習近平氏、仲裁役を演出 中ロ共同声明「対話が最良」

習近平氏、仲裁役を演出 中ロ共同声明「対話が最良」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM2242P0S3A320C2000000/

『中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はロシア訪問を通じて、ロシアのウクライナ侵攻を巡る問題で仲裁役としてふるまった。中ロ共同声明で「責任のある対話が最良の道」と強調し、和平を呼びかける姿勢をアピールした。台湾統一を巡る問題で、ロシアが中国の行動を支持する言質を引き出した。

中国国営の新華社通信は22日、習氏が3日間の訪ロ日程を終えて帰路についたと伝えた。

習氏とロシアのプーチン大統領は20日の…

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『習氏とロシアのプーチン大統領は20日の非公式会談と夕食会、21日の正式な首脳会談を合わせて約10時間向き合った。

中国は3月上旬にイランとサウジアラビアの外交関係の正常化を仲介し、中東地域での影響力拡大を誇示した。米国の影響が及びにくい地域で関与を深め、米国対抗の足場を築こうとしている。

21日に公表した中ロ共同声明の文言からは、今回の首脳会談を習氏が主導した様子が読み取れる。

ウクライナ危機を巡って「対話が最良の道だ」と指摘し、停戦交渉の早期再開を促した。ウクライナや米欧が懸念するロシアの侵攻激化に中国が待ったをかけた形を示した。ロシアは「和平交渉の再開に尽力する」と表明し、中国の仲裁案を積極的に評価すると明言した。

米欧が警戒する中ロの軍事的接近に関して、両国は「同盟を結ばず、対抗せず、第三国を標的にしない」と明記した。中国外務省がくり返してきた主張がそのまま反映された。

プーチン氏が北京冬季五輪に合わせて訪中した際の2022年2月の共同声明にあった「中ロの友好・協力関係に制限や禁じられた分野はない」との文言は今回消えた。米欧がウクライナ侵攻を巡り「中ロ結託の証拠」として非難した部分だ。

中国には「ロシア寄り」と見られることで、関係改善を進めたい欧州の中国離れが加速するとの悩みがあった。ロシアとの一定の距離を示すことで対中圧力を緩和したい思惑がのぞく。

ロシア側が求めていた経済協力については別の共同声明文をまとめたが、数値目標はほとんど盛り込まれなかった。中国側が経済分野で手足を縛られることを警戒した可能性がある。

一方、習指導部が「最も重要な核心的利益」と強調する台湾問題では大きな変更点があった。中国が主権と領土保全のためにとる「措置」をロシアが「断固支持する」と踏み込んだ。「ロシアは台湾が中国領土の分割できない一部であると認める」とも書き込んだ。仮に中国が武力統一に動いた場合、ロシアは支持するとも読める内容だ。

前回の共同声明では、ロシアは「一つの中国」原則を順守し「台湾独立に反対する」という表現にとどめていた。中国側には、台湾統一に乗り出した場合にロシアの出方が読めないとの不満があった。

中ロで海上、空中での合同訓練を定期的に実施して両軍の協力を強化する方針を盛り込んだ。米国への対抗で中ロの結束を示し、米英豪の安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」によるオーストラリアへの原子力潜水艦の配備に「重大な懸念」を改めて表明した。

中国はロシアのウクライナ侵攻を事実上黙認してきた。共同声明では関係国に対話を求めつつ、ロシア軍のウクライナ領からの撤退や、一方的に併合を宣言した東・南部の4州の扱いには一切触れなかった。

ウクライナ情勢について首脳会談でどこまで本音のやりとりがあったかは不明だ。習氏はゼレンスキー大統領ともオンラインで協議するとみられる。和平に向けた動きを進められるか、仲裁役を買って出た習氏の本気度が問われる。

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益尾知佐子
九州大学大学院比較社会文化研究院 教授
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別の視点 私は中国がこの共同声明で「仲裁役」を買って出たとは思いません。むしろ中ロが西側諸国とは違う形の同盟を結ぶことを宣言した、と解釈すべきです。

共同声明は冒頭で、中ロが2001年の善隣友好協力条約等を発展させて関係を発展させると述べました。インドの研究者コンダパリは、上記条約の第9条(どちらかが脅威に直面した際「双方の締約国は直ちに連絡や協議を行う」)の文言が印ソ平和友好協力条約と酷似していると指摘しています。この条約で印ソは同盟関係を結んだと言われました。

今回の中ロ共同声明はさらに経済、宇宙、先端科学技術などの包括的な協力を約束し、中国がロシアを支え続ける意志を示しました。その意味は甚大です。
2023年3月22日 20:16 (2023年3月22日 20:17更新)
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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
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ひとこと解説 記事にある通り、ウクライナ問題には触れておらず、そもそものロシア側の戦争目的であったNATO拡大への反対も姿を消しており、習近平氏の目指す世界観、世界秩序にロシアがどんどん従属させられている印象です。

「ユーラシア経済連合」も「一帯一路」に従属させられるようであり、経済・金融面で中国の作る秩序にロシアが編入されていく印象です。これまで曲がりなりにも中国に対して大国のメンツを保とうとしてきたプーチン大統領ですが、ウクライナ戦争を続ける代償は中国の秩序への編入のようです。

2023年3月22日 23:47いいね
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今村卓
丸紅 執行役員 経済研究所長
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分析・考察 中国は表面的には仲裁役として振る舞っているものの、本質は中国のジュニアパートナーになったロシアの救済を目指す動きであると思います。

首脳会談も共同声明も、ロシアが中国のジュニアパートナーに収まったことを確信させる内容でした。

習氏が和平協議の再開を促すのも、ウクライナとの戦争で弱体化する一方のロシアを救う、止血のための方策にみえます。先月の中国の12項目の仲裁案からの一貫した対応です。
もちろん習氏が今後ゼレンスキー氏に真剣に和平交渉入りを考えさせるような具体的な提案をするかを見届ける必要はあります。しかし、ここまでの中国と習氏の姿勢と発言からみて、その可能性は低いと思います。

2023年3月22日 21:12』