建設業界に近づくドコモを直撃

建設業界に近づくドコモを直撃、現場は5Gとクラウドの使い道が多い宝島か
川又 英紀 日経クロステック/日経アーキテクチュア
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00933/081800049/ 

※ いよいよ5Gが、実用化されてきたか…。あのイラストにあった、「絵に描いた餅」「夢のような話し」は、現実化して行くことになるのか…。その片鱗は、見えて来た感じだな…。

『現場における人の生産性向上に主眼を置いたデジタル変革を、両社で一緒に進めるのもユニークだ。デジタル技術を活用した「デジタル朝礼」「デジタルKY(危険予知)」「工程進捗共有」「AI(人工知能)エージェント」「マストタスク管理」「パーソナル(健康)管理」などに、20年度内に順次着手する。

関連記事:ドコモと竹中工務店が建設DXで協業、デジタル朝礼やマストタスク管理を現場導入へ

 ここ2カ月ほどのドコモの活発な動きには、布石があった。6月30日、ドコモは同社のネットワークと接続したクラウド上の設備を使えるサービス「ドコモオープンイノベーションクラウド」のオプション群を発表。端末とクラウド設備を結び、5G(第5世代移動通信システム)による低遅延で安全性が高い通信を提供する「クラウドダイレクト」を東京都、大阪府、神奈川県、大分県で開始した。

 クラウドダイレクトの中身を見てみると、建設業界をターゲットにしたものが多く含まれることが分かる。AR(拡張現実)対応のスマートグラスやVR(仮想現実)ゴーグルを用いた現場作業の支援、建築物の点群データ利用、MR(複合現実)を使った建築鉄骨の検査などである。

「クラウドダイレクト」で提供する主なサービス。建設業界向けのソリューションを多く取りそろえた(資料:NTTドコモ、6月30日時点)
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ARスマートグラスを使い、遠隔から現場担当者をサポートするソリューション「AceReal for docomo」。パートナー企業であるサン電子と共同で提供する(資料:NTTドコモ)

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関連記事:5GとARスマートグラスを活用した遠隔作業支援ソリューション
 これらのサービスはいずれも、先述したドコモオープンイノベーションクラウドの基盤上で提供する。

「ドコモオープンイノベーションクラウド」の全体像(資料:NTTドコモ)
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 ドコモは8月4日に、XR(VRやAR、MRの総称)を使ったサービスの企画・開発をする新会社「複合現実製作所(東京・港)」も設立している。この会社はパートナー企業である宮村鉄工(高知県香美市)と共同開発している、XRを利用した建築鉄骨業向けの作業支援ソリューション「L’OCZHIT(ロクジット)」の提供を最初に手掛ける。そしてドコモオープンイノベーションクラウドとの連携を視野に入れているという。

XRを使った鉄骨の生産管理や検査をするサービス「L’OCZHIT」の利用場面(資料:NTTドコモ)
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 建設業界向けサービスのリリースが続く中、私が一番気になったのは点群データの活用サービス「Field Simulator(フィールドシミュレーター)」である。最近、点群の取材が多かった私にとって、通信会社のドコモが点群ビジネスに乗り出したのは少々意外だった。

関連記事:点群で建築の進捗と出来形を管理、竹中工務店が探る「原寸」データの使い道と人材像
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ドコモは6月末から、点群データ活用ソリューション「Field Simulator」の提供を開始した(資料:NTTドコモ)
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ドコモが点群ビジネスに乗り出した真の理由
 「なぜドコモが点群サービスを扱うのか?」

 それを確かめるため、私はドコモでField Simulatorを担当する5G・IoTビジネス部ソーシャルイノベーション推進・先進ソリューション第一担当主査の菅野崇亮氏に会いに行った。

 Field Simulatorは点群データの取得から、3次元モデルの生成、そして活用まで、トータルで支援するのが最大の特徴である。点群ビジネスで実績があるエリジオン(浜松市)と組み、同社の点群処理ソフト「InfiPoints(インフィポインツ)」とドコモオープンイノベーションクラウドを組み合わせて、一気通貫のサービスを提供する。InfiPointsは国内で利用実績が多いソフトだ。

点群データ活用のトータルサービス「Field Simulator」の利用場面例(資料:NTTドコモ)
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 ドコモは主にクラウド設備を提供するわけだが、菅野氏によれば、「当社のクラウドと5Gの使い道を探るため、様々なクライアントにヒアリングをする中で、点群活用の話題が出てきたことに着目した」と明かす。そして法人向け5G適用サービスの先行案件の1つに選んだ。

 点群データは3Dレーザースキャナーなどを使って、空間全体を点の集合体として計測し、描写するものだ。1つの点には3次元座標と色の情報が含まれ、それを数万件、数億件と取得して空間を把握する。これからは新規物件の開発よりも改修・解体プロジェクトが増えていくのは確実なので、既存の建物の正確な計測や解体前のデータ保存に点群は欠かせなくなる。

 そんな点群はまさに、ビッグデータの塊だ。3Dレーザースキャナーでデータを取得したはいいが、それらを合成して立体モデルを作成するには、データ量が膨大なのでハイスペックなコンピューターが必要になる。点群データをネットワークで送信するときは、相当太い回線が必要だ。

 ここにドコモは目を付けた。現場で取得した点群データは3Dレーザースキャナーの機器内に保存するのではなく、5G回線で随時ドコモのクラウドに送ってもらう。大容量データの通信が求められる現場の1つが、点群の利用シーンだったわけだ。

 クラウド側には、InfiPointsが持つ点群の処理機能を用意する。ドコモのクラウド上で点群データを合成できれば、現場に点群データを処理するためのハイエンドパソコンを用意する必要がなくなる。

 もっとも、ドコモの想定通りに、建設会社などが点群サービスを利用したがるかはまだ分からない。Field Simulatorは6月30日にサービスの提供を開始したばかりで、8月中旬時点で正式契約に至った商談はまだない。

 それでも私にとって興味深かったのは、「現場で点群データを取得する作業を代行してほしいという依頼が複数寄せられた」(菅野氏)ということだ。3Dレーザースキャナーは高価なうえ、点群データの取得にはかなりのノウハウが要る。現場を回って漏れなくデータを集めるのは手間もかかる。そこでトータルサービスを提供するドコモに「データ取得作業をまずお願いしたい」というニーズが顕在化した。点群データの合成以前のフェーズにこそ、ビジネスチャンスがありそうだ。

 データ取得代行は、ドコモにとって決してもうかる商売ではないだろう。それでも、点群に関心を示す企業のデータ取得をサポートできれば、「入り口」を押さえられる。後工程である点群データの合成や活用につなげられる可能性が高まる。クラウドや5Gを有効活用できる場面が増えてくるはずである。

 しかも点群データだけでなく、図面データも大容量なことが多く、5Gは建設現場の仕事に親和性が高いといえる。完成した建物全体のセンシングデータをリアルタイムで収集するのにも向く。ドコモに限らず、通信会社と建設会社の関わりは今まで以上に密接になるのは間違いない。点群サービスは顧客開拓の「きっかけの1つ」と見ておくのがいいのかもしれない。』