〔人権、民主主義、法の支配なんかの関係〕

 ※ 人権(human rights)とは、「人であれば誰でも有している、たとえ国家権力であっても、侵害することができない権利」というくらいの意味。

 「憲法」に規定して、「国家権力」を抑制する機能を持たせようとすると、それは「立憲主義」となる。

 ※ 民主主義とは、デモクラシー(Democracy)の訳語で、「統治される者が権力を握り、それを自ら行使する政治原理、政治運動、政治思想」くらいの意味。

 ※ 法の支配(rule of law)とは、「専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという法理」くらいの意味。

 単なる「制定された法律」というだけでなく、「正義の法」という含意がある。

 ※ こう並べると、「異論」のつけようが無いようにも思われるが、そうでも無い…。
 ※ そもそも、マルクスレーニン主義の「革命理論」に立つと、「私的財産権」は、「人権」じゃ無い…。
 少なくとも、「限りなく、制限が可能な権利」となり、「国家による剥奪」も可能となる。「補償」も、必要ない…。

 ※ 唯物史観かつ科学的社会主義思想(≒マルクスレーニン主義)に立つと、「革命政権」の「正統性」を揺るがすような行為は、すべて「国家反逆」的な色彩を帯びてくる…。

 ※ いわゆる「西側の人権」の上に、「革命政権の正統性」を置くわけだ…。

 ※ だから、いくら「西側的な」人権、民主主義、法の支配を言い立てたところで、話しは「通じない」…。

〔「報道の自由」の憲法上の位置付け〕

 ※ 国民主権 ← 人々の「意思決定」の元となる「情報の流通」の確保 ← 表現の自由(人権の中でも、「優越的地位がある」とされる)←(表現の元となる)「事実」の流通の自由の確保 ←(それに奉仕する)「報道の自由」の確保

 …、という「構造」となる。

 ※ つまり、「報道の自由」なければ→「事実の流通の自由」なく→「事実の流通の自由」なければ →「表現の自由」の意味がなく→「表現の自由」の意味がなければ → 人々の「(政治的)意思決定」の意味がなく→「人々の意思決定」の意味がなければ →「国民主権(≒民主主義)」の意味がない…、という「構造」「関係」に、なっている。

 ※ よって、「報道の自由」は、「国民主権」の大前提になっている。

 ※ ジャーナリズムとか、ジャーナリストとは、こういう「報道の自由(事実の流通の自由」)」の「根幹を支えるもの」として、社会的に「高く評価されるもの」と、位置付けられている…。

民主主義の現状  「民主主義サミット」、侵食される自由主義(リベラリズム) 中国の「民主集中制」

民主主義の現状  「民主主義サミット」、侵食される自由主義(リベラリズム) 中国の「民主集中制」 – 孤帆の遠影碧空に尽き
https://blog.goo.ne.jp/azianokaze/e/e9c68de5bf2f2b2f803ca9d8fa24d505

『【トークショーに終わった感もある米主導「民主主義サミット」】
あまり大きな話題にもなりませんでしたが、3月29日、30日の二日間にわたり、アメリカ・バイデン大統領が主導し、約120カ国・地域の首脳らが民主主義の強化について議論する「民主主義サミット」なる国際会議がオンライン形式で開催されました。

ロシア・中国といった「専制主義国家」に対抗して「民主主義国家」の団結・強化を図る狙いとされています。

****米主導の民主主義サミットが開幕 「時代の課題に対応のため結集」****
米国主導で約120カ国・地域の首脳らが民主主義の強化について議論する第2回民主主義サミットが29日、2日間の日程で開幕した。

バイデン米大統領は世界で民主主義再生の取り組みを支援するとして、最大6億9000万ドル(約903億円)を拠出する方針を表明。国際社会で存在感を増す中国や、ウクライナに侵攻するロシアといった専制主義国家に対する危機感も共有したい考えだ。

サミット開催は、米国が主催した2021年12月以来で2回目。今回は米国、オランダ、韓国、コスタリカ、ザンビアが共催し、オンラインを中心に各地で会合が開かれる。

初日の全体会合では、バイデン氏やオランダのルッテ首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領らが冒頭でサミットの意義を強調。交互に発言する形で「時代の課題に対応するために我々は結集した」「民主的国家が協力すれば達成できないことはない」と訴えた。

その後、共催国の首脳らが交代で司会役を務め、「経済成長と繁栄の共有」「多様性の受け入れと平等」などをテーマに各国が自国の取り組みを紹介。バイデン氏が担当の「地球規模の課題」では、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説する予定になっている。

米政府は世界各国の「報道の自由と独立」「汚職の撲滅」「自由で公正な選挙」などを支援するために資金を拠出する意向を表明。また、先端技術が民主主義促進のために使用されるようにする措置も公表した。

米韓首脳は29日、共同声明を出し、第3回の民主主義サミットは韓国が主催すると発表した。【3月29日 毎日】
**********************

“米国が「専制主義」と批判する中国やロシアに対抗して民主主義を掲げる友好国との結束強化を狙ったものの、民主主義が後退しているケースもあり、共同宣言への賛同は73カ国・地域にとどまるなど手詰まり感が漂う。”【3月31日 東京】

こうした試みに対しては、“グローバル・サウスの取り込みが重要な時に、非民主的とされて呼ばれなかった国々をアメリカ主導の“民主主義陣営”から遠ざけてしまう” “参加の基準が不透明で、民主主義に逆行している参加国がある” “世界の分断を深めるものだ” といった批判もあります。

****「民主主義サミット」の評価は? 求められる柔軟性****
 英フィナンシャル・タイムズ紙の米国エディターのエドワード・ルースが、3月29日付の論説‘Biden’s awkward democracy summit’で、バイデンの民主主義サミットの目的は崇高であるが、成功させるためにはその手法に問題があると論じている。主要点は次の通りである。

・民主主義サミットには、インド、イスラエル、メキシコなど、疑問のある国々が数多く参加する。他方、ハンガリーもトルコも招待されていないことは注目される。

・バイデンの意図は崇高であるが、バイデンの手法には疑問の余地がある。

・民主主義を広めることが米国の国益だと考えることは合理的だが、問題は、米国はこのことにあまり得意ではないことだ。

・米国の民主化推進で文句なしの成功を収めたのは、戦後の欧州に対する「マーシャルプラン」だけである。民主主義の運命は、いわゆるグローバル・サウス(西側でも中露枢軸でもない世界の一部)で概ね決着することになる。彼らの考えを聞いてみるのが現実的であろう。

・国連での投票記録から判断するに、グローバル・サウスの多くはウクライナの運命にほとんど関心がない。彼らの言い分は、西側諸国は自分たちの紛争にあまり関心がないではないかというものだ。

・西側が耳を傾けると、グローバル・サウスは一貫して、クリーンエネルギーへの移行、より良いインフラ、近代的な医療のための資金支援を要望する。中国と米国、2つの大国のうち、どちらの助けが多いかで彼らの政治的将来や外交的な同盟関係が決まることになる。

・バイデン政権は、グローバル・サウスに米国の一貫したアプローチを打ち出そうとしているが、それがまだ作業中だ。中国はこれまで、西側諸国を全て合わせたよりも多くの資金を開発途上国に投入しており、良い結果も悪い結果も出ている。

・マリ、カンボジア、ボリビアといったグローバル・サウスの国々が民主国家になるか否かは彼らが決めることだ。その道を歩ませる最善の方法は、説教を減らし、傾聴を増やすことだ。

*   *   *
(中略)バイデンは、21世紀を民主主義と権威主義の対立の世紀と位置付けており、このサミットは、民主主義国の結束と中国の封じ込めを狙ったイニシアティブであるが、内外からは様々な批判がある。

中露の枢軸に対抗する地政学的観点からは、非民主主義国の協力を必要とする時、あるいは、グローバル・サウスの取り込みが重要な時に、これらの国々を米国から遠ざけてしまうという批判がある。

人権派の観点からは、民主主義に逆行している参加国があり、参加の基準が不透明で恣意的だとの批判がある。

また、融和主義者からは、このサミットは世界の分断を深めるものだとの批判がある。ただ、これは中国の主張でもある。

上記のルースの論説は、人権派の立場からバイデンの狙いは評価しつつも、参加国の選択に一貫性がないことに苦言を呈すると共に、その手法に問題があるとして、むしろグローバル・サウスの主張や要望に耳を傾け、そのニーズに沿った支援をすることが結局はこれらの国々が民主主義を選ぶことに繋がると言いたいようである。

そして、これらの批判派が一致するのは、このサミットはトークショーに過ぎず意味ある成果は生まないだろうという点であろう。

しかし、このバイデン・イニシアティブは、もう少し肯定的に評価しても良いように思われる。ルースの主張にも一理あるが、やはり民主主義国が結束を示すことは必要であり、このサミット・イニシアティブとルースの提唱する手法とは両立可能であろう。(後略)【4月20日 WEDGE】
*********************

【劣化する民主主義 社会の多様性を前提にした自由主義(リベラリズム)の変質】
上記記事は、最初にあげた“批判”に対する反論や対応策も論じていますが、省略しました。

省略したのはスペースの都合だけでなく、国際政治のパワーゲームとしては「専制主義国家」に対抗して「民主主義国家」の団結・強化を図るというのは意味のあることですが、もっと重要なのは、欧米や日本が掲げる「民主主義」が劣化して“極端な岩盤勢力の対立”やポピュリズム的政治手法がまかり通り、偽情報の拡散などでそうした事態が更に深刻化しているのでは・・・という「民主主義の現状」の方のように思われるからです。

冷戦後の世界については、“自由で開放的な国際秩序が望ましい基本原理とされ、その下での具体的な方向性として、国際的にはグローバル化、国内的には民主化が追求されてきた。根底にあった理念は、自由主義(リベラリズム)であった。”と言えますが、その根底にあった自由主義(リベラリズム)が侵食され、変質しつつあるとの指摘が。

****現代における中庸の大切さと困難さを考える――フランシス・フクヤマ『リベラリズムへの不満』(新潮社)****
フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』が、冷戦を終えた世界に大ベストセラーとして迎えられ30年が過ぎた。そこで示された自由民主主義が恒久的な平和と安定を実現する「ポスト冷戦」の世界像は、しかし、いまやロシア・ウクライナ戦争やキャンセル・カルチャーなど混乱の中で完全に否定されたようにも見える。

かつてフクヤマが見たのは幻想なのか。それともこの混乱は、やはり歴史が“終わりつつある”過程の光景なのか。フクヤマの最新刊『リベラリズムへの不満』を待鳥聡史氏が読み解く。
+++++++++++++++++++++++

「ポスト冷戦」の後に
2016年のブレグジット(イギリスのEU脱退)決定、ドナルド・トランプのアメリカ大統領当選、2020年に始まる新型コロナウイルス感染症のパンデミック、米中対立のさらなる深刻化、そして2022年からのロシア・ウクライナ戦争――私たちは近年、明らかに世界の様相が変化し、何らかの意味で新しい時代に入りつつあることを実感しているのではないだろうか。

次の時代がどのような特徴を持つのか、それがいつ頃に明確な輪郭を示すようになるのかはまだ分からないが、一つの時代が終わったという印象は拭いがたい。

終わったと思われる時代は、(中略)それ以前の冷戦期に比べると明瞭な対立軸はなかったかもしれないが、特徴を欠いていたわけではない。

自由で開放的な国際秩序が望ましい基本原理とされ、その下での具体的な方向性として、国際的にはグローバル化、国内的には民主化が追求されてきた。根底にあった理念は、自由主義(リベラリズム)であった。(中略)

リベラリズムの内なる課題とは
ポスト冷戦期の世界において、間違いなく指導理念であったリベラリズムには、現在どのような課題があるのだろうか。

フクヤマは、17世紀半ばのヨーロッパにおける宗教戦争終結の時期に起源を持ち、フランス革命・アメリカ独立革命・産業革命の経験、共産主義・ファシズムなどとの対決を通じて形成された「古典的リベラリズム」に対して、今日大きく3つの方向からの侵食が生じていることを指摘する。

1つはネオリベラリズムによるものである。
古典的リベラリズムの主要な構成要素であった経済的自由や個人主義に基づく自己責任原則が過剰に重視され、政府による社会経済的介入を拒絶するようになると、リベラリズムに立脚した社会には不平等が広がり、連帯は失われてしまう。

フクヤマは、『リベラリズムへの不満』第1章でイギリスの政治哲学者ジョン・グレイを引用しつつ、古典的リベラリズムは個人主義的ではあるが、平等主義、普遍主義、改革主義の要素も持つこと、社会の多様性や複雑性を前提にしていることに注意を促す。

もう1つはアイデンティティ政治によるものである。
すべての人が平等な扱いを受け、尊重されるべきであるという考え方は、宗教戦争や革命などを契機に発展してきた古典的リベラリズムにとって、もともと中核的な要素だといえる。

ところが、平等や尊厳の単位が個人ではなく人種・宗教・ジェンダーなどの属性で括られる集団へと変わり、さらにはそれらの集団が持つアイデンティティを重視しない他の人々を排除(キャンセル)する傾向や、特定集団を不利に扱う構造がリベラリズムに基づく政治制度に存在すると主張されるようになると、古典的リベラリズムの基盤となる寛容は弱まり、多様性は損なわれる。

さらに、第3の侵食は情報技術の進展によって生じている。
インターネットを駆使した言論の自由への監視やフェイクニュースなどの情報操作は、主に権威主義国家をはじめとしたリベラリズムが対抗する勢力によって行われてきた。

しかし今日、リベラリズムの申し子ともいえる民間企業によって、人々は整序されない情報洪水に巻き込まれて、左右のポピュリズムに動員され、さらには自らのプライヴァシーも守られない状況に置かれている。

それが上に述べた2つの侵食と結びつくとき、古典的リベラリズムの原則からは守られるべき個々人の自由が商品化されたり、私的な失言によってキャンセルされてしまうといった事態につながる。

私たちにできることは何か
リベラリズムにとって、現状は極めて苦しいものといわねばならない。今日直面する課題は、従来の共産主義や権威主義との対抗とは性質が大きく異なるためである。

共産主義や権威主義、さらに遡れば宗教権力による支配などは、いずれもリベラリズムとは異なる要素からもっぱら成り立っており、リベラリズムの側は自らの優位性を主張することで対抗できた。

だが、ネオリベラリズム、アイデンティティ政治、そして情報技術の進展に伴う個々人の自由の侵害は、リベラリズムの主要な構成要素の一部が過剰に強まったことによって生じており、いずれもリベラリズムにとっては獅子身中の虫なのである。

この状況を打開する方策はないのだろうか。フクヤマが提唱するのは、古典的リベラリズムへの回帰、より具体的には、古典的リベラリズムを構成する諸要素のバランスをとることである。

彼は『リベラリズムへの不満』の末尾において、古代ギリシア哲学の用語を引きつつ「中庸」の必要性を説く。先にふれたグレイによる定義は、リベラリズムが個人主義、平等主義、普遍主義、改革主義という特徴を持つとしていたが、これらのバランスを巧みにとり、特定の要素が突出しないようにすることが、最も大切になるというわけである。中庸あるいは適切なバランスが確保されれば、確かにその効果は大きいであろう。(後略)【4月22日 フォーサイト】

***********************

【中国における「民主集中制」 その帰結】
一方、話を「専制主義国家」vs.「民主主義国家」というところに引き戻すと、日本では「非民主的」で「専制主義」とみなされる中国においては、中国にこそ本当の「民主」が存在し、欧米の言うところの「民主」はまやかしであると考えられています。

中国共産党は、複数政党が選挙で政権を競い合う西側の民主主義を、一部の勝者しか代表できない「少数の民主」と批判し、幅広い国民の利益をすくい取る共産党が国家のかじを取ることが、中国の「民主」のあり方だとしています。

共産党は「人民の前衛」と位置づけられ、人々にさきがけ、導く存在だとされています。党は決定の過程で様々な意見をすくい取るものの、一度決めた党の決定には服従を求める・・・「民主集中制」という体制です。

党が「社会の安定のため」として決定したことには、異論のある少数者も従わなければならない・・・「西側が重視するのは個人の権利、中国が重視するのは大多数の権利だ。個人のために社会の利益が損なわれるべきではない」という考えで、社会の安定のためには少数の犠牲をいとわないということにもなります。

こうした政治システムはコロナ禍のような危機的状況にあって、初期段階の封じ込め成功のような成果を極めて効率的に生むことがありますが、感染拡大期にあったような無慈悲な隔離措置のような、西側から見ると甚だしい人権侵害をも惹起します。

中国共産党の掲げる思想や政策を支持する人たちが「人民」であり、それを支持しないで批判や反対する国民は人民ではなく「人民の敵」とみなされます。

こうした政治システムがもたらすものは・・・

****コロナ対応批判で実刑判決 武漢の市民記者、秘密裁判****
新型コロナウイルスの大規模感染が初めて確認された中国湖北省武漢で、流行初期の実態を発信した市民記者、方斌氏が秘密裁判により実刑判決を受けていたことが分かった。懲役3年程度とみられる。

当局に連行され、消息不明となっていた。近く刑期を終えて出所するという。罪名は不明。米政府系のラジオ自由アジア(RFA)が20日までに伝えた。

方氏は2020年2月、都市封鎖(ロックダウン)された武漢で医療現場の混乱や死者が急増する様子を取材し、動画で発信。政府の対応を「人災」と批判していた。

RFAによると家族が最近、今月30日に出所するとの通知を当局から受けた。【4月20日 共同】
*********************

****中国、デモ参加者「集団リンチ」 コロナ白紙運動の拘束者が証言****

中国上海市で昨年11月、新型コロナウイルス対策に白い紙を掲げて抗議する「白紙運動」に参加し、一時拘束された男性が23日までに、留学先のドイツから共同通信のオンライン取材に実名で応じた。

警察がデモ参加者を無差別に連行し、集団リンチのような形で排除したと証言。拘束中の参加者全員の釈放へ向け中国に圧力をかけるよう、国際社会に訴えた。(後略)【4月23日 共同】
********************

「民主主義」か否かは「民主」という言葉の定義にもよりますが、中国の現状は日本的常識からすれば、受け入れがたい政治システムです。』

爆発物の容疑者 “立候補できないのは不当” 国を提訴し棄却

爆発物の容疑者 “立候補できないのは不当” 国を提訴し棄却
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230418/k10014041761000.html

『和歌山市の漁港で選挙の応援に訪れていた岸田総理大臣に向かって爆発物が投げ込まれた事件で、逮捕された木村隆二容疑者(24)が、参議院議員選挙に年齢の規定などによって立候補できなかったのは不当だとして、国に損害賠償を求める訴えを起こしましたが、去年11月、神戸地方裁判所に退けられていたことがわかりました。

裁判の記録によりますと、木村隆二容疑者は去年、神戸地方裁判所に訴えを起こし参議院議員選挙の制度をめぐり、被選挙権を30歳以上としている年齢の規定や、立候補する場合、300万円を供託しなければならないとする規定のある公職選挙法は、法のもとの平等などを定める憲法に違反すると主張していました。

そして、去年7月に行われた参議院議員選挙に立候補できず、精神的な苦痛を受けたとして、国に対し10万円の損害賠償を求め、裁判は、代理人の弁護士をつけない「本人訴訟」で行われましたが、去年11月の判決で神戸地裁は、現在の年齢要件や供託金の制度は合理性があるなどとして、訴えを退けました。

この判決を不服として去年12月、木村容疑者は大阪高等裁判所に控訴していて、来月、判決が予定されています。

警察は今回の事件との関連を含めて、詳しいいきさつを捜査しています。』

日本国憲法/第44条 議員及び選挙人の資格
https://法政典.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95/%E7%AC%AC44%E6%9D%A1_%E8%AD%B0%E5%93%A1%E5%8F%8A%E3%81%B3%E9%81%B8%E6%8C%99%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%B3%87%E6%A0%BC

『両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。 』

 ※ まあ、国政選挙で多数派を取って、「法改正」してからの話しだ…。

日本の民主主義は「外国産」なのか?:江戸時代の村に存在した“選挙”制度

日本の民主主義は「外国産」なのか?:江戸時代の村に存在した“選挙”制度
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g02266/

 ※ 昔、「民主主義の基盤の考察」なる一文を書いたことがあり、ある人にメールで送った…。
 
 ※ その後、自分でも、その文章を読み返したくなり、「読み返したいので、オレに送信してくれ。」と頼んだことがある…。

 ※ しかし、返事は、「たぶん、消去してしまったので、送信はできん。スマンな。」というものだった…。

 ※ というのも、Windows7からWindows10への乗り換えで、愛用していたメーラーが使用できなくなり、その乗り換えのゴタゴタに伴って、旧データを随分と喪失してしまった…。

 ※ それで、旧メーラーで使っていた「メール・データ」も、随分と失ってしまったからだ…。

 ※ その時は、「まあ、いい…。元の文章は、オレの頭の中にある…。」とか、豪語した…。

 ※ しかし、その肝心の「オレの頭」が、最近は、さっぱり…、になって来ているものだから、話しにならんのだ…。

 ※ ただ、言えることは、「民主主義」は、「手段」の一つであって、「結果の妥当性」を、全く「保証するもの」では無い…、ということだ。

『政治・外交 2023.04.05

柿崎 明二 【Profile】

民主主義と権威主義のイデオロギー対立が国際社会で激化する中、筆者は「今こそ足元にある『自分たちの民主主義』を見つめなおすべきだと指摘する。実は鎖国体制にあった江戸時代、支配体制の末端にあった村で民主的な自治のシステムが生まれていた…。
他の言語で読む

English 日本語 简体字 繁體字 Français Español العربية Русский 

揺らぐ民主主義の正当性

普遍的な価値とされてきた民主主義の正統性が揺らいでいる。米国のトランプ大統領はじめデマゴギー(扇動)政権の相次ぐ誕生、「中国式の民主主義」を自任する習近平国家主席率いる権威主義国家中国の著しい台頭。日本でも国政選挙の投票率が5割近くをさまよい、政権交代の兆しもない。バイデン大統領が、中国、ロシアを念頭に唱える「民主主義によって権威主義に対抗する」というスローガン自体、欧米型民主主義が劣勢に陥りかねないことへの危機感の裏返しであろう。

深刻なのは、「自国を民主主義国家、他国を権威主義国家と定義すること自体が非民主的だ」という習氏の反論に対して説得力をもった再反論をできていないことだ。バイデン氏は、社会があくまでも寛容を守り続けるなら非寛容な人々によって社会が壊されてしまうという「寛容のパラドクス」を克服するつもりなのかもしれない。民主主義は権威主義に壊されないよう、非民主主義的な対応もとるべきだと。しかし、習氏の指摘に「そう、私たちは非民主主義的になった」と認めるわけにいかない。

そんな中、外交関係を断絶していたサウジアラビアとイランの外交正常化を中国が仲介した。今後、ウクライナ戦争の仲介に本格的に乗り出せば、「戦争や対立を終わらせるのは権威主義」という倒錯的な状態になる。

世界を、民主と権威だけに区分けすること自体に無理がある。スウェーデンの政府間組織「民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)は、民主主義と権威主義の間に「ハイブリッド」という類型を置く。2020年時点、民主主義国家に日米を、権威主義国家に中朝を、ハイブリッド国家にロシアやトルコを挙げている。「民主vs専制」は分かりやすいが、区分けの粗さが実態を見誤らせ、国際的な対立関係を悪化させかねない。
日本の「江戸の村型民主主義」

そもそも、民主主義自体もさまざまである。今必要なのは、各国で取り入れ方、制度設計、具体的な方法が千差万別な「民主主義」をそれぞれの国民が今一度、見つめなおし、欠点を修正し、長所を強化し、「私たちの民主主義」の強靭(きょうじん)化を図ることだ。それは、体制の欠点を認めない権威主義では難しい。この試みは習氏への説得力ある再反論になるだろう。

日本では、民主主義は「明治維新後、徐々に拡充され、太平洋戦争後の占領期に本格的に確立された」と解釈されている。つまり、「外国産」という認識が常識化している。であるがゆえに、日本人が民主主義について語る時、自嘲気味になるか、他国の民主主義化の歴史を引用した教科書的な言辞となりやすい。かくいう筆者もご多分に漏れず、である。
このような姿勢を脱するためにも、まずは日本の民主主義を見つめなおす必要がある。明治維新前、「江戸の村式民主主義」とも呼ぶべきシステムがあったことを知ることはその一助となるだろう。

「村掟の制定を始めとして、村の運営は村役人を中心に行われた。庄屋・年寄、あるいは名主・組頭などと名付けられる役職で構成される村役人の(略)人選はおおむね村の意向に任された。(略)村民の選挙によって選ぶ村も多かった」

日本歴史研究者の水本邦彦氏は『村 百姓たちの近世』(岩波新書、2015年)で、江戸時代の村の運営についてこう述べている。「村民の選挙」という部分に着目してほしい。江戸時代に選挙が行われていたということだ。

当時、選挙は「入札(いれふだ)」と称されていた。研究者間では常識で、1979年に刊行された『国史大辞典』(吉川弘文館)第一巻でも、「投票によって人選・売買・意思決定などをすること」「近世では入札によって村役人を選んだ例は多い」「選挙人と被選挙人の両方の名を記した場合と、被選挙人の名だけを記した場合がある」と説明している。

長野県立歴史館が資料によって長野地域の近世を活写した「信濃の風土と歴史④近世の信濃」(1998年)の中で、日本歴史研究家の青木歳幸氏は次のように記している。

「一七九四年(寛政六)、幕府領佐久郡北沢村(佐久市)では農民全員の入札(選挙)により高得点者が名主になっています」「一八〇九年(文化六)松代領の南長池村(長野市)では、小前とか帳下とよばれる下層農民も入札に参加して、彼らが推せんする人物が名主に当選するなど、選挙権も拡大していきました」「一八六三年(文久三)、佐久郡下海瀬村(佐久町)の名主と組頭の入札がおこなわれました。(略)まず台帳(有権者名簿)をつくり、人数分の札(投票用紙)を有権者に配ります。選挙会場で、その札に本人である確認の割り印を推した上で、候補者の名前を書いて札を入れます(投票)。その結果、最多の票数を得た候補者が当選しています」「入札帳には、宗太夫後家など三人の女性が有権者として登録されています。つまり江戸後期の村では女性も戸主であれば選挙権があり村政に参加できたのです」

方法が現在とほとんど同じであるだけではなく、女性まで含めた選挙権の拡大がすでに起きていた。英国で選挙権の拡大が始まったのは1832年からだ。さらに注目すべきは以下の記述だ。

「江戸時代の中ごろから、年貢や税の不公平なわりふりがあったりして、村役人たちと農民たちとの間に争いがおこってきました。これを村方騒動といいます」 「村方騒動は一八世紀後半から増加し、(略)村役人の選出方法が争点となりました」

欧米の民主化の情勢も知る由もない農民たちの戦いによって入札が導入されたのだ。日本独自の民主化の萌芽は入札にとどまらない。
民主主義の重要性認識を

「村の文書量がふえ、文書保管用の土蔵がない名主も出てきました。そこで、新しく文書保管庫が必要になってきました。一八一三年(文化一〇)、諏訪郡乙事村(富士見町)では、…文書保管のための郷蔵を建てました。…いわば村立の文書館といえます」

民主主義の重要な一要素とされる文書主義が進展していた。さらに驚くべき制度がある。村役人は名主(西国では庄屋)、組頭(同、年寄)、百姓代からなっていたが、百姓代の役割は、国史大辞典によれば「村政監査役」であり、「(近世)中期以後、村方騒動などをきっかけに登場する場合が多い。年貢や村入用の割付監査などに立ち会う(略)村方騒動の担い手となるケースも少なくなかった」とされている。チェックシステムを内蔵していたのだ。

確かにこれらの制度は幕藩という封建制度の枠内、それも「村」という最末端でしか機能していなかった。「普通選挙」など現代の選挙制度の原則を備えていなかった。そして総じて「個」より「共同体」を重視していることなど、今日から見れば極めて部分的で不完全である。しかし、それを日本人、それも統治される側が自治の中で生み出していたことも事実だ。

その有効性は、明治新政府が江戸時代の制度を否定しながら、明治元年(1968年)に発出した「政体書」で官吏の「入札」を定め、翌年には指導層を選出したこと、その10年後から本格化する地方制度整備のため江戸時代の自治などを調査した「郷村考」で、入札を参考例として挙げていることなどからも明らかだ。

「民主主義対権威主義」の是非という大テーマに目を向けるまでもなく、4月の統一地方選挙をめぐっても無投票、定員割れなど制度の機能停止が指摘されている。民主主義の基盤である選挙制度を機能停止させておいて「権威主義」に対抗できるのか。「民主主義は見放されている」という権威主義国家による認知戦に利用されかねない。機能停止はわれわれが民主主義制度の必要性を体感できないのが一因だろうが、数百年前の御先祖様たちが「公平に豊かに生きるため」に気が遠くなるような長い年月と、時には命をかけて数々の制度や権利を得た事実を知れば、その大事さを少しは認識できるのではないか。

バナー写真:第26回参院選の開票作業(東京都新宿区)=2022年7月10日(時事)

この記事につけられたキーワード

選挙 江戸時代 民主主義 権威主義
柿崎 明二KAKIZAKI Meiji経歴・執筆一覧を見る

帝京大学法学部教授。1961年秋田県生まれ。早稲田大第一文学部卒。共同通信社政治部記者、編集委員、論説委員などを歴任。2020年10月から21年10月まで菅義偉内閣の首相補佐官を務めた。22年4月より現職。著書に『検証 安倍イズム~胎動する新国家主義』(岩波新書)などがある。』

民主主義サミット共同宣言、署名は6割のみ 足並み乱れ

民主主義サミット共同宣言、署名は6割のみ 足並み乱れ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN30DND0Q3A330C2000000/

『【ワシントン=坂口幸裕】米国など5カ国がオンライン形式で共催した第2回「民主主義サミット」が30日、2日間の日程を終えて閉幕した。共同宣言に署名したのは、招待した120カ国・地域の6割にとどまった。権威主義と位置づける中国、ロシアに対峙するため民主主義勢力の結束を狙ったが、足並みの乱れを露呈した。

「民主主義国家はかつてないほど結束してロシアの残忍な戦いを非難し、民主主義を守ろうとするウクライナ…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『「民主主義国家はかつてないほど結束してロシアの残忍な戦いを非難し、民主主義を守ろうとするウクライナを支援している」。民主主義サミットの提唱者であるバイデン米大統領は29日の演説で訴えた。

バイデン氏の言葉とは裏腹に、米国務省が公表した「民主主義サミット宣言」に署名したのは73カ国・地域だった。米政府高官は「失望はしていない。宣言の作成に関与しなかった約半数の招待国の賛同を得られるようにしたい」と強調したが、人権や法の支配など基本的価値を重視する米国主導の枠組みの限界を映す。

米国、韓国、オランダ、コスタリカとともに共催国に名を連ねたザンビアは宣言の一部の支持を留保した。インドも共同宣言に署名しつつ、ロシアによるウクライナ侵攻が及ぼす悪影響に懸念を示した段落に賛同しなかった。

インドは歴史的にロシアと軍事・経済で深く結びついてきた。プーチン大統領らに逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)が「果たす重要な役割を認識する」と記した部分も受け入れなかった。モディ首相は演説で「インドはまさに民主主義の母だ」などと訴えたものの、米欧首脳が批判したロシアには触れなかった。

米政府発表などによると、ブラジルやインドネシア、南アフリカ、ナイジェリアなどは署名しなかった。こうしたグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国はロシアのウクライナ侵攻で米欧日の経済制裁に加わらないなど、米主導の枠組みから距離を置いている。

初回会合と同様に、米国が安全保障協力などで重視するタイやサウジアラビア、トルコなどは招かなかった。敵と味方を区別すると受け止められかねない手法に再び反発が出る懸念もある。

民主主義国そのものの影響力が弱まっている現実がある。スウェーデンの調査機関V-Demは22年までに世界人口の72%の57億人が権威主義国家で生活していると分析。経済面でも中国を筆頭に権威主義国家が影響力を増しており、貿易に占める民主主義国間の比率は1998年の74%から22年には47%に低下した。

中ロは隙を突く。サミット開催は米国の存在感の低下が浮き彫りになったタイミングと重なった。中国が中東の大国であるイランとサウジの電撃的な和解を仲介し、米国は関与できなかった。

米欧は対ロシア制裁の効力を高めるため、取引の経由地となる第三国の抜け穴をふさぎたい考えだ。米国が名指ししたトルコやウズベキスタンは招待しておらず、実効性のある対ロ包囲網を築けるか見通せない。

力による現状変更を志向するロシアのウクライナ侵攻を受け、民主主義国家が重視する価値観は試練にある。米国主導で築いた国際秩序を維持するには理念だけでなく、存在感を高めるグローバルサウスを引きつける具体策が欠かせない。 』

〔米国上院の一票の格差〕

 ※ なんと、『70.79倍 (2006年)』だ…。

 ※ それでも、「騒ぎにならない」理由は、『アメリカは、50州から成る連邦制国家である。上院議員は、州を代表するだけでなく、国家的利益を考慮した
役割も果たしている。これは、連邦憲法第2編第2条第2項の条約に対する助言・同意権限、連邦公務員任命に対する助言•同意権限などに根拠がある。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民との関係は自由委任と解されている』から…、ということだ。

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999651_po_069104.pdf?contentNo=1

 ※ 例によって、「テキスト変換」したものを、貼っておく…。

『レファレンス平成20年8月号
—資料ー
諸外国の上院の議員定数配分
一憲法の規定を中心として一
政治議会課憲法室三輪和宏
目 次
はじめに
I比較の方法
口 直接選挙を中心とした国々
!アメリカ
2 オーストラリア
3 イタリア
4 スペイン
5 ベルギー
6 スイス
7 ポーランド
8 チェコ
9 メキシコ
m 間接選挙を中心とした国々
! フランス
2 オランダ
3 アイルランド
IV任命制等の国々
!カナダ
2 ドイツ
3 オーストリア
4 ロシア
V諸外国の上院定数配分の特徴
おわりに
国立国会図書館調査及び立法考査局
レファレンス 2008.8
73
はじめに
近年、我が国では、参議院の定数是正の問題
が、国政の大きなイッシューになっている。平
成19 (2007)年11月30日、江田参議院議長の諮
問機関として、参議院改革協議会が設置され、
12月4日の会合で、参議院の定数配分見直しな
ど選挙制度改革を議題とすることで合意したと
伝えられている。同協議会は、平成20 (2008)
年6月9日に、一票の格差是正のために選挙制
度改革を検討する専門委員会を設置することを
決めた。また、別の観点から、参議院の構成を
見直すという考え方も提起されている。すなわ
ち、政党レベルの検討において、道州制を前提
に、参議院は各「道州」同数の代表から構成さ
れるべきとの考え方が示されたことがある⑴。
筆者は、既に、参議院の一票の格差・定数是
正問題について小論②を発表している。本稿で
は、諸外国の上院(国会)⑶について、選挙区定
数・州別任命定数等の議員定数配分を、更に詳
細に比較したい。

I比較の方法
本稿では、諸外国の上院について、選挙区定
数・州別任命定数等の議員定数配分を比較し
た。調査対象とした国々は、OECD諸国30か国
に、G8の1つであるロシアを加えた全31か国
のうち、上院を有する16の諸外国である。ただ
し、貴族院型のイギリス上院は除いた。これら
の諸国を対象にしたのは、世界の先進諸国の制
度を広く比較し、世界の現況を概観するためで
ある。

これらの諸国について、①選挙・任命等の制
度、②代表制の性格(州代表•国民代表等⑷)、
③総定数、④選挙区定数•州別定数等(配分結
果[議席数]だけでなく、その計算法が法定される
場合は計算法も明示)、⑤定数配分規定、⑥定数
配分規定の沿革、⑦定数格差・一票の格差、⑧
格差の特徴の、8つの項目を基本として比較し
た。特に、従来紹介されることがあまりなかっ
た「⑥定数配分規定の沿革」については、詳述
した。また、「⑦定数格差・一票の格差」(いず
れも最大格差)は、参考のために試算した⑸。
なお、小選挙区制を採用することにより、選挙
区定数=1議席と一律の定数配分となってい
て、かつ選挙区画定(区割り)が必要な国の場
合は、定数配分ではなく、選挙区画定法(区割
り法)を取り上げた。この場合は⑤、⑥に代え
て、m)選挙区画定法、(b)選挙区画定規定、©選
挙区画定規定の沿革の3項目を比較した。

π 直接選挙を中心とした国々
1アメリカ
⑴ 選挙制度 単純小選挙区制(一部、小選挙
区2回投票制)
⑵ 代表制の性格 州代表⑥(連邦憲法第1編第
3条第1項、同修正第17条第1、2項)
⑶総定数100人
(2年ごとに3分の1ずつ改選)
⑴「国会議員を大幅減自民推進本部道州制素案に明記へ」『日本経済新聞』2008.5.22, p.2.
⑵ 三輪和宏•河島太朗「参議院の一票の格差・定数是正問題ー我が国・諸外国の現状と論点整理一」『調査と情
報-ISSUE BRIEF一』610号,2008.3.11.
⑶ 本稿での「上院」とは、すべて国会又は連邦議会の上院であり、州・県等の地方議会の上院を含まない。
⑷ 本稿では、上院議員は全国民を代表する等の規定が、憲法等にある場合、「国民代表の上院」とした。上院議
員は地域を代表する等の規定が、憲法等にある場合、「地域代表の上院」とした。
⑸直接選挙の場合は、選挙区ごとの議員1人当たりの人口(一部、有権者数)を比較し、一票の格差を求めた。
間接選挙の場合は、上院議員選挙人(有権者)の属する地域ごとの議員1人当たりの人口を比較し、人口格差を
求めた。併せて、選挙区ごとの議員1人当たりの上院議員選挙人の数を比較し、一票の格差も求めた。任命制等
の場合は、任命等の母体となる地域の人口を議員1人当たりにつき比較し、人口格差を求めた。
74 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
⑷選挙区定数小選挙区:50区
各区2人
(州単位、改選時に1人ずつ選挙、選挙執行時に
上院選挙がある州とない州に分かれる)
⑸定数配分規定
連邦憲法第1編第3条第1項、同修正第17
条第1項
⑹定数配分規定の沿革

各州同数の定数とされたのは、人口の少な
い州の利益に対する配慮を行っての措置で
あった。同様の配慮は、連邦憲法第1編第3
条第1項、修正第17条第1項の「各上院議員
は1票の投票権を有する」、同第5編の「い
かなる州も、その同意なくして、上院におけ
る平等の投票権を奪われてはならない」とい
う規定にも表れている。上院における小州へ
の配慮は、連邦憲法制定過程での妥協に淵源
を求めることができる。すなわち、1787年の
連邦憲法制定会議で、連邦下院は、州の人口
に比例して各州の選出議員数が決められ、連
邦上院は、各州同数の選任議員が認められる
という形の、二院制に基づく妥協が成立し、
人口の多い州と人口の少ない州の間の調整が
図られた⑺。

各州2名とされたのは、①病欠等の理由で
1名が議会を欠席する場合の最低限(1名)
の州代表の確保、②(同じ州の)複数の州代
表者による協力・相談関係の確保、③下院と
比べた場合の、上院の力量・能力の向上(各
州1人ではなく 2人とし議員数を増やすことでカ
量を向上させる)、④上院運営のための適切な
コストの維持(議員数が多過ぎると過剰コスト
を発生させる)、⑤各上院議員による責任ある
審議の実現(非常に多数の議員になると個々の
議員としては無責任になる可能性がある)など
が考慮された結果であった⑻。

当初、上院議員は、各州議会が選任してい
たが、1913年の連邦憲法修正(修正第17条)
により、州民の直接選挙で選出されることに
なった。この修正の目的は、①買収、②政党
ボスによる影響力行使、③州議会が上下二院
であることによる議決の遅延などの諸弊害を
避けることにあった⑼。
⑺一票の格差70.79倍 (2006年)”
⑻格差の特徴
各州同数という定数配分、州間の人口の差
が大きいことの2つの理由で、一票の格差は
極めて大きい。

⑹ アメリカは、50州から成る連邦制国家である。上院議員は、州を代表するだけでなく、国家的利益を考慮した
役割も果たしている。これは、連邦憲法第2編第2条第2項の条約に対する助言・同意権限、連邦公務員任命に
対する助言•同意権限などに根拠がある。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民との関係は自由委任と解されている(“Parliamen-
tary Mandate: United States of America”列国議会同盟ホームページlast access 2008.6.30>以下のインターネット情報はこの日付による。また、以下で紹介す
る各国において、上院議員に対する委任の規定については、必ず列国議会同盟ホームページの”Parliamentary
Mandate”の項目を確認の上、論述している)。
⑺妥協は、「大いなる妥協(Great Compromise)」と呼ばれる。妥協に至るまでには、①連邦上院でも人口比例
原則を貫くというジェームズ・マディソン起草のヴァージニア案、②一院制の連邦議会において各州1票の表決
権を認めるウィリアム・パターソン提案のニュー・ジャージー案などが見られた。ヴァージニア案は人口•財政
規模の大きな邦から支持を受け、ニュー・ジャージー案は人口・財政規模の小さな邦から支持を受けた。諸案の
対立を受けて、コネティカット出身のロジャー・シャーマンが、③連邦下院では人口比例、連邦上院では各州2
人代表(州議会選任)という案を提案し、この案を中心に妥協に至っている。このため、「大いなる妥協」は、「コ
ネティカット妥協(Connecticut Compromise)」とも呼ばれる。阿部竹松『アメリカ合衆国憲法(統治機構)』有
信堂高文社,2002, pp.26-29; “Two Senators Per State”ア メ リカ上院ホームページ
⑻ ibid.
⑼ 鈴木康彦『註釈アメリカ合衆国憲法』国際書院,2000, p.27.
⑽ カリフォルニア州の人口36,457,549人+ワイオミング州の人口515,004人。
レファレンス 2008.8
75
2 オーストラリア
⑴選挙制度単記移譲式比例代表制
⑵代表制の性格州(或いは選出連邦直轄地)
の代表(11>(連邦憲法第7条、同第12 2条、1918年
連邦選挙法第40条第1項)
⑶総定数76人
⑷選挙区定数大選挙区:8区
(州・連邦直轄地単位)
① 各州(6州)12人
原則として改選時に6人ずつ選挙
② 連邦直轄地である首都特別地域2人
改選時に全員(2人)選挙
③ 連邦直轄地である北部特別地域2人
改選時に全員(2人)選挙
⑸定数配分規定
① 州:1983年代表法第3条
② 連邦直轄地:
1918年連邦選挙法第40条第1項
③ 連邦憲法第7条第3項により、基本州
(Original States)(12)の定数は同数でなけれ
ばならず、かつ各基本州とも最少でも6議
席が保証される。
⑹定数配分規定の沿革
各州の定数が同数とされるのは連邦憲法第
7条第3項に根拠があるが、この規定は、ア
メリカ連邦上院の各州同定数という制度から
多大の影響を受けて定められた。また、人口
規模•財政状況の点で小さな州であったタス
マニア、クインズランド、西オーストラリ
ァ、南オーストラリアの4州が、ニュー・サ
ウス・ウェールズ、ヴィクトリアの2つの大
きな州に比べて、不利な扱いを受けることが
ないように配慮した規定でもあった(11 12 13>。
⑺一票の格差13.97倍(2007年)14)
⑻格差の特徴
各州同数という定数配分、州間の人口の差
が大きいことの2つの理由で、一票の格差は
極めて大きい。
3 イタリア
⑴選挙制度
拘束名簿式比例代表制(プレミアム付き)、
(一部、拘束名簿式比例代表制[プレミアムな
し]、小選挙区比例代表組合せ型、単純小選挙区
制、非拘束名簿式比例代表制)
⑵代表制の性格国民代表(15)(憲法第67条)
⑶ 総定数322人(2008年7月)
① 直接公選議員:315人
② 特別上院議員:前・元大統領である議員
3人(当然の終身上院議員)、及び国家の名
誉を高めた功績により大統領が任命する議
員4人(大統領任命終身議員)
⑷選挙区定数
①国内選挙区
⑴ 大選挙区(比例区):18区
(総数301人、定数2〜47人、州単位)
(ii)トレンティーノ・アルト・アディジェ
(11) オーストラリアは、連邦憲法第3、6条等により、6州から成る連邦制国家である。また同第122条により、
連邦直轄地の存在が認められている(現在、首都特別地域、北部特別地域と、それ以外に幾つかの島映等があ
る)。実際の政治においては、上院は州権を代表するというよりも、下院と同様に、全国レベルの政党の行動に
支配されることが多い。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等との関係は自由委任と解されている。
(12) 連邦憲法制定時(1900年7月9日)の基本州5州(ニュー・サウス・ウェールズ、ヴィクトリア、南オースト
ラリア、クインズランド、タスマニア)に、その後すぐ、西オーストラリア州が加わり、現在6州が基本州であ
る。
(13) The Joint Standing Committee on Electoral Matters of the Parliament of Australia, “Territory Representa-
tion in the Commonwealth Parliament,” pp.8,10.オーストラリア連邦議会ホームページ
(14) ニュー・サウス・ウェールズ州選挙区の議員1人当たりの人口575,741.67人(6,908,900人「12議席)「タスマニ
ア州選挙区の議員1人当たりの人口41,208.33人(494,500人「12議席)。
76 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
州選挙区15 (16)(小選挙区6区[定数各1人]、
全州単位の比例区1区[定数1人])
価)小選挙区:1区
(定数1人、ヴァッレ・ダオスタ州選挙区)
②在外選挙区:4区
(総数6人。ヨーロッパ選挙区[定数2人]、
北・中央アメリカ選挙区[同1人]、南アメリ
カ選挙区[同2人]、アジア•アフリカ・オセ
アニア・南極大陸選挙区[同1人])
⑸法定の定数配分計算法
①国内選挙区の場合
ヴァッレ・ダオスタ州は1議席、モリー
ゼ州は2議席とされ、他州は最少でも7議
席を保証される。これらの配分議席7以下
の諸州を除き、各州の人口に基づき、ヘ
アー式最大剰余法で議席配分がなされる。
人口は、イタリア国家統計局(ISTAT)の
発表する直近の人口総合調査(Censimento
generale della popolazione)による。現行の
定数配分は、2001年の人口総合調査に基づ
いて、2006年2月11日、2008年2月6日に
大統領令で決定されている(両時期の大統
領令は各々総選挙直前に出されたものである
が、同じ定数配分になっている)。なおイタ
リア国家統計局の人口総合調査は、1951年
以降は10年ごとに行われている。次回の調
査は2011年と想定される。
・ヘアー式最大剰余法:(国内人口総数
[56,995,744人]-配分議席7議席以下の6州
の人口の和[3,987,523人]):(総定数[315人]
ー在外選挙区定数の和[6人]ー配分議席7
議席以下の6州の定数の和[31人])}の商の
整数部分を配分基数(ヘアー式基数、
Quoziente inter oと呼ばれる)とし、各州
(配分議席7議席以下の6州を除く)の人口
をヘアー式基数で割り、商(整数)と余
りを求める。まず、当該商(整数)を、
各州への配分議席とする。各州の配分議
席の合計が、{総定数(315人)ー在外選挙
区定数の和(6人)-配分議席7議席以
下の6州の定数の和 ⑶人)}すなわち278
議席に満たない場合は、余りの大きい順
に1議席ずつ278議席に至るまで、各州
へ議席配分を行う。
②在外選挙区の場合
在外選挙区の総数6議席中4議席は、4
在外選挙区に1議席ずつ配分される。残り
の2議席は、各在外選挙区の居住イタリア
市民数(25歳未満の者も含まれる。現行の定
数配分の元になる同市民数は2008年1月31日付
内務省令で決定されている)に基づき、ヘ
アー式最大剰余法で各在外選挙区に配分さ
れる。
⑹定数配分規定
① 国内選挙区の定数配分計算法:憲法第57
条第3、4項、上院選挙法第1条(国家統
(15) イタリアは、単一国家であり、近年地方分権を進めていることが知られている。州(regione)も存在するが、
憲法第114条第2項により、自治団体の1つとされる。憲法第57条第1項、イタリア上院選挙法第1条第1項に
より、上院は、在外選挙区を除き、州を基礎として選出される。しかし憲法第67条により、上院議員は国民の代
表とされ、州・地域代表ではない。国会議員は委任に拘束されることなくその職務を行なう(憲法第67条)。
なお、2006年憲法改正国民投票(上院に州・地方代表院の性格を付与する改正案であったが否決された)にお
ける改正案では、上院が州・地方代表院の性格を付与されるにもかかわらず、一方で上院議員は国民及び共和国
を代表する(現行憲法第67条の改正案)とされていたため、上院の性格付けに曖昧さが残っていた。本改正案に
おいて、「各州への上院議員定数の配分」は、各州の人口に基づきヘアー式最大剰余法で行われるとされていた。
またヴァッレ・ダオスタ州は1議席、モリーゼ州は2議席とされ、他州は最少でも6議席を保証されるとなって
いた(現行憲法第57条の改正案)。岩波祐子「イタリア2006年憲法改正国民投票一改正案の概要と国民投票まで
の道程」『立法と調査』259号,2006.9, pp.107-114.
(16) トレンティーノ・アルト・アディジェ州全体には、定数7人が割り当てられ、同時に州内に6区の小選挙区が
設けられる。小選挙区定数の合計が6人で、比例代表選挙定数が1人である。この州の選挙は小選挙区比例代表
組合せ型で行われる。
レファレンス 2008.8
77
計局の公表する人口に依拠する旨を規定、それ
以外は憲法第57条と同趣旨である)
② 在外選挙区選出議員の総数(6人):
憲法第57条第2項
③ 4在外選挙区への定数配分計算法:
憲法で規定されない。在外選挙法(2001
年法律第459号)第6条第1項で、4つの在
外選挙区に分割されること、及びその地理
的範囲・名称が規定される。同条第2項
で、4在外選挙区への定数配分計算法が規
定される。
④ 大統領任命終身議員の上限数(5人):
憲法第59条第2項
⑺定数配分規定の沿革
イタリアで直接公選の上院を初めて設けた
のは、1948年施行の現行憲法である。現行憲
法は、当初、上院の選挙につき、州を基礎と
した選挙であること、及び各州への定数配分
が原則人口比例によること(各州で人口20万
人ごとに1上院議員、ただし20万人未満の端数が
出たときは10万人を超えていれば1上院議員とす
る。各州は最少でも6議席を保証される。ヴァッ
レ・ダオスタ州は1議席)を規定していた(17)0
この規定は、制憲議会(1946〜1948年(18) * 20 21)
における上院の在り方及び定数配分に関する
審議の結果に由来している。制憲議会での審
議は、大きく三段階に分けられる。最初は、
そもそも国会を二院制のままとするか、ー院
制にするかという審議がなされ、二院制の採
用が多数意見となった⑲。次いで、上院の
権限と性格に関する審議がなされた。上院の
権限を下院より弱くするとの考え方、また、
将来的に設置を見込む州議会の代表及び市町
村長・大学・専門職の代表などから成る上院
にするとの案などが示されたが、いずれも採
用されなかった。結局、上下両院の対等とい
うことで落ち付いた例。最後に、上院の定
数配分について審議がなされた。この段階で
は、中央集権主義と地方分権主義の間の対
立、州人口比例による州別定数配分を主張す
るグループと各州同定数を主張するグループ
の間の対立が顕著だった。しかし、妥協が成
立し、上記の当初の規定となった。各州の定
数に上限を設けるとの案もあったが、採用さ
れなかった(21>。
その後、1963年の憲法改正で、上院国内選
挙区につき現行規定のとおりとされ、2001年
の憲法改正で、在外選挙区定数に関する現行
規定が挿入された。
以上のように、国内選挙区の定数配分計算
法は,1948年当初から「人口比例の原則+各
州の最低議席数の保証」という公式で成り
立っていた。また、新たに導入された在外選
挙区の定数配分計算法も、国内選挙区の場合
に類似する公式によることになった。
(17) Raffaele Bifulco et al., ed., Commentario ala Costituzione, vol.2, Torino: Utet giuridica, 2006, pp.1143-1146.
(18) 新憲法採択は1947年12月22日であったが、経過規定により1948年1月31日まで存続した。
⑲ 二院制の採用の事情については、『諸外国の憲法事情1』(調査資料2001-1)国立国会図書館調査及び立法考査局,
2001,p.114参照。
(20) イタリア憲法の概説書によれば、二院制を採用した理由は、①ー院で行われた審議を省察し、審議の問題点を
深め、議論を繰り返すことにより、提案された政策の利益を評価すること及び法律を完全なものにすること、
②社会の各層の政治的意思を十全に到達させることにより完全な代表制を実現すること(とりわけ専門的能力を
持つ者の活用を期待できること)、③政府と議会の対立を緩和し政治機構の中に均衡を生み出すこと、とされて
いる。また、第二次世界大戦直後のイタリアでは、一院制が、過去にイタリアで見られたような政治(governo
convenzionale、ファシスト体制に至る議会制民主主義の崩壊過程を指すと考えられる)への逆戻りを引き起こす
危険性があると懸念されたと言う。制憲議会では、二院制の目的を果たすためには、両院の権限を対等にするこ
とが好ま しいと考えられた。Francesco Teresi, Le istituzioni repubblicane: Manuale di dlntto costtuzionale,
Torino: G. Giappichelli Editore, 2002, pp.216-217.
(21) Bifulco et al., op.clt.77, p.1143.
78 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
⑻一票の格差
① 国内選挙区のみの格差:2.41倍(200?年)”
② 在外選挙区を含めた格差
⑴ 在外選挙区全体との比較における格
差:?.2 倍(200?年)(23)
伍)各在外選挙区との比較における格差:
12.2?倍(200?年)24)
⑼格差の特徴
国内選挙区のみの格差は、比較的小さい。
州人口比例の原則を、いくつかの州の最低議
席数の保証という例外規定で補正する定数配
分法が、効果を現したものである。
しかし、在外選挙区を含めた一票の格差
は、極めて大きい。①憲法第5?条第2項で在
外選挙区全体の上院議員数が6議席と規定さ
れ、在外の居住イタリア市民数に対して、少
なめの定数であること、②少数の定数を更に
4在外選挙区へ配分し直すこと、③基礎配分
とも呼べる「まず4在外選挙区へ1議席ずつ
配分する計算方法」が存在すること、の3つ
の理由によって、居住イタリア市民数に十分
に比例した形で各在外選挙区へ議席を配分す
るに至っていない。
4 スペイン
⑴選挙制度制限連記制
(一部、完全連記制、単純小選挙区制)
⑵代表制の性格地域代表(25)
(憲法第69条第1項)
⑶総定数264人
① 直接公選議員:208人
② 自治州議会議員の中から同議会が指名す
る議員:56人
⑷選挙区定数等
① 直接公選議員
⑴大選挙区:52区
4?大選挙区
(定数4人、[島憫を除く]県単位)
3大選挙区
(定数3人、3つの大島憫単位)
2大選挙区(定数2人、2自治市単位)
伍)小選挙区:7区
(定数1人、8つの小島憫を7区に分割)
② 自治州議会指名議員 1?区
(定数1〜9人、自治州単位(26))
⑸法定の定数配分計算法
(22) ラツィオ州選挙区の議員1人当たりの人口203,455.85人(5,493,308人+27議席)+バジリカータ州選挙区の議員
1人当たりの人口84,476.86人(591,338人+7議席)。
現行の選挙区定数決定時(2006年2月11日)に用いられた2001年時点の人口総合調査によれば、格差は2.36倍(力
ラーブリア州選挙区対バジリカータ州選挙区)であった。
なお、トレンティーノ ・アルト・アディジェ州は、小選挙区比例代表組合せ型という選挙制度のため、小選挙
区部分と比例区部分(全州単位)を分割して計算することが難しかった。よって、同州人口を7議席で除して議
員1人当たりの人口を算出し比較した。
(23) {在外選挙区全体の議員1人当たりの居住イタリア市民数[25歳未満の者も含まれる]608,229.5人(3,649,3??人

  • 6議席)+バジリカータ州選挙区の議員1人当たりの人口84,476.86人。
    ㉔{ヨー ロッパ在外選挙区の議員1人当たりの居住イタリア市民数】25歳未満の者も含まれる]1,036,205人
    (2,0?2,410人+2議席。+バジリカータ州選挙区の議員1人当たりの人口84,476.86人(前掲注2)。
    (25) スペインは、単一国家である。1?の自治州が存在するが、自治州は連邦制国家における州とは異なり、自治権
    を有する団体の1つとされる(憲法第13?条)。しかし、自治州ごとの自治憲章の存在、権限の大きさ(同第
    147,148条)を見ると、自治州は、連邦制国家の州に類似する側面も併せ持つと評する者もいる。
    なお、国会議員は、命令的委任に拘束されない(憲法第6?条第2項)。
    (26) 第9議会期(2008年3月9日の上下院総選挙後の議会期)から、自治州ごとの定数が部分的に増員になり、自
    治州議会指名議員総数も56人に増員されることが2008年1月16日に上院で決定された。3月9日の総選挙に合わ
    せて、56人の議員が指名された。第8議会期の自治州ごとの定数は1〜8人であり、指名議員総数は51人であっ
    た。”nUmero de senadores a designar por las comunidades autonomas EN LA IX LEG-
    ISLATURA” スペイン上院ホームページ
    レファレンス 2008.8
    79
    (自治州議会指名議員)
    自治州は1名の上院議員、更に住民数が
    100万人を超えるごとに追加して1名ずつの
    上院議員を指名する(憲法第69条第5項)。こ
    のため、指名議員総数、上院議員総定数も変
    動する可能性がある。
    ⑹定数配分規定
    ① 直接公選議員:
    憲法第69条第2、3、4項
    ② 自治州議会指名議員の州別定数配分計算
    法:憲法第69条第5項
    ⑺定数配分規定の沿革
    1931年の第二共和国憲法は、一院制の国会
    を規定していた。その後、フランコ独裁体制
    の成立により第二共和国憲法は事実上廃止さ
    れた。フランコ体制の下では、自由選挙によ
    らない一院制の国会が置かれた。1975年のフ
    ランコの死後、急速に自由化が進み、1977年
    1月には政治改革法(二院制の採用、基本的人
    権の尊重等)が公布、それに基づき同年6月
    15日には国会(上下院)総選挙が行われた。
    翌1978年12月29日には新憲法(現行憲法)が
    公布された。
    1977年の政治改革法では、上院は、県の代
    表として選挙される直接公選議員207人と、
    その5分の1未満の国王任命議員(実際には
    41名)から構成されると規定された。また、
    207人の内訳は、各県4人、各島噸県1人、
    セウ夕市•メリリャ市各2人であるとされ
    た(27)〇政治改革法の選挙区定数は、現行の
    直接公選議員の選挙区定数とほぼ同じであ
    り、政治改革法により、現行定数配分規定の
    骨格が定められたと言える。
    1978年新憲法制定の過程を詳しく見ると、
    上院を地域代表とすることでは、各政党の意
    見の一致が見られたことが分かる。しかし、
    主として県代表と考える民主中道連合
    (UCD、政権党)•国民同盟(AP)と、自治州
    や民族の代表と考える州権主義者•左翼勢力
    の間の対立が見られた。最終的に妥協が成立
    し、現行憲法のとおりの規定となった岡。
    現行憲法における定数配分規定の目的につ
    いては、地域代表制の確保と同時に、農村部
    等の地方エリアからの保守勢力の選出•確保
    という現実的な目的を指摘する研究者もい
    る例。後者の目的は、極めて党派的なもの
    であり、通常の立法趣旨とは異なるものであ
    る。しかし、上院定数配分の制定過程におい
    て、党派的な要因も大きく影響したことを窺
    わせる指摘である。
    ⑻一票の格差•定数格差
    ① 直接公選議員に関する一票の格差:
    144.01倍(200?年)* 28 29 30)
    ② 自治州議会指名議員に関する人口格差:
    3.2倍(2008年)31)
    ⑼格差の特徴
    直接公選部分の一票の格差は、極めて大き
    い。各県同数の定数配分、小島噸への1議席
    ㉗ 碇順治『現代スペインの歴史一激動の世紀から飛躍の世紀へ』彩流社,2005, pp.265-269.
    (28) Andrea Bonime-Blanc, Span s transition to democracy: the politics of constitution-making, Boulder: Westview
    Press,1987, pp.68-69, 76-77.
    (29) Paul Heywood, The government and politics of Spain, Houndmills: Macmillan, 1995, p.171.
    (30) マドリッド県選挙区の議員1人当たりの人口1,520,422.25人(6,081,689人+4議席)+エル・イエーロ島選挙区(小
    選挙区)の人口10,558人。
    なお、⑻①直接公選議員に関する一票の格差、⑻②自治州議会指名議員に関する人口格差を通してみても、や
    はり「マドリッド県選挙区の議員1人当たりの人口」と「エル・イエーロ島選挙区の人口」の間の人口格差が最
    も開いている。
    (31) カスティーリャ・ラ・マンチャ州の議員1人当たりの人口988,652人(1,977,304人+2議席)+ラ・リオ八州(1
    議席)の人口308,968人。
    第8議会期の自治州別|日定数、200?年の人口を用いると、定数格差は3.34倍である。バレアレス州(1議席)
    の人口1,030,650人+ラ・リオ八州(1議席)の人口308,968人。
    80 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    配分が原因である。
    自治州議会指名部分の人口格差は、ある程
    度小さくなっている。これは、①17自治州中
    14自治州が人口1,000,000人以上(2007年)で
    あり、「住民数^ミ100万人を超えるごとに追加
    して1名ずつの上院議員を指名する」との規
    定が有効に働いていること、②最少の人口の
    自治州でも300,000人を超える人口を有する
    ことの、2つの理由で、指名議員に関してー
    定の人口比例性が実現しているためである。
    現行定数配分に関する評価として、上院
    が、単なる政治的代表ではなく、地域代表と
    いう性格を持ち、地域の声を議会に届けると
    いう役割を担っている点から考えて、定数配
    分が人口比例原則に依らず、格差が大きく
    なっていることも妥当と考えられるという見
    解もスペイン国内では表明されている。ま
    た、憲法改正を通じ、地域の声が議会に一層
    反映されるようにすべきとの考え方も広く見
    られるという岡。実際に現在、上院は地域
    代表の議院としての性格を強めており、自治
    州相互間、及び自治州と国の関係を国家的見
    地から調整するという機能を果たすように
    なってきている32 (33) *〇
    しかし一方で、スペイン政治の研究者の中
    には、ポール•ヘイウッド(PaulM. Hey-
    wood) ノッティンガム大学教授のように、
    スペイン上院の一票の格差が極めて大きい事
    態を、「極端な歪み」として批判的に見る学
    者もいる”。上院直接選挙の格差144.01倍
    は、憲法の定数配分規定に基づく格差である
    ため、違憲判断をもたらす余地がないもの
    の、憲法の定数配分規定自体の妥当性につい
    ては、論点となるところであろう。
    5 ベルギー
    ⑴選挙制度非拘束名簿式比例代表制
    ⑵ 代表制の性格 国民代表かつ選出をなした
    者の代表(35)(連邦憲法第42条)
    ⑶総定数71人
    ① 直接公選議員:40人
    ② 共同体議会指名議員:21人
    ③ 上院議員による指名議員:10人
    ④ 当然の上院議員:
    王子2人、王女1人(定数外とされる)
    ⑷選挙区定数等
    ⑴直接公選議員
    大選挙区:3区
    ① ワロン地域(フランス語圏)選挙区(36):
    定数15人
    ② フランドル地域(オランダ語圏)選挙
    区:定数25人
    ③ ブリュッセル•アル•ヴィルヴォルド
    地域選挙区(37)(フランス語及びオランダ語
    圏):定数はない
    (32) 『諸外国の憲法事情2』(調査資料2002-2)国立国会図書館調査及び立法考査局,2002, pp.22-23;『ドイツ・スペイ
    ン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』参議院憲法調査会事務局,2001,p.78.
    (33) 憲法制度研究会編『各国憲法制度概説(増補改訂版)』政光プリプラン,2002, p.85.
    御 Heywood, op.cit.物,pp.170-171.
    (35) ベルギーは、連邦制国家であり10の州が定められる(連邦憲法第1、5条)と同時に、3つの言語共同体(フ
    ランス語共同体、オランダ語共同体、ドイツ語共同体/同第2条)、3つの地域(ワロン地域、フランドル地域、
    ブリュッセル地域/同第3条)、4つの言語地域(フランス語地域、オランダ語地域、ブリュッセル首都2言語
    地域、ドイツ語地域/同第4条第1項)も定められる。
    上院議員に対する委任についての直接的規定は連邦憲法には存在しない。しかし、連邦憲法第42条(国会の代
    表制に関する規定)から、選挙民等との関係は自由委任と解釈されている。
    (36) ドイツ語共同体は、地理的にワロン地域(フランス語圏)の中のリエージュ州に含まれており、上院直接選挙
    では、ドイツ語共同体住民は、ワロン地域(フランス語圏)選挙区の有権者として投票を行う。
    (37) ブリュッセル・アル・ヴィルヴォルド地域選挙区には、独自の政党名簿が存在せず、ワロン地域選挙区又はフ
    ランドル地域選挙区の政党名簿(若しくは候補者)に投票する。どちらの選挙区の政党名簿(若しくは候補者)
    に投票するかは、個々の有権者が選択する。
    レファレンス 2008.8
    81
    (il)共同体議会指名議員
    フランス語共同体議会指名議員:10人
    オランダ語共同体議会指名議員:10人
    ドイツ語共同体議会指名議員:1人
    価)上院議員による指名議員岡
    ① フランス語圏から選挙又は指名された
    上院議員(合計25人)により4人
    ② オランダ語圏から選挙又は指名された
    上院議員(合計35人)により6人
    ⑸定数配分規定
    (i)①直接選挙の選挙区別定数、②共同体議
    会別の指名議員定数、③上院議員による指
    名議員の言語圏別定数:
    いずれも連邦憲法第67条§1第1項
    伍)当然の上院議員の資格:同第72条
    ⑹定数配分規定の沿革
    1921年改正のベルギー国憲法では、①各州
    の人口に応じて直接選挙で選出される議員
    (106人、21選挙区)、②州議会指名議員(50人、
    州人口比例原則による)、③上院議員による指
    名議員(25人)、④王子、王女(18歳以上)の
    4者から上院が構成されることになってい
    た(39)(第53, 58条)。その後1993年5月5日
    の憲法改正で、連邦制への移行が完了させら
    れるとともに、現行の定数配分規定となっ
    た。直接公選議員については、引き続き人口
    比例原則が維持される一方、共同体議会指名
    議員については、フランス語共同体とオラン
    ダ語共同体の対等原則が導入された。
    ⑺一票の格差•定数格差
    ① 直接公選議員に関する一票の格差:
    1.07倍(2007年)38 39 40)
    ② 共同体議会指名議員に関する人口格差:
    9.65倍(2003年)41 42 43)
    ⑻格差の特徴
    ベルギー連邦憲法は、フランス語話者であ
    る国民(ワ日ン人)とオランダ語話者である
    国民(フラマン人)が存在すること、及びこ
    の2種類の言語集団間の政策決定過程におけ
    る平等を認めている(42)。直接公選議員に関
    する一票の格差が極めて小さいことは、この
    2言語集団間の平等原則の1つの現れと考え
    ることができる。
    ドイツ語話者は、直接選挙ではワ日ン地域
    (フランス語圏)選挙区の有権者となるが、ー
    方で共同体議会指名議員1名を上院に送るこ
    とができるという立場にある。ドイツ語話者
    の人口は全体の0.6%に過ぎず、上院議員の
    選任で計算上明確な人口比例原則を見出すこ
    とは難しい。
    なお、定数配分については、人口比例原則
    によらず、フランス語系上院議員35人、オラ
    ンダ語系上院議員35人とし、言語ごとの完全
    な対等を求める改革案も存在している(43)。
    (38) フランス語圏の、直接公選の上院議員及び共同体議会指名上院議員により、指名される。オランダ語圏につい
    ても同様。
    (39) ①〜③の人数、選挙区数は、石井五郎ほか『世界の議会(第3巻 ヨー日ッパ1)』ぎょうせい,1983, pp.155-156
    によっており、本書出版時点の数である。
    (40) フランドル地域(オランダ語圏)選挙区の議員1人当たりの人口244,697.6人(6,117,440人+ 25議席)+ワ日ン地
    域(フランス語圏)選挙区の議員1人当たりの人口229,058.6人(3,435,879人+15議席)。
    (41) オランダ語共同体議会指名議員1人当たりの人口690,000人(人口約6,900,000人】2003年]+10議席)+ドイツ語
    共同体議会指名議員1人当たりの人口71,500人(人口71,500人[2003年]+1議席)。なお、直接公選議員と共同体
    議会指名議員の間の格差を試算すると、フランドル地域(オランダ語圏)選挙区選出議員とドイツ語共同体議会
    指名議員の人口格差=3.42倍(2003、2007年。244,697.6人+71,500人)である。ドイツ語共同体住民の代表度•影
    響力が大きくなっている。
    (42) 連邦憲法第99条第2項で、内閣が同数のフランス語系大臣、オランダ語系大臣で構成されることが規定され
    る。同第151条§ 2第2項で、司法高等評議会のフランス語系委員団、オランダ語系委員団が同数と規定され
    る。また、仲裁裁判所の(裁判長を除く)判事の構成も、フランス語系、オランダ語系で同数である。
    (43) ドイツ語共同体議会指名議員1人の扱いについては不明。『イタリア・ベルギー ・フランスにおける憲法事情
    に関する実情調査一概要』参議院憲法調査会事務局.2002, p.224:『諸外国の憲法事情2』前掲注(32), p.83.
    82
    レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    6 スイス
    ⑴選挙制度
    完全連記2回投票制、完全連記相対多数
    制、小選挙区2回投票制
    (一部、自由名簿式比例代表制、州民総会選出)
    ⑵代表制の性格州代表(44) 45 46
    (連邦憲法第150条第1項)
    ⑶総定数46人
    ⑷選挙区定数
    ① 大選挙区:20区(定数2人、州単位)
    ② 小選挙区:6区(定数1人、旧半州単位)
    ⑸定数配分規定連邦憲法第15 0条第2項
    ⑹定数配分規定の沿革
    スイスは、アメリカ連邦憲法に倣って二院
    制の連邦議会を設けた。これは、独立性の強
    いスイスの州(カントン)と、アメリカの州
    権の強さに類似性を見出したためと言われ
    る。この結果、各州2名(半州は1名)から
    成る連邦上院という構成となり、現在に至っ
    ている。スイスは、今までに3つの連邦憲法
    を制定しているが、いずれの憲法でも、各州
    2名([旧]半州は1名)という構成は変わっ
    ていない用。なお、過去においては、州民
    による直接選挙ではなく、州議会による選任
    により連邦上院議員が選ばれていたケースも
    あった。
    ⑺一票の格差41.96倍(2006年)㈤
    ⑻格差の特徴
    各州同数・各旧半州同数という定数配分、
    州•旧半州間の人口の差が大きいことの2つ
    の理由で、一票の格差は極めて大きい。
    7 ポーランド
    ⑴選挙制度大選挙区(二人区)単記相対多
    数制、制限連記制(三•四人区)
    ⑵代表制の性格国民代表(47)(憲法第104条)
    ⑶総定数100人
    ⑷ 選挙区定数 大選挙区:40区(定数2〜4人)
    ①2人区:22区、②3人区:16区、
    ③4人区:2区
    ⑸ 定数配分法•選挙区画定法
    総定数100人が各県に配分された後(県人
    口に比例させることを原則として配分される)、
    ①県の区域と完全に重なる選挙区(4選挙
    区(48))と、②県を分割した選挙区(36選挙区)
    に分かれる。県の分割は、県内において上院
    議員1人当たりの人口を均等にさせるという
    原則により行われる。ただし、選挙区定数の
    範囲が2〜4人であること、及び上院選挙区
    の境界が下院選挙区の境界と交差してはなら
    ないことが、法定されている(49)。なお、人
    口は、ポーランド中央統計局(Giowny Urz^d
    Statystyczny, GUS)発表のものを使用する。
    現在の県(wojewodztwo)の数は16であり、
    県は自治体としての地位を有する。県内に
    は、郡(powiat、総数373)、市町村(gmina、
    総数2,489)の2層の自治体が置かれる(50)〇上
    院選挙区は、郡、市町村の境界に沿って形成
    されており、また郡、市町村が複数の上院選
    (44) スイスは、連邦憲法第1条により、26州から成る連邦制国家である。同第161条第1項により、連邦議会議員
    (上下院)は指示に縛られることなく投票するとされ、命令的委任は認められていない。
    (45) 1848年連邦憲法第69条、1874年憲法第80条、2000年憲法[現行]第15 0条第2項。
    (46) チューリッヒ州の議員1人当たりの人口642,026人(1,284,052人+ 2議席)+アッペンツェル・インナーローデン
    州(小選挙区)の人口15,300人。
    (47) ポーランドは単一国家である(憲法第3条)。同第104条第1項により、国会議員は、選挙人の指示に拘束され
    ない(自由委任の原則)。また上院規則第2条により、上院議員は、国家の安寧を考慮し良心に従って行動する
    とされている。
    (48) 第8選挙区ジェロナ・グラ(Zielona G6ra)、第20選挙区オポレ(Opole)、第23選挙区ビアウィストク
    (Biaiystok)、第32選挙区キエルツェ(Kielce)。
    (49) 上下院選挙法(2001年4月12日)第191条第2、3項。
    レファレンス 2008.8
    83
    挙区に分割される事例は存在しない。結局、
    上院選挙区の境界は、自治体である県、郡、
    市町村のいずれの境界とも交差していない。
    下院選挙区と違い上院選挙区については、
    定数再配分又は選挙区画見直し(特定県又は
    特定選挙区の人口が変動した場合、定数配分又は
    選挙区画を変更する趣旨)に関する法規定は存
    在しない。そのため、定数再配分又は選挙区
    画見直しを実施するか否かは、国会の判断に
    任されている⑸>。
    ⑹定数配分規定
    ① 選挙区別定数:
    上下院選挙法(2001年4月12日)別表第2
    ② 県別定数:同第192条第1項
    ③ 選挙区画定の原則(52):
    同第191条、第192条第2、3項
    ⑺定数配分規定の沿革
    ポーランド国会は、第2次世界大戦後の共
    産主義体制下で、一貫して一院制を維持して
    きた。上院設置がなされたのは1989年のこと
    であった。これは、自主管理労働組合「連帯」
    の要求に基づき、政府当局が譲歩し設置され
    たものであった。1989年以降、憲法に、上院
    選挙の原則として、平等選挙の原則が規定さ
    れたことはなかった。一方、下院選挙につい
    ては、1992年憲法第3条第1項、現行の1997
    年憲法第96条第2項で、平等選挙の原則が規
    定された。下院選挙区定数の人口比例原則
    は、これらの規定に根拠を持つ。上院選挙区
    定数の人口比例原則が憲法上規定されないた
    め(50 51 52 53)、1989年上院選挙法では、人口比例に
    よる定数配分はなされなかった。すなわち、
    県(当時49県)が選挙区とされ、人口の多寡
    にかかわらず各選挙区の定数は2名とされた
    (例外はワルシャワ県とカトヴィツェ県の各3名)
    (同法第3条)。なお、連邦制を採用しない単
    一国家のため、県は、「州」のような独立性
    の高い区域ではなく、単なる地方行政区域に
    過ぎなかった。特に1990年の地方制度改革以
    前は、地方「自治」制度も未発達であった。
    その後、1999年の地方制度改革で49県が16
    県に統合され、県は自治体としての地位を付
    与された。また新選挙法として現行の上下院
    選挙法(2001年4月12日)が制定された。上
    院選挙区は人口比例の原則に基づいて形成さ
    れることになった。この人口比例の原則は、
    憲法上の要請ではなく立法政策として採用さ
    れたものである。
    上下院選挙法(2001年4月12日)に関する
    国会審議の過程は、長期にわたり、かつ白熱
    したものであった。各政党の勢力に大きな影
    響を与えるからであった。新上院選挙区につ
    いては、地方制度改革で県の数が大幅に減っ
    たことにより、各政党の選挙結果にどのよう
    な影響が発生するかが、大きな関心を呼ん
    だ。結果的に、この上下院選挙法の内容は、
    極めて党派色が濃いものになった。与党の連
    帯選挙運動(AWS)は、2000年10月の大統領
    選挙の敗北•同党への世論の風当たりの強さ
    を受けて、それまでの立場を転換し、敵対政
    党である民主左翼連合(SLD)が次期総選挙
    で第一党になることを防止するという選挙法
    策定方針を持つに至った。具体的には、大政
    党よりも中小政党に議席配分が有利になるよ
    うな戦略に出た。下院の選挙制度について
    は、選挙区ごとの定数がなるべく多くなるこ
    (50) Janelle Kerlin, “The Political Means and Social Service Ends of Decentralization in Poland, ” 2002, p.25.世界
    銀行ホームページ。人
    ロ比例原則に基づく上院選挙区は、国民の間
    に民主的な選挙区形成として受け入れられて
    いるが、今後、上院の在り方も含めて何らか
    の変化が生じる可能性も残されている。
    ⑻ 一票の格差 1.71倍(2007年)岡。
    ⑼格差の特徴
    人口比例原則を基本にした選挙区画定が行
    われたため、一票の格差は小さい。
    M 制定過程を見ると、上院の定数配分について、種々の案が出ていたことが確認できる。当初、上院は、特別委
    員会での審査を経て、選挙区定数については大きな変更を行わない(48選挙区は定数各2人、ワルシャワ選挙区
    だけは4人)という案に至っていたが、下院の賛同を得られず、この案は採用されなかった。その後、上院の選
    挙区制を小選挙区(定数=1人)を中心にするという案も、与野党双方の一部の上院議員により提案されたが、
    これも採用されなかった。上下院の総選挙執行が迫っていたことも背景となり、最終的に現行の定数配分に落ち
    付いた。現行の上下院選挙法(2001年4月12日)の制度は、与党に有利であったため、野党に属している大統領
    が、憲法第122条に基づく法案拒否権を行使する可能性も取り沙汰されたが、結局、大統領は拒否権を行使しな
    力、った。George Sanford, Democratic government in Poland: constitutional politics since 1989, Houndmills: Pal-
    grave Macmillan, 2002, pp.175, 188.またポーランド上院事務局への問合せによる(2008.6.20 Biuro Informacji i
    Dokumentacj i所属の Danuta Malgorzata Korzeniowska 氏からEメールで回答を得た)。
    F. Millard, “Elections in Poland 2001: electoral manipulation and party upheaval,” Communist and Post-Com-
    munist Studies, v01.36 no.1, March 2003, pp.69-70; Yonhyok Choe et al., ed., Sweden and Poland from a Europe-
    an Perspective: Some Aspects on the Integration Process (Sodertorns hogskola Research Reports 1/2003),
    pp.158-163. (www.diva-portal.org/diva/getDocument7urn_nbn_se_sh_diva-40-1__fulltext.pdf>
    新選挙法に基づく初めての総選挙であった2001年9月23日上下院総選挙の結果を見ると、恣意的と評される新
    制度の下でも、与党は惨敗している。上院選挙の結果は、民主左翼連合75議席(47議席増)に対し、与党の流れ
    を汲む「ブロック上院2001」は14議席(50議席減)にとどまった。もし、2001年以前の上院選挙制度(完全連記制)
    及び定数配分(47の2人区と、2の3人区)のまま上院選挙が行われたと仮定すると、与党の獲得議席は、更に
    少なかった可能性がある。
    (56)ポーランド全国選挙局(Krajowe Biuro Wyborcze)への問合せによる(2007.9.13.同局顧問のHenryk Bielski
    氏からEメールで回答を得た)。
    就 阿部照哉・畑博行編『世界の憲法集(第3版)』有信堂高文社,2005, p.444; “President defends existence of
    Polish second chamber, ” BBC Monitoring European (Political),October 20, 2001, p.1; “Poland: Labour Union
    wants Senate abolished, ” BBC Monitoring European (Political),April 27, 2002, p.1.(いずれも ProQuest News-
    stand Complete databas eより).
    レファレンス 2008.8
    85
    8 チェコ
    ⑴選挙制度小選挙区2回投票制
    ⑵代表制の性格国民代表58 (59)
    (憲法第23条第3項、第26条)
    ⑶総定数81人
    ⑷ 選挙区定数 小選挙区:81区(2年ごとに
    3分の1の選挙区につき改選、上院選挙執行時に
    選挙がある選挙区とない選挙区に分かれる)
    ⑸選挙区画定法
    ⑴選挙区画定の原則
    選挙区は、①憲法第18条第2項に規定さ
    れる、上院選挙における「平等な選挙権」
    の原則、②憲法第3条で憲法秩序の一部を
    形成するとされる「基本的権利及び自由の
    憲章」の第21条第3項に規定される、「平
    等な選挙権」の原則に従って形成される。
    チェコでは、「平等な選挙権」の原則が、
    上院選挙における「選挙区間の人口均等」
    を要請すると解釈されている。従って、上
    院の選挙区は、行政区画の尊重の原則に
    従って形成されるものの、「選挙区間の人
    口均等」の要請の方が上位に立つ基準と
    なっており、行政区画と一致しない選挙区
    も見られる(60)〇
    (il)具体的な選挙区画定法
    第一に、選挙区画定案の作成と、法律化
    の主体は、議会(上院・下院)である。第
    二に、上院選挙が執行される年の1月1日
    時点の各選挙区の人口が、上院議員1人当
    たりの平均人口(全国人口 [同時点のもの]
  • 81議員、人口基数[population quota])と
    比べて、15%以上多くなったり又は少なく
    なったりした場合、選挙区画の見直しをし
    (58) {第40選挙区(シュチェチン[Szczecin]選挙区)の議員1人当たりの人口517,094人(1,034,188人+ 2議席)} + {第
    27選挙区(チェンストホーヴァ[Czestochowa]選挙区)の議員1人当たりの人口301,850人(603,700人+2議席)}。
    (59) チェコは連邦制国家ではなく、上院も地域代表として組織されたものではない(Jan Kysela, “Bicameralism in
    the Czech Republic: Reasons, Functions, Perspectives” チェ コ上院英語ホームページ)。
    憲法第26条により、上下院議員は、その職責を個人として宣誓に従って行使し、その際、いかなる指示にも拘
    束されない。同第23条第3項により、上下院議員の宣誓は以下のとおりである。「•••全人民の利益のために自ら
    の最高の見識と良識をもって、自己の職務を遂行することを誓う。」
    (60) 地方行政区画と選挙区画の関係について
    チェコの地方行政区域は、次のとおり。①「首都(プラハ市)と13の県(kraj)J〇自治体。②77の「郡(okres)」。
    自治体ではない。プラハ市は市全体が郡の区域。③6,254 (2003年9月)の「市町村(obec)」。基礎的自治体。大
    都市の場合、「区(mをstskA 8st)」が基礎的自治体として置かれることがある。④「市町村」、「区」が複数の「小
    区(cast obce) Jに分かれる場合がある。小区は自治体ではない。小区の数は数万。⑤首都のプラハ市は、22の「統
    合管理区(spravni obvod)」に分かれる。更に57の「区(m&tska CAst)」に分かれる。統合管理区は自治体では
    ない。区は基礎的自治体。区は複数の「小区(CAst obce)」に分かれる場合がある。
    ① の14の自治体区域(県レベルの区域):
    ほとんどの上院選挙区(81.5%」が、区域内部に形成されている(区域と完全に一致する事例はない)。15の上
    院選挙区(18.5%。は、2つの「①の自治体区域(県レベルの区域)」にまたがっている。
    ② の郡の区域:38の上院選挙区(46.9%」が、郡の区域と完全に一致して又は郡の区域の内部に、形成されて
    いる。43の上院選挙区(53.1%」は、2つ以上の郡にまたがっている。
    ③ の市町村・区の区域:
    上院選挙区が、市町村・区の境界線に沿って形成されている。例外は、首都のプラハ市内の上院選挙区(後述)。
    ④ の小区の区域:
    上院選挙区が、小区の境界線に沿って形成されている。例外は、首都のプラハ市内の上院選挙区(後述)。
    首都のプラハ市については、市の区域が10の上院選挙区に分割されており、いわゆる「分区」された事例であ
    る。プラハ市では、統合管理区、区、小区が、複数の上院選挙区に分割された事例が見られる。
    ⑴統合管理区:8つの統合管理区(36.4%。は、複数の選挙区に分割されている。
    i 区:例外的に区が分割されるケースも存在する。ただし4つの区(7%」に限られる。
    価)小区:例外的に小区が分割されるケースも存在する。ただし2つの小区に限られる。
    86 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    なければならない。見直しは、当該年中に
    行わなければならない(チェコ国会選挙法
    第59条第2項、第9?条)。第三に、第二に述
    べたごとく、選挙法の要請に基づき選挙区
    画見直しが行われることが基本であるた
    め、政治的な介入が難しいと言われる。た
    だし、選挙区の詳細な分析からゲリマン
    ダーの可能性を指摘する学説もチェコ国内
    には存在している(61)〇第四に、各選挙区
    の人口は、チェコ統計局(Cesky statisticky
    urad [CSU])が監視の義務を負う。同局は、
    第二に挙げた条件(15%以上の過多過少)が
    確認された場合、チェコ国会に通知する義
    務も負う。第五に、選挙区画定の基準は、
    第一順位が「人口均等」であり、第二順位
    以下で次の諸要素が考慮される。すなわち
    「行政区画の尊重」「人口密度の考慮」「現
    行の上院選挙区画の尊重」「財政上・行政
    管理上の配慮(選挙執行が現実に可能である
    こと等)」「交通・通信の便への配慮」である。
    ⑹選挙区画定規定
    ① 小選挙区数・人口偏差による区画是正義
    務に関する規定:国会選挙法第59条
    ② 小選挙区の一覧:同法別表第3
    ⑺選挙区画定規定の沿革
    チェコの上院は、東欧民主化とその後の
    チェコスロバキア解体を経て、1993年から施
    行された現行憲法に、その根拠を持ってい
    る。チェコ上院選挙が初めて行われたのは、
    1996年のことである。憲法及び国会選挙法の
    起草の段階で、上院議員の選任については、
    地域代表としないこと、間接選挙や任命制を
    採用しないことが共通認識となり、直接選挙
    によることとなった。チェコでは、オースト
    リア・ハンガリー帝国時代の民族対立の経
    験、チェコスロバキアの解体という歴史的経
    験が存在し、現在でもボヘミア、モラヴィ
    ァ、シレジアという歴史的地域が鼎立するこ
    とから(61 62)、地域代表の採用は、地域・民族
    間の対立を発生させる可能性があると考えら
    れている。間接選挙や任命制も、現代では通
    例、地域を基盤とした制度になることが多い
    ため、これらの可能性も否定された。
    このように地域を基盤とした選任制度に対
    する警戒感が存在する一方で、諸政党の持つ
    様々な考え方・利害の間の調整が図られ(63>、
    最終的に憲法第18条第2項に規定される、上
    院選挙における「平等な選挙権」の原則が重
    視されるようになった。この結果、現行の国
    会選挙法のとおり、上院の選挙区画定法につ
    (61) Jana Bittnerova, “PROHLASENI: Prohlasuji, ze jsem diplomovou praci vypracovala samostatne a vyhradne s
    pouzitim citovanych pramenu: V Plzni dne 24.5.2005” 西ボヘミア大学ホームページ
    (62) Petr Kopecky,Parliaments in the Czech and Slovak republics: party competition and parliamentary
    institutionalization, Aldershot: Ashgate, 2001, p.40.
    (63) ibid., pp.41-45, 52.またチェコ国会事務局への問合せによる(2008.5.29. 一般調査課長のStepan Pechacek博士か
    らEメールで回答を得た)。
    現行憲法で上院が設置された理由としては、次のものが挙げられる。①下院の立法の精査・修正。②下院の選
    挙結果に大きな変動が発生した場合の政策の継続性を確保(特に、下院選挙で左翼政党が勝利した場合に政策の
    継続性が確保したいとの意向が、中道右派政権側にあった)。③経済学者のフリードリッヒ・ハイエク(1899~
    1992年)の二院制論の影響(特に市民民主連合[ODA、小規模な保守政党]がハイエクの二院制論から影響を受
    けて上院の設置を強く求めた。同連合の主張は、現行憲法制定過程における最初の二院制導入論であった)。
    ④チェコスロバキア第一共和国時代(1918~1938年)の上院の存在の影響。①〜④のいずれも「地域代表制」を
    支持する理由ではなかった。
    1992年に現行憲法が制定されてから、上院選挙制度(定数配分•選挙区画定規定を含む)が1995年に国会選挙
    法で定められるまでの間、様々な議論がなされた。憲法改正による上院廃止論が一部から出されたり、同一政党
    内でも意見が分かれるなど、議論は複雑なものであった。最終的に、憲法第18条第2項に規定される上院選挙に
    おける「平等な選挙権」の原則が重視され、厳格な人口均等原則が採用された。
    レファレンス 2008.8
    8?
    いては、人口均等原則が最優先とされた(64) 65 66 *〇
    以上のような歴史的沿革を持つ上院選挙区
    画であるが、チェコでも一部に、上院を地域
    代表とすべきという議論が存在している。上
    院改革の議論は、様々な角度からなされてお
    り、その一つとして上院地域代表論が挙げら
    れている。しかし現状では、この種の見解が
    実際に採用される可能性は乏しい岡。
    ⑻ 一票の格差 1.39 倍(2002、2004、2006年)66>。
    ⑼格差の特徴
    人口偏差による区画是正義務が選挙法に規
    定されるため、一票の格差はかなり小さい。
    9 メキシコ
    ⑴選挙制度大選挙区比例代表並立制
    ⑵代表制の性格
    元来は州代表、現在その性格を弱めてい
    る(67>(連邦憲法第56条)
    ⑶総定数128人
    ⑷選挙区定数
    ①大選挙区:32区
    (定数3人、31州と連邦特別区[首都]の単位)
    ②比例区:1区(定数32人、全国単位)
    ⑸定数配分規定連邦憲法第56条
    ⑹定数配分規定の沿革
    メキシコ最初の共和政憲法と呼ばれる1824
    年連邦の憲法的法律(Acta Constitutiva de la
    Federacion de1824)第12条、またメキシコ最
    初の本格的憲法である1824年憲法(Consti-
    tucion de1824)第25条は、各州2人から成る
    上院を規定した。1824年憲法は、二院制等の
    政治制度についてアメリカ合衆国憲法の影響
    を多大に受けた。1874年に、一旦廃止されて
    いた上院が復活した時にも、各州同数の議員
    から成る上院とされた。
    現行の1917年連邦憲法第56条も、当初は、
    州と連邦特別(直轄)区から2人ずつ上院議
    員を選出することとしていた(半数改選のた
    め、各選挙区は選挙時に小選挙区となる)。1993
    年に総定数が128名に増加し、32大選挙区(州
    及び連邦特別区)で4名ずつ選出することに
    なった(半数改選は廃止)。以後1996年に比例
    (64) 選挙区制において小選挙区(定数=1人)を採用した点については、結局のところ地域代表制と同じことになっ
    てしまったと否定的に見る政治家も、存在している。実際、上院議員には市長経験者、地方議員経験者が多くお
    り、地方の観点から審議が行われることも多いことが、この見解を実証的に裏付けているとの指摘もある。しか
    し通常、チェコで地域代表制という言葉から想起されるエリアは、もっと広いエリア(例えばモラヴィア地域、
    シレジア地域等)であり、通説的には、現在の上院選挙制度は、地域代表制によるものではなく、チェコ上院も
    地域代表の議院ではないとされている。(Kopecky, op.cit.^, p.40; Kysela, opct(59))
    (65) Kysela, op. cit. 9
    (66) {第41選挙区(ベネショフ[Benesov]選挙区)の2006年第1回投票における登録有権者数120,255人け|第70選
    挙区(オストラヴァ・メスト】Ostrava-mesto]選挙区)の2004年第1回投票における登録有権者数86,528人}。
    3分の1ずつ改選されるため、登録有権者数の基準年は複数年にわたる。
    銘 メキシコは、連邦憲法第40、43条により、31州及び1連邦特別(直轄)区[首都]から成る連邦制国家である。
    メキシコの連邦制の特徴は、州の存在を認めながら、一方で中央集権的な要素が大幅に導入されていることであ
    る。
    メキシコの上院議員の代表制の性格に関しては、以下の歴史的経緯を確認できる。
    1824年連邦の憲法的法律、及び1824年憲法の時代の上院議員は、州代表であった。現行の1917年連邦憲法の制
    定当初、上院議員は、州又は連邦特別区の代表(dos miembros por cada Estado y dos por el Distrito Federal)
    とされた。また州議会が当選を宣言した。1993年からは、当選の宣言は選挙管理機関が行うことになった。1996
    年に現行制度となり、新たに連邦選挙委員会が設けられた。同委員会が当選の宣言を行うことになった。
    ①州及び連邦特別区「において(en cada Estado y en el Distrito Federal))選出される、又は単一の全国単位
    大選挙区「において(en una sola circunscripcion plurinominal nacional))選出される(比例区のこと)と、連
    邦憲法で規定される点(第56条)、②当選の宣言に州議会が関与しない点を考える合わせると、現在の上院議員
    は、州代表の性格を大幅に弱めている。
    上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等との関係は自由委任と解されている。
    88 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    区が設けられるまで、メキシコでは各州・各
    連邦特別区同数の議員によって上院を構成し
    てきた。このようにメキシコでは、州や連邦
    特別区を単位として上院議員を選任するケー
    スでは、これらの区域の定数が同数とされる
    ことが慣例である。
    ⑺一票の格差27.35倍(2005年)6紛。
    ⑻格差の特徴
    各州・連邦特別区が同数という定数配分、
    州・連邦特別区間の人口の差が大きいことの
    2つの理由で、一票の格差は極めて大きい。
    m 間接選挙を中心とした国々
    1フランス
    ⑴選挙制度
    ① 複選制的
    ② 選挙人団による選挙:
    完全連記2回投票制、小選挙区2回投票
    制、拘束名簿式比例代表制
    ⑵代表制の性格
    地方公共団体(地域共同体とも訳される)の
    代表が保障される。また、国外のフランス人
    も代表される68 69 (70)〇 (憲法第24条第3項)
    ⑶総定数348人
    (3年ごとに半数改選、在外選挙区を除き選挙執
    行時に上院選挙がある選挙区とない選挙区に分か
    れる、2008年7月時点では331人であるが2011年
    までに段階的に348人へ増員する)
    ⑷選挙区定数
    ① 本土にある選挙区:
    96区(総数315人、定数1〜12人、県単位)
    ② 海外の領土にある選挙区:
    11区(総数21人、定数1〜4人、海外県・
    海外共同体又は特別共同体の単位)
    ③ 在外選挙区:1区(総数12人、3年ごとに
    半数改選のため改選時の定数は6人)(71)
    ⑸定数配分規定
    憲法第25条第1項は、国会の各議院の構成
    員の定数を組織法律(Loi organique)で定め
    ると規定している。具体的には、総定数の増
    加・減少を伴う場合は、必ず組織法律で規定
    される。一方、県別の定数配分は、総定数に
    関係のない「配分」に関する事項とされ、通
    常法律(Loi ordinaire)で規定される。
    現行のフランス選挙法は、以下の定数規
    定・定数配分規定を有している。
    ① 本土選挙区・海外県選挙区の合計議席数
    (68) メヒコ州人口14,007,495人+バハ•カリフォルニア・スル州人口512,170人。なお、比例区(全国単位)におけ
    る議員1人当たりの人口は、3,226,980.88人(103,263,388人+32議席)である。この数値は、両州の議員1人当た
    りの人口の中間に位置する。
    (69) 間接選挙の基本的枠組み
    上院選挙区のエリアから選挙された下院議員•地方議員(又は、その代表)が、各上院選挙区で選挙人団を形
    成する。上院選挙区を単位として、この選挙人団が選挙を行い上院議員が選出される。約150,000人の選挙人団の
    約95%は、市町村議会議員又はその代表である。例外として、在外選挙区では、在外フランス人議会の中の公選
    議員が選挙人団を形成する。
    (70) フランスには、州(region)と呼ばれる地方行政区画が存在するが、州は地方公共団体の1つであり、フラン
    スは単一国家である。「地方公共団体」(憲法第24条第3項)には、海外県・海外共同体・特別共同体も含まれる(憲
    法第72条、第72条の3)。
    「地方公共団体の代表の保障」との規定は、個々の地方公共団体が直接にその代表を上院に送ることを意味す
    るわけではない。上院が、地方公共団体を総体として代表することを意味すると一般に解されている(山崎栄一
    「フランスにおける地方分権の動向⑹」『地方自治』661号,2002.12, p.74.)。本規定は、上院議員選挙の選挙人団(有
    権者)が、本質的に審議機関(地方議会)から構成されなければならないことを導くとされており(只野雅人「不
    可分の共和国とフランス元老院ー『地域代表』の観念をめぐって」『法律時報』73巻2号,2001.2, p.89.)、現在、県・
    海外県・海外共同体・特別共同体の市町村議会議員等が、同様に選挙人団(上院議員選挙人)を形成している。
    憲法第27条第1項は、国会議員に対する命令的委任を無効とし、同条第2項は国会議員の表決権は一身専属的
    としている。このことから、フランスの国会議員は、自由委任の原則の下にあることが分かる。
    (71) 「⑷選挙区定数」において、総数及び定数として掲げられる数は、2011年の増員終了後の数字である。
    レファレンス 2008.8
    89
    (326議席、選挙法典LO•第274条)【定数規定】
    ② サン・ピエール•エ・ミクロン選挙区(定
    数)(同LO•第334-2条)
    【定数増を発生させた規定】
    ③ マイヨット選挙区(定数)(同LO•第334-
    14-1条)【定数増を発生させた規定】
    ④ ニュー・カレドニア選挙区、フランス領
    ポリネシア選挙区、ワリス・エ・フツナ諸
    島選挙区(各定数)(同LO•第438-1条)
    【定数増を発生させた規定】
    ⑤ サン・バルテルミー選挙区(定数)(同
    LO•第500条)【定数増を発生させた規定】
    ⑥ サン・マルタン選挙区(定数)(同LO・第
    527条)【定数増を発生させた規定】
    ⑦ 在外選挙区全体(国外在住フランス人の上
    院代表に関する1983年6月17日の組織法律第
    83-499号第1条)【定数増を発生させた規定】
    本土各選挙区•海外県各選挙区の定数は、
    通常法律で規定される(選挙法典L第279条に
    付される別表第6。本別表は、2003年7月30日法
    律第2003-697号で挿入)。
    ⑹定数配分規定の沿革
    フランス上院の選挙区別定数配分に関して
    は、1948年以来慣例となっている計算法が存
    在する。この計算法は、憲法又は法律に直接
    的に規定されたものではないが、新規定数配
    分やその後の定数是正で、慣例として使用さ
    れている。すなわち、①県相当の地方公共団
    体エリアごとに、人口150,000人(或いは
    154,000人(72))までについて、まず1議席を配
    分する、②それを超える人口を持つエリアに
    は、150,001人〜400,000人までにつき1議席
    追加、400,001人〜650,000人までにつき更に
    1議席追加というように、(150,000人を超えた
    ら次の)250,000人までごとに1議席ずつ追加
    していく方式が、慣例である。実際に、2003
    年の定数是正、その前(1976年)の定数是正
    でも、この計算法が用いられている(72 73>。
    2003年の定数是正では、直近の1999年国勢
    調査人口を基本として、この計算法に従って
    定数配分を行っている。ただし、クルーズ県
    とパリ県は近年人口が減り続けている県で、
    慣例になっている計算法に従えば、各々1議
    席、9議席になるはずである^ミ、2議席、12
    議席と以前と同じ定数が維持されている。
    2003年の定数是正では、定数が減った県相当
    の地方公共団体エリアは1つも存在せず、増
    員のみが行われている。
    第五共和制成立以降、上院総定数は、フラ
    ンスから独立した国が現れて減員になった
    ケースを除き、ほぼ一貫して増えてきてい
    る。定数是正は、1976年、2003年の2回行わ
    れているが、いずれも「総定数増・減員選挙区
    なし」で対応している。(2008年7月21日に可決
    の憲法改正で上院総定数上限が348人になった)
    ⑺一票の格差•定数格差
    ①選挙人団(上院議員選挙人)に関するー
    票の格差(在外選挙区を含む)
    35.27倍 (1998、2001、2004年。2003年定数
    是正前[総定数321人])74>。
    30.93倍 (1998、2001、2004年。2003年定数
    是正後[総定数348人])75>。
    (72) 1948年の議席配分では154,000人が使われた。
    (73) 2000年の定数是正案(廃案になった)でも、この慣例が用いられている。
    (74) オワーズ県の上院議員1人当たりの上院議員選挙人740.67人(2,222人[2001年選挙時の上院議員選挙人実数]+
    定数3議席)+ワリス・エ・フツナ海外共同体の上院議員1人当たりの上院議員選挙人数21人(21人[1998年選
    挙時の上院議員選挙人実数]+定数1議席)。
    (75) ドルドーニュ県の上院議員1人当たりの上院議員選挙人649.5人(1,299人[1998年選挙時の上院議員選挙人実数]
    +定数2議席)+ワリス・エ・フツナ海外共同体の上院議員1人当たりの上院議員選挙人数21人(21人[1998年
    選挙時の上院議員選挙人実数]+定数1議席)。
    2008年に初めて上院議員選挙が行われる新設のサン・バルテルミー選挙区(定数1人)、サン・マルタン選挙
    区(定数1人)は、比較の対象から外した。
    90 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    ② 選挙区となる区域(県•海外県•海外共同
    体・特別共同体•在外選挙区)の人口格差
    52.38倍(主に2006年。2003年定数是正前[総
    定数321人])(76 77 78 79>。
    39.29倍(主に2006年。2003年定数是正後[総
    定数348人])”。
    ⑻格差の特徴
    慣例となっている定数配分計算法に従え
    ば、人口の極めて少ない海外共同体(COM)
    にも1議席が配分されるため、格差は極めて
    大きい。
    ・フランス上院の人口格差に関する憲法論議
    フランスでは、次のような憲法論議がな
    されている。
    憲法第24条第3項の上院における「地方
    公共団体の代表の保障」の原則は、しばし
    ば憲法上の争点として取り上げられてき
    た物。それは、「地方公共団体の代表の保
    障」と、選挙における人口比例原則をいか
    に調和させるかが、容易ではないことを背
    景にしている。1789年フランス人権宣言第
    6条及び憲法第3条第3項は、選挙権の平
    等を保障し、上院議員選挙でも人口比例の
    原則が適用されるべきことを要請してい
    る、と解釈されている。上院が「地方公共
    団体の代表」でありながら、同時に人口比
    例に基づく上院選挙を実現するには、どう
    すれば良いのかが、第五共和制憲法制定以
    来のテーマになっている。
    また、憲法第1条では、単ーで不可分な
    共和国(une republique indivisible)として
    フランスが位置付けられている。「不可分」
    という言葉は、憲法の平等原則と呼応し
    て、フランス国民の間の差異化を否定し、
    主権者として均一な国民の存在しか認めな
    いもの、と解釈されている㈣。そのた
    め、やはり選挙での人口比例原則が求めら
    れることになる。この点からも、「地方公
    共団体の代表の保障」原則と人口比例原則
    の間の調整が、問題になっている。
    一方、現実政治の側面からの批判も見ら
    れる。現行の上院選挙制度(定数配分を含
    む)が、農村部に基盤を有する保守・中道
    勢力に有利に働いており、左翼勢力から
    は、上院が「民主主義諸国の間では異例」
    「保守的上院の残寸宰」(『ル・モンド』紙にお
    けるジョスパン首相の発言(80))との手厳しい
    批判も提起されている。これに対し、小規
    模市町村を優遇する制度を、一種のア
    ファーマティブ・アクション(積極的差別
    是正措置)として理解することもできると
    いう立場も存在している。
    実際に、2003年の定数是正を例にして、
    上院の「地方公共団体の代表」の性格が、
    定数配分でどのように具体化されたか、見
    てみたい。
    在外フランス人も含めたフランスの総人
    口は、約65,000,000人である。その中で、
    上院定数配分上、県に相当する人口最少の
    (76) エロー県の上院議員1人当たりの人口330,832.33人(992,497人+ 3議席)+サン・ピエール・エ・ミクロン海外
    共同体の上院議員1人当たりの人口 6,316人(6,316人+1議席)。
    サン・バルテルミー選挙区、サン・マルタン選挙区は、比較の対象から外した。
    (77) エロー県の上院議員1人当たりの人口248,124.25人(992,497人+4議席)+サン・ピエール・エ・ミクロン海外
    共同体の上院議員1人当たりの人口 6,316人(6,316人+1議席)。
    サン・バルテルミー選挙区、サン・マルタン選挙区も、比較の対象とした。これに合わせて、海外県グアドルー
    プの人口から、サン・バルテルミー及びサン・マルタンの人口を除いて計算。
    (78) 大山礼子『フランスの政治制度』東信堂,2006, pp.19, 24, 82-83,154,162-165;大山礼子「元老院議員選挙におけ
    る選挙権の平等」『フランスの憲法判例』信山社,2002, pp.272-277;只野 前掲注(70), pp.88-91.
    (79) 山崎榮一『フランスの憲法改正と地方分権ージロンダンの復権』日本評論社,2006, p.59.
    M “Lionel Jospin donne la priorite a ses choix economiques et sociaux, ” Le Monde, 21 avril 1998 (Factiva.com
    databas eより).
    レファレンス 2008.8
    91
    地方公共団体は、サン・ピエール・エ・ミ
    クロン海外共同体(6,316人、2004年)であ
    る⑶)。仮に、県相当のすべての地方公共
    団体エリアで最低1人の上院議員の選出を
    認め、同時に人口比例に基づく定数配分を
    徹底すれば、上院の総定数は、10,000人以
    上になる(65,000,000人+6,316人/議席)。こ
    れでは、議院の適正規模を超えてしまう。
    県相当の地方公共団体エリアへの最低1議
    席配分制を認め、上院総定数を350人程度
    とすれば、3 0倍台という人口格差は、格差
    がかなり縮められた結果と判断することも
    可能である。実際に憲法院は、2003年の定
    数是正につき、無視できない不均衡を残す
    ものの、それでもなお不均衡の縮小は目に
    見える著しい結果が出ていると判断し、違
    憲ではない旨の裁決を行った岡。
    注意を要するのは、別の裁決において憲
    法院が、人口変動が生じているにもかかわ
    らず長期にわたって定数是正をしないこと
    に対しては、問題視していることである。
    すなわち、1789年フランス人権宣言第6条
    及び憲法第3、24条後>を併せて考えるな
    らば、立法者は、地方公共団体の人口増減
    を考慮して各県への定数配分を見直すべき
    であると判示している陽。この裁決は、
    1976年から四半世紀にわたり上院の定数是
    正が行われなかったことを受けている。
    2 オランダ
    ⑴選挙制度
    ① 複選制衝:
    ② 選挙人団による選挙:
    非拘束名簿式比例代表制
    ⑵代表制の性格国民代表岡(憲法第50条)
    ⑶総定数75人
    (4)選挙区(候補者名簿提出単位)の定数
    大選挙区:12区
    (選挙区ごとの定数は定められていない、州単位)
    ⑸ 選挙区・「投票価値」に関する規定
    ① 選挙区(候補者名簿提出単位)の区域に関
    する規定:1989年選挙法R1条等
    ② 「投票価値」に関する規定:同法U2条
    回2003年の定数是正では、海外の領土である海外県・海外共同体・特別共同体のいずれについても、同じ基準を
    用いて定数配分計算がなされている。このことは、2003年3月28日の憲法改正で、「フランス人民の中に海外住
    民が存在することを承認する」(第72条の3第1項)との規定が挿入されたことから考えると、妥当なことと考
    えられる。
    (82) 2003年 7 月 24 日憲法院裁決(Decision n° 2003-475 DC du 24 juillet 2003, Decision n° 2003-476 DC du 24 juillet
    2003)〇
    (83) 1789年フランス人権宣言第6条及び憲法第3条第3項は、選挙権の平等を保障し、人口比例の原則が選挙で適
    用されるべきことを要請している、と解釈されている。
    組 2000年 7 月 6 日憲法院裁決(Decision n° 2000-431 DC du 6 juillet 2000) 〇
    (85) 間接選挙の基本的枠組み
    全国総数564人(2007年)の州議会議員(全12州)が、選挙人団を形成する。各州内で行われる選挙人団の投
    票結果が全国レベルで合算・集計され、(全国レベルで)政党への議席配分がなされる。その後、各政党の獲得
    議席は、選挙区ごとの政党名簿に対して振り分けられ、当選者が決定される。議席配分方法、当選人決定方法
    は、下院議員選挙とほぼ同じである(三輪和宏「諸外国の下院の選挙制度(資料)」『レファレンス』671号,2006.12,
    pp.75-76参照)。ただし、1989年選挙法U2条に基づき、全国集計の際に、選挙人団が投じた各票には、州ごとに
    決められる「投票価値(Stemwaarde)」が乗じられる。「投票価値」は、選挙人団の投じる1票の価値を、州人
    口に比例させるように調整することを目的とした係数である。
    「投票価値」は、”選挙年の1月1日付け人口 [州単位])+(州議会議員数X100)!の商を四捨五入して整数とし
    た値である。
    (86) オランダは分権的統一国家とされ、単一国家である。12の州が存在するものの、我が国の都道府県に相当する
    ものと言われる。憲法第67条第3項により、国会議員は、表決において委任又は指示に拘束されないと規定され
    る。このため、オランダの国会議員は、自由委任の原則の下にあることが分かる。
    92
    レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    ⑹選挙区規定等の沿革(87) *
    1815年に上院が創設されて以来、オランダ
    では、上院議員は国王による終身議員の任命
    という形で選任されていた(1815年憲法第80
    条)。この時期の上院は、貴族・名士の代表
    機関であった。
    その後1848年に、国王ではなく、州議会に
    よる選任という形に制度が変更された。この
    当時は、州別定数が定まっていた(各州:1
    〜7議席)。例えば人口の少ないドレンテ州
    は1議席、人口の多い南ホラント州は7議席
    であった(1848年憲法第78条)。州別定数配分
    においては、一定の州人口比例原則が保たれ
    ていた。
    1923年には、すべての州を4つのグループ
    (1グループは1〜4州から形成された)に分
    け、グループを単位として州議会議員が間接
    選挙を行うという制度が採られた。グループ
    ごとの定数は、当初は12〜13議席であり、
    1956年以降は17〜21議席であった。この新制
    度の下では、上院議員選挙人(州議会議員)
    が投じる1票の価値を、州人口に比例させる
    ため、各票に乗じる調整係数として「投票価
    値(Stemwaarde)」の制度が採用された。そ
    の後1987年以降は、グループごとの定数は廃
    止された。すなわち、グループや州ごとの定
    数を定めないで、全国集計を行い各政党の獲
    得議席数を決定する制度が採用された(ただ
    し候補者名簿提出単位は州ごとである)。また
    「投票価値」の制度は、引き続き用いられる
    ことになった。
    なお、1923年以降に見られる、グループ別
    定数配分(或いは、グループや州ごとの定数が
    存在しないこと)、「投票価値」の制度につい
    ては、憲法で定められておらず、法律以下の
    レベルで定められている岡。
    オランダの上院議員は、1848年以降、州議
    会による選任、州議会議員による間接選挙と
    いう形態で選ばれてきた。しかし、各州同数
    の議員から成る上院という構成は一貫して採
    用されなかった。むしろ、1848年当時から、
    一定の州人口比例原則が採用されてきた。こ
    の1つの理由は、上院議員における代表制の
    性格に求めることができよう。上院議員は、
    上院創設当時から一貫して、全オランダ国民
    を代表する性格を与えられてきた(89)〇州代
    表としての明確な役割を期待されない上院議
    員について、小州への配慮等の理由で、各州
    同数の定数配分とする積極的根拠•意義は存
    在していないと考えられる。
    もう1つの理由は、オランダの社会・政
    治・選挙の在り方に求めることができよう。
    オランダの社会は、19世紀の末ごろから近年
    まで柱状社会(verzuiling)と呼ばれる在り方
    を特徴にしてきた。柱状社会とは、カトリッ
    ク、プロテスタント、自由主義派、社会民主
    主義派という、主として4つのグループ(柱
    [zuil])が社会の基盤をなしている状態を指
    す言葉である。オランダでは、これらの柱グ
    ループが、平等と寛容の原則の下で、多様性
    を認めつつ協議し合意形成をしていく政治シ
    ステムが長らく取られてきた。
    選挙制度の面でも、国民間の平等が重視さ
    れてきた。下院と地方議会では1917年から、
    上院では1922年から比例代表制が導入されて
    いる。現在でも、国政選挙から地方議会選挙
    まで、すべて比例代表制である(憲法第53条
    第1項、第129条第2項)。現在の比例代表制の
    仕組みを見ると、投票は全域(全国、全州等)
    で集計され、全域レベルで政党への議席配分
    87)“Eerste Kamerverkiezingen” “Geschiedenis Eerste Kamer” オラ ンダ上院ホーム ペーン
    随1917年憲法第82条、1953年憲法第85条、1983年憲法及び現行憲法第53. 55条。(法律への委任規定等)
    89)1815年憲法第77条、1840年憲法第79条、1948年憲法第74条、1917年憲法第78条、1983年憲法及び現行憲法第50条。
    レファレンス 2008.8
    93
    がなされている。この全域集計の存在の故
    に、オランダの選挙制度の特徴の1つは、
    「地域代表の欠如(absence of geographical
    representation)」であると言われる。上院選
    挙の実態を見ても、主要な政党においては、
    州別候補者名簿を全国レベルで調製し、それ
    を同政党の州議会議員(上院議員選挙人)に
    提供している。投票の段階でも、個々の州議
    会議員の判断は差し挟まれずに、政党の指示
    に従って投票がなされることが多い(90)〇こ
    のような社会•政治•選挙の在り方の下では、
    人口格差が大きくなり不平等を生む定数配分
    は、排除されることになろう。
    ⑺一票の格差•人口格差
    ① 上院議員選挙人(州議会議員)に関する
    一票の格差
    6.54倍(200?年)90 91>。
    ② 選挙区(州)人口に関する格差
    1.01倍(200?年)92>。
    ⑻格差の特徴
    上院選挙での1票には「投票価値(Stem-
    waarde)」が乗じられるため、上院議員選挙
    人(州議会議員)の一票の格差は大きいが、
    選挙区(州)人口に関する格差は、ほぼ消滅
    している。この手法は、間接選挙を採用しな
    がら、同時に人口格差をなくすことに成功し
    ており注目される。「投票価値」を用いた計
    算方法を取ることは、憲法では規定されてお
    らず、憲法第59条により選挙法に委任されて
    いる。
    3 アイルランド
    ⑴選挙・任命の制度
    ① 複選制、直接選挙、任命制の混合型(93>
    ② (複選制における)選挙人団による選挙・
    直接選挙の選挙制度:
    単記移譲式比例代表制
    ⑵代表制の性格
    職能代表制を中心とした混合型(大学選挙
    区代表・任命議員との混合)(94>(憲法第18条)
    ⑶総定数60人
    ⑷選挙区定数等
    ⑴職業別候補者名簿選挙区(複選制):
    1区(総数43人)
    ・名簿(95>ごとの定数は次のとおりである
    (各々、全国単位)
    ① 文化・教育分野の名簿からの選出議
    員:5人
    ② 農林水産分野の名簿からの選出議員:
    11人
    ③ 労働分野の名簿からの選出議員:11人
    ④ 産業・商業分野の名簿からの選出議
    (90) Rudy B. Andeweg and Galen A. Irwin, Governance and politics of the Netherlands, 2nd ed., Houndmills: Pal-
    grave Macmillan, 2005, pp.81, 132.
    (91) 南ホラント州の州議会議員の1票に乗ぜられる投票価値(628, 200?年上院選挙時の数値)+フレヴォラント州
    の州議会議員の1票に乗ぜられる投票価値(96、2007年上院選挙時の数値)。
    (92) ゼーラント州の人口1人当たりの上院選挙における代表度•影響度(ゼーラント州の州議会議員数[39人]x
    同州議会議員の1票に乗じられる投票価値[98] +同州の200?年1月1日人口 [380,548人])+フロ ーニンゲン州
    の人口1人当たりの上院選挙における代表度•影響度(フローニンゲン州の州議会議員数[43人]x同州議会議
    員の1票に乗じられる投票価値[133]+同州の200?年1月1日人口 [573,923人])。
    (93) 選挙・任命制度の概要
    ①複選制(間接選挙)では、下院議員、前上院議員、県会議員、市会議員が投票権を持つ。当該投票者が、5
    つの職業別候補者名簿ごとに1票ずつを投じる(1人合計5票)。②直接選挙では、アイルランド国立大学、又
    はダブリン大学の学位(学士を含む)を持つ者(18歳以上)が有権者になる。両大学選挙区ごとに、有権者が1
    票を投じる。③任命制では、首相の任命による。
    (94) 弥久保宏「アイルランド共和国の選挙制度⑵ 上院の権限と選挙制度」『選挙』52巻9号,1999.9, p.22.
    アイルランドは、単一国家である。また、上院議員に対する委任の規定は憲法には存在していない。実態的に
    は、下院と同様に上院も、政党の規律が強く、全国レベルの政党活動の一環の中で上院が運営されている。
    94 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    員:9人
    ⑤ 公務・福祉分野の名簿からの選出議
    員:7人
    伍)大学選挙区(直接選挙):
    2区(総数6人、両選挙区とも定数3人、
    大学単位[アイルランド国立大学とダブリン大
    学])
    価)任命議員(95 96 * 98 99>:11人
    ⑸定数配分規定
    ① 5つの職業別候補者名簿からの選出議員
    の総数:憲法第18条第4項第1号価)
    ② 各職業別候補者名簿からの選出議員数の
    範囲(5〜11人):憲法第18条第7項第2号
    ③ 各職業別候補者名簿からの選出議員数:
    1947年上院議員選挙法(職業別候補者名簿
    選出議員)第52条
    ④ 各職業別候補者名簿の中の2つの副名簿
    ごとの最少選出議員数:③に同じ
    ⑤ 各大学選挙区からの選出議員数:
    憲法第18条第4項第1号⑴伍
    ⑥ 任命議員の数:憲法第18条第1項
    ⑹定数配分規定の沿革(97)
    アイルランドの上院の起源は、1922年自由
    国憲法に遡る。この時、上院議員は全国1区
    の比例代表制によって、国民の直接選挙で選
    出された例。当然ながら、定数配分の必要
    もなかった。その後、直接選挙を廃し、下院
    議員による選出という間接的選出方法への変
    更が行われた後、1936年には上院がいったん
    廃止された。翌1937年にはエール憲法が制定
    され、上院が復活した。この時の定数配分
    が、現行の定数配分に引き継がれている。
    ⑺一票の格差•人口格差
    ⑴職業別候補者名簿選挙(複選制)におけ
    る格差
    修)職業別候補者名簿選挙の選挙人(下院
    議員、前上院議員、県議会議員、市議会議
    員)に関する一票の格差
    なし(1倍)(99)
    (b)選挙人が選出された又は母体とする行
    政区域(県・市等)に関する人口格差
    職業別候補者名簿選挙の選挙人が選出
    された又は母体とする行政区域の間に人
    口格差があるか否かは、不詳である。す
    なわち、①前上院議員には任命議員が存
    在する、②下院議員選挙区については、
    県境と一致せず交差するケース、地方議
    会選挙区の境界と一致せず交差するケー
    スが見られる等の理由から、人口格差を
    計算することが難しい。
    伍大学選挙区(直接選挙)の一票の格差
    2.62倍(2006年)100>
    (95) 職業別候補者名簿は、①〜⑤の5つの分野ごとに作成される。候補者登載に当たっては、各名簿とも2通りの
    推薦がなされて候補者が決定される。1つは、職業団体による推薦であり、これにより推薦団体候補者名簿が作
    成される。職業団体は、各職業分野の利益を代表する団体であり、選挙管理官の下に各分野に複数の団体が登録
    される。もう1つは、国会議員(下院議員及び前上院議員)による推薦であり、これにより国会候補者名簿が作
    成される。推薦団体候補者名簿と国会候補者名簿は、副名簿と呼ばれ、両名簿を合わせたものが各分野の職業別
    候補者名簿になる。各副名簿には、当該副名簿から選挙される最少議員数が定められている(1947年上院議員選
    挙法[職業別候補者名簿選出議員]第52条)。
    (96) アイルランド憲法では、指名(nominate)という単語が使われており、正確には、首相が指名し大統領が上院
    を召集するという手順になる。
    怖弥久保前掲注(94), pp.22-24.
    (98) 1922年自由国憲法第32条。具体的には単記移譲式比例代表制。ただし、初回の上院議員の選任だけは、別の暫
    定的方法(下院による選出+首相の任命)で行われた。
    (99) 職業別候補者名簿に関する選挙人は、全員が5つの職業別候補者名簿ごとに1票(合計5票、いずれも単記移
    譲式による優先順位を記入する)を投じることができるため、同選挙人が投じる票の価値に格差は存在しない。
    W {アイルランド国立大学選出議員1人当たりの有権者数34,000人(102,000人[2006年有権者数]+同選挙区定数
    3議席)。+ ■!ダブリン大学選出議員1人当たりの有権者数13,000人(39,000人[2006年有権者数]+同選挙区定数3
    議席)}。
    レファレンス 2008.8
    95
    価)職業別候補者名簿選挙(全体)と大学選
    挙区選挙を比較した人口•有権者数格差
    7.58倍(2006年)(101>
    ⑻格差の特徴
    ⑴ 職業別候補者名簿選挙について
    全国1区という名簿の性質上、上院議員
    選挙人の一票の格差は存在しない。
    職業別候補者名簿を通じて各職業分野が
    十分に代表されているか否かについて、課
    題が残されている可能性がある。例えば、
    農林水産分野の名簿からの選出議員は11人
    で、職業別候補者名簿選出議員43人の中で
    25.58%を占める。しかし、国勢調査人口
    (2006年)では農林水産業従事者は4.25%、
    食品製造業従事者は1.25%であり、合算し
    ても5.5%に過ぎない。農林水産分野は過剰
    に代表されている可能性がある。
    また、選挙管理官の下に登録される職業
    団体の数が限定的である。2007年時点で、
    文化・教育分野34団体、農林水産分野11団
    体、労働分野2団体、産業・商業分野43団
    体、公務・福祉分野14団体である。職業団
    体が登録されていない職業が存在する可能
    性もある101 (102)〇公平性を保ちつつ職業ごと
    に代表を選出するという点では、改善の余
    地があるかもしれない。
    伍)大学選挙区について
    大学選挙区は定数に比べて有権者数が極
    めて少ないため、職業別候補者名簿選挙と
    の間で大きな格差を生じている。大学選挙
    区は、過剰に代表されている可能性があ
    る。また2つの大学選挙区間でも、同定数
    という定数配分の結果、小さな格差を生じ
    ている。
    大学選挙区の有権者資格は、2つの大学
    選挙区間、及び職業別候補者名簿選挙の選
    挙人の資格との間で、重複取得が可能であ
    る(1937年上院議員選挙法[大学選挙区議員]
    第7条)。アイルランド国立大学及びダブ
    リン大学の2つの学位を持てば、原則とし
    て両大学選挙区で各1票(合計2票)を行
    使できる。職業別候補者名簿選挙の選挙人
    カミ、アイルランド国立大学又はダブリン大
    学の学位取得者であれば、職業別候補者名
    簿選挙及び大学選挙区選挙で合計2票を行
    使できるのが原則である。大学選挙区は、
    複数票行使の問題を内在させている(103>。
    IV任命制等の国々
    1カナダ
    ⑴任命方法
    州・準州ごとに、連邦首相の助言に基づ
    き、総督が任命
    ⑵代表制の性格
    ① 州・準州代表(104)
    (1867年憲法第22条、第23条第3、5、6項)
    ② 区域①ivision)代表(同第22条)
    ⑶総定数105人
    ⑷州・準州別定数
    ① オンタリオ州、ケベック州:各24人
    ② ノヴァ・スコシア州、ニュー•ブランズ
    ウィック州:各10人
    ③ マニトバ州、ブリティッシュ•コロンビ
    ア州、サスカチュワン州、アルバータ州、
    ニューファンドランド・ラブラドール州:
    (101) 1職業別候補者名簿選出議員1人当たりの人口98,601.12人(4,239,848人[2006年アイルランド人口] +同名簿選
    出議員総定数43議席))+ {ダブリン大学選出議員1人当たりの有権者数13,000人(前掲注剛)。。
    (102) Arthur W. Bromage and Mary C. Bromage, “Foreign Government and Politics: The Vocational Senate in Ire-
    land, “American Political Science Review, vol.34 no. 3, June 1940, pp.525-526.
    (103。大学選挙区については、現在2大学に限られていることを改め、国内の全大学に有権者の範囲を拡大し、選挙
    区は全国1区の大学選挙区に統合するとの改革案もある。この案に従えば、現在の2大学選挙区間の一票の格差
    の問題は解消することになる。
    96 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    各6人
    ④ プリンス•エドワード•アイランド州:
    4人
    ⑤ ユーコン準州、北西準州、ヌナヴット準
    州:各1人
    ⑸定数配分規定
    1867年憲法第22条第1項、1999年憲法(ヌ
    ナヴット)第43条第3項
    ⑹定数配分規定の沿革
    イギリス国会による英領北アメリカ法
    (1867年憲法)の制定により、カナダは、自治
    領カナダ(Dominion of Canada)という名称
    で、連邦をスタートさせた。同法は、二院制
    から成る連邦議会を設置し、下院では人口比
    例の代表制、上院では地域代表制を採用し
    た。上院は、固有の歴史と独自性を持つ各地
    域の利益の保護という観点から地域代表制を
    採用した。上院の代表制が、この形に落ち付
    いたのは、連邦形成以前に存在していた各植
    民地の間で妥協が成立したからであっ
    た(105)〇妥協の背景として、アメリカ流の「各
    州同数の上院議員」という制度は、連邦政府
    を犠牲にし、州政府に過大な権限を与えると
    いう考え方があったとされている(106)〇
    当初の定数配分を見ると、①オンタリオ州
    となったカナダ西部、②ケベック州となった
    カナダ東部、③ノヴァ・スコシア州及び
    ニュー•ブランズウィック州となった大西洋
    沿岸地域(大西洋岸諸州)の3つの区域①ivi-
    sion)は、各24議席の同数であった。大西洋
    沿岸地域の内訳を見てもノヴァ•スコシア
    州、ニュー・ブランズウィック州が各12議席
    の同数であった。この定数配分は、各州同数
    ではなく、「各区域(Division)Jで同数とい
    う原則に基づいていることが分かる。この
    時、総定数は72人であった。現在の州・準州
    別定数配分は、英領北アメリカ法(1867年憲
    法)制定当初の考え方を引き継いでいる。
    また、現在の定数配分を説明する別の考え
    方として、「人口比例原則を連邦制という観
    点から補正した」というものが挙げられるこ
    とがある。すなわち、カナダでは州ごとの人
    口の多寡に差が大きく、例えばオンタリオ州
    やケベック州は、各々、全人口の3分の1
    (104)1867年憲法第3条により、カナダは連邦制国家である。現在、10州、3準州から構成される。上院議員は、代
    表すべき州・準州が決められており、その住民でなければならない。しかし、上院議員は、州・準州の単なる代
    理人・代弁機関ではないと解されている(『コスタリカ・カナダにおける憲法事情及び国連に関する実情調査ー
    概要』参議院憲法調査会事務局,2004, pp.92-93.)。上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等
    との関係は自由委任と解されている。
    上院の役割としては、州利益の保護、下院の錯誤の修正、過激な政策の抑制等が挙げられる(馬場伸也ほか『世
    界の議会(第11巻 カナダ・中米)』ぎょうせい,1983,p.67.)。
    連邦憲法第22条第1項によれば、①オンタリオ州、②ケベック州、③大西洋岸諸州(ノヴァ・スコシア州、
    ニュー ・ブランズウィック州)、プリンス・エドワード・アイランド州、④西部4州(マニトバ州、ブリティッシュ・
    コロンビア州、サスカチュワン州、アルバータ州)という4区域(Division)が規定されており、各区域の上院
    議員数はいずれも24人で、4区域が平等に代表されると規定されている。上院議員は州・準州の代表であり、こ
    れらの4区域に属する上院議員の場合は同時に、区域の代表でもある。
    (105。妥協の中心勢力は、既に植民地連合(連合カナダ)を形成していたカナダ西部・カナダ東部、これとは別の植
    民地連合(大西洋沿岸植民地連合)を形成する可能性もあった大西洋沿岸の数植民地であった。このうち、連合
    カナダは、既に連合カナダ植民地議会を持っていたが、カナダ西部とカナダ東部が65人ずつ「同数の」代表を直
    接選挙で出していた。人口は、カナダ東部の方が多かったが、東西の「同数原則」を採用していた。
    結局、プリンス・エドワード・アイランド、ニューファンドランドという大西洋沿岸の2つの島映植民地は、
    当初は連邦への参加を行わなかった。このため、連合カナダ、ノヴァ・スコシア、ニュー・ブランズウィックの
    3植民地の妥協により、連邦が創設された。上院議員の定数配分は、カナダ西部・カナダ東部•大西洋沿岸地域
    (大西洋沿岸植民地連合の構想の影響を受けた、地域区分の考え方であった)が「同数」とされた。
    大原祐子『カナダ現代史』(世界現代史31)山川出版社,1981, pp.42, 53, 56-59, 61-63, 70-71, 77-78,177.
    (106。ジョン・セイウェル(吉田健正訳)『カナダの政治と憲法(改訂版)』三省堂,1994,p.25.
    レファレンス 2008.8
    97
    強、4分の1弱を占めている。完全な人口比
    例で州・準州別定数配分を行うと、オンタリ
    才州やケベック州の発言権が強くなり過ぎ、
    連邦制維持にとって大きな障害になる。連邦
    制を保障する観点から、小さな州•準州にも
    発言権を確保した結果、現在の定数配分が導
    き出された、と説明される(107>。
    ⑺定数格差23.58倍 (200?年)10紛
    ⑻格差の特徴
    区域(Division)間の同定数配分、人口比
    例原則の大幅な補正、州・準州間の人口の差
    が大きいことの3つの理由で、定数格差は極
    めて大きい。
    2 ドイツ
    ⑴任命方法
    州政府による任命
    (州首相、州閣僚等が当てられる)
    ⑵代表制の性格州代表107 108 (109)(連邦憲法第51条)
    ⑶総定数69人
    ⑷州別定数
    3〜6人。各州(16州)は、議決で3〜6
    票を行使するが、票数と同数までの議員を任
    命できる。各州は、最少で3票を保証され、
    人口200万人以上の州は4票を、600万人以上
    の州は5票を、?00万人以上の州は6票を行
    使できる。
    ⑸ 定数配分規定 連邦憲法第51条第2、3項
    (州別定数配分法)
    ⑹定数配分規定の沿革
    18?1年のビスマルク憲法(ドイツ帝国憲法)
    は、二院制の連邦議会を設置し、第一院に連
    邦参議院を位置付けた。連邦参議院は、邦を
    代表する議員から構成された。邦ごとの議員
    数は、邦の人口や面積に比例させず、プロイ
    セン、南ドイツ3邦、その他の小邦という3
    区分を設け、その配分を行った。その結果、
    総定数58議席は、プロイセン17議席、その他
    の邦1〜6議席という形で配分された(第6
    条第1項)。また、連邦参議院議長は帝国宰
    相が兼ね、通例、帝国宰相はプロイセン首相
    が兼ねた。このように、連邦参議院では、プ
    ロイセン優位が明確であった(110)〇
    続く1919年のワイマール憲法は、共和国の
    立法•行政において、州の意思を反映させる
    州代表機関として、共和国参議院を設置し
    た。共和国参議院は、共和国議会に対する第
    二院と位置付けることができる(111)〇共和国
    参議院では、18の州の代表者が議員となり、
    州ごとの議員数は、州人口に比例して決定さ
    れた。ただし、最少でも各州1人が保証さ
    れ、最多でも総議員数の5分の2未満とされ
    た(第61条)。結果として、人口の多いプロ
    イセン州の代表が、総議員数のほぼ5分の2
    近くを占めることになった。共和国参議院
    は、国民の平等(人口比例原則)と人口の多
    い州(プロイセン)の覇権の阻止の2つの目
    的の均衡の上に構成された(112)0
    (107) 『コスタリカ・カナダにおける憲法事情及び国連に関する実情調査一概要』前掲注(104), p.92.
    (108) ブリティッシュ・コロンビア州の議員1人当たりの人口?33,821.83人(4,402,931人+ 6議席)+ヌナヴット準州
    の議員1人当たりの人口 31,12?人(31,127人+1議席)。
    (109) 連邦憲法前文及び第20条第1項により、16州から成る連邦制国家である。各州の上院議員は、議決の際に州ご
    とに一体となった表決を行う(同第51条第3項)。実際の表決では、州ごとに代表となる上院議員1名が、当該
    州に割当てられた全票数を一括して行使する。実際に、上院議員は州政府の指示を受ける。連邦憲法第51条によ
    り、上院議員は命令的委任を受けると解釈されている。
    (110) 名雪健二『ドイツ憲法入門』八千代出版,2008, pp.1?-21.
    (111) 第二院(上院)と位置付けず、共和国議会から独立した別の機関とする見解もある。
    (112) Ch・グズイ(原田武夫訳)『ヴァイマール憲法一全体像と現実』風行社,2002, pp.191-192.(原書名:Christoph
    Gusy, Die Weimarer Reichsverfassung.199?.)
    実際にはプロイセン州の人口は、非常に多かったため、もし州人口比例による議席配分が貫徹されていれば、
    プロイセン州の議員数は、約3分の2になったと推定される(名雪 前掲注(110。,p.30.)。
    98 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    第二次世界大戦後の1949年には、ドイツ連
    邦共和国基本法(現行憲法)が制定され、連
    邦参議院については、ほぼ現行と同じ州別定
    数配分法が採用された。完全な州人口比例に
    よる定数配分法を採用しなかった1つの理由
    は、1つ又は2つの州が人口の多さだけで、
    上院で3分の2以上の多数(113)を占めること
    のないように配慮したためである(114)0ビス
    マルク憲法、ワイマール憲法時代に見られ
    た、特定邦・州(すなわちプロイセン)の優位
    と類似する事態は避けられることになっ
    た(115)0その後、1990年に若干の改正が行わ
    れ、現行の州別定数配分法に至っている。な
    お、現行の州別定数配分法は、各州同数の上
    院議員を任命する方式と、各州の人口に比例
    した上院議員を任命する方式の中間を取って
    いるという形で説明される場合がある(116)〇
    ⑺定数格差13.62倍(2005年)(117)
    ⑻格差の特徴
    ①州別定数の上限(6人)と下限(3人)
    を厳しく設定し、かつ②州人口に十分に比例
    させる計算方法で定数配分をしていないた
    め、更に③州間の人口の差が大きいため、定
    数格差は極めて大きい。
    3 オーストリア
    ⑴選任方法
    州議会により比例代表の原則に従って選任
    される(118)0ただし、上院議員は州議会議員
    である必要はない。
    ⑵代表制の性格州代表(119)(連邦憲法第34条)
    ⑶総定数62人(120)
    ⑷州別定数3〜12人
    各州(9州)は、州公民数(121)に比例する形
    で定数を割り当てられる。最多の公民数の州
    (現在、下オーストリア州)には12議席が割り
    当てられ、これに(州公民数数と議席数が)比
    例する形で、他州の議席数が決められる。比
    例計算で、割当議席数に端数が出た場合は、
    四捨五入して整数にする。最少の州でも3議
    席は保証される。公民数は、10年ごとの国勢
    調査の結果による 値近は2001年5月15日調査)。
    ⑸定数配分規定
    連邦憲法第34条第2項
    (州別定数配分計算法)
    ⑹定数配分規定の沿革
    オーストリアの現行連邦憲法の起源は、
    1920年の連邦憲法にある。1920年連邦憲法
    は、二院制から成る連邦議会を設置し、上院
    については、その州別定数配分法を、現行連
    邦憲法とほぼ同様に規定していた。最多の公
    (113) 例えば、連邦憲法改正の際に、上院側で必要とされる同意の数が「3分の2以上」となっている。(連邦憲法
    第?9条第2項)
    (114) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注(32), pp.46-48.
    (115) 名雪前掲注(110), p.79.
    (116) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注3), pp.46-48.
    (117) ノルトライン・ヴェストファーレン州の議員1人当たりの人口3,009,666.67人(18,058,000人+ 6議席)+ブレー
    メン州の議員1人当たりの人口221,000人(663,000人+3議席)。
    (118) 各州議会の独自の手続きに従って、州ごとに連邦上院議員が連邦上院へ送られるという形を取る。選任方法
    は、州憲法等に規定されるが、全州で共通する事項については、連邦憲法第34、35条に規定される。例えば
    ウィーン州(市でもある)では、州憲法第13?条等に連邦上院議員の選任方法が規定される。
    (119) 連邦憲法第2条により9州から成る連邦制国家である。ただし、同第56条により、連邦議会議員は、いかなる
    委任にも拘束されない(自由委任の原則)と規定されるため、上院議員は州の単なる代理人•代弁機関ではない。
    (120) 総定数は固定されているものではなく、10年ごとの州別定数の再配分の結果、増減する可能性がある。
    (121) 公民数(BHrgerzahl):公民(BHrger)とは、全住民を指すのではなく、公民権(選挙権等)を有する住民に
    限定する概念である。
    レファレンス 2008.8
    99
    民数の州が12議席、最少の州でも3議席が保
    証される点も、同じであった。1920年連邦憲
    法は、社会民主党の中央集権主義(連邦制自
    体の否定的)に、キリスト教社会党の州権主
    義が統合される形で妥協が成立し、中央集権
    優位の下に制定された経緯を持ってい
    る(122)。上院において人口比例原則に基づく
    州別定数配分法が採用されたのも、この経緯
    を背景としていると考えられる。
    その後、1934年の連邦憲法(職能主義・全
    体主義に基づく憲法)は、上院議員の構成に
    関し異なる規定を設けた。しかし第2次世界
    大戦後には、1920年連邦憲法が再び採用され
    ることになった。このため、上院の州別定数
    配分法も復活することになり、現在に引き継
    がれている。
    現在の上院における表決の傾向を見ると、
    上院議員は州単位でまとまった表決の行動を
    取るよりも、政党単位でまとまった表決の行
    動を取ることの方が多い(123)。このことは、
    上院議員が州代表と規定されるものの、実際
    には政党の影響力が強いことを表している。
    アメリカ上院のような各州同定数とする制度
    は、州の単位を基盤にした政治という在り方
    を強調する。一方、公民数に比例した州別定
    数配分という制度は、州を単位とする政治と
    いう側面を弱めるため、政党を軸にした政治
    システムにとって、より適合的であると考え
    られる。現在の定数配分法は、政党政治とい
    う実際の政治システムの面からも、意義を持
    つものと言えよう。
    なお、オーストリアでも、各州同数の定数
    配分とすべきとの主張は存在している。官
    僚、キリスト教社会党、大ドイツ党等から成
    る第3次ショーバー内閣が、1929年10月に提
    出した憲法改正案では、各州2名から成る連
    邦上院という項目が含まれていた(ただし、
    この部分の改正は成立しなかった)。また、現
    在オーストリアで人口が2番目に少ない州で
    あるフォアアールベルク州のホームページに
    は、各州同数の上院定数配分を求める主張が
    紹介されている(122 123 124>。
    ⑺定数格差1.63倍(2008年。125>
    ⑻格差の特徴
    連邦憲法に規定される州別定数配分計算法
    は、人口比例原則を基本としつつ、州別定数
    に最少ライン(3議席)を保証している。連
    邦制の枠組みの中で人口に関する平等原則を
    大きく採用する考え方に立つものである。こ
    のため、定数格差は小さい。
    4 ロシア
    ⑴選任方法
    連邦構成主体ごとに、①代表(立法)機関
    が選任する議員1名、及び②執行(行政)機
    関の長が指名し、代表(立法)機関が承認す
    る議員(1名)(合計2名)が就任する(126>。
    ⑵代表制の性格連邦構成主体の代表(127>
    (連邦憲法第95条第2項)
    ⑶総定数166人喚>
    ⑷連邦構成主体別定数各2人
    ⑸ 定数配分規定 連邦憲法第95条第2項
    ⑹定数配分規定の沿革
    ソビエト連邦時代の最後の連邦憲法である
    (122) 細井保『オーストリア政治危機の構造ー第一共和国国民議会の経験と理論』法政大学出版局,2001,pp.47-49.
    (123) 『オーストリアの地方自治』自治体国際化協会,2005, p.47.
    (124) “Osterreichs Landerkammer: der Bundesrat”フォアアールベルク州ホームページ
    (125) ウィーン州の議員1人当たりの人口152,533.36人(1,677,867人+11議席)+ブルゲンラント州の議員1人当たり
    の人口93,730人(281,190人+ 3議席)。
    (126) 連邦憲法第95条第2項。連邦議会上院構成手続法第1~6条。なお、2000年7月に同構成手続法が改正されて
    おり、改正より前は、同構成手続法第1条(改正前の条文)により、連邦構成主体ごとに、①代表(立法)機関
    の長(1名)、及び②執行(行政)機関の長(1名)(合計2名)が就任するとされていた。
    100 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    197?年連邦憲法(ブレジネフ憲法)を見ると、
    連邦上院(連邦最高ソビエトの民族会議127 128 (129))の
    構成は、共和国各32人、自治共和国各11人、
    自治州各5人、自治管区各1人となっており
    (第110条)、民族の規模•人口を配慮しつつ
    定数配分がなされていた(130)〇 一方、ロシア
    について見ると、ロシア•ソ連邦社会主義共
    和国憲法(1978年4月12日)は、一院制のロ
    シア共和国最高ソビエト(131>を設置していた
    (第104条)。
    現行憲法における連邦上院(連邦会議)の
    定数配分規定は、1990年6月のロシア主権宣
    言以降進められてきた新憲法制定論議を背景
    とし、最終的に「連邦構成主体ごとに2人」
    に落ち付いたものであった。新憲法制定論議
    は、連邦大統領、連邦議会、地方権力の3者
    の均衡を保つという方向性では一致していた
    が、具体的な規定については合意がなかなか
    得られなかった。
    ロシア共和国最高ソビエトに置かれた憲法
    委員会の第3次草案(1992年3月24日)では、
    二院制(衆議院と連邦院)のロシア連邦最高
    会議を設け、連邦院は、構成共和国、地方、
    州、自治州から2人ずつ、自治管区から1人
    ずつの議員が直接選挙で選出されるとなって
    いた(第8?条第3項、第94条第1項)。この第
    3次草案は、新憲法として採択されることが
    期待されて取りまとめられたものであった
    が、諸政治勢力間の対立が厳しく、新憲法と
    しての採択は不可能な情勢であった。
    1992年3月31日に締結されたロシア連邦条
    約は、連邦の主体を、構成共和国、地方、
    州、連邦直轄市、自治州、自治管区とし、こ
    れらの主体間に権限の大小を認めた。しか
    し、一方でこれらの主体が連邦において平等
    に代表されることを明確化したと一般に解釈
    されている。この条約の影響で、連邦上院の
    定数配分については、以後、各連邦主体とも
    2人とする提案が増えた(132) *〇
    1992年4月21日、ロシア・ソ連邦社会主義
    共和国憲法の改正が行われた。改正後の憲法
    の名称はロシア連邦憲法になった。改正時点
    の規定を見ると、二院制(共和国会議と民族
    会議)のロシア連邦最高会議(133>が設置され、
    民族会議の構成は、①構成共和国各3人、②
    自治州各1人、③自治区各1人、④地方、
    (127) 連邦憲法第1、65条により、(2008年7月時点で)83の連邦構成主体(CySteKT ¢eaepamm )から構成される
    連邦制国家である。連邦構成主体には、州(46)、共和国(21)、地方⑼、市⑵、自治州⑴、自治管区⑷が存在する。近
    年、自治管区は他の連邦構成主体に統合されるケースが多く、自治管区の数は減り続けている。
    上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在しない。しかし、上院議員については、上院議長の提案に基
    づき、各連邦構成主体が任期満了前に職務を停止させることに同意した場合、上院が解任手続きを取ることがで
    きる(連邦議会上院構成手続法第9条、上院議員及び下院議員の地位に関する連邦法第4条第2項)。このため、
    上院議員の地位は、選任母体である連邦構成主体から影響を受ける。従って、実態面では命令的委任を受ける側
    面も存在すると言える。
    (128) 連邦構成主体の統合が進み当初の89から減少してきているため、上院議員の数について暫定措置が取られてい
    る。そのため、2008年5月時点で、16?人(欠員を除く)の上院議員が存在しており、この数は(連邦構成主体
    数X2)より多い。今後も統合が進む可能性があるが、将来的には(連邦構成主体数X2)の議員数になる。
    (129。まず連邦人民代議員が選挙され、連邦人民代議員大会が開催されることになっていた。次いで、同大会によつ
    て連邦人民代議員の中から連邦最高ソビエトの議員が選出された(ソ連邦憲法第111条第2項)。連邦最高ソビエ
    卜は、連邦議会に当たる機関で、連邦会議と民族会議の二院制であった。
    (130。定数配分は、後に共和国各11人、自治共和国各4人、自治州各2人、自治管区各1人と改正された(第111条
    第4項。。
    (131。国民の直接選挙で選出された(憲法第94, 105条)。
    (132。 Thomas F. Remington, The Russian Parliament: institutional evolution in a transitional regime 1989-1999,
    New Haven: Yale University Press, 2001, pp.158, 161-162.
    (133。まず連邦人民代議員が選挙され、連邦人民代議員大会が開催されることになっていた。次いで、同大会によつ
    て連邦人民代議員の中から連邦最高会議の議員が選出された(連邦憲法第10?条第2項)。
    レファレンス 2008.8 101
    州、モスクワ市、サンクト•ペテルブルグ市
    から合計で63人、となっていた(第107条第4
    項)。民族の規模・人口に、若干の配慮をし
    つつ定数配分がなされていた。このロシア連
    邦憲法は、社会主義体制の残淳を抱えた憲法
    であり、新憲法と呼ぶことが困難な性格を有
    していた。民族会議の構成も、社会主義体制
    下で行われていた定数配分の影響が見られ
    る。連邦の各主体から同数の連邦上院議員が
    選任される形態に一歩近付いた段階と言えよ
    う。
    その後、エリツィン大統領(1991-1999年
    在任)主導の下で取りまとめられた新憲法統
    一草案(1993年7月16日公表)では、二院制(国
    家会議と連邦会議)の連邦議会(パルラーメント)
    を設け、連邦会議では各連邦主体2人の議員
    が選挙で選ばれるとしていた。
    1993年10月11日のロシア連邦大統領令に基
    づき、1993年12月12日に直接公選で選出され
    たロシア連邦の上院(第1期ロシア連邦会議)
    では、89の連邦構成単位ごとに選挙区を構成
    し、1選挙区から2人の議員が選挙された。
    この選挙と同時に行われた国民投票により、
    1993年ロシア連邦憲法(現行憲法)が採択さ
    れた。国民投票にかけられた案(同年11月10
    日公表、12月12日採択)では、連邦会議の議員
    は選挙で選出される旨の規定がなくなり、各
    連邦構成主体の立法機関と行政機関から各々
    1人ずつの代表が選任されることになった。
    この規定の目的は、エリツィン大統領の意図
    では、各連邦構成主体の指導者との協力の中
    で国政運営を行うということであったと考え
    られている。これ以降、「各連邦構成主体か
    ら2人の上院議員」という定数配分が、憲法
    上定着した(134) 135〇
    ⑺定数格差248.87倍(2007年)135)
    ⑻格差の特徴
    各連邦構成主体同数という定数配分、連邦
    構成主体間の人口の差が大きいことの2つの
    理由で、定数格差は極めて大きい。
    V諸外国の上院定数配分の特徴
    諸外国の上院の定数配分の状況を通覧する
    と、次に挙げる幾つかの特徴を見出すことがで
    きた。
    第一に、上院議員の定数配分規定は、憲法に
    置かれていることが多い。上院の構成原理が憲
    法に記され、同時に、選挙区等の選挙・任命等
    の単位、及び定数配分(方法)が、憲法に記さ
    れるケースが多いということである。調査をし
    た16か国中、12か国は定数配分規定の全部又は
    一部が、憲法に存在している。実に75%に上
    る。このため、多くの場合、上院の定数配分の
    問題は、憲法上の規定の問題に収斂する。憲法
    に定数配分規定が置かれる国では、憲法の定数
    配分規定そのものが、定数格差・一票の格差の
    数値を導き出す結果となっており、仮に大きな
    格差を生じていても、そのことだけで違憲判断
    が下る余地はない。
    第二に、選任の地理的単位、すなわち選挙区
    や任命等の母体となる地域は、州又は県がその
    まま用いられるケースが多い。選任の地理的単
    位を新たに形成する事例は、極めて少ない。選
    任の地理的単位の全部又は大部分が、州又は県
    である事例は、アメリカ、オーストラリア、イ
    タリア、スペイン、スイス、メキシコ、フラン
    ス、オランダ、カナダ、ドイツ、オーストリ
    ア、ロシアの12か国である。調査をした16か国
    中、実に75%に上る。ベルギーでは、地域(re-
    gions) ^ 言語共同体(communautes linguistiques)
    という憲法に規定される別種の行政単位が用い
    (134) 竹森正孝『ドキュメントロシアの「憲法革命」を追うーロシア連邦の憲法資料と解説』日ソ図書館,1992,
    pp.8,20-26,62,106,145-146;野村進「ロシア保革両派の権力闘争と新憲法3草案」『海外事情』41巻10号,1993.10,
    pp.106,109,112,114-116,120-121;同「二兎を追う新ロシア連邦憲法」『海外事情』42巻4号,1994.4, pp.103-104.
    (135) モスクワ市人口10,442,663人+ネネツ自治管区人口41,960人。
    102 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    られている。地域と言語共同体は、州より広い
    区域である。州、県、ベルギーの地域・言語共
    同体は、いずれも基礎的自治体よりも上位にあ
    り、かつ比較的広域の行政区域である。このよ
    うな地理的単位を基礎に、大部分の上院議員は
    選任されている。
    州・県等以外に、選挙の地理的単位を新たに
    形成する事例は、ポーランド、チェコである。
    ポーランド、チェコでは、選挙区画定作業を経
    て、上院選挙区が形成された。いわゆる区割り
    作業が行われたケースである。
    第三に、定数配分には、上院の構成原理、ま
    たそれを誕生させた歴史的経緯が大きな影響を
    与えている。
    例えば、連邦草創期に、人口の小さな州に対
    する配慮が行われた結果、「各州同定数から成
    る州代表としての上院議員」という規定が憲法
    に置かれたという事例が、その代表であろう。
    アメリカ、オーストラリアが、この事例に当た
    る。類似の事例として、カナダでは連邦創設に
    当たって、各植民地間の妥協が成立し、オンタ
    リオ州となったカナダ西部、ケベック州となっ
    たカナダ東部、ノヴァ・スコシア州及び
    ニュー・ブランズウィック州となった大西洋沿
    岸地域の3つの区域(Division)の上院議員定
    数を同数とする規定が憲法に置かれた。
    これに対し、イタリアでは、現行憲法制定過
    程において、上院定数配分の基礎が定められた
    が、これは政治的な妥協によるものであった。
    すなわち、中央集権主義と地方分権主義の間の
    対立、州人口比例による州別定数配分を主張す
    るグループと各州同定数を主張するグループの
    間の対立が顕著であったが、妥協の結果、州人
    口比例を基本とするが、州の最低配分議席数を
    定めるという形に落ち付いた。
    同様に、オーストリアでは、現行憲法の制定
    時に、中央集権主義と州権主義の間の対立と統
    合が見られた。この結果、州を選任の単位とし
    つつも、ほぼ州人口比例によって上院議員定数
    を配分するという憲法規定が設けられた。
    また同様に、ドイツでも、現行憲法制定に当
    たり、上院議員定数配分で州人口比例原則を採
    用しつつも、それに一定の限界を課すことにし
    た。これは、州人口の多寡に大きな差があり、
    1つ又は2つの州が人口の多さだけで上院で3
    分の2以上の多数を占めることのないように配
    慮したものであった。
    一方、フランスでは、憲法上、上院における
    「地方公共団体の代表の保障」が要請されてお
    り、同時に、選挙権の平等も要請されている。
    この両者の調和を図ることが、第五共和制憲法
    制定以来のテーマになっている。現行の上院議
    員定数配分規定は、この調和を図りつつ決定さ
    れたものである。
    近年になり選挙制度を新たに定めた東欧諸国
    に目を転じると、チェコは、上院選挙区画定に
    おける人口均等原則が顕著な国である。これに
    は歴史的経験が大きく影響している。過去の民
    族対立などの経験から、チェコでは、地域代表
    の採用は、地域・民族間の対立を発生させる可
    能性があると考えられており、地域代表として
    の上院議員という考え方は否定されている。ー
    方で、諸政党の持つ様々な考え方・利害の間の
    調整が図られた結果、憲法第18条第2項に規定
    される上院選挙における「平等な選挙権」の原
    則が重視されることとなり、小選挙区画定にお
    ける最優位の原則は人口均等原則になった。
    同じく近年に制度を定めたポーランドは、選
    挙を目前に控えて極めて党派色の濃い定数配分
    がなされた結果、格差が小さくなるという逆説
    的な歴史上の経緯を持っている。
    第四に、参考のために算出した定数格差・ー
    票の格差を通覧すると、ばらつきが大きい。直
    接選挙の場合で、1.07〜144.01倍の開きがある。
    間接選挙、任命制等まで含めると、1〜248.87
    倍と、更に拡大する。このことは、上院の議員
    定数配分の原理が、多様であることを示してい
    る。下院では、議員定数配分の原理は、人口比
    例原則によるか、或いはそれに地理的制約など
    が加わるということが一般的である。しかし、
    レファレンス 2008.8 1〇3
    上院では、人口比例原則を第一の原理にしてい
    ない場合も多い。
    第五に、幾つかの事例を除き、国民代表と位
    置付けられている上院では相対的に定数格差・
    一票の格差が小さく、州等の地域代表の上院で
    は相対的に格差が大きなことは、大まかな傾向
    と言えよう。国民代表の概念は、古くは制限選
    挙の時代から唱えられていたものであり、直接
    的に小さな格差と結び付く概念とは言えない。
    しかし、現代の民主国家においては、「法の下
    の平等」規定等の形で憲法上の平等原則が確立
    し、同時に身分や納税額などで選挙権に区別を
    付けない平等選挙の原則も確立していることが
    通例である。従って、地域代表を採用し国民の
    間に地域的区分を設けるという考え方が採用さ
    れるのでなければ、上院議員の選任においても
    各国民は可能な限り平等な扱いを受けることが
    通例となることは当然であろう。この平等な扱
    いの典型例が、定数配分•選挙区画定における
    人口比例(均等)原則である。このような理由
    で、国民代表が採用される場合、相対的に格差
    が小さくなっていると考えられる。
    国民代表が採用され、相対的に格差が小さい
    事例は、イタリア(国内選挙区)、ポーランド、
    チェコ、オランダ(人口格差)である。一方、
    国民代表が採用され、相対的に格差が大きな事
    例は、イタリア(在外選挙区も含めて全選挙区を
    比較したケース)、オランダ(上院議員選挙人のー
    票の格差)である。
    これに対し、州等の地域代表が採用された場
    合は、大まかに3種類の定数配分•選挙区画定
    の原則が考えられる(136)〇すなわち、①地域人
    口比例による方法、②各地域同定数とする方
    法、③①と②の中間を取る方法、である。地
    域代表採用国の中では多くの事例となっている
    ②、③については、相対的に格差が大きくなっ
    ている(137)〇
    おわりに
    最後に、我が国の参議院の定数是正問題に参
    考になると思われる若干の点を示して、筆を置
    きたい。
    まず、我が国の参議院は、選挙における定数
    配分規定が憲法に存在せず、本稿で比較した16
    か国の諸外国に当てはめるならば、少数派に分
    類されよう。すなわち、定数配分規定が選挙法
    にあるポーランド、チェコ、フランスと、同種
    のグループに入ることになろう。一方、比例代
    表選挙を除き、選挙区の区域が都道府県となっ
    ており、この面では16か国の諸外国に類似して
    いる。
    また、16か国の上院の中には、人口比例(又
    は人口均等)を重視した定数配分(又は選挙区画
    定)が行われている事例も、幾つか存在してい
    る。具体的には、イタリア(国内選挙区)、ベル
    ギー(直接公選部分)、ポーランド、チェコ、オ
    ランダ、オーストリアである。これらの諸国を
    参考例として学ぶことは、有益なことであろ
    う。
    我が国において、定数是正問題は喫緊の課題
    である。本稿の比較分析が一助になることを期
    待したい。
    (みわかずひろ)
    (136) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注(32), pp.46-48.
    (137) ①の事例は、オーストリアである。ただし、州ごとに最少でも3議席は保証されるという例外規定がある。3
    議席の州は全9州のうち2州(ブルゲンラント州、フォアアールベルク州)である。例外は存在するものの、実
    際の定数(人口)格差は1.63倍であり、人口比例原則によっている部分が大きい。②の事例は、アメリカ、オー
    ストラリア(連邦直轄地選挙区を除く)、スペイン(県単位の選挙区部分)、スイス(I日半州を除く)、メキシコ(3
    人区部分)、ロシアである。③の事例は、スペイン(自治州議会指名部分)、フランス、カナダ、ドイツである。
    104 レファレンス 2008.8』

首相、対話AI作成の質問に答弁 内容巡り“自画自賛”も

首相、対話AI作成の質問に答弁 内容巡り“自画自賛”も
https://www.47news.jp/politics/9122812.html

『岸田文雄首相が29日の衆院内閣委員会で、人工知能(AI)を使った対話型ソフト「チャットGPT」を使って作成された質問に答える一幕があった。チャットGPTに質問を作らせた立憲民主党の中谷一馬氏に対し、自らの答弁を“自画自賛”する場面も。中谷氏は「AI生成の質問を国会で行い、首相が答弁した事例は確認されていない。憲政史上初ではないか」としている。

 この日の質疑は、次の感染症危機に備える新たな専門家組織設立などを柱とした法案が議題。チャットGPTが作成した質問は「関係者の意見を十分に反映させたのか」などとの内容だった。』

『(※ 日本国憲法)第41条

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

第43条

両議員は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

両議員の議員の定数は、法律でこれを定める。 』

 ※ つまり、「国会議員」とは、「国権の最高機関」かつ「国の唯一の立法機関」たる職責を果たすために、「全国民を代表する」立場で、国会において「質問する」ものだ…。

 ※ それを、ネットに流通する「データ」を集め、拾ってきて、「一定の確率」に従って「並べ換えて」「それっぽい文章」を作成するだけの代物に従って、「それっぽい質問をする」…。

 ※ そこに、「国会議員の職責」は、あるのか…。

 ※ そういうヤツに、オレら国民は、「歳費」を払わないといかんのか…。

 ※ 今日は、こんな所で…。

ロシアで復活の兆しを見せるソ連式の「市民権剥奪」刑

ロシアで復活の兆しを見せるソ連式の「市民権剥奪」刑
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29802

『ロシアの民主化活動家ウラジーミル・カラムルザが米ワシントンポスト紙に「プーチンは彼の批判者にソ連型の処罰を計画している」との論説を3月13日付で寄稿している。論旨は次の通り。

 プーチン政権が復活させていないソ連の異議抑圧の慣行はほとんどない。一連の厳しい新法が特にウクライナ戦争に関し政府を公に批判することを犯罪にしている。政治的反対は今や反逆罪と同一視されている。抑圧的なソ連の慣行だったクレムリンへの反対者の市民権剥奪も近いうちに戻ってきそうだ。

 エリツィン大統領(当時)が1993年に承認したポスト・ソ連の最初の憲法は、市民権の剥奪を明示的に禁止した。この規定は今もある。言論の自由や集会の自由を保証する法律もある。しかし、プーチン政権はこの2つの自由を否定している。クレムリンが市民権の原則を、侮蔑をもって扱う事を止めるものは何もない。

 クレムリンの法律家は間もなく、市民権の憲法上の保護を形式的に破らずに中立化する方法を考えつくだろう。ロシア議会は帰化したロシア人の市民権の解消の根拠を拡大するプーチン提案について投票を行う。更に、生まれながらのロシア市民にも措置を拡大することも提案されている。

 独裁は忠誠を愛国心と同一視する。そのような世界観では、どんな政治的反対者も必ず「反逆者」になり、市民権は政権の気まぐれで褒賞として与えられるか、罰として取り上げられる。ここでもプーチンはソ連の道を辿りそうである。

 しかしわれわれはこれがどう終わるか知っている。ソ連崩壊の直前に、政治的理由で市民権を剥奪されたすべての人がその地位と権利を公的に回復した。

 作家コルネイ・チュコフスキーは「ロシアでは永く生きなければならない。そうすると何かが起こる」と言ったことがある。彼はわれわれの国で周期的に起こる地殻的歴史変動に言及している。過去数十年、変化のペースは大きく加速した。次の変革はいつでも起こる可能性がある。

*   *   *

 この論説は、特にウクライナ戦争開始後、ロシア国内で締め付けがきつくなっていること、ソ連時代の市民権剥奪という処罰も復活しそうであることを指摘している。そのようになる可能性が高いと考えられる。

 ソ連時代には、クレムリンへの反対者を収監する政治的コストが高くつく場合、彼らの市民権を剥奪することが広範に行われてきた。』

『ソ連においては市民権剥奪を禁止するものはなかったが、今はエリツィン時代のロシア憲法がそれを明示的に禁止している。この憲法を改正しないで、法律によって、帰化した人であれ出生により市民権を得た人であれ、市民権を剥奪することは憲法違反である。

 こういうことを平気でやるロシアは、いわば無法地帯になっているといってよい。このほかに、言論の自由、集会の自由などの憲法の人権条項は、今は簡単に無視され、反戦集会などは政権の弾圧で蹴散らされている。

 民主主義は人権の尊重と選挙による政権交代で担保されるが、選挙の公正性もインターネット投票の操作によって著しく傷つけられている。

プーチンが法を尊重することはない

 法の支配(Rule of Law)と法による支配(Rule by Law)は違うが、プーチンは法も支配の道具と考えているのではないかと思われる。

 日本はエリツィン時代、北方領土問題について法と正義に基づく解決をロシア側に求め続け、1993年の東京宣言にはそう書いてあるが、プーチンはそういう考えに立ち戻ることはないと思われる。

 この論説の最後にカラムルザはチュコフスキーを引用し、ロシアでは周期的に地殻変動的な変化が起きる、そして歴史の進行が加速する中、そういう変化はいつでも起こうると書いている。この観察も的中する可能性がある。ウクライナ戦争の帰趨はプーチン政権の今後に大きな変化をもたらしかねない。』

法の支配

法の支配
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%94%AF%E9%85%8D

 ※ 以下の記述は、もっぱら「国内法体系」における「法の支配」の説明のようだ…。
 ※ 「国内法における法の支配」ですら、こういうもの(多義的、多解釈の対立、収斂せずに拡散する)だ…。

 ※ いわんや、「国際法」においておやだ…。

『法の支配(ほうのしはい、英語: rule of law)は、専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという英米法系の基本的原理である。法治主義とは異なる概念である。

「法の支配」とは、統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方である[1]。大陸法的な法治主義とは異なり、法の支配では法律をもってしても犯しえない権利があり、これを自然法や憲法などが規定していると考える[1]。

法の支配における「法」[注釈 1] とは、全法秩序のうち、「根本法」と「基本法」のことを指す[2]。

法の支配は、歴史的には、中世イギリスの「法の優位」の思想から生まれた英米法系の基本原理である[3]。

法の支配は、専断的な国家権力の支配、すなわち人の支配を排し、全ての統治権力を法で拘束することによって、被治者の権利ないし自由を保障することを目的とする立憲主義に基づく原理であり、自由主義、民主主義とも密接に結びついている[3]。

法の支配は、極めて歴史的な概念で、時代や国、論者により異なる様相を呈する多義的な概念である点に留意が必要である[3]。

歴史

古代

「法の支配」の原型は、古代ギリシアのプラトン[4] やアリストテレスの思想[注釈 2] を経て発展したローマ法やヘレニズム法学に求める見解や[5]、古き良き法に由来する中世のゲルマン法に求める見解もあり、一定しない。

市民の誰が支配するよりも、同一の原則である法が支配する方が適切だ。仮に特定の人々に最高権力を置く利点がある場合には、彼らは法の守護者および執行者としてのみ任命されるべきである。
— 政治学、アリストテレス、3.16

我々が自由であるために、我々は皆、法の奴隷でなければならない。(ラテン語: Omnes legum servi sumus ut liberi esse possumus)
— キケロ、[6]

中世

「法の支配」が、明確な形としてあらわれたのが中世のイギリスにおいてであることには、ほぼ異論がない[7]。

ヘンリー・ブラクトンの「王は人の下にあってはならない。しかし、国王といえども神と法の下にある」という法諺が引用されるように少なくとも中世のイギリスに「法の優位」(Supremacy of Law) の思想は存在していたとされる[8]。

中世のイギリスでは、国王さえ服従すべき高次の法(higher law)があると考えられ、これは「根本法」ないし「基本法」(Fundamental Law)と呼ばれ、この観念が近代立憲主義へと引きつがれるのである[2]。そのため、法の支配は、立憲主義に基づく原理とされている[3]。

当時はボローニャ大学で、ローマ法の研究が進み、1240年にローマ法大全の『標準注釈』が編纂されると、 西欧諸国から留学生が集まるようになり、英国にもオクスフォード大学、ケンブリッジ大学が相次いで設立されるなどしてローマ法の理論が研究され、一部持ち込まれたという時代であるが、既に英国全土の共通法ともいえるコモン・ローの発展を見ていた英国では、大陸において発展した「一般法」(ユス・コムーネ、jus commune)を取り込む必要は乏しかった。

そのため、後にローマ法に由来する主権の概念とコモン・ローとの緊張関係が問題となったが、英国では、「法の主権」の概念の下、「法の優位」が説かれたことがあった。

しかし、その思想は、封建領主と領民との間の封建的身分が前提とされた関係理論に基づいていたのであって、マグナ・カルタにおいては、バロンの有する中世的特権の保護するために援用されたのである。また、その思想は、被治者の権利・自由の保護を目的としていたわけではなく、道徳・古来の慣習法と密接に結びついた当時のキリスト教的な自然法論と親和性のあるものであったのである[2]。

以上に対し、被治者の権利・自由の保障を目的とする近代的な意味での「法の支配」は、中世以後徐々にコモン・ロー体系が確立していったイギリスにおいてマグナ・カルタ以来の法の歴史を踏まえ、中世的な「法の優位」の思想を確認する形で、16世紀から17世紀にかけて、法曹によって発展させられた[2]。

1606年、エドワード・コーク卿は、王権神授説によって「国王主権」を主張する時の国王ジェームズ1世に対し、ブラクトンの法諺を引用した上で、「王権も法の下にある。法の技法は法律家でないとわからないので、王の判断が法律家の判断に優先することはない。」と諫めたとされる[9][注釈 3]。

ここでは、コモン・ロー裁判所裁判官の専門的法判断の王権に対する優位が説かれており、中世的特権の保護から、市民的自由の保護への足がかりが得られるきっかけを作られたといえる[10]。

1610年、コークによる医師ボナム事件の判決は、コモン・ローに反する制定法は無効と判示し、司法権の優位の思想を導くきっかけを作ったとされる[11]。

1610年、トマス・ヘドリィ(Thomas Hedley)の庶民院における長大な演説によってノルマン征服以前の古き国制(ancient constitution)の伝統を理由にコモン・ローの本質が明らかにされ、以後、議会ではヘドリィによって定式化されたコモンローの優位が繰り返し説かれることになった[注釈 4]。

ここでは、「庶民」(commoner)[注釈 5]が議会に政治的参加をすることによって制定される法律の王権に対する優位が説かれており、民主主義と法の支配が密接に結びつくきっかけが作られたのである。そのため、法の支配は、民主主義とも密接に関連する原理とされている[3]。

1688年、メアリーとその夫でオランダ統領のウィリアム3世(ウィレム3世)をイングランド王位に即位させた名誉革命が起こると、これを受けて1701年王位継承法で裁判官の身分保障が規定されることによって法の支配は現実の制度として確立したのである[12]。

アメリカ合衆国における法の支配

1787年、アレグサンダー・ハミルトンらによって成文憲法として起草されたのがアメリカ合衆国憲法であるが、これは「法の支配」を成文憲法によって実現しようとするものであった。

合衆国は、イギリスが立憲君主制をとるのと異なり、共和制を採用し、執政体としては、君主に代わり大統領を選挙によって選出するものとした上で間接民主制をとって立憲主義を採用したのである。

ここでいう共和制とは、人民主権の下、選出された代表者が権力を行使する政体のことである[13]。

1803年、マーベリー対マディソン事件をきっかけに米国で発祥した違憲立法審査権は、コークの医師ボナム事件の判決にヒントを得て、「法の支配」から発想された憲法原理の一つである。

解説

法の支配における法(Law)とは、不文法であるコモン・ローおよび国会が制定する個々の法律(a law、laws)を含めた全法秩序のうち、基本法(Fundamental laws)のことを指す。基本法は、形式的意義の憲法(憲法典)と区別する意味で、実質的意義の憲法と呼ばれている[注釈 6]。アメリカ合衆国、日本では、成文憲法典を制定されているので、基本法は原則として憲法典のことを指すが、それに限定されるわけではない[注釈 7]。

法の支配は、国会が権限を濫用して被治者の自由ないし権利を侵害することがあり得ることを前提とするものであって、権力に対し懐疑的で、立憲主義、権力分立と密接に結び付いている。

ただし、どのように権力を分離するのかはその国の歴史によって異なり、合衆国のように厳格に三権に分立するというものでは必ずしもなく、イギリスのように議会と裁判所を明確に分離しないというような国もある。詳細は英国法#歴史を参照。

法の支配は、名誉革命によって近代的憲法原理として確立したものであり、上掲のヘドリィの庶民院での演説によって明らかにされているように民主主義とも密接に結びついている。

ただし、イギリスのように立憲君主制とも、合衆国のように共和制とも結びつき得るものであり、その国の歴史によって異なる多義的な概念である。ここでいう共和制とは、人民主権の下、選出された代表者が権力を行使する政体のことである[13]。

その目的は、人の支配を排し、全ての統治権力を法で拘束することによって、被治者の「権利ないし自由」を保障することである。

法の支配は、戦後現代的変容を余儀なくされており、その多義性ゆえ議論は錯綜を極めている。

ダイシーと法の支配

法の支配を理論化したのは、ダイシーの『憲法序説』であり、以後国会主権(Parliamentary Sovereignty)と法の支配がイギリス憲法の二大原理とされるようになった[14]。

ダイシーによれば、法の支配は以下の三つの内容をもつものとされる。

専断的権力の支配を排した、基本法の支配(人の支配の否定)

すべての人が法律と通常の裁判所に服すること(法の前の平等、特別裁判所の禁止)
具体的な紛争についての裁判所の判決の結果の集積が基本法の一般原則となること。

(具体的権利性)

ただし、ダイシー流の法の支配に対しては、ダイシー自身の政治思想や当時のイギリスの政治状況、例えば、コレクティビズム(集産主義)という概念を作り出し批判するのは、自身の政治信条であるホイッグを擁護する点にあるのではないか、フランスでは行政行為に司法審査が及ばないと誤解したことに端を発する行政法に対する不寛容、法の支配の第3番目の内容は国会主権を否定するに等しいなどジェニングズ(W.I.Jennings)による体系だった批判がなされているが、ダイシー流の法の支配は現在でもイギリスの公法学界において多大な影響力を有している[15]。

また、国会主権と法の支配との関係については、ハートVSロン・フラー論争を代表に議論がなされているが[16]、ダイシー流の法の支配は、国会を上訴権のない裁判所ととらえることなどにより国会主権が多数者支配を是認するものとはとらえず、コモン・ローの伝統的理解にむしろ忠実なものであるとの理解がイギリスの公法学界では通説とされている[17]。

法の支配と法治主義

大陸法系においては、ローマ法が普及するに伴い「法の支配(Rule of Law)」は衰退し、19世紀後半にドイツのルドルフ・フォン・グナイストが理論的に発展させた「法治主義」(rule by laws、独:Rechtsstaat)が浸透していった[18]。

法治主義は、法律によって権力を制限しようとする点で一見「法の支配」と同じにみえるが、法治主義は、手続として正当に成立した法律であれば、その内容の適正を問わない。
したがって、「法の支配」が民主主義と結びついて発展した原理であるのと異なり、法治主義はどのような政治体制とも結びつき得る原理である。

このような意味での法治主義を後に述べる実質的法治主義と対比する意味で「形式的法治主義」と呼ぶこともある[3]。

他方、「法の支配」の下においては、たとえ「法律(立法)」の手続を経てなされるとしても、法律の内容は適正でなければならず、権利・自由の保障こそ本質的であるとする点に法治主義との差がある。

このような違いが歴史的に生じたのは、イギリスにおいては、法とは、「古き国制」に由来する人の意思を超えたものであって、人の手によって創造され得るものでなく、発見するものであると伝統的に考えられてきたことが背景にあるとされている[19]。

もっとも、現在では、ドイツでは、法律の内容の適正が要求される「実質的法治主義」の考え方が主流となっているが、反対に、イギリスでは、アンドレ・マルモーが代表する「古き良き法と法の支配は異なる」とする論調のように、多義的な概念である法の支配に政治哲学的な価値を持ち込むこと自体を批判し、法の支配と(形式的)法治主義を同視する見解が多い。

日本での展開

日本の法体系は、長らく慣習法を基調としてきたが、近代化の推進の為、明治憲法は、プロイセン・ドイツ法に準拠することとなり[注釈 8]、以後、法体系は大陸法系を基調として、明治憲法下でも(形式的)法治主義(法律による行政の原則)は認められてきた。

その後、アメリカ法に影響を受けた日本国憲法が制定されると、日本国憲法が法の支配を採用しているものなのかが問題となったが、制定法主義をとり、判例法主義をとるものではないという前提がある以上、ダイシー流の法の支配は採用されていないという点には異論はなく、結局は多義的な法の支配の内容をどのように解するかによってその結論が導かれると解されるようになった。

現在の日本の憲法学においては、「法の支配」の内容は以下の4つとされている[3]。

1、人権の保障 : 憲法は人権の保障を目的とする。

2、憲法の最高法規性 : 法律・政令・省令・条例・規則など各種法規範の中で、憲法は最高の位置を占めるものであり、それに反する全ての法規範は効力を持たない。

3、司法権重視 : 法の支配においては、立法権・行政権などの国家権力に対する抑制手段として、裁判所は極めて重要な役割を果たす。

4、適正手続の保障 : 法内容の適正のみならず、手続きの公正さもまた要求される。この法の適正手続、即ちデュー・プロセス・オブ・ロー(due process of law)の保障は英米法の基本概念の一つでもある。

日本国憲法は、権利の保障は第3章で、憲法の最高法規性は第10章で、司法権重視は76条・81条で、適正手続の保障は31条で、それぞれ定めているので、「法の支配」を満足していると見なされている[3]。

これに対しては、日本国憲法施行の当初から、GHQによる検閲や農地改革等により権利の保障は大きく歪められ、また、最高裁の下す違憲判決の少なさから、日本において「法の支配」は十分に機能していないとする見解もある[要出典]。

このように、現在の日本の公法学において、「法の支配」という概念が広く受容されるようになったが、そのため戦前とられていた法治主義との関係が問題とされるようになった。

現在の日本の憲法学では、ドイツと同様に実質的法治主義と法の支配を統一的に理解する見解が多数であるが[20]、以下に述べるとおり両者を厳格に区別し、法の支配に一定の積極的な意義を見出す論者もいる。

佐藤幸治は、伝統的な「法の支配」における「法」という観念が自律的で自然発生的なルールという意味合いを有していることを指摘して、日本の「法律」という観念との違いに言及し[21]、法の支配を採用して、行政裁判所を廃止した日本国憲法下においても、公定力といった旧憲法下での行政法理論が生き続ける日本の公法解釈のあり方に疑問を呈するだけでなく[22]、(実質的)法治主義は行政による事前抑制に親和的であるのに対し、法の支配は司法による事後抑制に親和的で、国民の司法への積極的な参加とこれを支える多くの法曹の存在が必要であるという積極的な意義がある点に違いがあるとする[23]。

これに対して、阪本昌成は、法の観念については、佐藤と同じく自生的秩序であるとして法の支配と法治主義を厳格に区別しつつも、法の支配を主権者も法律さえも拘束するメタ・ルールであるととらえ、佐藤とは正反対に、国民に一定の行為を要求するものではありえず、むしろ法の形式に着目し、それが一般的・抽象的でなければならず、その内容も没価値的・中立的なものであることを要求するものであるとして、法の支配に政治哲学的な価値を持ち込むことに反対する。英国の公法学界の通説と結論を同じくするが、阪本の学説は、スコットランドの古典的自由主義の渓流を継ぐものなので、当然のことといえる。
国連・持続可能な開発目標2030アジェンダ

国連の2030年までに達成すべき目標として掲げる持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット16.3において、法の支配を国家及び国際的なレベルで促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供することを謳っている。[24]

脚注
[脚注の使い方]
注釈

^ lawは、ラテン系のフランス語起源の単語の多い英語には珍しく、イングランドを支配したヴァイキングのデーン人の用いた古ノルド語の「置かれた物」という言葉が語源。それが掟(オキテ)、法という意味となった。イングランド東部にはデーン(北海帝国)支配時代の慣習法などの残ったデーンロー地方がある。
^ 政治学の項参照。
^ コーク卿の『英国法提要』・『判例集』は、現在でも法の支配に関する不朽のテキストとされ、ウィリアム・ブラックストンの『イギリス法釈義』は、このコークの法思想を19世紀に継ぐべく書かれた、英国法の体系的なコメンタリーである。イギリスの植民地であったアメリカにおいては、不文法(非成文法)である英国法を知る手段は限定されたものであった中で、『英国法提要』・『イギリス法釈義』はアメリカの法曹に広く読まれるテキストとなり、アメリカ法に強い影響を与えることになる。
^ 「古き国制」の思想は、古くはジョン・フォーテスキューが主たる論者であり、後にエドマンド・バークの「時効の憲法」(prescriptive Constitution)の思想に引き継がれていくが、バークの時代は法の支配の衰退期とされている。
^ 庶民といっても、騎士(Knights)と一定の資産を有する「市民」(Burgesses)のことを指す。
^ 憲法典のないイギリス法の訳語としては、端的に「統治構造」と訳すべきとの者もいる。
^ 成文憲法典を持つ国では、最高法規である憲法に違背した制定法は無効とされ、裁判所が合憲性を判断する違憲審査制がとられているが、成文憲法典のないイギリスでは当然のことながら違憲審査制はない。成文憲法典のある国での違憲審査制の下では、合憲性判定の基準となる「憲法」は憲法典に限られ、基本法である実質的意義の憲法全てが含まれるわけではないとするのが通説である。
^ 明治十四年の政変の項を参照。

出典

^ a b 宇野p58
^ a b c d 芦部信喜『憲法(新版補訂版)』岩波書店、5頁
^ a b c d e f g h 芦部信喜『憲法(新版補訂版)』岩波書店、14頁
^ プラトン著・森進一、池田美恵、加来彰俊訳『法律(上)』(岩波文庫)255頁
^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』77頁、阪本昌成『憲法理論Ⅰ』59頁
^ Wormuth, Francis. The Origins of Modern Constitutionalism, page 28 (1949).
^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』77頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』54頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』71頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』142頁
^ 別冊ジュリスト『英米判例百選(3版)』(有斐閣)90頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』8頁
^ a b アメリカ大使館資料室「アメリカ早わかり」『米国の中央政府、州政府、地方政府の概要』 (PDF)
^ 上掲『現代イギリス法辞典』51~65、127頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』55頁
^ 上掲「現代イギリス法辞典」75頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』66頁
^ 阪本昌成『憲法理論Ⅰ』59頁
^ 上掲樋口・129頁
^ 芦部『憲法(第3版)』岩波書店、15頁など
^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』81頁
^ 佐藤幸治、田中成明『現代法の焦点』有斐閣リブレ、1987年
^ 第154回国会「参議院憲法調査会」第2号
^ “「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミット”. 外務省. 2016年11月30日閲覧。

参考文献

伊藤正己『法の支配』有斐閣、1954年
伊藤正己『英米法における法の支配』日本評論社、1950年
伊藤正己・木下毅『アメリカ法入門(第4版)』日本評論社、2008年(初版は1961年)
田中和夫『英米法概説〔再訂版〕』有斐閣、1981年
佐藤幸治『憲法(第3版)』青林書院、1995年
樋口陽一『比較憲法(第3版)』青林書院、1992年
阪本昌成『憲法理論Ⅰ』(成文堂)、1993年
戒能通厚編『現代イギリス法辞典』(新世社)、2003年
宇野重規 『西洋政治思想史』有斐閣、2013年。ISBN 978-4-641-22001-0。

関連項目

立憲主義
法治国家
国際法律家委員会
欧州評議会
法の支配ミッション
デュー・プロセス・オブ・ロー』

中国、対米関係再悪化を懸念 首脳会談の成果に冷や水

中国、対米関係再悪化を懸念 首脳会談の成果に冷や水
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM193CE0Z11C22A2000000/

『【北京=羽田野主】米議会が対中強硬姿勢を強めていることについて、中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は一時的に緊張が緩んだ米中関係が再び悪化することを懸念している。2022年11月の習氏とバイデン米大統領との首脳会談の成果に冷や水を浴びせられかねないからだ。

習氏とバイデン氏は11月中旬、インドネシア・バリ島で約3時間にわたり対面会談した。中国側は首脳会談により米中関係は悪化に歯止めがかかったと評価してきた。

米中高官の往来も活発になり、12月には米国のクリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)らが訪中し、謝鋒外務次官と河北省で会談した。23年1月にはブリンケン米国務長官が訪中する予定だ。

習指導部はブリンケン氏の訪中が緊張緩和に向けた当面の山場とみてきただけに、米下院による特別委員会の設置には神経質になっているとみられる。中国共産党系メディアの環球時報は13日付の社説で「中米関係を本当によくしたいと思うのなら、米国は裏表のある行動をとることはできないはずだ」と主張した。

中国は共産党が立法、行政、司法のすべてを指導し、国会にあたる全国人民代表大会が習氏の意向と異なる決定をすることはありえない。米国の三権分立を頭では理解していても、腹の底では信じていないフシがある。

このため、米議会がバイデン大統領の方針と異なる行動を取ると「議会の裏では政権の意向が働いている」と疑いがちだ。実際、8月にペロシ米下院議長が台湾を訪問した際も、中国外務省の報道官は「米議会は連邦政府を構成する一部だ。米国の『一つの中国』政策を厳守せよ」とバイデン政権を批判していた。

【関連記事】米下院、中国特別委を年初設置 新委員長「共産党は敵」』

https://nkis.nikkei.com/pub_click/174/REchOH1XPgK5L9YtK2y_wM801vxiK7_p6WRes0I5dkAZ6l_xDpBRHOSnM35SMNUaffofXvRQopBqJZJ5oQIOh5eBOopUT0GhyEo4UdiMrRouSLeRV18y2KwZmplQBYdIt7MbRzgIQubZc-TFlSlUhEwRP1H1pI_Y6pkmpx0Iy3nSNbFXFAZE_hifwBRIgr4BWht6dFQuJZUqOBsEXBMYA_0pRv3nYfqEU4Zljupsk1tkXomI1pakHC1q8JxZEqBwAbIpyuOmi33hLGZzI09afo_1OHTJyUGce3UY7BlX5b6F5fc7nJC2sY5vh570hVLZHpT00Q5BHdKVoQ8_f-g0iRyvKx9glfhRxv4l_wD73xEqwHLDgSUAQPwXDrCNxEMgHaFK4_4STCwGElyWhfQDFx-t6GdcezJxyX-PLil6jLDhMwH9rpbtlGNQD4927WPk5kOFhNV7u-PVcSCRe5s4i2iDPlHxerci1tuVap8CmMfVlT1xnfaGwoumC6T3//113417/151711/https://www.nikkei.com/promotion/campaign/line_friend/?n_cid=DSPRM1DP01_2022linea

ドイツで国家転覆計画、陰謀論と極右共鳴 民主主義試練

ドイツで国家転覆計画、陰謀論と極右共鳴 民主主義試練
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR113LY0R11C22A2000000/

『【ベルリン=南毅郎】ドイツで国家転覆を計画した疑いでテロ組織が摘発された事件の全貌が明らかになってきた。主犯格は貴族出身の「ハインリッヒ13世」を名乗る71歳の男で、現役の裁判官や軍人も一斉に逮捕された。過激な陰謀論を唱える「Qアノン」と極右が共鳴し「第二帝国」の復活を狙っていたとされる。

インターネットを通じた陰謀論の浸透が、米欧の民主国家にとり大きな試練となっている。

ドイツ東部チューリンゲン州。保養地で知られるバート・ローベンシュタインは騒然となった。ハインリッヒ13世が所有する狩猟小屋が武器倉庫になっている――。覆面をかぶった捜査員が7日に突入した。

独検察当局はテロ組織に参加した疑いなどで25人を逮捕した。遅くとも昨年11月までに活動を始め、独連邦議会を襲撃する準備など、クーデターによって独自の国家樹立を企てた疑いがある。さらに逮捕者は膨らみそうだ。フェーザー内相は11日付のドイツ紙ビルトで、銃規制の強化に乗り出す考えを示した。

主犯格は2人とみられている。1人は現在のチューリンゲン州の一部を支配していた貴族ロイス家の子孫にあたる、ハインリッヒ13世。一族と距離を置き、極右思想に傾倒していたという。同じく逮捕されたロシア人の容疑者を代理人として、ロシア政府と接触を試みた疑いもある。

もう1人はドイツ連邦軍のエリート、空挺(くうてい)部隊を指揮していたフォンペスカトーレ元中佐。ハインリッヒ13世を頂点に独自の武装集団を立ち上げようとした疑いがある。陸軍の特殊部隊である「KSK」のメンバーも捜査対象となり、警察や軍の関係者を引き込もうとしていた。

ドイツではかねてドイツ至上主義や反ユダヤを掲げるネオナチの存在が危険視されてきたが、今回は1国にとどまらない危うさがある。Qアノンの影響が色濃いためだ。

2017年に謎の人物「Q」がネット掲示板に投稿を始め、米国を中心に拡散した陰謀論であるQアノン。「ディープステート(闇の政府)」が世界を操っているなどと主張し、著名人を小児性愛者と決めつけたり、新型コロナウイルスに関する偽情報などを広めたりしてきた。

トランプ前米大統領の支持者らが賛同し、21年1月に起きた米連邦議会占拠事件にも信奉者が加わっていた。

ドイツのクーデター未遂では、極右勢力「ライヒスビュルガー(帝国市民)」が関与した疑いもある。独検察当局は事件の思想的な背景について「Qアノンのイデオロギーと帝国市民の物語からなる陰謀神話の集合体」と分析する。

帝国市民は東西ドイツ統一前、冷戦時代の1980年代からの右翼活動が底流にある。表だった行動に乏しく、実態をつかみにくい。第2次世界大戦後の民主国家としてのドイツの歩みを認めず、ビスマルク時代のドイツ帝国に倣い、第二帝国の復活をもくろむ。

Qアノンに代表される過激な陰謀論は、SNS(交流サイト)や動画サイトなどを通じて世界中で閲覧でき、各国の事情に即した「翻訳」が増殖する。非合法、暴力手段で政治主張をかなえようとする極右との共鳴は容易だ。

独連邦刑事庁などによると、帝国市民のメンバーは21年末時点で約2万1000人とされる。うち1150人は過激派で、およそ500人は合法的に銃を所有する。フェーザー内相によると、直近は2万3000人にまで増えるなど着実に勢力を広げる。16年には南部バイエルン州でメンバーが警官を殺害する事件も起きている。

今回摘発された組織や帝国市民が、現時点で国家転覆を実行できるほどの力を備えているとの見方は限られるが、フェーザー氏は「過小評価してはいけない」と話す。

ドイツでは、ウクライナ危機によるエネルギー価格高騰への不満が広がり、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を伸ばしている。今回の事件ではAfDの元議員で現職の裁判官も逮捕された。

陰謀論は暮らしや雇用の安定に不安を抱く人々の心理につけ込み、土壌とする。インフレに苦しむ世界にあって、民主主義をむしばむ影響力は無視できないものとなっている。

【関連記事】

・ドイツ検察、国家転覆未遂で25人逮捕 議会襲撃を計画か
・ショルツ首相「ドイツは堅固」 国家転覆未遂事件で 』

来年3月に第2回民主サミット ウクライナ情勢、気候変動で結束へ

来年3月に第2回民主サミット ウクライナ情勢、気候変動で結束へ
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022113000251&g=int

『【ワシントン時事】米国、コスタリカ、オランダ、韓国、ザンビアは29日共同声明を出し、第2回「民主主義サミット」を2023年3月29、30両日にオンライン形式で開催すると発表した。ロシアによるウクライナ侵攻や気候変動、技術革新など差し迫った課題に対応するため、民主主義国の結束を誇示する。

 各国首脳らの全体会合が開かれた後、それぞれの国で政府や市民社会の代表者らが集って民主主義の活性化などについて意見交換する。参加国は明らかになっていない。 』

人類の到達した頂点・民主主義も原理は雨乞いと変わらない。

人類の到達した頂点・民主主義も原理は雨乞いと変わらない。
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/30158520.html

 ※ この文脈で行くと、「不正があった!」と主張して、「降りることを、ゴネている」某元大統領とかは、どう位置付けられるんだろう…。

『先日、娘がテロに見舞われて爆死した、ロシア極右愛国主義の思想家のドゥーギン氏が、ロシア軍のヘルソンからの無抵抗撤退について、プーチン氏を激しく非難しています。ヘルソン付近には、ほぼ軍事訓練を受けていない動員兵が、弾除けとして前線に配置され、短期間に死体の山を築いていたのですが、その間に正規軍はドニエプル川を渡って、東岸に到達し、大部分の撤退に成功した模様です。

やむを得ない戦略的な撤退なのですが、国粋主義者というのは、結果で物事を判断して批判しますので、殆ど無抵抗でウクライナにヘルソンを明け渡した事自体が気に食わないらしく、かなり厳しい言葉で非難しています。その非難の中で、面白い表現が使われていたので、抜き出したいと思います。

「専制とは何か? 為政者に全ての権力を与える事である。為政者は危機的な状況において、人々を救ってくれること。その為には、不愉快な事も我慢してきた。しかし、もしも救ってくれないとしたら、『雨を
降らせなかった王のように犠牲になる運命だ』専制には、2つの面がある。成功に際しての、あらゆる権利。失敗に際してのあらゆる責任。そして、撤退の責任は、軍ではなくプーチン大統領にある。プロパガンダで覆い隠す事はできない。ヘルソンの無抵抗撤退は、ソ連邦崩壊以来の敗北である。欧米との全面戦争と認識し、イデオロギー的にも国家への統制を強化して、総動員体制へ移行すべきである」

以上は、ドゥーギン氏が自身のブログに掲載した檄文です。ここで、注目して欲しいのは、二重括弧にしてある一文です。つまり、独裁国家においては、結果に対する全ての栄光と責任が、独裁者個人に属するので、成功すれば英雄として称賛され、失敗すれば全ての責任を取らされるという事です。そして、雨乞いで雨を降らすのに失敗した王という例えは、昔の原始的な集落で、呪術師が干魃に際して、雨乞いの儀式をして、雨が振らなかった場合に、村人から処刑されていた事を暗喩しています。

ここに独裁国家の制度的な欠陥を見る事ができます。頂いた独裁者の采配次第で、国民全体が利益も損出も被り、それは、時には自分の命を国家に差し出す犠牲を要求するという事です。以前の投稿でも述べたように、独裁者の健康・気力が、国家の衰退とリンクするのが独裁国家です。その為、プーチン氏は、上半身裸で馬に跨って乗馬する姿や、黒いレザージャケットを着て大型バイクに跨る姿や、柔道で巨漢を投げ飛ばす姿を国民に見せなくてはならないのです。あれは、ナルシズムで、やっているわけではありません。国民が安心する為に、その姿を見る事を望み、国の治安を安定させる為に、「強い指導者」であり続けなければ、ロシアという国が綻びるので、やっているのです。

これを例えるならば、村にたった一人しか存在しない「カリスマ呪術師」に、命運を託して雨乞いの儀式をする部落と言えます。そして、雨を降らす事ができなければ、呪術師は処刑され、代わりに儀式を続ける者がいないので、天候の気まぐれで、その部落は飢餓で全滅する事になります。

では、人類が到達した最高点の政治制度と言われる民主主義とは、独裁専制と較べて、どれだけマシなのでしょうか。実は、余計なフィルターを外して見ると、独裁国家で失敗すると呪術師が殺されるのに対して、呪術師が地位から降ろされて、別の人間に交代するのが保証されている点が違うだけです。干魃が起きた時に、雨を降らせる能力があると信じられている呪術師が、雨乞いの儀式を行いますが、失敗しても、彼は殺されません。必ず次点の要員が用意されていて、交代し、今度は控えの呪術師が儀式を続行します。それが、制度として保証されているのが民主主義です。

投票で問題に対処するリーダーを決めたとしても、その人物が必ず有効に対処できるとは、限りません。うまくいかないと判断されたら、そのリーダーを降ろして、別のリーダーを頂きます。部落の将来は、特定の人物ではなく、部落で選んだ、「問題が解決できそうな」人物に、次々と交代し、そのうちの誰かが問題を解決すればよしで、できなければ、やはり全滅するのは独裁国家と同じなのです。その解決の方法は、何も祈祷を続けるだけでなく、「この地を捨てて、他所の土地へ移り住もう」でも、「用水路を築いて川から水を引いてこよう」でも、よいのです。部落が干魃で絶滅しそうという状況に対して、問題解決の方法を提示できた人物が、次のリーダーになります。

未来が誰にも確実に予想できず、どんな問題が発生するか判らない以上、特定の誰かの能力に全面依存するではなく、スペアーとも言うべき人材をストックしておいて、問題が解決するまで、トライ・アンド・エラーを繰り返す。民主主義と言っても、客観的に評価すれば、確率で生き残る精度を高めただけのシステムです。干魃が何年も続けば、どんな制度を持つ部落でも、餓死して全滅しますし、何かしらの解決策を絞り出して、犠牲者は出しても部落の一部は生き延びるかも知れません。それは、制度の優劣で決まるというよりは、制度によって、生存確率を可能な限り上げたのが、民主主義です。

その制度の特色上、選挙などに手間と費用がかかりますし、議会で論議をするので、意思決定が遅く、それは、しばしば民主政治の問題として話題になります。しかし、それでも、「オール・オア・ナッシング」の個人の資質に国家の命運を全てベットする独裁政治より、マシであると一般的に考えられています。独裁政治の最大の害悪は、呪術者が屈強なボディーガードで身辺を固めた場合、村人が打ち殺そうとしても、それが不可能になる場合がある事です。つまり、まったく問題の解決にならない祈祷を、その人物個人が諦めるまで、部落民の全てを巻き込んで続ける事が可能です。

そして、ドゥーギン氏がプーチン大統領を批判する例えとして出してきたのが、まさに『雨を
降らせなかった王のように犠牲になる運命だ』という言葉です。つまり、雨乞いに失敗した呪術師は、部落民によって誅殺されるべきだと言っているのです。雨を降らせる云々の言葉が、突然出てくるので、何事かと思いますが、ロシア正教的発想だと、国の指導者の立場は、神に選ばれた人物に下賜された権利であると考えるので、神の恩寵を失った呪術師に用は無いのです。

一見、高度に発達したかのように見える現代の政治制度ですが、原理から言うと、部落の生命を脅かす問題に対して、どう向き合うかという事に対して、確率で生存率を高めたものでしかありません。しかも、比較する対象は、原始時代の集落です。そして、恐らくは、これ以上、政治の原理的なシステムが進化する事はありません。ここで、打ち止めです。それゆえに、予測が不可能な問題に対して、特定の価値観に基づく「思想や宗教」で、政治を行ってはいけないのです。問題の解決は、是々非々の議論を経て、最も良いと思われる対処を選択するしか、やりようがありません。ここに、「神様がこう言っているから、こうするのが正しい」とか「思想的に、これが正しいから、こうするべきだ」という、根拠の無い方向性を持った硬直した考え方が、意思決定に入ってくると、部落が全滅する確率が上がります。』

「普通の国」と戦後民主主義

「普通の国」と戦後民主主義
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA17AW00X11C22A0000000/

『「ウクライナはこんなひどい目に遭っているのに、なぜ日本は武器を支援しないんだ。普通の国(normal country)とはいえない。価値(value)の判断もできない国なのか」。欧州のある国の外交官は今春、日本の外務省幹部をこう非難した。

日本は防衛装備移転三原則や国内法の規定があり、殺傷能力がある武器は出せない。ヘルメットや防弾チョッキを送ったものの、海外からは「銃弾の雨を受け止めろ」と突き放したようにも映る。

外務省幹部は「価値判断という表現は『善悪すらわからない国』という意味に感じた」と振り返る。

苦い記憶がよみがえる。1990~91年にイラクがクウェートに侵攻した際、日本は総額130億ドルを拠出した。「カネで済ませる国」との評を受けた。すると93年、小沢一郎氏の著「日本改造計画」は普通の国への変革を訴えた。

「国際社会において当然とされていることを、当然のこととして自らの責任において行う」と訴えた。日本はそれから自衛隊の海外派遣や集団的自衛権の行使容認などを実現し、普通に近づいたはずだった。

冒頭の外交官は「ドイツですらやった」とも言及した。批判の根っこにはドイツとの比較があった。

90年の統一後、ドイツは北大西洋条約機構(NATO)内で軍事負担を期待され、海外派兵も始めた。普通の国も論点になった。一方で第2次大戦の敗戦国で周辺は軍備拡張を警戒する。日本と同様、平和主義で軽武装・経済重視の印象がある国だった。

今回、ドイツは多連装ロケットシステムや地対空ミサイル、りゅう弾砲の供与を決めた。ウクライナ侵攻直後には国防費の大幅増を表明し、世界を驚かせた。日米欧は「自由や民主主義、法の正義が大事」と国際舞台で唱えてきた。言行一致は当然、という感覚だ。
日本の岸田文雄首相らG7の首脳はウクライナのゼレンスキー大統領へ支援を表明してきた。(10月11日、オンラインでの協議。画面右はドイツのショルツ首相)=AP

遅ればせながら、日本はもうすぐ普通の国へかつてない一歩を踏み出す。年末の国家安全保障戦略などの改定だ。国内総生産(GDP)比でほぼ1%以内の防衛費は大幅に増やす。敵基地に反撃する能力を示し、防衛装備品の供与や輸出の基準も緩和を探る。

戦後日本の3つの自縄自縛を解く話だ。国民総生産(GNP)1%枠、専守防衛、武器輸出三原則といった昭和の用語は従来以上に「過去の遺物」になる。

世論も準備はできている。内閣府が3月に公表した世論調査では「国民全体と個人の利益のどちらが大切か」の質問に「国民全体」と回答した人は61%にのぼる。「国や社会か個人生活か」に「国や社会」と答えた人は58%だった。

調査は40~50年ほど前からしている。単純比較はできないものの、どちらも今回は過去最高値だった。かつて「戦後民主主義は個人主義」ともいわれたが地殻変動が起きている。

「国家は与えられるものではなく、われわれが作るもの」「主権者なら自分が国家の立場ならどうするかを絶えず考えなければ」。半世紀前、哲学者の田中美知太郎は説いた。

当時の「国や国家は論じることも悪だ」という戦後民主主義の空気に警鐘を鳴らす言葉だった。半世紀で空気は変わった。

報道各社の最近の世論調査では防衛費増額への賛成も多い。ウクライナ侵攻や中国・北朝鮮の脅威を踏まえ、主権者としての責任をもって考える人が増えているのかもしれない。

国家や防衛のあるべき姿、普通の国とは何か――。戦後史の節目になる議論は単なる賛成・反対では不十分だ。建設的な国家論を主権者は期待している。政治家は分かっているだろうか。(佐藤理)

【関連記事】死が約束する安全保障 自由・民主主義の代償

【関連記事】不条理と不正義、暴力の世界 日本に必要な現実主義

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
コメントメニュー

分析・考察

戦後民主主義は大戦中の反省から生まれたものではあるが、その時に前提とした問題、すなわち「権力やその権力の動力ベルトとなる国家は放っておけば悪となる」ということと、ゆえに「憲法による権力の制限と、その憲法を守ることを規範として定着させる」というプロジェクトが、ついに現実の世界の変化に直面し、変更を迫られるようになっている。国家や権力は悪なのか、それとも何らかの価値を実現するためのツールなのか。その価値とは何を指すのか。これまで考えずに済んできたことが改めて問われるようになっている。
2022年10月23日 23:13』

旧統一教会が牛耳る「日本の選挙の民主」と「中国の民主」

旧統一教会が牛耳る「日本の選挙の民主」と「中国の民主」_中国「わが国は民主的だ」世界ランキングで1位
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220828-00312339

 ※ 中○が、「民主国」とか、何のブラックジョークだよ…。

 ※ まあ、共産主義では、「国民主権」の代わりに「人民主権」、「三権分立」の代わりに「民主集中制」とか、言ってるからな…。

 ※ そもそも、「民主」の概念が違っているんだろう…。

 ※ かの国では、「英語教育」も禁止(「間違った」知識を習得してしまう危険性があるので)らしいからな…。

 ※ そういう「人民」対象にアンケート取って、何の意味があるんだ…。

 ※ 『選挙は「民意の表現」ではなく「民意の消滅とリセット」へと導くのが「日本の選挙と民主」だ。』…。

 ※ ちょっと、何を言っているのか、よく分からない…。

 ※ 民意の「消滅」とは、何を指しているのか…。

 ※ 民意は、その時その時で、変化する…。よって、衆議院は、「解散」という制度があって、平均「2.3年くらい」で「総選挙」がある…。参議院は、「良識の府」として、解散が無く、6年の任期(3年毎に、半数が改選)を与えられて、「政治の安定」「アンカーの役割」が与えられている…。

 ※ 選挙結果によって、「前の選挙」での「支持」はチャラになり、新たな「民意」で上書きされる…。

 ※ まさに、「民意のリセット」が制度に組み込まれている…。

 ※ そうやって、常に「民意の支持」があるのか否かを問い、制度として取り込んでいるんだ…。

 ※ そこが、まさに「民主主義の根幹」だ…。

 ※ 文句があるなら、とっとと「導入して」やってみればいいだけの話しだ…。

 ※ それともう一つ言っておきたいのは、「アンケート」と「選挙結果」は、全然別物…、ということだ。

 ※ 「アンケート」は、単なる「ご意見伺い」に過ぎない。

 ※ 「選挙」は、「政権選択」の国民の意思決定だ(主権者国民の、主権行使の一つ)…。

 ※ 「選挙」を「アンケート」で代替することは、「できない」…。

 ※ 「アンケート」結果、「世論」なんてものは、「選挙」で政権取った「政策担当者」が、「政策実行」の「ご参考」にすれば足りる程度のものだ…。

『53ヵ国を対象としたNATO傘下の世論調査「あなたは自国が民主的だと思うか?」で、中国が世界一となった。その背景には米中関係があるが、統一教会に牛耳られている「日本の選挙と民主」とを比較考察したい。

(本稿では、旧統一教会は「統一教会」と略記する。)
◆「わが国は民主的だ」 世界ランキングで中国が1位

 日本では統一教会と自民党議員などとの長きにわたる深い癒着が次々と暴かれ、まるで日本の政治が統一教会によって動かされていたような不気味さが漂っている。

 そのような中、8月23日にEUメディアのウェブサイトmodern diplomacyに調査研究歴史家のエリック・ズエッセ氏が<53カ国のNATO所属(機関)の世論調査で、中国人が最も「自国を民主的だ」と思っていることが判明>という見出しの論考を公開した。

 それによればNATO傘下の「民主主義同盟」が53ヵ国を対象に世論調査を行ったところ、中国人の83%が「自国は民主的だ」と考えていることがわかり、これは調査対象となった53ヵ国の中で最も高い割合だったというのである。第2位はベトナムで77%、3位と4位は同点のフィリピンと台湾で、75%だった。

 53ヵ国すべての平均は 56%だが、アメリカは平均よりも低い49%で、順位はコロンビアと同点で並び、第40位&41位だったという。

 対ロシアのアメリカ軍事同盟であるNATOが、敵対国家として排斥しなければならない標的リストの中に入れることを検討している中国が、NATO傘下の民主主義同盟が調査した53ヵ国の中で、「自国は民主的だ」と考えている「民主化度」において第1位で、中国を非民主的国家として排斥しようとしているアメリカが、民主化度認識において第40(もしくは41)位というのは、いったいどういうことかと、エリック・ズエッセ氏は皮肉っている。

 したがって、「その国に住んでいない人々が保持しているその国についての見解は、与えられた外国の報道機関の表現ミスによるものかもしれない」と考察し、その報道は「特定の敵国」に対する「期待的見解」であるかもしれないと警告を発している。

 それを筆者なりの言葉で表現すると、以下のようになろうか。すなわち、

 ――現在、アメリカや日本には「民主主義国家vs.専制主義国家」という価値観外交の概念があり、特に「中国の国家運営が不透明で、非民主的である」という批難を基本とした対中包囲網がアメリカを中心とした西側諸国によって形成されている。では、その批判対象となっている「中国はどれくらい非民主的か」ということを考察すると、データとして表れたのは、中国人が世界で最も「自国は民主的だ」と思っているという結果で、民主の旗頭として世界をリードしていこうとしているアメリカの国民は「自国は民主的だ」と思っている人が半数以下しかいない。したがって、他の国が特定の国を「非民主的だ」と非難したとしても、その国の国民が自国を非民主的だと考えていない場合には正当性を欠く。自国民が自国をどう考えているかに関しては、客観的なデータで把握しなければならない。

 こんな感じになろうかと思う。

◆日米は、どれくらい「自国は民主的だ」と思っているのか?

 実は、この世論調査の結果自身は今年5月30日に<民主主義認識指数2022>として公開されている。

 この報道によれば、民主主義認識指数(DPI)は、民主主義に関する世界最大の年次研究で、50ヵ国以上を対象とし、世界人口の75%以上の民意を代表しているとのこと。そこで、5月30日に公開されたデータを基本として、<民主主義認識指数 2022>に付記してある過去3年のデータから、米中日3ヵ国のデータを拾って以下のような図を作成してみた。

「民主主義認識指数2022」のデータを基に筆者作成

 アメリカ国民(青色)は総じて自国が民主的だとは思っておらず、日本(黄色)も類似の情況にはあるが、2022年になってやや上向きであるのは、2021年の情況を反映しているので、2020年あるいは2021年に何が起きたかを考えると、自民党総裁選挙なのに国民に向かって必死で主張を展開したからかもしれない。

 驚くべきは、やはり、中国人民(赤)がこんなに高い割合で「わが国は民主的だ」と思っているという事実だ。しかも年々増加している。

◆中国人民は、なぜ「わが国は民主的だ」と思っているのか

 それではなぜ、中国人民は「わが国は民主的だ」と思っているのかを考察してみよう。

 残念ながら2018年以前のデータを得ることができなかったが、少なくとも2019年のデータを見る限り、まだ57%ではあるものの、日米を抜いて抜群に大きい。これは2018年の世相を表したもので、何と言ってもアメリカの対中制裁が始まった年であったことが最も大きな要因であろう。

 対中制裁は2017年末から始まったが、誰の目にもアメリカ経済が中国経済に抜かれないようにするための制裁であることは歴然としている。特に習近平が2015年に発布したハイテク国家戦略「中国製造2025」の「危険性」を感知した当時のトランプ大統領が、宇宙領域やハイテク産業領域で中国がアメリカを追い抜こうとしていることに気づき、それを徹底して抑え込もうとしたものであることは明らかだろう。

 そのとき同時にアメリカで進行したのが黒人に対する人種差別問題だった。

 最も大きかったのは、2021年1月6日、大統領選挙による不正を訴えたトランプ支持者が、アメリカの議事堂に乱入した事件で、それまでまだ中国の若者の間にいくらか残っていたアメリカへの憧れ、「アメリカは民主的な国家だ」と信じていた気持ちを、一気に挫(くじ)かせてしまった。どれだけ多くの中国人民がアメリカの「民主」に幻滅し、「アメリカの民主など、少しも良くない」と痛感したかしれない。

 2022年のデータは、2021年の世相を反映しているので、アメリカ民主への幻滅と、バイデン政権になってから陰湿になってきた対中包囲網に対する反感も手伝い、2022年のデータは、「83%」と、大きく跳ね上がったものと解釈できる。

 中国では中国共産党による一党支配体制という明確な大原則があり、その上での国家運営に対して、中国人民は「他国と比べれば比べるほど、自国は民主的だ」と思うようになっているのである。

 特に8月26日のコラム<和服コスプレ女子拘留 習近平政権は反日を煽っているのか? 日経新聞が中国ネットを炎上させた大連京都街>にも書いたように、ネットの力によって当局を動かすことができるという現象は、10億を超えるネットユーザーの心を一定程度満足させている。中国では赤ちゃんや超高齢者以外のほとんどすべてがスマホなどを通してネットにアクセスしているので、ネットの民意は全人民の民意に近いと解釈できる側面も持っている。

 普通選挙がない分だけ中国政府はネット民意に敏感で、一党支配を維持するために「民意の反乱」が起きないように、非政治的なものであれば民意に即応する傾向を持つ。そうでないと一党支配体制が覆る危険性を孕んでいるからだ。

 事実、2018年の民主主義同盟の調査では、以下のような考察が述べられている。

 ――調査データによると、厄介なのは、「国民の自国政府に対する幻滅」が、非民主主義国家においてよりも、民主主義国家における方が大きいという発見だ。驚くべきことに、民主主義国家の国民の64%が、政府が国民の公共の利益のために行動することは「めったにない」あるいは「まったくない」と回答している。アメリカやイギリスなどは長いこと自由世界のリーダーとみなされてきたが、国民の3分の2以上が、自国の政府は自国の利益のためにさえ行動していないと考えている(概略引用以上)。

 では、誰のために行動しているのか。

 自分自身のためにしか行動していないという典型的な例が、今般の統一教会と自民党議員を中心とした、長い期間続いてきた深い癒着だ。

◆選挙を「民意の消滅とリセット」に持っていったのは誰か?

 信じがたいほどの闇が、いま日本の政治を覆っている。

 それは戦後政治の大半を覆してしまうような、恐ろしい闇の世界だ。

 岸信介元総理が、統一教会の開祖・文鮮明氏と1968年辺りに会って「反共・勝共」で意気投合して以来、自民党と統一教会の関係は脈々と続いてきた。

 特に岸元総理とも懇意にしていた統一教会初代会長・久保木修己氏の遺稿集『美しい国日本の使命』が2004年に出版され、2006年に安倍晋三元総理が『美しい国へ』を出版したことのアナロジーや、自民党が提案している憲法改正案が統一教会の教義に酷似していることなどを考えると、日本の政治の骨格が統一教会によって形成されているのではないかという不気味さを覚える。

 何よりも衝撃的なのは、選挙において統一教会が強力な集票の役割を果たしていたことで、国会議員などの立候補者は、何としても当選したいために統一教会のサポートにすがり、統一教会は国会議員の後ろ盾を得て布教を強化していくという「悪循環(相互補助?)」が出来上がっていることだ。

 日本は「普通選挙」をしている国として、「民主主義国家」の範疇に入っているわけだが、選挙そのものが統一教会という集票マシーンで成り立っているとすれば、国民がどんなに政治に不満を抱いたとしても、「選挙をすればリセットされる」という「民意の消滅」が選挙によって具現化される。

 選挙は「民意の表現」ではなく「民意の消滅とリセット」へと導くのが「日本の選挙と民主」だ。

 これが「民主主義同盟」の世論調査の結果に表れている「自国は民主的だ」と思っている国民の割合の数値の低さの原因を示しているのではないだろうか。

 少なからぬ国会議員が、国家のためでも国民のためでもなく、自分の利益のために立候補し、自分が当選するためなら手段を選ばない日本と化してしまった。

 おまけに「反共勝共」から出発したはずの統一教会は、実は日本は朝鮮半島を侵略した原罪があるので、日本人から金を巻き上げ韓国に還元させるのは当然という、何やら「反日色」に基づいた霊感商法がまかり通っているようだ。その「反日的要素を持つ」統一教会に、嫌韓の自民党議員が支えられているという、この捻じれた関係のおぞましさよ!

 自民党議員がどんなに「今後は関係を持ちません」と誓ったところで、「選挙」を「民意の消滅とリセット」に追い込んでいった「日本政治の責任」を徹底して追求し、それを許してしまったた日本の精神的土壌と社会構造を根本的に見直さない限り、日本人の悲劇は続くだろう。
遠藤誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。』

参院選後、静かな環境で発議を 自民・古屋圭司改憲実現本部長―与野党インタビュー

参院選後、静かな環境で発議を 自民・古屋圭司改憲実現本部長―与野党インタビュー
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022050200493&g=pol

『―憲法改正の現状は。

 昨年の衆院選で、われわれは政権公約に改憲を目指すとはっきりうたい、信任を得た。今は憲法改正実現本部の中にタスクフォースをつくり、数多くの改正への正しい理解増進の集会開催を進めている。

 ―集会開催の反響は。

 やっぱりウクライナの問題がある。緊急事態に何をしなければいけないか。ウクライナは外出制限などをしているが、日本はできない。憲法上の規定がないからだ。自分たちの国を守るために努力しなければいけないことを、みんな皮膚感覚で分かりかけている。憲法は不磨の大典ではないことを理解してもらうことが必要だ。

 ―衆院憲法審査会で、緊急時のオンライン国会審議は現行の憲法上認められるとの報告書を決定した。

 かつて憲法審は全く動かなかったが、今は様子が変わった。報告書を採決で取りまとめた。これは大きな一歩だ。憲法審では国会議員の任期について、大規模な災害が発生した場合にどういう対応ができるかという議論もしている。公明党も、これは明文規定だから改正する以外にないと言っている。

 ―立憲民主党が主張するCM規制の議論に関しては。

 憲法審の議論に委ねたい。どうするかは憲法審の幹事会で決めてもらう。CM規制がなくては国民投票ができないということではない。

 ―自民党などが提出した改憲の国民投票法改正案の扱いは。

 これは既に改正された公職選挙法の項目を反映させたもので、中身的には何の問題もない。ただ、この国会で成立させるかどうかは参院の状況もあるので、よく見極めて対応していく。国会は与野党協議だ。われわれがこうしたいと言って、全部通用すればこんな楽なことはないが、それはできない。

 ―参院選に向けて改憲の必要性をどう訴えるか。

 全国で集会を開催しているので、改憲に関する意識は高まる。おのずから参院選のテーマの一つになってくることは間違いない。

 ―参院選後、衆院解散がなければしばらく国政選挙がない。改憲発議のタイミングは。
 全く個人的な考えだが、参院選で自民党が一定の評価を頂ければ、当面、常識的に考えて国政選挙はない。この間に発議するのが、静かな環境でできると思う。 』

緊急時こそ国会機能維持 公明・北側一雄憲法調査会長―与野党インタビュー

緊急時こそ国会機能維持 公明・北側一雄憲法調査会長―与野党インタビュー
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022050200564&g=pol

『―現行憲法の評価は。

 日本国憲法は非常に優れている。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三原則は時代が変わろうと堅持すべきだ。ただ、脱炭素や地球環境問題、急速なデジタル化など当初想定していないものもある。必要な改正はしなければならない。

 ―今後の党内議論は。

 党内では当面、環境問題とデジタル化、緊急事態で詰めた議論を行う。

 ―緊急事態の議論が国会の憲法審査会で活発だ。

 大いに評価していい。日本は災害が多く、新型コロナウイルス感染は3年目だ。ウクライナ情勢もあり、緊急時にどう国会機能を維持するか議論できている。最初の議論は「オンライン国会が憲法上可能か」だったが、これをまとめたのは非常に大きな成果だ。

 ―国会議員の任期延長は。

 多くの党派共通の問題意識だ。東日本大震災で首長や地方議員の任期を延長したように、長期間、国政選挙ができない場合、厳格な要件が必要だが、任期延長は認め、憲法改正するしかない。

 ―野党に異論もある。

 論点は二つだ。一つは参院の緊急集会。この大前提は「今、衆院議員はいないが、近い選挙で新しい衆院が構成される」ということだ。二院制が大原則なので、参院だけの議決でいいとはどこにも書いていない。法律も予算も首相指名も両院の議決だ。緊急集会はあくまで暫定的な措置だ。

 また、東日本大震災では、被災3県で選挙ができなかった。3県だけ繰り延べ投票の場合、被災選挙区選出の議員がおらず、比例投票も確定できない。

 ―議論の取りまとめ時期は。

 参院選後になると思うが、論点は出尽くしつつある。党として条項手前のものは作りたい。

 ―内閣の緊急政令の是非は。

 憲法に書いて済む話ではない。ウクライナでは、法律の成立状況など議会のホームページが毎日更新されている。ウクライナの議会が戦乱中も機能を果たしているのに、緊急時だから国会を吹っ飛ばして政令で決めていいという憲法規定には賛成できない。

国会は唯一の立法機関、国権の最高機関だ。緊急時こそ役割を果たさなければいけない。
 例えば、災害対策基本法はあらかじめ、緊急時に国民の権利や自由を政令で一定の制約ができる規定がある。個別法で詳細に規定を書くしかない。 』

改憲ありきでなく論憲 立民・奥野総一郎衆院憲法審幹事―与野党インタビュー

改憲ありきでなく論憲 立民・奥野総一郎衆院憲法審幹事―与野党インタビュー
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022050200500&g=pol

『―立憲民主党は「論憲」を掲げている。

 とにかく憲法改正ありきが「改憲」だ。

論憲はきちんと理詰めで議論して、変える必要があれば変えていこうということだ。

憲法審査会で議論して、憲法を改正しなくてもオンライン審議ができるという結論を導き出した。まさに論憲の例で、変えなくて済むところは解釈あるいは法律で補っていく。

 ―自民党の改憲4項目((1)自衛隊明記(2)緊急事態条項創設(3)参院選の合区解消(4)教育の充実)に対するスタンスは。

 全く必要がない。自衛隊は合憲だし、今の9条の枠内でも十分国を守ることはできる。
9条のいいところは世界レベルでの戦争に巻き込まれないことだ。(自民案は)その良さを失わせる。

 災害対策基本法、新型インフルエンザ対策特別措置法、有事法制など法律レベルで制度ができている。議会を経ないで何でもできるようにするのはやり過ぎだし、世界的に見てもそういう例は少ない。

 合区については、(自民案では)1票の格差の問題が解消できない。(格差を)5倍でも6倍でもいいとするならば、参院の権限を衆院に比べて弱くしなければいけない。

 教育の無償化は、憲法に書く必要は全くない。

 ―新型コロナウイルス禍やウクライナ危機を踏まえ、緊急事態条項創設を急ぐべきだとの主張もある。

 何度も言っているように冷静な議論が必要で、憲法改正ありきではない。現行の制度でたいていのことは対応できる。

 ―立民は国民投票法のCM規制をめぐる議論を優先すべきだと主張している。

 外国政府の介入が現実に起こり得る。制度的になるべく起きないような仕組みをつくっておく必要がある。

 ―国民投票法の問題は避けて通れないか。

 国民投票法ができた当時はテレビCM中心だったが、今はネットが普及しSNS(インターネット交流サイト)の情報戦になっている。そういったところも視野に入れながら、どういう制度をつくっていくのか考えなければいけない。

 ―国会での憲法論議をどう見るか。

 どれだけ改憲に熱心かということをPRする場になってしまっている。改憲ありきで進めるのは反対だ。憲法の議論は腰を据えてじっくりやっていくのがいい。』

緊急事態条項、具体的議論を 維新・馬場伸幸共同代表―与野党インタビュー

緊急事態条項、具体的議論を 維新・馬場伸幸共同代表―与野党インタビュー
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022050200505&g=pol

『―緊急事態条項創設の必要性は。

 不測の事態が起こったとき、国会議員の任期延長は憲法の中に規定を置かなければできない。全く国会が機能しないとなると、国民の安心、安全が確保できない。規定を置くことが必要だ。テロや内乱、戦争、大規模な災害、感染症の流行と、緊急事態とは何かということは、かなり絞り込まれてきている。そういう状況になったとき、人権の制約が大きな課題として出てくる。個人的には、緊急事態宣言下でも「こういうことはできない」というリストを作るべきだと思う。

 ―憲法9条改正については。

 われわれは自衛隊を憲法上位置付けるべきだという基本的な考えがある。どういう憲法改正をすればいいのか、党内で議論を行っていく。

 ―自民党も緊急事態条項の創設を掲げている。

 不測の事態が起これば国会議員の任期延長やむなしという部分は、もう議論が収れんされていると思う。最大で何日間延長できるのか、誰に決定権があるのか、誰が要請するのかという細部の議論をしていく段階に入っている。この部分は自民党も全く議論が進んでいないと思う。

 ―議論のスケジュール感は。

 具体的に各党が考え方を出していくことになっていると思うから、国会の憲法審査会で議論を行うよう提案していきたい。

 ―与党とまとめた国民投票法改正案をどうすべきか。

 公職選挙法の改正がなされているので、(それに合わせて)一刻も早く国民投票法も改正すべきだ。

 ―国会での憲法論議をどう見るか。

 お城で言えば外堀で泳いでいるというのが今の姿だ。早く本丸の中に入って議論していくことが肝心だ。

 ―夏の参院選と合わせた憲法改正国民投票の実施を主張している。

 松井一郎代表は「国民投票をいつやるか、時期的な目標を設定して議論しなければ前に進まない」というのが本音だ。

個人的な意見を言えば、参院選時に国民投票を行うとルール化すれば、改憲の議論も前に進む可能性が高まってくるのではないか。

国民主権をうたっている憲法が、一度も国民投票を経ていないことは非常に問題だ。国民投票を行うことは非常に重要なことだ。 』