アメリカの「国家安全保障戦略」(2022)を読む

Compass for SDGs & Society 5.0
アメリカの「国家安全保障戦略」(2022)を読む
〜年内に予定される日本の国家安全保障戦略改定〜
総合調査部マクロ環境調査グループ長石附寸賢実
https://www.dlri.co.jp/report/ld/211293.html

(要旨)

〇 日本では、2013年の制定以来初めてとなる「国家安全保障戦略」の改定を年末に
控えている。先んじて2022年10月12日、米国の「国家安全保障戦略」が公表
された。本稿では後者を解説する。文末に日本語の要約版を添付する。

〇 「自由で開かれた、繁栄し、安全な国際秩序」に向けて「(軍に加え産業や人な
ど国力全般への)投資」「国家連合構築」「米軍近代化」の3つのアプローチを
取るとしている。非軍事を含む幅広い分野を安全保障の対象と捉えている。

〇日本で注目されている「経済安全保障」という言葉は殆ど使われていないが、人
への投資、中産階級の強さ、基幹インフラへの投資や重要物資のサプライチェー
ンの確保、エネルギー•食料安全保障等が重要課題として列挙されている。「経
済安全保障」と定義するまでもなく当然に経済は安全保障の中核とされている。

〇多様な人材が強みの米国の科学技術力について、本戦略でも「世界最高峰の人材
獲得と維持に取り組む」「より多くのSTEM人材を惹きつけることは国家安全保
障とサプライチェーン安全保障にとって優先事項」と指摘している。

〇 「グローバルな優先事項」の筆頭は、「中国に対抗し、ロシアを抑制する」。2番
目に気候変動等「共通する課題への協力」。

〇地域別の記述は、ウクライナ情勢下でも中国の台頭を念頭に「自由で開かれたイ
ンド太平洋」「ヨーロッパ」「西半球(アメリカ大陸)」「中東」の順。

〇 民主主義の強化を謳いつつも、プラクティカル(実際主義的)なアプローチとし
て、「民主的制度を受け入れていないが、ルールに基づく国際システムに依存し
支持する国々」との連携を示唆している。

〇 「無駄にしている時間はない」と危機感を隠さず、科学技術大国の現状にも満足
していない。米国を持ってしてこの危機感、ましてや日本は危機感をより強く持
つ必要がある。日本においても、揺れる国際秩序の下で、抑止力としての防衛カ
の強化とともに、あらためて科学技術力や経済力の重要性を強調したい。

第一生命経済研究所
ビジネス環境レポート2022.11 1
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  1. 経緯

日本では、2013年の制定以来初めてとなる「国家安全保障戦略」の改定を年末に
控えている(注1)。先んじて2022年10月12日、米国の「国家安全保障戦略」が公
表された。本稿では後者を解説する。

バイデン政権発足後、暫定版(interim report)のみ公表されていたが、漸く正式
版が公表されたことになる。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて正
式版の内容を再検討する必要性が生じ、当初想定よりも公表が大幅に遅れた状況にあ
る。本戦略は “The Biden-Harris Administration’ s National Security
Strategy”と称され、バイデン政権に紐づいた戦略となる。

2022年11月の中間選挙
後の政権運営が注目されるなかではあるが、2024年までのバイデン大統領の任期に
おける安全保障戦略の羅針盤となることは間違いない。英文で48ページに及ぶ本戦
略について、本レポートの文末に日本語の要約版(8ページ)を添付する。

なお、筆
者による要約・仮訳であり、正確には必ず原文(https://www.whitehouse.gov/wp-
content/uploads/2022/10/Biden-Harris-Administrations-National-Security-
Strategy-10.2022.pdf)を確認されたい。

  1. 注目点

(1) 戦略的アプローチの概要〜「自由で開かれた、繁栄し、安全な国際秩序」に向けて

「自由で開かれた、繁栄し、安全な国際秩序」に向けて、

1)米国のパワーと影響
力の基礎となる源泉と手段(筆者注:軍に加え産業や人など国力全般)に「投資」、

2)共通する課題を解決するために、可能な限り強力な「国家連合を構築」し、その影
響力を強化、

3) 「米軍近代化」と強化、の3つのアプローチを取るとしている。


見、伝統的な安全保障分野である「軍」に関する記述は相対的に少なく感じられる
が、本戦略公表後10月27日に公表された「国家防衛戦略」に重点的に記載されてい
る。強力な「軍」が外交の裏付けとなっている認識も示されている。「軍」の記載が
少ないというよりは、非軍事を含む幅広い分野を安全保障の対象と捉えていると言え
よう。

(2) 「経済安全保障」という言葉は殆ど使われていないが、当然に経済は安全保障の中核
日本で注目されている「経済安全保障」という言葉は殆ど使われていない。

今年、
日本においては「経済安全保障法制」として、4分野(サプライチェーン、基幹イン
フラ、官民技術協力、特許非公開)一括で国会審議され成立した。

このように一括り
の法律の建付けとなっている国は他にはあまり見当たらないが、昨今の欧米諸国にお
ける先行的な諸手当と重なる内容であり、一気にキャッチアップを図った状況にあ
る。

この議論の過程で「経済安全保障」という言葉が市民権を得たのが日本の現状で
あろう。他方で、本戦略を見ると、取り立てて「経済」が安全保障の重要なパーツで
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あることを誇示する「経済安全保障」という言葉を強調していない一方で、人への投
資、中産階級の強さ、基幹インフラへの投資や重要物資のサプライチェーンの確保、
エネルギー安全保障、食料安全保障などが重要課題として言及されている。

つまり、
当然に経済は安全保障の中核と位置づけられていると言えよう。

(3)揺るぎない科学技術覇権に向けた人材受入姿勢

拙稿「ノーベル賞ランキングと知のパワー ・バランス」(2022)
https://www.dlri. co.jp/report/ld/203243. html)にて、ノーベル賞自然科学三賞
(物理・化学・医学生理学)受賞者の出生国と受賞時在籍研究機関所在国を集計比較
し、米国の研究機関が、研究者の出生国に関わらずノーベル賞受賞者を多数輩出し、
多様性を受け入れる包摂性が米国の科学技術力に繋がっている可能性を指摘した。


戦略でも「世界最高峰の人材獲得と維持に取り組む」「より多くのSTEM人材(注2)
を惹きつけることは国家安全保障とサプライチェーン安全保障にとって優先事項」
「米国が世界一の人材獲得地であり続けるために、さらなる対策を講じる」と、引き
続き科学技術の盟主の座、覇権を確たるものとする、揺るがない人材受入姿勢が見受
けられる。優秀な人材の受入れに向けてビザの手当も積極化するとしている。

⑷グローバルな優先課題の筆頭は「中露」、次に気候変動等「共通の課題」への対処

グローバルの優先事項の筆頭は、「中国に対抗し、ロシアを抑制する」、すなわち権
威主義的なライバルに打ち勝つことである。

中国については、「国際秩序を再構築
(reshape)する意図と、それを実現する経済・外交・技術力を併せ持つ唯一の競争
相手」としている。

ロシアは、「今日の国際秩序に背き、自由で開かれた国際システ
ムに対する直接的な脅威」としている。

地域別の記述は、ウクライナ情勢下でも中国
の台頭を念頭に「自由で開かれたインド太平洋」「ヨーロッパ」「西半球(アメリカ大
陸)」「中東」の順である。

優先課題として2番目に、気候変動等の「共通の課題」への対処が挙げられてい
る。国家間の競争が激化する時代にあっても共通の課題に対する国際協力を維持、拡
大しなければならないとしている。1)「すべての国や組織」を十分に巻き込む、2)
「志を同じくするパートナー」との協力を深める、のツートラックで進めるとしてい
る。

⑸日本に関連した記述「鉄壁のコミットメント」「尖閣諸島」

日本に関連した多国間の枠組みとしてG7やQUAD (クアッド)重視の記述があると
ともに、日本名指しの記述については、自由で開かれたインド太平洋に関する段落の
なかで「条約締結国である豪州、日本、韓国、フィリピン、タイに対する鉄壁のコミ
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ットメントを再確認する」「尖閣諸島を含む日本の防衛に対する揺るぎないコミット
メントを安保条約の下で再確認する」としている。

(6)民主主義強化を強調も、民主的ではない国でも「ルールを支持する国」との連携を示唆

法の支配、選挙で示された国民の評決の尊重、言論の自由、報道の自由、平和的集
会等の権利等を確認し、民主主義を強化する姿勢を打ち出している。

また、国内の分
断を率直・謙虚に受け止めて、自らの欠点を認識し、改善していくとしている。

他方で、民主的国家のみならず、「民主的制度を受け入れていないが、ルールに基
づく国際システムに依存し支持する国々」との連携を示唆している点も興味深い。


主主義の強化を謳いつつも、「あるべき論」の押し付けから、ルールに基づく国際秩
序を支持する国であれば協力していく、プラクティカル(実際主義的)なアプローチ
へのシフトが見られる。(4)のツートラックとも関連した思想である。

3.終わりに〜米国の危機感

本戦略の最終章は、次の10年にやらねばならないことを総括した上で、「無駄にし
ている時間はない(There is no time to waste.)_!というシンプルなー文で締めく
くられている。

中露等国際秩序に挑戦する国々への対応や、地球環境等の世界共通の
課題への対処には相当な覚悟が必要であり、時間の余裕もないという認識、危機感が
滲み出ている。

科学技術においても、これまでも多様な人材を受け入れてきた米国が
世界一の人材獲得地となるために「さらなる対策を講じる」としている。米国のパワ
ーを持ってしてもこの危機感である。ましてや日本は危機感をより強く持つ必要があ
る。

米国の国家安全保障戦略を見ても分かる通り、軍事力はもちろんのこと、科学技術
カや経済力は国家間のパワー・バランスに直結する、安全保障の中核を成す要素であ
る。

外交カも、軍事力・科学技術力・経済力を含む国力があってこそ初めて発揮でき
る。

日本においても、防衛の議論の活性化とともに、国策としての研究開発支援、高
等教育の一層の充実、産学官連携、スタートアップ振興、研究者・留学生の受入体制
の整備など、科学技術発展に資する政策を総動員しなければならないであろう。

揺れ
る国際秩序の下で、抑止力としての防衛カの強化とともに、あらためて科学技術力や
経済力の重要性を強調したい。

以上
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【注釈】
1) 日本の「国家安全保障戦略」は「防衛計画の大綱」、「中期防衛カ整備計画」ととも
に「安保3文書」と言われ、2022年内にいずれも改定される。3文書のなかで最上
位の概念とも言える「国家安全保障戦略」であるが、制定されたのは2013年とー
番遅く、今回初めての改定を迎えることとなる。

2) STEM は Science (科学)ヽ Technology (技術)、Engineering (工学)ヽ Mathematics
(数学)の頭文字をとったもの。国家の競争力の源泉として、各国でSTEM教育の
充実などが強調されている。

【参考文献】
・ The White House “National Security Strategy (2022)
(https://www. whitehouse. gov/wp-content/uploads/2022/10/Biden-Harris-
Administrations-National-Security-Strategy-10.2022.pdf)
•石附賢実「ノーベル賞ランキングと知のパワー・バランス」(2022)
https://www.dlri. co.jp/report/ld/203243. html
【参考資料】
• 次ページ以降(PDF版のみ)に米国国家安全保障戦略(2022)の日本語要約版を参
考添付する。なお、筆者による要約・仮訳であり、正確には英文原文
https://www.whitehouse. gov/wp-content/uploads/2022/10/Biden-Harris-
Administrations-National-Security-Strategy-10.2022.pdf を必ず確認されたい。
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米国国家安全保障戦略(2022)概要
Part I:次に来たるものとの競争
永続的なビジョン
我々は2つの戦略的なチャレンジに直面している。①冷戦後を形作る主要国間の競争。②国境を越えた共
通の課題(気候変動、インフレ等)の影響への対処。
永続的な役割
米国は、大規模で多様な民主主義国家であり、これは米国の政治が常に円滑であるとは限らないこと
を意味する。自分たちの分断を率直•謙虚に受け止め、透明で民主的な政治を実践していくつもりで
ある。我々は自らの価値を守り、世界における国家安全保障上の利益を追求し続ける。独裁国家は
我々よりも改善が難しい。
民主主義国家と独裁国家の競争の本質
自由で開かれた、繁栄し、安全な世界という我々のビジョンを支持する国の範囲は広く、強力であ
る。これには我々の民主的同盟国、世界中の重要な民主的パートナー、そして民主的制度を受け入れ
てはいないが、ルールに基づく国際システムに依存し支持している国々が含まれている。米国人は普
遍的な人権を支持し、自由と尊厳を求める国外からの人々と連帯する。
ロシアは、今日の国際秩序に背き、自由で開かれた国際システムに対する直接的な脅威となってい
る。中国は国際秩序を再構築(reshape)する意図を持ち、その目標を推進するための経済力、外交
カ、軍事力、技術力を局めている唯一の競争相手である。
競争の時代における共通の課題に取り組むための協働
我々は、民主主義国家と独裁国家の間で激化する競争と、国境を越えた共通の課題、両方に対処する
とともに、それぞれの間の関係を認識・調整する戦略が必要である。
共通の課題のなかで、気候変動は最も大きな問題である。ロシアのようにエネルギーを武器にして
威圧しようとする国への依存度を減らす必要がある。わが国の歴史上最も重要な気候変動関連法案
の実施に力を注いでいる。
戦略的アプローチの概要
我々は、自由で開かれた、繁栄し、安全な国際秩序を望んでいる。
この目標を達成するためには、3つのアプローチが必要である。1)米国のパワーと影響力の基礎とな
る源泉と手段に投資、2)共通する課題を解決するために、可能な限り強力な国家連合を構築し、その
影響力を強化、3)米軍の近代化と強化。
我々のアプローチは、6つの重要な柱の上に成り立っている。
1)外交政策と国内政策の間の分断を解消すること。2)世界中の同盟とパートナーシップ(NATO、イン
ド太平洋における同盟など)。3)中露等への対応。中国が最も重大な地政学的課題。ロシアは、ヨー
ロッパの地域安全保障秩序に直接的かつ継続的な脅威も、中国のような全般的な能力を備えてはいな
い。イランと北朝鮮への対応。4)各国とそれぞれの条件で関わりを持ち続けること。中東やアフリ
カ、西半球(米大陸)。5)グローバリゼーションによる国内および国家間の不平等の拡大、中国の台
頭、新技術などに対処するための調整(IPEF、OECDのグローバル最低税率等)。6)将来の国際秩序に
対する我々のビジョン。国家間の関係が国連憲章に準拠すること。すべての個人の普遍的権利が擁護
されること。
これらのために二本立てのアプローチを追求する。①共通の課題に取り組むために我々と建設的に協
働しようとするいかなる国とも協力すること。国際機関にも全面的に関与すること。②民主主義国家
や他の志を同じくする国々と協力を深めていくこと。QUAD、米欧通商技術評議会、AUKUS、I2-U2 (イ
ンド、イスラエル、アラブ首長国連邦と米国)。
この10年間は、中国との競争条件を設定し、ロシアがもたらす深刻な脅威に対処し、共通の課題、と
りわけ気候変動等に対処するため、決定的な意味を持つだろう。
(別紙)1
Part II :我々の強みへの投資
競争力を維持するための国力への投資
国内投資により競争力を維持向上させる必要がある。外交と内政の間に明確な線引きはない。特に中
産階級の強さはわが国の安全保障に不可欠である。逆もまた真なりである。
現代産業とイノベーション戦略の実施
民間部門と開かれた市場は国力の重要な源泉である。しかし、市場だけでは急激な技術革新や供給
途絶、気候変動の深刻化などに対応することはできない。
経済と国家安全保障の中核的利益を守るため、民間企業単独では対応できない重要な分野を特定し投
資する。サイバーセキュリティ含め重要なインフラを保護する。
交通、ブロードバンド、クリーンな水、エネルギーなどのインフラ整備、米国内の半導体産業の再活
性化を目指す。このほか次世代通信、クリーンエネルギー技術、バイオテクノロジー等に投資。
2030年までに炭素排出を約40%削減するインフレ削減法を制定。気候変動対応の投資により、米国は
最先端を走り、経済力を高め、10年間で何百万人もの雇用と何兆ドルもの経済活動を支える。
サイバーセキュリティ、知的財産の盗難、技術移転の強要に対処する。投資審査や輸出管理、新たな
制度の開発などを通じて集団的能力を高める。
人材への投資
人材への公共投資はインパクトが大きい。特に女性と女児のために、ヘルス•チャイルドケア、職業
訓練、STEM教育を含む質の高い教育等への公平なアクセス。組合結成と団体交渉を促進。
米国が世界中の人材に選ばれる国であることを目指し続ける。建国以来、米国は機会や避難を求める
移民によって強化され、新しく生まれ変わってきた。議会と協力し行政措置を講じ続けていく。米国
が世界一の人材獲得地であり続ける7こめに、さらなる対策を講じる。
デモクラシーを強化する
米国の政治制度は法の支配を明文化し、すべての個人の平等と尊厳を守るよう努力している。我々の
民主主義は現在進行形であり、自らの欠点を認識し、改善することによって、世界中の人々に民主主
義を促すことができる。
選挙で示された国民の評決は尊重され、保護される。言論の自由、報道の自由、平和的集会、および
その他の中核的な市民的自由に対する権利を再確認する。政治干渉、選挙を含む法の支配に対する攻
撃などに正面から取り組み、国内テロなどの民主主義に対する脅威に立ち向かうー。
外交を駆使 して 最強の連合体を構築する
米国の同盟国とパートナーの比類なきネットワークを基盤に、自由で開かれた、繁栄し、安全な世界
を推進し防衛するために、強力な連合を構築する。
変革のための協力
パートナーと飛躍的に大きなレベルの協力を生み出す必要がある。我々が軍備を近代化し、自国の
民主主義を強化するように、我々は同盟国に対し同じように行動するよう求める。
NATOにおける中露対応、フィンランドとスウェーデンの同盟参加申請の合意、米欧通商技術会議、
AUKUS、ファイブ・アイズ、QUAD、也等における協力、航行の自由や台湾海峡の平和と安定の維持に
同盟国やパートナーが積極的役割を果たすこと等の重要性。
政府、市民社会、メディア、民間部門と協力し、信頼できる情報が排除されるのを防ぎ、偽情報キヤ
ンペーンを暴露し、繁栄する民主主義国家の基盤であるメディア環境の健全性を強化する。
同盟国やパートナーとともに、人権侵害について国家責任を追及する。第二次世界大戦以来最も深刻
な難民危機に対して国際社会と協力する。米国の難民受け入れプログラムを再構築•改善する。
包摂的な世界
大多数の国は安定的で開かれたルールベースの秩序を望んでいる。民主的ではない国もあるが、それ
でもルールに基づく国際システムに依存している国もあり、幅広い連合を必要とする。
(別紙)2
ASEAN、アフリカ、大西洋諸国、西半球(米州大陸)との協力を推進している。中東ではイランに対
する抑止カの強化、エネルギーの安定性強化に取り組んできた。IPEFは包括的な連合の代表例。
G7パートナーとともに低・中所得国におけるインフラ需要に応えるためにPGII (グローバルインフラ
投資パートナーシップ)を立ち上げた。PEPFAR (エイズ救済計画)含む他のイニシアティブでも「民
主主義は実現する」ことを示し、保健システムを強化、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を
加速させる。
米国は、建設的な問題解決に参加する意思のある、市民社会団体や民間企業等を含むいかなるパート
ナーとも現実的に協力し、共通の利益に基づいた新しい関係を強化・構築する。目的に合った連合と
官民同盟を作り、世界で最も困難な課題に挑戦していく。
繁栄した世界
開発および人間の尊厳の拡大について、同盟国やパートナーと協力する新たな方法を構築する。これ
らはアメリカ人の安全保障と繁栄に不可欠である。
COVID-19の大流行による開発成果の侵食、ロシアのウクライナ侵攻による、食料およびエネルギー
価格の高騰、貧困悪化、食料安全保障の侵食の現状。
「民主的開発のためのパートナーシップ」(PDD)を通じて民主主義の刷新を支援する。女性と女
児に投資し、LGBTQI+コミュニティ等のニーズに焦点を当てる。
透明性、環境等の基準、人権、持続可能性に配慮した現地とのパートナーシップを推進。国際金融
機関も価値観や利益を拡大する力となる。海外の強く安定した成長により国内経済も強くなる。
軍の近代化と強化
米軍は国益を守るために必要な場合には武力の行使をためらわない。しかし、最後の手段として、国
家利益を守るために必要であって、その任務が十分な情報に基づく米国民の同意を得て実施される場
合にのみ、それを行う。
米軍は外交、侵略・紛争抑止、力の誇示、国民と経済的利益の裏付けとなり、国益を増進.保護す
る。中国への抑止力を維持強化するために速やかに行動する。力を結集し、侵略行為を抑止する効果
を最大化するアプローチを「統合的抑止」と呼ぶ。弾力的な軍隊と防衛生態系を構築する。
最新の戦闘能力を優先し、殺傷カ、レジリエンス、持続力、生存カ、敏捷性、即応性を備えた統合軍
を近代化する。ウクライナ戦争は活力ある国防産業基盤の重要性を浮き彫りにした。サイバー・宇宙
領域、ミサイル撃退能力、人工知能、量子等。同盟国等との深い協力を目指す。
核抑止力は国家の最優先事項であり統合的抑止力の基盤である。2030年代までに米国は初めて2つの
主要な核保有国を抑止する必要が生じる。同盟国への拡大抑止の約束を強化している。
最も重要な投資は全員が志願に基づく素晴らしい志願兵に対して行われるものである。文民統制とい
う基礎的原則を維持する。自殺防止取組み強化等惨劇をなくし、退役軍人と家族をケアする。
Part III:グローバルの優先事項
中国に対抗し、ロシアを抑制する
中国とロシアは互いに連携を強めているが、両者がもたらす課題は異なる。我々は、中国に対する永
続的な競争力を維持することを優先させる一方で、依然として非常に危険なロシアを抑制する。
中国
中国は、国際秩序を再構築(reshape)する意図と、それを実現する経済・外交・軍事・技術力を併
せ持つ唯一の競争相手である。国際機関への影響力の増大を利用して、自国の利益と価値観を優遇す
るための規範を形成しようとしている。
同時に、気候変動といった共通の課題に対して大きな影響力を持っており、米国と中国が平和的に
共存し、人類の進歩を共に分かち合い、貢献することは可能である。
対中国戦略は、1)競争力、イノベーション、レジリエンス、民主主義に投資、2)同盟国やパートナー
のネットワークと連携、共通の目的と大義の下に行動、3)中国と責任を持って競争する。
新疆におけるジェノサイドや人道に対する罪、チベットにおける人権侵害、香港の自治と自由の解
(別紙)3
体について責任を追及する。同盟国等の自衛を助ける戦闘的信頼性の高い軍への投資を優先する。
台湾について、いかなる一方的な変更にも反対であり、 台湾の独立を支持しない。我々は、「一つの
中国」政策に引き続きコミットする。台湾の自衛を支援し、台湾に対するいかなる武力行使や強制に
も抵抗する能力を維持するという、台湾関係法に基づく約束を守っていく。
欧州、アジア、中東、アフリカ、ラ米の各国は、中国がもたらす課題の本質を明確に認識している。
各国政府は持続可能なファイナンスを、労働者は尊厳と尊敬をもって扱われることを望んでいる。
我々は、意図しない軍事的エスカレーションのリスクの低減を通じて戦略的安定を追求する。気候、
パンデミック、核不拡散等、利害が一致する場合には中国と協力することを厭わない。
我々は中国共産党や中国政府と重大な違いを持つが、その違いは国民との間のものではない。中国の
実績、歴史、文化に深い敬意を払っている。我々は重要な問題の解決に向けて協力する。
ロシア
ロシアはいまや、国際社会の平和と安定に対する差し迫った持続的な脅威である。これは西側とロシ
アとの闘争の話ではなく、国連憲章の基本原則に関わる問題である。
我々はロシアの侵攻に対し、勇敢に国を守るウクライナ国民を支援する。記録的な水準の安全保障支
援を実施した。ウクライナ全土に放った残虐行為の責任を問うために、世界を結集していく。
NAT Oの同盟国とともに、我々は防衛と抑止を強化している。フィンランドとスウェーデンをNAT Oに迎
えることは、我々の安全保障と能力をさらに向上させる。プーチンの戦争は、中国やインド、日本と
いったアジアの大国に対するロシアの地位を大きく低下させた。
我々のアプローチは以下の通り。1)米国はウクライナを引き続き支援し、欧州連合との地域統合を促
進する。2)米国はNATOの領土を隅々まで守り同盟国等との連携を深めていく。3)米国は、米国のイン
フラや民主主義に対するロシアの攻撃を抑止する。4) ロシアの核兵器への依存度が高まる可能性が高
い。いかなる国も核を使用したり核で脅したりすることを許さない。米国は新S TAR Tを継ぐ枠組みと
欧州の安全保障体制の再構築に関心を持ち続けている。
米国はロシア国民と、科学、文化、建設的な二国間関係への彼らの貢献を尊敬している。大国として
の将来を決定するのはロシア国民である。
共通する課題への協力
米国は、国家間の競争が激化する時代にあっても、共通の課題に対する国際協力を維持、拡大しなけ
ればならない。中国はCOVID-19や気候変動などで国際社会に協力していない。
共通する課題に取り組む戦略には2つのトラックがある。1)協力するためにすべての国や組織を十分
に巻き込んでいく。同時に、2)志を同じくするパートナーとの協力を深める。
気候・エネルギー安全保障
グローバルな行動は、国内から始まる。IRA (インフレ削減法)を通じてクリーンエネルギーへの移
行に前例のない世代を超えた投資を行い、高収入の雇用を創出し、米国の産業を強化している。
我々は各国が国別貢献目標を達成・強化するための支援を行っている。EUとの鉄鋼協定は、将来の気
候に焦点を当てた貿易メカニズムのモデルとなっている。排出削減未対策の石炭火力に対する公的フ
アイナンスを終了させ、エネルギー転換投資を加速させる。
ウクライナ戦争は、化石燃料からの脱却を加速させる必要性を明らかにしている。長期的なエネルギ
一安全保障はクリーンエネルギーに依存している。移行は一夜にして実現しないことを認識し、ノパー
トナーや同盟国と協力して、エネルギーの安全保障と経済性を確保し、重要な鉱物のサプライチェー
ンへのアクセスを確保し、影響を受ける労働者の公正な移動を実現する。国際エネルギー機関、その
他の重要なフォーラムでの協力作業を通じて、具体的行動を推進する。
多くの低中所得国が支援を必要としており、年間110億ドル以上の気候変動資金の提供を目指す。
パンデミックとバイオディフェンス
早期警戒・疾病調査の改善、国内製造の加速、安全なバイオテクノロジー開発と製造の推進、医療の
質とアクセスにおける不公平の克服等により、壊滅的な生物リスクに備えることが必要である。
国際的には、米国は、最大のドナーであるCOVAX、世界保健機関、そしてグローバルな健康安全保障
に向けた協力的なアプローチに再注目している。慈善団体や民間企業を含む同盟国やパートナーと協
力し、アフリカや南アジアでの持続可能なワクチン製造を後押ししている。
パンデミックには国境がなく、意見の異なる国々を含め、すべての国と協力しなければならない。グ
(別紙)4
ローバルに、国際機関を通じて関与する中で、他の国が模倣できるような、より高いスタンダードを
設定するために、緊密に協力すべく同じ考えを持つ国々との協力を深めていく。
パートナーや同盟国と協力し、生物兵器禁止条約を強化する。国際的なバイオセーフティ・セキュ
リティの規範と慣行を確立・強化し、技術進歩やデュアルユースに伴うリスクを低減する。
食料不安
食料システムはロシアのウクライナ侵攻等による脅威にさらされている。米国は世界食料計画への
最大の拠出国であり、人道的食料危機に瀕している殆どの国への主要な支援国であり続けている。
パートナーとともに、「世界食料安全保障のためのロードマップ」を立ち上げた。また、米国は世界
食料安全保障戦略を実施している。この戦略は、包括的で持続可能な農業主導の経済成長を支援し、
人々と食料システムのレジリエンスを強化し、特に女性と子供を支援することにより、世界の貧困、
飢餓、栄養不良を削減することに焦点を合わせている。今後、緊急ニーズへの対応と、長期的で持続
可能な食料安全保障の構築の双方を継続する必要がある。
軍備管理および不拡散
軍備管理および核不拡散に関する新たなリーダーシップを通じて核兵器廃絶を目指す。戦略的安定
とリスク軽減について競争相手との現実的な関わりを模索し続ける。核不拡散条約等既存レジーム
を強化し70年以上に及ぶ核不使用記録を拡大する。化学兵器禁止・生物兵器禁止条約を支持する。
テロリズム
シリア、イエメン、ソマリアは依然としてテロリストの聖域になっている。我々はアルカイダ、
isis等に対する戦いに自信を持っている。アフガニスタンがテロリストの温床とならないよう、夕
レンに説明責任を果たさせるつもりである。世界中で、信頼できるパートナーとの協力と支援を
強化し、「米国主導、パートナー支援型|の戦略から「パートナー主導、米国支援型」の戦略へと
転換していく。必要な場合には米国・米国民のため、海外の外交・軍事施設への攻撃を企図してい
るテロリストを崩壊させるために武力を行使する。
米国内では、「国内テロ対策国家戦略」の実施を継続し、情報をよく理解し共有することで、国内
のテロ行為等を防ぐ。国内における暴力的過激派に対処するため、議会と協力して常識的な銃規制
を推進し、極端な偏向を助長し一部の人々を暴力に導くソーシャル・メディアなどのプラットフォ
ームを通じて流布する偽情報や誤報の危機に対処する。
ノレーノレを形成する
同盟国やパートナーとの緊密な連携により、公正なルールを確立すると同時に、経済的•技術的な優
位性を維持し、公正な競争によって定義される未来を形作る。なぜなら、米国の労働者と企業が
level playing field (公正な競争条件)で競争すれば勝利できるからである。
テクノロジー
テクノロジーは今日の地政学的競争、国家安全保障、経済、民主主義の将来にとって中心的な存在で
ある。今後10年間の重要新興技術は、経済を立て直し、軍隊を変革し、世界を再構築する。米国民と
同盟国・パートナーに新しい雇用と安全を提供するものである。
最新の産業戦略を立ち上げ、クリーンエネルギー、電子部品製造等への歴史的投資を確保した。長年
にわたる非対称的な戦略的優位性、すなわち世界最高の人材獲得と維持に一層取り組んでいる。より
多くのグローバルなSTEM人材を惹きつけることは、国家安全保障とサプライチェーン安全保障にとつ
て優先事項であり、ビザの手当を積極的に実施し、議会とより多くの手当を講じていく。
米国はこれらの投資で同盟国と技術産業基盤を確立し、共通の安全保障、繁栄、価値を守る。各国が
経済戦争により他国を強制できないよう、堅牢で耐久性のあるサプライチェーンを構築する。
安全保障、プライバシー、人権保護、競争力強化のため、信頼できるデータとアイデアの自由な流
通を促進する国際的な技術エコシステムを推進していく。米EU-QUADにおける半導体やA1、デジタ
ルインフラ分野等での協力、米国および同盟国の技術リーダーシップ、サプライチェーンのセキュ
リティ、プライバシー、データ共有、デジタル貿易に関する協力の強化を進めていく。
輸出管理および投資審査の仕組みを近代化・強化する。米国人の機密データの搾取や商業的なスパイ
ウェア等技術の違法な使用に対抗するために努力し、デジタル権威主義に対抗して立ち上がる。
5G等高度なネットワークインフラのレジリエンスを向上させるため、幅広いパートナーと協力する。
テクノロジーが民主主義を支え、損なわず、人権に則って開発、配備、統治されるよう努める。
(別紙)5
サイバースペースの安全確保
我々は同盟国やQUADなどのパートナーと緊密に協力し、サイバーレジリエンスを迅速に向上させ、攻
撃に迅速に対応するための集団的能力を構築していく。サイバー犯罪の収益を洗浄する暗号通貨の不
正使用に対抗するために、革新的なパートナーシップを立ち上げた。国連総会が承認したサイバース
ペースにおける貝任ある国家行動の枠組みの遵守を弓|き続さ促進する。
貿易と経済
米国の繁栄は公正で開かれた貿易と国際経済システムにも依存している。同時に長年のルールは、
中国のような非市場的主体によって侵害される等、現代経済の最前線をカバーでさていない。
IPEFの設立等のように現行の貿易システムの更新に取り組んでいる。米国の労働者と企業、特に中
小企業や小規模企業に利益をもたらす新たな輸出の機会を模索する。知的財産の窃盗、差別的規
制、強制労働等、労働抑圧を含む不公正な貿易および労働慣行に対する規則を執行する。EUとの鉄
鋼・アルミニウム協定のように、気候に関する優先事項を推進するために貿易手段を用いる。
通貨操作によって米国にもたらされる損害に取り組み、汚職や不正資金に対抗し、OECDの最低税率
の促進を通じて法人税率競争に終止符を打つ。世界的な債務問題への対応や、PGIIを通じた質の高い
インフラへの資金供給を含め、持続可能な開発について各国と連携する。デジタルドルについて責任
を持って開発を主導する。女性や社会から疎外されたグループの労働力参加を損なう法的、構造的、
文化的障壁に対処する。国際金融機関は進化し続ける必要。これらの制度を強化することは、中国が
もたらす国際秩序に対する長期的で深刻な挑戦に取り組むためにも不可欠である。
人質と不当な拘束
海外で米国人を不当に誘拐等した者を罰するためのレビンソン法を施行した。カナダが立ち上げた
「国家間関係における恣意的抑留に反対する宣言」を推進し、施行する。
Part IV:地域別戦略
米国は、世界中の国や人々と協力することによってのみ、この決定的な10年の課題に対処すること
ができる。
自由で開かれたインド太平洋を推進する
開かれた、相互接続された、繁栄した、安全でレジリエントな地域の実現に重大な関心を持つ。
民主的制度、報道の自由等を通じて開かれた社会を支援し、情報操作や汚職に対抗するために協力す
る。海洋の自由を確認し、南シナ海へのオープンアクセスについて地域共通の支持を構築していく。
ASEANの中心性を確認し、東南アジアとのより深い絆を求める。東南アジアと太平洋諸島に特に重点
を置さ関与を拡大する。南アジアの地域パートナーとともに気候変動、COVID-19、中国の強圧的な行
動に対処するとともに、インド洋地域全体の繁栄と経済的な連結を促進する。QUADとAUKU Sは、イン
ド太平洋諸国と欧州諸国との間の連携促進とともに重要である。IPEFに取り組むとともに、APECは
これらの取組みを補完するものである。
米国は75年間にわたり地域で強力・一貫した防衛力を維持している。条約締結国である豪州、日本、
韓国、比、タイに対する鉄壁のコミットメントを再確認する。尖閣諸島を含む日本の防衛に対する揺
るぎないコミットメントを再確認する。インドは世界最大の民主主義国家であり、FOIPビジョンのた
めに協力する。北朝鮮の脅威に対して拡大抑止を強化し、非核化に向け持続的な外交を模索する。ビ
ルマの民主化に向けASEAN •同盟国等との緊密な協力を継続する。
気候や生物学的脅威を含む、国境を越えた課題に対するパートナーのレジリエンス強化に取り組む。
地域のパンデミックに対するレジリエンス、保健システム強化を支援している。
ヨーロッパとの連携を進化させる
共通の民主的価値観・利益、歴史的な絆に根ざした大西洋の関係は、わが国外交政策の重要な基盤と
なっている。
米国は、NATOの第5条の集団防衛に明確にコミットしている。わが国の貢献を大幅強化する一方で、
同盟国が支出を増やし大さな責任を負い続けることを期待する。サイバー、気候、中国によって増大
する安全保障上のリスク等、現代の安全保障上の課題に対するNAT Oの継続的な適応を期待する。
ウクライナの主権と領土の保全を支援する一方で、モスクワにその侵略に対して厳しい代償を課す決
意である。欧州のエネルギー安全保障を強化し、共通の気候目標を推進するための野心的な計画に取
り組んでさた。EUと英国との間の相互の関心事項に関する緊密な協力を奨励する。さらに、我々
(別紙)6
は、北アイルランドの平和、安定及び繁栄の基盤であるGood Friday協定への支持を強調する。
ウクライナ支援の一方で、他の民主主義国家の安定性とレジリエンスの強化に取り組む。グルジ
ァ、モルドバ、西バルカン諸国、南コーカサス等。我々は、トルコと西側諸国との戦略的、政治
的、経済的結びつき等を強化するためにトルコとの関与を継続する。ウクライナ戦争による難民危
機への対処とともに、欧州に対するテロ脅威を回避する。
中央アジアの独立、主権、および領土の一体性を引き続き支持する。C5+1外交プラットフォームを
通じて、気候適応、地域のエネルギー及び食料安全保障を改善する等、引き続き努力する。
EUと協力して共通の民主的価値に基づいて貿易、投資、技術協力を強化。G7を通じて世界的な課題
に対する協力を活性化。ベラルーシであろうと新疆であろうと、人権を共同で擁護していく。
西半球(アメリカ大陸)における民主主義と繁栄共有の促進
この地域の繁栄と安全保障が我々自身のそれと直結していることを認識し、米国はこの地域での努力
を推進するために「第9回米州首脳会議」でのコミットメントを遂行する。
「移民と保護に関するロサンゼルス宣言」は、移民に関する米国内での取組みを半球全体の大胆なパ
ートナーシップで補完するものである。
「米州の健康とレジリエンスに関する行動計画」を通じて、将来のパンデミックの脅威等に対応す
る。中米カリブ海諸国のコロナワクチン接種率70%達成を支援する。Americas Health Corpsを通じて
2027年までに50万人の公衆衛生・医療専門家の育成を支援する。
カナダ・メキシコと協力して米国の国際競争力を強化、北米ビジョンを推進する。「経済繁栄のため
の米州パートナーシップ」は、サプライチェーン確保、クリーンエネルギー等に焦点を当てている。
気候危機への取組みは我々のアプローチの中心をなす。クリーンエネルギーへの貿易投資を促進し、
アマゾン保護の支援を結集する。また、米国とカリブ共同体は、気候適応プロジェクトへの民間投資
を呼び込むとともに、「気候危機2030に対処するパートナーシップ」を発足させた。
米国はこの地域の民主的安定から安全保障と経済的利益を得ている。民主的ガバナンスを支援し、人
権を擁護し、紛争を解決していく。中国、ロシア、イラン等の干渉や強要から保護する。ベネズエ
ラ、キューバ、ニカラグア等の人々の民主的自決を支援する。人道的危機等に苦しむハイチを支援す
るために、国際社会を結集する。
また、安全保障上の脅威に直面しているパートナーを支援する。内部的なものと、麻薬や人間の取
引等犯罪組織を含む国境を越えたものがある。米州の文民警察を支援し、司法制度を強化し、パー
トナーとの情報共有を拡大するための協力を推進していく。
中東における緊張緩和と統合の支援
過去20年間、中東と北アフリカにおいて武力行使と体制変革に向けた軍事中心の政策を既定路線とし
ていた。今こそグランドデザインにとらわれずに、より実際的ステップを優先すべき。
米国は抑止力を強化する一方で外交を駆使して緊張を緩和する。この枠組みには5つの原則がある。
1)ルールに基づく国際秩序に賛同する国々との連携強化、自衛を確かなものに、2)ホルムズ海峡等
航行の自由を危険にさらすこと、軍備増強等を通じた地域を支配する取組みを容認しない、3)外交
によって緊張・紛争を緩和する、4)米国・パートナー間で政治、経済、安全保障上のつながりを構築
することで、地域の統合を促進する、5)人権および国連憲章に規定された価値を常に促進する。
イランが決して核兵器を保有できないよう外交を追求する一方、他の手段を用いる態勢を維持・準備
する。長年否定されてきた基本的権利と尊厳を求めて努力するイラン国民に寄り添い続ける。
イエメン、シリア、リビアの苦しみ軽減やテロ輸出防止に向けて対応。イスラエルの安全保障に対
する鉄壁のコミットメントを維持、イスラエルとパレスチナ人の実行可能な2国家解決策を推進。
この枠組みは、持続可能で効果的な軍事態勢に依存する。政権交代や社会改造のために軍事力を行使
するのではなく、国家安全保障上の利益を守るため、国際法に合致する状況に限定する。
エネルギー生産者がその資源を利用して世界のエネルギー市場を安定化させることを奨励する。我々
は人道支援におけるリーダーシップを維持する。中東の将来は気候、技術、人口動態の変化によって
決まるため、地域のパートナーがより高いレジリエンスを構築できるよう支援を加速する。
21世紀の米国 と アフリカのノパートナ’ーシップを構築する
アフリカの政府、機関、人々は今後10年間のグローバルな課題の解決に重要な役割を果たす。アフ
リカ諸国は国連で最大の地域投票グループの一つを構成している。米国とアフリカのパートナーシ
ップは、アフリカ諸国の重要な地政学的役割を反映するように適応しなければならない。
(別紙)7
アフリカ連合などの地域機関、各国政府、市民社会、民間企業やディアスポラとの協力関係を深め
る。ナイジェリア、ケニア、南アフリカへの投資を続ける一方で、中堅・中小国家との関係も深め
ていく。保健衛生、パンデミック対策、気候変動に関与させる。人権、汚職、権威主義的な行動に
ついて圧力をかける。
カメルーン、コンゴ民主共和国、エチオピア、モザンビーク、ナイジェリア、ソマリア、サヘルの
ようなコストのかかる紛争、テロ活動等の政治的解決に向けたアフリカ主導の努力を支援する。汚
職に対抗し説明責任と正義を強化し、包括的な経済開発に投資し、人権を推進すること等により、
テロの根本原因に取り組むとともに、ロシアが支援するワグネルグループの影響を押しとどめる。
“Prosper Africa、Feed the Future、Power Africa”イ ニシアティブを通じてク リーン ・ エネルギー・ イ ン
フラを拡大する。サハラ以南のアフリカ諸国は、すでに厳しい気候の影響を受けており、ウクライ
ナ侵攻によって食料価格の上昇もあり状況は悪化している。気候への適応、公正なエネルギー移
行、医療安全保障、COVID-19への対応等への支援、投資していく。ビジネス環境を整備し、人的資
本と能力開発に投資を行い、投資家を引き付け、ビジネスを成長させ、あらゆる部門で良い仕事を
創出する。米国とアフリカの貿易を促進し、米国企業のために新たな機会を創出する。
北極の平和を維持する
気候変動は北極圏のコミュニティと重要な生態系を脅かす一方で、新たな潜在的経済機会を生み出
し、競争を激化させている。ロシアは軍事インフラの近代化等多大な投資を行い、中国は北極圏への
投資を急増させデュアルユース研究を行うことで、北極圏での影響力を高めようとしてきた。
この地域における米国の安全保障を堅持する。北極圏の同盟国等との協力を深め、ロシアとの協力が
困難になったとしても、北極評議会やその他の北極圏の機関を維持するために協力する。航行の自由
を守り、国際的なルールに従って米国の拡張大陸棚を決定し続ける。北極圏における気候変動に対す
るレジリエンスを構築する。米国、同盟国等の民間部門による重要鉱物を含む投資を奨励する。アラ
スカ先住民の部族の主権と自治を尊重するというコミットメントを堅持していく。
海洋、空気、宇宙を守る
世界の海、陸、水路、その他の生態系は相互に連結しており、重要な商業活動や軍事活動を可能にし
ている。これらに対する脅威は政治・経済・社会の不安定さの一因となる。国際法と規範を守ること
で、航行と航空の自由、環境保護を支持し、破壊的な遠洋漁業の慣行に反対する。1959年の南極条約
に従い、平和と科学のために確保された大陸としての南極のステータスを推進する。
米国は宇宙における世界のリーダーとしての地位を維持し、国際社会とともにこの領域の持続可能
性、安全性、安定性を確保するために努力する。米国の商業宇宙部門が国際的に競争できる政策や規
制を策定する。米国の宇宙システムのレジリエンスを強化する。
Part V:結び
2つのチャレンジとして、ライバルに打ち勝つ一方、気候変動、パンデミックへの備え、食料安全保障
など、人類の歴史の次の段階を規定する共通の課題に取り組む。新興技術、サイバーセキュリティ、貿
易・経済の新しく公正なルールを描くために、世界中の民主主義と国際機関を強化する。
国家安全保障戦略は、米国民の生活をより良く、より安全に、より公平にするかどうか、そして我々の
ビジョンを共有する世界中の国々と人々を元気づけられるかという尺度で評価されることになる。
これからの決定的な10年間の成功ビジョンが、我々の原動力となっている。すなわち、
産業力を高め、国民に投資し、民主主義を強化することで、経済の基盤を強化し、国力を高め、国際
舞台での信用を高め、競争力を確保することができている。
民主的な同盟国に限らず、ビジョンを共有するすべての国家との外交関係を拡大することで、戦略的
ライバルとの間に有利な競争条件を築き、共通の課題への協力の基盤を築くことができている。
軍の近代化、先端技術の追求、国防人材への投資により、地政学的対立が激化する時代において抑止
力を強化し、米国が母国、同盟国、海外の利益、そして世界中の我々の価値を守れている。
我々の国力を活用し、同盟国やパートナーとの幅広い連携を結集することで、自由で開かれた、繁栄
し、安全な世界というビジョンを推進し、競争相手を凌駕し、気候変動、グローバルヘルス、食料安
全保障等の問題で有意義な進展をもたらし、米国人・世界中の人々の生活を向上させている。
これまでの歴史の通り、米国はこの瞬間をとらえ挑戦に立ち向かう。無駄にしている時間はない。
以上
(別紙)8