揺れる州に地殻変動 米南部の知事選「2年後」映す
アメリカン・デモクラシー 中間選挙まで50日④
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『6日、米南部ジョージア州バルドスタ。「私にはやり残したことがある。4年前はあと少しだった。今回はゴールするために力を貸してほしい」。州最南端の町にある公園で、民主党の知事選候補ステイシー・エイブラムス氏が訴えると、聴衆は歓声で応えた。
州下院議員を務めたエイブラムス氏は2018年に初の黒人女性知事をめざしたが、共和党の現職ブライアン・ケンプ氏に1.4ポイントの僅差で敗れた。22年11月の選挙は4年前の再戦となる。
民主、ジョージアで雪辱期す
集会に参加した地元住民のスティーブ・トンプソンさんは共和党打倒に力を込める。「トランプ(前大統領)によって共和党は極右に振れた。民主主義が脅かされている」。4年前の雪辱へ、バルドスタの民主党支部も勢いづく。
11月の中間選挙は各州の知事選も大きな焦点になる。連邦制の米国でそれぞれの知事は強い権限を持ち、国政にも影響力を及ぼす。州全体で勝敗を争うため、選挙結果はその州の政治情勢を如実に映し出す。
ジョージアは近年、共和党が強い「赤い州(同党のシンボルカラー)」だった。しかし20年の大統領選で民主党が28年ぶりに優勢を奪い返した。いまや選挙のたびに勝敗が変わる「スイングステート(揺れる州)」となり、全米が視線を注ぐ。
人口構成が変化
人口動態の変化が背景にある。米ピュー・リサーチ・センターによると、2000年からの20年間で有権者に占める黒人の比率は33%と5ポイント上昇した。半面、白人は58%で11ポイント下げた。民主党支持者が多い黒人の有権者を動員し、バイデン政権誕生の立役者として名をあげたのがエイブラムス氏だった。
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対する共和党の構図は複雑だ。
トランプ氏はジョージア州の投票結果を覆すよう迫ったが、同じ共和党のケンプ氏は突っぱねた。今回の中間選挙に向けた予備選でも両者は対立する。トランプ氏は刺客候補を立てたが、ケンプ氏はペンス前副大統領ら党主流派の支持を受けて本選に駒を進めた。
トランプ氏と距離を置くケンプ知事はペンス前副大統領㊧ら主流派の支持を得た=ロイター
足並みの乱れはあるものの、世論調査の平均支持率はケンプ氏が民主党のエイブラムス氏を6ポイント前後上回る。共和党支持者で自身もジョージア州の上院議員選に出馬しているショーン・スティル氏は「争点は経済、経済、経済だ」と話す。高インフレが進むなか、共和党は経済政策を前面に民主党に対抗する。
フロリダは共和優勢に
風向きは一つではない。赤色に染まりつつある揺れる州がある。ジョージア州の南隣に位置するフロリダ州だ。共和党支持者の有権者登録は20年時点で民主党を10万人下回っていたが、22年7月末には逆に23万人上回った。
変化を象徴するのが、共和党のデサンティス知事だ。歯にきぬ着せぬ物言いで知られ、いまや全米の共和党支持者の間でトランプ氏に次ぐ人気を誇る。11月の知事選で再選を果たせば、24年の大統領選に出馬を表明するとの観測が絶えない。
「この小さな妖精を(首都ワシントンの)ポトマック川に放り投げないといけない」。22年8月下旬には、新型コロナウイルス対策で厳しい行動規制を主張したファウチ大統領首席医療顧問を批判した。「フロリダを自由に」を標榜し、マスク着用の義務化を禁じるなど経済活動を重視する姿勢を貫いてきた。
フロリダ州のデサンティス知事はコロナ下でも厳しい規制に反対し、好調な経済を維持した=AP
共和党の元州下院議員で選挙コンサルタントのジム・カリンジャー氏は指摘する。「過去2年でニューヨークやイリノイ、カリフォルニアから多くの人が(厳しい行動規制などを取り入れた民主党の知事を嫌って)フロリダに移り住んだ」。追い風が吹く共和党にとって「フロリダはもはや赤い州だ」と力説する。
民主党の危機感は強い。「フロリダが揺れる州であり続けるのか、赤い州になるのか。今回の選挙にかかっている」。デサンティス氏と競う同党の知事選候補、チャーリー・クリスト氏の陣営は中間層も含めて支持の取り込みに躍起だ。
フロリダやジョージアなど南部の揺れる州はいずれも人口が多く、それだけ2年後の大統領選挙でも重要な役割を果たす。南部各州の政治情勢が一変すれば、オセロゲームのようにその余波は全米に広がりかねない。11月の選挙結果は超大国の未来を映す鏡となる。
(ジョージア州バルドスタで、鳳山太成)
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