豪裁判所、Googleに57億円支払い命令 位置情報収集で

豪裁判所、Googleに57億円支払い命令 位置情報収集で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM126820S2A810C2000000/

『【シドニー=松本史】オーストラリア連邦裁判所は12日、米グーグルが位置情報収集に関して消費者に誤解を与える表現をしたとして、同社に6000万豪ドル(約57億円)の支払いを命じた。豪競争当局が2019年にグーグルを提訴していた。グーグル側は争わない姿勢を示している。

裁判所は、グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載したスマートフォンでの位置情報収集に関する画面表示が、17~18年にかけて「誤解を招くものだった」と認定した。

豪競争・消費者委員会(ACCC)は19年にグーグルを提訴した。グーグルが位置情報を収集できないようにするためには「ロケーション履歴」と「ウェブとアプリのアクティビティ」両方の機能を「オフ」にする必要があった。だがグーグルは適切な説明を行わず「『ロケーション履歴』だけが影響するとの誤解を与えた」という。

グーグルの広報担当者は12日、「17年から18年にかけての行為を解決することで合意した」と述べた。ACCCのキャス・ゴットリーブ委員長は「裁判所が課した重大な罰金は、デジタルプラットフォームやその他の企業がデータの収集・利用について消費者に誤解を与えてはならないという強いメッセージを送るものだ」との声明を出した。』

海外IT、法の網逃れ成長 各国が税・登記巡り対応

海外IT、法の網逃れ成長 各国が税・登記巡り対応
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA202IW0Q2A620C2000000/

『政府は海外IT大手に法人登記を求め、規制や監視を強める。SNS(交流サイト)上での中傷問題や偽情報への対応など、IT大手を巡る課題は多い。しかし海外のIT大手は現地での税負担や規制対応を避けており、各国の当局は課税だけでなく法的な権限すら行使できない状況が続いてきた。海外ITの存在感は日本でも大きく、監督を強める必要に迫られている。

海外IT大手はインターネットを通じて世界中にサービスを提供することができる。従来は法規制や税率の緩やかな国に拠点を置き、ビジネスを成長させてきた。SNSなどは人と人、企業と企業を媒介しているだけだとして、インターネットで起きる様々なトラブルに責任を負ってこなかった面もある。

一方、サービスを使う企業や消費者は、トラブルがあっても自国内で救済を受けにくい状況が続いていた。多くの利用者や広告収入がありながら、各国で見合うだけの税金を払わないことも問題視されていた。

各国は新たな規制のあり方を探ってきた。欧州連合(EU)が制定に動くデジタルサービス法は、ヘイトスピーチや海賊版対策などへの対応をIT大手に義務付ける内容だ。これまでは比較的寛容だった米国でも、偽情報対策などを巡りIT大手に責任を持たせる議員立法が相次ぐ。

政府が登記の徹底を求めたのも世界的な流れに沿ったものだ。日本で継続的にビジネスをする外国企業は日本で法人登記をする必要がある。日本での登記がないと、裁判やトラブルのときに海外に訴状を送ったり連絡したりする手間が生じる。消費者保護の支障になるとの指摘が専門家から出ていた。

政府では2021年施行のデジタルプラットフォーム取引透明化法で、サービスの利用条件などの情報開示を義務付けた。今回の登記要請の根拠となった電気通信事業法も外国法人に事業登録を義務付けており、徐々に規制の網をかけつつある。

海外IT大手については、各国の課税権が及ばないことも問題になっている。

日本の法人税は、事業拠点となる「恒久的施設(PE)」を国内に置いていれば外国企業にも課税できる仕組みを取っている。外国企業が日本で登記をして代表者を置くと、PEの一種の「代理人PE」と税務当局が認定し、課税される可能性がある。

海外IT大手は事業基盤を日本国外に持つ。日本に課税根拠となるPEを持つとの判断を避けることが、法人登記の壁になっていた。

法務省は今回、本社登記を求める一方で、当面の課税リスクを避ける手法は容認する方針だ。会社法は代表者に本社を代表して契約を結ぶなど幅広い権限を与えているが、IT企業が日本の代表者の権限に「制限」をかけるという提案を認める。

企業税務に詳しい平川雄士弁護士は、「制限を守る限りは、税務当局が日本国内で代理人PEを認定して課税することは難しくなるはずだ」と話す。

PEを基本とする課税ルールは、約140カ国・地域が21年に合意した「デジタル課税」で修正が図られる見通しだ。巨大IT企業を念頭に、一定の利益率を超える部分の利益への課税権を各国が分け合う。24年にもデジタル課税が導入されれば、日本にPEがないと主張するIT大手も日本での税負担を迫られる。

一連の問題は、税や登記など異なる分野が結びついた課題だ。グローバルでビジネスを拡大するIT大手のような業種が存在感を増すなか、日本政府も省庁の垣根を越えて課題を共有し、対応する必要に迫られている。

(デジタル政策エディター 八十島綾平)

【関連記事】

・未登記の海外ITに罰金へ 政府、メタ・Twitterなど監視強化
・巨大ITの独禁法違反、審査初期から社名公表 公取委

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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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ひとこと解説

昨年のデジタル課税合意の背景となったのは米大手IT企業によるダブル・アイリッシュ&ダッチ・サンドイッチスキーム等を活用しての市場国・税収なしという税務戦略でした。同戦略のスキームでは、無形資産を軽課税国の子会社に移転し税負担軽減、市場国である日本では物理的拠点がないため課税できないといったことが問題とされてきました。背景は、企業の競争力の源泉が無形資産に転化、サービスがデジタルで提供されていること。ここに市場国に拠点をもたない真因がある。私自身、公正取引委員会・独占禁止懇話会メンバーを務めていますが、日本ではGAFAMに対抗するような企業を育成することと規制の両面が求められていると思います。
2022年6月21日 7:27
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

ITサービスの現状についてたとえていえば、道路ができたが、信号システムは完成していない状況。事故が起きたら、警察が来て、どうして?と調べる。日本のネットはまだおとなしい。海外のサイトはなんでもあり。それを取り締まるインターポールのような国際機関がない。ましてやハッキング活動の背後に外国政府が見え隠れする。まあ、アメリカの情報機関はEU首脳の電話を盗聴していたぐらいだから、ほんとうになんでもあり。あとは、利用者は自衛するしかない
2022年6月21日 7:31 』

米Twitterに制裁金190億円 個人情報を追跡広告に流用

米Twitterに制裁金190億円 個人情報を追跡広告に流用
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN261US0W2A520C2000000/

『【シリコンバレー=白石武志】米ツイッターは25日、セキュリティー目的で集めた個人情報をユーザーの属性や興味に基づいて配信するターゲティング広告に不正に流用していたとされる問題で、米連邦取引委員会(FTC)に1億5000万ドル(約190億円)の制裁金を払うことで和解した。同社の2021年の年間売上高の約3%に相当し、業績の負担となるおそれがある。

FTCによると、ツイッターは14~19年にアカウント保護の名目で1億4000万人超のユーザーから電話番号や電子メールアドレスを取得し、収益源であるネット広告事業に流用した疑いが持たれていた。FTCのリナ・カーン委員長は25日付の声明で「セキュリティーのために利用するという口実で取得したデータを、広告でユーザーを追跡するためにも使っていた」と述べ、同社の行為を非難した。

ツイッターでプライバシー保護を担当する幹部のダミアン・キエラン氏は25日付のブログ投稿で、指摘を受けた個人情報について「不注意に広告に使用された可能性がある」と認めた。「問題は19年9月時点で対処済みだ」と述べ、個人情報保護の取り組みでFTCと足並みをそろえるために和解を選んだと説明した。

ツイッターは09年に起きたアカウント乗っ取り事件を調査したFTCと、個人情報の管理を厳格にすることで11年に和解していた。FTCは今回の個人情報の不正利用は11年の合意内容に違反するとして調査を進めていた。ツイッターは20年の段階で罰金などの支払いのために最大2億5000万ドルの損失を計上する可能性があると開示していた。

プライバシー侵害行為にからむFTCの過去の制裁としては、最大8700万人分の個人情報が漏洩した問題をめぐって19年に米フェイスブック(現メタ)に科した約50億ドルの制裁金が過去最大とされている。

【関連記事】
・Twitter、880億円支払いで和解 業績開示めぐる集団訴訟
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・フェイスブックに制裁5400億円 米当局、過去最大の額 』

米FTC、民主党委員が多数派に 巨大IT規制を実行へ

米FTC、民主党委員が多数派に 巨大IT規制を実行へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN12EJ60S2A510C2000000/

『【ワシントン=鳳山太成】米連邦取引委員会(FTC)が巨大IT(情報技術)企業への規制強化に乗り出す。与党・民主党系の委員が多数派になることが決まった。M&A(合併・買収)の審査を厳しくするほか、米アマゾン・ドット・コムへの提訴に踏み切る可能性もある。

空席となっていたFTC委員に、バイデン大統領が指名したプライバシー保護の専門家アルバロ・ベドヤ氏が就く。議会上院が11日、人事を承認した。ようやく委員5人のうち3人が民主党系になる。

多数派を握る意味は大きい。反トラスト法(独占禁止法)を所管するほか、消費者保護を担うFTCは企業の提訴や規制の変更を投票で決める。産業界に近い野党・共和党の反対を押し切って、左派色の濃い政策を進められるようになる。

FTCはアマゾンについて反トラスト法違反がないか調査してきた。既に提訴したメタ(旧フェイスブック)に続き、アマゾンとも法廷闘争に発展する可能性がある。

M&Aの審査も厳しくする構えだ。民主党は大企業による新興企業の買収などに神経をとがらせており、FTCは司法省と共同で審査指針の見直しを進める。グーグルなどM&Aを駆使して事業領域を広げてきた企業は経営戦略の見直しを迫られる。

バイデン氏は2021年9月、ベドヤ氏をFTC委員に指名したが、議会の承認が遅れていた。同氏は顔認証技術に人権や性別の偏りが生じていると問題視し、IT企業も批判してきた。プライバシー保護の観点からも企業への視線が厳しくなる。

米スタンフォード大学のダグラス・メラメド教授は「FTCは民主党の急進左派の意向に沿って、労働者や中小企業を保護する名目で(大企業を)提訴していく可能性がある。非常に活動的なFTCになりそうだ」と指摘する。

政権の狙い通りに進むかは見通せない。全米商工会議所は「FTCが企業に戦争を仕掛けている」と主張し、法廷闘争も含めて対抗する構えだ。保守的な裁判所がFTCの急進的な法執行に待ったをかける可能性もある。

バイデン政権は巨大ITに批判的な新進気鋭の法律家リナ・カーン氏をFTC委員に指名した。21年6月に委員長に就いた同氏は規制強化に意欲を示してきたが、与野党の委員数が2対2で拮抗する期間が長かったため、独自色の強い政策をまだ打ち出せていなかった。

民主主義は監視資本主義に勝つ

民主主義は監視資本主義に勝つ 米ハーバード大ズボフ氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1168A0R10C22A1000000/

 ※ 相当に、「タイトル」と「中身」が違っている…。

 ※ ここで言っている「監視資本主義」とは、『ネット利用者の利用履歴データを実質的に無断で収集し、収益化する企業の行動』『(データとそこから導かれる傾向や予測という)知識が少数の企業の手に集中する』現象なんかを指している…。

 ※ 『「ほとんどの人が規約を読まないことは誰でも知っている。当のネット企業も重々承知のうえでもろもろの行為の許可を求めている。たとえ読んだとしても『合意』する以外に選択肢はない。つまり実際に起こっていることは『強制』であり、自発的合意というのはまやかしだ。これは正当ではない。』という問題意識に立っている…。

 ※ しかし、いわゆる「プラットフォーマー」の「収益の源泉」は何なのかということや、従来型の「独占禁止」対策の限界…、なんて問題を考える上で、参考になる…。

『ネット利用者の利用履歴データを実質的に無断で収集し、収益化する企業の行動を「監視資本主義」と名付け、その弊害について警鐘をならす米ハーバード経営大学院名誉教授のショシャナ・ズボフ氏が取材に応じた。デジタルとインターネットの時代に個人の権利を守る新しい法制度が必要だと強調する。「民主主義は実現能力を備えている。実際、欧米の議会は前進している」との見方を示した。主なやり取りは以下の通り。

――監視資本主義とは、どんな現象を指すのでしょうか。

「20年前、米グーグルが個人のネット利用の履歴データを蓄積するという新しい行動を始めた。それから20年のあいだに、データの蓄積を収益化する理論と仕組みが世界を席巻する経済原理の一つとなった。既存の産業資本主義は自然資源を原料にして収益を生むのに対し、この原理では人々の行動や関心を監視することで得られるデータを原料とするので監視資本主義と呼んでいる」

「監視資本主義が広まった経済体制の特徴は、(データとそこから導かれる傾向や予測という)知識が少数の企業の手に集中することだ。知識の集中、知識の非対称性によって少数の企業が支配力を築いた。この体制は、価格や賃金、競争状況などをゆがめる経済的な害よりも、(プライバシーの侵害や民主主義への悪影響など)社会的な害をもたらすのが特徴だ」

――個人の行動履歴情報を「無断」で収集、活用することを違法とすべきだと提言しています。オンラインサービス企業側は「利用規約」などで情報収集について利用者の合意を得ていると主張しています。

「ほとんどの人が規約を読まないことは誰でも知っている。当のネット企業も重々承知のうえでもろもろの行為の許可を求めている。たとえ読んだとしても『合意』する以外に選択肢はない。つまり実際に起こっていることは『強制』であり、自発的合意というのはまやかしだ。これは正当ではない。金融商品の約款など、以前からこのような『付合契約』と呼ばれる供給者側が内容を一方的に定める合意の取り方は存在しており、(中身が常識の範囲内に収まっていることで)正当性を保っていた。監視資本主義が広がると、企業はこの制度を乱用するようになった。司法が前例踏襲に終始する間にテクノロジーがはるかに先を行き、法律も追いついていない」

「少なくとも現在の米国では監視資本主義は『合法』だが、決して正当ではない。ある行為が合法かどうかは、時代や場所を基とする法制度で決まる。現在は監視資本主義を有効に規制する法制度がないため、たまたま合法になっている。我々はデジタル時代に機能する新しい権利の憲章と、それを具現化する法制度を打ち立てなければならない。同意のない一方的で不当な監視、情報抽出ははっきり違法とすべきだ」

――ワシントンでの民主党と共和党の対立状況を考えると、規制を強める立法は難しいようにみえます。

「時間はかかる。19世紀後半、寡占や独占を築いた巨大企業の力の乱用に対する民衆の怒りはとても強かった。しかし、そんな強い世論があっても、消費者や労働者の権利や安全を守る法律、行政組織などができて企業を適正に規制する体制ができあがるのは1930年代、フランクリン・ルーズベルトが大統領になってから。つまり問題が顕著になってから、解決する制度ができるまでに半世紀かかった」

「馬車しかなかった時代に作ったルールで自動車が走る道路を統治しようとしても無理だった。産業資本主義という新しい存在を前提にした制度を作るのに半世紀かかった。その制度もデジタルとインターネットの時代になって、うまく権利保護の目的を果たせなくなった。その点をよく認識しないまま私たちはこの20年、監視資本主義の企業を野放しにしてきた。実物社会では家宅侵入やのぞき見を許容しないのに、パソコンやスマートフォンで個人が何を見ているかについては、企業が勝手に監視・記録し、そのデータを収益に変える行為を許してきた。今こそ新しい時代に合った権利保護の制度を作るための民主主義のプロセスを、もう一度最初からやり直さねばならない」

――ESG(環境・社会・企業統治)投資やステークホルダー論が広がるなど、倫理を重視する方向に投資家の考え方が変化しています。市場の力が企業行動を是正する可能性はないのでしょうか。

「私がハーバード経営大学院で教え始めた81年ごろ、必修授業で株主至上型経営とステークホルダー型経営の比較分析をやっていた。その後、ミルトン・フリードマンやマイケル・ジェンセンの株主至上論が世の中を席巻し、ステークホルダー型経営の分析はビジネススクールの授業から姿を消した。今盛り上がっているステークホルダー論やESG投資は、そういう意味で既視感があり、統治力として弱い。しかも市場原理主義的な考え方が、コミュニティーや公的サービスをあちこちで破壊した後に出てきたので、遅きに失した感がある」

「市場参加者や私企業によるルール設定は歓迎すべきことだが、市場環境が変わると一瞬にして消えてしまうおそれがある。取締役が交代するだけでも方針は変わりうる。つまり、企業の自主的な規範は移ろいやすいもので、長期に安定して機能する法制度の役割を代替することは決してできない。私たちは80年代以降、市場が色々な問題を解決できると思い込んできたが、その結果が監視資本主義の増長だ。問題解決には制度が大事だ」

――新時代に最適な法制度は本当にできるのでしょうか。

「3年前にはできると断言できなかったが、今はできると確信している。それだけはっきりと前進がみられるからだ。もうすぐ欧州で成立する『デジタルサービス法』と『デジタル市場法』は、ターゲット広告を規制するなど画期的な内容で、ゲームチェンジャーになると思う。ワシントンでも行動監視やターゲット広告を規制する立法に向けた真剣な議論が進んでいる」

「確かにワシントンはいつも絶望的にみえる。監視資本主義企業によって良質な報道機関が窮地に陥り、偽情報がまん延しているにもかかわらず、放っておいても民主主義が揺るがない時代が長く続いてきた。そのため、それに慣れきった市民は行動を起こすまで至っていない。だから米国では本当に民主主義が危機に陥った」

「しかし、この状態を解決する能力を備えた唯一の仕組みが民主主義であることも確かだ。歴史をみれば、民主主義の本当の危機には市民がまとまって声を上げた。時間はかかるが、解決策を議会や政権に作らせて民主主義を守ってきた。ファシズムが民主主義を破壊しそうになったときに、連合国の戦いを支えたのも民主主義だ。欧米などの議会の動きをみて、監視資本主義がもたらした民主主義の危機を民主主義自体が克服していく見通しについて、私はとても楽観的になっている」

(聞き手は編集委員 小柳建彦)

放任の弊害に気づき、欧米などで規制導入

米グーグル(アルファベットの一部門)は「邪悪にならない」をモットーとする会社として支持者を増やした。しかし創業から日が浅かった2000年に、「グーグル・ツールバー」と呼ばれるブラウザーに組み込んで使うソフトが、利用者が今どのウェブページを見ているのか逐一記録して保存する「監視」を、利用者から明示的な許可を取らずに始めていたことはあまり知られていない。

当時社内では、何をどう記録して何に使うのか、大書して説明し、許可を取るべきだという意見が浮上した。しかし、共同創業者らが「何も悪いことはしていないのだから、わざわざ懸念を呼び起こすような文言は不要だ」として却下したと、当時社員だったダグラス・エドワーズ氏が後に著書「I’m Feeling Lucky」で記録している。今思えば「邪悪」な行為は草創期から始まっていたのだ。

インターネットは90年代に普及して以来、利用者の大部分が不正をしないという性善説と、不正があっても市場原理に淘汰されるという市場信奉によって、特定の統治者を置かない分散自律型のエコシステム(生態系)として発展した。グーグルやフェイスブック(現メタ)が「監視」で莫大な収益を上げても、牧歌的な性善説を疑う声は大きくならなかった。

ここ数年、米大統領選、連邦議会襲撃事件、そしてフェイスブック元従業員の内部告発と、ズボフ氏が警告した弊害が具体化する出来事が次々と起こった。特にフェイスブックについては、利用者の安全確保や偽情報から民主主義を守ることよりも収益を優先してきた証拠がいくつも明るみに出た。そうなってようやく、放任は弊害が大きいことに世界中の政治指導者と市民が気づいた。

多くのオンラインサービス企業は「機械による行動記録は、人間によるのぞきのようなプライバシー侵害には当たらない」という考え方を繰り返してきた。しかし、「トラッキング」と呼ばれる行動監視行為に対する世論は極めて厳しくなっている。

欧米だけでなく日本やオーストラリアでの立法や規制導入の動きは、まさにその世論の反映だ。一方で、巨大IT(情報技術)企業の反規制ロビー活動もますます強力になっている。ズボフ氏の言う通り、事態の行方は各国・地域の民主主義政治のプロセスに委ねられている』

デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える (NHK出版新書)

デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える (NHK出版新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/B09DPPY88S?tag=maftracking272143-22&linkCode=ure&creative=6339

『コロナ禍の裏で、デジタル改革という名のもとに恐るべき「売国ビジネス」が進んでいるのをご存じだろうか?

アマゾン、グーグル、ファーウェイをはじめ米中巨大テック資本が、行政、金融、教育という、日本の“心臓部”を狙っている。

デジタル庁、スーパーシティ、キャッシュレス化、オンライン教育、マイナンバー……
そこから浮かび上がるのは、日本が丸ごと外資に支配されるXデーが、刻々と近づいている現実だ。

果たして私たちは「今だけ金だけ自分だけ」のこの強欲ゲームから抜け出すことができるのか?

20万部超のベストセラー『日本が売られる』から3年。
気鋭の国際ジャーナリストが、緻密な取材と膨大な資料をもとに暴く、「日本デジタル化計画」の恐るべき裏側!』

法人最低税率、なぜ15%で合意? 企業の税逃れに歯止め

法人最低税率、なぜ15%で合意? 企業の税逃れに歯止め
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA08CZ20Y1A001C2000000/

『経済協力開発機構(OECD)加盟国を含む136カ国・地域が8日、国際的な法人課税の新たなルールで合意した。法人税の最低税率を15%にするなど、国際社会が100年ぶりとも言われる歴史的な改革に踏み出したのはなぜか。3つのポイントから読み解く。

・税率の引き下げ競争はなぜ起きたのか
・国際的な課税ルールの改革機運が高まったきっかけは
・グローバル企業への課税はどう変わるのか

(1)法人税率の引き下げ競争はなぜ起きたのか

企業が事業などを通じてもうけたお金にかかるのが法人税だ。多くの国にとって法人税は、個人が稼いだ給与などに課す所得税、モノやサービスの取引にかける消費税(付加価値税)と並んで税収の大きな柱になっている。

税の徴収は国家の主権にかかわる問題だ。自国の領土内で活動する企業にどんな税金をどのくらい課すかはその国だけが決められる。企業が国境を越えて活動する機会が少なく、特定の国の領土内にとどまっていた時代は、法人税がどんなに高くてもその国の企業は甘んじて受け入れるしかなかった。

状況を大きく変えたのが、1970年代以降に加速した経済のグローバル化だ。国境を越えて世界中の国に活動の拠点を置く企業が増えた。こうした多国籍企業は事業環境がより有利な国に工場を建てたり、店舗を置いたりする。どの国で活動するかを決める際に、重要な判断材料の一つとなるのが税制だ。法人税など税負担の軽い国が企業をひき付ける。

特に80年代に入ると、サッチャー英政権やレーガン米政権が経済を活性化する切り札として法人税率の引き下げに動き始めた。背景にあったのが、新自由主義と呼ばれる経済思想だ。国家は企業の活動にできるだけ介入すべきでないという主張で、税金も安ければ安いほどいいと考える。

英米による法人税率の引き下げをきっかけに、世界的な減税競争が始まった。税金が高いままでは企業がどんどん税率の低い国に逃げてしまうからだ。日本もこうした競争と無縁ではいられず、80年代に40%を超えていた法人税率(国税)は2018年度に23.2%まで下がった。

(2)国際的な課税ルールの改革機運が高まったきっかけは

IT大手の課税逃れへの批判が国際ルール見直し機運が高まる一因となった

グローバル化に続き、2000年代に入って押し寄せたのがデジタル化の波だ。IT(情報技術)を駆使して世界中で稼ぐ米GAFA(親会社のアルファベットを含むグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)のようなデジタル企業が経済の中心に躍り出た。

デジタル企業は事業所など物理的な拠点を置かない国でもインターネットを通じてビジネスを展開できる。いまの法人課税には1920年代にできた「恒久的な施設なくして課税なし」という国際的な原則がある。これに基づけば、デジタル企業はある国で消費者にモノやサービスを売ってどんなに巨額の利益をあげても、その国に工場や店舗といった物理的な拠点がなければ法人税を払わなくて済む。法人税率が低い国に拠点を置き、サービスの利用者がいる別の国で税金を払わずに稼ぐやり方が広がった。

法人税率の引き下げ競争とデジタル化の流れが加速する中で、課税をうまく逃れた多国籍企業やデジタル企業は富を蓄積した。こうした企業の税逃れを問題視する機運が高まった契機は、2008年秋に起きたリーマン・ショックだ。危機を克服するために各国は大規模な景気対策を打ち出し、財政状況が悪化した。にもかかわらず、富をため込んだ多国籍企業が払うべき税金を払っていないという批判がわき起こった。

OECDは2012年に「BEPS(税源浸食と利益移転)」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げた。各国政府が連携して多国籍企業による税逃れを防ぎ、公平な競争条件を整える手立てを話し合うためだ。

(3)グローバル企業への課税はどう変わるのか

法人税の最低税率とデジタル課税の国際ルールづくりを柱とするBEPSの議論はなかなか進まなかった。参加国が多く、利害の調整が難しかったからだ。しかし、2020年に始まった新型コロナウイルスの危機が転機となる。各国が巨額の財政出動を繰り返し、税財源の確保が必要になったためだ。法人税率の低さを競う余裕はなくなった。

21年1月に発足したバイデン米政権は5月に法人税の最低税率を「少なくとも15%」とする案を提示し、主要7カ国(G7)が同調した。OECD加盟国を含む130以上の国・地域も賛同し、8日の最終合意にこぎ着けた。

今回の合意では、法人税の最低税率を「15%」とする各国共通のルールを設けるとともに、GAFAのような巨大IT企業を念頭にデジタル課税の仕組みも決めた。全世界の売上高が200億ユーロ(約2.6兆円)を超し、利益率が10%超の企業が対象だ。

この条件に合う約100社のグローバル企業が稼いだ利益のうち、総収入の10%を超える利益を「超過利益」とし、その25%にサービスの利用者がいる国・地域が課税できるようにする。対象企業が工場や店舗などの物理的な拠点を置かない国や地域も課税できるようになるわけだ。実際の課税権は、売上高に応じて各国・地域に配分する。

1920年代にできた「恒久施設なくして課税なし」の原則をおよそ100年ぶりに転換する歴史的な改革だ。新ルールは2023年からの実施をめざす。

(経済部長 高橋哲史)』

<Q&A>法人課税強化、国際合意のポイントは? デジタル課税、最低税率15%以上
2021年7月3日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/114283

『OECDが多国籍企業の課税逃れを防ぐため、法人税の新たな国際ルールをつくることに大枠で合意しました。このルールの狙いと中身についてまとめました。(原田晋也)

 Q なぜ、新ルールが必要なのですか。

 A 現行ルールでは、工場や支店など拠点がなければ、その国は企業に課税しないのが原則です。しかし、拠点を世界各国に置かなくても、インターネットを使って事業を展開する「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」などの巨大IT企業が登場。これらの企業に対し、課税ができない国が増えました。サービスを展開しているのに拠点がないとの理由で課税を逃れる企業が増え、経済の変化に税制が追いついていませんでした。
 「タックスヘイブン(租税回避地)」と呼ばれる法人税率が低い国に拠点を置く多国籍企業が増えたことも理由です。企業誘致のために各国で税率引き下げ競争が起き、財政悪化や格差拡大を招いたとの批判が根強くありました。

 Q 合意の内容は。

 A 巨大IT企業を想定した「デジタル課税」と、「最低法人税率」の二つがあります。デジタル課税では、多国籍企業の拠点がない国でも、サービスが行われていたら、消費国(市場国)として課税できるようになります。具体的には、巨大IT企業の利益率のうち10%を超える部分に、20~30%の税率が適用され、市場国に税収が分配されます。
 Q 最低法人税率の方はどんな仕組みですか。

 A 最低法人税率を「15%以上」とすることで合意しました。仮に、多国籍企業が税率がより低い10%の国に子会社を置いても、親会社が所在する国からも、15%から10%を差し引いた5%分を追加的に課税できるようになります。タックスヘイブンを使った課税逃れが難しくなるかもしれません。

 Q 各国はなぜ合意に向かうことができたのでしょうか。

 A 米国は従来、多国籍企業に対する課税強化には否定的でした。しかし、バイデン政権が誕生し、税の公平性に重きを置くようになり、最低税率導入を推進するようになったためです。また、新型コロナウイルス対策で大型の景気対策を打った各国の財政状況が厳しくなっているという事情があります。

【関連記事】デジタル税、日本も数社対象か OECD大枠合意 』

Twitter、インドで苦情処理責任者採用 IT規制に対応

Twitter、インドで苦情処理責任者採用 IT規制に対応
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM08D7V0Y1A700C2000000/

『米ツイッターは8日、インドで新たに導入されたIT(情報技術)規制に従って苦情処理責任者を採用する方針を示した。インド政府はツイッターの規制違反を問題視し、投稿内容に関する同社の免責措置を解除すると主張していた。

インド政府は2月にSNS(交流サイト)運営企業などに対する規制を発表し、不適切とされる投稿の削除規定などを定めた。苦情処理などに対応するインド在住の責任者設置なども義務付けたが、ツイッターが適切な担当者を任命していないと批判していた。

ツイッターは8日にデリー高等裁判所に提出した文書で、常勤の苦情処理責任者を8週間以内に直接雇用する方針を明らかにした。暫定的な苦情処理責任者は11日までに任命する。チーフ・コンプライアンス・オフィサーの任命など、ほかの規制についても順次対応していく。

インド政府は5日にデリー高裁に提出した文書で、猶予期間を過ぎてもツイッターの違反が続いているとして、SNS運営企業がユーザーの投稿内容に直接の責任を負わない免責措置が解除されるとの見解を示した。デリー高裁はツイッターに対し、違反状態を是正する見通しについて報告を求めていた。

IT規制を巡っては米フェイスブック傘下の対話アプリ大手ワッツアップが5月に、プライバシー保護の観点からデリー高裁に違憲申し立てを行った。』

インド政府、ツイッターの免責解除主張 IT規制巡り

インド政府、ツイッターの免責解除主張 IT規制巡り
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM06E940W1A700C2000000/

『インド政府と米ツイッターの対立が激化している。インド政府はIT(情報技術)規制違反を理由に、不適切な投稿に関するツイッターの免責措置が解除されると主張した。デリー高等裁判所は6日、ツイッターに対し違反状態をいつまでに解消できるか8日までに報告するよう求めた。

現地メディアなどが報じた。インド政府は2月にSNS(交流サイト)運営企業などに対するIT規制を発表し、問題があると判断された投稿に対する削除規定などを定めた。当局と協力して苦情処理などに対応するインド在住の責任者任命も義務付けた。

インド政府は発表から3カ月の準備期間を過ぎても、ツイッターが適切な責任者を任命していないと批判していた。デリー高裁に5日に提出した文書では同社の違反が続いているとして、SNS運営企業として投稿内容に直接の責任を負わない免責措置が解除されるとの見解を示した。今後は投稿されたツイートなどに対して、ツイッターの刑事責任も問えるとの姿勢をみせた。デリー高裁はツイッターに、責任者の任命見通しなどについて8日までに回答を準備するよう促したという。

インドのIT規制では、問題のあるコンテンツについて「最初の発信者」を特定できるようにする規定も盛り込まれている。米フェイスブック傘下の対話アプリ大手ワッツアップは5月に、プライバシー保護の観点からデリー高裁に違憲申し立てを行っていた。』

NYタイムズが「アップル・ニュース」から撤退( 2020/07/10 11:00 )

https://www.yomiuri.co.jp/world/nieman/20200708-OYT8T50023/

『ケン・ドクター(米ジャーナリスト)
激震か微動か
 ニューヨーク・タイムズ紙(以下タイムズ)が、アップル社のニュースフィード「アップル・ニュース」からの撤退を決めた。

 これだけだと、主要メディアと巨大プラットフォーム(サービス基盤)の間で、また何か駆け引きがあったようにしか見えないだろう。だが、これは何か大きな動きが起きる前触れなのかもしれない。今年中にもプラットフォームのニュースに対する力関係に地殻変動が起きるのか、それとも微動で終わるのかという話だ。

 (米国での人種差別抗議運動を発端に広がった)グローバル企業によるフェイスブック社への広告掲出ボイコットの動きも、この振動がより大きな揺さぶりにつながる可能性をうかがわせる。全米各州や連邦の司法当局が進める、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのプラットフォーム4社)を念頭に置く反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)違反追及の動きにしてもそうだ。

 「巨大プラットフォームとの関係を見直す時が来た」とタイムズの最高執行責任者(COO)メレディス・ルビーン氏は語り、三つの軸で再検討を進めていると明かす。

(1)その企業が、タイムズの記事に閲覧者を招き入れるのにどのような役割を果たしているか。

(2)タイムズの主目的は読者との直接的な関係を拡大し、(記事への)接触を習慣づけ、最終的に購読してもらうことだが、その企業はどのような役割を果たしているか。

(3)その企業が、タイムズがジャーナリズムのために行った投資から相当な利益を得ていることがわかっていても、なお割に合う関係なのか。

 ルビーン氏は3年前にCOOとなり、マーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)の後継候補に広く目されている。その人物が「この時点でアップル・ニュースに参入し続ける意味はもう見いだせない」と言うのだ。

 タイムズがプラットフォームとの関係修正に乗り出すのは、これが最後でもないだろう。ルビーン氏は「過去18か月、我々はプラットフォームとの関係について真剣に考えてきた。生態系の中での現実に合わせ、自分たちをどこまで刈り込むかという計測を周到に進めた。我々は少しずつ、年々、改善してきたからこそ、このような変化を今、行えるようになった」と述べる。要するに、タイムズは2025年に購読者を1000万人まで増やすという目標を「独力で」達成できることが実証されつつあるというのだ。

コロナも転機に
 「新型コロナウイルスの危機的状況がピークだったころ、タイムズのニュース利用者は2億5000万~3億人に達した。3月には米国で、成人10人のうち6人がタイムズを利用していた。読者との関係を築く上で、これほど大きな機会はかつてなかった」とルビーン氏は指摘。さらに、「我々の最終目標は、より多くの人々の暮らしに、より大きな役割を果たすことだ。我々は年々、その目標に向け、自力でできることが増えている。だからと言って配給パートナーがいらないというわけではない。ただ、そうした企業を評価する方程式に変化が生じた」と今回の決断を巡る状況について説明した。

 つまり、タイムズはプラットフォームとの関係をすべて断つわけではないが、これが微震にとどまるような話でもないということだ。

危険なダンスは続く
 例えば、タイムズは、アップルとこれからもポッドキャストでは緊密に協力していくだろう。主力アプリ「ザ・デイリー」はその価値を増している。アップストアを通じて販売されるタイムズのアプリは、購読者との接触時間を固める鍵になっている。

 トンプソンCEOは、メディア発行人として巨大プラットフォームとの危険なダンス(駆け引き)は続けざるを得ないと率直に認める。トンプソン氏はわずか1年前、なぜタイムズがワシントン・ポスト紙のように雑誌読み放題アプリ「アップル・ニュース+」の立ち上げに加わらないかについて、「いろんなニュースを寄せ集めて、うわべだけ魅力的な混ぜ物を作ろうとしているからだ」と酷評していた。

 ニュースをどこから得ているかと問われて、「携帯電話から」と答える人は多いだろう。だがタイムズは、他の新聞社同様、購読料金の獲得を唯一の進むべき道とみており、ニュースを提供しているのは自分たちだと読者に認知してほしいのだ。タイムズは、読者と直接的な接触を持ち、可能ならば購読契約につなげたいと考えている。

 もちろん、ニュースを発行する側と集積する側との緊張関係は、インターネットの初期時代からあった。ヤフーニュースを巡っては20年以上、メディア各社の中で、加わるべきか、仮に加わるならどのような形で、という議論が続いてきた。

 タイムズは長年、アップル・ニュースに配信する記事を限定してきた。配信の見返りにタイムズが得たのは、ニュースレターや購読を募る広告などの呼びかけを行う場だった。アップル・ニュースでのニュース視聴回数はデジタル市場分析大手のコムスコア社によるインターネット視聴率測定に反映されるメリットもあった。ただ、これらは主にブランドイメージと到達率であり、直接の利益につながるルートではなかった。

アップルは静観
入り口に大きなロゴを掲げたニューヨーク5番街のアップルストア(2019年9月、ロイター)
 アップル・ニュースが実際は何であるのかを誤解している人は、ユーザーの中にもいる。多くの人にとって、それは「携帯に出てくるニュース」で、意図的にせよ、偶然にせよ、画面を操作することで特定のお知らせや記事のまとめが見られる。アップル・ニュースのユーザー数は今年4月現在で1億2500万人。ほんの3か月前の1億人から増えている。

 アップル・ニュースによれば、撤退したメディアはタイムズのほかにはほとんどない。アップルの広報担当は、「ニューヨーク・タイムズはアップル・ニュースに毎日数本しか記事を提供してこなかった」とする声明を発表。「我々は1億2500万のユーザーに最も信頼できる情報を届けるよう努めている。今後もウォール・ストリート・ジャーナルやワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズ、ヒューストン・クロニクル、マイアミ・ヘラルド、サンフランシスコ・クロニクルを含むメディア数千社と協力し、さらに多くのすばらしいメディアを加えていくことで読者への務めを果たす」と続けた。

 声明はさらに「我々は広告料や購読料などでの定評あるビジネスモデルを通じ、質の高いジャーナリズムを支えることにも尽くす」とした。

撤退への二つの計算
 タイムズによる撤退決断の背景にはもっぱら、ニュースを直接発行する者の力、すなわちジャーナリストと読者の関係があった。この関係こそが購読料収入を得るための核心であり、購読料獲得こそが今のメディア企業が前進する唯一の道なのだ。

 ただタイムズの行動は同社ならではのもので、大転換の先駆けになるかどうかは微妙だ。何しろタイムズは計600万人の読者を擁し、その数は紙の新聞がピークだった頃の3倍以上だ。

 より多くの読者と購読契約者がいればデータが集積され、どういった読者に何が有効かの分析もできる。その分析の結果が、タイムズにとってアップル・ニュースはプラスにはならないというものだった。

 二つの計算があった。第一は、タイムズが、今現在ニュースを見ている人たちをどうすれば購読契約者にできるかだ。

 ルビーン氏は「我々は、自社のプラットフォームを使って読者との関係を築き、拡大することに自信を深めている」と話す。その上で、「配給パートナーが何をもたらしてくれるか。その製品は主として、あるいは純粋に、タイムズのニュースに読者を引きつけるためのものであるのか」を問い続けているのだという。

 第二は、アップル・ニュース(あるいはタイムズのコンテンツを扱いたい他のプラットフォーム)が、忙しい読者にとって新聞の代替物になり得るかというものだ。

 ルビーン氏は「部分的にせよ、新聞の代替物になる製品があるのか、真剣に考えてきた。仮にそうならば、我々は(ニュースを提供することに対し)どのような対価を得られるのか。それはお金なのか、我々の方に視聴者が誘導されるのか、あるいは我々が読者と直接の関係を築くことを容易にするものなのか。こういったことを計算した」と話す。

ニュースがすべての基盤
 タイムズの撤退は、主要メディアとGAFAとの関係により広範な変化をもたらすのだろうか。

 グーグルとフェイスブックは最近、メディア支援に力を入れている。支援は実質を伴い、訓練や資金面での援助に加え、極めて選別的ではあるが、いくつかの社にはニュース素材への代価が支払われている。現時点では、地方紙の発行者からは「コンテンツに直接料金が支払われたことはない」との声が寄せられるが、それも変わるかもしれない。

 こうしたメディア支援プログラムの拡充は、少なくとも三つの大陸で同時に巨大プラットフォームへの圧力が強まっていることと無関係ではない。オーストラリア、カナダ、そして欧州ではプラットフォーム批判が強まり、規制が強化され、プラットフォーム側からすると、脅威は新局面に入りつつある。

 メディア側から聞こえる呪文は、「我々に金を払え」というものだ。

 プラットフォームに対し世界規模で高まる懸念やポピュリスト的反動、情報技術(IT)企業への反発を背景に、グーグル、フェイスブック両社のみならず、アップル、アマゾン両社に加えツイッター社も、少しは譲らなければならないことがわかってきた。

 だからプラットフォーム各社は、知的利益の最大化に企業としてできる貢献を行う。規制や反トラスト、課税を通じた情け容赦ない締め付けが強化されないよう、「自主的に」、何を差し出せるか計算しているのだ。

 ルビーン氏に、アップル・ニュースからの離脱はタイムズでなければできなかったかどうかを聞いてみた。同氏の答えは、「他社に成り代わって話すことはできないが、どの新聞社にも自社やフリーのジャーナリストの仕事を支えられるような財政基盤があるべきだ」というものだった。

 「我々がジャーナリズムに対して行っている投資は、増え続ける一方だ。(コロナ禍の)今年でさえ増え続けている。技術者とデータ分析者、製品管理とデザインの専門家も少なからず増やした。広告部門は今年、ますます厳しい状況にある。我々のしようとすることには常に投資が必要だ。好況の時も不況の時も、ニューヨーク・タイムズの投資はまずジャーナリズムのために行われる」

 デジタル・ニュースのビジネス上の成果を測る指標がいくつあっても、一番の基盤は元のニュースと解説の質だ。報道機関がいったい何人のジャーナリストや関連分野の技能を持つ人材を支えていけるのか。そしてプラットフォームとの個別の取引がその助けになるのか、ならないのか。それこそが、すべての鍵となる指標なのだ。

(6月29日配信、原文は こちら )』

LINEでの行政サービスを停止 総務省 政府、各省庁で利用状況を調査

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE18DVS0Y1A310C2000000/

『武田良太総務相は19日の閣議後の記者会見で、総務省が対話アプリ「LINE」を通じて提供している行政サービスの運用を停止する考えを示した。国内利用者の個人情報が中国でアクセスできる状態になっていた問題を受けた措置だ。

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停止の対象となるのは意見募集や問い合わせの対応など。LINEのような外部サービスで業務上の情報を扱わないよう、職員に注意喚起した。

全国の自治体がLINEをどう活用しているか調査に乗り出したことも明らかにした。自治体では粗大ゴミの収集や保育所入所などの申請に活用しているケースがある。26日までに報告を求め、セキュリティー面での対応を検討する。

菅義偉首相は19日午前の参院予算委員会で、LINEに関して各省庁で職員の利用状況の調査を始めたと表明した。民間アプリを使って機密情報を扱わないルールがあると紹介し「改めて確認している。引き続きセキュリティー確保に努めたい」と強調した。

自民党の山田宏氏はフェイスブックなど民間メッセージアプリの多くが外国製だと指摘し、国産アプリの開発支援を政府に求めた。梶山弘志経済産業相は「経済安全保障のひとつだと認識している」と述べた。

加藤勝信官房長官は19日の閣議後の記者会見で「内閣官房で現在、利用状況について改めて確認している。個人情報などの管理上の懸念が払拭されるまでは利用停止などの対応を予定している」と述べた。

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「ニュース対価」巡り米公聴会 対IT大手の団体交渉焦点

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1300O0T10C21A3000000/

 ※ 前記のような「構造」の文脈に置いてみれば、プラットフォーマーが中小の報道機関を、潰してしまって良いのか…、という話しだ…。

 ※ 「資本の論理」「商業の論理」からすれば、「大が小を併合する」「優れた技術が、旧式の技術を置き換えて行く」というのは、「自然の流れ」と言える…。

 ※ しかし、ここでも「その流れ」を肯定して、「中小の報道機関」「各地域の報道機関」を潰してしまった場合、「民主主義」に必要となる「人々の判断形成」に役に立つ情報というものが、十分に流通する…、ということになるのか…。何らかの規制が、必要ではないのか…。

 ※ まあ、そういう話しだ…。

『【ニューヨーク=清水石珠実】米議会下院で12日、報道機関に対して、情報技術(IT)大手との「団体交渉」を一時的に認める法案を巡って公聴会が開かれた。新聞業界団体やジャーナリスト労働組合の代表、地方テレビ局の経営者などが証言し、報道機関側の交渉力強化につながる同法案を支持するように求めた。

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「ネットは痛みではない」米名門紙復活させたベゾス流

法案は、新聞やテレビなどの報道機関を4年間独占禁止法の適用から外し、ネット広告収入の分配などについてIT大手と合同で交渉できるようにする内容だ。デジタル広告市場ではフェイスブックとグーグルの2社が過半のシェアを握る。ネットを通じてニュースを流しても、広告収入が両社に流れることが地方紙などローカル報道の弱体化につながっているとの指摘がある。

約2000の米報道機関が加盟する業界団体「ニュースメディア連合(NMA)」のデビッド・シャーバン代表は公聴会で、「偽情報への対抗策として、ローカル報道は重要だ」と述べ、地方メディアの弱体化が不正確な情報がまん延しやすい環境を作っていると指摘した。また、団体交渉の許可に加え、記事への対価を決める交渉などの場でIT大手が誠意をもって対応しているかどうかを監視する仕組みを作ることも要請した。

米国ではこの15年間に米地方紙の約4分の1に当たる2100紙が廃刊になった。地元に報道機関のない地域が拡大していることに懸念を示し、参加議員からは法案を支持する声が上がった。一方で、独禁法を緩めることに対しては、共和党議員を中心に「一部のメディアの力がさらに強くなるだけではないか」との懸念も出た。

IT大手からはマイクロソフトのブラッド・スミス社長が公聴会に参加し、法案に賛成する意向を示した。グーグルとフェイスブックからの証言者はなかった。グーグルは事前に書簡を提出し、「グーグルはこの20年間、報道業界と緊密に連携し、デジタル時代にあった質の高いジャーナリズムの実現に多額の支援を行ってきた」と述べた。

オーストラリア連邦議会は2月下旬、ネット大手が表示するニュース記事の利用料に対して、報道機関への支払いを義務付ける法案を可決した。世界的にネット大手に対してニュース記事掲載に相応の対価を求める動きが強まっている。

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「ネットは痛みではない」米名門紙復活させたベゾス流

「ネットは痛みではない」米名門紙復活させたベゾス流
ワシントン・ポスト前編集主幹、バロン氏に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08C7I0Y1A300C2000000/

 ※ 「報道の自由」と、「表現の自由」は、ちょっと違う…。

 ※ 「表現の自由」は、「考えたり、思ったりしたことを、自由に表現できること」…。「報道の自由」は、「世の中に起きたり、生じたりしていること(事実)を、自由に伝えることができること」だ…。

 ※ 例えば、クーデターが生じたとする…。「生じたということ(事実)」を伝えるのが、「報道の自由」で、それに対して「自分の見解を述べたり、論評を加えたりする」のが、「表現の自由」だ…。

 ※ どちらも、「民主主義」にとっては、その「基盤」となる…。

 ※ 「民主主義」ってのは、被統治者である「国民」が、統治する側に参画していく、統治する任務を担う者を選択していくというシステムだ…。

 ※ そういうシステムがちゃんと機能するためには、自らが統治に参画する資格があること、統治する任務を担います…と手を挙げた者(立候補者)がふさわしい者なのか、見抜く「眼力」を備えている必要がある…。

 ※ そういう「資格」や、「眼力」の形成のためには、世の中に流通している「事実」や「見解・論説」から、的確に「取捨選択」して、「自分なりの判断」を培っていく必要がある…。

 ※ 逆に、報道機関や論者は、そういう「人々の判断形成」に「役に立っているのか」を、「自らに、問いかける」必要がある…。

 ※ SNSやIT機器の発達は、情報の「伝達手段・経路」を大分変えたが、「ことの本質」は変わらない…。

 ※ 基本的には、上記のような「構造」だ…。

『米名門紙ワシントン・ポストを編集トップとして8年間率いたマーティン・バロン編集主幹が2月末で退任した。任期中に同紙の電子版有料読者は約300万人に達し、編集部員数は2倍近い1000人規模に拡大した。2013年10月に同紙を買収したアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏とともに名門紙を復活させたバロン氏に、ベゾス氏の影響やデジタル化の取り組みなどについて聞いた。(聞き手はニューヨーク=清水石…

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(聞き手はニューヨーク=清水石珠実)

ーー就任から約半年で、ベゾス氏がワシントン・ポストを買収しました。どのような影響がありましたか。

「(ベゾス氏は)買収してすぐにワシントン・ポストは戦略を変えるべきだと指摘した。首都ワシントンや近隣州の住民を意識した記事作りは今までは正しかったかもしれないが、デジタル時代には全米、さらには世界で読まれる媒体を目指さなくてはいけないと語った。ワシントン・ポストは米国政治の中心を取材し、全米で知名度があり、ウォーターゲート事件以来、知られていない真実を掘り起こす報道機関というアイデンティティーがある。(ベゾス氏は)全国の読者に受け入れられる下地があるし、読んでもらえるはずだから、迅速に戦略を変えるべきだと考えていた」

「(ベゾス氏は)インターネットがもたらす『痛み』は受けているのに、なぜ『ギフト(贈り物)』のほうは受け取らないのかと指摘した。ネットは確かに広告という収入の柱を奪った。だが、同時に世界中に追加費用なしで記事を配れるというギフトをもたらす存在でもある。(ベゾス氏が)もう紙の新聞を物理的に届ける必要はないのだから、ワシントン・ポストが全国紙に転換する好機だと気がつかせてくれた」 

ーー就任した時はベゾス氏による買収は想定していませんでした。当初、どのように編集部を変革しようと思っていたのですか。

「業界他紙と同様、ワシントン・ポストの編集部も縮小傾向にあった。軍隊に例えて、規模の大きな米国軍にはなれないが、少数精鋭の特殊部隊になればいいと考えていた。(前職の)ボストン・グローブでもそうした考え方で編集部を運営していた。精密に戦略を立て、正確に実行し、全力を尽くして、あとは結果が出てから考えればいいと思っていた。だが、結果として(ベゾス氏が)買収したことで、こうした縮小型の発想から脱却できた」

米首都ワシントンに本拠を置くワシントン・ポスト紙=ロイター
ーーベゾス氏による買収なしでもワシントン・ポストは成功できたと思いますか。

「可能性はゼロではないが、成功していなかったと思う。ベゾス氏がいなければ、ほかの地方紙と同じように、人員を削減し読者も減るという悪循環に陥っていたと思う。地方紙から全国紙にカジを切るという戦略もなかったし、デジタル化に投資する資金力もなかったからだ」

ーーワシントン・ポストを「全国紙」にするためにどのような変革を行ったのですか。

「全国のジャーナリストをつなぐネットワークを作り、支局のない場所でのニュースも拾える体制を作った。ローカル紙の弱体化で多くの地方在住のジャーナリストが失業したり、早期引退を余儀なくされたりしている。こうした優れた人材が、必要な時に応じてワシントン・ポスト紙に記事を出稿する仕組みだ」

「過去に新聞社での勤務経験がなく、ネット媒体で活躍してきたような人材も雇用するようになった。ワシントン・ポストではなじみの薄かった『フード』や『ネット文化』といったトピックも扱うようにした。ブログも始めた。また、朝イチで読めるコンテンツを作る夜に働くチームを編集部に置いた。こうした取り組みが現在の編集24時間体制につながっていった」

ーーデジタル時代に対応するために、編集部の人材の入れ替えは必要ですか。

「もちろん、ワシントン・ポストはテクノロジーに精通した人材も雇用した。だが、伝統的なジャーナリストの存在の重要性は変わっていない。(デジタル化にカジを切った13年を境に)人材の入れ替えが進んだわけではない。大半の人材がいまでも編集部で働いている。メディアの形態が変わったことを認め、その状況に対応すればいいだけだ。私も旧来型のジャーナリストだ」

「担当する分野に精通した記者はかけがえのない存在だ。編集部は、いい情報源を持ち、きちんとした記事を書ける記者を必要としている。記者が『自分が1番詳しい。この分野で権威だ』と思うことはいいことだと思っている。だが、その記事を読者に読んでもらうためには、デジタル時代に対応する必要がある。対応した形で届けなかったら、対応した別の記者の記事が先に読者のもとに届いてしまうからだ」

ーーデジタル時代になり、「いい記事」「いい記者」の定義は変わったのでしょうか。

「変わっていない。『質の高いジャーナリズム』の定義に変更はない。届け方が変わっただけだ。今までよりもっと早く、デジタル媒体で見やすいかたちで届けることが重要だ。こうした状況に対応することはそんなに難しいことではなく、ワシントン・ポストでは実行した」

ーー24時間の編集体制実現のためのアジアの編集拠点に、韓国・ソウルを選びました。

「香港は、最近の政治混乱を考慮し、選択肢から外れた。東京、シンガポール、ソウルなどが候補になり、コストや移動の利便性の面などからソウルが一番理にかなっているいうことになった。日本もニュース面で大きな存在だが、最近は韓国のほうがニュースが多いと感じている」

ーー報道への関心を高めたトランプ政権が終わりました。今後も読者を獲得できますか。

「トランプ氏の影響でワシントン・ポストが多くの読者を獲得できたことは否定しない。この4年間で、米国民の意識は変わったと思う。報道の自由が脅かされたり、偽情報が出回ったりする状況を体験し、質の高いジャーナリズムを維持するためには購読料を払って支援する必要があると気がついた。トランプ政権の時よりは報道への関心はやや薄れるかもしれないが、報道機関にお金を払うという習慣は根付いたと思う」

ーーネット社会に対応した24時間の報道体制は、報道の現場が目の前の事案に注意を奪われ、長期的な視点が失われる危険性があります。

「電子版のいいところは、有料読者がどんな記事に関心を示しているのかがはっきりと分かることだ。ワシントン・ポストの読者は、奥の深い記事、分析のある記事、調査報道を求めている。ワシントン・ポストでしか読めない記事にお金を払っているのだから、我々はそこに投資する義務がある」

▼マーティン・バロン 米国のジャーナリズムの現場で45年の経験を持つ。大学卒業後、マイアミ・ヘラルド入社。ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・タイムズを経て、01年にボストン・グローブ編集主幹に就任。カトリック教会を舞台とした児童への性的虐待の実態を明らかにした同紙の調査報道チーム「スポットライト」の活躍は、同名の映画にもなった。13年1月、ワシントン・ポストに移籍した。フロリダ州出身、66歳。

巨大IT解体論者を補佐官に 競争政策担当―バイデン米大統領

『【ワシントン時事】バイデン米大統領は5日、国家経済会議(NEC)のテクノロジー・競争政策担当の大統領特別補佐官に、コロンビア大のティム・ウー教授を起用したと発表した。ウー氏はデジタル市場を独占する巨大IT企業の解体を唱える厳しい主張で知られており、バイデン政権下で規制論議が加速する可能性もある。
 ウー氏はオバマ政権で連邦取引委員会(FTC)顧問などを務めた経歴を持つ。インターネット上の全てのデータを平等に扱うべきだとする「ネットの中立性」を提唱。「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に代表される巨大ITを批判し、反トラスト法(独占禁止法)の強化を主張している。』

Google、ネット広告の制限強化 個人の閲覧追跡させず

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN037UI0T00C21A3000000/

 ※ 「デバイスフィンガープリント(DF)」、知らんかった…。

 ※ 『閲覧サービス(ブラウザー)の種類や設定、ハードディスクの空き容量、図形の描画機能、カメラの種類などの複数の要素を事件検証の指紋(フィンガープリント)のようにつかって分析する。個人名などを集めなくても9割以上の精度で特定できるとされる。』

 ※ サイトにアクセスするだけで、それだけの情報を「渡している」わけなんだな…。

 ※ それで、「個人を、ほぼ特定される。」とか、薄気味悪い話しだ…。

『【シリコンバレー=奥平和行】米グーグルがインターネット利用者の閲覧履歴を追跡する技術の使用制限を強化する。広告会社などが一人ひとりの情報を使って広告を配信する技術を排除する方針だ。米アップルもプライバシー保護を強化しており、配信対象を絞り込むターゲティング技術を高度にすることで成長してきたネット広告の転機となりそうだ。

グーグル幹部が3日、公式ブログで「ウェブサイトを横断して個人を追跡する代替技術を開発したり、こうした技術を当社製品で使用したりしない」と表明した。

【関連記事】
ネット広告、寡占加速も Googleが閲覧追跡の制限強化

同社はウェブ閲覧ソフト(ブラウザー)「クローム」で、広告会社などウェブサイトの運営企業以外が行動追跡に使ってきた「サードパーティークッキー」への対応を2022年までに止めることを決めている。中止後も利用行動を捕捉して関連する広告を配信する「デバイスフィンガープリント」といった代替技術が広がることを不安視する声もあり、制限対象を広げたようだ。

ターゲティング広告は利用企業の支持を得てきたが、技術が高度になり消費者の間で「行動を盗み見られているようだ」などといった不満が高まっていた。

一方、広告の精度が下がり、ネットの無料サービスが成り立たなくなる懸念もあった。アップルがブラウザーの「サファリ」でサードパーティークッキーの使用をいち早く制限するなど規制で先行する一方、ネット広告事業への依存度が高いグーグルはプライバシー保護と広告の効率を両立する技術の開発を進めてきた。

具体的には、一人ひとりの閲覧履歴をブラウザーに搭載した人工知能(AI)で解析し、似た趣味や嗜好を持つ数千人を同じグループにくくって広告の配信に活用する技術を開発した。個人を特定しない仕組みで、月内に試験を開始。4月にはクロームで利用者が新技術を受け入れるかどうかを決められるようにする。

アップルもターゲティング広告に対する規制を強める。こうした取り組みによりプライバシーが守られる一方、多くの利用者情報を握る大手IT(情報技術)企業によるネット広告の寡占が一段と進むとの見方もある。

サードパーティークッキーとは

ターゲティング広告に使う手法で、インターネットの使い手の嗜好などを把握するのに使う。広告会社などホームページの運営者と異なる第三者が提供し、異なるホームページ上の特定の広告を誰が見たかを分析する際などに活用される。
こうした手法はインターネットを見た際に自分の好みに合った商品の広告が自動で表示される半面、消費者が不快に感じるケースがあった。
欧州を中心とする世界的なデータプライバシー規制の強化などを背景に、米グーグルなどインターネットを見るための閲覧ソフト(ブラウザー)を提供する企業はプライバシー保護の観点からこうしたクッキーの手法の制限を強化している。

デバイスフィンガープリント(DF)とは

ユーザーのネット上の行動を、スマートフォンなど端末の動作環境を手掛かりにして追跡する技術のこと。閲覧サービス(ブラウザー)の種類や設定、ハードディスクの空き容量、図形の描画機能、カメラの種類などの複数の要素を事件検証の指紋(フィンガープリント)のようにつかって分析する。個人名などを集めなくても9割以上の精度で特定できるとされる。

ユーザーがネットを閲覧すると、訪れたサイトの運営者やネット広告を出す企業のサーバー内に、そのユーザーが訪問した記録が使用機器の特徴とともに残される。DFはその痕跡をたどることで閲覧状況などを把握する仕組みだ。好みのサイトの内容などから趣味や嗜好を分析できるため、広告配信に利用されることも多い。

似た追跡の仕組みに「サードパーティークッキー」があるが、同仕組みは米グーグルも含めて使用機器の設定変更で使えないようにする動きが強まっていた。今回、グーグルはDFについてもクッキーの代替技術と見なし制限の対象に加える。

【関連記事】
Google、脱「クッキー」加速 4月から広告主と試験運用

多様な観点からニュースを考える
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福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
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ひとこと解説 巨大ITに富と力が集中するにつれ、各国では厳しい目が増しています。それは、①犯罪抑制やプライバシー保護への責任、②利益誘導のない透明な運営、③収益の公正な分配、を求める声だと要約できるでしょう。

今回の対策は、この①を進めるものでしょうが、その結果プラットフォームが広告で優位に立つとすれば、②の透明性や公正競争が危うくなります。

「神は細部に宿る。」 実際にとられる対策の「細部」を見極め、人々にわかりやすく伝える報道の役割は、大きいですね。

2021年3月4日 8:13いいね
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山崎俊彦
東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授
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分析・考察 この記事でも指摘されているように、無料で様々なサービスを利用できるメリットは広告モデルの上に成り立っています。広告はいつの時代も自社製品・サービスを知ってもらう上でとても大事なもの。多くの人がイメージする以上に広告にはコストが掛けられています。今後、例えば自分の情報をある程度提供する代わりに無料、そうでなければ課金というようなサービスも増えてくるのかもしれません。

2021年3月4日 7:43いいね
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梶原誠
日本経済新聞社 本社コメンテーター
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分析・考察 IT大手への規制論をかわす経営戦略でもあります。「儲かることを何でもやる→人々の反発を買う→人々が選んだ政治家が規制を強める→成長力を落とす」。企業と規制はこのサイクルの繰り返しです。かつて大儲けしてMBAが殺到していたウォール街の投資銀行も、2008年のリーマン・ショックを経て誕生したオバマ政権の金融規制のあとは成長力を落として人気もなくなりました。バイデン政権下の今、規制の焦点はIT産業です。

2021年3月4日 7:53 (2021年3月4日 8:17更新)
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村山恵一
日本経済新聞社 本社コメンテーター
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別の視点 ネット広告はネット経済を動かす強力なエンジンとして機能し、進化してきました。大量のデータを収集・分析し、精度の高いターゲティングが実現しています。しかし、技術的に可能だからといって、社会的にどこまでも許されるわけではないーー。そんな「技術利用のブレーキ」という論点を含んだ動きと感じます。

2021年3月4日 8:01いいね
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グーグルに記事使用料要求、インドでも 新聞協会が主張

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM26DH80W1A220C2000000/

『【ムンバイ=早川麗】インド新聞協会は26日までに、米グーグルがネットサービスで表示する記事について使用料を払うよう要望する書簡を同社に送った。記事内に表示する広告収入のうち、新聞社側への配分を85%に増やすことも求めた。記事の対価を巡っては欧州やオーストラリアでグーグルなどネット大手と報道機関・政府が対立しており、インドでも反発が強まってきた。

グーグルのインド法人でカントリーマネジャーを務めるサンジャイ・グプタ氏宛てに、新聞協会の会長名義で書簡を送った。協会側は「新聞社が何千人もの記者を雇用し、取材活動や情報の真偽確認にコストを費やしたニュース記事に、対価を払うべきだ」と主張した。

そのうえで、グーグルが契約した報道機関に対価を支払い、利用者が記事を無料で読める新サービス「グーグル・ニュース・ショーケース」を欧州やオーストラリアで始めたことを引き合いに出し、インドの報道機関にも対価を求めた。

さらに「ネット広告収入における新聞社の取り分が減っている」と指摘し、記事内などに表示する広告の収入のうち85%を新聞社に配分するよう要求した。現在の取り分は明らかにしていない。新聞社に提出される広告収入のリポートについて透明性を高めることも求めた。

インドにはヒンディー語やベンガル語、英語など多様な言語の媒体がある。日刊紙だけで約9800紙に上り、発行部数は合計で2億5000万部を超える。世界的に新聞や雑誌などが減少傾向にあるなか、インドは紙媒体の発行部数や売り上げが伸びている数少ない国でもある。

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米国 デジタル課税の「適用除外」案を撤回 G20会合

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR26DPB0W1A220C2000000/

『【ウィーン=細川倫太郎】20カ国・地域(G20)は26日、財務相・中央銀行総裁会議をオンラインで開催した。懸案のデジタル課税をめぐっては、米財務長官として初参加のイエレン氏が、トランプ前政権が提案していた「適用除外」と呼ばれる事実上の骨抜き案の撤回を表明。難航していた交渉を一歩前進させ、米国の変化を印象づけた。

2021年のG20はイタリアが議長国を務める。会議後、記者会見したフランコ経済・財務相…

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会議後、記者会見したフランコ経済・財務相はデジタル課税の議論は行き詰まっていたとしたうえで、「米国の新しい立場はとても重要で、合意を促すものになるだろう」と評価した。7月に伊北部ベネチアで開くG20の財務相・中銀総裁会議で合意をめざすという。

デジタル課税では、グーグルやフェイスブックなど巨大IT(情報技術)企業が集積する米国が一貫して後ろ向きだった。トランプ前政権は19年末に「セーフ・ハーバー(適用除外)」と呼ばれる、企業が課税ルールを適用するか否かを選択できるようにする案を提案。各国は「形骸化が目的だ」と反発していた。

ただ、経済協力開発機構(OECD)を軸とした国際ルールづくりが進展するかは、なお予断を許さない。米国が国際課税への協議に復帰したのは、共通の「最低税率」を定め、国内の法人税率を引き上げたいのがねらいとの見方がある。米国がどこまで議論に関与するかは見通しにくく、日欧には不安視する声も多い。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)からの復興も議論の中心となった。景気回復の期待感から米国で長期金利が上昇し、早期の金融引き締め観測が浮上している。ただ、世界経済はまだ「脆弱で不安定だ」(フランコ氏)と判断し、財政出動や金融緩和を早急に撤回するのは避けることで合意した。

途上国へのワクチンの公平な分配で結束することでも一致した(アフリカ・セネガルの首都ダカール)=ロイター
経済や社会への打撃が深刻で、ワクチンの分配も遅れている途上国の支援を続けていくことでも一致した。一案として浮上しているのは、国際通貨基金(IMF)によるSDR(特別引き出し権)の加盟国への配分だ。ドルなど現実の通貨に交換できる実質的な通貨で、外貨が不足した国の資金調達の手段になる。ただ、一部の国には慎重論も強く、具体的な金額までの議論には至らなかった。

アフリカなどが抱える膨大な債務についても協議した。債務不履行が相次げば世界に信用不安が波及しかねない。20年11月のG20首脳会議では、途上国の債務の返済猶予を21年6月まで延長する措置を了承した。今回の会合では、さらなる延長までの結論には到達しなかった。

デジタル税、7月合意視野 米が歩み寄りへ方針転換―G20

『【ワシントン時事】イエレン米財務長官は26日、バイデン政権発足後初めて参加した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、大手IT企業を対象としたデジタル課税をめぐり、「骨抜き案」の導入を主張していたトランプ前政権の方針を転換すると表明した。国際的な協議の進展へ歩み寄りを示したことで、7月の合意が視野に入った。
「バイデン」シフトに本腰 貿易摩擦解消へ、陣営とも接触―EU

 米グーグルやアマゾン・ドット・コムといった大手IT企業への課税ルールは、経済協力開発機構(OECD)が中心となって策定作業が進められている。しかし、米国が「米企業が狙い撃ちにされる」(ムニューシン前財務長官)と抵抗して協議が難航。国際合意の期限は半年遅れの2021年半ばに延長された。
 焦点だったのが米国が導入を主張した「セーフハーバー」(企業の選択制)と呼ばれるルールの扱い。新たな課税制度の適用を企業の判断に委ねる実質的な骨抜き条項だが、イエレン氏はこの日の会合で撤回する意向を示した。』

[FT]インド「デジタル税」強化、対米摩擦の火種に

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM2559E0V20C21A2000000/

『インドが外国IT(情報技術)企業に対する世界有数の厳しい課税を打ち出し、バイデン米政権との対決に向かっている。

インドのモディ政権は2月、2020年4月にデジタルサービスを対象として導入した税率2%の「平衡税」の改正を発表した。アナリストらによると適用範囲を拡大する内容だ。

電子商取引(EC)から動画ストリーミング配信に至るまでを網羅する課税は、16年にデジタル広告を対象に導入された同種の6%の課…

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電子商取引(EC)から動画ストリーミング配信に至るまでを網羅する課税は、16年にデジタル広告を対象に導入された同種の6%の課税、通称「グーグル税」に続くものだ。

平衡税の改正は、米IT(情報技術)企業を押さえ込もうとして論争を引き起こしているインド政府の大胆な動きの一環だ。国会審議中の厳格なデータ保護法案から、ツイッターなどソーシャルメディア上のコンテンツ規制まで取り組みは多岐にわたる。

だが、トランプ前米政権の最終盤に「最も明確な形での不公平」とみなされた平衡税の改正は、米国との貿易摩擦の危険をはらむ。新たな課税は米国による報復措置の可能性を高め、農産物からハーレーダビッドソンの大型バイクまで、広範な分野で悪化した貿易関係の改善を図るバイデン政権下の取り組みを阻害する恐れがある。

「スリラー作品を見ているようだ。数週間おきに展開が変わる」と話すのは、インド政府系の財政政策研究所(NIPFP)のスランジャリ・タンドン助教授だ。

他国より範囲が広いインドのデジタル税

世界中の各国政府が現在、ニュースメディアに対する影響力や納税額など、巨大IT企業が国内社会で果たしている役割について詳しく調べている。

進出先の各国で大きなビジネスをしながら、本社機能を海外に置いて課税を逃れていると批判を浴びたフェイスブックやグーグルなどの企業への課税に関して、インド政府はいち早く積極姿勢を取った。

デジタル課税の国際ルールをめぐる経済協力開発機構(OECD)での協議が進展しないことに業を煮やし、インド政府はいち早く動いたのだ。英国、フランス、イタリアも独自のデジタルサービス課税を検討している。

「歳入を増やせば問題は解決すると考えているのか、あるいは独自に全当事者を交渉テーブルに着かせるための方策とも捉えることができる」とタンドン氏は言う。「後者に関しては十分にうまくいっている。そもそも平衡税がかけられていなかったら、インドは今ほどの交渉力を得ていなかったはずだ」

各国のデジタル税について調査した米通商代表部(USTR)はインドの平衡税について、他国より範囲が広いとしている。USTRによると、課税される公算が大きい119の企業のうち86社が米企業で、各社のコンプライアンス費用は数百万ドル(数億円)に達するという。

アナリストらは、バイデン米大統領がトランプ前大統領の強硬姿勢を貫くかどうかは不透明だと受け止めている。トランプ氏はフランスのデジタル税導入を受けて、同国からの高級輸入品に25%の報復関税をかけた。

印法律事務所ニシス・デサイ・アソシエーツで国際税務責任者を務めるメイヤッパン・ナガッパン氏は「(編集注、報復関税をかけたら)より解決が困難な問題になる」と話す。

同氏によると、平衡税の適用対象は年間売上高2000万ルピー(約2900万円)超の企業と広範でハードルが低いため、規模の小さい企業はインドから離れる可能性があるという。

「その種の企業は裁判所に訴えたりしない。単純にインドに来なくなるだろう」

「拠点なくても経済活動あれば課税」の論理

インドは現在、米シリコンバレーとの力関係を変えようとしている。例えば、インド国内で続く農民デモに関連するコンテンツの削除をめぐり、要求に従うことを渋るツイッターと対峙している。

インド政府は論争を呼んでいるオーストラリアの新たなメディア法案にも関心を持ち、モディ首相が先週、モリソン豪首相と法案について話し合った。

インドにとって、外国IT企業がもっと税金を払うことは急務だ。14億人が暮らすインドは所得が向上するなかでスマートフォンの普及が進み、ECからクラウドサービスまでビジネスが活況を呈している。

しかし、インドは慢性的に徴税率が低く、さらにコロナ禍が深刻な歳入不足につながり、状況は一層悪化している。

インド政府によると、20年4月~21年1月の平衡税による税収はほぼ150億ルピーで、導入時16年度の34億ルピーから大きく増加している。

法律事務所BMRリーガルのマネージングパートナー、ムケシュ・ブターニ氏は、政府の観点から見ると平衡税導入の論理は「非常にシンプル」だと指摘する。

「ある企業が経済活動をしているとする。実体的な拠点はなくても、この国の市民と取引をしているのだから経済的なつながりがある、ということだ」

だが、デジタル税に対するインドの姿勢は、ビジネスをしにくい国という悪評をさらに高める危険もはらむ。悪評は、遡及課税をめぐる英ボーダフォンや英ケアン・エナジーなどの企業との何年にもわたる紛争の産物だ。

途上国にも優しい解決策を

インドは18年、実体的な拠点はなくても国内で「重要な経済的存在感」を示していればいれば課税するとして、外国IT企業に対する姿勢を強めた。ただし今のところ、大半の西側企業は2国間租税条約により課税から守られている。

インドの賭けは成功するのか、アナリストの見方は分かれる。インド最高裁で訴訟に携わる資格を持つ弁護士のアシュシ・ゴエル氏は、最終的にはインドが国際舞台でより有利な税制を求めることに役立つかもしれないとの見方だ。

「待ち続けているわけにはいかない」と同氏は言う。「先進国だけでなく、途上国側にも優しい解決策があってしかるべきだ」

By Benjamin Parkin

(2021年2月24日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

英フィナンシャル・タイムズ(FT)と日経新聞の記者が、アジアのテクノロジー業界の「いま」を読み解くニュースレター「#techAsia」の日本語版をお届けします。配信は原則、毎週金曜。登録はこちら。
https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=B009&n_cid=BREFT053

豪議会、記事対価支払い法案を可決

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM251270V20C21A2000000/

『【シドニー=松本史】オーストラリア連邦議会は25日、IT(情報技術)大手がネットサービス上で表示するニュース記事について、報道機関に利用料の支払いを義務付ける法案を賛成多数で可決した。

豪政府は当初、グーグルの検索サービスなどを法案の対象とする方針だった=ロイター

今後、担当閣僚であるフライデンバーグ財務相が対象となるサービスを決定する。政府は当初、米グーグルの検索サービスとフェイスブックのニュースフィードを対象とする方針を示していた。しかし、既存サービスへの課金に両社は強く反発。グーグルは2月、新サービス「ニュース・ショーケース」を豪州で開始した。すでに複数の豪大手メディアが記事を提供し、グーグルから対価を受け取ることで基本合意している。フェイスブックもすでに米英で開始した新サービス「ニュース」での交渉を模索しているとみられる。

豪政府はグーグルとフェイスブックの動きを受けて23日に法案の修正を決めた。豪政府関係者によると、対象サービスの指定は「グーグル、フェイスブックと豪メディアの交渉の結果」が出た後になる見通しだ。

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