貧困国の9割、来年接種できず ワクチン格差広がる

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS075V60X01C20A2000000

『【バンコク=岸本まりみ】米政府が11日、新型コロナウイルスのワクチンを初めて承認し、近く接種が始まる。先進国が多くのワクチンを先行確保するなか、資金力で劣る貧困国は国民の9割が来年接種を受けられないとの調査もある。接種が進まなければ経済回復でも後れをとりかねず、国際社会にとってワクチンをどう公平に分配するかが課題となる。

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英国に続いて米で接種が始まることで、感染収束に期待がかかる。日本で接種が認められるのは来春以降になりそうだ。

だが新興国はワクチンを十分確保できていない。

「ワクチンの80%を富裕国がすでに調達している」。フィリピンで新型コロナウイルス対策の責任者を務めるカリート・ガルベス氏は3日、危機感をあらわにした。

国際非政府組織オックスファムは「世界人口の14%にすぎない富裕国が主要なワクチン候補の53%を買い占めている」と指摘する。貧困・新興国の67カ国で来年ワクチンを接種できるのは10人に1人にとどまるという。

主要国などのワクチン確保数_ncb
新興国は資金調達にもがく。フィリピン政府はワクチン購入資金として732億ペソ(約1600億円)をアジア開発銀行などから借り入れる方針を示した。アフリカ連合も11月、ワクチン取得タスクチームを設立し資金調達を急ぐ。感染拡大で債務が膨らむなか、財源確保は容易でない。南アフリカのラマポーザ大統領は「すべての国が公平にワクチンにアクセスできるようにすべきだ」と資金支援を訴えた。

治験への協力で確保を図る国もある。累計感染者数で世界3位のブラジルは英アストラゼネカなどの治験に参加。2021年1~2月にも同社製ワクチンが到着する予定で、21年中に最大3億回分の接種が可能になるという。米ファイザーのワクチンも7千万回分を購入できる見通し。

メキシコも治験を通じたワクチン確保に期待をかける。米ジョンソン・エンド・ジョンソンや中国のカンシノ・バイオロジクスなど7種類について臨床試験が実施される予定だ。

新興国は世界人口の8割以上を占める。検査が不十分で統計以上に感染がまん延している恐れもあり、ワクチンの確保は急務だ。世界保健機関(WHO)などは「COVAX(コバックス)」と呼ぶワクチン購入の国際枠組みを立ち上げ、公平な分配を急ぐ。

ただ最大のワクチン予約国である米国は自国への供給を優先し、同枠組みに参加していない。コバックスは製薬会社への前払いでワクチン確保を急ぐが、米デューク大によれば確保できたのは7億回分で、富裕国の予約分の2割にとどまる。

配送にも課題が残る。開発中のワクチンの多くは超低温で保管する必要があり、低温物流網が整っていない地域では輸送が難しい。インドのモディ首相は「設備増強について州政府と連携していく」と言及した。

新型コロナのワクチンは超低温で保管する必要がある(4日、ドイツの保管施設)=ロイター
中国やロシアは「ワクチン外交」で新興国での影響力を増す。中国政府は7月、中南米カリブ諸国のワクチン調達資金として10億ドル(約1050億円)を融資する方針を示した。10月にはマレーシアとワクチンの優先供給に向けた協定を締結した。ロシアも中南米や中東、アフリカなどでのワクチン供与を表明した。

「ワクチンの公平な分配がパンデミック(世界的大流行)を終わらせ、世界の復興を早める」。11月にサウジアラビアで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議で、テドロスWHO事務局長は新興国への配慮を訴えた。』