ヘルソン港で、トルコの海運会社が傭船していた2隻のバヌアツ船籍の貨物船がミサイルまたは砲弾の攻撃を受けた。

ヘルソン港で、トルコの海運会社が傭船していた2隻のバヌアツ船籍の貨物船がミサイルまたは砲弾の攻撃を受けた。
https://st2019.site/?p=20820

『he Maritime Executive の2023-1-25記事「Video: Two Turkish Cargo Ships Hit by Possible Missile in Ukraine」。

   ヘルソン港で、トルコの海運会社が傭船していた2隻のバヌアツ船籍の貨物船がミサイルまたは砲弾の攻撃を受けた。火災発生。

 ロイズによると、今次ウクライナ戦争の開始からこれまで、19隻の商船が近くで被弾しているという。』

国内損保、ロシア全域で船舶保険停止 LNG輸入に影響か

国内損保、ロシア全域で船舶保険停止 LNG輸入に影響か
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB23D7O0T21C22A2000000/

『【この記事のポイント】
・戦争による沈没などの被害を補償する船舶保険を停止
・損保3社が船主に通知。背景に再保険の引き受け拒否
・無保険での航行は困難。ロシアからのLNG輸入に影響も

国内損害保険各社は2023年1月1日から、ロシアやウクライナの全海域で戦争による船舶の沈没などの被害を補償する保険の提供を停止する。ロシアのウクライナ侵攻から約10カ月が経過するが、戦争が収束するめどはいっこうに立っていない。海外の再保険会社がロシア関連のリスクの引き受けを拒否したことが、今回の判断の背景にある。

東京海上日動火災保険と損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険の3社が23日から船主への通知を始めた。日本企業が参加する石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からの液化天然ガス(LNG)の輸入などに影響する可能性がある。

船舶保険はほぼ全ての船舶が加入している。被害を補償する保険がなければ、航行は極めて難しくなる。今回の措置の対象には、ウクライナに近い黒海やアゾフ海だけでなく、ロシア東部や北極海航路などの全海域が含まれる。

これまでウクライナやロシアの海域を航行する場合、軍事行動に伴う被害でも補償を受けるには、主契約とは別に「船舶戦争保険」に加入する必要があった。航行する際には事前に保険会社に通知して補償条件や保険料を確認し、割増保険料を払うことで補償を受けることができた。今後は保険に加入することができなくなる。

世界最大の保険市場を運営するロイズ保険組合を中心とした英国の委員会は22年2月、ウクライナ周辺を「リスクの高い地域」に指定し、4月には対象をロシア全域に広げた。損保各社は危険海域の拡大にあわせ、沈没リスクなどを補償する船舶保険で高めの保険料を設定する地域を広げてきた。

無保険の状況が続けば、ロシアから日本への資源輸入に影響を与える公算が大きい。損保各社は保険サービスの提供を再開することが可能か、再保険会社との交渉をクリスマス休暇明けから始める見通しだ。だが、再保険会社が再び引き受けに転じるかは不透明な情勢だ。

【関連記事】

・EUがガス価格に上限 高騰抑制、実効性に課題
・ドイツ、初の浮体式LNG設備が稼働開始 調達では苦戦も
・米研究家ヤーギン氏、脱ロシア産エネに「コストかかる」

この記事の英文をNikkei Asiaで読む
Nikkei Asia https://asia.nikkei.com/Politics/Ukraine-war/Japanese-insurers-to-halt-ship-insurance-for-all-of-Russia?n_cid=DSBNNAR 

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

EUがロシアの原油上限価格の設定をするに当たって、その上限を超える原油を輸送するタンカーには保険をつけない、という保険制裁をかけることになっているが、それ以前に、保険業界がロシアをハイリスク地域にするだけでなく、ロシア産原油や天然ガスを運搬するタンカーに保険をつけないという、一種の「業界制裁」を行っているというのが興味深い。

ここで保険をつけたり、再保険を引き受けたりすると、ビジネスのレピュテーションに響くという判断なのか、それとも企業として自らが持つ力を使って戦争に介入しようという倫理的な判断なんだろうか。
2022年12月24日 1:02 』

トルコ海峡のタンカー滞留が解消へ 当局発表

トルコ海峡のタンカー滞留が解消へ 当局発表
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR13CV40T11C22A2000000/

『【イスタンブール=木寺もも子】対ロシア制裁の影響でトルコの海峡を通過できずに石油タンカーが滞留していた問題で、トルコの運輸当局は13日、船舶保険を巡る問題が解決し、タンカーが動き始めたと発表した。輸送の障害による原油市場への影響が懸念されていた。

トルコ当局の声明によると、イスタンブールのボスポラス海峡まで到着したタンカー26隻のうち、既に22隻が必要な書類を提出し、19隻が海峡を通過した。「トルコの海峡を守る新しい規制が受け入れられ、通常通りの海上貿易が続くのは喜ばしい」と述べた。

主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)が5日に発動したロシア産原油価格に上限を設ける制裁を巡り、トルコは国内の海峡を通過するタンカーに対し、保険会社による追加の書簡を求めていた。制裁違反の原油を積んだタンカーが流出事故などを起こした場合、被害が補償されないことを懸念したためとみられる。

トルコはどのようにして保険会社などと合意したかの詳細は明らかにしていない。米ブルームバーグ通信は11日、トルコ側が示した書簡の書式について、保険会社側が「受け入れ可能」と判断したと報じていた。』

[FT]水上供給網に気候リスク 渇水、航行を阻害

[FT]水上供給網に気候リスク 渇水、航行を阻害
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB221RT0S2A820C2000000/

『猛暑が数週間も続いたことで、フランス西部を流れるロワール川流域では乾ききった川底を散歩できるようになった。

ライン川では、水位が多くの船舶にとって操業が経済的に見合わない水準まで低下した=ロイター

欧州の重要な水路であるドナウ川も水位が下がった。流域の東欧諸国は貨物を運ぶはしけ船が航行できるように、川底の土砂を除去する浚渫(しゅんせつ)を余儀なくされた。

ドイツなどを流れるライン川では、航行の要衝において、水位が多くの船舶にとって操業が経済的に見合わない水準まで低下した。ただ、迫りくる課題のことを考えると、こうした事態はまだ準備期間にすぎないのかもしれない。

マレーシア、洪水で半導体供給に打撃

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、気候変動に伴い干ばつや洪水、激しい嵐といった異常気象が今後はより頻繁に発生し、規模も大きくなると明言している。そのため食料・製品の生産、製造、流通への世界的な影響は、途方に暮れるほど広範囲に及びかつ、複雑になる。

企業がまず懸念することは、高まる気候リスクに自社やサプライヤーのどの工場がさらされているかという点だ。各国政府はもっぱら食料供給に対する脅威に注目している。

だが、今年の干ばつは気候変動が激しくなるに従い、国際貿易の水上輸送インフラそのものが干上がったり、閉鎖されたりする危険性があることも浮き彫りにした。

事例は枚挙にいとまがない。アルゼンチンでは、南米の川としては全長がアマゾン川に次ぐパラナ川で、水位低下が深刻な状況がここ数年続いている。この川は穀物を輸出する際の主要水路だが、渇水が大豆の輸送に支障をきたしている。なお、アルゼンチンは大豆輸出で世界第3位だ。

マレーシアでは、昨年の洪水でマラッカ海峡沿いにあるクラン港が被害を受け、台湾製の高度な半導体の供給が深刻な打撃を受けた。こうした半導体の多くは、最終工程のパッケージングがマレーシアで施されてから世界各地に出荷される。

やはり昨年氾濫が被害をもたらしたライン川経由の貿易は今、過去5年間で2度目の深刻な渇水に苦しめられている。前に渇水があった2018年には、貨物の運搬が止まったことで、同年第4四半期のドイツの経済成長が0.4%下振れした。

炭素排出、一層増加の恐れ

オランダのデルフト工科大学のマーク・ファン・コニングスフェルト教授(港湾・水路学)は、こうした状況にもかかわらず、「輸送に対する気候の影響よりも気候に対する輸送の影響の方にはるかに大きな関心が寄せられてきた」と話す。

国際貿易の約8割はどこかの段階で船によって運ばれており、海上輸送の貿易量は20年までの30年間で3倍近くに膨らんだ。また気候変動以外の変化によっても、貿易システムは混乱に陥りやすくなっている。船舶は徐々に大型化し、問題が発生した場合の救援が困難かつ高コストになった。

干ばつが発生した場合の容易な代替ルートもない。内陸輸送用の船1隻が輸送できる量は約100~150台のトラックに相当するため、道路や鉄道では負担を背負いきれない。典型的な対応としては、船の積載量を減らすか、小型船で運航回数を増やすしかない。

河川の水位が低いと、船が進行しづらくなり、使用燃料が増えるため、二酸化炭素の排出は一層増えることになる。それだけでなく、水路と港湾システムを取り巻くコスト上昇と混雑にもつながる。

しかも、こうした対策が常に奏功するわけでもない。ファン・コニングスフェルト教授によると、18年の渇水のピーク時には、最善の努力を尽くしたにもかかわらず、輸送貨物の総量は約6割減少した。

世界3800カ所の沿岸部の港に対する気候変動の影響を研究している米ロードアイランド大学のオースティン・ベッカー准教授は、問題は「気候から生じるリスクは貿易システムのあらゆる側面に広がっているため、特定の組織が問題に対処しようとすることは難しい」と指摘する。

喫緊の課題は、こうした港の3分の1は熱帯低気圧が発生しやすい場所にあることだ。嵐の激しさの平均が少し変わっただけでも港の稼働停止期間が大幅に増えかねない。

独化学大手BASFのように、低い水位でも航行できるはしけ船を開発するなど、企業が独自に取り組んでいる事例も見受けられる。しかし、問題の大きさを考えると、こうした対応策は、技術またはコスト面から実現可能性の限界にぶつかる可能性が高いと専門家は指摘している。

より一般的に言えば、こうした異常気象は悪化し続ける構造的な問題ではなく、個別の非常事態として扱われる傾向がある。抜本的な対策が打たれないまま似たような問題が再発しがちで、国連防災機関(UNDRR)はこれを「災害・対応・復旧の繰り返し」サイクルと呼んでいる。

災害対策への投資、企業・国家レベルで増加

ビジネスにおいても同じことが言えるかもしれない。企業にはすでに、サプライチェーン(供給網)を感染症のパンデミック(世界的な流行)などで生じるような混乱から守り、高まる地政学的リスクに備えて全面刷新を迫る圧力がかかっている。

だが、サプライチェーンをより簡素にした場合、気候リスクが集中する恐れがある。レジリエンス(強じん性)を実現しようとすると、調達先の二重化や地理的な多角化、在庫の積み増しによって効率性が犠牲になる。災害に耐えられるように、各種資産への投資も必要になるかもしれない。

気候変動対策に取り組むオランダの財団グローバルセンター・オン・アダプテーションのパトリック・フェアコイエン代表は、これは「先送りして代償を払う」より望ましいと言い、気候変動に対するレジリエンスへの投資は国家レベル、企業レベルで金額が積み上がっていくと主張している。

政府と企業は今後、気候を新たなサプライチェーンが抱えるリスクとしても考慮しなければならないのだ。

By Helen Thomas

(2022年8月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.』

グローバル化の終わり サプライチェーン見直し加速

グローバル化の終わり サプライチェーン見直し加速
Global Economics Trends 編集委員 太田康夫
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD061HY0W2A400C2000000/

 ※ 『ウクライナ紛争を受けて、サプライチェーン(供給網)の混乱に拍車がかかっている。米国など主要7カ国(G7)とロシアによる制裁の応酬で、ロシアやウクライナからのエネルギー、農産物、半導体などの供給のほか、黒海やシベリア上空の物流に支障が出ている。また、米国のバイデン大統領が紛争を民主主義と専制主義の戦いと位置付けたため、欧米企業が西側民主主義と距離を置く国の供給拠点を見直そうとしている。中長期的に新興国の安価な労働力や資源の有効活用がしにくくなるため、冷戦後のグローバリゼーションは終わったとの指摘も出ている。』…。

 ※ 『「過去40年以上にわたるジャストインタイムの在庫とグローバルな製造への移行は、消費者、企業、政府に利益をもたらしたが、パンデミック(世界的大流行)で新たな課題が生じた。供給側で都市封鎖(ロックダウン)により生産現場が閉鎖され、需要側で消費者が耐久消費財への支出を増やした。企業は生産に必要な中間財や原材料を確保できず、サプライチェーンが混乱した」』…。

 ※ 『米国などはロシアが一方的に軍事侵攻したとして経済制裁を実施したため、ロシアは欧米が主導する国際経済から切り離され、制裁対象のロシアや戦場となっているウクライナを取り込んだサプライチェーンが機能しにくくなっている。』…。

 ※ 『最も懸念されているのはエネルギーで、とりわけロシア依存が高い欧州への影響が大きい。』…。

 ※ 『「ロシアの石油供給不足を解消できなければ、石油の過剰需要をなくすために、石油の価格を長期間大幅に上昇させる必要がある」と指摘している。影響として、欧州が経済活動を維持するため化石燃料依存を減らす計画一時停止、サプライチェーンの混乱によるインフレ圧力継続世界的な景気後退の3つを挙げている。』…。

 ※ 『食品の供給網にも暗い影を落としている。ロシア、ウクライナともに小麦の主要な輸出国であるためで、この面では小麦輸入の6割以上をロシアに依存するエジプトやスーダンなどアフリカが深刻だ。』…。

 ※ 『食品への不安を増幅しているのが、肥料の問題だ。』…。

  『ロシアが窒素肥料で世界1位、カリウム肥料で2位、リン肥料で3位の輸出国であることを明らかにしている。肥料の供給不足が起きれば、肥料価格が上がり、世界中の農産物価格に響きかねない。』…。

 ※ 『IT(情報技術)への影響も小さくない。』…。
 
 ※ 『世界的に半導体不足が鮮明になっているが、半導体のチップ設計作業時に使うレーザーの動力源であるネオンガスの大手輸出企業はウクライナにある。また、センサーやメモリーの製造に使用されるパラジウムは、ロシアが世界生産の37%を占めている。』…。

 『『ITソフトウエアの開発・保守はウクライナの有力産業で、国内総生産(GDP)の4%を占めている。ソフトウエアエンジニアリングの米EPAMは1万4000人のウクライナ人の従業員を抱えており、一時的にビジネスに影響が出るのは避けられそうにない。』…。

 ※ 『物流への打撃も大きい。』…。

 ※ 『「ロシアの港の回避と空域の相互閉鎖は、新たな非効率性と航空貨物容量の減少につながる。継続的なサプライチェーンのトラブルとインフレと輸送コストの上昇は、貿易に下振れリスクをもたらす」』…。

 『「ウクライナとロシアの緊張の高まりは、航海スケジュールを混乱させ、積み替え港間の貨物の迂回を引き起こし、サプライチェーンの問題を悪化させる可能性がある。港や駅など重要なインフラを標的としたサイバー攻撃のリスクは、グローバルなサプライチェーンにさらなる逆風をもたらす可能性がある」』…。

 ※ 『コロナ禍による混乱だけなら、感染が収束すれば正常化が期待できたが、バイデン大統領が紛争を民主主義絡める姿勢を鮮明にしていることで、企業は中長期的なサプライチェーンの再構築圧力にさらされている。欧州の企業関係者によると、ロシアに隣接し、反ロシア的な姿勢をとっている国は敬遠される可能性があるほか、開発独裁色が強い新興国への供給網展開は再点検を迫られることになる。』…。

 『「ウクライナ戦争が欧州の製造工程に大きな影響を与えたことで、グローバルサプライチェーンに関連するリスクが浮き彫りになった。欧州が国内製造業を強化する可能性がある。企業はサプライチェーンのストレステストを行い、リスクに対する耐性を高める戦略をとる必要がある」』…。

 『「米企業はサプライチェーンのレジリエンス(回復力)の強化に動いている。対応策として、海外から米国への生産回帰(リショアリング)、サプライチェーンの多様化、在庫を過剰に積むことがある。今のところ、リショアリングは限られているが、市場はいずれこの方向に進むと期待しているようだ」』…。

 ※ 『効率的なサプライチェーンが重要な要素だったグローバリゼーション終わったではないかとの見方が出ている。』…。

 『「戦争が平和的に解決され、ロシアに対する制裁が撤回されたとしても、外国企業はこれまでと同じようには投資しないだろう」と、企業行動の変化に言及している。そのうえで「ウクライナでの戦争とロシアに対する西側の制裁が世界経済を(少なくとも)2つの部分に分割するだろう。経済貿易地政学的なレンズを通して認識されるようになると、効率や持続可能性よりも、安全と防衛が優先される可能性がある」』…。

 『「(制裁で)新しい鉄のカーテンが引かれ、それはグローバリゼーションの後退になる。グローバル化を支えてきた国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)は、今日、正しいか間違っているかはともかく、政治的罰の手段として使われている。(中略)これはウクライナについての単なる戦争ではなく、グローバリゼーションに対する世界的な闘争だ」』…。

 ※ 『「クレムリンは、西洋の基準に基づく統一という形でのグローバリゼーションを、国民のアイデンティティー固有の文化に対する脅威と見なしている。グローバリゼーションは一般的に前向きな現象だが、それは全世界西洋化と同等であってはならない。ロシアはBRICSの他の諸国や、エジプト、イラン、サウジアラビア、トルコなどの非西欧の国々と協力している」と強調している。実際、ロシアはウクライナ侵攻後に、インドのガス会社に石油を売っているほか、イランとはSWIFTを使わない決済を検討している。』…。

『ウクライナ紛争を受けて、サプライチェーン(供給網)の混乱に拍車がかかっている。米国など主要7カ国(G7)とロシアによる制裁の応酬で、ロシアやウクライナからのエネルギー、農産物、半導体などの供給のほか、黒海やシベリア上空の物流に支障が出ている。また、米国のバイデン大統領が紛争を民主主義と専制主義の戦いと位置付けたため、欧米企業が西側民主主義距離を置く国の供給拠点を見直そうとしている。中長期的に新興国の安価な労働力や資源の有効活用がしにくくなるため、冷戦後グローバリゼーション終わったとの指摘も出ている。

ウクライナ紛争を受けて、サプライチェーン混乱への懸念が高まっている(米ロサンゼルス、2021年10月)=AP

米中摩擦・コロナ、そしてウクライナ紛争

グローバルなサプライチェーンは、米中の貿易摩擦や新型コロナウイルスの感染拡大で混乱した。米大手金融機関、シティグループのリポート「グローバルサプライチェーン、通常に戻る複雑な道」(GLOBAL SUPPLY CHAINS: The Complicated Road Back to “Normal”)で、筆者のネイサン・シーツ氏らは「過去40年以上にわたるジャストインタイムの在庫とグローバルな製造への移行は、消費者、企業、政府に利益をもたらしたが、パンデミック(世界的大流行)で新たな課題が生じた。供給側で都市封鎖(ロックダウン)により生産現場が閉鎖され、需要側で消費者が耐久消費財への支出を増やした。企業は生産に必要な中間財や原材料を確保できず、サプライチェーンが混乱した」と指摘していた。

この混乱に、拍車をかけたのがウクライナ紛争だ。米国などはロシアが一方的に軍事侵攻したとして経済制裁を実施したため、ロシアは欧米が主導する国際経済から切り離され、制裁対象のロシアや戦場となっているウクライナを取り込んだサプライチェーンが機能しにくくなっている。

石油供給ショック 濃縮ウラン最大手もロシアに

最も懸念されているのはエネルギーで、とりわけロシア依存が高い欧州への影響が大きい。ロシアは世界の天然ガスの約17%、石油の約12%を生産しているほか、原子力発電に必要な濃縮ウランの業界ではロシアの国営原子力企業ロスアトム傘下のトベルフュエルが世界シェア約4割の最大手だ。

ロシアへの依存度が高い欧州のエネルギー調達は特に懸念されている(ロシア・サハリン、2021年10月)=AP

米ダラス連銀が公表したリポート「2022年のロシアの石油供給ショック」(The Russian Oil Supply Shock of 2022)で、筆者のルッツ・キリアン氏らは「ロシアの石油供給不足を解消できなければ、石油の過剰需要をなくすために、石油の価格長期間大幅に上昇させる必要がある」と指摘している。影響として、欧州が経済活動を維持するため化石燃料依存を減らす計画の一時停止、サプライチェーンの混乱によるインフレ圧力継続、世界的な景気後退の3つを挙げている。

アフリカを直撃した食料ショック

食品の供給網にも暗い影を落としている。ロシア、ウクライナともに小麦の主要な輸出国であるためで、この面では小麦輸入の6割以上をロシアに依存するエジプトやスーダンなどアフリカが深刻だ。

国連貿易開発会議(UNCTAD)はリポート「ウクライナ戦争の貿易と開発への影響」(Ukraine war’s impact on trade and development)で「ウクライナとロシアは農産食品市場の世界的プレーヤーで、ひまわり油種子の世界貿易の53%、小麦の27%を占めている。25ものアフリカ諸国が、両国から小麦の3分の1以上を輸入している」と懸念している。

食品への不安を増幅しているのが、肥料の問題だ。国連食糧農業機関(FAO)は情報ノート(The importance of Ukraine and the Russian Federation for global agricultural markets and the risks associated with the current conflict)で、ロシアが窒素肥料で世界1位、カリウム肥料で2位、リン肥料で3位の輸出国であることを明らかにしている。肥料の供給不足が起きれば、肥料価格が上がり、世界中の農産物価格に響きかねない。

これに関連して、米国は3月24日に対ロシア制裁で対象個人を拡大する制裁強化を発表する一方、第三者への意図しない結果を最小限に抑えるためとして肥料・有機肥料についての輸入制限を事実上、解除している(Russian Harmful Foreign Activities Sanctions Regulations 31 CFR part 587)。

半導体不足に拍車も ネオンガス最大手はウクライナに

IT(情報技術)への影響も小さくない。世界的に半導体不足が鮮明になっているが、半導体のチップ設計作業時に使うレーザーの動力源であるネオンガスの大手輸出企業はウクライナにある。また、センサーやメモリーの製造に使用されるパラジウムは、ロシアが世界生産の37%を占めている。

センサーやメモリーの製造に使用されるパラジウム生産では、ロシアが高いシェアを占める=ロイター

米国に本部がある非営利の供給管理組織、サプライマネジメント協会(ISM)はブログの記事(Semiconductor Concerns Rise Amid Ukraine-Russia Conflict)の中で、ISMの役員であるジェフリー・ウィンセル氏の「ウクライナで起きていることが、多様化されていない企業の半導体サプライチェーンをさらに複雑にする可能性がある」との指摘を紹介している。

またITソフトウエア開発・保守はウクライナの有力産業で、国内総生産(GDP)の4%を占めている。ソフトウエアエンジニアリングの米EPAMは1万4000人のウクライナ人の従業員を抱えており、一時的にビジネスに影響が出るのは避けられそうにない。

ウクライナには小規模なIT関連スタートアップ企業も多く、同国のIT人材を活用してサービスを提供する欧米企業への影響が広がる恐れもある。

物流に迂回コストの重荷

物流への打撃も大きい。オランダの大手金融機関、INGのリポート「サプライチェーンの形を変え、世界貿易を打ちのめすロシアとウクライナの危機」(Russia-Ukraine crisis to reshape supply chains, flatten world trade)は「ロシアの港の回避と空域の相互閉鎖は、新たな非効率性と航空貨物容量の減少につながる。継続的なサプライチェーンのトラブルとインフレと輸送コストの上昇は、貿易に下振れリスクをもたらす」と指摘している。

また米金融大手、JPモルガンのリポート「コンテナ輸送の洞察+中国供給の混乱」のなかで、筆者のカレン・リー氏らは「ウクライナとロシアの緊張の高まりは、航海スケジュールを混乱させ、積み替え港間の貨物の迂回を引き起こし、サプライチェーンの問題を悪化させる可能性がある。港や駅など重要なインフラを標的としたサイバー攻撃のリスクは、グローバルなサプライチェーンにさらなる逆風をもたらす可能性がある」と分析している。
企業が戦略見直し、国内生産回帰や在庫積み増し

コロナ禍による混乱だけなら、感染が収束すれば正常化が期待できたが、バイデン大統領が紛争を民主主義絡める姿勢を鮮明にしていることで、企業は中長期的なサプライチェーンの再構築圧力にさらされている。欧州の企業関係者によると、ロシアに隣接し、反ロシア的な姿勢をとっている国は敬遠される可能性があるほか、開発独裁色が強い新興国への供給網展開は再点検を迫られることになる。

ロシアのウクライナ侵攻は、冷戦後のグローバル化に終わりを告げるきっかけになるのか(ウクライナ・ブチャ、4月1日)=AP

米経営学誌、ハーバード・ビジネス・レビューが公表した論文「ウクライナ戦争が世界のサプライチェーンをどう混乱させているか」(How the War in Ukraine Is Further Disrupting Global Supply Chains)で、筆者の米マサチューセッツ工科大学(MIT)のデイビット・シムチ・リーバイ氏は「ウクライナ戦争が欧州の製造工程に大きな影響を与えたことで、グローバルサプライチェーンに関連するリスクが浮き彫りになった。欧州が国内製造業を強化する可能性がある。企業はサプライチェーンのストレステストを行い、リスクに対する耐性を高める戦略をとる必要がある」と指摘している。

また、米投資銀行、ゴールドマン・サックスの米国経済リポート「サプライチェーンの頑健性の強化」(Strengthening Supply Chain Resilience)で、筆者のロニー・ワーカー氏は「米企業はサプライチェーンのレジリエンス(回復力)の強化に動いている。対応策として、海外から米国への生産回帰(リショアリング)、サプライチェーンの多様化、在庫を過剰に積むことがある。今のところ、リショアリングは限られているが、市場はいずれこの方向に進むと期待しているようだ」と分析している。

世界経済は2つに分割へ

効率的なサプライチェーンが重要な要素だったグローバリゼーション終わったではないかとの見方が出ている。ベルギーにあるゲント国際ヨーロッパ研究所が公表した論文「私たちが知っているグローバリゼーションの終わり」(The End of Globalisation As We Know It)のなかで、筆者のフェルディ・デ・ビル氏は「戦争が平和的に解決され、ロシアに対する制裁が撤回されたとしても、外国企業はこれまでと同じようには投資しないだろう」と、企業行動の変化に言及している。そのうえで「ウクライナでの戦争とロシアに対する西側の制裁が世界経済を(少なくとも)2つの部分に分割するだろう。経済貿易地政学的なレンズを通して認識されるようになると、効率や持続可能性よりも、安全と防衛が優先される可能性がある」と指摘している。

また、投資情報サービス、アジア・ブリーフィングの創設者であるクリス・デボンシャー・エリス氏はリポート「2022年、グローバリゼーションの終わり」(2022: The End Of Globalization)で「(制裁で)新しい鉄のカーテンが引かれ、それはグローバリゼーションの後退になる。グローバル化を支えてきた国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)は、今日、正しいか間違っているかはともかく、政治的罰の手段として使われている。(中略)これはウクライナについての単なる戦争ではなく、グローバリゼーションに対する世界的な闘争だ」と論評している。

ロシアのシンクタンク、カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン氏は論文「ロシア、グローバルシステムでの卓越性を求めて」(Russia: Looking for Prominence in the Global System)のなかで「クレムリンは、西洋の基準に基づく統一という形でのグローバリゼーションを、国民のアイデンティティー固有の文化に対する脅威と見なしている。グローバリゼーションは一般的に前向きな現象だが、それは全世界西洋化と同等であってはならない。ロシアはBRICSの他の諸国や、エジプト、イラン、サウジアラビア、トルコなどの非西欧の国々と協力している」と強調している。実際、ロシアはウクライナ侵攻後に、インドのガス会社に石油を売っているほか、イランとはSWIFTを使わない決済を検討している。

クリックすると「Global Economics Trends」へGlobal Economics Trends
https://www.nikkei.com/opinion/global-economics-trends/

【記事中の参照URL】
■GLOBAL SUPPLY CHAINS: The Complicated Road Back to “Normal”(https://marketinsights.citi.com/files/GPS-The-Complicated-Road-Back-to-Normal.pdf)

■The Russian Oil Supply Shock of 2022(https://www.dallasfed.org/research/economics/2022/0322)

■Ukraine war’s impact on trade and development(https://unctad.org/news/ukraine-wars-impact-trade-and-development)

■The importance of Ukraine and the Russian Federation for global agricultural markets and the risks associated with the current conflict(https://www.fao.org/3/cb9236en/cb9236en.pdf)

■Russian Harmful Foreign Activities Sanctions Regulations 31 CFR part 587(https://home.treasury.gov/system/files/126/russia_gl6a.pdf)

■Semiconductor Concerns Rise Amid Ukraine-Russia Conflict(https://www.ismworld.org/supply-management-news-and-reports/news-publications/inside-supply-management-magazine/blog/2022/2022-03/semiconductor-concerns-rise-amid-ukraine-russia-conflict/)

■Russia-Ukraine crisis to reshape supply chains, flatten world trade(https://think.ing.com/articles/russia-ukraine-crisis-to-disrupt-supply-chains-flatten-world-trade/)

■How the War in Ukraine Is Further Disrupting Global Supply Chains(https://hbr.org/2022/03/how-the-war-in-ukraine-is-further-disrupting-global-supply-chains)
■The End of Globalisation As We Know It(https://www.ugent.be/ps/politiekewetenschappen/gies/en/gies_papers/2022-ukraine/the-end-of-globalisation-as-we-know-it)

■2022: The End Of Globalization(https://www.asiabriefing.com/news/2022/02/2022-the-end-of-globalization/)

■Russia: Looking for Prominence in the Global System(https://carnegiemoscow.org/2022/02/17/russia-looking-for-prominence-in-global-system-pub-86386)

[FT]中国・欧州間の輸送費、4倍に コンテナ不足

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM2065S0Q1A120C2000000

『中国から欧州へモノを運ぶ輸送費が過去8週間で4倍以上に高騰し、過去最高を記録した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で生じた空コンテナの不足で国際貿易が混乱しているためだ。

荷主と輸入業者によると、アジアから欧州北部へ40フィートコンテナ1個を運ぶ輸送料金が昨年11月の約2000ドルから9000ドル超に跳ね上がった。

欧米に取り残されたコンテナ

デンマークの海運コンサルティング会社…

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・デンマークの海運コンサルティング会社シーインテリジェンスのラース・イェンセン氏は「コンテナ海運がボトルネックになっている……(中略)コンテナという限られた資源を奪い合う顧客がいるなか、輸送費が高騰している」と語った。

・2020年上半期、コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)で国際貿易が唐突に減速し、海運会社が数百便の運航便をキャンセルした。この際、何千個もの空コンテナが欧州と米国に取り残された。下半期に欧米でアジア製品の需要が回復すると、アジア発のコンテナを奪い合う荷主間の競争が激化し、運賃が急騰した。

・世界海運評議会のジョン・バトラー会長は「貨物量は激減から一転して、現在は歴史的な高水準で推移している。現在、港湾ターミナルが効率的に処理できる以上の貨物が流入している」と述べた。

・そして、港湾での混雑も輸送費高騰の一因となり、長くなったコンテナの待ち時間で生じるコストを埋め合わせるために海運会社が追加料金を請求していると付け加えた。

・欧州向け運賃は11月以降、コンテナ輸送船が太平洋航路を使うようになったことで一段と高騰した。対照的に、中国から米国へ向かう貨物の輸送費は、中国政府が海運会社に運賃の上限設定を要請した10月以降、頭打ちになっている。

欧州の生産者、価格転嫁は避けられず

・英国の貨物フォワーダー(貨物利用運送事業者)、エッジ・ワールドワイドのフィリップ・エッジ最高経営責任者(CEO)は、一部の企業はコンテナ1個当たり1万2000ドルの料金を請求されており、10月の約2000ドルから高騰したと話している。

・英国の家電製造業協会(AMDEA)は声明で、加盟企業は20年の年初以降、輸送費が最大300%増加したと報告しており、「増加した輸送費分が商品から得られる利益より大きく、そのため、こうした費用をエンドユーザーに転嫁しなければならない」ケースもあると述べた。

・さらに、「生産者は、こうした大幅な運賃上昇を吸収できるとはみていない」としている。

・匿名を条件に答えた英マンチェスターのレジャー用品輸入業者のオーナーは、コンテナ不足が商売に「多大な影響」を与えており、11月に出した注文の一部がまだ出荷待ちの状態だと語った。

・「問題は、1万2000ドル(の費用)を今払い、こうした料金を顧客に転嫁するか、それとも待って、在庫が尽きるリスクを冒すかだ」

・エコノミストらによると、混乱と遅延が世界のサプライチェーンに影響を及ぼし始めている。英調査会社キャピタル・エコノミクスのチーフエコノミスト、ニール・シェアリング氏は「負荷の兆候は積み上がっている」と言い、この圧力は「和らぐ前に、まだ強まる」見込みだと警告した。

・英IHSマークイットの最近の調査では、昨年12月、ユーロ圏の製造業サプライヤーの納期が4月のロックダウンの絶頂期以来、最悪のレベルに達し、輸送の遅延とサプライヤーでの一般的なモノ不足が「幅広く報告された」という。

・調査対象の企業は、手元の原材料と半製品の在庫がなくなりつつあり、その結果、最終製品の在庫も減少して仕入れ価格が急騰していると報告している。

・金融大手INGのシニアエコノミスト、バート・コリーン氏は、「供給不足と運賃上昇が貿易の伸びを多少鈍らせ、この1年を通して、一時的なインフレ圧力上昇」に寄与するかもしれないと語った。

本格的な高騰解消はまだ先か

・アジアでは2月の旧正月の時期には製造活動が減速するため、海運各社はこの時期に積み上がった受注残を処理する考えだ。これにより一時的でも料金低下につながることが期待されている。

・だが、バルチック国際海運協議会のエコノミスト、ピーター・サンド氏は、海運会社が最近、コンテナの新規注文を出したにもかかわらず、コンテナ不足は21年もずっと続く公算が大きいと指摘する。「発注規模はあまりにも小さく、タイミングも遅すぎる」と評している。

・イェンセン氏は、輸送費は多少下がるかもしれないが、「出荷を待っている膨大な量の貨物がまだある」と言う。

・コロナ関連の制限措置が解除され「人々がサービスに費やす選択肢が増えた時」に海上輸送のサプライチェーンにかかる負荷は和らぐはずだとバトラー氏は語った。ただし、「それがいつかは誰にも分からない」としている。

By George Steer and Valentina Romei in London

(2021年1月19日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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