SMBC日興、法令軽視の責任が親会社にも 金融庁処分
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『金融庁が大手証券会社の一角、SMBC日興証券に一部業務停止命令を出したのは、今回の相場操縦事件が金融の根幹である信用を揺るがしかねないと判断したためだ。株式売買の仲介と自己勘定取引を同時に担う証券会社の特権をSMBC日興は悪用していた。銀行と証券の間の情報共有を制限するファイアウオール規制にも違反していた。法令順守を軽視し続けた代償が、親会社の三井住友フィナンシャルグループ(FG)や三井住友銀行にも突きつけられた。
「極めて厳しい処分をした」。鈴木俊一金融担当相が7日夕、記者団の取材に対し相場操縦事件を犯したSMBC日興を批判した。「根本的な原因や経営上の責任を明らかにし、適切な対応を講じていただく必要がある」と述べ、経営責任にも言及した。
今回、SMBC日興は、顧客から預かった大口株式の売り注文を投資家に市場外でさばく「ブロックオファー」取引を成立させるため、人為的に価格を操作していた。金融への信用を失墜させる行為で「本来、不公正取引を防止する立場にある証券会社にあってはならない行動」(幹部)だった。
大手証券会社への業務停止命令は異例の措置といえる。2012年と19年にインサイダー取引や情報漏洩を起こした野村証券は業務改善命令止まり。06年、大和証券に一部停止命令を出したが、姫路支店1店のみ。部門や関係する業務を停止させる大がかりな命令は03年の大和証券SMBC以来のことだ。
さらに、SMBC日興証券への行政処分は三井住友FGが買収した09年以降、4度目。不正が起きた該当部署の新規業務を3カ月停止する一部業務停止命令は避けられなかった。「本来なら登録取り消し相当」という声もあり、SMBC日興は抜本的な対策を求められることになった。
三井住友FGにとっても、金融庁が今回出した行政処分は2つの意味で「イエローカード」となる。
1つは相場操縦事件に絡んで、親会社の三井住友FGに対して改善措置命令が出されたこと。「再建に対する保護者としての責任」(関係者)を課した格好で、再び不正が起きた場合、責任追及の矛先は三井住友FGに向かうことになる。
もう1つは、相場操縦とは別に証券取引等監視委員会の検査で見つかったファイアウオール規制違反だ。銀行法で禁止する優越的地位の乱用こそ認めなかったが、顧客に無断で非公開情報を共有していたと監視委が指摘した3つの案件を金融庁も追認した。三井住友FGと三井住友銀行には銀行法に基づく報告徴求命令が出された。
金融庁幹部は「類似例がないのか調べてもらう。調査手法や範囲の妥当性も検証してもらう」と語る。三井住友銀行は06年に優越的地位を乱用したとして、銀行法に基づき業務停止命令を受けたことがある。金融庁が今後、銀行法違反を検証する余地を残した意味は重い。
「主体的に検討いただくと言うことだ」。鈴木金融担当相の記者会見でも事務方の説明でも、報道陣からの質問は「経営責任の明確化」の意味に集中した。大臣の発言には突き放したようなニュアンスもにじむ。
SMBC日興はコンプライアンス部門、社員の評価体系も見直し、再発防止へ動き始めた。三井住友FG、三井住友銀行も巻き込んで実効性のある対策を求めた金融庁の要求に誰がどう応えていくのか。場当たり的な対応に終始することは、もはや許されない。
(金融エディター 玉木淳)
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