仮想通貨業者「FTX」破綻、リーマン型かエンロン型か

仮想通貨業者「FTX」破綻、リーマン型かエンロン型か
金融PLUS 金融部長 河浪武史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB121OZ0S2A111C2000000/

『世界的な暗号資産(仮想通貨)交換業者であるFTXトレーディングが経営破綻した。負債総額は数兆円規模とされ、急成長する仮想通貨ビジネス界で過去最大の破綻劇となった。連鎖的な経営悪化への警戒から「仮想通貨界のリーマン・ショック」と指摘されるが、2001年のエンロン事件のような巨額不正会計の色彩もある。

仮想通貨の市場規模は4分の1に

「暗号資産の最近の状況は08年の金融危機を思い起こす」。インドネシアで11日に開かれた金融イベント。司会者がバイナンス最高経営責任者(CEO)のチャンポン・ジャオ氏にそう問いかけると、同氏は「おそらくそれが正しい例え方だろう」と答えた。バイナンスは仮想通貨を取引する交換業者の世界最大手。FTXの救済買収を一時検討するなど、破綻劇の詳細を知る立場にある。

確かにビットコインなど仮想通貨の市況は総崩れだ。全体の時価総額は7日から11日までの5日間で150兆円弱から110兆円強まで25%も下落。21年11月の直近ピーク時と比べると市場規模は約4分の1に縮小した。それが「仮想通貨界のリーマン危機」とまで評されるのは、連鎖的な信用不安が発生しているからだろう。

FTXは独自の電子資産「FTT(FTXトークン)」を発行して投資家にばらまいており、一時は時価総額が1兆円を超えていた。FTXの破綻でFTTの価値は9割以上も下落。ほかの暗号資産の投げ売り懸念が一段の市況悪化につながる負の連鎖にある。シルバーゲート銀行(カリフォルニア州)のようにビットコインを担保に米ドルを融資する商業銀行もあり、金融システムにも影響がしみ出し始めている。

そもそものきっかけは22年5月、価格の安定が売り物だったステーブルコイン「テラUSD」の急落にある。テラの裏付け資産が不十分だとわかると投資家は資金を一気に引き揚げ、1ドル=1テラで固定していたはずの資産価値はゼロ近くまで暴落した。

7月にはテラの関連資産に投資していた仮想通貨ファンド、スリー・アローズ・キャピタル(3AC)が経営破綻する。3ACに融資していた仮想通貨融資会社のボイジャー・デジタルも破綻。そこを資金支援していたのが、FTX創業者のサム・バンクマン・フリード氏が持つ投資会社「アラメダ・リサーチ」だった。

FTXを率いたバンクマン・フリード氏は、政界への巨額献金やスポーツ界での広告宣伝で知られる米国の著名起業家だった。

バンクマン・フリード氏はアラメダの損失を埋めるため、160億ドル(約2兆2000億円)とされるFTXの顧客資産の一部を不正流用した疑惑がある。これがFTXの破綻の決定打となった。サマーズ元財務長官は11日の米テレビ番組で、FTXを金融詐欺だと指摘して「リーマン危機に例える人が多いようだが、どちらかと言えばエンロン事件に近いだろう」と話した。

エンロンは金融工学を武器に急成長した米エネルギー販売会社で、会計不正が発覚して01年に経営破綻した。02年には通信大手ワールドコムも同様の粉飾決算で経営破綻し、不正会計事件の連鎖はITバブル崩壊の一因となった。当時発覚したのはIT革命の旗手ともてはやされた裏での杜撰(ずさん)な統治体制。バンクマン・フリード氏は政界への巨額献金で知られる「仮想通貨界の期待の星」で、今回のFTXショックもエンロン事件と舞台裏が似る。

利回り8%というサービスも

「320億ドルの企業価値がある」と極めて高く評価されたFTXには、セコイア・キャピタルなど大手ベンチャーキャピタル(VC)が相次いで出資してきた。にもかかわらずFTXは投資家側から取締役を受け入れず、密室での企業統治が顧客資産の不正流用を招いた可能性が高い。VCはFTXを売買手数料で安定収益を上げる「取引所」とみていたが、実際はそうではなかった。

例えば「FTX Earn」と呼ぶサービス。仮想通貨を預ければ年5~8%もの利回りが得られると宣伝して個人投資家を集めてきた。FTXは自己資金の100倍の金額まで売買できる高レバレッジ取引も提供していたことがある。こうした投機的な仕組みで集めた資金が実際にどう使われたか不透明で、160億ドルという巨額の顧客資産の多くが利用者に戻らない可能性がある。

混迷する仮想通貨ビジネスはどこに向かうのか。09年に誕生したビットコインは、リーマン危機を引き起こした金融行政への不信が根底にあった。中央銀行による統治は信頼できず、無機的なブロックチェーン(分散型台帳)に金融システムを委ねようという発想だ。国家を超越した基軸通貨の実現は、リバタリアン(自由至上主義者)の理想社会の一つでもあった。

それが仮想通貨の情報サイト、コインマーケットキャップによると、世界で発行される暗号資産は2万1000種類を超えるという。自由社会の基軸通貨という仮想通貨の理念は消えうせ、投機目的のコインの乱立という現実だけが透けてみえる。

当局はリーマン危機やエンロン事件と同じように規制強化に傾くだろう。ただ、必要なのはむしろ金融当局と民間技術の融合にあるのではないか。現在の金融システムは資金決済にコストと時間がかかりすぎ、その不満が民間事業者による仮想通貨の急膨張を呼んでいる面もある。未来の通貨の秩序を形作るには、ブロックチェーンを使った中銀デジタル通貨(CBDC)のような取り組みの加速が必要だろう。

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田中良和
グリー 代表取締役会長兼社長
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別の視点

FTXのような事件があると、当然、他の取引所なりコインなりの運営についても、適切なのかと信用不安の連鎖になる。誰もが、明日、自分の預けている資産が引き出せないかもしれない。

ただ、それでも今日も、取引は行われている。全ての暗号資産が現金化されているわけでもない。最大のポイントはこれだろう。

仮想通貨、暗号資産、NFTなどのブロックチェーン技術には、既存の金融にはない価値があることを、この事件以降の出来事は逆説的に証明している。

特に、先進国の金融システムに簡単にアクセスできない新興国では、そもそも24時間取引されている時点で、圧倒的価値があるのだと思う。

2022年11月14日 12:34

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村上臣
武蔵野大学アントレプレナーシップ学部客員教員
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ひとこと解説

不正に顧客資産を流用したという点ではエンロン型、ないしは簿外債務(飛ばし)により破綻した山一證券事件を思い出します。非中央集権・分散型を夢見た暗号資産基盤が、結局のところ少数の取引所による中央集権になっていたという意味で非常に皮肉な事件です。FTXの破綻によりBinance1強という市場になり、より中央集権が進んだという印象です。今後さらに各国の規制が強化されることは間違いなく、ブロックチェーンの社会実装実験は次の段階に向かうのだろうと思います。

2022年11月14日 9:48

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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別の視点

クレジットの見方では、不正会計に端を発しデフォルトしたエンロンは、個別リスクであり、金融システム不安にはなり難いが、リーマン型は同様のリスクを取って連鎖するため金融システム不安をもたらす、ことになる、という分類に落とし込む。だから、FTXがエンロン型デフォルトなら、仮想通貨リスクから金融システム不安をもたらさない、と読めるわけだ。FTXのトークンを担保に融資していた銀行がどれくらいの損失になるか次第だが、まだコントロール可能ではないか。

とはいえ、流動性は今どこに行っているのだろう。仮想通貨も一つだが、ファンドの資産凍結リスクが近付いているのではないか。

2022年11月14日 9:55

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河合祐子
Japan Digital Design 代表取締役CEO
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別の視点

日本法では、「仮想通貨」ではなく「暗号資産」と呼ぶ。中央銀行≒国の信用で発行され、広く決済・価値の基準として使われる信頼ある「通貨」との混同を避け、デジタル「資産」としての側面を強調した言葉であり、今回のイベントを契機に、「通貨」と「資産」の違いが認識されるようになるといいと思う。

ブロックチェーン技術を利用する(しなくてもいいが)デジタル・トークンは、何等かの権利を表象するもので、各国法による位置づけは不透明ながら、徐々に社会的な役割が認知されている。通貨(CBDCもその一つ)とは異なるもので、混ぜても意味はない。

「資産」は、権利関係の明確化と消費者保護が鍵となり、ここでは更なる議論が必要。
2022年11月14日 9:05

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楠木建
一橋大学 教授
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分析・考察

限りなくエンロン型に近いという印象。ブロックチェーンは「トラストレス」(そもそも信用が不要)を謳うのですが、実際のところ、信用しかねる人々がトラストレスを逆手にとって蝟集する(本件に限らず、マネーロンダリングなど)という皮肉な成り行き。

技術は変わっても、投機がそのうちにズルに傾くという一部の人間の本性は変わらないというのが僕の結論でありまして、ブロックチェーン技術を使って真に分散的な金融システムを構築するというのは、世界政府の実現と同じぐらい難しいことだと考えます。

2022年11月14日 8:14 (2022年11月14日 8:24更新)

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浅川直輝
日経BP 「日経コンピュータ」編集長
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別の視点

暗号資産の基盤であるブロックチェーンによる取引は透明性が高いといわれていますが、現実にはいくつかの理由で透明性が確保できない場合があります。(1)ブロックチェーンの外での取引や賃借契約、(2)暗号資産の価値の裏付けとされる法定通貨やステーブルコインの量、(3)複雑なプログラムや仕組みに基づく取引は、いずれも投資家やアナリストによる捕捉が難しく、ブラックボックスになりがちです。

(1)と(2)はエンロン型、(3)はリーマン型の金融危機を招く恐れがあり、これらの透明性を高める法的枠組みは不可欠でしょう。国家権力から独立した金融システムの構築は、人類にとっていまだに遠い夢という印象です。

2022年11月14日 7:41 』

暗号資産(仮想通貨)・ステーブルコインの発展の足跡と最新動向

暗号資産(仮想通貨)・ステーブルコインの発展の足跡と最新動向
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/disruptive-technology-insight11.html

『 サトシ・ナカモトがビットコインに関する論文を発表した2008年から10年余り、ブロックチェーンを活用した暗号資産はいくつかの高騰やブームを経て、その課題も明らかになりつつあります。

今回は、暗号資産課題対応の足跡を振り返りつつ、暗号資産の中でも特にステーブルコインの持つ意義や暗号資産の行方について展望します。

アジェンダ

1、暗号資産(仮想通貨)に関わる課題対応の足跡
2、ステーブルコインの意義
3、 暗号資産(仮想通貨)の近年の動向と今後の行方

1.暗号資産(仮想通貨)に関わる課題対応の足跡

ここでは、暗号資産の定義や発展の足跡について簡単に振り返った後で、暗号資産が通貨が持つ本来の機能を果たすためにどのような試みを行ったのかご紹介します。

暗号資産(仮想通貨)とは、日本銀行の定義によると

①代金の支払いや法定通貨の交換に利用できる、
②電子的に記録や移転が可能な、
③法定通貨ではない通貨 を指します。

よく交通系ICカードをはじめとした電子マネーと混同されがちですが、電子マネーは円を含む法定通貨を用いた決済手段を指しており、法定通貨ではない通貨を指す暗号資産とは異なるものです。2020年4月に施行された改正資金決済法では、仮想通貨ではなく暗号資産という名称を使用しています。

暗号資産が最初に電子的に実装された例は2009年のビットコインであり、サトシ・ナカモトの論文により生み出されたブロックチェーン技術をもとに実装されています。

ビットコインは、発行者が特定されない円やドルのような法定通貨以外の通貨であり、2010年5月22日に最初にピザの代金支払いとして利用されました。

日本国内でも2014年に暗号資産取引所が開設されると、暗号資産を決済手段として採用する大手企業が出てきました。

近年の暗号資産ブームによる高騰や下落を経験した後でも、自動車メーカーやクレジット会社のような大手企業による暗号資産の購入や決済手段としての採用が行われるなど、暗号資産は引き続き利用され、暗号資産への投資は広く認知されつつあります。

果たして暗号資産は、このまま広く社会に浸透して、既存通貨の代替となっていくのでしょうか。ここで、通貨の持つ一般的な機能について見ていきましょう。

通貨には一般に

①交換機能、
②価値保存、
③価値尺度 という3つの機能があることが知られています。

最初に①交換機能とは、通貨の価値が一般の人々に広く理解されることでモノやサービスとの交換ができることを指します。

次に②価値保存とは、通貨を保存しておくことで利用者が将来にわたって購買力を保持できることを指します。

最後に③価値尺度とは、あらゆるモノやサービスの価値を通貨の数量で表示できることを指します。

図表1. 一般的な通貨が持つ3つの機能

暗号資産については、

①交換機能としては、現在の交換レートをもとにして一定の企業が決済手段として採用しています。一方で、数か月の単位で暗号資産の価格が大きく上下するため、現金と比較すると暗号資産で②価値保存や③価値尺度としての機能を果たすことは難しくなっています。つまり、価格の変動(ボラティリティ)の低減を行うことが、暗号資産が通貨の持つ役割を果たす上での課題となっています。

既存通貨よりも利便性を高めつつ通貨としての役割をいかに果たしていくのかという課題に対して、これまで暗号資産の業界ではブロックチェーン技術による非中央集権、耐改ざん性、スマートコントラクトなどの特性を生かしたさまざまな挑戦が行われてきました。

図表2. 暗号資産(仮想通貨)の課題対応の足跡

例えば、DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)は一般に公開されたブロックチェーン上で取引を行い、個人間で相互に監視することにより、中央の管理者なしに金融資産の取引を可能にしています。インターネットでアクセスできるため世界中から誰でも参入でき、またサービスの維持に必要なコストも低く抑えられることから、国境を越えて全ての人が必要とする金融サービスにアクセスできる状態(金融包摂)を実現する技術として注目されています。

ガバナンストークンのような投票権を発行して投票によるサービスの運営を行うDeFiも出てきています。しかしながら、通貨としてより安定性を高め広く一般に普及させていくためには、ベースとして使用している暗号資産が持つボラティリティの低減に取り組む必要があります。

2.ステーブルコインの意義

ステーブルコインとは、通貨本来が持つ②価値尺度や③価値保存といった役割を達成できるよう、安定した価値を持つように設計された暗号資産を指します。

もし通貨としてのボラティリティが法定通貨と同程度に抑えられるのであれば、預金に代わる貯蓄の手段として暗号資産を利用したり、店舗で価格の表示に利用したりすることが可能になります。

また、ボラティリティが高い暗号資産も、法定通貨に交換することなく価格の安定した暗号資産に交換すれば、資産の価値を担保することができます。

現在、暗号資産の価値を安定化させたステーブルコインを実現するためには、大きく分けて2つのアプローチが知られています。

1つは担保型ステーブルコインと呼ばれる、暗号資産で発行する際に法定通貨、コモディティ*1(金、銀など)、あるいは別の暗号資産を準備し、一定のレートで交換できるよう保証する方法です。

このアプローチではレートを固定することで暗号資産の価値を安定させることができますが、発行する主体は暗号資産の価値を担保するために多額の資産を準備する必要があります。

特に別の暗号資産を利用する場合は、価格の変動に備えて多くの別の暗号資産が必要です。

また、担保先の裏付け資産により信用を得る仕組みであり、技術的な仕掛けによって裏付け資産なしに暗号資産に対する信用を作り出しているというわけではありません。

具体例としては、暗号資産の発行時に法定通貨のデポジットを要求するTetherやUSDC、複数の法定通貨を裏付け資産として保有しているLibra(Diem)、ブロックチェーン上で裏付け資産を管理するDaiがあげられます。

もう1つのアルゴリズム型ステーブルコインは、暗号資産の価値を監視しながら、アルゴリズムにより市場に流通する暗号資産の供給量を調整する方法です。

これまで多額の資産が必要であった価値の担保を、アルゴリズムによって低コストで実現しようとするチャレンジングな試みです。

アルゴリズムにより価値の安定を法定通貨と同程度に保てることが示されれば、法定通貨とは異なる非中央集権的な信用創造で裏付けのない暗号資産を安定的に作り出す手段が実現し、DeFiをはじめとした金融包摂の世界観が普及する契機となり得ます。

初期段階のアルゴリズム型ステーブルコインの具体例としては、Basis CashやNuBitsがあげられます。

図表3. 担保型ステーブルコインとアルゴリズム型ステーブルコイン

アルゴリズム型のステーブルコインについて詳しく見ていきましょう。

発行者が暗号資産の価値に応じて供給量を調整して価格の安定を図るアプローチを、シニョレッジ(モデル)と呼びます。

発行者は暗号資産の価値が基準より上回ると新たに暗号資産を発行して供給量を上げることで元の基準へと戻そうとし、逆に基準より下回った場合は市中の暗号資産の供給量を減らすことで元の基準へと戻そうとします。

一般的に、発行者が供給量を増やすにはただ単に新たに暗号資産を発行すればいいだけですが、供給量を減らすにはすでに暗号資産を持っている所有者にアプローチする必要があり、工夫が必要になります。

現在知られているアルゴリズム型ステーブルコインをいくつかご紹介します。

2020年に発行されたEmpty Set Dollar(ESD)は、エポックと呼ばれる期間ごとに流通済みのESDの総量と価格をもとにして、将来のESDの価格が1ドルになるように供給量を調整します。

供給量を増やす場合は新たにESDを発行し、供給量を減らす場合はESDの保有者にインセンティブを与えてESDをバーン*2させます。

しかしながら、2021年9月現在ではESDの価格は大きく1ドルを下回っており、ESDのバーンも進まず、運営コミュニティは新規バージョンの暗号資産を発行しています。

原因はESDをバーンした際に保有者がインセンティブを受け取ることができる条件にあると言われており、バーンした日から90日以内にESDの価値が1ドルを上回ることという厳しい条件となっていました。そのため、ESDが1ドルを大きく下回った際にESDをバーンする所有者が十分に現れなかったのです。

国内でもアルゴリズム型のステーブルコインの開発は進められており、その1つであるJohnLawCoin(JLC)は2021年9月にベータ版がリリースされました。

JLCでは、JLCをバーンした所有者に対して一定期間後に必ずインセンティブの受け取りができることを保証しています。

また、Ethereum(ETH)とJLCを用いた公開市場操作による価格調節のメカニズムも実装しており、JLCをバーンする保有者がいなくなった場合にも安定した価格を実現しようとしています。

他にも、価格決定の仕組みについては、ESDではUniswapという外部のプラットフォームが提供する情報に依拠していましたが、JCL保有者による投票制で正確な価格に投票した者に報酬が支払われるという内的に完結した仕組みを取り入れています。

図表4. シニョリッジ(モデル)と具体例(ESD、JLC)

ここまでステーブルコインの技術的な側面を中心に見てきましたが、ステーブルコインをめぐって守られるべき規則についても法整備が進みつつあります。

国内でも検討が進み始めていますが、EUでは欧州委員会が2020年9月に公表したMiCA(暗号資産市場規制案)の中で、ステーブルコインを含む暗号資産について保有する資産やホワイトペーパーの公表など発行者が満たすべき要件や義務について提示しました。

国際的な枠組みとしても、FSB(金融安定理事会)が2020年10月に公表した報告の中で、国際的なステーブルコインの発行者への規制を行う当局に対して、マネーロンダリングの規制を検討するFATF(金融活動作業部会)やIOSCO(証券監督者国際機構)の意見も踏まえ、10個の勧告として規制・監督・監視を行うべきアプローチを整理しています。

*1 例えば、GOLDXは現物の金との交換が担保された暗号資産です。

*2 暗号資産の運営側が暗号資産を処分する行為。総量を減らすことで希少価値を高めることができる。

3.暗号資産(仮想通貨)の近年の動向と今後の行方

近年では、エルサルバドルのように暗号資産を法定通貨として採用する国家も出てきています。

貧しい人々への金融サービスへのアクセス性(金融包摂)や、外国からの送金に対するコストメリットが背景にあると言われています。

国内初の暗号資産取引所が設立された2014年と比較すると、マネーロンダリングをはじめとした不正利用に対する国内外の規制も強化されつつあります。

暗号資産の不正利用防止は今後も継続して議論していくべき論点ですが、もしアルゴリズムにより通貨の信用が低コストで担保できるのであれば、発展途上国における経済の安定をもたらし金融包摂の流れを強めることができるかもしれません。

本稿では通貨が持つ機能に着目し、既存の法定通貨の代替となるかという観点を中心に、暗号資産、特にステーブルコインについて見てきました。

金融包摂は1つの例ですが、それ以外にも現代金融システムが抱えている課題には、所得の格差の拡大、繰り返される金融危機、発展途上国における政府や中央銀行への不信感といったものがあります。

一方で、今後はメタバースやデジタル化が進展して、時空を超えて仮想空間の中で過ごす時間も増えていく可能性があります。

ユーザー数の増加や法整備が進むにしたがって、現実世界の企業が仮想空間の世界に参入したり、仮想空間の中で生産活動を行うためのコミュニティが設立され、その中でコミュニティが規定する仕事を行うことで報酬を得たりすることも可能になるでしょう。

アルゴリズム型のステーブルコインは少ないコストで信用創造を行い、企業やコミュニティ同士の経済活動を安定的に継続して行う手助けをすることができます。

また、経済活動はブロックチェーン上に改ざん不可能な形で記録されるため、契約の特性に応じてステーブルコインを運用する発行者から報酬を追加で支払うこともできます。

その場合、企業の利潤を前提とした現実世界の経済活動では解決困難な課題に対して、賛同する企業が共同出資によってアルゴリズム型のステーブルコインを発行することで、契約の特性により経済活動を制御できるようになり、課題を解決するための手段の1つとなり得るかもしれません。

図表5. デジタル化の進展と暗号資産

本節の冒頭で述べた暗号資産の不正利用の防止は、メタバース利用における法整備とともに、こうした未来を実現するために必要な最初のステップの1つと位置づけることができます。

マネーロンダリングやテロ組織への資金供与といった不正を着実に防止することで、KYC*3基盤の整備や暗号資産による経済活動の安定性といった次のステップに進むことができます。

暗号資産を決済に用いる通貨として日常の中で利用可能とするために、現在、暗号資産はこうした法整備や仕組みづくりの中でさらに技術を成熟させつつあるのです。

*3 「Know Your Customer」の略称。サービス提供者が顧客に対して本人確認を行うプロセスを指します。

執筆者

中山 大輔

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

丸山 智浩

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

西田 宏之

パートナー, PwC税理士法人

田中 宗英

ディレクター, PwC Japan合同会社 』

「ドル連動」仮想通貨の安定、規制の焦点に

「ドル連動」仮想通貨の安定、規制の焦点に 識者に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN27EO00X20C22A5000000/

『世界の暗号資産(仮想通貨)の価値が急速に減少している。大規模な金融緩和であふれたマネーが時価総額を押し上げていたが、投資家がリスク回避姿勢を強めたことで資金の逆回転が一気に起きた。法定通貨との連動を目指すステーブルコインの安定性についても、懸念を払拭できていない。デジタル資産に詳しい投資担当者や元規制当局者に今後の展望を聞いた。
「アルゴリズム型」安定通貨、当局の監督強まる

マイケル・ピオワー氏(元米SEC委員長代行)

ピオワー元米SEC委員長代行

米ドルなどの法定通貨と価値が連動するように設計されたステーブルコインである「テラUSD」が急落した。米金融当局は今後、裏付け資産を持たないアルゴリズム型(無担保型)の監督に、より焦点を当てるようになる。米大統領直轄の作業部会が2021年11月に出した報告書は、法定通貨に交換できるステーブルコインに特化した内容で、アルゴリズム型は脚注や図表で触れただけだった。

バイデン大統領は3月、デジタル資産に関する大統領令に署名した。その影響を正確に説明するのは時期尚早だ。各政府機関に報告書を書かせたあとに、実際に政府がどう動くかがカギとなる。これまで米証券取引委員会(SEC)や米連邦預金保険公社(FDIC)、米連邦準備理事会(FRB)などが独自に動いていたが、大統領直轄の作業部会によって多少調整されたようだ。

バイデン政権の最優先課題は中央銀行デジタル通貨(CBDC)とみている。パウエルFRB議長は、もし米国がCBDC創設を進めるつもりなら、FRBが米議会から明確な権限を得る必要があると考えている。3月の大統領令がどのような結果をもたらすのか、議会がそれに同意するのかしないのか、見ていく必要がある。

暗号資産が証券か否かという未解決の法的問題がある。SECが監督する権限を持つかどうかにも直結するので非常に重要だ。論争の決着が見えないなかで、SECは法執行部門に暗号資産の専門部署を設置すると発表した。暗号資産を巡る問題にSECとして力を入れて取り組んでいく、というメッセージだろう。

米有権者と仮想通貨マネー、議会を動かす

ルミ・モラレス氏(米投資会社DCG・ベンチャー成長投資責任者)
DCGのモラレス氏

デジタル・カレンシー・グループ(DCG)は10年近くデジタル資産とブロックチェーン分野に投資してきた。ボラティリティーは目新しいものではない。ブロックチェーンとデジタル資産が未来の経済に対して価値を生み出すとの信念は揺らがない。最近の価格下落が投資減速につながるか分からないが、歴史が示すように、最高の投資や企業のいくつかは弱気相場でつくられる。

3月の大統領令で、米政府がデジタル資産分野で技術的なけん引役になる意思を示した意味は大きい。仮想通貨業界の関係者は長年、米国で規制環境をめぐる先行きについて悲観的に考えていたからだ。大統領令によって政府から明確な方向性が出され、少なくとも米国で仮想通貨関連の企業が閉鎖されたり、国外に追放されたりしないことが分かった。

11月に米議会の中間選挙がある。米国では若い有権者に限らず、仮想通貨を保有する人が多いことに議員が気づき始めている。選挙に勝つためにはお金が必要だ。仮想通貨で稼いだ人が大勢いて、仮想通貨の開発の先行きについて主張する彼らの声は大きくなっている。結果的に規制に影響が出てくることになる。
安定通貨、裏付け資産公表だけでは不十分

ロス・デルストン氏(弁護士、元米FDIC銀行規制担当)
元米FDIC勤務のデルストン弁護士

ステーブルコインの問題は(アルゴリズム型の)テラUSDに限らない。裏付けが米ドル建ての資産であると公に発表しても、コイン暴落時に対応できるのか分からない。米ドル建て資産の全部、または一部は市場で容易に換金できるものか、信頼できる会計事務所やその他企業によって独立的に検証されているのか、といった点が重要だ。

3月の大統領令では、どこに準備金を置いているか明確でないステーブルコインの発行体に焦点を当てていた。例えば最大の発行体である「テザー」は疑わしい投資や非流動的な資産につながっているとして批判を浴びてきた。

銀行預金に裏打ちされたステーブルコインであっても、あまりにも多くの保有者が換金を求めた場合、大手銀行でさえも要求に応えられず、流動性危機に陥るかもしれない。米財務省は不測の事態を心配している。私がFDICに勤務していた1980年代後半の米銀危機でも同じようなことが起きた。

(聞き手はニューヨーク=宮本岳則、吉田圭織)』

野村・大和、SBIとデジタル証券 不動産など小口売買

野村・大和、SBIとデジタル証券 不動産など小口売買
【イブニングスクープ】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB07DA40X01C21A0000000/

 ※ 「小口化」「証券化」は、リーマンの時の「CDO」(コラテラライド・デット・オブリゲーション…。訳語は、「債権担保証券」だっけか…。もはや、忘れたな…。)にもあった通り、「大衆化」の常套手段だ…。

 ※ 何でも、「小口化」すれば、裾野を広げて、広く薄く「資本」を「糾合」できる…。FXしかり、リートしかりだ…。

 ※ ましてや、「デジタル証券」に仕立てれば、「オンライン」でいろいろな処理をすることが可能となる…。

 ※ ビットコインみたいな、「ブロックチェーン」技術を使うようだな…。

『不動産や社債などを小口売買できるデジタル証券をめぐり、野村ホールディングスと大和証券グループ本社は、SBIホールディングスが主導する取引所に資本参加する。東京証券取引所を通さない私設取引システム(PTS)と呼ぶしくみで、大手金融の合流でデジタル証券の普及に弾みがつきそうだ。これまで機関投資家が中心だった商業不動産などの金融取引に一般の個人投資家も広く参加できるようになる。

SBIが三井住友フィナンシャルグループ(FG)と設立したPTSの運営会社「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」が11月をめどに35億円の第三者割当増資を実施し、SBIグループと三井住友FGに加え、野村と大和も引き受ける。野村と大和の出資比率は5%で、それぞれ取締役も派遣する。

ODXはまず2022年春から上場株を取り扱う計画で、23年をめどにデジタル証券の売買を始める。デジタル証券はブロックチェーン(分散型台帳)技術を使い、従来まとまった単位でしか取引できなかった商業不動産や社債などを小口に刻んで売買できるのが特徴だ。

商業不動産や非上場企業への投資は、機関投資家や一部の富裕層が中心だったが、小口にすることで一般の個人投資家もアクセスしやすくなる。デジタル証券はすでにSBI証券や三菱UFJ信託銀行が発行しており、ODXは流通市場という位置づけだ。上場株もODXで扱うようになれば、東証ではない選択肢ができることになる。

SBIと野村、大和という国内の大手証券が「呉越同舟」で新たな市場づくりに乗り出すのは、相互に顧客基盤の先細り懸念を抱えているためだ。SBIは株式の売買手数料の引き下げ競争を主導し、すでに口座数で最大手の野村証券を抜いた。ただネット証券同士の値下げ競争で売買手数料は大幅に下がり収益の多角化が急務となっている。

預かり資産残高でなお優位に立つ野村は、主要顧客の高齢化が進むなか、現役世代の獲得が課題となっている。商品設計の自由度が高いデジタル証券を、個人にあわせた金融商品の品ぞろえを増やす手段と考えている。三井住友FG傘下のSMBC日興証券や大和は、投資家の注文をODXに取り次ぐことなども検討する。

国内外の企業や投資家とのネットワークを持つ野村や大和が参画することで「公的なPTSとして運営体制を強化できる」(ODX幹部)とみる。各社は流通市場の整備に必要な当局とのルールづくりでも連携する。

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仮想通貨開発者、有罪認める 北朝鮮の制裁回避ほう助

仮想通貨開発者、有罪認める 北朝鮮の制裁回避ほう助
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN28ECU0Y1A920C2000000/

『【ニューヨーク=吉田圭織】暗号資産(仮想通貨)イーサリアムの開発者バージル・グリフィス氏は27日、北朝鮮に仮想通貨を利用したマネーロンダリング(資金洗浄)や国連の制裁を回避する方法を教えようとしたとして、米ニューヨーク州のマンハッタン連邦地裁に有罪を認めた。

米司法省の発表によると、同氏は2019年4月に北朝鮮の平壌で開催された国際会議に出席し、ブロックチェーン(分散型台帳)技術や仮想通貨を使って規制や制裁を回避する手法を講義した。その後、19年11月に逮捕された。

グリフィス氏は安全保障や経済分野などで米国の重大な脅威となる相手との商取引を禁じる国際緊急経済権限法(IEEPA)に反する行動をとろうとしたと認め、最長で懲役6年半の司法取引に合意した。従来は最長20年の刑を受ける可能性があった。判決は22年1月に言い渡される予定。

核・弾道ミサイル開発の継続を受け、米国や国連安全保障理事会は北朝鮮に制裁を科している。安保理の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは20年の年次報告書でグリフィス氏について言及し、制裁回避の方法を指導する目的で北朝鮮を訪れる人物に警戒するよう各国に勧告した。

北朝鮮が開いた国際会議のウェブサイトによると、ブロックチェーンと仮想通貨の専門家を集めて知識を共有したり、ビジネス機会について話し合ったりする場を設けることを目的としていた。』

中国、仮想通貨締め付け強化 資金流出の穴塞ぐ

中国、仮想通貨締め付け強化 資金流出の穴塞ぐ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB24B690U1A920C2000000/

『中国が暗号資産(仮想通貨)への締め付けを一段と強めている。マネーロンダリング(資金洗浄)や詐欺への対応などに加え、中国の中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)であるデジタル人民元の準備を進めていることも一因にある。

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中国人民銀行(中央銀行)は24日、海外の取引所からインターネットを経由したサービスも含め、仮想通貨の決済や関連サービスを全面的に禁止すると発表した。刑事責任を追及するなど踏み込んだ内容だ。

かつてはビットコインの取引もマイニング(採掘)も8割以上が中国で行われているとされていた。仮想通貨の投資家の間では「中国コイン」と呼ばれることもあった。

変わり始めたのは2017年。国内の取引所の閉鎖などが始まり、18年には中国人民元建てのビットコイン売買は全体の1%にも満たなくなった。マイニング量は21年4月時点でまだ5割近くを中国が占めていたが、締め付けにより6月にはほぼなくなったとみられている。

中国の仮想通貨市場への影響力は小さくなっている。それでも規制を強化するのは資金流出への対応がある。新型コロナウイルスの感染拡大前、中国では資金流出が続き、金融当局が海外とやり取りする資本の規制を強めていた。仮想通貨は規制をかいくぐる抜け穴となっており、当局が監視を厳しくしてきた。

もうひとつの背景が中国で22年にも発行が正式に始まる予定のデジタル人民元。仮想通貨は当局の監視が届きにくい。仮想通貨との取引を通じて貨幣供給が不安定になるのを防ぐ。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「中国内は中央銀行が発行するデジタル通貨以外の仮想通貨は禁じる措置を進めており、その延長線上の動き」とみる。

CBDCの発行は各国が準備を進めており、米国では取引所への監視強化が強まる。国際的な規制強化の網がどの程度広がるかが焦点になる。

(金融工学エディター小河愛実)』

「デジタル通貨圏」主権揺るがす

「デジタル通貨圏」主権揺るがす クーレBIS局長
通貨漂流ニクソン・ショック 私はこうみる⑤
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR26DFS0W1A720C2000000/

『デジタル通貨の登場が世界の金融を再び大きく変えようとしている。官民の競争が通貨秩序をどう変えるのか。中銀デジタル通貨(CBDC)の検討を主導する国際決済銀行(BIS)イノベーション・ハブ局長のベノワ・クーレ氏に聞いた。

――なぜ中銀デジタル通貨が必要なのですか。

「民間の決済手段が多くあること自体はいいことだ。イノベーションは民間部門の競争の中で起こる。民間のプレーヤーは利益を求め、独自の体系(エコシステム)を作って価値を高め、市場を支配しようとする。これが資本主義のやり方だ」

「ただ、通貨に関してすべてを民間に委ねてはいけない。企業による(排他的な)『壁で囲まれた庭』となってしまう。通貨システムがバラバラになり、中銀が価格の安定や金融の安定を届けられなくなってしまう。デジタルになっても、中銀マネーがシステムの中心でなければならない」

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――米フェイスブックが2019年にリブラ(現ディエム)構想を発表した際、「中銀への警鐘だ」と声を上げました。

「発表まで中銀はデジタル通貨を遠巻きにみていて、規模が小さく金融政策や金融の安定とは関係がないと見下すようでさえあった。そこに突然、利用者が何億人に広がる可能性を秘めたプロジェクトが現れた。中銀は金融システムの一部が私物化され、伝統的な決済システムから切り離されるという見通しに直面し、受け入れてはならないリスクだと感じた。多くの中銀が真剣にCBDCを考え始めたのは、デジタル通貨を(自ら)提供できなければならないと理解したからだ」

――デジタル通貨は国際通貨秩序をどう変えるでしょうか。

「民間の手段が支配的になれば、混乱のリスクがある。数百万、数億の利用者がいる民間のネットワークの決済手段ができれば、米プリンストン大学のマーカス・ブルネルマイヤー教授が呼ぶところの『デジタル通貨圏』を作り出すリスクを冒すことになる。政治的な国境に基づく通貨圏の代わりに、国境を越えた民間ネットワークの利用ベースの通貨圏が現れる。これは国の主権や金融政策、資金洗浄などに重大な懸念を引き起こす」

「(デジタル化による)通貨間の競争は(国際金融秩序の)風景を変えるだろうか。確かなことは分からない。最終的には、基礎的な経済力と安定性というところに戻ってくるからだ。より構造的な問題と比べれば技術は二次的なものだ」

「小さな開かれた経済にとっては、通貨の代替という重要なリスクがある。通貨の信認が十分ではなく経済が安定していない場合、市民は自国通貨ではなくデジタル通貨に乗り換えるかもしれない。通常、ドル化やユーロ化と呼ばれる問題だ」

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――大学時代に研究されていた「平家物語」の重要なテーマは盛者必衰です。ドル支配は今後も続きますか。

「この世に永遠なものはなく、支配的な通貨も、ひとえに風の前のちりに同じで、終わりを迎える。だが、かなり長い時間がかかるだろう。我々は通貨を、ほかの人も使うから使っている。置き換えることはとても難しい。米ドルの支配は近い将来も変わらず、デジタル通貨がそれを変えるとは思わない」

「経済規模でいえば、米ドル支配に挑戦しうる唯一の通貨は人民元だ。ただ、それには資本勘定を完全に開く必要がある。中国当局は金融の開放よりも国内の安定を優先している。そうであれば、近い将来にそれが起こるとは思わない」

(聞き手はベルリン=石川潤)

Benoit Coeure 仏財務省などで要職を歴任、2012年から19年まで欧州中央銀行(ECB)専務理事。20年から現職。中銀デジタル通貨(CBDC)検討の推進役
=おわり

松崎雄典、大塚節雄、大越匡洋、斉藤雄太、花田幸典、南毅郎、富田美緒、真鍋和也、粟井康夫、張勇祥、河浪武史、石川潤、土居倫之、後藤達也、川手伊織、奥田宏二、木寺もも子、南雲ジェーダが担当しました。』

暗号資産、英で規制の網

暗号資産、英で規制の網 投資家保護へ広告排除も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR130NV0T10C21A7000000/

『【ロンドン=篠崎健太】英国で暗号資産(仮想通貨)の広告や営業活動に規制をかける動きが広がってきた。新たな投資対象として人気が高まるにつれ、価格変動リスクや詐欺などの犯罪行為から個人投資家を守る必要性も増してきたからだ。金融商品としての規制や監督体制が追いついておらず、新たな金融分野での事業者と当局の攻防は激しくなっている。

バス車体の広告に排除命令

ロンドンの街中では暗号資産関連の広告を見かける機会が増えた。「ビットコインを見かけたら、今が買い時だ」――。5月下旬、ロンドンに拠点をおく交換業者ルノがこんな文言で地下鉄駅やバスの車体に展開していた広告に対し、英国の広告自主規制機関から排除命令が出た。

投資リスクを記さず消費者を誤認させかねないとの苦情を受け、広告基準評議会(ASA)が審理していた。ASAはビットコインが投資家保護を受けられる金融規制対象の商品ではない事実を明示しておらず、安易に投資できるものだと誤認させるなどと指摘した。広告ルール違反を認定し、ルノは今後の改善を約束した。

3月には「銀行預金は意味が無い」「ビットコインはデジタルゴールドだ」などと宣伝していた別の交換事業者の広告にも排除命令が出ている。ASAは暗号資産の広告に関するガイドラインを近く策定する方向だ。

犯罪行為に神経とがらす

英金融当局は消費者に対して、暗号資産の投資リスクに警告を発し続けている。株式や債券といった一般的な投資商品と違い、現状では厳しい監督を受ける金融規制の対象になっていないためだ。国境を越えて自由に流通する特性から、マネーロンダリング(資金洗浄)や犯罪行為に悪用される可能性にも神経をとがらせている。

金融行為監督機構(FCA)は1月に「資金を全て失うことを覚悟しなければならない」との声明を出し、投資詐欺などの不正にも注意するよう呼びかけた。イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁は6月の講演で「暗号資産は裏付けが無く本質的な価値を持たない」と述べ、投資商品としての意義そのものに疑問を呈した。金融革新には積極的な立場ながら「公益を無視するフリーパスはあり得ない」と、適切な規制の必要性を改めて強調した。

FCAは6月、暗号資産の交換業世界大手バイナンスの英法人に対し、必要な認可や登録を得ていないとして英国での営業禁止を通知している。同社は本体のBinance.comは「別法人で直接影響しない」(広報担当者)として、英国向けサービスの提供を続けている。ただ英メディアによるとバークレイズなど複数の大手銀行が同社への送金受付を停止した。

保有者推計、英で230万人

FCAは1月に実施したアンケート調査を基に、英国で暗号資産を現在保有している人の数を約230万人と推計した。まだ英成人全体の4.4%にすぎないが、暗号資産のことを「聞いたことがある」と答えた人は全体の78%と2年前の42%から大きく高まっており、投資商品としての認知は進んでいる。

「仮想通貨は世界で普及が進み各国で規制の枠組みを明確にする必要が出ている」。バイナンスの趙長鵬・最高経営責任者(CEO)は7日、公式サイトに掲載した公開書簡でこうつづった。規制強化は「業界の成熟を示す良い兆候だ」と述べ、当局と協力していく構えをみせた。技術革新で生まれた無国籍の投資対象をどう管理していくか、手探りのルールづくりが進む。 』

ビットコイン急騰 テスラが購入、関連銘柄にも買い波及

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0607H0W1A200C2000000/

 ※ 『テスラは米時間8日朝、米証券取引委員会(SEC)に提出した資料でビットコイン投資を明らかにした。当面の運転資金に必要としない現金の運用先について「多様化し収益を高めるよう投資方針を改めた」と説明する。地金や金に連動する上場投資信託(ETF)も投資対象とする。テスラ製品の購入も近くビットコインで支払えるようにする。』という話しだ…。

 ※ もはや、テスラは事業会社では無く、投資会社の一種になったようだな…。

 ※ しかも、相当な「高リスク資産」を取り扱う「ハイ・リスクの」会社だ…。

『【ニューヨーク=後藤達也】暗号資産(仮想通貨)ビットコインの価格が8日、急上昇した。一時は4万4800ドル(約470万円)程度と前日より15%近く上昇し、史上最高値を付けた。電気自動車(EV)大手のテスラがビットコインを15億ドル購入したと明らかにし、他の仮想通貨や関連株も軒並み急上昇した。

テスラは米時間8日朝、米証券取引委員会(SEC)に提出した資料でビットコイン投資を明らかにした。当面の運転資金に必要としない現金の運用先について「多様化し収益を高めるよう投資方針を改めた」と説明する。地金や金に連動する上場投資信託(ETF)も投資対象とする。テスラ製品の購入も近くビットコインで支払えるようにする。

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テスラの公表が伝わると、ビットコインは20分ほどで10%ほど急上昇した。時価総額は8000億ドルを超え、テスラ株の時価総額を一時上回る場面もあった。昨年末比の上昇率は5割近くに達する。

イーサリアムやリップルといった他の仮想通貨にも価格急上昇が波及した。1月下旬から投機色の強まっているドージコインも一段高となった。米国株市場では、すでに仮想通貨に投資しているソフトウエアのマイクロストラテジーが29%高と急上昇した。オンライン決済のスクエアが8%高で、仮想通貨による支払いサービスの計画を表明しているペイパル・ホールディングスは5%高となった。テスラ株は1%高だった。

テスラは2020年に株価が急騰し、個人投資家の関心も高い。市場では「テスラがビットコインに追加投資したり、他の企業が追随したりする可能性もある」(個人投資家)との見方もある。ただ、テスラは成長投資のために20年に100億ドル以上の資金を調達しており、値動きの激しいビットコインを現金代わりに保有することは株主などの間で議論を呼ぶ可能性もある。

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山本由里
日本経済新聞社 マネー編集センター マネー・エディター
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分析・考察 「ビットコイン、時価総額でテスラと並ぶ」という上記グラフが2つのバブルが絡み合って形成されている様を想起させます。世界の自動車メーカー10社を束にしたよりも高額なテスラの時価総額は今後数百年の利益を織り込んだ水準。投資するには「正当化するシナリオ」が必要です。十分可能性があるのは時代を変えるほどの電気自動車(EV)の普及。今の株高を利用して本業の成長を加速させる投資にお金を回せば利益が株価に徐々に追いつきます。では、ビットコイン投資は?上場企業によるまっとうな投資行動とは思えません。テスラに流れ込んできたESGマネーは問題視しないのでしょうか?
2021年2月9日 8:39いいね
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志田富雄
日本経済新聞社 編集委員
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別の視点 最近、ビットコインはどこまで値上がりするのかという話の中で、金の時価総額との比較が出てきます。人類がこれまで採掘した金の総量=現物の地上在庫はおよそ20万トン。現在の時価をざっと1グラム6000円で計算すると地上在庫の時価総額は1200兆円になります。だからビットコインにはまだ上昇余地が大きいという話です。
ビットコインは金と比べて歴史が浅く、これといった投資尺度もないのでこうした比較が出てくるのでしょう。ビットコインは決済手段として利便性があるものの、やはり投資先としては値動きの激しさが気になります。
2021年2月9日 7:53いいね
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中村直文
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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別の視点 自動車に通貨。20世紀を牽引してきた経済ツールですが、イーロン・マスク氏の動きは電気自動車に仮想通貨と、新しい経済圏の構築を訴えているように見えます。双方とも挫折を繰り返していますが、今回は一次的なバブル的行為なのか、経済の本格的な転換点なのか、興味深いところです。
2021年2月9日 7:50いいね
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ビットコイン保存のHDDをうっかり捨てた男性、72億円で発掘許可を要請

https://www.cnn.co.jp/tech/35165138.html

 ※ こういう話しもある…。

 ※ 画像を見ると、埋め立てられて、キレイに舗装もされているようだ…。

 ※ これを重機でほっくり返して、たった1個のHDDを探し出すことは、まず不可能だろう…。

『(CNN) 仮想通貨ビットコインを保存したハードディスクドライブ(HDD)を誤って捨ててしまった英国の男性が、地元自治体に対し、ごみ埋立地の発掘を許可してくれれば7000万ドル(約72億円)を支払うと申し出ている。

IT業界で働くジェームズ・ハウエルズさんは2013年6~8月の時期に、7500ビットコインを保存したドライブを廃棄。ハウエルズさんがその4年前にマイニング(採掘)を行った時、ビットコインの価値はまだ低かった。

しかし、ビットコインの価値が高騰したためハードドライブを探したところ、ごみと一緒に誤って捨ててしまったことが判明した。

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その後、なくなったビットコインの価値はさらに上昇。そこでハウエルズさんはウェールズのニューポート市議会に連絡を取り、ハードドライブが埋められていると思われる埋立地の区画の発掘許可を求めた。

ハウエルズさんは発掘許可と引き換えに、保有するビットコインの現在価値の4分の1に当たる額を支払うと提案。このお金は地域住民に配ることもできるとしている。

ビットコインは2009年、「サトシ・ナカモト」の名で知られる1人もしくは複数の匿名プログラマーによって発明された。本質的にはコンピューターファイルであり、利用者の端末の「デジタルウォレット」に保存される。保存後は決済手段に活用することが可能で、全ての取引は「ブロックチェーン」と呼ばれる公開リストに記録される。

ビットコインの価格は最近史上最高値をつけた後、現在は1ビットコイン=3万7000ドル付近で取引されている。

ハウエルズさんがハードドライブがないことに気付いた時、保有するビットコインの価値は計約900万ドルだった。現在のレートでは推定2億7300万ドルに相当するという。』