https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM087540Y0A201C2000000

『【北京=羽田野主、多部田俊輔】中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が2020年を期限とする「貧困ゼロ」目標が達成されたと宣言した。「1億人近い貧困人口が貧困からの脱却を実現した」と誇るが、中央や地方政府が下位の行政区分である貧しい県に巨額の資金を投融資し、それを原資とする補助金が配られた影響も大きい。県の負債は膨らんでおり、持続できるかどうかが課題になりそうだ。
「いまの基準で貧困の県がなくなり、絶対的な貧困が解消した」。3日に開いた共産党最高指導部の政治局常務委員による会議で、習氏は言明した。中国国営の新華社が伝えた。
中国政府の定める貧困の目安は20年時点で平均収入が年4000元(約6万4000円)。中国政府は中央分だけで16~20年に計5305億元以上の資金を投じて貧困脱却を支援した。
とくに貧困層の多い雲南省や新疆ウイグル自治区、四川省などに大量の資金を投入した。貧困地域の山間部の農民らの集団移住などを促してきた。
なりふり構わぬ脱貧困対策でひずみも生まれている。中国内陸部、重慶市にある最貧困地域の城口県は汪時翠さんに民宿事業をするように勧めた。以前は世帯年収でみても1万元ほどしかなかった。家屋を民宿向けに建て替えるため10万元を支給し、教育や医療、住宅なども手厚く支援した。汪さんの世帯年収は10万元に増えた。
ところが肝心の民宿事業はふるわない。宿泊客の1人当たりの消費は100元程度にすぎず、客足もまばらだ。汪さんの生活は各種の支援金で支えられているのが実情だ。城口県の貧困対策事業の資金の9割は重慶市が補填しており、いつまで続くのか見通せない。自立した経済にはほど遠い。
中国メディアは7月、貴州省の山間部の貧困地域、独山県の負債が400億元に達したと伝えた。独山県は中央政府の予算のほか、正規の銀行以外の「影の銀行(シャドーバンキング)」の融資、ほかの民間資金などを利用し、高さ約100㍍の少数民族風の巨大な建物や北京の故宮を模した施設などの建設を推し進めていた。
独山県の歳入は例年、10億元以下だ。負債はその40倍以上になる。毎年の利息の支払いだけで歳入を上回る可能性が指摘される。貧困問題に詳しい中国メディア関係者は「貧困地域の農産物を市場よりはるかに高い値段で買い入れ、住民の収入をかさ上げしていた自治体もあった」と話す。
中国の貧困基準が国際的な基準を下回っているという指摘もある。世界銀行は一日1.9㌦以下で暮らす層を「貧困」と定めている。年間に直して日本円に換算すると7万2000円以下で、中国の基準とは約1万円の開きがある。
習指導部は21年7月の党創立100周年の節目に向け、「脱貧困」を党の功績として強調する。習氏の政治的遺産(レガシー)として位置づける構えだ。
習近平(シー・ジンピン)指導部内での温度差もある。ナンバー2の李克強(リー・クォーチャン)首相は5月「月収1000元の人がまだ6億人いる」と主張し、国の内外で波紋を広げた。北京市で低所得者の相談を受ける弁護士は「郊外にいけば月収1000元以下で生活する人は珍しくない。都市部は物価が高く、貧困基準を上回っても生活がかなり厳しいケースはある」と説明する。』