〈回顧2020〉異例ずくめの大統領選
郵便投票最多 敗北認めず
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『2020年の米大統領選は新型コロナウイルスの感染拡大で異例ずくめの展開をたどった。選挙活動はインターネットが主軸となり、郵便投票は過去最多となった。トランプ大統領は慣例だった敗北宣言をせず、政権移行に向けた作業に混乱が生じた。
新型コロナの感染が広がる前の20年初めの米国は大型減税や規制緩和を通じて戦後最長の好景気を謳歌し、失業率も歴史的な低水準にあった。トランプ大統領の陣営や共和党には楽観論すら…
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・「再選に過剰な自信があった」(共和党のスコット・ウォーカー元ウィスコンシン州知事)
・その状況を新型コロナが一変した。トランプ氏が頼みとした経済は大打撃を受けた。黒人差別を巡る人種問題も重なり、米国を覆った未曽有の危機は民主党支持者を中心に「反トランプ」のうねりを招いた。
トランプ氏は繰り返し大統領選の不正を訴えた(11月13日、ホワイトハウス)=AP
・大統領選は投票率が66%超と120年ぶりの高さとなったことを反映し、トランプ氏、民主党のバイデン前副大統領とも過去最多の票を得た。フロリダ大の研究者のサイトによると、新型コロナで利用しやすくなった郵便投票は6500万人以上が利用し、過去最多となった。
・敗北を認めないトランプ氏は選挙結果を覆そうと不正投票などを理由に訴訟を乱発した。NBCニュースによると、少なくとも57件の訴訟が提起されたが、大半は根拠に乏しく、結果を変えるには至らなかった。
・今回の選挙で選挙地図は大きく塗り替わった。伝統的に共和党の地盤のはずだった南部ジョージア、西部アリゾナ両州でバイデン氏が勝利した。
・中南米(ヒスパニック)系の増加による相対的な白人の存在感低下、東部ニューヨーク州や西部カリフォルニア州などからのリベラルな有権者の移住–。トランプ氏が敗れたジョージア、アリゾナでは有権者の構造変化が起きていた。
・共和党にとっては、中長期的には人口動態の変動という大きなハードルがある。米国勢調査局の予測では45年に白人は米国の人口の5割を切る。アメリカン大学のデビッド・バーカー教授は「共和党は移民に厳しい政策などを抜本的に見直さなければ、党勢の立て直しはとてもおぼつかない」とみる。白人を支持基盤とする共和党は今後選挙戦略の見直しを迫られそうだ。
・バイデン氏は16年に民主党が敗れたラストベルト(さびた工業地帯)の一角にある東部ペンシルベニア、中西部ウィスコンシン、同ミシガンの3州を取り戻した。雇用創出を軸に中間層の復活を訴え、白人労働者層の支持を奪還したことが奏功した。一方、事前にバイデン氏が優位だった南部フロリダ州はトランプ氏が制した。
・バイデン氏は民主党候補を絞り込む予備選では急進左派のサンダース上院議員に大苦戦を余儀なくされ、撤退寸前まで追い込まれた。急進左派は400人に及ぶ人選リストをまとめ、閣僚をはじめ政権の枢要ポストに採用するよう圧力をかけている。左派の存在が政権運営に影響を及ぼすのは確実だ。バイデン氏は米国の分断に加えて民主党内の分断にも立ち向かわなければならない。(ワシントン=永沢毅)
政権移行も混乱
・トランプ米大統領は大統領選から3週間近くにわたり、政権移行業務を認めなかった。移行をめぐる異例の混乱はバイデン次期大統領の新型コロナウイルス対策や安全保障政策の立案の遅れにつながりかねない。
・「国の最善のためだ」。トランプ氏は11月23日、ツイッターでこう指摘し、政権移行業務を各省庁にようやく認めた。これにより、バイデン氏は11月30日に世界の安保情勢について機密情報を含む大統領報告を初めて受けた。政権移行チームは連邦資金を使ったり、各省庁の幹部と面会し課題を協議したりできるようになった。
・長期にわたる移行への協力拒否は異例だ。オバマ前大統領の首席補佐官を務めたデニス・マクドノー氏は11月の米シンクタンクのイベントで、「オバマ氏は2008年の大統領選の2日後には安保をめぐる大統領報告を受けていた」と明らかにした。大統領選直後に開かれた金融危機への対処を議論する緊急首脳会合には、オバマ氏は「特使」として、クリントン政権時代に国務長官を務めたオルブライト氏を派遣した。当時のブッシュ政権(第43代)の協力も得て、オルブライト氏は各国首脳や代表団から情報収集した。
・今回混乱のしわ寄せが懸念されるのがコロナ対策だ。バイデン氏は政権移行期にコロナ抑止に向けた行動計画をつくり、21年1月の大統領就任と同時に実行に移すと表明していた。11月中旬には感染拡大で「より多くの人が死ぬかもしれない」と強調、トランプ氏に警鐘を鳴らす場面もあった。
・もう一つの懸念が安保政策だ。トランプ政権がアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンと結んだ和平合意では、駐留米軍が21年春に完全撤収する計画だ。アフガンでは治安悪化が続き、バイデン氏は計画を実行に移すか判断を迫られる。アジアで軍拡を進める中国への対応も喫緊の課題だ。
・トランプ氏は任期切れを見込み、駆け込みで政策を進める。11月にはトランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めた元側近のマイケル・フリン氏を恩赦した。「米国第一」の外交方針に従って、アフガンとイラク駐留米軍の削減を決めた。
・ポンペオ国務長官も11月、歴代国務長官で初めてイスラエルが占領するヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を訪れた。トランプ政権は歴代政権と異なり、入植活動を認める立場を取っており、政策転換を既成事実化する思惑が透ける。(ワシントン=中村亮)
▼米大統領選選挙人
・米大統領選は、憲法が定めた「選挙人制度」という仕組みで実施する。形式的には、まず有権者が各州で正副大統領候補各党の選挙人を選び、さらに選挙人が大統領を選ぶ間接選挙となる。総得票数が多い候補ではなく、全米の選挙人538人の過半数270人以上を獲得した大統領候補が当選する。
・各州の選挙人数は人口に応じて割り当てられており、大半の州は州法で1票でも多くの票を得た候補がその州の選挙人を全て獲得すると定めている。このため、民主、共和両党の勢力が拮抗している「激戦州」のうち選挙人数が多い州で勝つことが重要になる。
・各州で勝利した候補の選挙人は12月の第2水曜日後の翌月曜日(2020年は12月14日)に集まって投票し、結果を上院などに送付する。党の候補に投票しない造反者が出ることもある。翌年1月6日に上下両院合同会議で選挙人数を集計し、正式に大統領を選出する。