トラス英首相、重ねた誤算と失策 大型減税策で市場混乱

トラス英首相、重ねた誤算と失策 大型減税策で市場混乱―最短在任記録残し辞任
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022102100736&g=cyr

『トラス英首相が20日、就任からわずか1カ月半で辞任を表明した。英史上最短記録となる首相在任期間と、「エリザベス女王が最後に任命した首相」という記憶だけを残して去るトラス氏は、幾つもの誤算と失策を重ねた。

首相経験者への手当辞退を 「短命」トラス氏に野党党首―英

 ◇トリプル安

 女王の葬儀が終わり、トラス政権が本格稼働を始めた9月23日、クワーテング財務相(当時)は下院で経済政策を発表した。所得税率の引き下げや法人増税の撤回などが柱で、経済成長に焦点を当てた野心的内容だ。

 減税案は突然現れたわけではない。ジョンソン前首相の後継を決める与党保守党の党首選で、トラス氏は「国民のポケットに直ちにお金を戻さなければならない」と、大型減税を公約に掲げていた。一方、対抗馬のスナク前財務相(当時)は、約40年ぶりの高水準にあるインフレの抑制こそ最優先課題で、減税は一段の物価上昇を招き、財政規律が緩むと警告していた。

 党員から支持を得たはずの減税策を発表した途端、通貨ポンドや株式、債券が一斉に売られる「トリプル安」を招いたことは、トラス氏にとって誤算だったに違いない。

だが、市場が動揺しているさなかでも、トラス氏は米CNNテレビのインタビューで「英国は先進7カ国(G7)の中で債務が最低水準の一方、税率は最高水準にある」と減税策に固執した。

 ◇小出しの撤回

 だが、経済政策への批判は、野党だけでなく与党内からも噴出する。10月2日から開かれた保守党の党大会では、有力議員らも所得税率の引き下げ案に公然と反対を表明。クワーテング氏は大会期間中の3日、大型減税策のうち所得税の最高税率引き下げ案を撤回すると表明した。

 ただ、これ以外の減税案は堅持したことなどから、市場の動揺は収まらなかった。結局、トラス氏は14日、ワシントンに出張中のクワーテング氏を急きょロンドンに呼び戻し、更迭を伝えるとともに、大型減税策を事実上撤回した。

 ◇責任転嫁

 しかし、事態収拾を目指したクワーテング氏の更迭は、逆に「自身の政策を遂行した財務相を辞めさせた」と責任転嫁の批判を浴びた。下院で19日に行われた党首討論で、野党労働党のスターマー党首は「経済の信用性はなくなり、盟友のはずの財務相もいなくなった。なぜ首相はまだここにいるのか」と退陣を迫った。

 19日に辞任したブレイバーマン内相も、辞表の中で「過ちをなかったことにして魔法のようにうまくいくと思うのは、真の政治ではない」と、失政の責任を取ろうとしない首相を暗に批判。トラス首相は党首討論で「私は戦い抜く。簡単に投げ出さない」と強気の姿勢を崩さなかったが、残されていたのは辞任の道だけだった。(ロンドン時事)』