米、追加支援2925億円 ウクライナ防空能力を強化

米、追加支援2925億円 ウクライナ防空能力を強化
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB100IY0Q3A610C2000000/

『【ワシントン=共同】米国防総省は9日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対する21億ドル(約2925億円)規模の新たな軍事支援を発表した。防空能力の強化を目指し、地対空ミサイルシステム「パトリオット」の弾薬や、地対空ミサイル「ホーク」などを追加提供する。

ロシアに対するウクライナの反転攻勢が本格化する中、国防総省は今回の支援について、ウクライナの短期的な防衛能力だけでなく「自国の領土を守り、ロシアを長期的に抑止するための能力確保につながる」としている。』

ゼレンスキー氏が国際環境団体へ露の環境破壊訴える

北の国から猫と二人で想う事 livedoor版:ゼレンスキー氏が国際環境団体へ露の環境破壊訴える
https://nappi11.livedoor.blog/archives/5440650.html

『ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領President Volodymyr Zelenskyyは国際環境団体の代表に演説し、ロシアによるカホフカ水力発電所Kakhovka HPP(HPP:Hydroelectric Power Plant )の破壊とウクライナ南部の洪水の影響をウクライナが克服できるよう支援するよう呼び掛けた。

「このロシアの環境破壊犯罪は、ここ数十年でヨーロッパ最大のものであるが、どうやらロシアの占領者は、その結果をさらに悪化させることを決定したようだ。」と述べた。図の赤丸は、ウクライナ側住民避難地区。
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領土の占領地域では、約12の集落が浸水しており、避難はまったく行われていない。人々は2日間、水の中に閉じ込められ、飲み水も食事も治療も受けずに屋上に留まっている。死者と負傷者の数はまだ分かっていない。記録映像 

文字通り毎時間、私たちはこの災害によってロシアが引き起こした被害についてますます詳細を確立しています。 30以上の集落で生活が破壊されている。多くの町や村の何十万人もの人々にとって、飲料水へのアクセスが大きく妨げられています。

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ダムの破壊により、燃料貯蔵所、化学薬品を保管する倉庫、肥料を保管する倉庫、および少なくとも2つの「炭疽菌埋葬地」を含む動物埋葬地(いずれも一時占領地域内)が浸水した。彼らに今何が起こったのかはわかりません。集中下水システムがなかった場所では、下水はすでに水の中にあり、あらゆるものを覆っています…
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このロシアのテロ行為によって破壊されたり、絶滅の危機に瀕した生態系の数はすでに数千に上る。 5万ヘクタール以上の森林が浸水し、少なくとも半分が死ぬだろう。何万羽もの鳥と少なくとも2万羽の野生動物が死の危険にさらされています。明らかに、カホフカ貯水池は何百万もの生き物の巨大な墓地と化しています。」

ゼレンスキー大統領は、状況は「極めて困難」であり、これは自然災害や気候危機の現れではなく、「この災害はプーチン大統領とその命令によるものだ」と強調した。大統領は、ロシアはこの大惨事に直接の関与があると説明した。英文記事 、、、

洪水で流された地雷も、今後の新たな問題として浮上している。過去ブログ:2023年6月対露国際協調に踏み込めないフランスの幼稚さ:
2023年6月9日:

ウクライナ南部ヘルソン州のダム決壊による洪水で、ロシアが占領する町、ノバカホウカで8日までに少なくとも5人が死亡した。

親ロシア派の当局者の話としてロシア国営タス通信が伝えた。ノバカホウカはダムから約4.8キロ離れた場所に位置する。タス通信によると、ロシアが任命したノバカホウカの首長ウラジーミル・レオンティエフ氏は「牛を放牧していた7人のうち5人が溺れたとの報告があった」「現在、残る2人の救助活動にあたっている」とロシアのテレビに語った。参照記事』

ダム決壊で、東岸ロシア占領地で被害甚大

北の国から猫と二人で想う事 livedoor版:ダム決壊で、東岸ロシア占領地で被害甚大
https://nappi11.livedoor.blog/archives/5440494.html

『ウクライナ南部ヘルソン州Kherson Oblastのロシア占領下オレシュキ Oleshky市(ドニエプル川左岸:東岸)にて、カホウカダム Kakhovka dam決壊による洪水で住民3名が死亡したと報告された。リシチュク市長Mayor of Oleshky, Yevhen Ryshchukが公共放送局(ススピーリネ)に伝えた。

同氏はまた、オレシュキの家屋は屋根の下あたりまで水位があがっており、通りの水位は3メートルに達しているとしつつ、同時にロシア占領政権は住民の避難を行っておらず、また自発的に町を去ることも認めていないと伝えた。

同氏は、オレシュキ共同体(オレシュキ市と隣接12村)はロシアによる占領が始まるまで約4万人が暮らしていたが、占領が始まると人口は約20%となる約8000人まで減っていた指摘した。

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リシチュク氏は、「私たちのところですでに1名が亡くなっている。現在病院でさらに2名だ。私は、死者はもっと多くなると思っている。多くの寝たきりの人は足が不自由だ。足が不自由な人がどうやって屋根に登れるというのだ」と伝えた。同氏はまた、ロシア軍人は夜遅くになってから住民の屋根からの避難を始めたとし、人々は病院に集まっていると伝えた。参照記事 

screenshot(14)、、右図で、青い丸が西岸ウクライナ支配地域の洪水被災地、住民避難地域を示している。ロシア占領地東岸の赤い丸が現在洪水被災地。

左図では、洪水発生前と発生後6月7日の川幅の変化を衛星写真で比較している。カホウカダム Kakhovka dam下流の、東岸(左岸、南側:ロシア占領地)が広範囲に水害を受けているが、これは東岸が西岸(右岸、北側)より低地で、湿地帯や運河の多いことが原因で、ここで陣地を抱えていた多くのロシア部隊が被災し流されたと報告されているが、詳細は不明。

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ダムの破壊により、約130キロ上流にあるザポリージャ原子力発電所の状況に対する懸念が高まっている。この貯水池は発電所に冷却水を提供しており、同発電所もロシアの管理下にあるが、現在、貯水池は急速に空になっている。しかし、国際原子力機関(IAEA)は、発電所を冷却するための代替の水FireShot Webpage Screenshot #847 – ‘Ukraine dam源があると述べている。

ヘルソン市khersonの南部は広範囲に水害の影響を受けているが、多くの住民はロシアの攻撃を避けて避難済みと言われていた。 英文記事 映像記事:『ロシア・プーチン氏に遠心力/反転攻勢を有利に“シェーピング作戦”とは』  過去ブログ:2023年6月予測されていたカホフカ水力発電所のダム破壊 ウクライナ: 』

どうもロシアの極東地方で、ウクライナ人の工作員が活躍しているような感じだ。

どうもロシアの極東地方で、ウクライナ人の工作員が活躍しているような感じだ。
https://st2019.site/?p=21204

『Paul Goble 記者による2023-6-8記事「Moscow Alarmed by Kyiv’s Interest in Russian Far East?and With Good Reason」。

   どうもロシアの極東地方で、ウクライナ人の工作員が活躍しているような感じだ。
 6月7日のタス通信は、ウラジオストックで一人の男が破壊活動の咎で起訴され、終身刑になりそうだと報じているのだが、姓名を記していない。これは、容疑者がウクライナ人であることを暗示している。

 ソ連時代に、極東まで流されたウクライナ人の集団が存在し、彼らは今もロシアには同化をしていないという。

 ※そうか、やっと《デューク東郷》の前半生も掴めそうじゃないか。

 この集団が反モスクワなのは当然として、密かに、極東の少数民族と共闘している可能性もある。

 ※ソ連のウラルより東の土地には、ポーランド人集団も散在していた。帝政時代からだ。彼らもロシアには決して同化せず、いつかモスクワを転覆させてやろうと念じている。
 ウクライナ人がたくさん暮らしているのは、極東の南の地域だという。

 1922年10月25日に赤軍がウラジオストックに入城したとき、まっさきに逮捕したのは、白衛軍の将校ではなく、200人ほどの、ウクライナ人運動家たちであったという。』

露軍の空挺隊員だったパヴェル・フィラティエフ。彼は144ページの、批判的な従軍回想記を2022-8にSNS上に公開。

露軍の空挺隊員だったパヴェル・フィラティエフ。彼は144ページの、批判的な従軍回想記を2022-8にSNS上に公開。
https://st2019.site/?p=21204

『Jennifer H. Svan 記者による2023-6-9記事「Expert Air Force translators post diary of dissident Russian paratrooper’s Ukraine ordeal」。

    露軍の空挺隊員だったパヴェル・フィラティエフ。彼は144ページの、批判的な従軍回想記を2022-8にSNS上に公開。すぐそれは消されたが、米空軍はコピーをとっており、2022-12に全編を英訳した。米空軍大学校内にはロシア語を教えるセクションがある。その教官がロシア語ネイフィヴなので、作業が早かった。

 寒い夜、寝袋なしで部隊は放置された。錆びたボロ小銃、サイズの合わない戦闘服と軍靴。レーションはすぐなくなり、上級部隊に連絡しようにも居所が分からない。

 露軍上層の戦略は単純だった。俺たち露兵の死体の山でウクライナを溺れさせればいいというものだった。

 フィラティエフは、乗せられたトラックが2-24に国境を越えるまで、任務がウクライナ侵略だとは知らされなかった。

 トラックに乗った仲間たちは皆、信じていた。すごい作戦計画に従っているのだと。
 だが、そんなご立派な計画など、立てられてはいなかったと、すぐに分かった。

 フィラティエフは眼の病気になったことから病院へ後送されて助かった。

 今、多くの外国語はAI翻訳機で簡単に英語に変えられるが、言語は生き物なので、最新の言い回しの意味をAIはぜんぜん理解していない。依然として、人間の翻訳者が時間をかけて作業する価値があるのである。

 たとえば「スターレイ」は大尉のこと。「コムバット」は大隊長のこと。いずれも最新のロシア軍営内のジャーゴンなので、辞書には出ていない。

 ソ連時代の重機関銃のことは「ユチョス」と俗称する。機械に直訳させると「岩石」としかならず、意味が通じなくなる。

 「罵りの表現」も1万種類以上あるので、ロシア語上級コースでは、それも教えなくてはいけない。

 フィラティエフは今、フランス国内に政治亡命者として暮らしている。』

豪州空軍がこれから退役させる古いF/A-18を40機強、ウクライナ軍に引き渡せるんじゃないか…。

豪州空軍がこれから退役させる古いF/A-18を40機強、ウクライナ軍に引き渡せるんじゃないか…。
https://st2019.site/?p=21201

『Alius Noreika 記者による2023-6-8記事「Australia could provide F/A-18 for Ukraine. Which are actually better than F-16」。

   豪州空軍がこれから退役させる古いF/A-18を40機強、ウクライナ軍に引き渡せるんじゃないかというので、両国ならびに米国の三者間で相談が始まっているという。

 米政府はこの「再輸出」について許可を与えるつもりだという。
 供与には、ロシア領空内へは飛ばさないという条件がつけられるだろうという。』

ダム決壊時に爆発の振動 地震研究機関―米偵察衛星は熱検知

ダム決壊時に爆発の振動 地震研究機関―米偵察衛星は熱検知
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023061000170&g=int

『ノルウェーの地震研究機関「NORSAR」は9日、ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムが6日に決壊した際に「爆発」の振動を感知したと発表した。AFP通信が報じた。

ダム決壊で住民6000人超避難 600平方キロ水没―ゼレンスキー氏、国際支援訴え・ウクライナ

 爆発は現地時間午前2時54分に起き、揺れは「マグニチュード1~2程度」。約620キロ離れたルーマニア北部でも振動が確認され、担当者は「小さな爆発ではない」と強調した。

 同機関は爆発の原因には触れていないが、これまでの損傷で決壊したのではないという見解に立っている。決壊を巡っては、ウクライナ、ロシア双方が相手側の仕業だと非難している。

 ロイター通信によると、米偵察衛星もダム決壊直前に爆発を検知していたと米当局者が9日、メディアに明らかにした。赤外線センサーが大きな爆発による熱を捉えたという。』

ダム破壊の下手人については、発破特有の「地震波」が記録されている。

ダム破壊の下手人については、発破特有の「地震波」が記録されている。
https://st2019.site/?p=21204

『ダム破壊の下手人については、発破特有の「地震波」が記録されている。宇軍が砲撃で壊したとするモスクワの宣伝はさいしょから破綻している。』

ザポリージャ州オレホボ周辺の戦い、ロシア国防省は攻撃を撃退したと主張

ザポリージャ州オレホボ周辺の戦い、ロシア国防省は攻撃を撃退したと主張
https://grandfleet.info/war-situation-in-ukraine/battle-around-orekhovo-zaporizhia-oblast-russian-ministry-of-defense-claims-to-repel-attack/

『2023.06.9

ロシア国防省はザポリージャ州オレホボ周辺の戦いについて「攻撃を撃退した」と発表したが、ロシア側情報源は「ロボタイン郊外で激しい戦闘が続いている」と主張しており、初日の作戦で破壊されたレオパルト2の映像も登場した。

参考:Минобороны России
電撃的な前進は不可能なのでウクライナ軍の反撃は腰を据えて見ていく必要がある

ロシア国防省は9日「ノヴォダニリウカやマラ・トクマチカ周辺のウクライナ軍に砲撃や空爆を加えて攻撃を2度撃退した。この地域で敵は兵士680人、戦車35輌、歩兵戦闘車11輌、装甲車輌19輌、HMMWVを含む車輌6輌、仏製自走砲Caesar1輌を1日で失った」と述べており、ロシア側情報源は「敵に奪われたカムヤンスキー近くの入植地(ロブコベ)に大規模な反撃を加え、同地を守っていたウクライナ軍は撤退した」と主張している。

出典:GoogleMap ザポリージャ州オレホボ周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

ウクライナ側はザポリージャ州オレホボ周辺の反撃について沈黙を守っており、ロシア側の主張も視覚的な裏付けがないので何も判断できないが、ロシア側情報源は「ウクライナ軍とロボタイン郊外で激しい戦闘が続いている」とも主張しており、多くの観測者は「ウクライナ軍がロボタイン郊外に向けて近づいている」と見ている。

因みにウクライナ側からも「ロブコベに入るウクライナ軍兵士」「初日の作戦で破壊されたレオパルト2」「戦闘に参加するレオパルト2A6」「ロシア軍陣地に襲撃する様子」といった映像が登場しており、恐らく1番目の映像はロシア軍の反撃を受ける前のものだろう。

Footage allegedly from Lobkove, Zaporizhzia region. Ukrainian forces entering the small village while artillery goes back and forth. pic.twitter.com/WcNymdrN1s

— NOELREPORTS 🇪🇺 🇺🇦 (@NOELreports) June 9, 2023

⚡️One of the disabled Leopard 2 as a result of the Ukrainian counteroffensive in Zaporizhia pic.twitter.com/EKvZfA7a1f

— War Monitor (@WarMonitors) June 9, 2023

A Ukrainian soldier with a GoPro cam shows us what it is like to be storming a russian trench, location won’t be disclosed. pic.twitter.com/Ck0DVVjpFP

— Mr. Parrot ™ 🇺🇦 (@parrot_soldier) June 9, 2023

⚡️Leo in action, Zaporizhia pic.twitter.com/nu6RpqKciv

— War Monitor (@WarMonitors) June 9, 2023

追記:ウクライナ軍東部司令部は9日「バフムート方面の一部で最大1.2km前進した」と発表したが、何処から何処へ前進したのかは不明だ。

追記:レオパルト2A4/A6×5輌、 T-72M1×1輌、ブラッドレー×6輌、MaxxPro×3輌、YPR-765×1輌、VAB×1輌、地雷除去車輌×1輌が破壊(放棄)されたことを示す写真と映像、オレホボの南でロシア軍のKa-52の攻撃を受けるウクライナ軍部隊(装甲車輌の車列)の映像が登場した。

関連記事:ウクライナ軍がバフムートとザポリージャで反撃、要所のベルヒフカに迫る
関連記事:米メディア、ウクライナがザポリージャ州で待望の反撃を開始した
関連記事:ウクライナ軍が反攻作戦を開始、ザポリージャ州オレホボの南で交戦中
関連記事:オレホボ周辺の戦い、ウクライナ軍がレオパルト2を含む装甲車輌を投入

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ
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投稿者: 航空万能論GF管理人 ウクライナ戦況 コメント: 83 』

プーチン大統領、ウクライナの反攻「始まったと言える」

プーチン大統領、ウクライナの反攻「始まったと言える」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR09D6W0Z00C23A6000000/

『ロシアのプーチン大統領は9日、ウクライナの反攻について「始まったと断言できる」と国営テレビで述べた。「ウクライナ軍はどの方面でも目的を達成できなかった」とも述べ、ロシア軍が撃退していると主張した。

南部ソチで語ったとタス通信が伝えた。プーチン氏がウクライナ軍の大規模反攻の開始に言及するのは初めて。プーチン氏は撃退していると主張した一方で「(ウクライナ軍の)戦力は依然として残っている」とも述べ、引き続き反攻への対応を続ける考えを示した。
ロシアではこれまで、ショイグ国防相が6日にロシアメディアに対し、ウクライナの大規模反攻が始まったと発言していた。足元ではウクライナ軍の反攻が各地で続いており、ロシア軍が撃退していると強調していた。

複数の欧米メディアは、ウクライナ軍が8日に複数の前線で反攻を始めたとの見方を伝えた。

【関連記事】
ウクライナ、南部で反転攻勢 独戦車レオパルト2投入』

ウクライナのダム決壊、「渡河作戦」困難に 反攻に影響

ウクライナのダム決壊、「渡河作戦」困難に 反攻に影響
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR07E4N0X00C23A6000000/

『【ウィーン=田中孝幸】ウクライナ南部ヘルソン州で6日に起きたダム決壊による洪水で、領土奪回に向けた本格的な反転攻勢を前に南部での戦況に影響が出ている。被災地域への支援の遅れへの懸念も広がる。ゼレンスキー大統領は7日、国際機関の動きの遅さに危機感を表明した。

国営ロシア通信によると被災したロシア支配下の当局者は8日、洪水で5人が溺死したと明らかにした。AFP通信によると、これまでに被災地域の約6千…

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『AFP通信によると、これまでに被災地域の約6千人の住民が避難を余儀なくされた。水没した地域の状況把握はいまだ難しく、実際の被災規模はこれを上回るとの見方が多い。

南部の広大な戦闘地域が被災したことで、すでに戦況への影響が出ている。ヘルソン州でロシア側が任命した当局者はダムの決壊による洪水でウクライナにとってドニエプル川の渡河作戦が困難になったと指摘。「軍事面では戦術的にロシア軍に有利な方向に進んでいる」と語った。

一方、米戦争研究所は7日に発表した戦況分析で、洪水により前線地域の地形が変化し、同川の東岸にあったロシア軍の防御陣地の多くが破壊されたと指摘した。衛星画像を基に、最前線にいた一部のロシア軍部隊は「洪水で撤退を余儀なくされた可能性が高い」との見方を示した。

西側各国からは被災地への支援の表明が相次いでいる。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は6日、加盟各国と浄水ステーションやポンプなどの提供に向けた調整をしていると明らかにした。

ドイツ政府は5千台の浄水器と56台の発電機に加え、テントやベッドを供与すると発表した。フランスのマクロン大統領も7日、緊急援助を送ると表明した。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は7日、ウクライナのクレバ外相と電話協議した。同氏によると、ストルテンベルグ氏はNATOの枠組みで人道支援を実施する意向を示した。

ただ、これらの支援の大半は復旧作業を後押しするものの、水没した家屋などに取り残された人々の救出には間に合わない可能性がある。水没地域の水位は週内は低下に向かわない見通しで、洪水で汚染物質が広範囲に拡散し、衛生環境も悪化している。

ロシアの支配下にある被災地での窮状はとりわけ深刻になっている。ゼレンスキー氏は7日、ツイッターへの投稿で「状況はまさに壊滅的だ。ロシアの占領者は人々をひどい状況に放置している。占領地域では救助も飲料水も医療活動もなく、どれだけの人々が死ぬかも分からない」と強調した。

赤十字国際委員会など国際機関からの支援が得られていないとも指摘した。「国際機関が直ちに救助活動に参加し、ヘルソン地域の(ロシア)占領地域の人々を助ける必要がある」と訴えた。8日にはヘルソン州の被災地域を訪れ、住民の避難や救助について現地の担当官と協議した。

援助機関の動きの遅さは、ロシアの占領当局との連携が極めて難しいことも背景にある。国際非政府組織(NGO)ワールド・ビジョンでウクライナ危機対応を担うクリス・パルスキー氏は「国際援助団体はロシア支配地へのアクセスを得られていない」と語る。

同州の州都ヘルソンの住民で、被災地域の支援に当たってきたワレリー・コマゴロフさん(32)は「現場で最も不足しているのは救助ボートだ」と語る。ヘルソン郊外の住宅地では8割が水没していると指摘。民間のボランティアが救出努力を続けていると述べたうえで「支援は早さが大事だ。この数日で物資が届かなければ多くの人命が失われる恐れがある」と訴える。

ダムの決壊は6日未明に発生。ウクライナとロシアの双方が相手側の攻撃の結果だとして非難している。トルコのエルドアン大統領は7日、ゼレンスキー氏、ロシアのプーチン大統領とそれぞれ電話で協議し、ロシアとウクライナ、トルコと国連などの専門家による国際調査委員会の設置を提案した。

【関連記事】

・ウクライナのダム決壊、トルコ大統領が国際調査委を提案
・NATO、ダム決壊で緊急会合 ウクライナへ人道支援
・ウクライナ、ダム決壊で農業に打撃 穀物価格が上昇 』

NATO、加盟国に災害支援要請 ウクライナのダム決壊

NATO、加盟国に災害支援要請 ウクライナのダム決壊
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR08DO20Y3A600C2000000/

『【ブリュッセル=辻隆史】北大西洋条約機構(NATO)は8日、ウクライナ南部ヘルソン州の巨大ダム決壊を受けて緊急会合を開いた。ストルテンベルグ事務総長は加盟国に対し、迅速な災害支援を求めた。NATOの災害対応組織がウクライナと調整し、必要な物資の手配を助ける。

ブリュッセルでの緊急会合はストルテンベルグ氏が呼びかけ、加盟国の大使級が参加した。同氏は「何千人もの人々や環境に対する影響は極めて大きい」…

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『同氏は「何千人もの人々や環境に対する影響は極めて大きい」と述べ、早期の支援を要請した。ウクライナのクレバ外相もオンラインで加わり、被害状況を説明した。

ダム決壊を受け、NATOの「欧州大西洋災害対処調整センター」の支援枠組みを活用する。加盟国やパートナー国による支援の提供を調整する組織で、2月のトルコでの大地震の際にも大きな役割を果たした。NATOには長年の災害支援の実績がある。

戦場でもあるため、NATOの部隊が直接被害現場に赴くことはしない方針だ。欧州各国は排水ポンプや発電機、浄水器、避難所設備などの援助に乗り出している。調整センターがウクライナのニーズを踏まえた物資のリストを加盟国などと共有し、必要なものを素早く届けられるようにする。

ストルテンベルグ氏は会合で、ウクライナへの中長期の支援策が重要になると強調。6月の国防相会合や7月の首脳会議で議論すると表明した。

6日にカホフカ水力発電所のダムが決壊し、洪水が発生した。周辺地域に甚大な被害が出ている。同発電所はロシアの占領下にあり、ロシアとウクライナはそれぞれ相手方の破壊行為だと主張している。』

ロシア、ダム決壊のウクライナ南部を攻撃 住民避難中に

ロシア、ダム決壊のウクライナ南部を攻撃 住民避難中に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR08DD50Y3A600C2000000/

『【ドバイ=福冨隼太郎】ウクライナ検察当局は8日、巨大ダムの決壊による洪水に見舞われた南部ヘルソン州を同国に侵攻するロシア軍が砲撃したと明らかにした。住民が洪水からの避難中に砲撃を受け、負傷者が出ているとしている。

検察当局によると、ヘルソン市で洪水からの避難活動中にロシア軍が攻撃を実施した。少なくとも9人がけがをしたという。ウクライナ内務省は8日、通信アプリで「ロシアは最も貴重な人命をウクライナ…

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『ウクライナ内務省は8日、通信アプリで「ロシアは最も貴重な人命をウクライナが救うことを妨げている」と批判した。

ウクライナ軍参謀本部は同日、ヘルソン州のロシア軍占領地域では浸水した集落から逃げてきた市民を同軍が部隊の拠点に収容していると主張。「民間人を隠れみのにしている」と指摘した。

一方でロシアのタス通信も8日、浸水したヘルソン州の町からの避難場所をウクライナ軍が砲撃し、2人が死亡したと伝えた。

ヘルソン州では6日、ロシアが占領するカホフカ水力発電所のダムが爆発で決壊した。同州のプロクジン知事は8日、浸水した地域の68%がロシア軍が占領しているドニエプル川の南岸だと指摘した。

AFP通信によると、被災地ではこれまでに約6千人の住民が避難を余儀なくされている。ウクライナとロシアは「相手側の攻撃によるものだ」と互いを非難している。

【関連記事】

・NATO、加盟国に災害支援要請 ウクライナのダム決壊
・ウクライナのダム決壊、「渡河作戦」困難に 反攻に影響 』

「トランプ政治」継続か決別か 共和有力候補出そろう

「トランプ政治」継続か決別か 共和有力候補出そろう
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN07DNP0X00C23A6000000/

『【デモイン(米中西部アイオワ州)=坂口幸裕】マイク・ペンス前米副大統領が7日に2024年11月の米大統領選への出馬を表明し、野党・共和党の有力候補が出そろった。「トランプ政治」の継続か決別か――。乱戦の様相をみせる共和の候補者指名争いの論戦が本格化する。

「憲法より自らを優先させるよう求める人は再び米国の大統領になるべきではない」。ペンス氏は7日、中西部アイオワ州デモイン郊外のイベント会場で20…

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『ペンス氏は7日、中西部アイオワ州デモイン郊外のイベント会場で200人ほどの支持者を前に演説し、「元上司」との対決を宣言した。

演説でトランプ政権時代の功績を評価しつつ、21年1月の議会占拠事件を巡る前大統領の対応に話題を移すと厳しい非難に転じた。20年大統領選で敗れた前大統領が当時副大統領で上院議長を兼務したペンス氏に選挙結果を覆すよう要求し、同氏は拒んだ。

「トランプ政治」との決別か継続かが争点の一つとなる=AP

支持を期待するキリスト教右派が重んじる人工妊娠中絶への反対を明確にし、前大統領は考えを後退させていると決めつけた。前大統領は中絶の権利を制限する連邦法の支持を明言せず、各州に委ねるべきだとの立場をとる。

ペンス氏が抑えてきた前大統領に対する批判のトーンを強めた背景には、保守層の間で前大統領への不満が膨らんでいるとの読みがある。これまでは攻撃対象を議会占拠事件への対応に絞り、熱狂的な支持層を持つ前大統領への配慮をにじませていた。

フロリダ州のデサンティス知事=AP

南部フロリダ州のロン・デサンティス知事も5月24日の出馬表明後にアイオワを訪れ、中絶問題などを念頭に「彼はいくつかの問題で左派に寄った」と断言した。

アイオワは1972年から最初の党候補者指名争いとなる党員集会を開いてきた場所で、24年も各州の先陣を切って1月にも実施予定だ。選挙戦に弾みをつける初戦の勝利を各候補とも重視しており、前大統領やニッキー・ヘイリー元国連大使も現地に入った。

2月に予備選を開く予定の南部サウスカロライナ州はヘイリー氏が知事を務めたお膝元で、出馬表明の地に選んだ。前大統領とデサンティス氏もサウスカロライナと、同じく序盤戦の東部ニューハンプシャー州に足を運んだ。

前大統領とデサンティス氏の地元で大票田でもあるフロリダは16年と同じ日程なら3月中旬になる。3月上旬を見込む各州の予備選が集中する「スーパーチューズデー」までの戦いで水をあけられれば指名獲得は遠のく。

共和候補の政治コンサルティング会社「ファイアハウス・ストラテジーズ」のマット・テリル氏は「アイオワ州で勝てば勢いがついて知名度が上がり、党指名候補になる可能性はかなり高まる」と分析する。

前大統領と各候補の距離も展開を左右する。現時点で前大統領の優位は動かない。米リアル・クリア・ポリティクスによると前大統領の平均支持率は53%で、デサンティス氏が22%で続く。3位のヘイリー氏は4.4%、4位のペンス氏は3.8%にとどまる。

外交面では中国への強硬姿勢で各候補とも大きな差はない。違いが明確になっているのがウクライナ支援だ。前大統領は巨額支援の継続について言及を避ける。「欧州は努力せず、米国に頼っている。不公平だ」と提起し、欧州に負担増を迫る。

デサンティス氏は3月、一段のウクライナ紛争への関与は「(米国の)重要な国益」にならないとの認識を示した。ウクライナ支援の縮小を唱える共和支持層をおもんぱかったが、党内から批判も出た。

ペンス氏は支援の継続を訴える。「ロシアを撃退するまで必要な支援を続けるのは欧州での勝利と同時に、武力で国境線を引き直すのは許さないという中国へのメッセージになる」と明言。中国を「最大の経済的、戦略的な脅威」と位置づける。

ヘイリー氏も「ウクライナの勝利が米国の安全にとって最善の道だ」と話す。ロシアによるウクライナ侵攻を「領土争い」だと言及したデサンティス氏を「間違いだ」と断じた。
ニッキ-・ヘイリー氏は世代交代を訴える(米南部サウスカロライナ州)

共和の候補者は乱立する。ティム・スコット上院議員、東部ニュージャージー州のクリス・クリスティー前知事、南部アーカンソー州のエイサ・ハチンソン元知事も名乗りを上げた。候補者が増えれば反トランプ票が分散し、熱狂的な支持者を持つ前大統領に有利になるとの見方が広がる。

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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説 「アイオワ州デモイン郊外での出馬イベント」がポイント。宗教保守の多い「アイオワ州で善戦し、一気に」という狙い。同州の共和党予備選投票者とみられる7,8割は宗教保守。一方でその中には強いトランプ支持も少なくないため、どうなるか。
2023年6月8日 8:02いいね
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説ペンス前副大統領のトランプ批判は切れ味が鈍いものにとどまらざるを得ない。筆者がそう考える理由は2つ。まず、トランプ政権を副大統領として自らが支えたこと。立場上、この政権の実績を否定するわけにはいかない。今回の出馬表明では、トランプ氏が大統領として実現した成果に「感謝している」とも述べた。もう1つは、共和党支持者のうちかなり多くがトランプ支持だという事実。この人々から決定的に嫌われてしまうと、仮に何らかの理由でトランプ氏が指名争いから脱落する場合でも、ペンス氏が勝ち抜く可能性はほとんどなくなる。トランプ批判で舌鋒が最も鋭いのは「カミカゼ・クリスティー」ことクリスティー前ニュージャージー州知事か。
2023年6月8日 7:53 』

サウジ、米国の原子力協力狙う 中国接近で揺さぶり

サウジ、米国の原子力協力狙う 中国接近で揺さぶり
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR07BFH0X00C23A6000000/

『【ドバイ=福冨隼太郎、ワシントン=坂口幸裕】サウジアラビアが同国との関係立て直しを探る米国に揺さぶりをかけている。ブリンケン米国務長官はサウジアラビアで実力者ムハンマド皇太子らと会談した。サウジはイランとの和解を仲介した中国に接近すると同時に、米中対立をテコに米国からも原子力協力などの実利を狙う。

ブリンケン氏は6日午後に西部ジッダに到着。その後、1時間40分にわたって皇太子と会談した。米国務省…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『米国務省によると両者は中東の安全保障やエネルギー分野での協力拡大について話し合った。

ブリンケン氏は7日にはサウジの首都リヤドでペルシャ湾岸6カ国でつくる湾岸協力会議(GCC)の閣僚級会合にも参加し「米国はこの地域に残り、GCC各国との連携に大きな投資をし続ける」と強調した。

サウジが米国に期待するのは原子力発電での協力だ。原子力分野では中国やロシアとの協力も視野にあるとされる。米国が最大の競争相手と位置づける中国に近づく姿勢を誇示し、米国を再び引きつけて具体的な協力を得る思惑だ。一方、核開発につながりかねない技術の提供に米国は二の足を踏む。

ブリンケン氏の訪問は、人権問題をめぐって隙間風が吹く両国の関係を修復する動きの一環だ。2018年にイスタンブールのサウジ総領事館で発生した米在住のサウジ人記者殺害事件をめぐり、バイデン政権はムハンマド皇太子が承認したと結論づけ両国の関係は冷え込んだ。

22年7月にはバイデン氏がサウジを訪問し、サルマン国王や皇太子に価格が高止まりしていた原油の増産を求めた。増産投資で収入源の原油価格水準を高めにとどめたいサウジとの議論はかみ合わず、むしろサウジは減産を続ける。

米国の影響力が低下したのと対照的に、中東で存在感を高めつつあるのが中国だ。16年に断交したイランとサウジは3月、中国の仲介で外交正常化で合意した。両国の外交正常化をきっかけに、中東ではシリアとサウジ、イランとアラブ首長国連邦(UAE)やエジプトとの間などで、長年の対立関係を解消する動きが急速に広がる。

中国が仲介した中東での「雪解け」は、イランやアサド政権と対立する米国の外交方針とは必ずしも一致しない。

米国はもともとサウジとイスラエルの和解を進めてイランを孤立させる戦略を描いていたが、イランとサウジの接近で目算は狂った。米CNNによると、ブリンケン氏はムハンマド皇太子との6日の会談でサウジとイスラエルの関係正常化にも触れ、協議の継続で合意した。

人権を重視するバイデン政権にとって、サウジの人権問題を無視して両国関係を一気に修復するのは難しい。ブリンケン氏は6日のムハンマド皇太子との会談でも「我々の2国間関係は人権の進展によって強化される」とクギを刺すのを忘れなかった。

人権問題を棚に上げてサウジとの関係を優先すれば、与野党や世論の反発は避けられない。2024年11月の大統領選での再選をめざすバイデン氏が重視してきた人権問題で妥協はできないゆえんだ。

米ジョージ・メイソン大の上級客員研究員のウムド・ショクリ博士は「ブリンケン氏のサウジ訪問は、両国が意思疎通を図ろうとしていることを意味している」と指摘。同時に「今回の訪問が両国関係を大きく改善するとは考えにくい」とも強調した。

【関連記事】

・米国務長官、サウジ皇太子と会談 人権状況改善促す
・イラン、在サウジ大使館を6日再開 外交正常化で 』

米国・メキシコ・カナダ協定

米国・メキシコ・カナダ協定
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80%E5%8D%94%E5%AE%9A

『出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アメリカ合衆国、メキシコ合衆国及びカナダとの協定
英語: United States–Mexico–Canada Agreement (米国)
英語: Canada–United States–Mexico Agreement (カナダ)
フランス語: Accord États-Unis-Mexique-Canada
スペイン語: Tratado entre México, Estados Unidos y Canadá
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種類 自由貿易協定
起草 2018年9月30日
署名 2018年11月30日(ブエノスアイレス)
発効 2020年7月1日
締約国
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
カナダの旗 カナダ
メキシコの旗 メキシコ
言語 英語
フランス語
スペイン語

アメリカ合衆国、メキシコ合衆国及びカナダとの協定(アメリカがっしゅうこく、メキシコがっしゅうこくおよびカナダとのきょうてい、英: the Agreement between the United States of America, the United Mexican States, and Canada[1]、USMCA)は、アメリカ合衆国・メキシコ及びカナダの自由貿易協定である。「米国・メキシコ・カナダ協定」[2]、「米墨加協定」[3]、「米墨加三ヵ国協定」[4]、「新NAFTA」[5]などの様々な訳語、略語、通称があるが、以降はUSMCAで統一する。(※ 文字通り、「ユーエスエムシーエー」と発音するようだ)

これは2017年から2018年にかけて北米自由貿易協定(NAFTA)の加盟国が再交渉した結果であり、2018年9月30日に内容について実質合意がなされ、2018年10月1日[6]に正式に合意された。

2018年11月30日[7]にブエノスアイレスで開かれたG20のブエノスアイレス・サミット(英語版)の席上で、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ、メキシコ合衆国大統領エンリケ・ペーニャ・ニエト、カナダ首相ジャスティン・トルドーがこの協定に署名した。

協定の発効のために必要な手続きが各国の立法府で終了し、最後となった米国の手続終了の通報が2020年4月24日だったため、2020年7月1日に発効した[8][9]。

交渉の焦点は主に自動車輸出・鉄鋼及びアルミニウム関税・乳製品・卵・及び家禽市場に向けられた。

また条項のひとつで「データの国境を越えた流れを制限する法律を各締約国が成立をさせること」を禁止している[10]。

NAFTAと比較して、USMCAは環境及び労働に関する法制を強化し、乗用車とトラックの国内生産を奨励している[11]。

この協定はまた知的財産保護を更新し、アメリカはカナダの190億ドルの乳製品市場へのアクセスを増加し、自動車やトラックの国内生産を促進した[12]。

カナダとメキシコの自動車生産に割り当てを課し、オンラインでアメリカ製品を購入するカナダ人の免税限度額を20ドルから150ドルに引き上げた[13]。

背景及び名称

USMCAは、1994年1月1日に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)を元としている。この協定は、アメリカによるカナダに対する個別の2国間での関税措置の導入のおそれを含む1年以上の交渉の結果であった [14]。

2016年アメリカ合衆国大統領選挙中、ドナルド・トランプの選挙公約は、北米自由貿易協定の再交渉又は再交渉が失敗した場合の協定の廃棄を含んでいた[15]。

選挙の後、トランプ大統領は他の国との貿易関係に影響を与える多くの変更を行った。

パリ協定 (気候変動)から離脱し、環太平洋パートナーシップ協定の交渉を中止し、中国に対する関税を大幅に引き上げることは、彼がNAFTAの改訂を真剣に検討していることを強く示した[16]。

USMCAの長所と短所をめぐる議論の多くは、すべての自由貿易協定(FTA)をめぐる議論と類似している。

例えば、FTAの公共財としての性質、国家主権の潜在的侵害、貿易取引の文言を形成する上でのビジネス、労働、環境、消費者利益の役割などである。

この協定は各署名国によって異なる呼ばれ方をしている。アメリカでは「United States–Mexico–Canada Agreement (USMCA)」、カナダでは英語では「Canada–United States–Mexico Agreement (CUSMA) [17] 」フランス語では「Accord Canada–États-Unis–Mexique (ACEUM) [18] 」メキシコでは「Tratado entre México, Estados Unidos y Canadá (T-MEC)[19][20]」である。

これは、非公式にこれまでの3国間協定の北米自由貿易協定(NAFTA)と比較して「NAFTA 2.0[21][22][23]」又は「New NAFTA[24][25]」 とも呼ばれる。

交渉

アメリカ貿易権限が定めたアメリカにおけるUSMCA批准プロセスのタイムライン

正式な交渉プロセスが始まったのは2017年5月18日、アメリカのロバート・ライトサイザー通商代表部代表が90日以内にNAFTAの再交渉を開始する意向を議会に通知したときだった[26]。

2017年7月7日にUSTRは貿易促進権限法に基づき交渉目的文書を公表したが、2017年8月16日に交渉が開始され、2018年4月8日まで正式な交渉ラウンドが八回行われた。

ライトサイザーは2018年5月2日、 「今月末までに合意が成立しなければ、交渉は2019年まで中断される」 と述べた。この声明は当時就任したメキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領が交渉の文言の多くに同意せず、交渉に調印しない可能性もあるとした。

これとは別に、2018年5月11日ポール・ライアン下院議長は5月17日を議会の行動の期限と定めた。

この期限は無視され、メキシコとの合意は2018年8月27日まで得られなかった[26]。

この時点で、カナダは提示された合意に同意していなかった。

2018年12月1日のメキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領の退任前に締結するため、かつ、60日の審査期間が必要となるため、合意文書をアメリカ議会へ提出する締め切りは2018年9月30日までであった。

交渉担当者は24時間体制で作業を行い、合意文書案を作成したのはその日の午前零時から一時間以内であった。

翌2018年10月1日、USMCAの文書が合意文書として公表された。

合意文書には、2018年にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたG20首脳会議のサイドイベントとして、2018年11月30日に3か国首脳が署名した[27]。

英語版・スペイン語版・フランス語版はいずれも正文となる。

この協定は、各国の立法府による協定の発効のために必要な手続きが終了し、手続終了の通報を最後の米国が2020年4月24日に行ったため、2020年7月1日に発効する[28][9]。

アメリカのLBO専門家で、ブラックストーングループのCEOであり創設者であるスティーヴン・シュワルツマンはその回想録で、USMCA交渉でジャスティン・トルドーが保護された乳製品市場を譲歩するように求めたことが明らかにした。

シュワルツマンによると、トルドーは、景気後退が2019年のカナダ総選挙期間において彼の政府の選挙見通しに影響を与えることを恐れていた。

トランプ大統領によって残留させた行政官は、2017年1月に、カルガリーで自由党内閣と招待されました。

そして、交渉が終わりに近づいた2018年10月1日、ニューヨークでの国連での土壇場での舞台裏会議で、トルドーはメディア産業と自動車免除を救うために酪農産業を犠牲にしました。

クリスティ・フリーランド外務大臣(トロントのダウンタウンのトリニティ・スパディナ選挙区、そこにはCBC、グローブ・アンド・メール、トロント・スター、トロント・サンのスタッフが多数居住している)は、「カナダの文化」をメディア産業に直接マップしている。

ロバート・ファイフ氏は選挙に関する記事で、自由党以外からは何のコメントも得られなかった[29]。

条項

USMCAの規定は農産物・工業製品・労働条件・電子商取引などを含む幅広い範囲を含んでいる。

このUSMCAのより重要な側面は、アメリカの酪農家にカナダ市場へのより多くのアクセスを与えること、自動車の製造における、3国間で製造される割合を増加させること及びNAFTAに含まれていた紛争解決システムを維持することである[28][30]。

乳製品

乳製品の規定はカナダが未批准の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)で合意した規定と類似しているが、若干高くなっており、アメリカには152億ドル(2016年現在)のカナダ乳製品市場の3.6%が無関税で提供され、TPPでの3.25%から上昇している[31][32] 。

カナダは、国内供給管理システムを維持したまま、特定の乳製品のクラス7価格設定条項を撤廃することに合意した[33]。

カナダはアメリカから購入する際の免税限度を以前の20ドルから150ドルに引き上げ、カナダの消費者がアメリカ市場により多く免税でアクセスできるようにすることに合意した[34]。

自動車

自動車の原産地規則の要件により、自動車の価値の一定部分は、締約国内から得られなければならない。

NAFTAでは62.5%が要求された。

USMCAはこの要件を12.5ポイント増やし、自動車の価値の75%にする。

トランプ政権の当初の提案は、85%に引き上げ、自動車部品の50%はアメリカの自動車メーカーが製造するという条項が追加するものであった[26]。

合意されたのテキストには、この条項のより厳しいバージョンは含まれていませんでしたが、国内調達の増加は投入コストの増加と既存のサプライチェーンの混乱を伴うことが懸念されています[35]。

労働

USMCA附属書23-Aはメキシコに対し、労働組合の団体交渉能力を改善する法案を通過させるよう要求している[36]。

メキシコが遵守することを求められている具体的基準については、結社の自由及び団体交渉に関する国際労働機関第98号条約に規定されている。

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール政権は2018年末、こうした国際基準の遵守を追求する法律を導入した。

その他の労働関連措置には自動車産業における最低賃金要求が含まれる。

具体的には北アメリカで生産される自動車の40~45%は、最低時給16ドルの工場で生産されなければならない[35]。この措置はUSMCA批准後の最初の5年間に段階的に導入される。
知的財産

USMCAはカナダにおける著作権の存続期間を延長し、70年、録音の場合は75年とする[37]。

この延長は環太平パートナーシップ協定の第18.63条で規定されたのと同じ知的財産政策を反映している[38]。

USMCAはまた、ワクチンなどの生物学的製剤の特許を10年に延長する。これはカナダでは8年、メキシコでは5年という現行の基準と比較したものである[39]。

紛争解決メカニズム

NAFTAには三つの主要な紛争解決メカニズムがあり、第20章が各国間の解決メカニズムである。

3つのメカニズムの中で最も議論が少ないとみなされることが多く、USMCAでは当初のNAFTAの形を維持しているが、そのようなケースでは、USMCA加盟国間で協定の規定に違反されたという申立てが含まれる[40]。

第19章紛争は、ダンピング防止税又は相殺関税の正当化を管理する。

第19章がなければ、これらの政策を管理するための法的手段は国内法制度を介することになる。

第19章では、USMCAパネルが事件を審理し、紛争の仲裁において国際貿易裁判所として行動することを規定している[40]。トランプ政権は新しいUSMCAの条文から19章を削除しようとしたが、今のところ合意は維持されている。

第11章は、投資家・国家間の紛争解決として知られる第三のメカニズムであり、多国籍企業は差別的とされる政策について参加国政府を訴えることができる。

第11章は、和解メカニズムの中で最も議論の多いものと広く考えられている[41]。

カナダの交渉担当者は、事実上、この措置のUSMCAバージョン、第11章から離脱した。カナダはNAFTAが終了した3年後に、ISDSから完全に免除される[41]。

サンセット

また、協定そのものについては、6年間ごとに3国間で見直しを行うこととし、16年間のサンセット条項を設けている。

この契約は6年間の見直し期間中、さらに16年間延長することができる[42]。

サンセット条項の導入は、USMCAの将来を形作る上で、より多くの管理を国内政府に委ねている。しかし、これはより大きな不確実性をもたらす恐れがある。

自動車製造のような部門は、国境を越えたサプライチェーンへの多大な投資を必要とする[43]。アメリカの消費者市場が支配的であることを考えると、企業はアメリカでの生産を増やすよう迫られる可能性が高く、こうした自動車の生産コストが上昇する可能性が高い[44]。

為替

USMCAに新たに追加されたのは、マクロ経済政策と為替レートの問題を扱う第33章である。

これは、将来の貿易協定の先例となりうる重要なことだと考えられる[45]。

第33章では、通貨及びマクロ経済の透明性に関する透明性の要件を定めているが、これに違反した場合には、第20章における紛争の訴求理由となる[45]。

アメリカ・カナダ・メキシコは現在、いずれも国際通貨基金協定に基づく実体的な政策要件に加え、これらの透明性に関する要件を遵守している[46]。

為替

アメリカのLBO専門家で、ブラックストーングループのCEOであり創設者であるスティーヴン・シュワルツマンはその回想録で、USMCA交渉でジャスティン・トルドーが保護された乳製品市場を譲歩するように求めたことが明らかにした。

シュワルツマンによると、トルドーは、景気後退が2019年のカナダ総選挙期間において彼の政府の選挙見通しに影響を与えることを恐れていた。

トランプ大統領によって残留させた行政官は、2017年1月に、カルガリーで自由党内閣と招待されました。そして、交渉が終わりに近づいた2018年10月1日、ニューヨークでの国連での土壇場での舞台裏会議で、トルドーはメディア産業と自動車免除を救うために酪農産業を犠牲にしました。

クリスティ・フリーランド外相(トロントのダウンタウンのトリニティ・スパディナ選挙区、そこにはCBC、グローブ・アンド・メール、トロント・スター、トロント・サンのスタッフが多数居住している)は、「カナダの文化」をメディア産業に直接マップしている。ロバート・ファイフ氏は選挙に関する記事で、自由党以外からは何のコメントも得られなかった[29]。

毒素条項 第32.1条

USMCAは、加盟国が将来の自由貿易協定をどのように交渉するかに影響を与えるだろう。

第32.1条は、非市場経済国との自由貿易交渉を開始しようとする場合には、USMCA加盟国に対し三箇月前までにその旨を通告することを要求している。

第32.1条は、USMCA加盟国が今後合意する新たな自由貿易協定を審査する権限を認めている。

第32.1条は、意図的に中国を標的にしていると広く推測されている。事実、ホワイトハウス高官は、USMCAの交渉に関して、 「我々は、他の国と協定を結ぶことによって米国の立場を本質的に弱めようとする中国の試みを非常に懸念している。」 と述べた。[47]。

為替相場操作への対抗

USMCA加盟国は、為替相場の操作を防ぐための国際通貨基金基準を順守することになっている。協定は市場介入の公開を求めている。両当事者が異議を唱えた場合には、IMFが、レフリーとしての役割を果たすよう求めることができる[47]。

国有企業への対抗

中国が支配権を行使するためのてことして優遇している国有企業が、民間企業と比較した場合、不当な補助金を受けることを何とかして防いでいる。.[47]

協定の修正

修正合意事項には協定実施、労働、環境、処方薬に関する内容が含まれる[48]。

協定実施

法執行の抜け穴をなくし、紛争解決システムを合理化し、貿易相手国が約束を守るようにした。

労働

規則の強化:米国の貿易協定における労働規則は、不可能ではないにしても、執行が困難であることが証明されている。ルールを強化するために、次のような重要な変更が行われた。

強制労働条項を実効的に実施不可能にしていた条項を削除。

メキシコの労働改革の実施と労働義務の遵守を監視する省庁間委員会を設置。

メキシコを拠点とし、メキシコの労働慣行に関する現場の情報を提供する労務担当官を設置。

迅速な対応の強化された労働執行:国家間の紛争解決だけでは、米国の貿易相手国が労働義務を遵守することを保証するには効果的ではない。労働者に特化した新しい強化された執行メカニズムを確立する。

迅速な期間内に、工場単位で協定の労働義務を実施する;

アメリカ合衆国とメキシコの間で取引されるすべての工業製品及びすべてのサービスを対象として、

独立した労働専門家によるコンプライアンスの検証

結社の自由及び団体交渉の義務を遵守して生産されていない商品及びサービスに対して制裁を科す。

環境
多国間環境協定(MEAs)を採択し、実施し、及び維持することへのコミットメントを追加。

MEAのコミットメントを優先する条項の復活。

MEAと貿易協定の義務を履行する。

モントリオール議定書をこの協定の対象とするために、条項を削除。

省庁間委員会を設置し、カナダとメキシコの環境の現状を評価;

メキシコシティに環境専任の駐在員を設置し、定期的にモニタリング

合法的に収穫・採取された動植物のみがメキシコを通じて取引されることを保証する新たな税関検証メカニズムの創設。

処方薬
議会の立法権の維持:安価な医薬品へのアクセスを改善するために議会が米国法を改正できるようにするため、高い処方薬価格に貢献する条項を削除。

市場で最も高価な医薬品の一部である生物製剤について、少なくとも10年間の独占権を両締約国に与えることを求める条項を削除。

既知の製品の新たな用途について特許が利用可能であることを確認することを両締約国に求める規定を削除。

以前に承認された医薬品の新たな使用に関連して提出される臨床情報について、さらに3年間の独占権を必要とする条項を削除した。

公正な競争の確保
ジェネリックおよびバイオ後続企業が特許発明を使用できる状況を明確にし、特許満了日の初日に販売承認を取得できるようにするための規制審査規定の改正。

ジェネリック医薬品の競争を促進する米国の法律の制限を組み込むためのデータ保護規定の改正。

医薬品へのアクセスを改善

規制上の承認と特許の地位の「ハードリンク」を排除するための特許関連条項の改正。

署名・批准及び発効

新協定合意に署名する、手前左からメキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領、アメリカのドナルド・トランプ大統領、カナダのジャスティン・トルドー首相。(2018年11月30日にアルゼンチンのブエノスアイレスにて開催されたG20サミットにて。)

新協定合意への署名を見せる、手前左からメキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領、アメリカのドナルド・トランプ大統領。右端のカナダのジャスティン・トルドー首相は拍手。
2018年11月30日、G20サミットにおいて3者全員が予定通り協定に署名した[49][50]。 協定が発効するためには、各国の立法府による批准が必要である。2018年米国中間選挙の結果、民主党が下院を制し、議会通過のため、米議会民主党とトランプ政権との協議が行われ、2019年12月10日に合意に達した[51]。

2019年12月10日、メキシコのヘスス・セアデ外務省北米担当次官、アメリカのロバート・ライトハイザー通商代表、カナダのクリスティア・フリーランド外相はメキシコ市の国立宮殿において、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の内容を一部修正する議定書に署名した[52][53]。

各締約国は、協定の効力発生のために必要な国内手続を完了したときは、他の締約国に対し書面により通報する。協定は、最後の通告の後引き続く3箇月目の月の初日に発効すると規定されている[54]。この最後の通報がアメリカにより2020年4月24日に行われたため、2020年7月1日に発効した[9]。

米国

米国下院の次期歳入委員長のビルパーセルは、USMCAが議会を通過するための変更が必要であると主張した[55]。共和党員は、USMCAのLGBTQと妊娠中の労働者に労働権を認める現在の規定に反対した[56]。議会の共和党議員40人は、「性的指向および性同一性の言葉の前例のない組み入れ」を含む取り決めに署名することに反対してトランプを促した。その結果、トランプは最終的に「雇用差別から労働者を保護することが適切であると考える政策」のみを各国に約束する改訂版に署名し、米国は追加の非差別法の導入を要求されないことを明確にした[57]。カナダ政府は、USMCAの合意が変更された場合、合意された条件にもはや従わないという懸念をさらに表明した[58]。

2018年12月2日、ドナルド・トランプ大統領は、NAFTAの6カ月間の脱退手続きを開始すると発表し、議会はUSMCAを批准するか、NAFTA以前の取引ルールに戻す必要があると述べた。 大統領が議会の承認なしに協定から一方的に撤退できるかどうかについて学者の間で議論が行われている[59]。

2019年3月1日、米国の農業を代表する多くの団体がUSMCAへの支持を表明し、議会に協定の批准を求めた。また、新貿易協定が批准されるまでNAFTAを支持し続けるよう、トランプ政権に求めた[60]。しかし、リチャード・ニール下院歳入委員長は3月4日、議会での合意は「非常に難しい」と述べた[61]。3月7日の時点で、ホワイトハウス高官は下院歳入委員会のメンバーや、問題解決コーカス、木曜グループ、ブルードック連合といった両党の穏健な党員集会に出席し、批准への支持を得ようと努めている。議会との交渉が続く中で、トランプ政権はNAFTAから脱退するという脅威からも後退した[62]。

5月30日、ライト・ハイザー通商代表は、2015年大統領貿易促進権限(TPA)法に基づく米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA、新NAFTA)の実施に関する行政措置に関する声明案を議会に提出した。同法案は、6月29日から30日後にUSMCAの実施法案を議会に提出することを可能にするもので、ナンシー・ペロシ下院議長とケビン・マッカーシー共和党院内総務にあてた書簡[51]の中で、ハイザー通商代表は、USMCAはアメリカの通商政策・アメリカの競争力のあるデジタル貿易・知的財産・サービス条項の近代・アメリカ企業・労働者・農民のための公平な競争条件の場の創出における標準であり、これはメキシコとカナダの貿易関係の基本的な再均衡を示すものであると述べた[63]。

行政措置声明の草案提出を受けて、ペロシ下院議長は声明を発表し、USMCAがアメリカの労働者や農民に利益をもたらすことをライトハイザー通商代表と確認する作業を終える前に草案を提出したのは前向きな手段ではなく、NAFTA改正の必要性については合意しているが、労働基準や環境保護などにおいて「より厳格な執行規定が必要」と指摘した[64]。
9月25日、トランプ米大統領は自分に対する弾劾調査がアメリカ・メキシコ・カナダ協定の議会承認を混乱させ、投資家がよりリスクの高い資産から逃れようとしているメキシコのペソと株式市場を下落させる可能性があると警告した[65]。

9月26日、アメリカのナンシー・ペロシ下院議長は、メキシコとカナダとの間の通商協定の批准に向けた作業を進めていることを明らかにした[66]。

12月10日、ナンシー・ペロシ下院議長は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の修正について、トランプ政権と合意に達した旨を発表した。 ペロシ議長は記者会見を開き、「今回の貿易協定はNAFTA(北米自由貿易協定)よりも優れたものだが、われわれの取り組みによって、政権から当初提示されたものより飛躍的に改善した」と称賛した[51]。

12月13日、米国・メキシコ・カナダ協定実施法(H .R.5430)が、民主党下院院内総務のホイヤー、ステニー議員により下院に提出される[67]。

12月19日、米国・メキシコ・カナダ協定実施法(H .R.5430)が、下院で賛成385(民主党193、共和党192)反対41(民主党38、共和党2、無所属1)で可決される[67][68]。

2020年1月16日、米国・メキシコ・カナダ協定実施法(H .R.5430)が、上院で賛成89(民主党38、共和党51)反対10(民主党8、共和党1、無所属1)で可決される[67][69]。

1月29日、トランプ大統領は米国・メキシコ・カナダ協定実施法(H .R.5430)に署名し成立した(Public Law No: 116-113)[70] 。

4月24日、ライト・ハイザー通商代表は、すでにカナダ及びメキシコが協定発効のための国内手続の完了を通報しており、米国が手続の完了を両国に通知して協定が7月1日に発効することを議会に対し通知した[71]。

カナダ
2019年5月29日、トルドー首相はUSMCA実施法案 [72]を下院[24]に提出した。6月20日、下院第二読会を通過し、国際貿易に関する常任委員会に付託された[73]。

9月11日、カナダのジュリー・ペイエット総督は、ジャスティン・トルドー首相の助言に基づき、カナダ議会の解散を宣言[74]し、選挙戦がスタートした。カナダの下院議会選挙は、2007年選挙法に基づき、前回2015年10月の総選挙から4暦年目の10月の第3月曜日に行うこととされており、今回は10月21日に投開票が行われる。解散によりUSMCA実施法案は、廃案となり、総選挙後の新議会で、再度提出、審議されることになる。

2020年1月29日、クリスティア・フリーランド副首相兼政府間関係相は、USMCA実施法案 [72]を下院[75]に提出した。2月6日、下院第二読会を通過し、国際貿易に関する常任委員会に付託された[75]。

3月13日、実施法案は下院を通過し、同日上院を通過して総督承認がされ法案は成立した[75][76]。この異例の通過は、新型コロナウイルスの拡大に備えて手続きを前倒ししたと報道されている[77]。

4月3日、クリスティア・フリーランド副首相兼政府間関係相は、カナダがアメリカ及びメキシコに対し、USMCAの効力発生のために必要な国内手続を完了した旨通告したと発表した[25]。

メキシコ
2019年6月20日、メキシコ上院は協定を批准した(賛成114、反対3、棄権3)[78]。

12月12日、メキシコ上院は米国・メキシコ・カナダ協定を修正する議定書を賛成107、反対1で承認した[79]。

2020年4月3日、メキシコ政府がカナダ及びアメリカに対し、USMCAの効力発生のために必要な国内手続を完了した旨通告したとCBCが報道した[80]。

USMCAに対する反応

アメリカのマイク・ペンス副大統領がUSMCAを支持する。(2019年)

トランプ大統領は、しばしばNAFTAを「史上最悪の貿易協定かもしれません。」[81] と批判してきたが、トランプの新しいレトリックは、「これは私たち全員にとって素晴らしい取引です。」とし、USMCAを賞賛している[82]。

通商専門家の間では、貿易条件の変更が、ホワイトハウスの観点からこのような変更を正当化するに足るほど重要であるかどうかについて、意見が分かれている。NAFTA交渉を総括したクリントン元大統領のもとでのミッキー・カンター元通商代表は、「これは、本当に元々のNAFTAです。」とし、と批判した[83]。マサチューセッツ州のエリザベス・ウォーレン上院議員は、「新しい規則は、高齢者や救命医療を必要とする人のための医薬品価格の引き下げを困難にするだろう。」と述べ[84]、生物学的物質の特許期間を10年に延長し、新しいジェネリック医薬品の市場参入を制限する法案を熟考した。

アメリカ通商代表部は、この交渉形式のUSMCAの成果に焦点を当てたファクトシートを公表し、新たなデジタル貿易措置、営業秘密保護の強化、自動車の原産地規則の調整による製造の支援を貿易協定の利益の一部として挙げ、上述の批判者に反論を提供している[85]。

かつて支配的な地位を占めていた携帯電話会社、リサーチ・イン・モーション社の元会長であるジム・バルシリーは、2018年1月に出版された論説の中で、カナダの政治家たちの「植民地の嘆願的な態度」はUSMCAのデータと知的所有権条項に対する誤ったアプローチとなっていると述べている[10]。

2018年夏に発表されたカナダ国立研究評議会の報告書は、USMCAの規定のもとで、国内企業が外国企業のビッグデータの提供者になるリスクを懸念する「というものであった[10]。

2019年4月28日、アイオワ州選出の共和党上院議員チャック・グラスリーはウォールストリート・ジャーナルへの論説を書き、メキシコとカナダの報復関税に言及し、「連邦議会は、メキシコとカナダの報復関税発動中はUSMCAを承認しない。」と述べた[86]。

2019年夏、トランプ氏のラリー・クドロー最高経済顧問は、USMCAは批准後、GDPを0.5%ポイント、雇用を年間18万人増やすと2度主張した。国際貿易委員会は、クドローの分析は、同協定(NAFTA)が批准されてから6年間で、GDPを0.35ポイント、雇用を176,000人増加させたことを実際に確認したことを引き合いに出した分析した。アメリカ議会調査局が発表した別の調査結果によると、雇用・賃金・経済全体の成長には、この協定による測定可能な影響はない[87]。』

米英FTA棚上げ、首脳会談で議論せず EU離脱の旗印

米英FTA棚上げ、首脳会談で議論せず EU離脱の旗印
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR080650Y3A600C2000000/

 ※ 米国としては、USMCA(新NAFTA)の経済圏の利益を守る必要があるんだろう…。

 ※ その延長で、TPPからも離脱した…、とオレは思っている…。

『【ロンドン=江渕智弘】米国と英国の自由貿易協定(FTA)交渉が当面棚上げされる見通しになった。スナク英首相が7日、バイデン米大統領との会談前に「優先事項ではない」と述べ、議題にしない考えを示した。米国とのFTA締結は欧州連合(EU)からの離脱を推進した与党・保守党の旗印だった。

バイデン氏とスナク氏は8日、米ワシントンで会談。これに先立ってスナク氏が英メディアの取材に答えた。FTAが米英双方にと…

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『FTAが米英双方にとって優先事項ではないと語ったうえで「今の時代特有の課題と機会を反映した経済連携を重視する」と説明した。

貿易の促進に向けて「具体的で的を絞った方法」をバイデン氏と協議すると話した。重要鉱物やデジタル分野での協定が念頭にあるとみられる。インディアナ州などと結んでいる米国の個別の州を相手にした貿易協定の拡大もめざす。

EUから離脱した英国が望んだ米英FTAはトランプ前米政権が2020年5月に正式に交渉を始めた。新たなFTA締結に消極的なバイデン政権が21年に発足し、停滞していた。

8日の首脳会談ではウクライナに対する軍事支援や人工知能(AI)をめぐるルールづくり、政治の混乱が続く英領北アイルランド問題などを話し合う。

【関連記事】米主導のIPEF、難航も 揺らぐ国際貿易秩序
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察 Brexitの一つの目玉はEUの枠組みから離れて、世界各国、特にアメリカや日本との自由貿易をイギリスに都合の良いように(EUの他の加盟国に引っ張られることなく)決めることができる、ということだった。

確かに日英自由貿易協定は実現したが、基本的には日EUの協定を焼き直すものであった。
アメリカとの協定はEUも結んでいないだけに、これがうまくいけばBrexitを支持した人たちも留飲を下げると思いきや、アメリカが自由貿易に対して背を向け、まったく乗り気ではなくなった。

結果としてBrexitは期待した成果をあげることができず、マイナス面ばかりが目立つこととなった。
2023年6月9日 1:35 』

米最高裁、人種差別的区割りに「ノー」 南部アラバマ州

米最高裁、人種差別的区割りに「ノー」 南部アラバマ州
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN090D60Z00C23A6000000/

『【ワシントン=時事】米連邦最高裁は8日、南部アラバマ州の選挙区割りについて、人種の平等をうたう「投票権法」違反の疑いがあるとした下級審の決定を支持する判断を下した。これにより、同州は区割りの見直しを迫られる。近年「右傾化」が指摘され、投票権の制限に傾いていた最高裁による今回の判断を、米メディアは「サプライズ」と報じた。
訴訟では、共和党が多数派を占めるアラバマ州議会が2022年中間選挙に向け導入した区割りについて、公民権支持団体が「黒人有権者の影響力を弱め、投票権法に違反する」と是正を求めた。

黒人には民主党支持者が多く、同州は人口の約27%を黒人が占める。現在の区割りは、七つの選挙区のうち、黒人が多数の区は一つだけになっている。同州選出の下院議員で唯一の黒人であるスーウェル氏(民主)は「投票権法と民主主義、アラバマの黒人有権者の歴史的勝利だ」と歓迎した。

今回9人の最高裁判事のうち、穏健保守の2人がリベラル系3人と共に原告の主張を支持。保守系4人は反対した。

米国では州に区割りを決める権限があり、各政党が自党に有利な線引きをする「ゲリマンダー」が全国的に横行。今回の判断は他州の区割り決めにも影響する可能性がある。』

日経平均「SQ超え」で一段高 7月物オプションに先高観

日経平均「SQ超え」で一段高 7月物オプションに先高観
金融工学エディター、小河愛実
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0915Z0Z00C23A6000000/

 ※ 『SQ算出日の日経平均がSQ値を超えられない場合「幻のSQ」と呼ばれ、弱気相場への反転サインとされる。例えば、22年6月のSQでは、SQ値の2万8122円を超えられず、その後、2万6000円前後まで下落した。オプションの買う権利(コール)の建玉(未決済残高)が積み上がりが今回と似ており、似たような動きになるとの警戒感があった。』…。

 ※ こういうことは、知らんかった…。

 ※ いずれ、底流では、ウクライナ戦争の勝敗の行方の「予測」と、戦後の世界の姿への「予測」が、激しく争闘しているものと思われる…。

『9日の日経平均株価は前日比の上げ幅が一時600円に迫る上昇となった。上昇に弾みがついたきっかけは「SQ(特別清算指数)」という数値の突破だ。5月以降の上昇相場の主戦場となってきた6月限月の株価指数先物とオプションの売買をひとまず手じまう値段になる。多くの市場関係者の相場観を集約したこの数値を超えたことが、新たな上昇相場への期待を生んだ。

「『幻のSQ』となって日経平均が弱含むとみていたが、警戒し…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『警戒しすぎたようだ」。みずほ証券の三浦豊シニアテクニカルアナリストは9日午前の日経平均の動きにこうこぼした。

SQは先物やオプションを途中で反対売買せずに期日まで持ち続けた場合の清算価格を指す。6月物は8日が最終売買日で9日がSQ算出日だった。SQ値は日経平均構成銘柄の始値で計算し、この日の9時過ぎに速報値で3万2018円となった。市場関係者が固唾をのんで見守ったのが日経平均が3万2018円を超えるかどうか。9時15分前後に突破し、安堵が広がった。
SQ算出日の日経平均がSQ値を超えられない場合「幻のSQ」と呼ばれ、弱気相場への反転サインとされる。例えば、22年6月のSQでは、SQ値の2万8122円を超えられず、その後、2万6000円前後まで下落した。オプションの買う権利(コール)の建玉(未決済残高)が積み上がりが今回と似ており、似たような動きになるとの警戒感があった。

三浦氏は、前日までの乱高下のなかで「ポジションの調整が進んだ」とみる。6月限月の日経平均のコールの建玉は5日にピークの19万枚まで膨らんでいた。最終取引日だった8日にも18万枚超残り、ほとんどが清算されたもよう。オプションによる日経平均の大きな値動きはひとまず一段落しそうだ。

7月限月のオプションでは、静かにコールの買いの積み上げが始まっている。5日以降で1万枚増えて9万5000枚となった。現状では、3万4000円のコールの建玉が1万2000枚あるほかは、1つの行使価格で1万枚を超えるような建玉はないため、コールに関連した先物の売買で株価が大きく動くような状況ではない。

「日経平均の急ピッチな上昇への恐怖感からトレーダーが慌ててコールを買っていた5月から、7割くらいは手じまわれた。これからはじわじわ増えていく展開か」とゴールドマン・サックス証券の石橋隆行ヴァイス・プレジデントはみる。コール人気が続いており今後、残高がどこまで積み上がっていくかが焦点になる。

(金融工学エディター、小河愛実)』

ダム決壊、浸水域400k㎡超に ウクライナ南部、衛星画像で分析

ダム決壊、浸水域400k㎡超に ウクライナ南部、衛星画像で分析
https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00004910Y3A600C2000000/

『ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所のダムが6日に決壊した影響で、ドニエプル川の下流で浸水被害が広がっている。衛星画像の分析では、浸水したエリアは7日時点で400平方キロメートル以上に及ぶと推定された。ダムの上流で原子力発電所の冷却水を取水しているザポロジエ原発では水位低下が懸念され、下流の穀倉地帯でも穀物生産に影響が及ぶとみられる。』