水不足、中東・アフリカで火種に イラン抗議デモで死者
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『中東・アフリカ地域で水不足が混乱の火種になっている。酷暑のイランでは水を求める市民と治安部隊の衝突で死者が出た。アルジェリアやレバノンでも給水への不安が高まる。ナイル川ではダムへの貯水を巡る流域国の神経戦が続き、外交でも水問題が緊張を招いている。
イラン南西部の産油地帯フゼスタン州では7月15日から、水不足に抗議する市民のデモが相次いだ。デモ隊は「喉が渇いた!」などと叫びながら行進し、一部はタイヤに火をつけて暴徒化した。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは23日、治安部隊が鎮圧に実弾を使い、少なくとも8人が死亡したと非難した。
最高指導者ハメネイ師は23日「フゼスタンの暑い気候を考えれば水不足は小さな問題ではない」と言明。「人々は責められない」とデモに異例の配慮を示した。同州はイラクに接し、ペルシャ系住民が多数派のイランで例外的にアラブ系が多い。発言には最高気温が50度を超すなか、渇水を引き金に政府への不満が噴き出すことへの警戒感がにじむ。
北アフリカのアルジェリアでは6月末、首都アルジェで水不足による給水制限が始まった。日によって給水時間がばらつき、生活の混乱に怒る市民の声が報じられた。飲料水を待つ人の行列ができたほか、抗議デモが発生して幹線道路が一時封鎖される騒ぎもあった。
テブン大統領は7月25日、海水淡水化事業を速やかに実行するよう命じた。水資源省は「降水不足でダムの水位が著しく下がった」と説明しているが、有効な対策を取れなかった背景に政府の不作為や汚職があると批判する声は根強い。同国では6月、経済犯罪を捜査する当局がベラキ前水資源相を汚職の疑いで拘束した。
国連児童基金(ユニセフ)は7月23日、レバノンの水供給システムが「崩壊の瀬戸際にある」と警告した。経済危機の悪化で、水道に必要な塩素や交換部品が足りないという。レバノンは2020年に債務不履行(デフォルト)を宣言し、通貨急落で経済が混乱に陥った。
水の確保は内政の課題にとどまらず、国際問題にもなる。ナイル川の上流で巨大ダムを開発しているエチオピアは7月、昨夏に続いて2回目の貯水を始めた。通告を受けたエジプトは「明確に拒否する」と猛反発した。
ナイル川に水の大部分を頼るエジプトとスーダンは、上流で水量を左右されることに危機感を抱く。水の利用に関する法的拘束力のある合意を求めているが、エチオピアは拒否してきた。
水は、逆に関係を強化するカードにもなる。6月に発足したイスラエルのベネット政権は、隣国ヨルダンへの水供給で友好関係をアピールしている。両国の外相は7月8日、ヨルダンが水不足の緩和のためにイスラエルから5千万立方メートルの水を購入することで合意した。
イスラエルが昨年国交を樹立したアラブ首長国連邦(UAE)との間では、両国の大学が今年6月、水の研究を巡る覚書を交わした。砂漠での水の確保を研究するという。UAEがイスラエルに接近する一因に、水を巡る技術への関心があった。
同じように暑く乾燥した気候の国でも、富裕な産油国には海水を淡水化するなどして水道水を安定的に供給する経済力がある。そうでない国は天候任せや国外の水源への依存から抜け出せず、水不足が長引くと社会や経済が不安定になりかねない危うさを抱えている。』