米民主主義に内外から脅威 権威主義との競争、正念場

米民主主義に内外から脅威 権威主義との競争、正念場
米国の選択と世界の試練㊤
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN02EJE0S2A101C2000000/

『【この記事のポイント】
・中間選挙は米民主主義に内外から迫る危機を露わに
・国内では左右への二極化がさらに深まり、政治を翻弄
・中ロなど権威主義国との競争は国際社会にも影響

バイデン米政権への初の審判となる中間選挙で与党・民主党は連邦議会下院の支配を共和党に譲る一方、上院の多数派の地位を保った。過激なトランプ主義を無党派層が嫌い、民主党大敗の予想は覆った。極端に左右に分かれる政治の二極化が米民主主義を翻弄するなか、2年後の大統領選へ号砲が鳴った。

共和党の「赤い波」を民主党の「青い防波堤」が阻んだ――。両党のシンボルカラーからこう表現される。主因は「嫌トランプ」。ペンシルベニア、アリゾナ、ネバダ、ニューハンプシャー。上院全体を左右した激戦州でトランプ前大統領の推薦候補が次々敗れた。

過去の中間選挙で政権の実績に厳しい評価を下し、野党をひいきする傾向のあった無党派層が「防波堤」に加わったためだ。高インフレの逆風で55%近い不支持率にあえぐバイデン大統領は人工妊娠中絶に賛成する若者や女性に「民主主義の危機」を訴えた。

もっとも「民主党支持者は共和党、共和党支持者は民主党を民主主義の脅威とみる。だから民主主義の危機を訴えても勝因にはならない」(米政治学者のヤシャ・モンク氏)。投票にかけられたのは、バイデン氏とトランプ氏のどちらが嫌いかという消去法だ。

真の勝者はいない。2024年大統領選への出馬を15日にいち早く表明したトランプ氏は、保守強硬派で40代のデサンティス・フロリダ州知事に支持で負けることも珍しくなくなった。バイデン氏は中間選挙後も支持率は高まらず、再選出馬への反対論が根強い。

バイデン氏の指摘は正しい。米民主主義は危機にある。国内外の2つの試練に同時に直面している。1つは「嫌トランプ」の背景にある米国政治の極端な二極化だ。

トランプ主義者は20年大統領選の敗北を認めず、選挙を否定する。トランプ氏の支持を受けて再選したマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(ジョージア州)は「民主党員は共和党員の死を望み、殺害を始めている」と暴力的な言動をやめない。対する左派の一部も過激化し、中絶賛成派が教会施設を破損するといった事件が相次ぐ。

そこに権威主義との競争がのしかかる。習近平(シー・ジンピン)国家主席が「中国式現代化」を唱える中国は自由民主主義と一線を画し、ロシアを「弟分」に従える。スウェーデンの調査機関「V-Dem」によると、21年に世界の民主主義国は89。中ロなど権威主義国は90に上り、その人口は世界の70%と10年前の49%から拡大した。

米国は対中戦略で今後10年を「決定的」な期間と位置づけている。次期大統領選までの2年は大きく、民主主義陣営のリーダーである米国の選択は自由、公平、ルールに価値を置く国際社会の命運さえ左右する。内向きの闘争を続ける米国の有権者はその2年の重みにときに無自覚にみえる。

「危険は我々の中から生まれる」。後に大統領として南北戦争を戦う28歳のエイブラハム・リンカーンは警鐘を鳴らした。その洞察を超え、21世紀の米民主主義の脅威は内と外から迫る。危機を脱する正攻法は自由な社会で多様な個の力を発揮する民主主義の価値を守り、共鳴者を増やすことだろう。近道はない。

(ワシントン支局長 大越匡洋)

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米中間選挙2022 https://www.nikkei.com/special/us-election?n_cid=DSREA_2022usmidterm 

米中Round Trip https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=B001&n_cid=DSREA_roundtrip 

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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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ひとこと解説

「今日は民主主義の日だ」。バイデン大統領の就任演説の冒頭部分での最重要メッセージです。トランプ氏の就任演説では民主主義という言葉が一度も使われなかったのとは対照的でした。

選挙戦略上、両者のブランド戦略は、「正義をもって×よりよい復興を実現」するバイデン大統領、「強くて×本音」のトランプ氏。

提示した価値観は、前者が「正義、礼節、公平」、後者が「本音、正直、変化」。

サマーズ前財務長官は今回の選挙結果に対して右派左派共に過激派に支持が集まらなかったことを高く評価していました。

バイデン大統領には、今後、リンカーンの高潔な理想主義とルーズベルトの明確な実利主義を組み合わせる必要があると指摘されています。

2022年11月19日 6:53 』