米海軍長官が提唱したインド洋担当の第1艦隊構想、実際には司令部設置のみ?(2020.11.19)

 ※ 各艦隊の管轄領域を示す図。

『米海軍は中国に対抗するため47年前に廃止した第1艦隊の復活を検討中だと報じられている。

参考:The Navy Wants To Stand Up A New Fleet Aimed At Deterring China In The Indian Ocean
参考:US Navy Secretary Proposes New Indo-Pacific Fleet

海軍長官が提案する第1艦隊の設置は実質的に政治的・外交的な意味合いしかもっていない
日本の横須賀に司令部がある米海軍の第7艦隊は日付変更線からインド洋までの広大な海域を管轄しており、中国の海洋進出に伴い第7艦隊の重要性は高まり続けている。この負担を軽減するため米海軍の潜水艦リーグ(※)年次総会に出席したブレイスウェイト海軍長官は17日、47年前に廃止した第1艦隊の再設置に言及した。

※補足:米海軍潜水艦リーグとは主に潜水艦勤務経験をもつ者で構成され「潜水艦の重要性」と訴える非営利組織

ブレイスウェイト海軍長官はインド洋を管轄する新しい司令部の設置を検討中で、この組織を「第1艦隊」と指定することを考えているらしい。

本当にインド洋を管轄する第1艦隊が設置されるのかは謎だが、この案の検討は数ヶ月前から始まっており、先週にトランプ大統領によって解雇されたエスパー元国防長官とブレイスウェイト海軍長官は第1艦隊設置について話し合っていたと報じられている。

出典:public domain 米海軍の各艦隊担当地域

ただ第1艦隊が再設置されてもブレイスウェイト海軍長官が言及したような「第7艦隊の負担軽減」に繋がるかは謎だ。

多くの軍事アナリストは第1艦隊を設置するなら担当地域のインド洋に近いシンガポールかオーストラリアになるだろうと予想したが、新たな艦隊に艦艇を割く余裕は現在の米海軍にはないので第1艦隊はインド洋を管轄する司令部機能のみになるだろうと言っており、海洋安全保障の専門家でインド太平洋問題に詳しいブレイク・ヘルジンガー氏は海軍長官の提案について「行き当たりばったりで協調性のない現政権に第1艦隊を実現させるだけの力はない」と指摘している。

ヘルジンガー氏は「行き当たりばったりで協調性のない現政権の残り寿命は2ヶ月しかないのに、このような爆弾(=中国を標的にしたという意味)を投下したところで関係国が公に賛同することはない」と指摘した。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Nathan Burke/Released

ただし次期大統領のバイデン氏が国防長官に任命すると噂されているミシェル・フロノイ氏(元国防次官)は中国海軍に対する強行姿勢を支持しているため、もしかしたら第1艦隊設置は次期政権で実現するかもしれないが、どちらしても米海軍には艦艇の余裕がないので第1艦隊は第7艦隊のように固有の戦力をもった組織ではなく、アラビア海を担当する第5艦隊や西太平洋からインド洋を担当する第7艦隊から移動してきた空母打撃群がインド洋で活動する際に運用計画や運用指示を引き継ぐ組織になる可能性が高いので、第1艦隊が設置されても第7艦隊の負担軽減=第7艦隊司令部の負担軽減と覚えておく必要がある。
つまり第1艦隊設置といえば聞こえは良いが、実質的な固有戦力をもった艦隊の増強ではないので今回の海軍長官のアクションは政治的・外交的意味合いが強いと見るべきだろう。』