空回りした結束の誓い 米バイデン政権1年

空回りした結束の誓い 米バイデン政権1年
内憂外患、実績示せず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN18DHL0Y2A110C2000000/

『1年前、暴動の直後で厳戒態勢が敷かれた米連邦議会議事堂前の就任式で、バイデン米大統領が全霊をささげると誓ったのは「国民と米国の結束」だった。トランプ時代の大混乱を収束し、新型コロナウイルスの傷痕や国際社会での米国の地位低下を修復してくれる……。そんな米国民の期待は、失望へと変わりつつある。

空回りした結束の誓い。バイデン氏の就任1年は、この一言に凝縮される。実績がなかったわけではない。就任早々に地球温暖化防止の枠組み「パリ協定」に復帰し、最悪だった米欧関係の修復に着手した。対中国をにらみ、日本やインド、オーストラリアとの4カ国による「クアッド」や英国、豪州との「AUKUS」の協力体制も整えた。新型コロナのワクチン接種、大型の現金給付策など、出足はまずまずだった。

暗転の始まりは2021年8月、アフガニスタンからの米軍撤収でみせた混乱だった。米軍の戦争関与をやめる姿勢は世論の支持を得ても、イスラム主義勢力タリバンにあっさり虚を突かれ、米国のもろさ、バイデン氏のリーダーとしての弱さを印象づけた。ここから政権支持率の低下に拍車がかかった。新型コロナの感染の再拡大、そして市民生活を直撃するインフレと、内憂外患が続いた。

政権1年を振り返りバイデン氏からにじみ出てくるのは「言葉の軽さ」だ。経済政策の目玉と位置付けた気候変動対策や子育て支援など10年間で200兆円規模の大型歳出・歳入法案は、野党・共和党との対立以前に、身内の民主党中道派議員の抵抗でなお立ち往生している。

トランプ前大統領の影響力は根強く、共和党支持者の大勢はバイデン氏を正統な大統領としてなお認めていない。マスクやワクチンなどのコロナ対策にせよ、移民政策や脱炭素のエネルギー政策にせよ、将来の米国を左右するテーマで深刻な分断が続き、バイデン氏の言葉は米国の「半分」にしか届かない。

そんな状況に大統領自身がしびれを切らし、国の結束という初志の貫徹にさじを投げたような印象すらある。

今年1月6日、連邦議会占拠事件から1年の演説で、バイデン氏は「米国の喉元、つまり米国の民主主義に短剣を突きつけた」と、選挙不正の訴えを続けるトランプ氏とその側近への痛烈な批判を立て続けに並べたてた。意見が異なる勢力はますます疎外感と反発を抱き、分断は修復どころか深まりつつある。

社会の傷をいかに癒やすのか、反対する人々にいかに粘り強く向き合うか。20年の大統領選挙で票を投じた数多くの有権者のバイデン氏に抱いた期待はそこにあったはずだ。だが、いまや「Buyer’s Remorse(買った人の後悔)」といわれる、無党派層のバイデン離れが広がっている。

今年11月の中間選挙ではバイデン氏の民主党が苦戦を強いられるとの予想が支配的だ。共和党もこのまま「トランプ党」の路線を突き進むかどうかを自問しており、流れはむろん変わりうるが、力強い挽回の材料がいまは見当たらない。

79歳と高齢のバイデン大統領の任期はあと3年もある。国をまとめる強いリーダーとして再出発を期す覚悟と行動がこの段階で示せなければ、米国、そして世界は長い混迷と停滞の局面に陥りかねない。

(ワシントン支局長 菅野幹雄)』