[FT]米新政権、命運握る政策は

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『多様性の尊重と、黒人や女性などの権利を代弁するアイデンティティー政治には微妙な違いがある。実際は明確に区別すべきだ。バイデン次期米大統領はその難しさに気付きつつある。

バイデン氏は多様性を重視して閣僚らを指名しているが、左派は満足していない=ロイター

バイデン氏は史上最も多様性に富む政権を作ると公言し、この数週間、主要閣僚らの人選を進めてきた。左派は満足していない。

危険なのはバイデン氏が左派の際限のない要求に応えようとし始めることだ。民主党内の急進左派との衝突は避けられそうにない。共和党は上院の過半数を占めるとみられる。バイデン氏が重要法案を通すには、数少ない穏健派の共和党議員と手を結び、サンダース氏やウォーレン氏ら急進派の上院議員が渋々追随するのを願うしかない。

両党間で細かく利害調整して成立した法律など、彼らは評価しないだろう。バイデン氏には大統領令の活用という手もある。しかし連邦最高裁判所の判事は9人中6人が保守派で、温暖化ガスの排出削減など同氏の取り組みに違憲判決を下す可能性が十分ある。

急進左派のいら立ちは募る一方だ。バイデン氏は彼らをなだめるため、マイノリティー問題を取り上げざるを得なくなるかもしれない。積極的差別是正措置の拡大や、教育現場での心と体の性が一致しないトランスジェンダーへの差別禁止指針の復活などだ。だがそれは明らかに政治上、得策ではない。確かにバイデン氏は大統領選挙の得票数がトランプ大統領を700万票上回った。ところが民主党は下院で10議席減らし、州議会選では党勢を全く拡大できなかった。つまりバイデン氏は勝ったが、党としては負けたのだ。

大量の非白人票がトランプ氏に

ここに興味深い事実がある。カリフォルニア州ではバイデン氏の得票が多かったものの、積極的差別是正措置の実施を可能にするかを問う住民投票は否決された。他方、トランプ氏が選挙戦を制したフロリダ州では、最低賃金を時給15ドル(約1550円)へ引き上げる住民投票が大差で可決された。これらの結果は、民主党がマイノリティー問題より国民全体に関わる経済問題に力を入れるべきだと教えている。

民主党は大量の非白人票がトランプ氏に流れたことも忘れてはならない。ヒスパニック系とアジア系ではそれぞれ約3分の1が、アフリカ系の男性ではほぼ2割がトランプ氏に投票した。トランプ氏は臆面もなく人種差別的な言動を4年間繰り返したのに、非白人層の得票率を伸ばした。民主党はどこかに問題がある。

民主党が人種差別反対を掲げるだけでは白人以外の多くの有権者は満足しないのは明白だ。「(黒人の多い)シカゴ南部の住民は白人労働者層と同じぐらい民主党に冷ややかだ」とあるアフリカ系民主党員は話す。しかもバイデン氏は労働者階級の家庭で育った経歴を持ちながら、高卒以下の白人有権者の支持を大きく伸ばせなかった。

民主党にしてみれば、労働者階級の貧困問題に対処するより彼らを人種差別主義者だと切り捨てる方が簡単かもしれない。重要なのは共和党が非白人層を取り込むより早く、民主党が白人労働者階級の支持を取り戻せるかどうかだ。新政権と民主党の命運はそこにかかっているだろう。

By Edward Luce

(2020年12月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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