独裁者の孤独。結局は、地位でしかない権力

独裁者の孤独。結局は、地位でしかない権力 : 机上空間
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『一度、以前の記事でも投稿しましたが、スターリンの晩年は、怯える毎日でした。もちろん、スターリンは生涯を独裁者として生きた代表的な人物ですが、それを維持する為に、政敵ばかりではなく、自分に取って代わりそうな味方からも粛清者を出しました。つまり、クレムリン宮殿の内にも外にも大勢の敵を作りました。その為、いつ暗殺されるか判らず、スターリンは、たくさんある寝室のどこで就寝するか、直前まで決めませんでした。その為、ベッドの中で自然死した朝も、なかなか起きてこないスターリンを探して、使用人が発見した時には、随分と時間が経過していたそうです。

独裁者は、彼が行った行為が歴史を作るので、そこに注目されますが、客観的に見れば、それを保証しているのは、旧ソ連時代は書記長、ロシアに代わってからは、大統領という地位です。つまり、他人に代替が不可能ではないのです。それゆえ、長期間支配する独裁者は、常に他人による権力の奪取に怯えます。

そして、ほぼプーチン大統領が独断で進めたウクライナ侵攻の戦況が不利になってくると、それを権力奪取、もしくは、権力中枢へ入り込むチャンスと捉える周辺の人間が、ざわついてきます。プーチン大統領が失策したり、軍部が醜態を晒す事を喜ぶ人間が身内にいるという事です。そして、それが判っていても、現在のロシアに、その影響力を排除する力はありません。借りられるなら猫の手でも借りたい状況だからです。

実は、フェイク動画ではないかと疑われている一つの動画が拡散しています。ベルゴロドという場所で、部分動員で集められた新兵が、ロシア政府の扱いに対して暴動を起こし、抗議をしている場面とされる様子が映っています。しかし、よく観ると、物資不足で軍服などの備品も自腹で用意しろと言われいる動員兵にしては、身につけている装備が立派です。持っている小銃も、手入れが行き届いている上に、性能の良いものです。そして、全員が顔に布を巻いて覆面にしています。果たして、この人達は、本当に動員された市民なのか? という疑惑が起きています。

そして、この動画を精査すると、気炎を上げる抗議者の中に、ドクロ・マークの腕章を着けた人物が一人だけ確認できました。この腕章は、度々、プーチン大統領の私兵部隊として知られる民間警備会社と詐称するワグナー・グループのシンボルです。つまり、直近の味方であるはずのワグナーグループの兵隊が、部分動員をかけるロシア政府に対して、抗議・暴動を起こすというフェイク動画を撮ってSNSで拡散しているという事になります。

これは、どういう事でしょう。プーチン大統領は、部分動員令を発令する時に、演説の中で、「国防省の要望により」と、責任の所在を軍部に投げています。つまり、予め市民の反発が予想される命令なので、問題が発生した時に、軍部に批判の矛先が向くように、予め逃げ道を作っています。まぁ、大統領令に署名したのがプーチン氏なので、どう言っても、批判されるのはプーチン氏ですが、一応、失敗した時に軍部を処罰する事で、自分の地位は守れます。

この構造で、「部分動員が大失敗。国民は不満に溢れている」という噂が拡散した場合、軍部の上級の役職者が処分されて、ポストが空く可能性があります。つまり、そこにワグナーグループの創設者である、 エフゲニー・プリゴジン氏がロシア政権の中枢に入り込む余地ができるという事です。

ワグナーグループは、裏仕事を依頼できるし、紛争に常に利用される事で、練度の高い軍隊を維持できているので、今でもプーチン氏個人には、高く評価されて優遇されています。しかし、それは、プーチン氏との個人的な繋がりによるもので、政府内部に確固たる地盤があるわけでは、ありません。存在を、ロシア政府の組織として盤石にするには、何らかの権力のある役職を得る必要があります。しかし、通常、裏方仕事専門の日の当たらない傭兵組織が、国防軍より優遇されるわけもないですし、いざという時、尻尾切りに使える便利な存在を、正式に国の組織として昇格させるはずもありません。

ここで、国防軍の失態を大きく宣伝する事ができれば、結果として国防関係の重要な役職が、正式に転がり込んでくる可能性があります。現に、チンピラ集団に過ぎなかったチェチェン共和国の子飼いの首長であるカディロフは、ウクライナ国内で汚い仕事を引き受けて、実行した功績をプーチン氏に認められて、正式にロシアの上級大将の地位を与えられました。通常では、考えられない事です。彼らのようなチンピラは、不都合が起きた時に、「奴らの独断でやった」として、責任転嫁ができるのが最大の利点です。決して、政府内に取り込んではいけない相手ですが、ウクライナに負け始めている今では、戦力として計算できる以上、地位を与えて活用するしか選択肢が無いのです。

恐らく、カディロフやプリコジンは、ロシア政府内に地位と立場を確保する程度の野心で、敢えてロシアの国防省の指導者を、名指しで罵ったり、ロシア国内の右翼ブロガーが喜びそうな過激な発言をしているだけですが、機会があれば、より上の地位を狙ってはいます。場合によっては、先日、逝去されたゴルバチョフ氏が、国内で起きた守旧派のクーデターによる軟禁を、エリツィン氏に救出されて、事実上の権力を失ったように、何かしらの国内の混乱を利用して、指導的な地位に昇るチャンスと考えているかも知れません。

独裁者の戴く地位・権力というのは、このように孤独です。それは、それが他人に譲渡されたり、法律により交代する事が定義されていない為、本人が望む限り、いつまでも占める事ができる故に起きる事です。それゆえ、周りを信頼できないし、周りも躊躇無く裏切るのです。』