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『暮れも押し迫った2020年12月30日のブリュッセル。欧州委員長のウルズラ・フォンデアライエンは19年7月の委員長選出時とよく似た白のブラウス、ジャケット姿でカメラの放列の前に現れた。マスクを外してペンを握った先に置かれたのは、英国との決別のための合意文書。「勝負服」をまとったフォンデアライエンは、晴れやかな表情で迷いなく署名した。
【前回記事】
スコットランド、くすぶる「英からの独立」
「欧州連合(EU)と英国の関係に新たな章を開く」。署名式後のEU…
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・署名式後のEUの声明文には前向きな文言が躍った。だが、フォンデアライエンはツイッターで「長い道のりだった。ブレグジットから離れる時だ」とぽつり。やっと前向きな仕事に集中できるという本音をにじませた。
・英国なきEUはどう変わるのか。ヒントは署名式と同じ日に開かれたEU・中国の首脳会談にある。この日、6年以上交渉が続いてきた投資協定で大筋合意に達した。中国市場を開いて技術の強制移転などを防ぎたいEUと、米欧の間にくさびを打ち込みたい中国が歩み寄った。
EU・中国の首脳会談にはメルケル独首相、マクロン仏大統領も参加した=ロイター
・合意の立役者は20年後半にEU議長国だったドイツだ。「ドイツエンジン」(政治専門サイトのポリティコ)とも呼ばれる独首相のアンゲラ・メルケル、フォンデアライエン、EU貿易総局長のザビーネ・ワイアントのドイツ人女性3人が中国の人権侵害などを問題視する加盟国を説き伏せ合意に持ち込んだ。
・中国との首脳会談にはフランス大統領のエマニュエル・マクロンも参加して合意にお墨付きを与えた。英国の離脱でEU内で群を抜く大国となった独仏が手を取り合い欧州統合をけん引する。そんな未来像が浮かぶ。
・欧州統合に慎重で米国との関係を優先する英国が抜ければ、EUは統合強化に動きやすくなる。ただ、独仏主導は手放しで歓迎されているわけではない。
・EU・中国の首脳会議の直後、イタリアなどで「なぜマクロン氏が参加したのか」と反発が広がった。議長国ドイツはともかく、ほかの加盟国と同列のはずのフランスを優遇することは理屈が立たないというわけだ。安全保障で米国に強く依存するポーランドなども統合の速度などを巡り独仏と温度差がある。
・「英国の存在は加盟国の立場の違いを隠していた。英国が去った今、その違いが明るみに出るだろう」。残された27の加盟国の足並みは果たしてそろうのか。1月にEU議長国となったポルトガル首相アントニオ・コスタの予言は暗い。(敬称略)
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