米軍、東欧へ最大8500人派遣準備 NATO軍に参加

米軍、東欧へ最大8500人派遣準備 NATO軍に参加
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2503E0V20C22A1000000/

『【ワシントン=坂口幸裕】米国防総省のカービー報道官は24日の記者会見で、緊迫するウクライナ情勢をめぐり、同国周辺の東欧地域に最大8500人規模の米軍を派遣する準備に入ったと明らかにした。ロシアによるウクライナ侵攻に備え、北大西洋条約機構(NATO)が出動を決断すれば即応部隊に加わる。

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カービー氏は「米国や同盟国、パートナーを損なうロシアの行動に対し、国益を守るため断固として行動する」と述べた。NATOの即応部隊は米国を含む加盟国による4万人ほどの多国籍軍で構成すると説明した。バイデン大統領の指示を受け、オースティン国防長官はすでに派遣準備命令を発令した。

NATOが派遣する東欧諸国の対象としては、ウクライナと国境を接するポーランドやルーマニアなどが想定される。米メディアによると、ロシアや隣国ベラルーシに隣接するエストニア、ラトビア、リトアニアに送る案もある。

ロシア軍はウクライナとの国境付近に加え、2月に予定する軍事演習のため隣国ベラルーシにも展開している。米欧はロシアがウクライナ北方からの侵攻を探っている可能性があると警戒。候補となる東欧諸国はいずれもNATO加盟国で、カービー氏はNATOに加盟していないウクライナへの軍派遣を否定した。

バイデン氏は2021年12月、ロシアがウクライナに侵攻した場合でも同国に米軍を派遣することに否定的な考えを示した。ウクライナに米軍を駐留させることに慎重かと問われ「それはテーブルの上にない」と明言。NATO非加盟のウクライナには「(条約に基づく防衛)義務がおよばない」と語っている。

ホワイトハウスのサキ大統領報道官は24日の記者会見で「ロシアによるウクライナへの侵攻前に東側諸国に追加支援する選択肢を排除していない。侵攻が前提条件だと言ったことはない」と述べた。対ロシアへの抑止力を強化するため、侵攻に先だってNATO軍を派遣する可能性に言及した。

NATOは24日、東欧地域に加盟国の艦船や航空機などを増派すると発表した。NATOのストルテンベルグ事務総長は声明で「(欧州)東部地域の強化を含め、すべての同盟国を防衛するために必要なあらゆる措置をとり続ける」と記した。

フランスはルーマニアに部隊を派遣する用意があると表明した。オランダはブルガリアに戦闘機を送り、デンマークはフリゲート艦をバルト海に派遣することを決めた。

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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分析・考察

米国にとっては今後、中ロ両国に対抗していく上で、欧州の同盟国であるNATO加盟国との緊密な信頼関係を維持する必要があります。

歴史的経緯と地理的な近さからロシアへの深刻な脅威感を持つポーランド、ルーマニア、バルト諸国へのリアシュアランス(安心供与)のためにNATOへの米軍の関与は重要です。
それによりロシアとの緊張を高めるリスクよりも、同盟国との緊密な関係を維持しロシアの軍事力行使のハードルを上げるほうが優先です。

これは日本にとっても重要です。例えば、バルト諸国のリトアニアは米国との関係を優先して、中国からの報復を覚悟してまで台湾との関係を深め、ロシアの脅威に対抗しようとしているからです。

2022年1月25日 8:33 (2022年1月25日 8:34更新)

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岩間陽子
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
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分析・考察

ウクライナを巡ってロシアと戦うというオプションは、バイデン政権は最初から排除していますし、12万余のロシア軍に実戦で退治するなら8500人では足りません。

これは、周辺のNATO諸国に対する保証(リアシュアランス)であるとペンタゴンのカービー報道官もはっきり言っています。

英仏独などもそれぞれに対策を発表しつつあります。同時に、危機の際に通常戦力を急速に増派するには、様々な困難があることも事実で、日本周辺の危機のシナリオも今一度検討する必要があるでしょう。

2022年1月25日 9:07 (2022年1月25日 9:12更新)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

ロシアによるウクライナ国境近くへの分厚い部隊配備が続いており、合同軍事演習を予定するベラルーシを経由しての北方からのキエフ急襲作戦の可能性も意識される。

これに対し、米欧がうつことのできる手は限られる。ウクライナはNATO非加盟で、米国の同盟国でもないため、米軍などを直接派遣して防衛する義務はない。

仮にウクライナ政府と合意して、ロシアが動く前にウクライナ国内に米軍を急派すると、ロシアとの外交解決の道が閉ざされる上に、ロシアに開戦の口実を与えることにもなってしまう。

ポーランドやルーマニアなど周辺国にNATOが軍を派遣しても、けん制効果は限られる。主導権は依然ロシアにあり、緊迫した状況が続きやすい。

2022年1月25日 7:54 』