みずほ出資の裏に楽天の苦境 楽天証券に800億円検討
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『みずほフィナンシャルグループ(FG)はおよそ800億円を投じて楽天証券に2割出資する方針を固めた。資産形成層である若者に強みを持つネット証券の雄、楽天証券にメガバンクの一角が触手を伸ばした。楽天グループは携帯事業の苦戦でキャッシュの流出が続き、早期に資金調達する必要に迫られていた。
打診は7月下旬
「楽天証券への出資に興味はありませんか」。7月下旬、楽天は国内の金融機関にこう打診した。声をかけられたのは三菱UFJFG、大和証券グループ本社、そしてみずほだった。
ネット証券の強化が課題の三菱UFJは51%以上の出資が難しいとみるや早々に見送った。すでにKDDIと共同出資のauカブコム証券を展開し、主導権を握れない少額出資は魅力的でないと判断した。
大和証券は対面営業を軸に置き、自前で店舗網を拡充している。もともと興味を示す可能性は低かったが、楽天の主幹事証券を務めるなど親密な関係にあるため、声をかけないわけにはいかなかったようだ。
みずほ内でも議論は割れていたようだ。「ネット証券は手数料が低く採算がとりにくい。本当にシナジーがあるのか」「PayPay証券を共同設立したソフトバンクとは次世代金融の戦略提携を結んでいる。裏切りと思われないか」。慎重論が出るのも当然だった。
楽天証券の2021年12月期の純利益は90億円、持ち分法投資利益として取り込めるのはその2割。今回の800億円の出資を全体の企業価値に引き直すと4000億円で楽天証券を評価したことになり、業界から「割高」との声も上がる。
「10年先への投資」
楽天の電子商取引(EC)を中心とした経済圏のなかでポイントなどのお得感を得られるところに楽天証券の大きな価値はある。まずは楽天証券の顧客にみずほの対面コンサルティングサービスを提供したり、みずほ証券の引き受ける株式や債券を楽天証券に販売委託するなどの連携から手を組む見通しだが、これだけでは相乗効果は十分とは言えない。
「10年先への投資だな」(みずほ首脳)。それでもみずほは出資に傾いた。6月に三井住友FGがSBIホールディングス(HD)への1割出資を発表した際、みずほはSBI証券を取り込むチャンスを失った。楽天から持ちかけられた出資話に「乗った」のは、他社に押さえられる前に将来の潜在力に賭けるべきだと考えたためでもある。
携帯事業が財務圧迫
そもそもの発火点は、楽天の携帯事業の不振にあった。基地局などの設備投資が財務にのしかかり、楽天の22年1~6月期の最終損益は1766億円の赤字(前年同期は770億円の赤字)となった。携帯事業の営業損失(2593億円)が好調なネット通販「楽天市場」などの利益を食い潰す状態が続く。
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は「投資は今後どんどん減る。収益は改善していく」と説明する。ただ、市場は性急に成果を求めがちだ。
格付け大手のS&Pグローバルは9月、楽天の長期発行体格付けを引き下げ方向の「クレジット・ウオッチ」に指定。21年7月には楽天の格付けを「投機的水準」となる「ダブルBプラス」に下げた。年内に資金調達ができないと判断すれば格付けをさらに1段階下げる可能性があった。
楽天は金融子会社の2社を上場させる方針を掲げている。楽天銀行は上場を申請し、東証が審査を続けている。楽天証券の親会社である楽天証券HDは正式な申請前の段階だ。年内の資金調達は不透明だった。みずほが出資するおよそ800億円は、いったん楽天証券HDに入るが、上場前に配当で楽天本体に融通されるとの見方がある。
出資が伝わった5日夜の時間外取引では楽天株が急騰し、6日は一時前日比9%高となった。しかし、両者の提携が歓迎されたというよりも、楽天の財務改善期待が高まった面が強い。打診からわずか2カ月余りでの電撃出資が吉と出るか凶と出るか。成功が約束されているわけではない。
(山下晃、五艘志織、西城彰子)
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