https://diamond.jp/articles/-/241962
『では、なぜこうなってしまうのかというと、まず「コスパ」の問題がある。中小企業は体力的に、そこまで設備投資ができない。国がテレワーク導入に補助金を出してくれるといってもたかが知れているので、これまで通りに出社して、リアルの会議をして、紙の書類にハンコをつくやり取りを続けていた方が、会社としては懐が痛まない。つまり、現状維持の方が「安上がり」で済むのだ。
それに加えて、最も大きな障壁は「小さな会社になればなるほど、そこまでIT化の必要に迫られていない」という点である。
先ほど日本企業の99.7%は中小企業だと述べたが、実は日本の場合、その中でもとりわけ多いのが「小規模企業」だ。421万ある日本企業の87%、366.6万社を占めているこの「小規模企業」は、「製造業・その他」の場合は従業員20人以下、「商業・サービ業」では従業員5人以下と定義されている。
では、これくらいの規模の会社に「脱ハンコ」「リモートワーク」というものが、そこまで切実に必要とされているのかを考えていただきたい。
もちろん、あればあったでかなり便利だろう。社員は喜ぶ。しかし、なければないで、別にそこまで業務に差し障りはないのではないか。』
『社員が20人以下の会社ならば、承認や決済をもらう相手もたかが知れている。下手をすれば、ハンコをもらう上司は隣の席に座っていることもあるだろうし、パソコンのネットワーク上でやって、これまで通り紙を打ち出してハンコをもらっても、業務面ではそこまで劇的に効率化しないだろう。
何か事を進めるために組織内を駆けずり回って、いくつもハンコをもらわないといけない巨大組織の場合、ハンコ業務をなくすことで劇的に業務効率が改善されるが、アットホームな小さな組織の場合、そこまで目に見えて大きな効果はない。そのため、小さな会社の経営者たちは、「わざわざそこまでやらなくてもいいだろう」と、社員たちに従来のハンコ業務を惰性で続けさせてしまうのである。
つまり、この「小さな会社になればなるほど、そこまでIT化の必要に迫られていない」というのが、脱ハンコの最大の障壁なのだ。』
『日本企業の99.7%にあたる419.8万社で働いている約2784万人の労働者にとって、「脱ハンコ」というのは、一部の大企業や意識高い系の企業が始めた最先端の取り組みであって、自分たちのワーキングスタイルとあまり関係のない、別世界の話だということがわかっていただけるだろう。
それはつまり、この問題に関してハンコ業界やはんこ議連、ハンコ出社を強いる上司を憎々しげにディスることは、ほとんど意味がないということだ。「印章文化を守れ」とか、「日本の社畜文化が悪い」とか、そうした類の話でもない。
言ってしまえば、この問題の根っこは「産業構造」にある。「小さな会社が異常なほど多い」という日本特有のバランスの悪い産業構造を変えないことには、どんなに使い勝手のいい電子印鑑や電子承認システムができようが、政府が補助金をバラまこうが、「脱ハンコ」は進まないのだ。』
『社会として50年近く「変えよう、変えよう」と呼びかけても、結局変えることができなかったということは、シンプルに日本人の大多数が「脱ハンコ」にメリットを感じていなかったからだ。
では、なぜ感じなかったのか。実は日本の中小企業は、高度経済成長期から爆発的に数が増えた。それは言い換えれば、「脱ハンコ」に切り替えることにそこまでメリットを感じない組織が、日本社会に一気に広まったということでもある。この日本の産業構造が「ハンコ」という古い商習慣を「現状維持」でビタッと定着させた可能性はないだろうか。
そうだとすると、日本の「脱ハンコ」の道のりはまだまだ長い。』
『これまで述べたように、日本企業の99.7%という圧倒的多数を占める人々にとって、電子承認や電子印鑑は導入した途端にチャリンチャリンとカネを生むほど、魅力的な設備投資ではない。「あったらあったでいいけれど、なくても別に困らねえや」というくらいだ。終了したポイント還元のように、「脱ハンコにしたら○%還元」といった明確な「得」がない限り、日本企業の大多数を占める小さな会社が自発的に「脱ハンコ」に向けて動き出すとは考えにくい。』
『実は「脱ハンコ」とまったく同じで、戦後、定期的にやめようと政官民で呼びかけても、一向にやめられないものがもう1つある。それは「満員電車」だ。
高度経済成長期の満員電車は阿鼻叫喚の地獄で、子どもが「圧死」するという痛ましい悲劇も起きた。そのたびに政府や国鉄が「ズレ勤」を呼びかけても、現在に至るまで満員電車は解消されていない。足元でもコロナの外出自粛を経て、すっかり平常運転に戻っている。
満員電車の問題で、定時出社を求める企業や満員電車に揺られるサラリーマンを攻撃したところで、解決できないということは言うまでもない。』
『「脱ハンコ」を推進したい方たちも、ハンコ業界やハンコ議連、ハンコ好きのおじさんたちなど、思想の異なる人々を攻撃してこの問題を解決しようとするのではなく、日本特有の産業構造にも着目して、ぜひ建設的な議論をしていただきたい。
(ノンフィクションライター 窪田順生)』
※ 相当に説得力のある論だと思う…。
そして、そこを「票田」にしている自民党の強さの源泉でも、ありそうだ…。
野党というのは、煎じ詰めれば、「労働組合」連合と言える…。
与党vs.野党の争いは、「小規模零細企業」vs.「労働組合連合」の戦い…、とも言えそうだ…。そして、そのどちらからも「組織化」されていない層が、「浮動票」となっている…。そういう構造のようだ…。
おそらく、日本だけの話しではなく、各国に共通する話しなんだろう…。トランプvs.バイデンの戦いなんかにも、ある程度は適用できそうな構図だ…。
独の政治状況、仏の政治状況はどうなのか…。
はたまた、中ロの「民主主義」とは言えない国家の政治状況は、どうなのか…。それを分析しようとする場合の、「視点」「軸」は、抽出できるものなのか…。
そういうことを、絶えず考えていかないとな…。