米・ウクライナが牛耳る中国人の胃袋、習近平氏の不安

米・ウクライナが牛耳る中国人の胃袋、習近平氏の不安
編集委員 中沢克二
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFE271ZN0X20C23A5000000/

『造林をやめて畑に戻せ――。中国のインターネット言論空間で今、最もホットな言葉である。中国語のスローガンとしては「退林還耕」という四字熟語になる。各地で始まった公園をつぶしての耕地化、林伐採が映像付きで出回り、「税金の無駄遣いではないのか」といったシビアな声を含む賛否両論が巻き起こっているのだ。

過去、中国に関わった人なら「これは間違いだ。逆ではないのか」と思うだろう。なぜなら、20年以上にわたっ…

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『なぜなら、20年以上にわたって中国政府の基本方針は、樹木の伐採で必要以上に切り開いてしまった畑を再び森林に戻す「退耕還林」だったからだ。

ここには「改革・開放」政策以降の中国の食糧・農業政策の歴史が絡む。「だれが中国を養うのか――」。米国の学者、レスター・ブラウンが1990年代に中国の食糧不足を心配する論文を発表したことで、中国は一時、自給率引き上げに躍起になる

食糧大増産は当時、首相だった李鵬が旗振り役だった。だが、1998年、辣腕といわれた改革志向の朱鎔基が後任首相に就くと地合いが変わる。ブラウンの指摘に踊らされた必要以上の増産で穀物過剰となり、高コストも問題になったのである。

中国西部地域では2000年ごろから非効率な耕地を林に戻す運動が始まった。兵士は山肌に植樹用の穴を掘っている(2000年、甘粛省蘭州市郊外)

まさに鼓腹撃壌。人民のおなかは十分に満たされたと自信をもった中国政府は、ここから「退耕還林」にカジを切る。ひどくなる一方だった黄砂被害の防止という環境重視とともに、内陸部にある農村の過剰人口を、沿岸部の都市近郊で拡大する工業地帯の労働力として活用するため移動させる社会・産業政策でもあった。

「退耕還林」から一転、「退林還耕」も

2012年、習近平(シー・ジンピン)が中国共産党総書記、続いて国家主席に就くと、この方針がグレードアップする。自らの時代を特徴づける政策として「緑色運動」の旗を大々的に振ったのだ。

温暖化防止という世界の潮流にも合致する環境重視は、習時代の「一丁目一番地」の政策だと誰もが思っていた。中国全土で上意下達式の「政治運動方式」によって緑化が進んでいたのだから。ところが、ここ数カ月で様相が変わってきた。主な原因は、習がよく口にする「百年に一度しかない大変局」である。

「(中国内では)既に『退耕還林』は、口にしにくい時代になった。皆、トップの一挙手一投足に敏感になっている」

「我が中国は、食糧増産に転換する兆しがある。理由は、ウクライナでの戦争、そして米国が主導する中国包囲網だ。そこには、インド太平洋経済枠組み(IPEF)だって関係している」

これらは、中国の学者、知識人らが、内外のインターネット空間上を含めて発信している声である。

IPEFは大国、中国が貿易・経済上の力を武器に、立場が弱い国を威圧するのを防ぎつつ、自由貿易体制を守る足場を築くものだ。IPEF参加14カ国は先の閣僚級会合で重要物資のサプライチェーン(供給網)を強化する協定策定で合意した。

中国にとっては大問題である。そればかりではない。もっと切実に中国人民の生活に直結する問題が浮上している。それは、ロシアによるウクライナ侵攻で一気に顕在化した。

中国の食卓に様々な料理として並ぶトウモロコシだが、輸入先は米国とウクライナが主体だった

実は、中国人民のおなかを直接、間接的に満たしていたのは、世界の穀物庫といわれる農業大国、ウクライナのど真ん中の穀倉地帯で育つトウモロコシでもあった。三大穀物のひとつでイネ科のトウモロコシは飼料用でもある。中国では収益性が高い養豚用に輸入品が回される。

かつて全輸入量に占めるウクライナの割合は8割強だったが、その後、米トランプ政権時代の米中貿易戦争の妥協策として米国産が急増。21年には米国産が7割、ウクライナ産が3割になった。既に中国の需要の1割以上を占め、さらに増加傾向だった輸入トウモロコシを牛耳っていたのは、米国・ウクライナ両国なのだ。

ちなみに中国の人々が好んで食べるヒマワリの種子も、相当量が搾油用などとしてウクライナから輸入されてきた。1970年に公開されたソフィア・ローレン主演の名画「ひまわり」で有名になったあのウクライナの美しいヒマワリ畑で育った種である。

22年トウモロコシ輸入量は3割弱の激減
だが、中国側報道によれば、中国の22年トウモロコシ総輸入量は、前年比27%減った。契約切れなどによる米国産の減少に加え、ウクライナ侵攻というロシアの蛮行のせいで、ウクライナ産も大きく減り、国際相場も20年初の2倍以上に高騰したのが原因だった。

中国東北部では欠かせないトウモロコシのマントウ
中国が慌てるのは無理もない。中国は世界貿易機関(WTO)加盟後、安定した貿易秩序を享受して急成長した。原動力は工業へのシフトだ。高コストで競争力のない中国国産大豆には見切りをつけ、海外産に頼る方向に。既に大豆では総需要の85%を輸入に頼る。こちらも米国依存が突出していた。

中国政府は「自給率は十分、高い」と主張してきた。だが、1人に供給される食料全品目の熱量に占める国産の割合を示すカロリーベースの食料自給率を国際統計から計算すると、70%台半ばにすぎないとの推計もある。ここには中国の食の米欧化による肉類の輸入急増も関係している。

日本で華人向けに輸入販売される中国ブランドのトウモロコシ加工食品の原料産地は、多くが米国だ。中国東北地方で好まれるトウモロコシ粉の蒸しパン(冷凍)などが目立つ。
ウクライナ侵攻1年を経て、中国のトウモロコシ輸入はどうなったのか。中国側報道によれば、23年1〜3月のトウモロコシ輸入先ビッグスリーは①米国②ブラジル③ウクライナの順になった。輸入先シフトでブラジル産が急増したが、3位のウクライナ産との差は大きくない。

先の主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)に出席するため、はるばる広島にやってきたウクライナ大統領のゼレンスキーと、ブラジル大統領のルラは結局、2国間会談をしなかった。両国首脳の政治的立場の違いとは別に、中国向け穀物輸出で激しく競争する両国のライバル関係は興味深い。

習近平の大きな心配は、まず①の米国だ。米国が主導するIPEFは、米デトロイトでの閣僚会議で中国が大きな世界シェア握る製品、材料の輸出制限を政治的な道具に使う問題に対処する「供給安定」で合意した。

広島平和記念公園で献花したウクライナのゼレンスキー大統領(21日)

農業大国、米国の政治構造を考えれば、大統領選を控える米国が、食糧輸出を対中圧力の武器に使うとは思えない。それでも習は不安だろう。豊かになって食欲旺盛な中国人民の胃袋を牛耳っているのは米国なのだから。

そこに③のウクライナも大いに関係している。だが、戦闘終結のメドは立たない。中国は、ロシアとウクライナの間の和平仲介に意欲を見せているが、穀物需給の点からみても、ひとまず早期停戦が望ましいのは確かだ。

中国が食糧増産に転換した明確な証拠がある。3月の全国人民代表大会(全人代)で退任前の首相、李克強(リー・クォーチャン)が読んだ政府活動報告である。作付面積の確保で5000万トンの食糧(穀物、イモ、豆類など)の増産を宣言している。

目標達成には、かつては畑だった林を耕地に戻し、農業の担い手も確保しなければならない。これは、都市部で仕事がない失業中の若者を農村に送り込む政策につながっている。21世紀初頭のまるで逆である。こうして中国全土で耕地拡大がにわかに始まった。

習氏は「安全担当者」連れで小麦畑視察

習は、文化大革命(1966〜76年)中だった青年期を西部の陝西省で過ごし、清華大学卒業後は、河北省の農村、正定県のトップとなった。農業、とりわけ小麦、トウモロコシの重要性は熟知している。1985年、正定県トップの習が初めての外国視察の地として選んだのも、トウモロコシなど穀物生産の先進地域である米アイオワだった。

11日、河北省で小麦畑を視察する習近平国家主席(右)と、同行した共産党政治局常務委員の蔡奇氏(左)=国営中国中央テレビの映像から

その習は5月11日、北京の近い河北省の小麦畑をあえて視察した。7人しかいない党政治局常務委員のひとりで、異例の形で中央弁公庁主任にも就いた蔡奇(ツァイ・チー)が同行していた。

蔡奇は、広い意味の国家安全も担当している。この動きからは、中国的な意味で「安全」に大きく関わる食糧の確保が、どれほど重要な課題になっているのかが透けてみえる。

なんだかんだ言っても、中国は食べ物を米国に頼っている。これから急速に「退林還耕」に動き、小麦、大豆、トウモロコシを増産したとしても、胃袋を米国に握られている構造は当面、変えられない。

万一、台湾海峡を巡る緊張などがさらに激化したとき、習が頻繁に口にしてきた「戦いへの備え」は十分なのか。「長期戦」にも耐えうる食糧を確保できるのか。国家指導者にとって最大の不安が、すぐに解消されることはない。(敬称略)

中沢克二(なかざわ・かつじ)
1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

【関連記事】

・ゼレンスキー大統領が北京で習近平氏と会う条件
・「ロシアは中国の属国」が波紋 習氏はウクライナに特使 』

有事の食料確保、法整備へ

有事の食料確保、法整備へ
輸入停止や凶作 増産や売り渡し、首相指示可能に
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70648280Z20C23A4MM8000/

『政府は紛争による輸入停止や凶作で食料供給が滞る事態に備えた対応策を整える。農家や事業者に穀物の緊急増産を求めたり、国が売り渡しを命じたりするための新法を検討する。日本は食料自給率が低く、輸入に頼る。供給網の混乱や台湾有事などに備え、食料安全保障の向上に取り組む。

ドイツや英国など海外では食料安保のリスクに対応する法整備が進む。日本は農林水産省が2012年に策定した「緊急事態食料安保指針」で食料危…

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『日本は農林水産省が2012年に策定した「緊急事態食料安保指針」で食料危機時の政府の対応策を記している。法的拘束力がなく、実効性を確保できていなかった。

農水省が28日に開いた「食料・農業・農村基本法」の見直しを議論する検証部会で、食料安保の強化へ「政府全体で意思決定する体制を検討する」方向性を示した。

基本法の改正案を24年の通常国会にも提出する。関係省庁で構成し、首相が司令塔の「対策本部」を設けられるようにする。増産指示などの具体的な取り組みの裏付けとする新法については有識者検討会を夏ごろに設置する。海外事例も参考に具体的な制度を詰める。
例えば世界で同時に凶作となり、食料や肥料が日本に入りづらくなる場合などを念頭に置く。緊急増産や、食品製造業などからの売り渡しを指示できるようにする。

花きを生産する農家らにカロリーが高いイモや穀物などへの生産転換を働きかけることも想定する。物流事業者に対する輸送先の変更や保管命令なども視野に入れる。指示により農家らの収益が下がることも考えられ、財政支援の仕組みを設ける方向で調整する。

食品価格が暴騰した場合に一定の価格統制などをはかる案も出ている。スーパーで食料が極端に品薄になるような場合に買い占めを防ぐ方策も考える。

新法検討の背景には食料安保のリスクの高まりがある。ロシアのウクライナ侵攻で小麦や肥料の価格が高騰した。両国をあわせると世界の小麦輸出の3割を占める。

地政学リスクもある。台湾海峡は食料を積んだ日本向けの船舶が多く通過する。中国が台湾を侵攻する台湾有事で海峡が閉鎖されれば大きな影響を受けかねない。気候変動が進み、世界で凶作や水害も多発している。

日本の食料自給率は38%(カロリーベース)で主要7カ国(G7)で最も低い。食品の輸入金額は米国や中国など上位4カ国・地域で5割を占める。特に小麦や大豆、飼料穀物などの輸入が多く、特定国に依存する。

調達先の多様化や、有事の代替先確保も重要になる。自給率の引き上げも欠かせない。増産に対応できるように農業事業者の競争力を高め、使える農地を減らさない取り組みも必要になる。』

ロシア外務次官「穀物合意の延長に反対せず」

ロシア外務次官「穀物合意の延長に反対せず」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR13C850T10C23A3000000/

『インタファクス通信によると、ロシアのベルシニン外務次官は13日、黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出を可能にしている同国とロシア、国連、トルコの4者合意の延長について、反対しない考えを示した。スイス・ジュネーブでの国連との協議終了後にコメントした。

穀物合意は今月18日に期限切れとなる。ベルシニン次官は合意の延長に反対しないとしながらも、有効期間を現在の120日ではなく半分の60日にするよう求めた。「それ以降の立場は実際にどうなるかで決まる」と述べ、ロシア産農産物の輸出に対する障害が欧米によって取り除かれるかどうかにかかっていると指摘した。

ベルシニン次官の発言は、欧米による対ロシア制裁でロシア産の農産物と肥料の輸出が妨げられているとの不満を反映している。「表明されたロシア産農産物と肥料に対する制裁の除外は実際のところ機能していない」と主張した。』

ウクライナ「欧州のパンかご」直撃 世界的食料価格が高騰

北の国から猫と二人で想う事 livedoor版:ウクライナ「欧州のパンかご」直撃 世界的食料価格が高騰
https://nappi11.livedoor.blog/archives/5408026.html

『ロシアのウクライナ侵攻は、世界的な食料価格の高騰を引き起こし、国連食糧農業機関(FAO)によると、2022年の世界の食料価格指数は前年比で約14%上昇し、1990年の統計開始から最高となった。

ちなみに、旧ソ連は、1980年代までは、穀物相場を左右する「大輸入国」であった。小麦とトウモロコシを合わせた年間の輸入量は、平均3500万トンあったが、2000年代からは、市場経済の下で生産性を向上させて、ウクライナを含む旧ソ連圏の穀物が7000万トン近く輸出に向けられるようになった。ここでは、ロシア、ウクライナ、カザフスタンが生産の主力で、中近東、北アフリカへ、次いで、サブサハラのアフリカなどへ輸出。日本にも2018年産で1万8000トンを輸出している。参照記事
FireShot Webpage Screenshot #576 – ‘Edit Image – Handy Screens

大半の地域がチェルノーゼムと呼ばれる肥沃な黒土(くろつち)に覆われていウクライナは「欧州のパンかごThe Breadbasket of Europe」と呼ばれる小麦やトウモロコシなど穀物の生産大国だ。侵攻前の小麦の生産量は世界6位、輸出量は5位だった。

ところが黒海がロシア軍に封鎖されると、主要輸出港の南部オデッサに穀物が滞留。FAOの穀物価格指数(14~16年の平均=100)は、侵攻が始まった2022年2月以降に上昇し、ピーク時の5月には173・5ポイントを記録した。その後、国連などの仲介で、7月に黒海からウクライナ産穀物の輸出が可能になり供給不安は後退したが、価格は侵攻前より高い水準で推移している。

ウクライナ産穀物への依存度が高いアフリカは、深刻な食料危機に直面する。国連世界食糧計画(WFP)によると、世界で切迫した食料危機に直面している人は22年、記録のある中で最も多い3億4900万人に上った。WFPはウクライナ侵攻が「既に危機的だった世界の食料状況を一層悪化させた」と指摘している。参照記事 』

トルコ大統領、プーチン氏にウクライナ穀物合意拡大訴え

トルコ大統領、プーチン氏にウクライナ穀物合意拡大訴え
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB112PU0R11C22A2000000/

『【イスタンブール=時事】トルコのエルドアン大統領は11日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、ウクライナ情勢を巡り協議した。エルドアン氏はこの中で、ウクライナ穀物輸出合意の対象を他の商品にも拡大するよう呼び掛けた。

穀物合意は今年7月、トルコと国連がロシアとウクライナを仲介する形で成立した。トルコ大統領府の声明によると、エルドアン氏は合意によりこれまでに「1300万トン以上の穀物が(世界各地の)必要とする人々に届けられた」と指摘。4者が引き続き協力を進め、穀物以外の産品の輸出も段階的に始めるべきだと訴えた。

ロシア大統領府によれば、両首脳はウクライナのみならずロシアからの産品輸出も進めることを確認。先に首脳間で議論したロシア産天然ガスの輸出拠点をトルコに設置する計画や、トルコがクルド人勢力に対する新たな地上作戦を検討するシリア北部を巡る状況について意見交換した。

エルドアン氏はこの後、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話で会談。ゼレンスキー氏はツイッターに投稿し、穀物合意の「拡大の可能性」について話したと明らかにした。

一方、ウクライナ南部の港湾都市オデッサでは10日、ロシア軍によるエネルギー関連施設への攻撃で深刻な停電が発生した。攻撃にはイラン製ドローンが使われたとみられる。オデッサは穀物の積み出し港で、混乱が続けば穀物輸出に支障が出るのは避けられない状況だ。

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ロシアの穀物合意停止、安保理で相次ぎ非難

ロシアの穀物合意停止、安保理で相次ぎ非難
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN31CHG0R31C22A0000000/

『【ニューヨーク=吉田圭織】ウクライナ産穀物の輸出を再開する合意の履行をロシアが一方的に停止したことを受け、国連の安全保障理事会で10月31日、米欧の理事国を中心に非難が相次いだ。国連の代表らは「穀物輸出の取り組みには軍用船舶は関わっていない」と指摘し、合意継続を呼びかけた。

安保理会合はロシアが開催を要請した。ロシアは占領する南部クリミア半島セバストポリの軍港で、ウクライナ軍が多数の無人機を使い「テロ行為」に及んだと主張している。ロシアのネベンジャ国連大使は「テロ行為は合意を弱体化させるのが狙いだ。ウクライナは穀物回廊を軍事目的に利用している」と述べた。

一方、フランスのドリビエール国連大使は「この数週間、ロシアは合意停止の口実を探していた」と批判した。英国のウッドワード国連大使は「ウクライナの海域を違法に支配し、ウクライナの町を攻撃しているのはロシアの黒海艦隊のほうだ」と強調した。

国連人道問題調整室(OCHA)のグリフィス室長(事務次長)は会合で「(ロシアは)貨物船が軍事利用されたと主張している。だが攻撃が起こったとされる29日には貨物船は一つもなかった」と話した。同時に「ロシアからは合意脱退ではなく、一時的な停止だとの説明を受けている」と語った。

穀物合意の協定は11月19日に期限切れとなる。国連貿易開発会議(UNCTAD)のグリンスパン事務局長は「全ての関係国に合意を再開し、延長に向けた努力を尽くすよう求める」と訴えた。』

バイデン大統領「言語道断」 ロシアの穀物輸出合意停止

バイデン大統領「言語道断」 ロシアの穀物輸出合意停止
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN300DU0Q2A031C2000000/

『【ワシントン=坂口幸裕】バイデン米大統領は29日、ロシアが7月にウクライナと合意した黒海経由での同国産穀物の輸出再開を一方的に停止すると発表したことについて「飢餓を増やす。言語道断だ」と非難した。ブリンケン米国務長官は声明でロシアに合意内容の履行を要求した。

ロシア国防省は29日、国連とトルコの仲介で合意したウクライナ産穀物の輸出再開について、一方的に合意の履行を無期限で停止すると表明した。29日早朝にロシアが占領する南部クリミア半島の軍港が多数の無人機で攻撃されたことに反発している。

バイデン氏は地元の東部デラウェア州で記者団に対し、ロシアについて「彼らがやっていることに利点はない」と断じ、世界の穀物価格への影響に懸念を示した。米国は食糧不足で中東やアフリカなど新興国に深刻な打撃になると警鐘を鳴らしてきた。

ブリンケン米国務長官も同日の声明でロシアの行動に「遺憾」を表明し、すべての当事者に人命にかかわる合意を機能させるよう促した。7月の合意に伴う食料輸出の再開が価格下落につながるとし「低・中所得国にとって決定的に重要で、継続しなければならない」と訴えた。

合意の一方的な停止を巡り「ロシアが自ら始めた紛争で再び食糧を武器として使い、悲惨な人道危機と食糧不安を悪化させる」と批判した。

ロシアは2月24日のウクライナ侵攻後、黒海に面したウクライナ南部オデッサ港を封鎖した。トウモロコシや小麦など世界有数の穀物輸出大国であるウクライナからの出荷が停滞し、食糧価格の高騰につながった。合意が一方的に破棄されれば、輸出が再び滞るおそれがある。

【関連記事】

・ロシア、穀物輸出合意「停止」 クリミア攻撃に反発
・国連、輸出合意の維持訴え 食料供給で役割強調

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オデッサの南海域で機雷のようなものを貨物船がみつけた…。

オデッサの南海域で機雷のようなものを貨物船がみつけた…。
https://st2019.site/?p=20537

 ※ 今日は、こんなところで…。

『The Maritime Executive の2022-10-27記事「Possible Mine Sighting Stops Ukrainian Grain Exports for a Day」。

   オデッサの南海域で機雷のようなものを貨物船がみつけたので、穀物の積み出しが止まっている。』

https://af.moshimo.com/af/c/click?a_id=1637377&p_id=170&pc_id=185&pl_id=4062&url=https%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fdp%2F4198655405

黒海回廊、穀物船が滞留 ウクライナはロシア非難

黒海回廊、穀物船が滞留 ウクライナはロシア非難
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2520T0V21C22A0000000/

『【イスタンブール=共同】ウクライナから黒海の回廊を通じて穀物を運び出す貨物船の運航を監視する「合同調整センター」は24日、船の検査が遅れ、トルコ・イスタンブール沖で多数が滞留していると発表した。ウクライナ外務省はロシアの検査官が作業を長引かせ、船が立ち往生していると非難する声明を出した。

調整センターによると、検査登録されている船は113隻に上るほか、さらに60隻が待機している。センターは検査態勢を増強する対応に追われる一方、遅延によるサプライチェーン(供給網)の混乱に懸念を示した。

穀物輸出は国連とトルコが仲介した合意に基づき、8月1日に再開した。おおむね順調に拡大してきたが、最近は滞留が目立っていた。現在の合意は11月半ばを期限としており、更新に向けた議論も進む。ロイター通信によると、ロシアは合意離脱を警告している。

船の検査はロシア、ウクライナ、トルコ、国連が参加する検査チームがイスタンブール沖で行っている。調整センターは4者のいずれも非難していないが、ウクライナ外務省は「検査の遅れはロシアの政治的な動機によるものだ」と主張した。

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経済安保、食料さえも武器に 友好国と調達再構築

経済安保、食料さえも武器に 友好国と調達再構築
分断・供給網(下)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC059NL0V01C22A0000000/

『カイロ市民から今夏、「パンの色がくすんだ」との声が上がり始めた。エジプト政府が小麦の製粉時に取り除く外皮の比率を減らしたのが原因とみられている。低所得者向けのパンには国が補助金を出し20枚で約7円に抑えている。同国は輸入小麦の8割をロシアとウクライナに頼る。小麦の国際価格はこの1年で4割上がった。食用部分を多く確保する苦肉の策だ。

【「分断・供給網」記事一覧】

・ゼロチャイナなら国内生産53兆円消失 中国分離の代償
・ジャストインタイムの終わり インテル、50年目の転換

食料は武器

世界で食料の価格が上がっている。国連食糧農業機関の指数は9月に136と歴史的な高水準にある。「食料は武器。静かだが強力だ」。ロシアのメドベージェフ前大統領は言う。

日本も多くの食料を輸入に頼る。農林水産省によると日本の食品消費額は約15兆円。輸入品が3割を占め、中国(約5000億円)が米国に次ぐ輸入先だ。国連貿易開発会議によれば2021年に日本が輸入した野菜の53%、加工魚の52%が中国産だ。中国産食品は安全問題が注目されたが輸入が途絶すれば食卓は一変する。

全量中国依存の肥料も

深刻なのが農業に欠かせない肥料だ。肥料の輸出量はロシアと中国が首位と2位で全体の3割を占める。9月の国際価格は中ロが輸出を絞った影響で前年同月比7割上昇した。日本ではコメなどに使う化学肥料のリン酸アンモニウムのほぼ全量を中国に依存する。

中国にとって食料や肥料は他国をけん制する戦略カードだ。だが自国の食料の供給網も盤石ではない。

中国の21年の食品輸入額(飲料除く)は5年前の2.5倍の約18兆円まで増えた。特に米国産が輸入の3割を占める大豆は食用だけでなく家畜の飼料にも使われ、輸入できなくなった場合の影響は計り知れない。

中国は自給率を高めるため自国内での穀物の大幅増産を打ち出す。アフリカに対しても農業への投資を拡大。10カ国超の関税をゼロにするなど対中輸出を増やす動きを強めている。
偏在リスクも

日本の脱中国の動きは鈍い。政府は6月の報告書で食料供給網の混乱のリスクを取り上げた。企業もニチレイが冷凍食品の一部の生産を中国などから国内に移すことを決めた。だがこうした動きは一部に限られる。価格の安い中国産を減らすのは容易ではない。

供給網のブロック化が進む新たな経済秩序では重要物資の偏在リスク、特に中国の影響を世界は注視する必要がある。

液化天然ガス(LNG)は欧州で冬期の供給不安が懸念されたが、経済減速で1~8月の中国の輸入量が前年同期比2割減るととたんに在庫が増えた。価格も下がり、欧州の10月の天然ガス価格は100万BTU(英国熱量単位)あたり40ドル台と8月に比べて6割ほど割安になっている。食料も中国次第で世界の需給が大きく左右される。

解の一つが友好国と供給網を再構築する「フレンドショアリング」だ。米国主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」では食料の供給網整備が主要議題の一つとなった。食料を安定的に確保する体制をつくるには数年以上の時間がかかる。分断の損失を埋める新たな枠組み作りが急務になる。

「分断・供給網」は京塚環、江口良輔、赤間建哉、川上梓、田辺静、湯沢維久、カイロ=久門武史が担当しました。

【関連記事】

・供給網のゼロチャイナ、どう対応 識者に聞く
・「供給網、有事備え設計変更も」 識者に聞く
・「安定供給、消費者も負担必要に」 識者に聞く

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立教大学ビジネススクール 教授
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もっと暑くなる(気候変動問題)×もっと足りなくなる(資源問題)でもっと深刻になるのが食料問題。食料問題に対峙する有力な手段が農業DX。農機メーカーだった米ディア社はDXを駆使してテクノロジー企業に変貌、ビルゲイツ氏も主要株主となっています。日本でもクボタが顧客である農家とデジタルでつながり、農業におけるプラットフォーム構造を構築して農業の生産性を高めています。食料輸入国である日本ができることはテクノロジーで食料問題に対峙すること。そして、食料がもっと足りなくなるからこそ求められているのが国家間のつながりを強めていくこと。分断の最大の代償は食料問題。人と人のつながりが鍵になると信じたいものです。
2022年10月20日 7:05 (2022年10月20日 7:36更新)

福井健策のアバター
福井健策
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
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分析・考察

脱依存ということを、何度か書いて来ました。もちろん、個人も企業も国家も、私たちは他者とのつながり無しには生存することはできません。ただ、つながりと依存の違いは、依存とは特定の他者に存在のいずれかの要件を頼り切ってしまい、それを失った時の代替策がないことを言います。対義語は、自立でしょう。
混迷の時代に流されないために、食糧であれエネルギーであれ他の安全保障であれ、自助できる部分と協力先を増やし、各要素の一国への依存を出来るだけ減らすこと。(例えば20%以下に。)
それは私たちにある程度の我慢と覚悟を強いるでしょうが、自立した本当のパートナーシップのためにも、その努力が必要な時だと感じます。
2022年10月20日 7:45

柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

以前、工場を見学したことがある。スペイン沖で取れたアジは中国に運ばれ、中国の工場で開いてから日本に輸出されている。そして、焼き鳥は、タイの飼料メーカーは中国の工場で人海戦術で串さしてからコールドチェーンで大連まで運んで日本に輸出。まさにグローバルなサプライチェーンである。中国自身は食糧を輸出するほど食糧が余っていない。どちらかというと、中国は世界から集まった材料を加工する基地である。新たなサプライチェーンと食糧安全保障を計画するならば、新たな加工基地と物流システムを整備する必要がある
2022年10月20日 7:37』

金融政策は死んだのか 「大いなる不安定」に向かう世界

金融政策は死んだのか 「大いなる不安定」に向かう世界
金融PLUS 金融部長 河浪武史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1817S0Y2A910C2000000/

 ※ 「金融政策」とは、「金利を操作して」「国内景気をコントロールする」策のことだろう…。

 ※ そういう「策」が、「世界的なパンデミック」による「経済停滞」、「戦争勃発によるエネルギー資源流通の停滞、食料資源流通の停滞による経済停滞」に、効果があろうハズも無い…。
 ※ 別に、「死んだ」わけじゃない…。

 ※ そもそも、構造的に「効果を発揮しようもない」事がら、というだけの話しだ…。

『日米欧で金融政策への信頼が揺らいでいる。日本は9年半の「異次元緩和」が思うように機能せず、米国も当局の誤算で40年ぶりの高インフレに陥った。根本原因である人口減少や地政学リスク、資源高には中央銀行だけで対処できない。1990年代以降の大安定時代(グレートモデレーション)から大不安定時代に変化したことが、金融政策の機能をますます弱めている。

FRBも日銀も物価を制御できず

「新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻が、マクロ経済の安定の転機になるのか。つまり、大いなる安定(Great Moderation)から大いなる不安定(Great Volatility)に移行するのか」。中銀関係者が今、最も話題にするのは、欧州中央銀行(ECB)のシュナーベル専務理事による「金融政策と大いなる不安定」と題したジャクソンホール(米ワイオミング州)での講演だ。

息の長い景気拡張となった90年代以降の「大いなる安定」は、80年代の高インフレの抑え込みがその理由と信じられている。大安定期は経済の先行きが読みやすく、中銀にとっては金融政策で市場と景気を自在に調整できた「黄金の時代」でもあった。その中銀関係者がこぞって「大不安定」を口にするのは、米欧で高インフレの発生を許し、日本では逆に大規模緩和が効果を上げないもどかしさがあるからだろう。

確かに経済・市場は「大いなる不安定期」にある。例えば米国では、コロナ危機で2020年春に失業率が14%台と戦後最悪の水準に悪化。その後の経済再開で今度は国内総生産(GDP)が戦後最大の伸び率となり、21年以降は資源高でインフレが止まらなくなった。日本も24年ぶりの円安となり、消費が弱含むなかで30年ぶりのインフレ水準にある。シュナーベル氏は「ユーロ圏もこの2年の生産量の変動率が09年の大不況期の5倍」と指摘する。

ジャクソンホール会議では、マクロ経済政策としての金融政策の限界論も議題となった(米ワイオミング州)=ロイター

「大いなる不安定」に移りつつある理由は3つ考えられる。まずはグローバル化の反転だ。1990年代以降の「大いなる安定」は、東西冷戦の終結で市場経済が世界大に広がった影響が大きい。足元はウクライナ危機や米中貿易戦争などで逆に世界経済が分断し、物価と景気を左右する資源と労働の供給も世界的に大混乱している。

もう一つは気候変動だろう。欧州が過去500年で最悪の干ばつに見舞われるなど、気候の変化は一段と予見しにくくなっている。短期的にみても、脱炭素社会への移行は石油価格の変動を大きくし、電気自動車などに使うレアアースの価格をさらに高騰させる。

大不安定を招く3つ目の要因は、金融政策そのものだといえる。米連邦準備理事会(FRB)やECBは、1回で0.5~0.75%という通常の2倍、3倍のペースでの利上げを進めている。緩和縮小の出遅れが最大の理由だが、急激な金融引き締めを断行せざるをえないのは、小幅な利上げでは政策効果を発揮できなくなっていることもある。

例えば巨大IT企業の設備投資はその巨体ほどは大きくない。製造業からサービス業、知識産業へと経済構造が変化するにつれ、産業全体の借入ニーズは小さくなり、金利で総需要をコントロールする金融政策の効果もしぼむ。効き目を持たせようと利上げや利下げの幅を大きくすれば、実体経済よりも金融市場での振幅が一段と大きくなる。日銀の異次元緩和も同じ文脈で、日本経済は円安という副作用ばかりが目立つ。

大いなる安定を支えた金融政策は、長くマクロ経済政策の王道だった。次なる「大いなる不安定」を避けるには、サプライチェーン(供給網)の安定など個別政策の組み合わせが重要になる。単純な金融政策頼みでは立ちゆかない。

「大いなる安定」は幸運が生んだ

「大いなる安定」は単なる幸運だったとみることもできる。内閣府の分析によると、80~90年代の世界的な物価低下の最大の要因は、省エネルギーと原油増産による1次産品の価格下落にあったという。当時の商品価格相場は70年代のピークから3割強も下落。とりわけ米国では物価低下の要因の8割が原油価格の下落にあり、マネー収縮の効果は1割程度にすぎなかった。

中央銀行は景気と市場の「最後の砦(とりで)」でもある。2008年のリーマン・ショックや20年のコロナ危機下では、大量の資金供給で市場の崩壊を食い止めた。足元のインフレを金融政策だけで制御するのは難しいとはいえ、中銀への信認が崩れれば市場の不安はさらに増す。静かに進む「金融政策の死」を食い止めるには、地政学リスクや公衆衛生リスクが早期に収まる強運も期待しなくてはならない。

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・決定会合ウイーク 円安、株安圧力の持続焦点
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ニューズレター https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?n_cid=DSREA_newslettertop 

金融PLUS https://www.nikkei.com/theme/?dw=21050703 』

米国務長官「ロシアに侵攻停止圧力」 インドの苦言巡り

米国務長官「ロシアに侵攻停止圧力」 インドの苦言巡り
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1709H0X10C22A9000000/

『【ワシントン=中村亮】ブリンケン米国務長官は16日の記者会見でロシアによるウクライナ侵攻について「攻撃停止に向けた圧力が増している」と述べた。インドがロシアに苦言を呈したほか、中国も懸念を伝えたとみられることを念頭に置いた発言だ。

ブリンケン氏は「中国やインドから聞こえてくることは、ウクライナに対するロシアの攻撃の影響についての懸念を反映している」と語った。食料価格の高騰に触れて「世界中の国の指導者が(負の影響を)感じている」と言及した。

インドのモディ首相は16日、訪問先のウズベキスタンでロシアのプーチン大統領と会談し「いまは戦争の時ではない」と伝えた。プーチン氏は15日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席との会談で「ウクライナ危機に関する中国の懸念を理解している」と話していた。 』

[FT]アフリカの数百万人、貧困層に 世界規模の物価高で

[FT]アフリカの数百万人、貧困層に 世界規模の物価高で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB142Q60U2A910C2000000/

『アフリカ南部マラウイ最大の都市ブランタイアに住むジャドソン・マンクワラさん(39)は、価格高騰でビニール袋入りの木炭を買えなくなり、薪にする小枝を拾い集めるようになった。
ナイジェリア最大の都市ラゴスの生鮮食品市場。物価バスケットに占める食料品の割合が大きいアフリカ各国は、世界的なインフレにより深刻な打撃を受けている=ロイター

失業中のマンクワラさんは小枝の束を脇に抱えながら、「炊事用の燃料を買えないので薪を拾っている」と話した。

ウクライナ戦争や米国の利上げによる通貨下落、長年の経済失政が重なり、マラウイのインフレ率は25%に達した。同国では消費者物価バスケット(物価指数の基準品目)に占めるトウモロコシなど主要食料品の割合が50%近くに上るため、食品価格が急騰すれば、1袋30セント(約43円)程度の木炭さえ買えなくなるのだ。

ロシアのウクライナ侵攻によって食料品や燃料、肥料といった生活必需品が世界的に値上がりし、マラウイなど経済が脆弱なアフリカ各国はとりわけ大きな犠牲を強いられている。
「もはや限界に近い状況」

「もはや限界に近い状況だ」。マラウイのチャクウェラ大統領はフィナンシャル・タイムズ(FT)にこう語った。

国際エネルギー機関(IEA)によると、アフリカでは年末までに3000万人が炊事用の液化石油(LP)ガスを買えなくなる恐れがある。経済の後退リスクも高まり、世界銀行の推計では極度の貧困状態とされるアフリカの人口が新型コロナウイルス感染拡大前だった2019年の4億2400万人から、年内には4億6300万人に膨らむ見込みだ。

調査会社オックスフォード・エコノミクス・アフリカのマクロ経済担当責任者ジャック・ネル氏は、「貧困の判定が難しいケースも多いが、急増しているのは間違いない」と話す。

物価バスケットに占める食料品の割合が先進国より大きいアフリカ経済は、世界的な物価高による打撃を特に大きく受けているという。

例えば、ナイジェリアでは食料品が物価バスケットの約半分を占める。「収入の50%以上を費やす食料品がさらに値上がりすれば、他の物品に余計手を出しづらくなり、経済全体に悪影響が広がっていく」と同氏は懸念する。

LPガス価格が1年で2倍に

マラウイと同様の状況がアフリカの経済大国でも起きている。

ナイジェリアでは通貨ナイラの対ドル相場が実勢レートで年初来25%下落した。5キログラム入りLPガスボンベの価格はこの1年で2倍に跳ね上がり、安価だが環境への悪影響が大きい灯油や木炭を使わざるを得ない人が増えている。食料品も22%値上がりし、消費者は肉や魚を買い控えるようになった。

長年のインフラ投資不足や多額の石油補助金、原油泥棒の横行により、アフリカの大手石油会社は原油価格高騰の恩恵にあずかっていない。外貨が不足する中、多くの企業が輸入価格の上昇を製品価格に転嫁している。

ナイジェリアの自動車ローン会社ムーブの共同創業者、ラディ・デラノ氏は現状を「最悪の事態」と表現する。

「生活費が不足し、ますます貯蓄しにくくなっている」ため、自動車を購入する際の頭金を不要にしたという。

苦境に陥っているのはエチオピアも同様だ。インフレ圧力に深刻な外貨不足、北部ティグレでの内戦も加わり、経済担当の政府高官に言わせると「複合的危機」の状態だという。さらに医薬品や粉ミルクなどの輸入品も不足している。

インフレ率は32%に達し、通貨ブルは非公式為替レートで6月初旬の1ドル=60ブルから約82ブルへと下落した。

首都アディスアベバに住むシングルマザーのラヘル・アトナフさん(46)は、アパートや美容室の清掃員として生計を立てている。月収5000ブル(約1万3400円)のうち、1500ブルを家賃に充てている。「雇い主がいつもお総菜やインジェラ(エチオピアの主食)を持たせてくれるけど、それでも生きていくので精いっぱい」と肩を落とした。タマネギだけみてもこの2カ月間で2倍に値上がりした。「私のような貧しい人々は物価上昇をどう切り抜ければいいのか」

サブサハラ(サハラ砂漠以南)の国々では政府に適切な経済運営能力がないため、中央銀行が経済安定の重責を担わざるを得なくなっている。

ハイペースの利上げも追いつかず

ガーナの首都アクラでは6月、経済的苦境に抗議するデモが繰り広げられた=ロイター

「各国の金融政策当局は問題解決に向けて打てる手は全て打っている」と英経済調査会社キャピタル・エコノミクスのアフリカ担当エコノミスト、ビラーグ・フォリス氏は言う。
インフレ率が31%に上り通貨が急落したガーナはこの数カ月、20年ぶりのハイペースで利上げしている。ナイジェリア中銀も5月以降、金利を2.5%引き上げた。

だが、市場が米連邦準備理事会(FRB)のさらなる利上げを見越す中でドルの上昇は続き、食料品価格も高止まりしているため、エコノミストは早期のインフレ終息に懐疑的だ。

「南アフリカは別にして、例えばガーナやナイジェリアでインフレがピークを迎えたとは思えない」とフォリス氏は話す。「両国とも物価バスケットに占める食料品の割合が非常に大きいので、食料インフレはすぐに収まらないだろう」

内陸国で輸入依存型のマラウイを見れば、危機に陥った多くのアフリカ諸国の構造的な弱点が分かる。21年には輸入額が30億ドルと輸出額の2倍になり、輸入の大部分を燃料と肥料が占めた。チャクウェラ大統領は小規模農家への現金給付や低利融資によって苦境を「乗り切れる」とみているが、国際通貨基金(IMF)による7億5000万ドルの融資など国際援助に頼っているのが現状だ。

食費が国民の支出の大部分を占める中で、多くの人が生活に行き詰まっている。「気付いたらこんなありさまになっていたという人たちばかりだ」と薪を拾い集めていたマンクワラさんはぼやいた。

By Joseph Cotterill, Andres Schipani & Aanu Adeoye

(2022年9月13日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.』

「Achema」は、リトアニア最大の肥料工場である。

「Achema」は、リトアニア最大の肥料工場である。
https://st2019.site/?p=20162

『2022-8-24記事「Lithuania’s biggest fertiliser maker suspends production over soaring gas prices」。

    「Achema」は、リトアニア最大の肥料工場である。このほど、天然ガスの値段が爆上がりしているため、9-1から操業を一時中断する。
 工場は Jonava 市にある。
 当面、樹脂など、肥料以外の製品を製造し続けるであろう。

 肥料市場は、ロシア製や米国製との競争である。天然ガスが異常な高値であるうちは、とてもそれらの製品とは競争にならない。
 窒素系肥料の価格の7割は、原料たる天然ガスのコストなのである。

 同社はリトアニアの肥料市場のシェア3割を占めていたが、すでに今年の春から、まったく売れなくなっていた。値上がりしたので。』

ウクライナから穀物船出航 輸出再開第1号、レバノンへ

ウクライナから穀物船出航 輸出再開第1号、レバノンへ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR014JL0R00C22A8000000/

『【イスタンブール=木寺もも子】ウクライナ産穀物を積んだ貨物船が1日、南部オデッサの港から出航した。ウクライナとトルコがそれぞれ明らかにした。ロシアによる侵攻で輸送が止まった黒海への回廊設置で関係国が合意してから初めての輸出再開となる。

【関連記事】米国、ウクライナに720億円追加支援 ロケット弾など

第1号の船はシエラレオネ船籍の貨物船で、トウモロコシ2万6千トンを積みレバノンのトリポリ港に向かうという。2日に黒海の出入り口にあたるトルコのイスタンブールに到着後、新たに設置した共同管理センターが積み荷などを検査する。

ウクライナのクブラコフ・インフラ相はフェイスブックへの投稿で、さらに16隻が出航待機中だと明らかにした。輸出再開で少なくとも10億ドル(約1300億円)の外貨収入が見込めるという。

国連のグテレス事務総長は声明を出し「合意に基づき多くの商船が動き出す最初(の事例)となり、世界の食糧安全保障に求められていた安定と救済をもたらすことを希望する」などと述べた。
穀物輸出再開に向けて準備が進む港を訪れたゼレンスキー大統領(左から3人目。7月29日、ウクライナ南部オデッサ)=ロイター

ロシアのウクライナ侵攻で世界的に穀物価格が上昇したが、国際指標となる米シカゴ商品取引所の小麦先物はこのところ軟調な展開が目立つ。侵攻前比で1割弱安い。小麦の世界輸出量の1割程度を占めるウクライナから、供給が本格的に再開するとの観測が上値を抑えている。

ウクライナ国内に滞留する穀物は2000万トン超にのぼる。ただロシアは回廊設置の合意翌日の7月23日にオデッサ港を攻撃した。船会社などが輸送を引き受けるかや保険料が高騰しないかといった懸念はくすぶり、本格再開の時期は不透明だ。

【関連記事】

・[FT]「作付けのお金がない」 困窮するウクライナの農家
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鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

オデーサから穀物輸出の船が出たというのは何よりの朗報。もちろん、ロシアが今後態度を変える可能性もあり、リスクがないわけではないが、まずはこの状態が維持されることを期待したい。最初の輸出先がレバノンと言うことの意味も大きい。レバノンは数年前の穀物サイロの爆発があり、穀物の備蓄が出来ない状況で、コロナ禍での経済混乱による貧困の問題が深刻。こんな中で穀物価格が上昇するのは危険な状況だっただけに、ウクライナの穀物がレバノンに届けば、あらゆる面で危機が緩和する。
2022年8月2日 1:32 』

ウクライナ産穀物の輸送船監視、共同調整センター開所へ

ウクライナ産穀物の輸送船監視、共同調整センター開所へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR265MW0W2A720C2000000/

『【ドバイ=福冨隼太郎】ウクライナ産穀物の輸出再開を巡りトルコ国防省は26日、船舶の「共同調整センター」が27日に同国イスタンブールで開所すると発表した。ウクライナが目指す週内の輸出再開に向けて一歩前進したかたちだ。一方でロシアは港湾への再攻撃の可能性を示唆しており、輸出が実現できるか不透明感は残る。

ロシアのタス通信も26日、同国国防省が同センターが活動を始めたと明らかにしたと報じた。

共同調整センターの設置は、22日にロシアとウクライナの間で結ばれた穀物の輸出再開に関する合意項目の一つだ。黒海の出入り口に位置するイスタンブールに置かれる。ウクライナの港から穀物などを運ぶ船舶を監視する役割を担う。船舶はセンターに事前登録し、武器を積んでいないかなどの検査を受けたうえで特定の航路を通る。

ウクライナ政府高官は25日、週内にも穀物輸出を始める方針を明らかにしていた。南部チョルノモルシク港からの週内の出航を期待しているという。国連高官は、本格的な輸出の再開は数週間以内で、それ以前にいくつかの船が試験的に航行するとの見通しを示した。
合意の履行にはなお不透明感が漂う。ロシアは合意直後の23日に、輸出拠点の1つとなるウクライナ南部オデッサ港をミサイルで攻撃した。ロシア側はウクライナの軍艦などが標的だったと主張した。だが英国防省は26日、軍事標的が「ミサイルが命中した場所にあった兆候はない」との分析を示した。

ロイター通信などによるとロシアのラブロフ外相は25日、「合意はロシアによるウクライナの軍事インフラへの攻撃を継続することを妨げない」と指摘した。ラブロフ氏の発言は港湾への攻撃が今後も起きうることを示唆したものだ。

ロシアの強硬姿勢は合意履行の見返りとして、欧米による制裁の緩和を引き出すのが狙いとみられる。ラブロフ氏は24日に、ロシア産穀物の輸出に対する欧米制裁の緩和を求める発言をした。

ウクライナ大統領府によると同国のゼレンスキー大統領は25日、記者団に「輸出のために必要な全てを行う予定だ」と語った。仲介役の国連とトルコがロシアをどれだけコントロールできるかが問題とも指摘した。

合意を仲介したトルコのエルドアン大統領は25日、同国国営放送のインタビューで「ロシアとウクライナ両国が合意に基づく責任を果たすことを求める」と述べた。仲介国として合意の実行を進めると強調した。

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・ウクライナ大統領「穀物輸出、必ず始める」
・ロシア・ウクライナ、穀物輸出再開で合意 黒海に「回廊」』

ロシア、オデッサ港攻撃認める「軍事インフラを破壊」

ロシア、オデッサ港攻撃認める「軍事インフラを破壊」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR243PM0U2A720C2000000/

『【イスタンブール=木寺もも子】ロシア外務省のザハロワ報道官は24日、ロシア軍が23日にウクライナ南部のオデッサ港を攻撃したことを認めた。高精度のミサイルで軍事インフラを破壊したとしている。穀物輸出に関連する施設ではなく、輸出再開の合意違反にはあたらないと主張するつもりだとみられる。

ザハロワ氏はSNS(交流サイト)に投稿し、ウクライナのゼレンスキー大統領が攻撃を合意違反だと非難したのに反論した。タス通信によると、ロシア国防省も24日、オデッサ港への攻撃で、ウクライナの軍艦と米国から提供された対艦ミサイル「ハープーン」の倉庫を破壊したと明らかにした。

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・ロシアが港を攻撃、穀物輸出再開に黄信号 準備は継続へ
・米国務長官、オデッサ港攻撃のロシアを「強く非難」
・ウクライナ侵攻5カ月、膨らむ武器供与 支援疲れも

ウクライナ側の主張によると、ロシア軍のミサイル攻撃では荷さばきに必要な施設などが破壊された。22日にロシア、ウクライナがそれぞれ国連、トルコと結んだ合意ではウクライナ産穀物の輸出を再開するため、「関連する全ての商船や民間船、港湾施設を攻撃しない」としていた。

トルコのアカル国防相は23日、ロシアから「オデッサ港への攻撃には一切関与していない」という趣旨の説明を受けたと明らかにしていた。事実ならロシアの説明には矛盾がある。

ウクライナは穀物輸出の再開に向けた準備を続けるとしているが、貨物船が航行する「回廊」の安全性に不安が生じ、本格的な輸出再開には速くも暗雲が垂れこめる。国連、米国などは相次いでロシアを非難した。

一方、24日にロシア、ウクライナ産穀物の輸入国であるエジプトを訪れたロシアのラブロフ外相は「ロシアの穀物輸出業者が(輸出の)約束を全て果たすことを再確認した」と述べた。

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穀物輸出再開、価格安定には時間も 合意の履行が焦点に

穀物輸出再開、価格安定には時間も 合意の履行が焦点に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR223Y60S2A720C2000000/

『ロシアによる侵攻で滞っていたウクライナ産の穀物輸出が再開する見通しとなった。22日、両国がそれぞれ国連、トルコと合意文書に署名した。2000万トン超の在庫放出への期待から、小麦価格は侵攻前の水準まで下落した。だが、黒海に「回廊」を設ける合意の履行は予断を許さず、ウクライナの生産減少も懸念される。供給と価格の安定には時間がかかりそうだ。

米シカゴ商品取引所の小麦先物は日本時間22日夜の取引で1ブッシェル8ドルを下回った。侵攻前の水準を下回るが、1年前と比べるとまだ1割強高い。

穀物コンサル会社、グリーン・カウンティの大本尚之代表は「今まで出てこなかった穀物が市場に出回るとなれば相場の下押し圧力が強まる」と指摘する。先物価格は6ドル台に下がる可能性もあるという。

ただ、中長期の供給の安定には慎重な見方も多い。日本国内の海運仲介会社の担当者は「安全な航行が保証されなければ、穀物船が(ウクライナ南部の主要積み出し港)オデッサに向かうのは厳しい」と指摘する。

例年、ウクライナを含む北半球からの輸出が本格的に増える秋までに黒海ルートが正常化しなければ需給の逼迫感は緩和しないとの見方もある。

24日で侵攻開始から5カ月となるが、戦闘やロシアによる民間施設への攻撃は続いている。

22日の署名式で、両国は同席を避けるなど不信感は根深く、合意の履行が順調に進まないとの懸念は拭えない。

米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は22日、「ロシアに合意の履行責任を果たさせる必要がある」と強調した。

作付けができなかったといった理由で、ウクライナの穀物生産は減少している。ウクライナ穀物協会(UGA)は6月、2022年の小麦収穫量は前年の3300万トンから42%減少し、1920万トンになるとの見通しを示した。

戦争が長引くほど、世界の穀物需要とウクライナの供給能力のギャップが広がり、食料価格を再び押し上げる可能性がある。

ロシアは貧しい国々で飢餓のリスクを高めているとの批判を意識し、ウクライナの輸出再開を認めた格好だが、今回の交渉と並行し、自国産の穀物や肥料輸出を認めさせる実利も得つつある。米国は14日、ロシアへの金融制裁に農産物取引は含まれないとの見解を示した。

欧州連合(EU)はロシア制裁に農産物は含まれないとかねて説明してきた。21日には従来の制裁内容を微修正し、第三国とロシアの間の農産物の取引を対象としていないことを明確にした。

(山本裕二、イスタンブール=木寺もも子)』

穀物1.3兆円分輸出へ ロシア「約束履行」表明

穀物1.3兆円分輸出へ ロシア「約束履行」表明
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2307M0T20C22A7000000/

『【キーウ=共同】ウクライナのゼレンスキー大統領は22日夜のオンライン演説で、ウクライナ産穀物の輸出再開でロシアと合意したことに関し、ウクライナは約100億ドル(約1兆3600億円)相当の穀物を輸出できると述べた。合意の実効性が課題となる中、タス通信によると、ロシアのショイグ国防相は「ロシアは約束を履行する」と表明した。

ゼレンスキー氏は昨年収穫した2千万トンに加え、収穫が始まっている今年分が輸出可能だとした。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、輸出再開の成否は「ロシアが取り決めを守るかどうかにかかっている」と述べ、合意履行を求めた。

ショイグ氏とウクライナのクブラコフ・インフラ相が22日にトルコのイスタンブールで、輸出再開と航路の共同監視を柱とする合意文書にそれぞれ署名した。

ゼレンスキー氏は「ウクライナが戦争に耐えられることを示す証拠だ」として合意を歓迎。一方、ロシアが2月の侵攻後に海上を封鎖し、港湾や鉄道、倉庫、サイロを攻撃して輸出を妨害したと非難した。』

ロシア・ウクライナ、穀物輸出再開で合意 黒海に「回廊」

ロシア・ウクライナ、穀物輸出再開で合意 黒海に「回廊」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR21DKT0R20C22A7000000/

『【イスタンブール=木寺もも子】ロシアのウクライナ侵攻で同国からの穀物輸出が滞っている問題で、両国は22日、それぞれ仲介役の国連、トルコと輸出再開に向けた合意文書に署名した。価格高騰を抑え食料危機の回避につなげることができるか、注目される。

イスタンブールでの署名式に出席したグテレス国連事務総長は「合意は経済破綻の間際にあった途上国、飢饉(ききん)が迫っていた人々に恩恵となる」と強調した。トルコのエルドアン大統領は「数十億に及ぶ人々が飢えに陥るのを防ぐだろう」と述べた。

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・穀物輸出再開、価格安定には時間も 合意の履行が焦点に
・穀物1.3兆円分輸出へ ロシア「約束履行」表明

ロシアのショイグ国防相、ウクライナのクブラコフ・インフラ相は時間差で壇上に上がった。同席せず、同じ文書への署名も避けたもようだ。

国連によると、黒海沿岸のウクライナの港からの穀物などを運ぶ貨物船の運航を可能にする「回廊」の設置が合意の柱。23日にも黒海の出入り口に位置するイスタンブールに共同調整センターを設け、船舶の運航状況を監視し、武器を積んでいないかなどを確認する。

交渉に携わった国連の高官は、数週間以内にも本格的な貨物船の出入りが始まるとの見通しを示した。

ウクライナは南部オデッサなど港の防衛のために機雷を敷いている。ロシアは撤去が必要と主張していたが、ウクライナ側が安全な航路を先導する。ウクライナ高官は、港にロシア船は出入りしないと述べた。

4者は13日の対面協議で大筋合意し、詰めの調整を行っていた。

ウクライナは小麦輸出で世界5位。南部の主要港オデッサなどに滞留している穀物は2000万トン超に達し、世界の年間輸出量の5%を占める。

国連食糧農業機関(FAO)によると、人口2億7000万人のインドネシアは小麦輸入の3割をウクライナに依存する。

割安感や地理的な近さから特に中東やアフリカの途上国の輸入が多く、ウクライナ産小麦への依存度はソマリア(人口1600万人)で5割、レバノン(同500万人)では6割に達する。

ロシアは国際世論の批判を意識し、ウクライナの輸出再開を認めたもようだ。自国産の食料や肥料などの輸出を認めさせたい狙いもあったとみられる。

ただ、両国の相互不信は根強く、合意を円滑に履行できるかは予断を許さない。ウクライナ外務省は21日夜の声明で「ウクライナ南部の安全、黒海におけるウクライナ軍の強固な立場」などが保証されなければ支持できないとくぎを刺した。
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

ウクライナが機雷を敷設しているという問題だが、ウクライナ軍がまともな軍であれば、必ず安全航行できるルートを確保しているはずであり、それがあれば、機雷除去せずとも輸送は開始できる。それよりも問題となるのは、ロシアがどこまでこの合意にコミットするか、だろう。このまま穀物輸出を止めていれば、味方となるべき中東やアフリカ諸国に圧力をかけることになるからだろう。しかし、ロシアはいつでも黒海を封鎖してウクライナを苦しめることが出来るということを学習しているので、また繰り返す可能性はある。もしこの合意で穀物価格が下がれば、ロシアの主張する制裁による穀物高ではなく、黒海封鎖が原因であることが証明される。
2022年7月23日 1:08 』