「Z世代」を定義したのは誰か 世代とITの深い関係
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC274GS0X21C21A2000000/
『「Z世代に人気の商品」「Z世代で大流行」など、Z世代を売り文句にした広告や記事をよく目にする。筆者は一般にはZ世代に分類されるが、自覚もなければ、Z世代の定義もよく分からない。
最近ではZ世代の次の「α(アルファ)世代」も誕生しているというし、このままでは世代の進化に置いていかれてしまう。早速、世代・トレンド評論家の牛窪恵氏に取材を申し込み、世代について解説してもらった。
――本日は「世代」について詳しく教えてください。
「はい、よろしくお願いします。何でも聞いてください」
牛窪恵(うしくぼ・めぐみ)氏
1968年東京生まれ。91年日本大学芸術学部・映画学科(脚本)卒。大手出版社に勤務したのち、2001年にマーケティングを中心に行うインフィニティ(東京・豊島)を設立、同代表取締役。19年立教大学大学院で経営学修士号(MBA)取得。世代・トレンド評論家のほか、マーケティングライター、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授などマルチな肩書を持ち、官公庁の審議会などの委員も多数務める。著書やテレビ出演を通じ、「おひとりさま」「草食系(男子)」などの言葉を世に広めた。
――まず知りたいのは世代の区切りです。世代にはバブル、団塊ジュニア、ミレニアル、ゆとり、Z世代などありますが、世代の明確な区切りはあるのでしょうか?
「私が代表を務めるインフィニティでは、多くを5年区切りで世代分けしています。有名なのは、団塊、バブル、団塊ジュニア世代ですが、シンクタンクなどによるもっと数多くの世代区分が存在します」
「団塊ジュニアまでは、ある程度共通認識があるのですが、それ以降は調査会社などによって見解にずれが見られます。弊社は40代後半以降を団塊ジュニア、ロスジェネ、草食系、ゆとり、Z世代の順番に区切っています」
主な世代区分
「最近の脳科学などの研究からも、人間の価値観は17~23歳の頃の時代や経験から影響を受けやすいとされています。各世代が17~23歳だったときのはやりや流行語を見てみましょう」
「例えば、真性バブル世代が17~23歳だった1986~90年には『3高』『アッシー・メッシー』『ワンレンボディコン』などが流行しました。ゆとり世代なら2013~19年に『一億総活躍』『ブラック企業』『インスタ映え』などがはやりましたね。これだけでも青春時代をどのような時代背景の中で過ごしたかがよく分かります」
「海外では、ロスジェネと団塊ジュニア世代がジェネレーションX、草食系とゆとり世代ぐらいがミレニアル世代、あるいはジェネレーションYと呼ばれています」
世代とIT普及の関係
――年齢を区切るきっかけは何でしょうか? 例えば、ゆとり世代は1988~94年生まれ、Z世代は1995~2004年生まれですね。
「価値観の変化ですね。世代論は、各世代の何が価値観に関係しているかを調査します。今までは、景気・経済や社会現象による影響が大きいと思われていましたが、最近の研究では人生のどの段階でデジタル技術に触れたかが価値観に大きく影響することが分かってきました」
「デジタル技術への接触時期や頻度は、コミュニケーションや情報収集の仕方、感性などに影響を及ぼします。そのため、世代を語る上でIT(情報技術)の普及度合いが重要な役割を果たすのです」
――世代の分け目に関係するということですか?
「その通りです」
――牛窪さんの定義では、Z世代は1995~2004年生まれです。95年に何かあったのでしょうか?
「95年は、阪神大震災や地下鉄サリン事件など大きな事件が相次いだ年ですが、それより、その後のデジタル化ですね。98年には子ども向け携帯電話や米マイクロソフトの基本ソフト(OS)『ウィンドウズ98』が家庭に普及し始めました。2000年がITバブルといわれ、ITが職場だけではなく、家庭にも浸透したのです」
「これにより、1995~2004年に生まれた人たちは、物心ついたころにはITが身近になりつつありました。例えば、親や先生など周りの人と電話ではなく、主にメールでやりとりするなどの変化が挙げられます」
――ITが進化するスピードを考えると、今後はもっと短いスパンで新しい世代が出てくる可能性がありそうですね。
「そうですね。価値観や考え方が変化するスピードは明らかに加速しています。以前は、世代を細かく区切りすぎても分かりづらくなるので、5~7年区切りで考えていました。しかし、今ではむしろ細かく見なければ分析できなくなってしまうほどです」
「バブル世代とZ世代が異なるのは当然ですが、ゆとり世代とZ世代でもはるかに違うほど価値観が多様化しています。その背景には、SNS(交流サイト)や動画配信サイトの影響が相当あるでしょう」
誰が世代を定義しているのか
――世代は価値観の違いによって区切られ、その背景にはITの普及があることは分かりました。では、一体誰が、何のために世代を定義しているのでしょうか。
「見方は2つあります。まずは、マーケティングに携わる人たちがターゲティングのために定義している場合。企業が商品開発をするとき、どのような人をターゲットにするのか明確にしないといけません」
「このとき、世代ごとにある程度特徴が定義されていれば、ターゲットをはっきりと説明しやすいですよね。商品開発や広告、プロモーションのために世代をマーケターが明確にせねばという使命感があります」
「次に、ジェネレーションギャップ(世代間格差)を研究する学者が定義している場合です。中国に比べると欧米では、指摘されていたのはミレニアル世代くらいで、従来『世代』はそれほど意識されてこなかったと聞いています」
「しかし、携帯電話やインターネットの普及により、コミュニケーションの取り方が変わり、コミュニティーのつくり方も変化しました。これにより、企業内や家庭内で世代を超えたコミュニケーションがうまく取れなくなり、ジェネレーションギャップから違いを読み解いて、ギャップを解消しなければという意識が高まったのでしょう」
「相互理解のために、各世代の特徴やコミュニケーション方法などを読み解いて定義し、研究する学者が増えてきたのです」
――ステレオタイプがつくり出されるのではないかと、少し抵抗を感じます。
「世代を定義するメリットは2つあります。まず、歴史認識がしやすくなります。時代は、過去の出来事に基づいて成り立っていますよね。若い世代は、『過去にこういうことがあったから、今の自分たちがあるのか。だから上の世代は自分たちに対してこのように思うのか』と、納得することができます。世代の定義を含めて相手を見ると『あぁ、あの世代ね』と理解しやすいですよね」
――確かに。バブル世代は「24時間戦えますか」が流行語になった時代を経ているから、今の若い世代が仕事よりプライベートを優先したがることを理解し難く感じる人もいるのだろうと、納得はしやすいです。世代ごとの時代背景を理解しやすいのは大切なメリットですね。2つ目のメリットは何でしょうか?
「年月がたつと『あの世代はこうだったよね』と共通の文化や時代の話ができます。『私は違ったけどね』でもいいので、共通の認識で過去を振り返ることができるのはメリットの1つです」
「世代を定義することは、ステレオタイプの視点をつくってしまう一面もありますが、企業や家庭で歴史認識の共有や同世代の共感を得られるのは、対話上の大きなメリットだと思います」
(日経ビジネス 藤原明穂)
[日経ビジネス電子版 2021年12月27日の記事を再構成]』