「P5」にすがるプーチン氏 ロシアの苦境映す

※ 今日は、こんなところで…。

「P5」にすがるプーチン氏 ロシアの苦境映す
編集委員 坂井光
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60622080S0A620C2I00000/ 

『ロシアのプーチン大統領が6月中旬、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国による首脳会議(サミット)を提案した。同氏がこのサミットを呼びかけるのは初めてではない。背景には国際社会におけるロシアの苦境が読み取れる。

第2次世界大戦の戦勝国のうち、米英仏中ロの5カ国からなる常任理事国(Permanent members)は「P5」と呼ばれる。安保理決議での拒否権を持ち、核保有も認められた特別な存在だ。

プーチン氏は米誌ナショナル・インタレスト(電子版)に18日付で掲載された論文で、P5サミットを呼びかけた。論文では国連の重要性を強調し、特別な地位を保持する5カ国こそが世界情勢を正常化させる責任があると主張した。』
『強気なプーチン氏が新たな枠組みを提唱する背景には、袋小路に入って久しいロシア外交を打開したいとの思いがありそうだ。

2014年のウクライナ領クリミア半島併合でロシアはG8から排除された。それでも核軍縮では米国と対等な立場で話ができると考えていた。しかしトランプ政権は中国にこだわった。ロシアは西側との関係改善のきっかけがないまま、経済制裁を科され続けている。』
『中国とは1996年に戦略的パートナーシップを表明し、関係を強化してきた。しかし国力の差は開く一方だ。米中新冷戦がささやかれるなかで、このままでは中国陣営に取り込まれてしまう。なんとかロシアを含む多極的な世界を構築できないか。そんな狙いが根底にありそうだ。』
『プーチン氏は、軍事的に他国に依存せず、自立した国が「真の主権国家」という世界観を持つとされる。北方領土交渉で米国による核の傘の下にいる日本を批判したのもその考えからだ。

そんな同氏にとってP5こそが世界をけん引すべきだという思いがある。しかも居心地がいいことにP5では米国や中国と立場は対等だ。』
『とはいえ、実現性は高くないだろう。プーチン提案に明確に拒否した首脳はいないが、開催に向けた動きはみられない。特にトランプ大統領は今年議長を務めるG7サミットにロシアや韓国などを招待する一方、中国を排除するなど別の枠組みを模索している。

東大先端科学技術研究センターの小泉悠・特任助教は指摘する。「プーチン氏の念頭にある国際秩序は、ソ連が大国だった冷戦時の国連を中心とするもの。一方、トランプ氏がめざすのは新たな時代の秩序づくり」。立場の違いは拭えない。』
『プーチン氏にとって、P5サミットが立ち消えになれば国際社会での存在感が一段と低下するリスクをはらむ。にもかかわらず、こだわるのは達成せねばならない外交課題があるからだ。

国際問題の専門家ウラジミル・フロロフ氏はロシア誌で「(P5サミットの)目的はプーチン氏が成し遂げた地政学的な成果を国際的に認めてもらうことだ」と指摘した。

具体的にはウクライナを含む旧ソ連圏での優先的な立場のほか、シリアをはじめとする中東での主導的な役割などで理解を得ること。それに並行して経済制裁を緩和してもらい、低迷する国内経済をてこ入れしたいというわけだ。』
『ロシアでは7月1日、憲法改正の是非を問う投票が実施される。承認されるのは確実で、プーチン氏は任期が切れる24年以降も大統領にとどまることが可能になる。

事実上2000年からトップに君臨する同氏が、ソ連時代のスターリンの29年に迫る長期政権を実現するにはフロロフ氏がいう成果を国民に示す必要がある。

逆にいえば、それが無理なら求心力は低下しかねない。それでなくとも人気の陰りが鮮明になっている。プーチン氏が最も心配するのは、自分というタガが外れたら、ロシアが再び混乱するということだろう。

ロシアは岐路を迎えている――。プーチン氏はそれを嗅ぎとっているのかもしれない。』