中国、デジタル人民元が阻むアリババ帝国
編集委員 村山宏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH201QV0Q0A221C2000000
※ この手の問題(中央銀行が発行するデジタル通貨の問題。 英語表記「Central Bank Digital Currency」の頭文字をとって「CBDC」と呼ばれる。デジタル人民元も、その一つ)を考えるときの、「視点」を提示しておく…。
※ と言っても、「素人」なんで、視点を提示することくらいしか、できん…。
※ まず、大きく分類して、「口座型」と「トークン型」に分かれるようだ…。
※ 「口座型」は、従来からの延長で、銀行なんかに「口座」を開設して、そこを「基点」に、ものごとを処理していくやり方のようだ…。
※ 「トークン型」は、そういう「口座」を前提にせず、現在ある「紙幣」「硬貨」の置き換えとして、デジタル・データをやり取りするというやり方のようだ…。
※ それぞれに長所・短所があるようなんで、それを挙げておく…。
※ 「口座型」:
(長所)
・従来通り、「本人確認」「認証」業務を、銀行(金融機関)さんに「お任せ」できる…。
・従来通り、「監督権限」「監督官庁」も、従来通りの「金融庁」みたいな組織で行うことが可能である…。
(短所)
・上記の「長所」の裏返しだ…。
・「通貨」の流通に関わる「利益」は、銀行(金融機関)に吸い上げられる…。
・相変わらず、「送金」「振り込み」なんかの「手数料」は、高止まりのままだろう…。
・銀行(金融機関)に口座開設できない層の「民衆」は、置き去りにされる…。
※ 「トークン型」:
(長所)
・理屈上は、金融機関が強く関与しない形で制度設計が可能なんで、「利益」がみんな金融機関に行く…、ということは無いだろうと、予測される…。
(短所)
・大前提として、「お金」を使うのにも、スマホやPCが必須となる…。特に、発展途上国だと、大問題だな…。
・大規模停電、大規模ネットワーク障害が発生すると、経済活動自体が止まってしまう…。
※ まあ、そういう長短を考えながら、「社会実験」みたいなものも積み重ねて、徐々に決めていくべきものなんだろう…。
※ そしてまた、「ドラスティック」に一気に変えるべきものではなく、少しずつ、様子や経過を観察しながら、徐々に導入をはかっていくべきものなんだろう…。
『中国政府がかつて保護していた巨大IT(情報技術)企業のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)の事業拡大の阻止に動き始めた。金融業にも手を伸ばし、既存の金融システムを脅かし出したからだ。とはいえ中国政府は影響力の大きさから全面規制はできない。こうしたなかでデジタル人民元がIT企業から決済事業を奪い、拡大に歯止めをかけるとの見方が浮上する。ITから流通、金融へと「領土」を拡大してきたアリババ帝国にも斜陽…』
・国共産党・政府は18日に閉幕した中央経済工作会議で「独占に強く反対し、無秩序な資本拡張を防ぐ」との方針を決めた。
・これに先立ち、中国の規制当局は14日に独占禁止法違反でアリババとテンセントの子会社に罰金を科したと発表。
・11月には、アリババ傘下のアント・グループの株式上場を延期させた。アントはアリババのキャッシュレス電子決済サービスのアリペイを運営する金融会社。上海と香港に上場し、345億ドル(約3兆6000億円)を調達する計画だった。
・アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は10月24日、上海で開かれた金融会合での演説で、規制強化の動きについて「昨日の手法で未来を管理できない」と反発していた。
・アリババはアリペイを使った消費者ローンに乗り出しており、AI(人工知能)による与信審査も手がける。アント上場で巨額の資金を調達すれば銀行以上の存在になり得る。
・中国政府はアントの上場延期でアリババをけん制し、その間にIT企業の膨張を抑える策を導入する狙いとみられる。実際、12月中旬にはアントなどが手がけるスマートフォンで銀行預金を仲介するサービスを停止させた。中小銀行がIT企業と提携し、高い金利で預金を集めていた。
・当初、中国政府はアリババが始めたキャッシュレス決済を流通や金融を革新するテクノロジーとして保護し、都市部では現金が使われなくなるほどに浸透した。しかし電子決済のシェアはアリババのアリペイが55%、テンセントのウィーチャットペイが39%と2社の寡占状況を生んだ。銀行の発行するデビットカード(銀聯カード)やクレジットカードの利用は大きく増えず、新興企業や消費者も借り入れを銀行ではなく、IT企業の金融事業に頼るようになった。
・なかでも銀行の脅威となったのがアリババの投資ファンドだ。アリペイ型の電子決済では銀行口座などのお金をアリペイに移して使う。アリババは利用者が使い切れなかった資金を銀行に戻さずに、アリペイから投資できる「余額宝」というMMF(マネー・マーケット・ファンド)をつくった。解約はスマホで簡単にでき、戻された資金は再び支払いに使える。銀行預金より高い利回りで提供したため、アリペイの利用者は銀行口座から余額宝に資金を移した。
・18年6月には余額宝系ファンドの資金規模が1兆8602億元(約30兆円)に上り、四大国有銀行の一角である中国銀行の個人の普通預金、1兆7986億元(17年末)を超えた。IT企業が国有銀行など既存の領域を脅かし始めると、中国政府はIT企業の金融事業に対して徐々に規制を強め、急成長していたネットを媒介とする小口融資に網をかけた。さらにアリペイやウィーチャットペイに銀行と同じように準備預金を中国人民銀行(中央銀行)へ積むことを義務付けた。
・それでも余額宝系ファンドの規模は20年6月で約2兆5400億元に膨らんだ。金融当局の力の及ばないところでIT企業の金融事業が拡大すれば金融政策は効力を失い、既存の銀行・証券業も危くなる。
・中国政府内ではIT企業の膨張に対する強硬論も台頭する。中国証券監督管理委員会の姚前・科技監管局長は12月に入り、IT企業に対し「デジタルサービス税を課すべきだ」と発言している。
アリババ集団の創業者のジャック・マー氏はIT企業の金融事業に自信を見せていた(2018年6月、香港)=ロイター
・だがIT企業の力を一気にそぐことはリスクが大きい。スマホ決済は庶民の生活インフラになっており、過度に規制すれば小売業やネット通販など実体経済が落ち込む。
・中国政府がこの状況を変えるゲームチェンジャーとして期待するのがデジタル人民元だ。
・姚前氏は中国人民銀行デジタル通貨研究所長の時代に「デジタル通貨の決済では仲介機能に依存しなくとも済む」と主張していた。
・現段階の構想では、デジタル人民元の利用者は預金口座を持つ銀行のデジタル人民元口座(デジタルウォレット)を設定し、必要な額を換えて使う。スマホに入れた銀行のアプリからデジタル人民元を相手側に直接支払うことができる。ネットを使わずにスマホを相手のスマホに近づける方法でも支払いが可能だ。アリペイのような仲介役の第三者の決済機関にお金を移す必要はない。これなら預金は銀行にとどまる。
・デジタル通貨とは異なるが、インドは第三者の決済機関を用いないスマホ決済で中国に先行した。16年に導入したUPI(統合決済インターフェース)という仕組みで銀行口座とスマホ決済を結びつけた。利用者がスマホでお店のQRコードを読み取り、支払いの操作をすると利用者の銀行口座から支払先の口座に資金が移動し、買い手と売り手の双方のアプリで結果を確認できる。スマホによるデビットカードといっても良い。
・インドでも当初は「Paytm」(ペイティーエム)というアリペイのようにあらかじめ資金を移しておくアプリがシェアを伸ばした。アントやソフトバンクが出資したインドのIT企業だ。
・ところがUPIの利用が広がるとPaytmは勢いを失った。インドではUPIを使って銀行からの資金移動を指示する、米ウォルマート傘下の「PhonePe」(フォンペ)、米グーグルの「Google Pay」(グーグルペイ)などの決済アプリが主流となった。
・中国がデジタル人民元を導入すれば決済を補助する新たなアプリも登場するだろう。直ちにアリペイとウィーチャットペイの牙城を崩すには至らないにしても、2社の寡占状況は崩れるかもしれない。
・もっともインドではPaytmの独占を阻止したものの、今度はUPIをサポートするグーグルなど米2社のアプリが寡占傾向を強めている。インド政府は単一アプリの取引を総取引件数の3割に制限する方針だ。
・通貨を巡る政府と企業の攻防は世界各地で激しさを増している。アリババ帝国にも逆風が吹き始めている。