中国の四面来油の策(その1)

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それで、中国がマラッカ海峡封鎖の事態に対抗する策が、「四面来油」戦略だ。

すなわち、ロシア方面、中央アジア方面、パキスタン方面、ミャンマー方面の四方面から、陸路にパイプラインを敷設してエネルギー資源(石油・ガス)を運搬するという戦略だ。

まず、ロシア方面から見ておこう。年代が入ってないんで、完成したのかどうかまでは、分からない。

しかし、こういう構想の下、敷設しようとしてるのが見て取れれば、充分だ。

※ 年号が入ってる図を見つけたんで、貼っておく。2016年には、ほぼ完成する見通しだったようだな…。

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中国の昨年(※ 2012年)の石油消費量は、1日当たり975万8000バレルとなった。

 中国国家情報センターのエネルギー問題専門家、牛犁(ニウ・リー)氏は「先進国の人口は約10億人で、100年間をかけ世界の60%のエネルギーを使用し工業化を実現した。現在、発展途上国の人口はより多く、各国が工業化を目指している。今後エネルギー価格の高騰が必然的であり、中国の受ける影響が特に深刻だ。中国国内の石油供給を確保するため、中国国内の石油会社による海外との提携を推進すると同時に、経済構造のモデルチェンジとアップグレードも必要となる。また、適度な価格調整により資源を合理的に配分し、節約に努めるべきだ」と指摘した。』とか言ってるが、説得力は全く無いな。そういう話しを、世界が黙って受け入れるのか…、ってことだ。

中国は、石油ガブ飲み国家になってしまっている…。そして、石油を死に物狂いで掻き集めにかかっている…。そうして、周辺国家と様々な摩擦を引き起こしてる…、という話しだ。中国の平和的台頭なんてのは、嘘っぱちもいいとこだ

次は、中央アジア方面

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中央アジアのトルクメニスタンから、ウイグル自治区のウルムチまで運ぼうという構想だ。これも、完成済みなのかどうかまでは、この図からは分からんな。

次は、いよいよインド洋に面している二港からの輸送ルートだ。

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まず、グワダル港からのパキスタン・ルート

初めに、地形図を見ておこう。

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インダス川流域にできた国家なんで、パキスタン国内は平地で、敷設工事も容易いと言える。

しかし、中国との国境付近は、山地(山越え)なんで、難工事が予想される。

衛星写真も、見ておこう。

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ルートは、こんな感じ。

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「鉄道」とあるのは、これは単なる「パイプライン」の敷設工事ではなく、「中パ経済回廊」(CPEC)と称される一大プロジェクトだからだ。

「港湾」も整備するし、「高速道路」も建設するし、「発電所」も建設するし、「高層ビル」も建設する…、っていうものだ。

工事の写真を、見ておこう。

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港湾工事のようだ…。

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同じく、港湾近くの工事…。

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トンネル工事も、やってるようだ…。

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何かの高架工事のようだ。高さの割に、細いんで、危なっかしいな…。地震なんか、大丈夫なのか…。

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お得意の道路工事のようだ。いよいよ、山越えか…。

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発電所の、建設計画だ。Coal mining/power plantが、「火力発電所」(6カ所)。Hydroが、「水力発電所」(2カ所)。Solarが、「太陽光発電」(1カ所)。Windが、「風力発電所」(2カ所)のことだろう。

火力発電所なんか、6個も建設する計画だ…。資金は、大丈夫なのか…。

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太陽光パネルの設置工事のようだ…。ヘルメットも被らず、サンダル履きで、しかもヒラヒラした衣服で、作業着も着ないでやっている…。明らかに、そこら辺のパキスタンの役人にやらせた、中国国内メディア向けのヤラセ写真臭いな…。

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高層ビルも建ててるようだ…。場所がどこかまでは、分からない…。

こういうパキスタン国内のインフラ(箱物)建設だけでなく、中国側からは軍事的な支援も提供されている。パキスタン軍の訓練の請け負い、武器の提供、果ては空軍の訓練や航空機の提供まで行っているようだ…。

そういう風な、総合的な支援なんだよ。

まあ、パキスタンとすれば、国内に中国へのエネルギー資源を運搬するパイプラインを通したところで、通過料を取るくらいのもんで、財政的にそれほどメリットのある話しじゃない…。

逆に、中国からすれば、マラッカ封鎖に備える国の死活の問題だ…。どんな犠牲を払ってでも、通したいところだろう…。

それで、軍事支援のようすを示す写真を、貼っておく…。

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こんな風にグワダル港からのパキスタン・ルートでエネルギー資源を確保すべく、中国としてはパキスタンの国を丸ごと飲み込むような総合的な支援を行ってる訳だよ。

それで、投下した資本が徐々にでもうまいこと回収されれば、メデタシメデタシなんだが、そうもいかないようだ…。

http://www.ide.go.jp/library/Japanese/Publish/Download/PolicyBrief/Ajiken/pdf/114.pdf

ここら辺に、その分析の一つが載っている。さわりを抜粋しておく。

『最も懸念されるのが、debt-trap diplomacy とも呼ばれる債務の罠に陥る危険性である。CPEC の融資の不透明さは以前より指摘されており、外部専門家による客観的な分析を困難なものとしている。

CPEC は、中国政府からの融資、無償援助、そして官民連携による民間投資等から構成されているが、パキスタンの対外債務増加による返済負担増は必至である。

債務返済能力の低さ故に、パキスタンはこれまでに幾度となく債務危機を迎え、IMF による救済が行われてきた過去がある。

実際に著者が2013 年に行ったインタビューでパキスタン経済省高官は、「中国の融資の金利は高い」と漏らしており、借金の返済困難からスリランカのようなケース(※
ハンバントタ港の運営会社株式の99年間のリース契約など)が起こりうる可能性が危惧される。』

それで、パキスタンのそもそもの貿易構造なんかについて、ちょっと調べてみた。

基礎的なデータについては、ここら辺にある。

http://ecodb.net/country/PK/trade/

大ざっぱに言えば、輸出できる品目が、綿花・綿製品、皮革製品くらいしかなく、エネルギー資源(石油、ガスなど)や化学製品、機械製品なんかは内製できずに輸入に頼り、恒常的に貿易赤字(経常収支の赤字)に陥ってる…、ということのようだ。

最近の経常収支の推移と、経常収支(対GDP比)の推移を貼っておく。

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2008年の急激な落ち込みは、リーマン・ショックのせいだろう(その前の、2004年頃から徐々に落ち込み始めているのは、気になるところだが…)。

それが、2010年頃に、やっとプラスマイナス0付近まで回復したが、近年また落ち込んでいる…。ダダ下がり傾向なのが、気になるところだ…。

経常収支(対GDP比)のほうも、見ておこう。

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前に言ったように、GDPってのは、一国の国民が生み出す付加価値の総体を示す一指標だから、経常収支がそれを下回るってことは、生み出してる付加価値以上に貿易と資本の収支の赤字が増えてるってことだ。

つまり、それだけ債務の返済が困難になってるってことになる…。こっちも、2016年、2017年、2018年と悪化してきてるのが気になる(破線になってるのは、発表するのを止めたか、集計中ってことだろう)。

それで、パキスタン政府の採った策の一つが、これだ。

『【パキスタン】中央銀行が貿易決済通貨に人民元を公式採用』

https://www.cnn.co.jp/business/35112825.html

つまり、ドルやユーロの基軸通貨は、もはや自力では調達できないから、そういう通貨で貿易決済するのは、もうあきらめました…。今後は、「人民元」でのみ支払うことに致します、って話しだ。

こうなると、アメリカやEU(もちろん、日本も)は、パキスタンに輸出することをためらう(人民元もらって、どうすんだ? 前にも言ったように、せいぜい安物の雑貨・化学肥料まみれの農産物・中国人労働者への賃金くらいしか、使い道はないぞ)。ますます、中国経済に飲み込まれる、って話しだ。

それと、オレが気になるのは、このパイプライン計画が、災害への備えをあまり考えていない節がある点だ…。

パキスタンって、災害の少ない国なのか…。大体、敷設してるパイプラインなんて、地表に剥き出しで、日本人から見れば、ただ置いてあるだけに等しいように見えるぞ。

こんな感じだ。

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爆撃されたら、イチコロだ。国家の命運が掛かってるにしては、お粗末だ…。

パキスタンは、インダス川流域の国だから地震は起きないようだが、中国との国境地帯は山地だ。地震だって起きるだろう。ネパール大地震の記憶は新しいし、日本においても日高山脈付近で震度7の地震が起きた。山地ってのは、地中の地殻活動が地表に及ぼしたヒダやシワみたいなものだから、その近辺では必ず地震が起きると見ておいたほうがいい。そういう配慮がなされ、対策が打たれているのか…。上記で見た、高架工事なんか見ると、そういうことが考えられているようには、見えんな…。

実際、2010年には大洪水が起こって、相当な被害が出たようだ…。

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インダス川が氾濫して、流域一帯に大洪水が起こったんだろう。

そうなると、上記パイプラインが乗っかってる下の土が流出したりしないのか…。あちこちでそういうことが生じれば、どう補修するのか…。パキスタン側でやるのか、中国人民解放軍でも送りこむのか…。

それから、ここいら辺では、山火事災害が発生するらしい…。

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山火事での炎に覆われても、パイプラインは大丈夫なのか…。

2018年4月30日の日付が入ってるがな…。

まあまあ、着想は分かるが、前途多難だな…、ってのが率直な感想だ。

中国は、これに620億ドル(1ドル100円で計算して、6兆2000億円くらい)もつぎ込んでる。

http://japanese.china.org.cn/business/txt/2017-04/18/content_40641971.htm

果たして、回収できるのやら…。

またどっかの領土の運営権を、抵当(かた)に取り上げるのやら…。

いずれ、行く末に注目だ…。

それと、パキスタンが中国に傾斜する危険性を重々承知の上で、中国との関係強化に舵を切ってるには、訳がある。

それは、インドとの軍事的な対立だ。

国家の存続におけるプライオリティーは、安全保障>軍事>経済活動>文化活動…の順だ。

パキスタンは、インドから激しく圧迫されている。

まず、人口がパキスタンが1億8千万に対し、インドが13億だ。

それから、宗教がパキスタンがイスラムに対し、インドがヒンドゥーだ。

ことごとく、対立してるんだよ。

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ちなみに、インドもパキスタンも、核保有国だ(ここら辺でも、見とけ。https://ja.wikipedia.org/wiki/核保有国の一覧 )

こういう、物騒なものも、パキスタン国内にはある…。

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だから、国と国どうしの協力は、どうしても軍事絡みにならざるを得ない…。どんなに、「経済協力」を唄っていてもだ…。

港湾の使用権を認めるということは、軍艦の寄港・いざという時の配備を認めるってことだ…。

そうなると、他国はそのことを前提に、自国の安全保障策を構築せざるを得なくなるんだよ…。

「平和が好き。戦争には、反対です。イージス・アショアは要りません。」(共産党○支部前の看板)とか言ってみたところで、何の役にも立たないんだよ。「お前ら、現実を見ろよ。北朝鮮のミサイルが飛んできたら、どーすんだ?
中共のミサイルが飛んできたら、どーすんだ? (ロシアも、北方領土にミサイル配備をするらしいぞ)」って話しだ。できる限りのことをやって、少しでも抑止力を高め、敵の攻撃への防御力を高め、子や孫の生き残りを図って行くって話しだろ?
そういう極々当たり前の議論が、なされないのは、どーなってんだ?

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中パ経済回廊で検索してヒットした画像だ。おそらくグワダル港に停泊する、どっかの国(パキスタン海軍か、と思うがな)の軍艦だ。ミサイル巡洋艦とか、ヘリ搭載型の駆逐艦とか、潜水艦とかが見受けられる。

こういうものを繰り出して、米の「空母打撃軍」を脅かそうという策だろう。

それをまた、米の軍事偵察衛星なんか(あるいは、民間の衛星か)が、撮影したものだろう…。

こういう風に、平時から、おさおさ情報収集に抜かりはないように、熾烈な争いを繰り広げているんだよ。

“中国の四面来油の策(その1)”. への1件のコメント

  1. 中国の投資戦略に、陰りが生じているようだ…(その1) – ジジイがあれこれ考えた

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