数字を整えればいい・・・ロシアの部分動員で見られる共産国の悪弊 : 机上空間
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『ロシアは、その前の旧ソ連時代には、割と真面目に計画経済を実行していた為、何事にも「数字を整える」という悪弊が、ついてまわっています。今の中国の感染症対策などにも見られる事ですが、とにかく指示が上意下達で、掲げられた目標は、どんな負の影響が出ようとも達成するという、実に非合理的な事が、良く行われます。その根源には、「何があろうとも、失敗を認めない」というエリートで国を回す共産国家独特の宗教じみた特性があります。
また、社会の体制も、「とにかく上に指示された事を、完全に達成できれば、評価が上がる」という官僚社会なので、下手に合理的な事をして、成果を上げるよりも、どうせ、どんな結果が出ても結果を引き受けるのは上だし、それも「大成功」と評価するのは、やる前から判っているので、何も考えずに従うのが賢い処世術になります。
この社会体制は、今もロシアに根付いているので、ウクライナ侵攻の戦況悪化で始まった、国民の部分動員でも大混乱が起きています。国家が動員をかける時、それは崩壊とバーターになりやすい事は、歴史が証明しています。本来、国家間の戦争には、それなりにルールがあり、もともとは、騎士とか兵士などの専業の役割で、一般の市民には関係の無い事でした。戦争で決まった結果には、従う必要があるので、影響は受けますが、そもそも参加する資格が無かったのです。つまり、占領地の市民を襲う事は、野盗のやる事で、兵士として恥ずべきことという不文律があったのです。まぁ、すぐに、これは崩れますけどね。
第一次次世界大戦で、ドイツ帝国が破れて、天文学的な賠償金を要求されますが、戦争末期に国内で内乱が起きて、帝政が崩れ、ワイマール共和国が誕生したのも、戦況の悪化で国家総動員令をかけた事が、一つの要因です。また、同じ大戦でロシア帝国が崩壊し、ロマノフ王朝が消滅したのも、必勝を賭けて参戦当初から国家総動員令をかけて、同じスラブ民族のセルビアの援助にかけつけた結果です。
結局のところ、国家総動員令をかけると、産業の中核を成す、働き盛りの年齢層が、ごっそり抜かれるので、兵隊の数は増えますが、その国の生産力や産業構造は弱体化します。なので、短期で決着をつけないと、物資不足や食料不足、インフレで、国内の不満が高まり、必ず革命に結びつくのです。ここでの革命は、3食満足に食っている奴が、思想に被れて太鼓叩いて喚いているような、「なんちゃって革命」ではなく、自分の家族の未来と生存を賭けた、ガチンコの革命です。早期決着を目指して、初動から国家総動員令をかけたロシア帝国は、その後4年もの間、ヨーロッパで戦う事になり、国家が疲弊して、結局は革命に倒れる事になりました。
そして、レーニンによるソ連が誕生するのですが、巨大な官僚国家になったので、何をするにも計画・数字・目標が至上の価値を持つようになります。そして、ありがちですが、対外的な評価を上げる為に、そのどれもが、現実を無視して捏造されたり、達成する為に、負担を全て国民に押し付けたり、とにかく上っ面の体裁を整える為に行政が動くようになります。「無理です。できません」は、人事評価を下げるので、国民から餓死者を出しても、ノルマとして与えられた収穫や生産量を確保しようとします。その収奪は苛烈で、来年の種籾さえ持ち去り、来年は今年よりも多くの収穫を求められるという、無理ゲーが横行していました。
その時代に染み付いた官僚の仕組みは、今も生きていて、今回の部分動員令にも、色濃く出ています。部分動員というだけあって、持病持ち、学生、兵役未経験者は対象外のはずなのですが、そんな事はお構い無しに招集令状(赤紙)が届いています。その理由は、政府の発表とは別に、自治体に対して、ノルマとして、「必ず〇〇人集めろ」という政府の都合による指示が出ているからです。その為、数を整える事を優先して、本来は招集されるはずの無い人にも、バンバンと召集令状を発行しています。
出頭を拒否すると、10年の懲役刑になるし、刑務所へ送られる代わりに、戦場へ無理矢理に送られる可能性もあるので、話と違っていようと召集令状に逆らう事はできません。まぁ、発行する側からしたら、「話が違う」という事でも、知ったことでは無いわけです。彼らの役割は、ノルマの達成であって、手段なんか選んでいられるかというのが、現場の立場です。
ただし、現場が暴走していようと、混乱していようと、部分的総動員令にサインをしたのは、プーチン大統領なので、怒りの矛先は、全て彼に向きます。これが、国家総動員令の後に革命が起きやすい理由です。もちろん、今の盤石なプーチン政権が、直ぐに倒れる事はありませんが、数年後に歴史を振り返ると、「考えてみると、あの部分動員令が、プーチン政権崩壊の引き金だった」と語られる可能性はあります。今のロシアは、プーチンに逆らう可能性があると、立候補自体が無効になったりするので、実質的に政権側はイエスマンばかりです。なので、自然に倒れる事は、あり得ません。それこそ、偽左翼の皆さんが大好きな、「革命」でも起こさないと無理です。
プーチン政権が盤石なのは、単に制度の捻じ曲げに留まらず、都合の悪い人間が、なぜか良いタイミングで「事故死」する事にもあります。ウクライナ侵攻が始まってから、資産凍結をくらって不満を持っていたオリガルヒ(経済貴族)のロシア人が、7人以上も事故死しています。公式の記録は、事故死ですが、あからさまに暗殺を匂わす事で、生きている他のオリガルヒに脅しをかけています。捜査するのが体制側なので、どんなに不自然でも、必ず「事故死」になります。
共産国特有の、「真実より広告」、「現実より数字」、「事実より書類」という身に染み付いた体制が、結果的に国民を不幸にします。後は、これに、どれだけ国民が耐えられるかで、その国の命運が決まります。』