシェル大統領は、アゼルバイジャンのアリエフ大統領とアルメニアのパシニャン首相との会合を5月14日に主催する予定だ(注:この報道の通りの日程で首脳会談は実施された)。
2020年の全面戦争が不安定な停戦で終わった後、数百人が断続的な衝突で死んだ。EU、米国、ロシアは、それ以来長期的和平協定を仲介しようとしたが、失敗した。両国はソ連崩壊後、係争地ナゴルノカラバフの支配をめぐって争ってきた。アルメニア人多数派の地域は2020年にアゼルバイジャンにほぼ占領される前にはアルメニアが支配していた。
アリエフの外交補佐官ハジエフは「アゼルバイジャンはミシェル大統領の仕事に安心している、EUには隠された目的はない」と述べ、EUプロセスは交渉とその構造に「重要な概念」を発展させたと付け加えた。
和平協議はアルメニアとナゴルノカラバフを唯一結ぶラチン回廊に、アゼルバイジャンがチェックポイントを設置する決定をしたことに焦点が当てられそうである。また協議では国境の画定、捕虜交換、地雷の撤去の討議も行われるだろう。
アルメニアはアゼルバイジャンがナゴルノカラバフへの食糧や医薬品を止めるためにチェックポイントを使っていると言い、アゼルバイジャン側は武器が密輸されるのを防ぐ必要があると言っている。ハジエフは「自己の領土の規制はどの国でも普通にある。道路は開かれているが、不法な貨物には閉じられている」と述べた。
EU主導の努力はその広い隣接地域でのEUの力とモスクワの歴史的影響力への挑戦のテストである。ロシアは2020年の停戦を仲介した後、ナゴルノカラバフに平和維持軍として2000名の軍人を駐留させている。
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アルメニアとアゼルバイジャンの両国はナゴルノカラバフをめぐってソ連崩壊で両国が独立した後、長い間ずっと争ってきたが、最近ようやく両者が諸懸案に解決策を見出すべく話し合いが進んできている。南部コーカサスに平和が戻る見通しが出てきていると判断して良いと思われる。まだ状況を見る必要はあるが、歓迎すべきことである。』
『このような状況が出てきた背景は何かと言うと、基本的にアルメニア側が実質的にはアゼルバイジャン側の勝利に終わった2020年の戦争の結果を踏まえて、支配領土についての要求を引き下げる方針に転換したことである。
アルメニアはアゼルバイジャンとは違い、ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)の参加国であり、ロシアのアルメニア支援に期待を寄せていたが、そのような支援は得られないと考えるに至ったからであると思われる。
アルメニアとアゼルバイジャンは国力の面で差がある。人口はアルメニア300万に対しアゼルバイジャンは1030万であり、国内総生産(GDP)はアルメニアが約140億ドル、アゼルバイジャンが550億ドルである。防衛費もアゼルバイジャンが多い。
2020年の両国間の戦争では、アゼルバイジャンがトルコから入手した無人機を使い、アルメニア軍に手ひどい打撃を与えた。ロシアは双方に停戦を求め、その停戦を監視するために、ナゴルノカラバフに2000人の平和維持軍を送った。停戦後も両国の衝突が断続的に起こったが、そうしたなかでアルメニア側がロシアの出方に不信感を強めたと思われる。
南部コーカサスで進む「ロシア離れ」
この紛争においては、アフガニスタン、パキスタン、トルコがアゼルバイジャンを支持、フランス、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)がアルメニアを支持するという複雑な構図があったが、その構図も解消に向かうだろう。アゼルバイジャンはイスラム教シーア派の国であり、なぜ同じシーア派のイランがキリスト教国のアルメニア支持なのか、とにかく複雑である。
南部コーカサスでは、これからトルコの影響力の増大とアルメニアのロシア離れ、ロシアの影響力の減退が起きる蓋然性が高いと思われる。』