〔米国上院の一票の格差〕

 ※ なんと、『70.79倍 (2006年)』だ…。

 ※ それでも、「騒ぎにならない」理由は、『アメリカは、50州から成る連邦制国家である。上院議員は、州を代表するだけでなく、国家的利益を考慮した
役割も果たしている。これは、連邦憲法第2編第2条第2項の条約に対する助言・同意権限、連邦公務員任命に対する助言•同意権限などに根拠がある。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民との関係は自由委任と解されている』から…、ということだ。

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999651_po_069104.pdf?contentNo=1

 ※ 例によって、「テキスト変換」したものを、貼っておく…。

『レファレンス平成20年8月号
—資料ー
諸外国の上院の議員定数配分
一憲法の規定を中心として一
政治議会課憲法室三輪和宏
目 次
はじめに
I比較の方法
口 直接選挙を中心とした国々
!アメリカ
2 オーストラリア
3 イタリア
4 スペイン
5 ベルギー
6 スイス
7 ポーランド
8 チェコ
9 メキシコ
m 間接選挙を中心とした国々
! フランス
2 オランダ
3 アイルランド
IV任命制等の国々
!カナダ
2 ドイツ
3 オーストリア
4 ロシア
V諸外国の上院定数配分の特徴
おわりに
国立国会図書館調査及び立法考査局
レファレンス 2008.8
73
はじめに
近年、我が国では、参議院の定数是正の問題
が、国政の大きなイッシューになっている。平
成19 (2007)年11月30日、江田参議院議長の諮
問機関として、参議院改革協議会が設置され、
12月4日の会合で、参議院の定数配分見直しな
ど選挙制度改革を議題とすることで合意したと
伝えられている。同協議会は、平成20 (2008)
年6月9日に、一票の格差是正のために選挙制
度改革を検討する専門委員会を設置することを
決めた。また、別の観点から、参議院の構成を
見直すという考え方も提起されている。すなわ
ち、政党レベルの検討において、道州制を前提
に、参議院は各「道州」同数の代表から構成さ
れるべきとの考え方が示されたことがある⑴。
筆者は、既に、参議院の一票の格差・定数是
正問題について小論②を発表している。本稿で
は、諸外国の上院(国会)⑶について、選挙区定
数・州別任命定数等の議員定数配分を、更に詳
細に比較したい。

I比較の方法
本稿では、諸外国の上院について、選挙区定
数・州別任命定数等の議員定数配分を比較し
た。調査対象とした国々は、OECD諸国30か国
に、G8の1つであるロシアを加えた全31か国
のうち、上院を有する16の諸外国である。ただ
し、貴族院型のイギリス上院は除いた。これら
の諸国を対象にしたのは、世界の先進諸国の制
度を広く比較し、世界の現況を概観するためで
ある。

これらの諸国について、①選挙・任命等の制
度、②代表制の性格(州代表•国民代表等⑷)、
③総定数、④選挙区定数•州別定数等(配分結
果[議席数]だけでなく、その計算法が法定される
場合は計算法も明示)、⑤定数配分規定、⑥定数
配分規定の沿革、⑦定数格差・一票の格差、⑧
格差の特徴の、8つの項目を基本として比較し
た。特に、従来紹介されることがあまりなかっ
た「⑥定数配分規定の沿革」については、詳述
した。また、「⑦定数格差・一票の格差」(いず
れも最大格差)は、参考のために試算した⑸。
なお、小選挙区制を採用することにより、選挙
区定数=1議席と一律の定数配分となってい
て、かつ選挙区画定(区割り)が必要な国の場
合は、定数配分ではなく、選挙区画定法(区割
り法)を取り上げた。この場合は⑤、⑥に代え
て、m)選挙区画定法、(b)選挙区画定規定、©選
挙区画定規定の沿革の3項目を比較した。

π 直接選挙を中心とした国々
1アメリカ
⑴ 選挙制度 単純小選挙区制(一部、小選挙
区2回投票制)
⑵ 代表制の性格 州代表⑥(連邦憲法第1編第
3条第1項、同修正第17条第1、2項)
⑶総定数100人
(2年ごとに3分の1ずつ改選)
⑴「国会議員を大幅減自民推進本部道州制素案に明記へ」『日本経済新聞』2008.5.22, p.2.
⑵ 三輪和宏•河島太朗「参議院の一票の格差・定数是正問題ー我が国・諸外国の現状と論点整理一」『調査と情
報-ISSUE BRIEF一』610号,2008.3.11.
⑶ 本稿での「上院」とは、すべて国会又は連邦議会の上院であり、州・県等の地方議会の上院を含まない。
⑷ 本稿では、上院議員は全国民を代表する等の規定が、憲法等にある場合、「国民代表の上院」とした。上院議
員は地域を代表する等の規定が、憲法等にある場合、「地域代表の上院」とした。
⑸直接選挙の場合は、選挙区ごとの議員1人当たりの人口(一部、有権者数)を比較し、一票の格差を求めた。
間接選挙の場合は、上院議員選挙人(有権者)の属する地域ごとの議員1人当たりの人口を比較し、人口格差を
求めた。併せて、選挙区ごとの議員1人当たりの上院議員選挙人の数を比較し、一票の格差も求めた。任命制等
の場合は、任命等の母体となる地域の人口を議員1人当たりにつき比較し、人口格差を求めた。
74 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
⑷選挙区定数小選挙区:50区
各区2人
(州単位、改選時に1人ずつ選挙、選挙執行時に
上院選挙がある州とない州に分かれる)
⑸定数配分規定
連邦憲法第1編第3条第1項、同修正第17
条第1項
⑹定数配分規定の沿革

各州同数の定数とされたのは、人口の少な
い州の利益に対する配慮を行っての措置で
あった。同様の配慮は、連邦憲法第1編第3
条第1項、修正第17条第1項の「各上院議員
は1票の投票権を有する」、同第5編の「い
かなる州も、その同意なくして、上院におけ
る平等の投票権を奪われてはならない」とい
う規定にも表れている。上院における小州へ
の配慮は、連邦憲法制定過程での妥協に淵源
を求めることができる。すなわち、1787年の
連邦憲法制定会議で、連邦下院は、州の人口
に比例して各州の選出議員数が決められ、連
邦上院は、各州同数の選任議員が認められる
という形の、二院制に基づく妥協が成立し、
人口の多い州と人口の少ない州の間の調整が
図られた⑺。

各州2名とされたのは、①病欠等の理由で
1名が議会を欠席する場合の最低限(1名)
の州代表の確保、②(同じ州の)複数の州代
表者による協力・相談関係の確保、③下院と
比べた場合の、上院の力量・能力の向上(各
州1人ではなく 2人とし議員数を増やすことでカ
量を向上させる)、④上院運営のための適切な
コストの維持(議員数が多過ぎると過剰コスト
を発生させる)、⑤各上院議員による責任ある
審議の実現(非常に多数の議員になると個々の
議員としては無責任になる可能性がある)など
が考慮された結果であった⑻。

当初、上院議員は、各州議会が選任してい
たが、1913年の連邦憲法修正(修正第17条)
により、州民の直接選挙で選出されることに
なった。この修正の目的は、①買収、②政党
ボスによる影響力行使、③州議会が上下二院
であることによる議決の遅延などの諸弊害を
避けることにあった⑼。
⑺一票の格差70.79倍 (2006年)”
⑻格差の特徴
各州同数という定数配分、州間の人口の差
が大きいことの2つの理由で、一票の格差は
極めて大きい。

⑹ アメリカは、50州から成る連邦制国家である。上院議員は、州を代表するだけでなく、国家的利益を考慮した
役割も果たしている。これは、連邦憲法第2編第2条第2項の条約に対する助言・同意権限、連邦公務員任命に
対する助言•同意権限などに根拠がある。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民との関係は自由委任と解されている(“Parliamen-
tary Mandate: United States of America”列国議会同盟ホームページlast access 2008.6.30>以下のインターネット情報はこの日付による。また、以下で紹介す
る各国において、上院議員に対する委任の規定については、必ず列国議会同盟ホームページの”Parliamentary
Mandate”の項目を確認の上、論述している)。
⑺妥協は、「大いなる妥協(Great Compromise)」と呼ばれる。妥協に至るまでには、①連邦上院でも人口比例
原則を貫くというジェームズ・マディソン起草のヴァージニア案、②一院制の連邦議会において各州1票の表決
権を認めるウィリアム・パターソン提案のニュー・ジャージー案などが見られた。ヴァージニア案は人口•財政
規模の大きな邦から支持を受け、ニュー・ジャージー案は人口・財政規模の小さな邦から支持を受けた。諸案の
対立を受けて、コネティカット出身のロジャー・シャーマンが、③連邦下院では人口比例、連邦上院では各州2
人代表(州議会選任)という案を提案し、この案を中心に妥協に至っている。このため、「大いなる妥協」は、「コ
ネティカット妥協(Connecticut Compromise)」とも呼ばれる。阿部竹松『アメリカ合衆国憲法(統治機構)』有
信堂高文社,2002, pp.26-29; “Two Senators Per State”ア メ リカ上院ホームページ
⑻ ibid.
⑼ 鈴木康彦『註釈アメリカ合衆国憲法』国際書院,2000, p.27.
⑽ カリフォルニア州の人口36,457,549人+ワイオミング州の人口515,004人。
レファレンス 2008.8
75
2 オーストラリア
⑴選挙制度単記移譲式比例代表制
⑵代表制の性格州(或いは選出連邦直轄地)
の代表(11>(連邦憲法第7条、同第12 2条、1918年
連邦選挙法第40条第1項)
⑶総定数76人
⑷選挙区定数大選挙区:8区
(州・連邦直轄地単位)
① 各州(6州)12人
原則として改選時に6人ずつ選挙
② 連邦直轄地である首都特別地域2人
改選時に全員(2人)選挙
③ 連邦直轄地である北部特別地域2人
改選時に全員(2人)選挙
⑸定数配分規定
① 州:1983年代表法第3条
② 連邦直轄地:
1918年連邦選挙法第40条第1項
③ 連邦憲法第7条第3項により、基本州
(Original States)(12)の定数は同数でなけれ
ばならず、かつ各基本州とも最少でも6議
席が保証される。
⑹定数配分規定の沿革
各州の定数が同数とされるのは連邦憲法第
7条第3項に根拠があるが、この規定は、ア
メリカ連邦上院の各州同定数という制度から
多大の影響を受けて定められた。また、人口
規模•財政状況の点で小さな州であったタス
マニア、クインズランド、西オーストラリ
ァ、南オーストラリアの4州が、ニュー・サ
ウス・ウェールズ、ヴィクトリアの2つの大
きな州に比べて、不利な扱いを受けることが
ないように配慮した規定でもあった(11 12 13>。
⑺一票の格差13.97倍(2007年)14)
⑻格差の特徴
各州同数という定数配分、州間の人口の差
が大きいことの2つの理由で、一票の格差は
極めて大きい。
3 イタリア
⑴選挙制度
拘束名簿式比例代表制(プレミアム付き)、
(一部、拘束名簿式比例代表制[プレミアムな
し]、小選挙区比例代表組合せ型、単純小選挙区
制、非拘束名簿式比例代表制)
⑵代表制の性格国民代表(15)(憲法第67条)
⑶ 総定数322人(2008年7月)
① 直接公選議員:315人
② 特別上院議員:前・元大統領である議員
3人(当然の終身上院議員)、及び国家の名
誉を高めた功績により大統領が任命する議
員4人(大統領任命終身議員)
⑷選挙区定数
①国内選挙区
⑴ 大選挙区(比例区):18区
(総数301人、定数2〜47人、州単位)
(ii)トレンティーノ・アルト・アディジェ
(11) オーストラリアは、連邦憲法第3、6条等により、6州から成る連邦制国家である。また同第122条により、
連邦直轄地の存在が認められている(現在、首都特別地域、北部特別地域と、それ以外に幾つかの島映等があ
る)。実際の政治においては、上院は州権を代表するというよりも、下院と同様に、全国レベルの政党の行動に
支配されることが多い。
上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等との関係は自由委任と解されている。
(12) 連邦憲法制定時(1900年7月9日)の基本州5州(ニュー・サウス・ウェールズ、ヴィクトリア、南オースト
ラリア、クインズランド、タスマニア)に、その後すぐ、西オーストラリア州が加わり、現在6州が基本州であ
る。
(13) The Joint Standing Committee on Electoral Matters of the Parliament of Australia, “Territory Representa-
tion in the Commonwealth Parliament,” pp.8,10.オーストラリア連邦議会ホームページ
(14) ニュー・サウス・ウェールズ州選挙区の議員1人当たりの人口575,741.67人(6,908,900人「12議席)「タスマニ
ア州選挙区の議員1人当たりの人口41,208.33人(494,500人「12議席)。
76 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
州選挙区15 (16)(小選挙区6区[定数各1人]、
全州単位の比例区1区[定数1人])
価)小選挙区:1区
(定数1人、ヴァッレ・ダオスタ州選挙区)
②在外選挙区:4区
(総数6人。ヨーロッパ選挙区[定数2人]、
北・中央アメリカ選挙区[同1人]、南アメリ
カ選挙区[同2人]、アジア•アフリカ・オセ
アニア・南極大陸選挙区[同1人])
⑸法定の定数配分計算法
①国内選挙区の場合
ヴァッレ・ダオスタ州は1議席、モリー
ゼ州は2議席とされ、他州は最少でも7議
席を保証される。これらの配分議席7以下
の諸州を除き、各州の人口に基づき、ヘ
アー式最大剰余法で議席配分がなされる。
人口は、イタリア国家統計局(ISTAT)の
発表する直近の人口総合調査(Censimento
generale della popolazione)による。現行の
定数配分は、2001年の人口総合調査に基づ
いて、2006年2月11日、2008年2月6日に
大統領令で決定されている(両時期の大統
領令は各々総選挙直前に出されたものである
が、同じ定数配分になっている)。なおイタ
リア国家統計局の人口総合調査は、1951年
以降は10年ごとに行われている。次回の調
査は2011年と想定される。
・ヘアー式最大剰余法:(国内人口総数
[56,995,744人]-配分議席7議席以下の6州
の人口の和[3,987,523人]):(総定数[315人]
ー在外選挙区定数の和[6人]ー配分議席7
議席以下の6州の定数の和[31人])}の商の
整数部分を配分基数(ヘアー式基数、
Quoziente inter oと呼ばれる)とし、各州
(配分議席7議席以下の6州を除く)の人口
をヘアー式基数で割り、商(整数)と余
りを求める。まず、当該商(整数)を、
各州への配分議席とする。各州の配分議
席の合計が、{総定数(315人)ー在外選挙
区定数の和(6人)-配分議席7議席以
下の6州の定数の和 ⑶人)}すなわち278
議席に満たない場合は、余りの大きい順
に1議席ずつ278議席に至るまで、各州
へ議席配分を行う。
②在外選挙区の場合
在外選挙区の総数6議席中4議席は、4
在外選挙区に1議席ずつ配分される。残り
の2議席は、各在外選挙区の居住イタリア
市民数(25歳未満の者も含まれる。現行の定
数配分の元になる同市民数は2008年1月31日付
内務省令で決定されている)に基づき、ヘ
アー式最大剰余法で各在外選挙区に配分さ
れる。
⑹定数配分規定
① 国内選挙区の定数配分計算法:憲法第57
条第3、4項、上院選挙法第1条(国家統
(15) イタリアは、単一国家であり、近年地方分権を進めていることが知られている。州(regione)も存在するが、
憲法第114条第2項により、自治団体の1つとされる。憲法第57条第1項、イタリア上院選挙法第1条第1項に
より、上院は、在外選挙区を除き、州を基礎として選出される。しかし憲法第67条により、上院議員は国民の代
表とされ、州・地域代表ではない。国会議員は委任に拘束されることなくその職務を行なう(憲法第67条)。
なお、2006年憲法改正国民投票(上院に州・地方代表院の性格を付与する改正案であったが否決された)にお
ける改正案では、上院が州・地方代表院の性格を付与されるにもかかわらず、一方で上院議員は国民及び共和国
を代表する(現行憲法第67条の改正案)とされていたため、上院の性格付けに曖昧さが残っていた。本改正案に
おいて、「各州への上院議員定数の配分」は、各州の人口に基づきヘアー式最大剰余法で行われるとされていた。
またヴァッレ・ダオスタ州は1議席、モリーゼ州は2議席とされ、他州は最少でも6議席を保証されるとなって
いた(現行憲法第57条の改正案)。岩波祐子「イタリア2006年憲法改正国民投票一改正案の概要と国民投票まで
の道程」『立法と調査』259号,2006.9, pp.107-114.
(16) トレンティーノ・アルト・アディジェ州全体には、定数7人が割り当てられ、同時に州内に6区の小選挙区が
設けられる。小選挙区定数の合計が6人で、比例代表選挙定数が1人である。この州の選挙は小選挙区比例代表
組合せ型で行われる。
レファレンス 2008.8
77
計局の公表する人口に依拠する旨を規定、それ
以外は憲法第57条と同趣旨である)
② 在外選挙区選出議員の総数(6人):
憲法第57条第2項
③ 4在外選挙区への定数配分計算法:
憲法で規定されない。在外選挙法(2001
年法律第459号)第6条第1項で、4つの在
外選挙区に分割されること、及びその地理
的範囲・名称が規定される。同条第2項
で、4在外選挙区への定数配分計算法が規
定される。
④ 大統領任命終身議員の上限数(5人):
憲法第59条第2項
⑺定数配分規定の沿革
イタリアで直接公選の上院を初めて設けた
のは、1948年施行の現行憲法である。現行憲
法は、当初、上院の選挙につき、州を基礎と
した選挙であること、及び各州への定数配分
が原則人口比例によること(各州で人口20万
人ごとに1上院議員、ただし20万人未満の端数が
出たときは10万人を超えていれば1上院議員とす
る。各州は最少でも6議席を保証される。ヴァッ
レ・ダオスタ州は1議席)を規定していた(17)0
この規定は、制憲議会(1946〜1948年(18) * 20 21)
における上院の在り方及び定数配分に関する
審議の結果に由来している。制憲議会での審
議は、大きく三段階に分けられる。最初は、
そもそも国会を二院制のままとするか、ー院
制にするかという審議がなされ、二院制の採
用が多数意見となった⑲。次いで、上院の
権限と性格に関する審議がなされた。上院の
権限を下院より弱くするとの考え方、また、
将来的に設置を見込む州議会の代表及び市町
村長・大学・専門職の代表などから成る上院
にするとの案などが示されたが、いずれも採
用されなかった。結局、上下両院の対等とい
うことで落ち付いた例。最後に、上院の定
数配分について審議がなされた。この段階で
は、中央集権主義と地方分権主義の間の対
立、州人口比例による州別定数配分を主張す
るグループと各州同定数を主張するグループ
の間の対立が顕著だった。しかし、妥協が成
立し、上記の当初の規定となった。各州の定
数に上限を設けるとの案もあったが、採用さ
れなかった(21>。
その後、1963年の憲法改正で、上院国内選
挙区につき現行規定のとおりとされ、2001年
の憲法改正で、在外選挙区定数に関する現行
規定が挿入された。
以上のように、国内選挙区の定数配分計算
法は,1948年当初から「人口比例の原則+各
州の最低議席数の保証」という公式で成り
立っていた。また、新たに導入された在外選
挙区の定数配分計算法も、国内選挙区の場合
に類似する公式によることになった。
(17) Raffaele Bifulco et al., ed., Commentario ala Costituzione, vol.2, Torino: Utet giuridica, 2006, pp.1143-1146.
(18) 新憲法採択は1947年12月22日であったが、経過規定により1948年1月31日まで存続した。
⑲ 二院制の採用の事情については、『諸外国の憲法事情1』(調査資料2001-1)国立国会図書館調査及び立法考査局,
2001,p.114参照。
(20) イタリア憲法の概説書によれば、二院制を採用した理由は、①ー院で行われた審議を省察し、審議の問題点を
深め、議論を繰り返すことにより、提案された政策の利益を評価すること及び法律を完全なものにすること、
②社会の各層の政治的意思を十全に到達させることにより完全な代表制を実現すること(とりわけ専門的能力を
持つ者の活用を期待できること)、③政府と議会の対立を緩和し政治機構の中に均衡を生み出すこと、とされて
いる。また、第二次世界大戦直後のイタリアでは、一院制が、過去にイタリアで見られたような政治(governo
convenzionale、ファシスト体制に至る議会制民主主義の崩壊過程を指すと考えられる)への逆戻りを引き起こす
危険性があると懸念されたと言う。制憲議会では、二院制の目的を果たすためには、両院の権限を対等にするこ
とが好ま しいと考えられた。Francesco Teresi, Le istituzioni repubblicane: Manuale di dlntto costtuzionale,
Torino: G. Giappichelli Editore, 2002, pp.216-217.
(21) Bifulco et al., op.clt.77, p.1143.
78 レファレンス 2008.8
諸外国の上院の議員定数配分
⑻一票の格差
① 国内選挙区のみの格差:2.41倍(200?年)”
② 在外選挙区を含めた格差
⑴ 在外選挙区全体との比較における格
差:?.2 倍(200?年)(23)
伍)各在外選挙区との比較における格差:
12.2?倍(200?年)24)
⑼格差の特徴
国内選挙区のみの格差は、比較的小さい。
州人口比例の原則を、いくつかの州の最低議
席数の保証という例外規定で補正する定数配
分法が、効果を現したものである。
しかし、在外選挙区を含めた一票の格差
は、極めて大きい。①憲法第5?条第2項で在
外選挙区全体の上院議員数が6議席と規定さ
れ、在外の居住イタリア市民数に対して、少
なめの定数であること、②少数の定数を更に
4在外選挙区へ配分し直すこと、③基礎配分
とも呼べる「まず4在外選挙区へ1議席ずつ
配分する計算方法」が存在すること、の3つ
の理由によって、居住イタリア市民数に十分
に比例した形で各在外選挙区へ議席を配分す
るに至っていない。
4 スペイン
⑴選挙制度制限連記制
(一部、完全連記制、単純小選挙区制)
⑵代表制の性格地域代表(25)
(憲法第69条第1項)
⑶総定数264人
① 直接公選議員:208人
② 自治州議会議員の中から同議会が指名す
る議員:56人
⑷選挙区定数等
① 直接公選議員
⑴大選挙区:52区
4?大選挙区
(定数4人、[島憫を除く]県単位)
3大選挙区
(定数3人、3つの大島憫単位)
2大選挙区(定数2人、2自治市単位)
伍)小選挙区:7区
(定数1人、8つの小島憫を7区に分割)
② 自治州議会指名議員 1?区
(定数1〜9人、自治州単位(26))
⑸法定の定数配分計算法
(22) ラツィオ州選挙区の議員1人当たりの人口203,455.85人(5,493,308人+27議席)+バジリカータ州選挙区の議員
1人当たりの人口84,476.86人(591,338人+7議席)。
現行の選挙区定数決定時(2006年2月11日)に用いられた2001年時点の人口総合調査によれば、格差は2.36倍(力
ラーブリア州選挙区対バジリカータ州選挙区)であった。
なお、トレンティーノ ・アルト・アディジェ州は、小選挙区比例代表組合せ型という選挙制度のため、小選挙
区部分と比例区部分(全州単位)を分割して計算することが難しかった。よって、同州人口を7議席で除して議
員1人当たりの人口を算出し比較した。
(23) {在外選挙区全体の議員1人当たりの居住イタリア市民数[25歳未満の者も含まれる]608,229.5人(3,649,3??人

  • 6議席)+バジリカータ州選挙区の議員1人当たりの人口84,476.86人。
    ㉔{ヨー ロッパ在外選挙区の議員1人当たりの居住イタリア市民数】25歳未満の者も含まれる]1,036,205人
    (2,0?2,410人+2議席。+バジリカータ州選挙区の議員1人当たりの人口84,476.86人(前掲注2)。
    (25) スペインは、単一国家である。1?の自治州が存在するが、自治州は連邦制国家における州とは異なり、自治権
    を有する団体の1つとされる(憲法第13?条)。しかし、自治州ごとの自治憲章の存在、権限の大きさ(同第
    147,148条)を見ると、自治州は、連邦制国家の州に類似する側面も併せ持つと評する者もいる。
    なお、国会議員は、命令的委任に拘束されない(憲法第6?条第2項)。
    (26) 第9議会期(2008年3月9日の上下院総選挙後の議会期)から、自治州ごとの定数が部分的に増員になり、自
    治州議会指名議員総数も56人に増員されることが2008年1月16日に上院で決定された。3月9日の総選挙に合わ
    せて、56人の議員が指名された。第8議会期の自治州ごとの定数は1〜8人であり、指名議員総数は51人であっ
    た。”nUmero de senadores a designar por las comunidades autonomas EN LA IX LEG-
    ISLATURA” スペイン上院ホームページ
    レファレンス 2008.8
    79
    (自治州議会指名議員)
    自治州は1名の上院議員、更に住民数が
    100万人を超えるごとに追加して1名ずつの
    上院議員を指名する(憲法第69条第5項)。こ
    のため、指名議員総数、上院議員総定数も変
    動する可能性がある。
    ⑹定数配分規定
    ① 直接公選議員:
    憲法第69条第2、3、4項
    ② 自治州議会指名議員の州別定数配分計算
    法:憲法第69条第5項
    ⑺定数配分規定の沿革
    1931年の第二共和国憲法は、一院制の国会
    を規定していた。その後、フランコ独裁体制
    の成立により第二共和国憲法は事実上廃止さ
    れた。フランコ体制の下では、自由選挙によ
    らない一院制の国会が置かれた。1975年のフ
    ランコの死後、急速に自由化が進み、1977年
    1月には政治改革法(二院制の採用、基本的人
    権の尊重等)が公布、それに基づき同年6月
    15日には国会(上下院)総選挙が行われた。
    翌1978年12月29日には新憲法(現行憲法)が
    公布された。
    1977年の政治改革法では、上院は、県の代
    表として選挙される直接公選議員207人と、
    その5分の1未満の国王任命議員(実際には
    41名)から構成されると規定された。また、
    207人の内訳は、各県4人、各島噸県1人、
    セウ夕市•メリリャ市各2人であるとされ
    た(27)〇政治改革法の選挙区定数は、現行の
    直接公選議員の選挙区定数とほぼ同じであ
    り、政治改革法により、現行定数配分規定の
    骨格が定められたと言える。
    1978年新憲法制定の過程を詳しく見ると、
    上院を地域代表とすることでは、各政党の意
    見の一致が見られたことが分かる。しかし、
    主として県代表と考える民主中道連合
    (UCD、政権党)•国民同盟(AP)と、自治州
    や民族の代表と考える州権主義者•左翼勢力
    の間の対立が見られた。最終的に妥協が成立
    し、現行憲法のとおりの規定となった岡。
    現行憲法における定数配分規定の目的につ
    いては、地域代表制の確保と同時に、農村部
    等の地方エリアからの保守勢力の選出•確保
    という現実的な目的を指摘する研究者もい
    る例。後者の目的は、極めて党派的なもの
    であり、通常の立法趣旨とは異なるものであ
    る。しかし、上院定数配分の制定過程におい
    て、党派的な要因も大きく影響したことを窺
    わせる指摘である。
    ⑻一票の格差•定数格差
    ① 直接公選議員に関する一票の格差:
    144.01倍(200?年)* 28 29 30)
    ② 自治州議会指名議員に関する人口格差:
    3.2倍(2008年)31)
    ⑼格差の特徴
    直接公選部分の一票の格差は、極めて大き
    い。各県同数の定数配分、小島噸への1議席
    ㉗ 碇順治『現代スペインの歴史一激動の世紀から飛躍の世紀へ』彩流社,2005, pp.265-269.
    (28) Andrea Bonime-Blanc, Span s transition to democracy: the politics of constitution-making, Boulder: Westview
    Press,1987, pp.68-69, 76-77.
    (29) Paul Heywood, The government and politics of Spain, Houndmills: Macmillan, 1995, p.171.
    (30) マドリッド県選挙区の議員1人当たりの人口1,520,422.25人(6,081,689人+4議席)+エル・イエーロ島選挙区(小
    選挙区)の人口10,558人。
    なお、⑻①直接公選議員に関する一票の格差、⑻②自治州議会指名議員に関する人口格差を通してみても、や
    はり「マドリッド県選挙区の議員1人当たりの人口」と「エル・イエーロ島選挙区の人口」の間の人口格差が最
    も開いている。
    (31) カスティーリャ・ラ・マンチャ州の議員1人当たりの人口988,652人(1,977,304人+2議席)+ラ・リオ八州(1
    議席)の人口308,968人。
    第8議会期の自治州別|日定数、200?年の人口を用いると、定数格差は3.34倍である。バレアレス州(1議席)
    の人口1,030,650人+ラ・リオ八州(1議席)の人口308,968人。
    80 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    配分が原因である。
    自治州議会指名部分の人口格差は、ある程
    度小さくなっている。これは、①17自治州中
    14自治州が人口1,000,000人以上(2007年)で
    あり、「住民数^ミ100万人を超えるごとに追加
    して1名ずつの上院議員を指名する」との規
    定が有効に働いていること、②最少の人口の
    自治州でも300,000人を超える人口を有する
    ことの、2つの理由で、指名議員に関してー
    定の人口比例性が実現しているためである。
    現行定数配分に関する評価として、上院
    が、単なる政治的代表ではなく、地域代表と
    いう性格を持ち、地域の声を議会に届けると
    いう役割を担っている点から考えて、定数配
    分が人口比例原則に依らず、格差が大きく
    なっていることも妥当と考えられるという見
    解もスペイン国内では表明されている。ま
    た、憲法改正を通じ、地域の声が議会に一層
    反映されるようにすべきとの考え方も広く見
    られるという岡。実際に現在、上院は地域
    代表の議院としての性格を強めており、自治
    州相互間、及び自治州と国の関係を国家的見
    地から調整するという機能を果たすように
    なってきている32 (33) *〇
    しかし一方で、スペイン政治の研究者の中
    には、ポール•ヘイウッド(PaulM. Hey-
    wood) ノッティンガム大学教授のように、
    スペイン上院の一票の格差が極めて大きい事
    態を、「極端な歪み」として批判的に見る学
    者もいる”。上院直接選挙の格差144.01倍
    は、憲法の定数配分規定に基づく格差である
    ため、違憲判断をもたらす余地がないもの
    の、憲法の定数配分規定自体の妥当性につい
    ては、論点となるところであろう。
    5 ベルギー
    ⑴選挙制度非拘束名簿式比例代表制
    ⑵ 代表制の性格 国民代表かつ選出をなした
    者の代表(35)(連邦憲法第42条)
    ⑶総定数71人
    ① 直接公選議員:40人
    ② 共同体議会指名議員:21人
    ③ 上院議員による指名議員:10人
    ④ 当然の上院議員:
    王子2人、王女1人(定数外とされる)
    ⑷選挙区定数等
    ⑴直接公選議員
    大選挙区:3区
    ① ワロン地域(フランス語圏)選挙区(36):
    定数15人
    ② フランドル地域(オランダ語圏)選挙
    区:定数25人
    ③ ブリュッセル•アル•ヴィルヴォルド
    地域選挙区(37)(フランス語及びオランダ語
    圏):定数はない
    (32) 『諸外国の憲法事情2』(調査資料2002-2)国立国会図書館調査及び立法考査局,2002, pp.22-23;『ドイツ・スペイ
    ン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』参議院憲法調査会事務局,2001,p.78.
    (33) 憲法制度研究会編『各国憲法制度概説(増補改訂版)』政光プリプラン,2002, p.85.
    御 Heywood, op.cit.物,pp.170-171.
    (35) ベルギーは、連邦制国家であり10の州が定められる(連邦憲法第1、5条)と同時に、3つの言語共同体(フ
    ランス語共同体、オランダ語共同体、ドイツ語共同体/同第2条)、3つの地域(ワロン地域、フランドル地域、
    ブリュッセル地域/同第3条)、4つの言語地域(フランス語地域、オランダ語地域、ブリュッセル首都2言語
    地域、ドイツ語地域/同第4条第1項)も定められる。
    上院議員に対する委任についての直接的規定は連邦憲法には存在しない。しかし、連邦憲法第42条(国会の代
    表制に関する規定)から、選挙民等との関係は自由委任と解釈されている。
    (36) ドイツ語共同体は、地理的にワロン地域(フランス語圏)の中のリエージュ州に含まれており、上院直接選挙
    では、ドイツ語共同体住民は、ワロン地域(フランス語圏)選挙区の有権者として投票を行う。
    (37) ブリュッセル・アル・ヴィルヴォルド地域選挙区には、独自の政党名簿が存在せず、ワロン地域選挙区又はフ
    ランドル地域選挙区の政党名簿(若しくは候補者)に投票する。どちらの選挙区の政党名簿(若しくは候補者)
    に投票するかは、個々の有権者が選択する。
    レファレンス 2008.8
    81
    (il)共同体議会指名議員
    フランス語共同体議会指名議員:10人
    オランダ語共同体議会指名議員:10人
    ドイツ語共同体議会指名議員:1人
    価)上院議員による指名議員岡
    ① フランス語圏から選挙又は指名された
    上院議員(合計25人)により4人
    ② オランダ語圏から選挙又は指名された
    上院議員(合計35人)により6人
    ⑸定数配分規定
    (i)①直接選挙の選挙区別定数、②共同体議
    会別の指名議員定数、③上院議員による指
    名議員の言語圏別定数:
    いずれも連邦憲法第67条§1第1項
    伍)当然の上院議員の資格:同第72条
    ⑹定数配分規定の沿革
    1921年改正のベルギー国憲法では、①各州
    の人口に応じて直接選挙で選出される議員
    (106人、21選挙区)、②州議会指名議員(50人、
    州人口比例原則による)、③上院議員による指
    名議員(25人)、④王子、王女(18歳以上)の
    4者から上院が構成されることになってい
    た(39)(第53, 58条)。その後1993年5月5日
    の憲法改正で、連邦制への移行が完了させら
    れるとともに、現行の定数配分規定となっ
    た。直接公選議員については、引き続き人口
    比例原則が維持される一方、共同体議会指名
    議員については、フランス語共同体とオラン
    ダ語共同体の対等原則が導入された。
    ⑺一票の格差•定数格差
    ① 直接公選議員に関する一票の格差:
    1.07倍(2007年)38 39 40)
    ② 共同体議会指名議員に関する人口格差:
    9.65倍(2003年)41 42 43)
    ⑻格差の特徴
    ベルギー連邦憲法は、フランス語話者であ
    る国民(ワ日ン人)とオランダ語話者である
    国民(フラマン人)が存在すること、及びこ
    の2種類の言語集団間の政策決定過程におけ
    る平等を認めている(42)。直接公選議員に関
    する一票の格差が極めて小さいことは、この
    2言語集団間の平等原則の1つの現れと考え
    ることができる。
    ドイツ語話者は、直接選挙ではワ日ン地域
    (フランス語圏)選挙区の有権者となるが、ー
    方で共同体議会指名議員1名を上院に送るこ
    とができるという立場にある。ドイツ語話者
    の人口は全体の0.6%に過ぎず、上院議員の
    選任で計算上明確な人口比例原則を見出すこ
    とは難しい。
    なお、定数配分については、人口比例原則
    によらず、フランス語系上院議員35人、オラ
    ンダ語系上院議員35人とし、言語ごとの完全
    な対等を求める改革案も存在している(43)。
    (38) フランス語圏の、直接公選の上院議員及び共同体議会指名上院議員により、指名される。オランダ語圏につい
    ても同様。
    (39) ①〜③の人数、選挙区数は、石井五郎ほか『世界の議会(第3巻 ヨー日ッパ1)』ぎょうせい,1983, pp.155-156
    によっており、本書出版時点の数である。
    (40) フランドル地域(オランダ語圏)選挙区の議員1人当たりの人口244,697.6人(6,117,440人+ 25議席)+ワ日ン地
    域(フランス語圏)選挙区の議員1人当たりの人口229,058.6人(3,435,879人+15議席)。
    (41) オランダ語共同体議会指名議員1人当たりの人口690,000人(人口約6,900,000人】2003年]+10議席)+ドイツ語
    共同体議会指名議員1人当たりの人口71,500人(人口71,500人[2003年]+1議席)。なお、直接公選議員と共同体
    議会指名議員の間の格差を試算すると、フランドル地域(オランダ語圏)選挙区選出議員とドイツ語共同体議会
    指名議員の人口格差=3.42倍(2003、2007年。244,697.6人+71,500人)である。ドイツ語共同体住民の代表度•影
    響力が大きくなっている。
    (42) 連邦憲法第99条第2項で、内閣が同数のフランス語系大臣、オランダ語系大臣で構成されることが規定され
    る。同第151条§ 2第2項で、司法高等評議会のフランス語系委員団、オランダ語系委員団が同数と規定され
    る。また、仲裁裁判所の(裁判長を除く)判事の構成も、フランス語系、オランダ語系で同数である。
    (43) ドイツ語共同体議会指名議員1人の扱いについては不明。『イタリア・ベルギー ・フランスにおける憲法事情
    に関する実情調査一概要』参議院憲法調査会事務局.2002, p.224:『諸外国の憲法事情2』前掲注(32), p.83.
    82
    レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    6 スイス
    ⑴選挙制度
    完全連記2回投票制、完全連記相対多数
    制、小選挙区2回投票制
    (一部、自由名簿式比例代表制、州民総会選出)
    ⑵代表制の性格州代表(44) 45 46
    (連邦憲法第150条第1項)
    ⑶総定数46人
    ⑷選挙区定数
    ① 大選挙区:20区(定数2人、州単位)
    ② 小選挙区:6区(定数1人、旧半州単位)
    ⑸定数配分規定連邦憲法第15 0条第2項
    ⑹定数配分規定の沿革
    スイスは、アメリカ連邦憲法に倣って二院
    制の連邦議会を設けた。これは、独立性の強
    いスイスの州(カントン)と、アメリカの州
    権の強さに類似性を見出したためと言われ
    る。この結果、各州2名(半州は1名)から
    成る連邦上院という構成となり、現在に至っ
    ている。スイスは、今までに3つの連邦憲法
    を制定しているが、いずれの憲法でも、各州
    2名([旧]半州は1名)という構成は変わっ
    ていない用。なお、過去においては、州民
    による直接選挙ではなく、州議会による選任
    により連邦上院議員が選ばれていたケースも
    あった。
    ⑺一票の格差41.96倍(2006年)㈤
    ⑻格差の特徴
    各州同数・各旧半州同数という定数配分、
    州•旧半州間の人口の差が大きいことの2つ
    の理由で、一票の格差は極めて大きい。
    7 ポーランド
    ⑴選挙制度大選挙区(二人区)単記相対多
    数制、制限連記制(三•四人区)
    ⑵代表制の性格国民代表(47)(憲法第104条)
    ⑶総定数100人
    ⑷ 選挙区定数 大選挙区:40区(定数2〜4人)
    ①2人区:22区、②3人区:16区、
    ③4人区:2区
    ⑸ 定数配分法•選挙区画定法
    総定数100人が各県に配分された後(県人
    口に比例させることを原則として配分される)、
    ①県の区域と完全に重なる選挙区(4選挙
    区(48))と、②県を分割した選挙区(36選挙区)
    に分かれる。県の分割は、県内において上院
    議員1人当たりの人口を均等にさせるという
    原則により行われる。ただし、選挙区定数の
    範囲が2〜4人であること、及び上院選挙区
    の境界が下院選挙区の境界と交差してはなら
    ないことが、法定されている(49)。なお、人
    口は、ポーランド中央統計局(Giowny Urz^d
    Statystyczny, GUS)発表のものを使用する。
    現在の県(wojewodztwo)の数は16であり、
    県は自治体としての地位を有する。県内に
    は、郡(powiat、総数373)、市町村(gmina、
    総数2,489)の2層の自治体が置かれる(50)〇上
    院選挙区は、郡、市町村の境界に沿って形成
    されており、また郡、市町村が複数の上院選
    (44) スイスは、連邦憲法第1条により、26州から成る連邦制国家である。同第161条第1項により、連邦議会議員
    (上下院)は指示に縛られることなく投票するとされ、命令的委任は認められていない。
    (45) 1848年連邦憲法第69条、1874年憲法第80条、2000年憲法[現行]第15 0条第2項。
    (46) チューリッヒ州の議員1人当たりの人口642,026人(1,284,052人+ 2議席)+アッペンツェル・インナーローデン
    州(小選挙区)の人口15,300人。
    (47) ポーランドは単一国家である(憲法第3条)。同第104条第1項により、国会議員は、選挙人の指示に拘束され
    ない(自由委任の原則)。また上院規則第2条により、上院議員は、国家の安寧を考慮し良心に従って行動する
    とされている。
    (48) 第8選挙区ジェロナ・グラ(Zielona G6ra)、第20選挙区オポレ(Opole)、第23選挙区ビアウィストク
    (Biaiystok)、第32選挙区キエルツェ(Kielce)。
    (49) 上下院選挙法(2001年4月12日)第191条第2、3項。
    レファレンス 2008.8
    83
    挙区に分割される事例は存在しない。結局、
    上院選挙区の境界は、自治体である県、郡、
    市町村のいずれの境界とも交差していない。
    下院選挙区と違い上院選挙区については、
    定数再配分又は選挙区画見直し(特定県又は
    特定選挙区の人口が変動した場合、定数配分又は
    選挙区画を変更する趣旨)に関する法規定は存
    在しない。そのため、定数再配分又は選挙区
    画見直しを実施するか否かは、国会の判断に
    任されている⑸>。
    ⑹定数配分規定
    ① 選挙区別定数:
    上下院選挙法(2001年4月12日)別表第2
    ② 県別定数:同第192条第1項
    ③ 選挙区画定の原則(52):
    同第191条、第192条第2、3項
    ⑺定数配分規定の沿革
    ポーランド国会は、第2次世界大戦後の共
    産主義体制下で、一貫して一院制を維持して
    きた。上院設置がなされたのは1989年のこと
    であった。これは、自主管理労働組合「連帯」
    の要求に基づき、政府当局が譲歩し設置され
    たものであった。1989年以降、憲法に、上院
    選挙の原則として、平等選挙の原則が規定さ
    れたことはなかった。一方、下院選挙につい
    ては、1992年憲法第3条第1項、現行の1997
    年憲法第96条第2項で、平等選挙の原則が規
    定された。下院選挙区定数の人口比例原則
    は、これらの規定に根拠を持つ。上院選挙区
    定数の人口比例原則が憲法上規定されないた
    め(50 51 52 53)、1989年上院選挙法では、人口比例に
    よる定数配分はなされなかった。すなわち、
    県(当時49県)が選挙区とされ、人口の多寡
    にかかわらず各選挙区の定数は2名とされた
    (例外はワルシャワ県とカトヴィツェ県の各3名)
    (同法第3条)。なお、連邦制を採用しない単
    一国家のため、県は、「州」のような独立性
    の高い区域ではなく、単なる地方行政区域に
    過ぎなかった。特に1990年の地方制度改革以
    前は、地方「自治」制度も未発達であった。
    その後、1999年の地方制度改革で49県が16
    県に統合され、県は自治体としての地位を付
    与された。また新選挙法として現行の上下院
    選挙法(2001年4月12日)が制定された。上
    院選挙区は人口比例の原則に基づいて形成さ
    れることになった。この人口比例の原則は、
    憲法上の要請ではなく立法政策として採用さ
    れたものである。
    上下院選挙法(2001年4月12日)に関する
    国会審議の過程は、長期にわたり、かつ白熱
    したものであった。各政党の勢力に大きな影
    響を与えるからであった。新上院選挙区につ
    いては、地方制度改革で県の数が大幅に減っ
    たことにより、各政党の選挙結果にどのよう
    な影響が発生するかが、大きな関心を呼ん
    だ。結果的に、この上下院選挙法の内容は、
    極めて党派色が濃いものになった。与党の連
    帯選挙運動(AWS)は、2000年10月の大統領
    選挙の敗北•同党への世論の風当たりの強さ
    を受けて、それまでの立場を転換し、敵対政
    党である民主左翼連合(SLD)が次期総選挙
    で第一党になることを防止するという選挙法
    策定方針を持つに至った。具体的には、大政
    党よりも中小政党に議席配分が有利になるよ
    うな戦略に出た。下院の選挙制度について
    は、選挙区ごとの定数がなるべく多くなるこ
    (50) Janelle Kerlin, “The Political Means and Social Service Ends of Decentralization in Poland, ” 2002, p.25.世界
    銀行ホームページ。人
    ロ比例原則に基づく上院選挙区は、国民の間
    に民主的な選挙区形成として受け入れられて
    いるが、今後、上院の在り方も含めて何らか
    の変化が生じる可能性も残されている。
    ⑻ 一票の格差 1.71倍(2007年)岡。
    ⑼格差の特徴
    人口比例原則を基本にした選挙区画定が行
    われたため、一票の格差は小さい。
    M 制定過程を見ると、上院の定数配分について、種々の案が出ていたことが確認できる。当初、上院は、特別委
    員会での審査を経て、選挙区定数については大きな変更を行わない(48選挙区は定数各2人、ワルシャワ選挙区
    だけは4人)という案に至っていたが、下院の賛同を得られず、この案は採用されなかった。その後、上院の選
    挙区制を小選挙区(定数=1人)を中心にするという案も、与野党双方の一部の上院議員により提案されたが、
    これも採用されなかった。上下院の総選挙執行が迫っていたことも背景となり、最終的に現行の定数配分に落ち
    付いた。現行の上下院選挙法(2001年4月12日)の制度は、与党に有利であったため、野党に属している大統領
    が、憲法第122条に基づく法案拒否権を行使する可能性も取り沙汰されたが、結局、大統領は拒否権を行使しな
    力、った。George Sanford, Democratic government in Poland: constitutional politics since 1989, Houndmills: Pal-
    grave Macmillan, 2002, pp.175, 188.またポーランド上院事務局への問合せによる(2008.6.20 Biuro Informacji i
    Dokumentacj i所属の Danuta Malgorzata Korzeniowska 氏からEメールで回答を得た)。
    F. Millard, “Elections in Poland 2001: electoral manipulation and party upheaval,” Communist and Post-Com-
    munist Studies, v01.36 no.1, March 2003, pp.69-70; Yonhyok Choe et al., ed., Sweden and Poland from a Europe-
    an Perspective: Some Aspects on the Integration Process (Sodertorns hogskola Research Reports 1/2003),
    pp.158-163. (www.diva-portal.org/diva/getDocument7urn_nbn_se_sh_diva-40-1__fulltext.pdf>
    新選挙法に基づく初めての総選挙であった2001年9月23日上下院総選挙の結果を見ると、恣意的と評される新
    制度の下でも、与党は惨敗している。上院選挙の結果は、民主左翼連合75議席(47議席増)に対し、与党の流れ
    を汲む「ブロック上院2001」は14議席(50議席減)にとどまった。もし、2001年以前の上院選挙制度(完全連記制)
    及び定数配分(47の2人区と、2の3人区)のまま上院選挙が行われたと仮定すると、与党の獲得議席は、更に
    少なかった可能性がある。
    (56)ポーランド全国選挙局(Krajowe Biuro Wyborcze)への問合せによる(2007.9.13.同局顧問のHenryk Bielski
    氏からEメールで回答を得た)。
    就 阿部照哉・畑博行編『世界の憲法集(第3版)』有信堂高文社,2005, p.444; “President defends existence of
    Polish second chamber, ” BBC Monitoring European (Political),October 20, 2001, p.1; “Poland: Labour Union
    wants Senate abolished, ” BBC Monitoring European (Political),April 27, 2002, p.1.(いずれも ProQuest News-
    stand Complete databas eより).
    レファレンス 2008.8
    85
    8 チェコ
    ⑴選挙制度小選挙区2回投票制
    ⑵代表制の性格国民代表58 (59)
    (憲法第23条第3項、第26条)
    ⑶総定数81人
    ⑷ 選挙区定数 小選挙区:81区(2年ごとに
    3分の1の選挙区につき改選、上院選挙執行時に
    選挙がある選挙区とない選挙区に分かれる)
    ⑸選挙区画定法
    ⑴選挙区画定の原則
    選挙区は、①憲法第18条第2項に規定さ
    れる、上院選挙における「平等な選挙権」
    の原則、②憲法第3条で憲法秩序の一部を
    形成するとされる「基本的権利及び自由の
    憲章」の第21条第3項に規定される、「平
    等な選挙権」の原則に従って形成される。
    チェコでは、「平等な選挙権」の原則が、
    上院選挙における「選挙区間の人口均等」
    を要請すると解釈されている。従って、上
    院の選挙区は、行政区画の尊重の原則に
    従って形成されるものの、「選挙区間の人
    口均等」の要請の方が上位に立つ基準と
    なっており、行政区画と一致しない選挙区
    も見られる(60)〇
    (il)具体的な選挙区画定法
    第一に、選挙区画定案の作成と、法律化
    の主体は、議会(上院・下院)である。第
    二に、上院選挙が執行される年の1月1日
    時点の各選挙区の人口が、上院議員1人当
    たりの平均人口(全国人口 [同時点のもの]
  • 81議員、人口基数[population quota])と
    比べて、15%以上多くなったり又は少なく
    なったりした場合、選挙区画の見直しをし
    (58) {第40選挙区(シュチェチン[Szczecin]選挙区)の議員1人当たりの人口517,094人(1,034,188人+ 2議席)} + {第
    27選挙区(チェンストホーヴァ[Czestochowa]選挙区)の議員1人当たりの人口301,850人(603,700人+2議席)}。
    (59) チェコは連邦制国家ではなく、上院も地域代表として組織されたものではない(Jan Kysela, “Bicameralism in
    the Czech Republic: Reasons, Functions, Perspectives” チェ コ上院英語ホームページ)。
    憲法第26条により、上下院議員は、その職責を個人として宣誓に従って行使し、その際、いかなる指示にも拘
    束されない。同第23条第3項により、上下院議員の宣誓は以下のとおりである。「•••全人民の利益のために自ら
    の最高の見識と良識をもって、自己の職務を遂行することを誓う。」
    (60) 地方行政区画と選挙区画の関係について
    チェコの地方行政区域は、次のとおり。①「首都(プラハ市)と13の県(kraj)J〇自治体。②77の「郡(okres)」。
    自治体ではない。プラハ市は市全体が郡の区域。③6,254 (2003年9月)の「市町村(obec)」。基礎的自治体。大
    都市の場合、「区(mをstskA 8st)」が基礎的自治体として置かれることがある。④「市町村」、「区」が複数の「小
    区(cast obce) Jに分かれる場合がある。小区は自治体ではない。小区の数は数万。⑤首都のプラハ市は、22の「統
    合管理区(spravni obvod)」に分かれる。更に57の「区(m&tska CAst)」に分かれる。統合管理区は自治体では
    ない。区は基礎的自治体。区は複数の「小区(CAst obce)」に分かれる場合がある。
    ① の14の自治体区域(県レベルの区域):
    ほとんどの上院選挙区(81.5%」が、区域内部に形成されている(区域と完全に一致する事例はない)。15の上
    院選挙区(18.5%。は、2つの「①の自治体区域(県レベルの区域)」にまたがっている。
    ② の郡の区域:38の上院選挙区(46.9%」が、郡の区域と完全に一致して又は郡の区域の内部に、形成されて
    いる。43の上院選挙区(53.1%」は、2つ以上の郡にまたがっている。
    ③ の市町村・区の区域:
    上院選挙区が、市町村・区の境界線に沿って形成されている。例外は、首都のプラハ市内の上院選挙区(後述)。
    ④ の小区の区域:
    上院選挙区が、小区の境界線に沿って形成されている。例外は、首都のプラハ市内の上院選挙区(後述)。
    首都のプラハ市については、市の区域が10の上院選挙区に分割されており、いわゆる「分区」された事例であ
    る。プラハ市では、統合管理区、区、小区が、複数の上院選挙区に分割された事例が見られる。
    ⑴統合管理区:8つの統合管理区(36.4%。は、複数の選挙区に分割されている。
    i 区:例外的に区が分割されるケースも存在する。ただし4つの区(7%」に限られる。
    価)小区:例外的に小区が分割されるケースも存在する。ただし2つの小区に限られる。
    86 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    なければならない。見直しは、当該年中に
    行わなければならない(チェコ国会選挙法
    第59条第2項、第9?条)。第三に、第二に述
    べたごとく、選挙法の要請に基づき選挙区
    画見直しが行われることが基本であるた
    め、政治的な介入が難しいと言われる。た
    だし、選挙区の詳細な分析からゲリマン
    ダーの可能性を指摘する学説もチェコ国内
    には存在している(61)〇第四に、各選挙区
    の人口は、チェコ統計局(Cesky statisticky
    urad [CSU])が監視の義務を負う。同局は、
    第二に挙げた条件(15%以上の過多過少)が
    確認された場合、チェコ国会に通知する義
    務も負う。第五に、選挙区画定の基準は、
    第一順位が「人口均等」であり、第二順位
    以下で次の諸要素が考慮される。すなわち
    「行政区画の尊重」「人口密度の考慮」「現
    行の上院選挙区画の尊重」「財政上・行政
    管理上の配慮(選挙執行が現実に可能である
    こと等)」「交通・通信の便への配慮」である。
    ⑹選挙区画定規定
    ① 小選挙区数・人口偏差による区画是正義
    務に関する規定:国会選挙法第59条
    ② 小選挙区の一覧:同法別表第3
    ⑺選挙区画定規定の沿革
    チェコの上院は、東欧民主化とその後の
    チェコスロバキア解体を経て、1993年から施
    行された現行憲法に、その根拠を持ってい
    る。チェコ上院選挙が初めて行われたのは、
    1996年のことである。憲法及び国会選挙法の
    起草の段階で、上院議員の選任については、
    地域代表としないこと、間接選挙や任命制を
    採用しないことが共通認識となり、直接選挙
    によることとなった。チェコでは、オースト
    リア・ハンガリー帝国時代の民族対立の経
    験、チェコスロバキアの解体という歴史的経
    験が存在し、現在でもボヘミア、モラヴィ
    ァ、シレジアという歴史的地域が鼎立するこ
    とから(61 62)、地域代表の採用は、地域・民族
    間の対立を発生させる可能性があると考えら
    れている。間接選挙や任命制も、現代では通
    例、地域を基盤とした制度になることが多い
    ため、これらの可能性も否定された。
    このように地域を基盤とした選任制度に対
    する警戒感が存在する一方で、諸政党の持つ
    様々な考え方・利害の間の調整が図られ(63>、
    最終的に憲法第18条第2項に規定される、上
    院選挙における「平等な選挙権」の原則が重
    視されるようになった。この結果、現行の国
    会選挙法のとおり、上院の選挙区画定法につ
    (61) Jana Bittnerova, “PROHLASENI: Prohlasuji, ze jsem diplomovou praci vypracovala samostatne a vyhradne s
    pouzitim citovanych pramenu: V Plzni dne 24.5.2005” 西ボヘミア大学ホームページ
    (62) Petr Kopecky,Parliaments in the Czech and Slovak republics: party competition and parliamentary
    institutionalization, Aldershot: Ashgate, 2001, p.40.
    (63) ibid., pp.41-45, 52.またチェコ国会事務局への問合せによる(2008.5.29. 一般調査課長のStepan Pechacek博士か
    らEメールで回答を得た)。
    現行憲法で上院が設置された理由としては、次のものが挙げられる。①下院の立法の精査・修正。②下院の選
    挙結果に大きな変動が発生した場合の政策の継続性を確保(特に、下院選挙で左翼政党が勝利した場合に政策の
    継続性が確保したいとの意向が、中道右派政権側にあった)。③経済学者のフリードリッヒ・ハイエク(1899~
    1992年)の二院制論の影響(特に市民民主連合[ODA、小規模な保守政党]がハイエクの二院制論から影響を受
    けて上院の設置を強く求めた。同連合の主張は、現行憲法制定過程における最初の二院制導入論であった)。
    ④チェコスロバキア第一共和国時代(1918~1938年)の上院の存在の影響。①〜④のいずれも「地域代表制」を
    支持する理由ではなかった。
    1992年に現行憲法が制定されてから、上院選挙制度(定数配分•選挙区画定規定を含む)が1995年に国会選挙
    法で定められるまでの間、様々な議論がなされた。憲法改正による上院廃止論が一部から出されたり、同一政党
    内でも意見が分かれるなど、議論は複雑なものであった。最終的に、憲法第18条第2項に規定される上院選挙に
    おける「平等な選挙権」の原則が重視され、厳格な人口均等原則が採用された。
    レファレンス 2008.8
    8?
    いては、人口均等原則が最優先とされた(64) 65 66 *〇
    以上のような歴史的沿革を持つ上院選挙区
    画であるが、チェコでも一部に、上院を地域
    代表とすべきという議論が存在している。上
    院改革の議論は、様々な角度からなされてお
    り、その一つとして上院地域代表論が挙げら
    れている。しかし現状では、この種の見解が
    実際に採用される可能性は乏しい岡。
    ⑻ 一票の格差 1.39 倍(2002、2004、2006年)66>。
    ⑼格差の特徴
    人口偏差による区画是正義務が選挙法に規
    定されるため、一票の格差はかなり小さい。
    9 メキシコ
    ⑴選挙制度大選挙区比例代表並立制
    ⑵代表制の性格
    元来は州代表、現在その性格を弱めてい
    る(67>(連邦憲法第56条)
    ⑶総定数128人
    ⑷選挙区定数
    ①大選挙区:32区
    (定数3人、31州と連邦特別区[首都]の単位)
    ②比例区:1区(定数32人、全国単位)
    ⑸定数配分規定連邦憲法第56条
    ⑹定数配分規定の沿革
    メキシコ最初の共和政憲法と呼ばれる1824
    年連邦の憲法的法律(Acta Constitutiva de la
    Federacion de1824)第12条、またメキシコ最
    初の本格的憲法である1824年憲法(Consti-
    tucion de1824)第25条は、各州2人から成る
    上院を規定した。1824年憲法は、二院制等の
    政治制度についてアメリカ合衆国憲法の影響
    を多大に受けた。1874年に、一旦廃止されて
    いた上院が復活した時にも、各州同数の議員
    から成る上院とされた。
    現行の1917年連邦憲法第56条も、当初は、
    州と連邦特別(直轄)区から2人ずつ上院議
    員を選出することとしていた(半数改選のた
    め、各選挙区は選挙時に小選挙区となる)。1993
    年に総定数が128名に増加し、32大選挙区(州
    及び連邦特別区)で4名ずつ選出することに
    なった(半数改選は廃止)。以後1996年に比例
    (64) 選挙区制において小選挙区(定数=1人)を採用した点については、結局のところ地域代表制と同じことになっ
    てしまったと否定的に見る政治家も、存在している。実際、上院議員には市長経験者、地方議員経験者が多くお
    り、地方の観点から審議が行われることも多いことが、この見解を実証的に裏付けているとの指摘もある。しか
    し通常、チェコで地域代表制という言葉から想起されるエリアは、もっと広いエリア(例えばモラヴィア地域、
    シレジア地域等)であり、通説的には、現在の上院選挙制度は、地域代表制によるものではなく、チェコ上院も
    地域代表の議院ではないとされている。(Kopecky, op.cit.^, p.40; Kysela, opct(59))
    (65) Kysela, op. cit. 9
    (66) {第41選挙区(ベネショフ[Benesov]選挙区)の2006年第1回投票における登録有権者数120,255人け|第70選
    挙区(オストラヴァ・メスト】Ostrava-mesto]選挙区)の2004年第1回投票における登録有権者数86,528人}。
    3分の1ずつ改選されるため、登録有権者数の基準年は複数年にわたる。
    銘 メキシコは、連邦憲法第40、43条により、31州及び1連邦特別(直轄)区[首都]から成る連邦制国家である。
    メキシコの連邦制の特徴は、州の存在を認めながら、一方で中央集権的な要素が大幅に導入されていることであ
    る。
    メキシコの上院議員の代表制の性格に関しては、以下の歴史的経緯を確認できる。
    1824年連邦の憲法的法律、及び1824年憲法の時代の上院議員は、州代表であった。現行の1917年連邦憲法の制
    定当初、上院議員は、州又は連邦特別区の代表(dos miembros por cada Estado y dos por el Distrito Federal)
    とされた。また州議会が当選を宣言した。1993年からは、当選の宣言は選挙管理機関が行うことになった。1996
    年に現行制度となり、新たに連邦選挙委員会が設けられた。同委員会が当選の宣言を行うことになった。
    ①州及び連邦特別区「において(en cada Estado y en el Distrito Federal))選出される、又は単一の全国単位
    大選挙区「において(en una sola circunscripcion plurinominal nacional))選出される(比例区のこと)と、連
    邦憲法で規定される点(第56条)、②当選の宣言に州議会が関与しない点を考える合わせると、現在の上院議員
    は、州代表の性格を大幅に弱めている。
    上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等との関係は自由委任と解されている。
    88 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    区が設けられるまで、メキシコでは各州・各
    連邦特別区同数の議員によって上院を構成し
    てきた。このようにメキシコでは、州や連邦
    特別区を単位として上院議員を選任するケー
    スでは、これらの区域の定数が同数とされる
    ことが慣例である。
    ⑺一票の格差27.35倍(2005年)6紛。
    ⑻格差の特徴
    各州・連邦特別区が同数という定数配分、
    州・連邦特別区間の人口の差が大きいことの
    2つの理由で、一票の格差は極めて大きい。
    m 間接選挙を中心とした国々
    1フランス
    ⑴選挙制度
    ① 複選制的
    ② 選挙人団による選挙:
    完全連記2回投票制、小選挙区2回投票
    制、拘束名簿式比例代表制
    ⑵代表制の性格
    地方公共団体(地域共同体とも訳される)の
    代表が保障される。また、国外のフランス人
    も代表される68 69 (70)〇 (憲法第24条第3項)
    ⑶総定数348人
    (3年ごとに半数改選、在外選挙区を除き選挙執
    行時に上院選挙がある選挙区とない選挙区に分か
    れる、2008年7月時点では331人であるが2011年
    までに段階的に348人へ増員する)
    ⑷選挙区定数
    ① 本土にある選挙区:
    96区(総数315人、定数1〜12人、県単位)
    ② 海外の領土にある選挙区:
    11区(総数21人、定数1〜4人、海外県・
    海外共同体又は特別共同体の単位)
    ③ 在外選挙区:1区(総数12人、3年ごとに
    半数改選のため改選時の定数は6人)(71)
    ⑸定数配分規定
    憲法第25条第1項は、国会の各議院の構成
    員の定数を組織法律(Loi organique)で定め
    ると規定している。具体的には、総定数の増
    加・減少を伴う場合は、必ず組織法律で規定
    される。一方、県別の定数配分は、総定数に
    関係のない「配分」に関する事項とされ、通
    常法律(Loi ordinaire)で規定される。
    現行のフランス選挙法は、以下の定数規
    定・定数配分規定を有している。
    ① 本土選挙区・海外県選挙区の合計議席数
    (68) メヒコ州人口14,007,495人+バハ•カリフォルニア・スル州人口512,170人。なお、比例区(全国単位)におけ
    る議員1人当たりの人口は、3,226,980.88人(103,263,388人+32議席)である。この数値は、両州の議員1人当た
    りの人口の中間に位置する。
    (69) 間接選挙の基本的枠組み
    上院選挙区のエリアから選挙された下院議員•地方議員(又は、その代表)が、各上院選挙区で選挙人団を形
    成する。上院選挙区を単位として、この選挙人団が選挙を行い上院議員が選出される。約150,000人の選挙人団の
    約95%は、市町村議会議員又はその代表である。例外として、在外選挙区では、在外フランス人議会の中の公選
    議員が選挙人団を形成する。
    (70) フランスには、州(region)と呼ばれる地方行政区画が存在するが、州は地方公共団体の1つであり、フラン
    スは単一国家である。「地方公共団体」(憲法第24条第3項)には、海外県・海外共同体・特別共同体も含まれる(憲
    法第72条、第72条の3)。
    「地方公共団体の代表の保障」との規定は、個々の地方公共団体が直接にその代表を上院に送ることを意味す
    るわけではない。上院が、地方公共団体を総体として代表することを意味すると一般に解されている(山崎栄一
    「フランスにおける地方分権の動向⑹」『地方自治』661号,2002.12, p.74.)。本規定は、上院議員選挙の選挙人団(有
    権者)が、本質的に審議機関(地方議会)から構成されなければならないことを導くとされており(只野雅人「不
    可分の共和国とフランス元老院ー『地域代表』の観念をめぐって」『法律時報』73巻2号,2001.2, p.89.)、現在、県・
    海外県・海外共同体・特別共同体の市町村議会議員等が、同様に選挙人団(上院議員選挙人)を形成している。
    憲法第27条第1項は、国会議員に対する命令的委任を無効とし、同条第2項は国会議員の表決権は一身専属的
    としている。このことから、フランスの国会議員は、自由委任の原則の下にあることが分かる。
    (71) 「⑷選挙区定数」において、総数及び定数として掲げられる数は、2011年の増員終了後の数字である。
    レファレンス 2008.8
    89
    (326議席、選挙法典LO•第274条)【定数規定】
    ② サン・ピエール•エ・ミクロン選挙区(定
    数)(同LO•第334-2条)
    【定数増を発生させた規定】
    ③ マイヨット選挙区(定数)(同LO•第334-
    14-1条)【定数増を発生させた規定】
    ④ ニュー・カレドニア選挙区、フランス領
    ポリネシア選挙区、ワリス・エ・フツナ諸
    島選挙区(各定数)(同LO•第438-1条)
    【定数増を発生させた規定】
    ⑤ サン・バルテルミー選挙区(定数)(同
    LO•第500条)【定数増を発生させた規定】
    ⑥ サン・マルタン選挙区(定数)(同LO・第
    527条)【定数増を発生させた規定】
    ⑦ 在外選挙区全体(国外在住フランス人の上
    院代表に関する1983年6月17日の組織法律第
    83-499号第1条)【定数増を発生させた規定】
    本土各選挙区•海外県各選挙区の定数は、
    通常法律で規定される(選挙法典L第279条に
    付される別表第6。本別表は、2003年7月30日法
    律第2003-697号で挿入)。
    ⑹定数配分規定の沿革
    フランス上院の選挙区別定数配分に関して
    は、1948年以来慣例となっている計算法が存
    在する。この計算法は、憲法又は法律に直接
    的に規定されたものではないが、新規定数配
    分やその後の定数是正で、慣例として使用さ
    れている。すなわち、①県相当の地方公共団
    体エリアごとに、人口150,000人(或いは
    154,000人(72))までについて、まず1議席を配
    分する、②それを超える人口を持つエリアに
    は、150,001人〜400,000人までにつき1議席
    追加、400,001人〜650,000人までにつき更に
    1議席追加というように、(150,000人を超えた
    ら次の)250,000人までごとに1議席ずつ追加
    していく方式が、慣例である。実際に、2003
    年の定数是正、その前(1976年)の定数是正
    でも、この計算法が用いられている(72 73>。
    2003年の定数是正では、直近の1999年国勢
    調査人口を基本として、この計算法に従って
    定数配分を行っている。ただし、クルーズ県
    とパリ県は近年人口が減り続けている県で、
    慣例になっている計算法に従えば、各々1議
    席、9議席になるはずである^ミ、2議席、12
    議席と以前と同じ定数が維持されている。
    2003年の定数是正では、定数が減った県相当
    の地方公共団体エリアは1つも存在せず、増
    員のみが行われている。
    第五共和制成立以降、上院総定数は、フラ
    ンスから独立した国が現れて減員になった
    ケースを除き、ほぼ一貫して増えてきてい
    る。定数是正は、1976年、2003年の2回行わ
    れているが、いずれも「総定数増・減員選挙区
    なし」で対応している。(2008年7月21日に可決
    の憲法改正で上院総定数上限が348人になった)
    ⑺一票の格差•定数格差
    ①選挙人団(上院議員選挙人)に関するー
    票の格差(在外選挙区を含む)
    35.27倍 (1998、2001、2004年。2003年定数
    是正前[総定数321人])74>。
    30.93倍 (1998、2001、2004年。2003年定数
    是正後[総定数348人])75>。
    (72) 1948年の議席配分では154,000人が使われた。
    (73) 2000年の定数是正案(廃案になった)でも、この慣例が用いられている。
    (74) オワーズ県の上院議員1人当たりの上院議員選挙人740.67人(2,222人[2001年選挙時の上院議員選挙人実数]+
    定数3議席)+ワリス・エ・フツナ海外共同体の上院議員1人当たりの上院議員選挙人数21人(21人[1998年選
    挙時の上院議員選挙人実数]+定数1議席)。
    (75) ドルドーニュ県の上院議員1人当たりの上院議員選挙人649.5人(1,299人[1998年選挙時の上院議員選挙人実数]
    +定数2議席)+ワリス・エ・フツナ海外共同体の上院議員1人当たりの上院議員選挙人数21人(21人[1998年
    選挙時の上院議員選挙人実数]+定数1議席)。
    2008年に初めて上院議員選挙が行われる新設のサン・バルテルミー選挙区(定数1人)、サン・マルタン選挙
    区(定数1人)は、比較の対象から外した。
    90 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    ② 選挙区となる区域(県•海外県•海外共同
    体・特別共同体•在外選挙区)の人口格差
    52.38倍(主に2006年。2003年定数是正前[総
    定数321人])(76 77 78 79>。
    39.29倍(主に2006年。2003年定数是正後[総
    定数348人])”。
    ⑻格差の特徴
    慣例となっている定数配分計算法に従え
    ば、人口の極めて少ない海外共同体(COM)
    にも1議席が配分されるため、格差は極めて
    大きい。
    ・フランス上院の人口格差に関する憲法論議
    フランスでは、次のような憲法論議がな
    されている。
    憲法第24条第3項の上院における「地方
    公共団体の代表の保障」の原則は、しばし
    ば憲法上の争点として取り上げられてき
    た物。それは、「地方公共団体の代表の保
    障」と、選挙における人口比例原則をいか
    に調和させるかが、容易ではないことを背
    景にしている。1789年フランス人権宣言第
    6条及び憲法第3条第3項は、選挙権の平
    等を保障し、上院議員選挙でも人口比例の
    原則が適用されるべきことを要請してい
    る、と解釈されている。上院が「地方公共
    団体の代表」でありながら、同時に人口比
    例に基づく上院選挙を実現するには、どう
    すれば良いのかが、第五共和制憲法制定以
    来のテーマになっている。
    また、憲法第1条では、単ーで不可分な
    共和国(une republique indivisible)として
    フランスが位置付けられている。「不可分」
    という言葉は、憲法の平等原則と呼応し
    て、フランス国民の間の差異化を否定し、
    主権者として均一な国民の存在しか認めな
    いもの、と解釈されている㈣。そのた
    め、やはり選挙での人口比例原則が求めら
    れることになる。この点からも、「地方公
    共団体の代表の保障」原則と人口比例原則
    の間の調整が、問題になっている。
    一方、現実政治の側面からの批判も見ら
    れる。現行の上院選挙制度(定数配分を含
    む)が、農村部に基盤を有する保守・中道
    勢力に有利に働いており、左翼勢力から
    は、上院が「民主主義諸国の間では異例」
    「保守的上院の残寸宰」(『ル・モンド』紙にお
    けるジョスパン首相の発言(80))との手厳しい
    批判も提起されている。これに対し、小規
    模市町村を優遇する制度を、一種のア
    ファーマティブ・アクション(積極的差別
    是正措置)として理解することもできると
    いう立場も存在している。
    実際に、2003年の定数是正を例にして、
    上院の「地方公共団体の代表」の性格が、
    定数配分でどのように具体化されたか、見
    てみたい。
    在外フランス人も含めたフランスの総人
    口は、約65,000,000人である。その中で、
    上院定数配分上、県に相当する人口最少の
    (76) エロー県の上院議員1人当たりの人口330,832.33人(992,497人+ 3議席)+サン・ピエール・エ・ミクロン海外
    共同体の上院議員1人当たりの人口 6,316人(6,316人+1議席)。
    サン・バルテルミー選挙区、サン・マルタン選挙区は、比較の対象から外した。
    (77) エロー県の上院議員1人当たりの人口248,124.25人(992,497人+4議席)+サン・ピエール・エ・ミクロン海外
    共同体の上院議員1人当たりの人口 6,316人(6,316人+1議席)。
    サン・バルテルミー選挙区、サン・マルタン選挙区も、比較の対象とした。これに合わせて、海外県グアドルー
    プの人口から、サン・バルテルミー及びサン・マルタンの人口を除いて計算。
    (78) 大山礼子『フランスの政治制度』東信堂,2006, pp.19, 24, 82-83,154,162-165;大山礼子「元老院議員選挙におけ
    る選挙権の平等」『フランスの憲法判例』信山社,2002, pp.272-277;只野 前掲注(70), pp.88-91.
    (79) 山崎榮一『フランスの憲法改正と地方分権ージロンダンの復権』日本評論社,2006, p.59.
    M “Lionel Jospin donne la priorite a ses choix economiques et sociaux, ” Le Monde, 21 avril 1998 (Factiva.com
    databas eより).
    レファレンス 2008.8
    91
    地方公共団体は、サン・ピエール・エ・ミ
    クロン海外共同体(6,316人、2004年)であ
    る⑶)。仮に、県相当のすべての地方公共
    団体エリアで最低1人の上院議員の選出を
    認め、同時に人口比例に基づく定数配分を
    徹底すれば、上院の総定数は、10,000人以
    上になる(65,000,000人+6,316人/議席)。こ
    れでは、議院の適正規模を超えてしまう。
    県相当の地方公共団体エリアへの最低1議
    席配分制を認め、上院総定数を350人程度
    とすれば、3 0倍台という人口格差は、格差
    がかなり縮められた結果と判断することも
    可能である。実際に憲法院は、2003年の定
    数是正につき、無視できない不均衡を残す
    ものの、それでもなお不均衡の縮小は目に
    見える著しい結果が出ていると判断し、違
    憲ではない旨の裁決を行った岡。
    注意を要するのは、別の裁決において憲
    法院が、人口変動が生じているにもかかわ
    らず長期にわたって定数是正をしないこと
    に対しては、問題視していることである。
    すなわち、1789年フランス人権宣言第6条
    及び憲法第3、24条後>を併せて考えるな
    らば、立法者は、地方公共団体の人口増減
    を考慮して各県への定数配分を見直すべき
    であると判示している陽。この裁決は、
    1976年から四半世紀にわたり上院の定数是
    正が行われなかったことを受けている。
    2 オランダ
    ⑴選挙制度
    ① 複選制衝:
    ② 選挙人団による選挙:
    非拘束名簿式比例代表制
    ⑵代表制の性格国民代表岡(憲法第50条)
    ⑶総定数75人
    (4)選挙区(候補者名簿提出単位)の定数
    大選挙区:12区
    (選挙区ごとの定数は定められていない、州単位)
    ⑸ 選挙区・「投票価値」に関する規定
    ① 選挙区(候補者名簿提出単位)の区域に関
    する規定:1989年選挙法R1条等
    ② 「投票価値」に関する規定:同法U2条
    回2003年の定数是正では、海外の領土である海外県・海外共同体・特別共同体のいずれについても、同じ基準を
    用いて定数配分計算がなされている。このことは、2003年3月28日の憲法改正で、「フランス人民の中に海外住
    民が存在することを承認する」(第72条の3第1項)との規定が挿入されたことから考えると、妥当なことと考
    えられる。
    (82) 2003年 7 月 24 日憲法院裁決(Decision n° 2003-475 DC du 24 juillet 2003, Decision n° 2003-476 DC du 24 juillet
    2003)〇
    (83) 1789年フランス人権宣言第6条及び憲法第3条第3項は、選挙権の平等を保障し、人口比例の原則が選挙で適
    用されるべきことを要請している、と解釈されている。
    組 2000年 7 月 6 日憲法院裁決(Decision n° 2000-431 DC du 6 juillet 2000) 〇
    (85) 間接選挙の基本的枠組み
    全国総数564人(2007年)の州議会議員(全12州)が、選挙人団を形成する。各州内で行われる選挙人団の投
    票結果が全国レベルで合算・集計され、(全国レベルで)政党への議席配分がなされる。その後、各政党の獲得
    議席は、選挙区ごとの政党名簿に対して振り分けられ、当選者が決定される。議席配分方法、当選人決定方法
    は、下院議員選挙とほぼ同じである(三輪和宏「諸外国の下院の選挙制度(資料)」『レファレンス』671号,2006.12,
    pp.75-76参照)。ただし、1989年選挙法U2条に基づき、全国集計の際に、選挙人団が投じた各票には、州ごとに
    決められる「投票価値(Stemwaarde)」が乗じられる。「投票価値」は、選挙人団の投じる1票の価値を、州人
    口に比例させるように調整することを目的とした係数である。
    「投票価値」は、”選挙年の1月1日付け人口 [州単位])+(州議会議員数X100)!の商を四捨五入して整数とし
    た値である。
    (86) オランダは分権的統一国家とされ、単一国家である。12の州が存在するものの、我が国の都道府県に相当する
    ものと言われる。憲法第67条第3項により、国会議員は、表決において委任又は指示に拘束されないと規定され
    る。このため、オランダの国会議員は、自由委任の原則の下にあることが分かる。
    92
    レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    ⑹選挙区規定等の沿革(87) *
    1815年に上院が創設されて以来、オランダ
    では、上院議員は国王による終身議員の任命
    という形で選任されていた(1815年憲法第80
    条)。この時期の上院は、貴族・名士の代表
    機関であった。
    その後1848年に、国王ではなく、州議会に
    よる選任という形に制度が変更された。この
    当時は、州別定数が定まっていた(各州:1
    〜7議席)。例えば人口の少ないドレンテ州
    は1議席、人口の多い南ホラント州は7議席
    であった(1848年憲法第78条)。州別定数配分
    においては、一定の州人口比例原則が保たれ
    ていた。
    1923年には、すべての州を4つのグループ
    (1グループは1〜4州から形成された)に分
    け、グループを単位として州議会議員が間接
    選挙を行うという制度が採られた。グループ
    ごとの定数は、当初は12〜13議席であり、
    1956年以降は17〜21議席であった。この新制
    度の下では、上院議員選挙人(州議会議員)
    が投じる1票の価値を、州人口に比例させる
    ため、各票に乗じる調整係数として「投票価
    値(Stemwaarde)」の制度が採用された。そ
    の後1987年以降は、グループごとの定数は廃
    止された。すなわち、グループや州ごとの定
    数を定めないで、全国集計を行い各政党の獲
    得議席数を決定する制度が採用された(ただ
    し候補者名簿提出単位は州ごとである)。また
    「投票価値」の制度は、引き続き用いられる
    ことになった。
    なお、1923年以降に見られる、グループ別
    定数配分(或いは、グループや州ごとの定数が
    存在しないこと)、「投票価値」の制度につい
    ては、憲法で定められておらず、法律以下の
    レベルで定められている岡。
    オランダの上院議員は、1848年以降、州議
    会による選任、州議会議員による間接選挙と
    いう形態で選ばれてきた。しかし、各州同数
    の議員から成る上院という構成は一貫して採
    用されなかった。むしろ、1848年当時から、
    一定の州人口比例原則が採用されてきた。こ
    の1つの理由は、上院議員における代表制の
    性格に求めることができよう。上院議員は、
    上院創設当時から一貫して、全オランダ国民
    を代表する性格を与えられてきた(89)〇州代
    表としての明確な役割を期待されない上院議
    員について、小州への配慮等の理由で、各州
    同数の定数配分とする積極的根拠•意義は存
    在していないと考えられる。
    もう1つの理由は、オランダの社会・政
    治・選挙の在り方に求めることができよう。
    オランダの社会は、19世紀の末ごろから近年
    まで柱状社会(verzuiling)と呼ばれる在り方
    を特徴にしてきた。柱状社会とは、カトリッ
    ク、プロテスタント、自由主義派、社会民主
    主義派という、主として4つのグループ(柱
    [zuil])が社会の基盤をなしている状態を指
    す言葉である。オランダでは、これらの柱グ
    ループが、平等と寛容の原則の下で、多様性
    を認めつつ協議し合意形成をしていく政治シ
    ステムが長らく取られてきた。
    選挙制度の面でも、国民間の平等が重視さ
    れてきた。下院と地方議会では1917年から、
    上院では1922年から比例代表制が導入されて
    いる。現在でも、国政選挙から地方議会選挙
    まで、すべて比例代表制である(憲法第53条
    第1項、第129条第2項)。現在の比例代表制の
    仕組みを見ると、投票は全域(全国、全州等)
    で集計され、全域レベルで政党への議席配分
    87)“Eerste Kamerverkiezingen” “Geschiedenis Eerste Kamer” オラ ンダ上院ホーム ペーン
    随1917年憲法第82条、1953年憲法第85条、1983年憲法及び現行憲法第53. 55条。(法律への委任規定等)
    89)1815年憲法第77条、1840年憲法第79条、1948年憲法第74条、1917年憲法第78条、1983年憲法及び現行憲法第50条。
    レファレンス 2008.8
    93
    がなされている。この全域集計の存在の故
    に、オランダの選挙制度の特徴の1つは、
    「地域代表の欠如(absence of geographical
    representation)」であると言われる。上院選
    挙の実態を見ても、主要な政党においては、
    州別候補者名簿を全国レベルで調製し、それ
    を同政党の州議会議員(上院議員選挙人)に
    提供している。投票の段階でも、個々の州議
    会議員の判断は差し挟まれずに、政党の指示
    に従って投票がなされることが多い(90)〇こ
    のような社会•政治•選挙の在り方の下では、
    人口格差が大きくなり不平等を生む定数配分
    は、排除されることになろう。
    ⑺一票の格差•人口格差
    ① 上院議員選挙人(州議会議員)に関する
    一票の格差
    6.54倍(200?年)90 91>。
    ② 選挙区(州)人口に関する格差
    1.01倍(200?年)92>。
    ⑻格差の特徴
    上院選挙での1票には「投票価値(Stem-
    waarde)」が乗じられるため、上院議員選挙
    人(州議会議員)の一票の格差は大きいが、
    選挙区(州)人口に関する格差は、ほぼ消滅
    している。この手法は、間接選挙を採用しな
    がら、同時に人口格差をなくすことに成功し
    ており注目される。「投票価値」を用いた計
    算方法を取ることは、憲法では規定されてお
    らず、憲法第59条により選挙法に委任されて
    いる。
    3 アイルランド
    ⑴選挙・任命の制度
    ① 複選制、直接選挙、任命制の混合型(93>
    ② (複選制における)選挙人団による選挙・
    直接選挙の選挙制度:
    単記移譲式比例代表制
    ⑵代表制の性格
    職能代表制を中心とした混合型(大学選挙
    区代表・任命議員との混合)(94>(憲法第18条)
    ⑶総定数60人
    ⑷選挙区定数等
    ⑴職業別候補者名簿選挙区(複選制):
    1区(総数43人)
    ・名簿(95>ごとの定数は次のとおりである
    (各々、全国単位)
    ① 文化・教育分野の名簿からの選出議
    員:5人
    ② 農林水産分野の名簿からの選出議員:
    11人
    ③ 労働分野の名簿からの選出議員:11人
    ④ 産業・商業分野の名簿からの選出議
    (90) Rudy B. Andeweg and Galen A. Irwin, Governance and politics of the Netherlands, 2nd ed., Houndmills: Pal-
    grave Macmillan, 2005, pp.81, 132.
    (91) 南ホラント州の州議会議員の1票に乗ぜられる投票価値(628, 200?年上院選挙時の数値)+フレヴォラント州
    の州議会議員の1票に乗ぜられる投票価値(96、2007年上院選挙時の数値)。
    (92) ゼーラント州の人口1人当たりの上院選挙における代表度•影響度(ゼーラント州の州議会議員数[39人]x
    同州議会議員の1票に乗じられる投票価値[98] +同州の200?年1月1日人口 [380,548人])+フロ ーニンゲン州
    の人口1人当たりの上院選挙における代表度•影響度(フローニンゲン州の州議会議員数[43人]x同州議会議
    員の1票に乗じられる投票価値[133]+同州の200?年1月1日人口 [573,923人])。
    (93) 選挙・任命制度の概要
    ①複選制(間接選挙)では、下院議員、前上院議員、県会議員、市会議員が投票権を持つ。当該投票者が、5
    つの職業別候補者名簿ごとに1票ずつを投じる(1人合計5票)。②直接選挙では、アイルランド国立大学、又
    はダブリン大学の学位(学士を含む)を持つ者(18歳以上)が有権者になる。両大学選挙区ごとに、有権者が1
    票を投じる。③任命制では、首相の任命による。
    (94) 弥久保宏「アイルランド共和国の選挙制度⑵ 上院の権限と選挙制度」『選挙』52巻9号,1999.9, p.22.
    アイルランドは、単一国家である。また、上院議員に対する委任の規定は憲法には存在していない。実態的に
    は、下院と同様に上院も、政党の規律が強く、全国レベルの政党活動の一環の中で上院が運営されている。
    94 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    員:9人
    ⑤ 公務・福祉分野の名簿からの選出議
    員:7人
    伍)大学選挙区(直接選挙):
    2区(総数6人、両選挙区とも定数3人、
    大学単位[アイルランド国立大学とダブリン大
    学])
    価)任命議員(95 96 * 98 99>:11人
    ⑸定数配分規定
    ① 5つの職業別候補者名簿からの選出議員
    の総数:憲法第18条第4項第1号価)
    ② 各職業別候補者名簿からの選出議員数の
    範囲(5〜11人):憲法第18条第7項第2号
    ③ 各職業別候補者名簿からの選出議員数:
    1947年上院議員選挙法(職業別候補者名簿
    選出議員)第52条
    ④ 各職業別候補者名簿の中の2つの副名簿
    ごとの最少選出議員数:③に同じ
    ⑤ 各大学選挙区からの選出議員数:
    憲法第18条第4項第1号⑴伍
    ⑥ 任命議員の数:憲法第18条第1項
    ⑹定数配分規定の沿革(97)
    アイルランドの上院の起源は、1922年自由
    国憲法に遡る。この時、上院議員は全国1区
    の比例代表制によって、国民の直接選挙で選
    出された例。当然ながら、定数配分の必要
    もなかった。その後、直接選挙を廃し、下院
    議員による選出という間接的選出方法への変
    更が行われた後、1936年には上院がいったん
    廃止された。翌1937年にはエール憲法が制定
    され、上院が復活した。この時の定数配分
    が、現行の定数配分に引き継がれている。
    ⑺一票の格差•人口格差
    ⑴職業別候補者名簿選挙(複選制)におけ
    る格差
    修)職業別候補者名簿選挙の選挙人(下院
    議員、前上院議員、県議会議員、市議会議
    員)に関する一票の格差
    なし(1倍)(99)
    (b)選挙人が選出された又は母体とする行
    政区域(県・市等)に関する人口格差
    職業別候補者名簿選挙の選挙人が選出
    された又は母体とする行政区域の間に人
    口格差があるか否かは、不詳である。す
    なわち、①前上院議員には任命議員が存
    在する、②下院議員選挙区については、
    県境と一致せず交差するケース、地方議
    会選挙区の境界と一致せず交差するケー
    スが見られる等の理由から、人口格差を
    計算することが難しい。
    伍大学選挙区(直接選挙)の一票の格差
    2.62倍(2006年)100>
    (95) 職業別候補者名簿は、①〜⑤の5つの分野ごとに作成される。候補者登載に当たっては、各名簿とも2通りの
    推薦がなされて候補者が決定される。1つは、職業団体による推薦であり、これにより推薦団体候補者名簿が作
    成される。職業団体は、各職業分野の利益を代表する団体であり、選挙管理官の下に各分野に複数の団体が登録
    される。もう1つは、国会議員(下院議員及び前上院議員)による推薦であり、これにより国会候補者名簿が作
    成される。推薦団体候補者名簿と国会候補者名簿は、副名簿と呼ばれ、両名簿を合わせたものが各分野の職業別
    候補者名簿になる。各副名簿には、当該副名簿から選挙される最少議員数が定められている(1947年上院議員選
    挙法[職業別候補者名簿選出議員]第52条)。
    (96) アイルランド憲法では、指名(nominate)という単語が使われており、正確には、首相が指名し大統領が上院
    を召集するという手順になる。
    怖弥久保前掲注(94), pp.22-24.
    (98) 1922年自由国憲法第32条。具体的には単記移譲式比例代表制。ただし、初回の上院議員の選任だけは、別の暫
    定的方法(下院による選出+首相の任命)で行われた。
    (99) 職業別候補者名簿に関する選挙人は、全員が5つの職業別候補者名簿ごとに1票(合計5票、いずれも単記移
    譲式による優先順位を記入する)を投じることができるため、同選挙人が投じる票の価値に格差は存在しない。
    W {アイルランド国立大学選出議員1人当たりの有権者数34,000人(102,000人[2006年有権者数]+同選挙区定数
    3議席)。+ ■!ダブリン大学選出議員1人当たりの有権者数13,000人(39,000人[2006年有権者数]+同選挙区定数3
    議席)}。
    レファレンス 2008.8
    95
    価)職業別候補者名簿選挙(全体)と大学選
    挙区選挙を比較した人口•有権者数格差
    7.58倍(2006年)(101>
    ⑻格差の特徴
    ⑴ 職業別候補者名簿選挙について
    全国1区という名簿の性質上、上院議員
    選挙人の一票の格差は存在しない。
    職業別候補者名簿を通じて各職業分野が
    十分に代表されているか否かについて、課
    題が残されている可能性がある。例えば、
    農林水産分野の名簿からの選出議員は11人
    で、職業別候補者名簿選出議員43人の中で
    25.58%を占める。しかし、国勢調査人口
    (2006年)では農林水産業従事者は4.25%、
    食品製造業従事者は1.25%であり、合算し
    ても5.5%に過ぎない。農林水産分野は過剰
    に代表されている可能性がある。
    また、選挙管理官の下に登録される職業
    団体の数が限定的である。2007年時点で、
    文化・教育分野34団体、農林水産分野11団
    体、労働分野2団体、産業・商業分野43団
    体、公務・福祉分野14団体である。職業団
    体が登録されていない職業が存在する可能
    性もある101 (102)〇公平性を保ちつつ職業ごと
    に代表を選出するという点では、改善の余
    地があるかもしれない。
    伍)大学選挙区について
    大学選挙区は定数に比べて有権者数が極
    めて少ないため、職業別候補者名簿選挙と
    の間で大きな格差を生じている。大学選挙
    区は、過剰に代表されている可能性があ
    る。また2つの大学選挙区間でも、同定数
    という定数配分の結果、小さな格差を生じ
    ている。
    大学選挙区の有権者資格は、2つの大学
    選挙区間、及び職業別候補者名簿選挙の選
    挙人の資格との間で、重複取得が可能であ
    る(1937年上院議員選挙法[大学選挙区議員]
    第7条)。アイルランド国立大学及びダブ
    リン大学の2つの学位を持てば、原則とし
    て両大学選挙区で各1票(合計2票)を行
    使できる。職業別候補者名簿選挙の選挙人
    カミ、アイルランド国立大学又はダブリン大
    学の学位取得者であれば、職業別候補者名
    簿選挙及び大学選挙区選挙で合計2票を行
    使できるのが原則である。大学選挙区は、
    複数票行使の問題を内在させている(103>。
    IV任命制等の国々
    1カナダ
    ⑴任命方法
    州・準州ごとに、連邦首相の助言に基づ
    き、総督が任命
    ⑵代表制の性格
    ① 州・準州代表(104)
    (1867年憲法第22条、第23条第3、5、6項)
    ② 区域①ivision)代表(同第22条)
    ⑶総定数105人
    ⑷州・準州別定数
    ① オンタリオ州、ケベック州:各24人
    ② ノヴァ・スコシア州、ニュー•ブランズ
    ウィック州:各10人
    ③ マニトバ州、ブリティッシュ•コロンビ
    ア州、サスカチュワン州、アルバータ州、
    ニューファンドランド・ラブラドール州:
    (101) 1職業別候補者名簿選出議員1人当たりの人口98,601.12人(4,239,848人[2006年アイルランド人口] +同名簿選
    出議員総定数43議席))+ {ダブリン大学選出議員1人当たりの有権者数13,000人(前掲注剛)。。
    (102) Arthur W. Bromage and Mary C. Bromage, “Foreign Government and Politics: The Vocational Senate in Ire-
    land, “American Political Science Review, vol.34 no. 3, June 1940, pp.525-526.
    (103。大学選挙区については、現在2大学に限られていることを改め、国内の全大学に有権者の範囲を拡大し、選挙
    区は全国1区の大学選挙区に統合するとの改革案もある。この案に従えば、現在の2大学選挙区間の一票の格差
    の問題は解消することになる。
    96 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    各6人
    ④ プリンス•エドワード•アイランド州:
    4人
    ⑤ ユーコン準州、北西準州、ヌナヴット準
    州:各1人
    ⑸定数配分規定
    1867年憲法第22条第1項、1999年憲法(ヌ
    ナヴット)第43条第3項
    ⑹定数配分規定の沿革
    イギリス国会による英領北アメリカ法
    (1867年憲法)の制定により、カナダは、自治
    領カナダ(Dominion of Canada)という名称
    で、連邦をスタートさせた。同法は、二院制
    から成る連邦議会を設置し、下院では人口比
    例の代表制、上院では地域代表制を採用し
    た。上院は、固有の歴史と独自性を持つ各地
    域の利益の保護という観点から地域代表制を
    採用した。上院の代表制が、この形に落ち付
    いたのは、連邦形成以前に存在していた各植
    民地の間で妥協が成立したからであっ
    た(105)〇妥協の背景として、アメリカ流の「各
    州同数の上院議員」という制度は、連邦政府
    を犠牲にし、州政府に過大な権限を与えると
    いう考え方があったとされている(106)〇
    当初の定数配分を見ると、①オンタリオ州
    となったカナダ西部、②ケベック州となった
    カナダ東部、③ノヴァ・スコシア州及び
    ニュー•ブランズウィック州となった大西洋
    沿岸地域(大西洋岸諸州)の3つの区域①ivi-
    sion)は、各24議席の同数であった。大西洋
    沿岸地域の内訳を見てもノヴァ•スコシア
    州、ニュー・ブランズウィック州が各12議席
    の同数であった。この定数配分は、各州同数
    ではなく、「各区域(Division)Jで同数とい
    う原則に基づいていることが分かる。この
    時、総定数は72人であった。現在の州・準州
    別定数配分は、英領北アメリカ法(1867年憲
    法)制定当初の考え方を引き継いでいる。
    また、現在の定数配分を説明する別の考え
    方として、「人口比例原則を連邦制という観
    点から補正した」というものが挙げられるこ
    とがある。すなわち、カナダでは州ごとの人
    口の多寡に差が大きく、例えばオンタリオ州
    やケベック州は、各々、全人口の3分の1
    (104)1867年憲法第3条により、カナダは連邦制国家である。現在、10州、3準州から構成される。上院議員は、代
    表すべき州・準州が決められており、その住民でなければならない。しかし、上院議員は、州・準州の単なる代
    理人・代弁機関ではないと解されている(『コスタリカ・カナダにおける憲法事情及び国連に関する実情調査ー
    概要』参議院憲法調査会事務局,2004, pp.92-93.)。上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在せず、州民等
    との関係は自由委任と解されている。
    上院の役割としては、州利益の保護、下院の錯誤の修正、過激な政策の抑制等が挙げられる(馬場伸也ほか『世
    界の議会(第11巻 カナダ・中米)』ぎょうせい,1983,p.67.)。
    連邦憲法第22条第1項によれば、①オンタリオ州、②ケベック州、③大西洋岸諸州(ノヴァ・スコシア州、
    ニュー ・ブランズウィック州)、プリンス・エドワード・アイランド州、④西部4州(マニトバ州、ブリティッシュ・
    コロンビア州、サスカチュワン州、アルバータ州)という4区域(Division)が規定されており、各区域の上院
    議員数はいずれも24人で、4区域が平等に代表されると規定されている。上院議員は州・準州の代表であり、こ
    れらの4区域に属する上院議員の場合は同時に、区域の代表でもある。
    (105。妥協の中心勢力は、既に植民地連合(連合カナダ)を形成していたカナダ西部・カナダ東部、これとは別の植
    民地連合(大西洋沿岸植民地連合)を形成する可能性もあった大西洋沿岸の数植民地であった。このうち、連合
    カナダは、既に連合カナダ植民地議会を持っていたが、カナダ西部とカナダ東部が65人ずつ「同数の」代表を直
    接選挙で出していた。人口は、カナダ東部の方が多かったが、東西の「同数原則」を採用していた。
    結局、プリンス・エドワード・アイランド、ニューファンドランドという大西洋沿岸の2つの島映植民地は、
    当初は連邦への参加を行わなかった。このため、連合カナダ、ノヴァ・スコシア、ニュー・ブランズウィックの
    3植民地の妥協により、連邦が創設された。上院議員の定数配分は、カナダ西部・カナダ東部•大西洋沿岸地域
    (大西洋沿岸植民地連合の構想の影響を受けた、地域区分の考え方であった)が「同数」とされた。
    大原祐子『カナダ現代史』(世界現代史31)山川出版社,1981, pp.42, 53, 56-59, 61-63, 70-71, 77-78,177.
    (106。ジョン・セイウェル(吉田健正訳)『カナダの政治と憲法(改訂版)』三省堂,1994,p.25.
    レファレンス 2008.8
    97
    強、4分の1弱を占めている。完全な人口比
    例で州・準州別定数配分を行うと、オンタリ
    才州やケベック州の発言権が強くなり過ぎ、
    連邦制維持にとって大きな障害になる。連邦
    制を保障する観点から、小さな州•準州にも
    発言権を確保した結果、現在の定数配分が導
    き出された、と説明される(107>。
    ⑺定数格差23.58倍 (200?年)10紛
    ⑻格差の特徴
    区域(Division)間の同定数配分、人口比
    例原則の大幅な補正、州・準州間の人口の差
    が大きいことの3つの理由で、定数格差は極
    めて大きい。
    2 ドイツ
    ⑴任命方法
    州政府による任命
    (州首相、州閣僚等が当てられる)
    ⑵代表制の性格州代表107 108 (109)(連邦憲法第51条)
    ⑶総定数69人
    ⑷州別定数
    3〜6人。各州(16州)は、議決で3〜6
    票を行使するが、票数と同数までの議員を任
    命できる。各州は、最少で3票を保証され、
    人口200万人以上の州は4票を、600万人以上
    の州は5票を、?00万人以上の州は6票を行
    使できる。
    ⑸ 定数配分規定 連邦憲法第51条第2、3項
    (州別定数配分法)
    ⑹定数配分規定の沿革
    18?1年のビスマルク憲法(ドイツ帝国憲法)
    は、二院制の連邦議会を設置し、第一院に連
    邦参議院を位置付けた。連邦参議院は、邦を
    代表する議員から構成された。邦ごとの議員
    数は、邦の人口や面積に比例させず、プロイ
    セン、南ドイツ3邦、その他の小邦という3
    区分を設け、その配分を行った。その結果、
    総定数58議席は、プロイセン17議席、その他
    の邦1〜6議席という形で配分された(第6
    条第1項)。また、連邦参議院議長は帝国宰
    相が兼ね、通例、帝国宰相はプロイセン首相
    が兼ねた。このように、連邦参議院では、プ
    ロイセン優位が明確であった(110)〇
    続く1919年のワイマール憲法は、共和国の
    立法•行政において、州の意思を反映させる
    州代表機関として、共和国参議院を設置し
    た。共和国参議院は、共和国議会に対する第
    二院と位置付けることができる(111)〇共和国
    参議院では、18の州の代表者が議員となり、
    州ごとの議員数は、州人口に比例して決定さ
    れた。ただし、最少でも各州1人が保証さ
    れ、最多でも総議員数の5分の2未満とされ
    た(第61条)。結果として、人口の多いプロ
    イセン州の代表が、総議員数のほぼ5分の2
    近くを占めることになった。共和国参議院
    は、国民の平等(人口比例原則)と人口の多
    い州(プロイセン)の覇権の阻止の2つの目
    的の均衡の上に構成された(112)0
    (107) 『コスタリカ・カナダにおける憲法事情及び国連に関する実情調査一概要』前掲注(104), p.92.
    (108) ブリティッシュ・コロンビア州の議員1人当たりの人口?33,821.83人(4,402,931人+ 6議席)+ヌナヴット準州
    の議員1人当たりの人口 31,12?人(31,127人+1議席)。
    (109) 連邦憲法前文及び第20条第1項により、16州から成る連邦制国家である。各州の上院議員は、議決の際に州ご
    とに一体となった表決を行う(同第51条第3項)。実際の表決では、州ごとに代表となる上院議員1名が、当該
    州に割当てられた全票数を一括して行使する。実際に、上院議員は州政府の指示を受ける。連邦憲法第51条によ
    り、上院議員は命令的委任を受けると解釈されている。
    (110) 名雪健二『ドイツ憲法入門』八千代出版,2008, pp.1?-21.
    (111) 第二院(上院)と位置付けず、共和国議会から独立した別の機関とする見解もある。
    (112) Ch・グズイ(原田武夫訳)『ヴァイマール憲法一全体像と現実』風行社,2002, pp.191-192.(原書名:Christoph
    Gusy, Die Weimarer Reichsverfassung.199?.)
    実際にはプロイセン州の人口は、非常に多かったため、もし州人口比例による議席配分が貫徹されていれば、
    プロイセン州の議員数は、約3分の2になったと推定される(名雪 前掲注(110。,p.30.)。
    98 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    第二次世界大戦後の1949年には、ドイツ連
    邦共和国基本法(現行憲法)が制定され、連
    邦参議院については、ほぼ現行と同じ州別定
    数配分法が採用された。完全な州人口比例に
    よる定数配分法を採用しなかった1つの理由
    は、1つ又は2つの州が人口の多さだけで、
    上院で3分の2以上の多数(113)を占めること
    のないように配慮したためである(114)0ビス
    マルク憲法、ワイマール憲法時代に見られ
    た、特定邦・州(すなわちプロイセン)の優位
    と類似する事態は避けられることになっ
    た(115)0その後、1990年に若干の改正が行わ
    れ、現行の州別定数配分法に至っている。な
    お、現行の州別定数配分法は、各州同数の上
    院議員を任命する方式と、各州の人口に比例
    した上院議員を任命する方式の中間を取って
    いるという形で説明される場合がある(116)〇
    ⑺定数格差13.62倍(2005年)(117)
    ⑻格差の特徴
    ①州別定数の上限(6人)と下限(3人)
    を厳しく設定し、かつ②州人口に十分に比例
    させる計算方法で定数配分をしていないた
    め、更に③州間の人口の差が大きいため、定
    数格差は極めて大きい。
    3 オーストリア
    ⑴選任方法
    州議会により比例代表の原則に従って選任
    される(118)0ただし、上院議員は州議会議員
    である必要はない。
    ⑵代表制の性格州代表(119)(連邦憲法第34条)
    ⑶総定数62人(120)
    ⑷州別定数3〜12人
    各州(9州)は、州公民数(121)に比例する形
    で定数を割り当てられる。最多の公民数の州
    (現在、下オーストリア州)には12議席が割り
    当てられ、これに(州公民数数と議席数が)比
    例する形で、他州の議席数が決められる。比
    例計算で、割当議席数に端数が出た場合は、
    四捨五入して整数にする。最少の州でも3議
    席は保証される。公民数は、10年ごとの国勢
    調査の結果による 値近は2001年5月15日調査)。
    ⑸定数配分規定
    連邦憲法第34条第2項
    (州別定数配分計算法)
    ⑹定数配分規定の沿革
    オーストリアの現行連邦憲法の起源は、
    1920年の連邦憲法にある。1920年連邦憲法
    は、二院制から成る連邦議会を設置し、上院
    については、その州別定数配分法を、現行連
    邦憲法とほぼ同様に規定していた。最多の公
    (113) 例えば、連邦憲法改正の際に、上院側で必要とされる同意の数が「3分の2以上」となっている。(連邦憲法
    第?9条第2項)
    (114) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注(32), pp.46-48.
    (115) 名雪前掲注(110), p.79.
    (116) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注3), pp.46-48.
    (117) ノルトライン・ヴェストファーレン州の議員1人当たりの人口3,009,666.67人(18,058,000人+ 6議席)+ブレー
    メン州の議員1人当たりの人口221,000人(663,000人+3議席)。
    (118) 各州議会の独自の手続きに従って、州ごとに連邦上院議員が連邦上院へ送られるという形を取る。選任方法
    は、州憲法等に規定されるが、全州で共通する事項については、連邦憲法第34、35条に規定される。例えば
    ウィーン州(市でもある)では、州憲法第13?条等に連邦上院議員の選任方法が規定される。
    (119) 連邦憲法第2条により9州から成る連邦制国家である。ただし、同第56条により、連邦議会議員は、いかなる
    委任にも拘束されない(自由委任の原則)と規定されるため、上院議員は州の単なる代理人•代弁機関ではない。
    (120) 総定数は固定されているものではなく、10年ごとの州別定数の再配分の結果、増減する可能性がある。
    (121) 公民数(BHrgerzahl):公民(BHrger)とは、全住民を指すのではなく、公民権(選挙権等)を有する住民に
    限定する概念である。
    レファレンス 2008.8
    99
    民数の州が12議席、最少の州でも3議席が保
    証される点も、同じであった。1920年連邦憲
    法は、社会民主党の中央集権主義(連邦制自
    体の否定的)に、キリスト教社会党の州権主
    義が統合される形で妥協が成立し、中央集権
    優位の下に制定された経緯を持ってい
    る(122)。上院において人口比例原則に基づく
    州別定数配分法が採用されたのも、この経緯
    を背景としていると考えられる。
    その後、1934年の連邦憲法(職能主義・全
    体主義に基づく憲法)は、上院議員の構成に
    関し異なる規定を設けた。しかし第2次世界
    大戦後には、1920年連邦憲法が再び採用され
    ることになった。このため、上院の州別定数
    配分法も復活することになり、現在に引き継
    がれている。
    現在の上院における表決の傾向を見ると、
    上院議員は州単位でまとまった表決の行動を
    取るよりも、政党単位でまとまった表決の行
    動を取ることの方が多い(123)。このことは、
    上院議員が州代表と規定されるものの、実際
    には政党の影響力が強いことを表している。
    アメリカ上院のような各州同定数とする制度
    は、州の単位を基盤にした政治という在り方
    を強調する。一方、公民数に比例した州別定
    数配分という制度は、州を単位とする政治と
    いう側面を弱めるため、政党を軸にした政治
    システムにとって、より適合的であると考え
    られる。現在の定数配分法は、政党政治とい
    う実際の政治システムの面からも、意義を持
    つものと言えよう。
    なお、オーストリアでも、各州同数の定数
    配分とすべきとの主張は存在している。官
    僚、キリスト教社会党、大ドイツ党等から成
    る第3次ショーバー内閣が、1929年10月に提
    出した憲法改正案では、各州2名から成る連
    邦上院という項目が含まれていた(ただし、
    この部分の改正は成立しなかった)。また、現
    在オーストリアで人口が2番目に少ない州で
    あるフォアアールベルク州のホームページに
    は、各州同数の上院定数配分を求める主張が
    紹介されている(122 123 124>。
    ⑺定数格差1.63倍(2008年。125>
    ⑻格差の特徴
    連邦憲法に規定される州別定数配分計算法
    は、人口比例原則を基本としつつ、州別定数
    に最少ライン(3議席)を保証している。連
    邦制の枠組みの中で人口に関する平等原則を
    大きく採用する考え方に立つものである。こ
    のため、定数格差は小さい。
    4 ロシア
    ⑴選任方法
    連邦構成主体ごとに、①代表(立法)機関
    が選任する議員1名、及び②執行(行政)機
    関の長が指名し、代表(立法)機関が承認す
    る議員(1名)(合計2名)が就任する(126>。
    ⑵代表制の性格連邦構成主体の代表(127>
    (連邦憲法第95条第2項)
    ⑶総定数166人喚>
    ⑷連邦構成主体別定数各2人
    ⑸ 定数配分規定 連邦憲法第95条第2項
    ⑹定数配分規定の沿革
    ソビエト連邦時代の最後の連邦憲法である
    (122) 細井保『オーストリア政治危機の構造ー第一共和国国民議会の経験と理論』法政大学出版局,2001,pp.47-49.
    (123) 『オーストリアの地方自治』自治体国際化協会,2005, p.47.
    (124) “Osterreichs Landerkammer: der Bundesrat”フォアアールベルク州ホームページ
    (125) ウィーン州の議員1人当たりの人口152,533.36人(1,677,867人+11議席)+ブルゲンラント州の議員1人当たり
    の人口93,730人(281,190人+ 3議席)。
    (126) 連邦憲法第95条第2項。連邦議会上院構成手続法第1~6条。なお、2000年7月に同構成手続法が改正されて
    おり、改正より前は、同構成手続法第1条(改正前の条文)により、連邦構成主体ごとに、①代表(立法)機関
    の長(1名)、及び②執行(行政)機関の長(1名)(合計2名)が就任するとされていた。
    100 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    197?年連邦憲法(ブレジネフ憲法)を見ると、
    連邦上院(連邦最高ソビエトの民族会議127 128 (129))の
    構成は、共和国各32人、自治共和国各11人、
    自治州各5人、自治管区各1人となっており
    (第110条)、民族の規模•人口を配慮しつつ
    定数配分がなされていた(130)〇 一方、ロシア
    について見ると、ロシア•ソ連邦社会主義共
    和国憲法(1978年4月12日)は、一院制のロ
    シア共和国最高ソビエト(131>を設置していた
    (第104条)。
    現行憲法における連邦上院(連邦会議)の
    定数配分規定は、1990年6月のロシア主権宣
    言以降進められてきた新憲法制定論議を背景
    とし、最終的に「連邦構成主体ごとに2人」
    に落ち付いたものであった。新憲法制定論議
    は、連邦大統領、連邦議会、地方権力の3者
    の均衡を保つという方向性では一致していた
    が、具体的な規定については合意がなかなか
    得られなかった。
    ロシア共和国最高ソビエトに置かれた憲法
    委員会の第3次草案(1992年3月24日)では、
    二院制(衆議院と連邦院)のロシア連邦最高
    会議を設け、連邦院は、構成共和国、地方、
    州、自治州から2人ずつ、自治管区から1人
    ずつの議員が直接選挙で選出されるとなって
    いた(第8?条第3項、第94条第1項)。この第
    3次草案は、新憲法として採択されることが
    期待されて取りまとめられたものであった
    が、諸政治勢力間の対立が厳しく、新憲法と
    しての採択は不可能な情勢であった。
    1992年3月31日に締結されたロシア連邦条
    約は、連邦の主体を、構成共和国、地方、
    州、連邦直轄市、自治州、自治管区とし、こ
    れらの主体間に権限の大小を認めた。しか
    し、一方でこれらの主体が連邦において平等
    に代表されることを明確化したと一般に解釈
    されている。この条約の影響で、連邦上院の
    定数配分については、以後、各連邦主体とも
    2人とする提案が増えた(132) *〇
    1992年4月21日、ロシア・ソ連邦社会主義
    共和国憲法の改正が行われた。改正後の憲法
    の名称はロシア連邦憲法になった。改正時点
    の規定を見ると、二院制(共和国会議と民族
    会議)のロシア連邦最高会議(133>が設置され、
    民族会議の構成は、①構成共和国各3人、②
    自治州各1人、③自治区各1人、④地方、
    (127) 連邦憲法第1、65条により、(2008年7月時点で)83の連邦構成主体(CySteKT ¢eaepamm )から構成される
    連邦制国家である。連邦構成主体には、州(46)、共和国(21)、地方⑼、市⑵、自治州⑴、自治管区⑷が存在する。近
    年、自治管区は他の連邦構成主体に統合されるケースが多く、自治管区の数は減り続けている。
    上院議員に対する委任の規定は連邦憲法には存在しない。しかし、上院議員については、上院議長の提案に基
    づき、各連邦構成主体が任期満了前に職務を停止させることに同意した場合、上院が解任手続きを取ることがで
    きる(連邦議会上院構成手続法第9条、上院議員及び下院議員の地位に関する連邦法第4条第2項)。このため、
    上院議員の地位は、選任母体である連邦構成主体から影響を受ける。従って、実態面では命令的委任を受ける側
    面も存在すると言える。
    (128) 連邦構成主体の統合が進み当初の89から減少してきているため、上院議員の数について暫定措置が取られてい
    る。そのため、2008年5月時点で、16?人(欠員を除く)の上院議員が存在しており、この数は(連邦構成主体
    数X2)より多い。今後も統合が進む可能性があるが、将来的には(連邦構成主体数X2)の議員数になる。
    (129。まず連邦人民代議員が選挙され、連邦人民代議員大会が開催されることになっていた。次いで、同大会によつ
    て連邦人民代議員の中から連邦最高ソビエトの議員が選出された(ソ連邦憲法第111条第2項)。連邦最高ソビエ
    卜は、連邦議会に当たる機関で、連邦会議と民族会議の二院制であった。
    (130。定数配分は、後に共和国各11人、自治共和国各4人、自治州各2人、自治管区各1人と改正された(第111条
    第4項。。
    (131。国民の直接選挙で選出された(憲法第94, 105条)。
    (132。 Thomas F. Remington, The Russian Parliament: institutional evolution in a transitional regime 1989-1999,
    New Haven: Yale University Press, 2001, pp.158, 161-162.
    (133。まず連邦人民代議員が選挙され、連邦人民代議員大会が開催されることになっていた。次いで、同大会によつ
    て連邦人民代議員の中から連邦最高会議の議員が選出された(連邦憲法第10?条第2項)。
    レファレンス 2008.8 101
    州、モスクワ市、サンクト•ペテルブルグ市
    から合計で63人、となっていた(第107条第4
    項)。民族の規模・人口に、若干の配慮をし
    つつ定数配分がなされていた。このロシア連
    邦憲法は、社会主義体制の残淳を抱えた憲法
    であり、新憲法と呼ぶことが困難な性格を有
    していた。民族会議の構成も、社会主義体制
    下で行われていた定数配分の影響が見られ
    る。連邦の各主体から同数の連邦上院議員が
    選任される形態に一歩近付いた段階と言えよ
    う。
    その後、エリツィン大統領(1991-1999年
    在任)主導の下で取りまとめられた新憲法統
    一草案(1993年7月16日公表)では、二院制(国
    家会議と連邦会議)の連邦議会(パルラーメント)
    を設け、連邦会議では各連邦主体2人の議員
    が選挙で選ばれるとしていた。
    1993年10月11日のロシア連邦大統領令に基
    づき、1993年12月12日に直接公選で選出され
    たロシア連邦の上院(第1期ロシア連邦会議)
    では、89の連邦構成単位ごとに選挙区を構成
    し、1選挙区から2人の議員が選挙された。
    この選挙と同時に行われた国民投票により、
    1993年ロシア連邦憲法(現行憲法)が採択さ
    れた。国民投票にかけられた案(同年11月10
    日公表、12月12日採択)では、連邦会議の議員
    は選挙で選出される旨の規定がなくなり、各
    連邦構成主体の立法機関と行政機関から各々
    1人ずつの代表が選任されることになった。
    この規定の目的は、エリツィン大統領の意図
    では、各連邦構成主体の指導者との協力の中
    で国政運営を行うということであったと考え
    られている。これ以降、「各連邦構成主体か
    ら2人の上院議員」という定数配分が、憲法
    上定着した(134) 135〇
    ⑺定数格差248.87倍(2007年)135)
    ⑻格差の特徴
    各連邦構成主体同数という定数配分、連邦
    構成主体間の人口の差が大きいことの2つの
    理由で、定数格差は極めて大きい。
    V諸外国の上院定数配分の特徴
    諸外国の上院の定数配分の状況を通覧する
    と、次に挙げる幾つかの特徴を見出すことがで
    きた。
    第一に、上院議員の定数配分規定は、憲法に
    置かれていることが多い。上院の構成原理が憲
    法に記され、同時に、選挙区等の選挙・任命等
    の単位、及び定数配分(方法)が、憲法に記さ
    れるケースが多いということである。調査をし
    た16か国中、12か国は定数配分規定の全部又は
    一部が、憲法に存在している。実に75%に上
    る。このため、多くの場合、上院の定数配分の
    問題は、憲法上の規定の問題に収斂する。憲法
    に定数配分規定が置かれる国では、憲法の定数
    配分規定そのものが、定数格差・一票の格差の
    数値を導き出す結果となっており、仮に大きな
    格差を生じていても、そのことだけで違憲判断
    が下る余地はない。
    第二に、選任の地理的単位、すなわち選挙区
    や任命等の母体となる地域は、州又は県がその
    まま用いられるケースが多い。選任の地理的単
    位を新たに形成する事例は、極めて少ない。選
    任の地理的単位の全部又は大部分が、州又は県
    である事例は、アメリカ、オーストラリア、イ
    タリア、スペイン、スイス、メキシコ、フラン
    ス、オランダ、カナダ、ドイツ、オーストリ
    ア、ロシアの12か国である。調査をした16か国
    中、実に75%に上る。ベルギーでは、地域(re-
    gions) ^ 言語共同体(communautes linguistiques)
    という憲法に規定される別種の行政単位が用い
    (134) 竹森正孝『ドキュメントロシアの「憲法革命」を追うーロシア連邦の憲法資料と解説』日ソ図書館,1992,
    pp.8,20-26,62,106,145-146;野村進「ロシア保革両派の権力闘争と新憲法3草案」『海外事情』41巻10号,1993.10,
    pp.106,109,112,114-116,120-121;同「二兎を追う新ロシア連邦憲法」『海外事情』42巻4号,1994.4, pp.103-104.
    (135) モスクワ市人口10,442,663人+ネネツ自治管区人口41,960人。
    102 レファレンス 2008.8
    諸外国の上院の議員定数配分
    られている。地域と言語共同体は、州より広い
    区域である。州、県、ベルギーの地域・言語共
    同体は、いずれも基礎的自治体よりも上位にあ
    り、かつ比較的広域の行政区域である。このよ
    うな地理的単位を基礎に、大部分の上院議員は
    選任されている。
    州・県等以外に、選挙の地理的単位を新たに
    形成する事例は、ポーランド、チェコである。
    ポーランド、チェコでは、選挙区画定作業を経
    て、上院選挙区が形成された。いわゆる区割り
    作業が行われたケースである。
    第三に、定数配分には、上院の構成原理、ま
    たそれを誕生させた歴史的経緯が大きな影響を
    与えている。
    例えば、連邦草創期に、人口の小さな州に対
    する配慮が行われた結果、「各州同定数から成
    る州代表としての上院議員」という規定が憲法
    に置かれたという事例が、その代表であろう。
    アメリカ、オーストラリアが、この事例に当た
    る。類似の事例として、カナダでは連邦創設に
    当たって、各植民地間の妥協が成立し、オンタ
    リオ州となったカナダ西部、ケベック州となっ
    たカナダ東部、ノヴァ・スコシア州及び
    ニュー・ブランズウィック州となった大西洋沿
    岸地域の3つの区域(Division)の上院議員定
    数を同数とする規定が憲法に置かれた。
    これに対し、イタリアでは、現行憲法制定過
    程において、上院定数配分の基礎が定められた
    が、これは政治的な妥協によるものであった。
    すなわち、中央集権主義と地方分権主義の間の
    対立、州人口比例による州別定数配分を主張す
    るグループと各州同定数を主張するグループの
    間の対立が顕著であったが、妥協の結果、州人
    口比例を基本とするが、州の最低配分議席数を
    定めるという形に落ち付いた。
    同様に、オーストリアでは、現行憲法の制定
    時に、中央集権主義と州権主義の間の対立と統
    合が見られた。この結果、州を選任の単位とし
    つつも、ほぼ州人口比例によって上院議員定数
    を配分するという憲法規定が設けられた。
    また同様に、ドイツでも、現行憲法制定に当
    たり、上院議員定数配分で州人口比例原則を採
    用しつつも、それに一定の限界を課すことにし
    た。これは、州人口の多寡に大きな差があり、
    1つ又は2つの州が人口の多さだけで上院で3
    分の2以上の多数を占めることのないように配
    慮したものであった。
    一方、フランスでは、憲法上、上院における
    「地方公共団体の代表の保障」が要請されてお
    り、同時に、選挙権の平等も要請されている。
    この両者の調和を図ることが、第五共和制憲法
    制定以来のテーマになっている。現行の上院議
    員定数配分規定は、この調和を図りつつ決定さ
    れたものである。
    近年になり選挙制度を新たに定めた東欧諸国
    に目を転じると、チェコは、上院選挙区画定に
    おける人口均等原則が顕著な国である。これに
    は歴史的経験が大きく影響している。過去の民
    族対立などの経験から、チェコでは、地域代表
    の採用は、地域・民族間の対立を発生させる可
    能性があると考えられており、地域代表として
    の上院議員という考え方は否定されている。ー
    方で、諸政党の持つ様々な考え方・利害の間の
    調整が図られた結果、憲法第18条第2項に規定
    される上院選挙における「平等な選挙権」の原
    則が重視されることとなり、小選挙区画定にお
    ける最優位の原則は人口均等原則になった。
    同じく近年に制度を定めたポーランドは、選
    挙を目前に控えて極めて党派色の濃い定数配分
    がなされた結果、格差が小さくなるという逆説
    的な歴史上の経緯を持っている。
    第四に、参考のために算出した定数格差・ー
    票の格差を通覧すると、ばらつきが大きい。直
    接選挙の場合で、1.07〜144.01倍の開きがある。
    間接選挙、任命制等まで含めると、1〜248.87
    倍と、更に拡大する。このことは、上院の議員
    定数配分の原理が、多様であることを示してい
    る。下院では、議員定数配分の原理は、人口比
    例原則によるか、或いはそれに地理的制約など
    が加わるということが一般的である。しかし、
    レファレンス 2008.8 1〇3
    上院では、人口比例原則を第一の原理にしてい
    ない場合も多い。
    第五に、幾つかの事例を除き、国民代表と位
    置付けられている上院では相対的に定数格差・
    一票の格差が小さく、州等の地域代表の上院で
    は相対的に格差が大きなことは、大まかな傾向
    と言えよう。国民代表の概念は、古くは制限選
    挙の時代から唱えられていたものであり、直接
    的に小さな格差と結び付く概念とは言えない。
    しかし、現代の民主国家においては、「法の下
    の平等」規定等の形で憲法上の平等原則が確立
    し、同時に身分や納税額などで選挙権に区別を
    付けない平等選挙の原則も確立していることが
    通例である。従って、地域代表を採用し国民の
    間に地域的区分を設けるという考え方が採用さ
    れるのでなければ、上院議員の選任においても
    各国民は可能な限り平等な扱いを受けることが
    通例となることは当然であろう。この平等な扱
    いの典型例が、定数配分•選挙区画定における
    人口比例(均等)原則である。このような理由
    で、国民代表が採用される場合、相対的に格差
    が小さくなっていると考えられる。
    国民代表が採用され、相対的に格差が小さい
    事例は、イタリア(国内選挙区)、ポーランド、
    チェコ、オランダ(人口格差)である。一方、
    国民代表が採用され、相対的に格差が大きな事
    例は、イタリア(在外選挙区も含めて全選挙区を
    比較したケース)、オランダ(上院議員選挙人のー
    票の格差)である。
    これに対し、州等の地域代表が採用された場
    合は、大まかに3種類の定数配分•選挙区画定
    の原則が考えられる(136)〇すなわち、①地域人
    口比例による方法、②各地域同定数とする方
    法、③①と②の中間を取る方法、である。地
    域代表採用国の中では多くの事例となっている
    ②、③については、相対的に格差が大きくなっ
    ている(137)〇
    おわりに
    最後に、我が国の参議院の定数是正問題に参
    考になると思われる若干の点を示して、筆を置
    きたい。
    まず、我が国の参議院は、選挙における定数
    配分規定が憲法に存在せず、本稿で比較した16
    か国の諸外国に当てはめるならば、少数派に分
    類されよう。すなわち、定数配分規定が選挙法
    にあるポーランド、チェコ、フランスと、同種
    のグループに入ることになろう。一方、比例代
    表選挙を除き、選挙区の区域が都道府県となっ
    ており、この面では16か国の諸外国に類似して
    いる。
    また、16か国の上院の中には、人口比例(又
    は人口均等)を重視した定数配分(又は選挙区画
    定)が行われている事例も、幾つか存在してい
    る。具体的には、イタリア(国内選挙区)、ベル
    ギー(直接公選部分)、ポーランド、チェコ、オ
    ランダ、オーストリアである。これらの諸国を
    参考例として学ぶことは、有益なことであろ
    う。
    我が国において、定数是正問題は喫緊の課題
    である。本稿の比較分析が一助になることを期
    待したい。
    (みわかずひろ)
    (136) 『ドイツ・スペイン・英国における憲法事情に関する実情調査一概要』前掲注(32), pp.46-48.
    (137) ①の事例は、オーストリアである。ただし、州ごとに最少でも3議席は保証されるという例外規定がある。3
    議席の州は全9州のうち2州(ブルゲンラント州、フォアアールベルク州)である。例外は存在するものの、実
    際の定数(人口)格差は1.63倍であり、人口比例原則によっている部分が大きい。②の事例は、アメリカ、オー
    ストラリア(連邦直轄地選挙区を除く)、スペイン(県単位の選挙区部分)、スイス(I日半州を除く)、メキシコ(3
    人区部分)、ロシアである。③の事例は、スペイン(自治州議会指名部分)、フランス、カナダ、ドイツである。
    104 レファレンス 2008.8』

天皇陛下はどんなお仕事をなさっているの?

天皇陛下はどんなお仕事をなさっているの?
https://www.kunaicho.go.jp/kids/work_e/index.html

『日本国憲法

第1章 天皇

第1条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

第2条
皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第3条
天皇の国事に関わるすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

第4条
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

第5条
皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。この場合には、前条第1項の規定を準用する。

第6条
天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する。

天皇は、内閣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

第7条
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行う。

一 憲法改正、法律、政令、及び条例を公布すること。

二 国会を召集すること。

三 衆議院を解散すること。

四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。

五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任      状及び大使及び公使の委任状を認証すること。

六 大赦、特赦、減刑、刑の執行及び復権を認証すること。

七 栄典を授与すること。

八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

九 外国の大使及び公使を接受すること。

十 儀式を行うこと。 

第8条
皇室に財産をゆずり渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基づかなければならない。 』

特別高等警察

特別高等警察
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E5%88%A5%E9%AB%98%E7%AD%89%E8%AD%A6%E5%AF%9F

 ※ 

(※ 日本国憲法)第二十一条

  1. 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
  2. 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

『出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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出典検索?: "特別高等警察" – ニュース · 書籍 · スカラー · CiNii · J-STAGE · NDL · dlib.jp · ジャパンサーチ · TWL

警視庁特別高等部検閲課による検閲事務の様子(1938年(昭和13年))

特別高等警察(とくべつこうとうけいさつ、英語: Special Higher Police, SHP)[1]は、日本の秘密警察。国事警察として発足した「高等警察」から分離し、国体護持のために無政府主義者・共産主義者・社会主義者、および国家の存在を否認する者や過激な国家主義者を査察・内偵し、取り締まることを目的であった[2][3]。内務省警保局保安課を総元締めとして、警視庁をはじめとする一道三府七県[注釈 1]に設置されたが、その後、1928年(昭和3年)に全国一律に未設置県にも設置された[4]。略称は特高警察(とっこうけいさつ)、特高(とっこう)と言い、構成員を指しても言う[5]。第二次世界大戦後の1945年(昭和20年)に、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の人権指令により廃止された。
概要

特別高等警察は、高等警察の機能を持つ組織である。高等警察とは、「国家組織の根本を危うくする行為を除去するための警察作用」と定義される[3]。いわゆる政治警察や思想警察のことである。戦前の日本では、治安警察法・出版法・新聞紙法に基づいて、この種の警察作用が行われた。特別高等警察では、このうち特に共産主義運動、社会主義運動、労働運動、農民運動などの左翼の政治運動や、右翼の国家主義運動や不敬罪を徹底的に取り締まった[3]。

沿革

1910年(明治43年)、明治天皇の暗殺を計画したとして、大逆罪の容疑で多くの共産主義者、社会主義者、無政府主義者が逮捕・処刑された(幸徳事件(大逆事件))。これを受け、翌1911年(明治44年)に、それまで高等警察事務の一部であった危険思想取締りのため、内務省が枢要地に特に専任警部を配置することを勅令で決定し、同年8月21日に警視庁の官房内に従来より存在した政治運動対象の高等課が分課されて、社会運動対象の特別高等課が設置された。

同課の設置により、地方長官や警察部長などを介さず、内務省警保局保安課の直接指揮下に置かれ、内務省と一体となって社会運動(同盟罷業・社会主義運動・共産主義運動・諜報活動・爆発物・印刷物等)の取締りにあたった。これにはフランスの秘密警察の影響がみられる。特別高等警察を指揮した内務官僚には安倍源基や町村金五(町村信孝の父)などがいる。

1911年には大阪府にも警察部長直属の「高等課別室」が設置され、翌1912年に特別高等課に昇格した。

1913年の警視庁官制の改正によって、特別高等課は、特別高等警察・外事警察・労働争議調停の三部門を担当する課として位置づけられた。

1922年に日本共産党が結成されると、1922年から1926年にかけて、北海道・神奈川・長野・愛知・京都・兵庫・山口・福岡・長崎など主要府県の警察部にも特別高等課が設けられ、1925年には治安維持法が制定され取締まりの法的根拠が整備された。

三・一五事件をうけ、1928年には「赤化への恐怖」を理由に全府県に特別高等課が設けられ、また、主な警察署には「特別高等係」が配置され、全国的な組織網が確立された。1932年6月に警視庁の特別高等課は「特別高等警察部」に昇格した。

1932年に岩田義道、1933年には小林多喜二に過酷な尋問を行なって死亡させるなど、当初は共産主義者や共産党員を取締りの対象としているが、後に日本が戦時色を強めるにつれ、挙国一致体制を維持するため、その障害となりうる反戦運動や類似宗教(当時の政府用語で、新宗教をこう呼んだ。)など、反政府的とみなした団体・活動に対する監視や取締りが行われるようになった。第二次世界大戦中には「鵜の目鷹の目」の監視網を張り巡らせたほか、横浜事件や俳句弾圧事件など言論弾圧といわれる事件をひきおこした。

1941年、治安維持法の改正で予防拘禁制度が発足。これに対応するため警視庁の特高第一課の例では警部補16人、巡査部長16人、巡査9人の大幅増員。他に特高第二課4人、検閲課も4人が増員されている[6]。

1944年に大阪府警察局に「治安部」が設置され、特別高等課も配置された。

敗戦後は、進駐軍の不法行為の監視を行った(特殊慰安施設協会参照)。当初、内務省は陸海軍の解体・廃止に伴う治安情勢の悪化に対応するために、警察力の増強と、特高警察の拡充を行うつもりでいた[7]。「昭和21年度警察予算概算要求書」には、特高警察の拡充・強化のために、1,900万円が予算要求されていた。内容は、1.視察内偵の強化(共産主義運動、右翼その他の尖鋭分子、連合国進駐地域における不穏策動の防止)、2.労働争議、小作争議の防止・取締り、3.朝鮮人関係、4.情報機能の整備、5.港湾警備、6.列車移動警察、7.教養訓練(特高講習、特高資料の作成)の計7点である[8]。

日本国政府・内務省は、警察力の武装化と特高警察の拡充・強化によって、敗戦による未曽有の社会的悪条件の下にある民心の動揺を未然に防止し、不穏な策動を徹底的に防止することを狙っていた。1945年(昭和20年)10月5日、政府はGHQに上記の警察力拡充計画の許可を求めたが、GHQはこれを拒否している[8]。

1945年10月4日、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の人権指令により、治安維持法と共に廃止された。しかし、内務省上層部は、日本共産党などの反政府的動静に対処するためにも、全国の特高警察網を温存させる必要があると考えており、1945年12月19日、特高警察に「代わるべき組織」として、内務省警保局に公安課が設置され、各都道府県警察部にも警備課[注釈 2]が設置された(公安警察)。

GHQによる人権指令により、特別高等警察に在籍していた官僚・警察官は、公職追放の対象になったものの、戦争犯罪人として指定され、問責・処罰の対象となった者は、内務省・特高警察関係者には1人もいなかった。1万500人の特高警察関係者の中で、内務大臣、警保局長、保安・外事・検閲各課長および各府県の警察部長級51人、特高課長・外事課長55人、警部168人、警部補1,000人、巡査部長1,587人、巡査2,127人の合計4,990人が休職となり、その後「依願退職」の形で罷免となった。ただし、公職追放G項該当追放者はわずかに319人、一斉罷免者の数はさらに少ない86人でしかなかった。茨城県警察部土浦警察署の署長であった池田博彦は、特高警察関係者の半数近くが罷免されたことによって、警察の情報収集能力が落ちたことを嘆いていた。

1946年(昭和21年)1月3日、アメリカ人ジャーナリストのマーク・ゲインが、山梨県警察部大月警察署の署長に対して、「特高警察が解体されて、破壊分子を監視する機関がなくなったのはまことに困ったことではないか」と質問したところ、署長は「それはたいしたことではない、なぜなら特高警察の仕事は県庁の公安課の司法官の手に引き継がれたから」と説明している。署長は続けて「私もちょうど県庁所在地での会議に出席して帰ったばかりです。その会議は12月28日、29日の2日間開かれて、いま公安課にいるもとの特高係長がわれわれの仕事について、いろいろ新しい指示を与えました。とくに今度の選挙についての」と語っている。このように、特高警察の業務は、公安警察に継承されていた[9]。

GHQ参謀第2部(G2)は、特高警察関係者の中から、公職追放された者を多く雇用して、元特高警察官の知識や経験を情報収集や謀略活動に利用しており[9]、内務省調査局と、その後身である法務庁特別審査局に入局させて、レッドパージの先鋒としての役割を担わせていた。特別審査局の調査第三課は、特高警察の元締めであった内務省警保局保安課[注釈 3]と編成が酷似しており、団体等規正令第11条により解散処分となった日本共産党や全労連の動向を監視していた[10]。G2は公安警察とも密接な関係にあり、日本の各地方に置かれたG2管下の対敵諜報部隊(CIC)は、各都道府県警察部の警備課(公安課)と緊密な連絡を取り合って諜報活動に従事していた。後にG2は、中央集権的な警察機構の存続を望む内務省警保局を支持し、警察機構の分権化・細分化を進めるGHQ民政局(GS)と鋭く対立している[9]。

その後、GHQの占領政策の転換に伴う公職追放者の処分解除(逆コース)により、1951年9月以降、自治省・警察庁(警備局)・警視庁公安部・公安調査庁・厚生省・労働省・防衛庁・宮内庁・文部省・日本育英会・住宅金融公庫・年金福祉事業団・日本住宅公団・首都高速道路公団・阪神高速道路公団・日本観光協会などの上級幹部職に復職していった[11]。

また、公職復帰後に知事や副知事を足掛かりに、国会議員となり、その後、自治大臣兼国家公安委員会委員長(石原幹市郎、山崎巌、町村金五)や、文部大臣(奥野誠亮)、法務大臣(古井喜実、奥野誠亮、唐沢俊樹)となる者もいた。
全国組織としての陣容

特高警察の総元締めである内務省警保局保安課の課長は、課長級では唯一の勅任官であり、重要な役職であった。ベルリンやロンドンに海外駐在官を置いていたほか、新たに警務官制度が新設され、北海道・東北・関東・中部など、全国5地区の警務官に各府警の警察部長や特高課長を指揮できる権限を与えていた[12]。

内務省警保局図書課は、新聞・出版物の検閲と外国語出版物の調査を行い、検閲制度の統一や内外出版物の論調の調査研究も行っていた[12]。

特高警察は二層構造になっており、内務省の保安課長や事務官のポストを占めるのは、高等文官試験を合格した内務省のエリートであった。彼らは入省後5年程で小規模県の特高課長となり、その後、2~3年程度で特高課長に就任し、入省から10年程度で本省保安課の事務官クラスに昇進する。特高課長や外事課長は内務省の「指定課長」であり、内務省警保局保安課長が任命権限を握っていた[13]。

上記の内務官僚のエリートとは対極的に、特高警察の実戦部隊である各府警特高課や各警察署特高係には多数の専任警察官がいた。これら〝たたき上げ組〟が実務の中心を担っており、その任務の特殊性から長期にわたることが多かった。代表的な人物として1911年に警視庁特高課労働係に配属された毛利基や、1929年に警視庁特高課特高係に配属された宮下弘がおり、2人とも敗戦後の辞職にいたるまで特高警察に在職していた[14]。

関係した事件

京都学連事件(1925-1926年)
三・一五事件(1928年)
四・一六事件(1929年)
赤色ギャング事件(1932年)
熱海事件(1932年)
岩田義道拷問死(1932年)
小林多喜二拷問死(1933年)
野呂榮太郎拷問死(1934年)
死のう団事件(1933年、1937年)
大本事件(1935年)
コックス事件(1940年)
救世軍弾圧事件(1940年)
ゾルゲ事件(1941年)
高雄州特高事件(1941年-1945年)
宮澤レーン事件(1941年)
横浜事件(1942年-1944年)
ホーリネス弾圧事件(1942年-1945年)
きりしま事件(1943年)
セルギイ・チホミーロフ逮捕(1945年)

組織図

下図の通り、特別高等警察は、各県の警察部長を経由して地方長官(知事)の指揮を受ける、一般の警察と異なり、内務省から直接指揮を受ける、特殊な警察組織であった。

1932年(昭和7年)の「部昇格」以降のもの

内務大臣

警保局


保安課     検閲課

(図書課) 外事課
警視庁
特高部 道府県
警察部
特高課 海外派遣
事務官
特高一課 特高二課 労働課 検閲課 外事課 内鮮課 調停課
各警察署
特高係 ※「特別高等」を「特高」と略している。警視庁特高部は「特別高等警察部」を「特高部」と略している。

逸話

「票読み一つ誤らない」と恐れられた緻密さを持ち、ことに戦中は「銭湯の冗談も筒抜けになる」とまで言われた[要出典]。戦後、日本共産党が機関紙『赤旗』(せっき)を復刻しようとしたが、26号までは散逸してしまったため、やむなく特別高等警察資料第3号[15]に全文収録されていたものを使った[16]。

第二次世界大戦前や戦中は「特高の持つ警察手帳は赤色である」という噂があったが、実際は一般の警察官と同様に黒色であった。なお、過去に実際に赤色系の手帳を持っていた日本の公務員は、麻薬取締官と麻薬取締員で、これは戦前も内務省衛生局の下にあり、色も同様であった。 』

首相、対話AI作成の質問に答弁 内容巡り“自画自賛”も

首相、対話AI作成の質問に答弁 内容巡り“自画自賛”も
https://www.47news.jp/politics/9122812.html

『岸田文雄首相が29日の衆院内閣委員会で、人工知能(AI)を使った対話型ソフト「チャットGPT」を使って作成された質問に答える一幕があった。チャットGPTに質問を作らせた立憲民主党の中谷一馬氏に対し、自らの答弁を“自画自賛”する場面も。中谷氏は「AI生成の質問を国会で行い、首相が答弁した事例は確認されていない。憲政史上初ではないか」としている。

 この日の質疑は、次の感染症危機に備える新たな専門家組織設立などを柱とした法案が議題。チャットGPTが作成した質問は「関係者の意見を十分に反映させたのか」などとの内容だった。』

『(※ 日本国憲法)第41条

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

第43条

両議員は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

両議員の議員の定数は、法律でこれを定める。 』

 ※ つまり、「国会議員」とは、「国権の最高機関」かつ「国の唯一の立法機関」たる職責を果たすために、「全国民を代表する」立場で、国会において「質問する」ものだ…。

 ※ それを、ネットに流通する「データ」を集め、拾ってきて、「一定の確率」に従って「並べ換えて」「それっぽい文章」を作成するだけの代物に従って、「それっぽい質問をする」…。

 ※ そこに、「国会議員の職責」は、あるのか…。

 ※ そういうヤツに、オレら国民は、「歳費」を払わないといかんのか…。

 ※ 今日は、こんな所で…。

外国公務員贈賄防止

外国公務員贈賄防止
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/index.html

『外国公務員贈賄の防止とは・・・

国際商取引における外国公務員への不正な利益供与が、国際商取引の競争条件を歪めているという認識の下、これを防止することを目的として、不正競争防止法に外国公務員贈賄罪を規定しています。

!国際商取引において自分らの利益を得たり、維持するために、外国公務員に対して直接または第三者を通して、金銭等を渡したり申し出たりすると、犯罪となります。

制度の概要について(法律・政令・逐条解説)
    概要資料はこちら(規定の内容や事例、外国公務員贈賄防止指針のポイントなどをまとめた資料です)(PDF形式:1,123KB)PDFファイル
国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(OECD外国公務員贈賄防止条約)の条約本文(訳文)については、こちらをご覧ください。外部リンク

海外取引の”ワイロ”は罰せられます!
外国公務員贈賄罪紹介マンガ

外国公務員贈賄防止に関するパンフレット「海外進出する企業必見 外国公務員贈賄罪を知っていますか?」(三つ折りにして、現地の外国公務員等から金銭等を要求された際に提示して拒絶カードとして使えます)(PDF形式:361KB)PDFファイル

外国公務員贈賄防止メニュー項目

外国公務員贈賄防止指針について
    外国公務員贈賄防止指針改訂版(令和3年5月)(PDF形式:870KB)PDFファイル(New!)
    Guidelines for the Prevention of Bribery of Foreign Public Officials (May, 2021)(PDF形式:951KB)PDFファイル(New!)
外国公務員贈賄防止指針のてびき(新デザイン版)(PDF形式:1,249KB)PDFファイル(New!)
※内容は変えずにデザインを一新しました。今後は「新デザイン版」をご覧ください。(令和3年9月)
外国公務員贈賄防止に関するパンフレット「海外進出する企業必見 外国公務員贈賄罪を知っていますか?」(PDF形式:361KB)PDFファイル
外国公務員防止条約に関する経緯
外国公務員贈賄罪Q&A
調査・報告書閲覧
相談窓口

参考情報

概要資料(規定の内容や事例、外国公務員贈賄防止指針のポイントなどをまとめた資料です)(PDF形式:1,123KB)PDFファイル
海外における外国公務員贈賄の摘発事例について

新着情報

「外国公務員贈賄防止指針のてびき」(新デザイン版)を公開しました。(令和3年9月)
※デザインのみ一新したもので、令和3年5月公開版から内容に変更ありません。
「外国公務員贈賄防止指針(令和3年5月改訂)」の英訳をアップロードしました。(令和3年9月)
「外国公務員贈賄防止指針」を改訂しました。(令和3年5月)
「外国公務員贈賄防止指針のてびき」を作成しました。(令和3年5月)

これまでの情報一覧
お問合せ先

外国公務員贈賄防止総合窓口
経済産業省 知的財産政策室
電話:03-3501-1511 内線2631
(9時30分~12時00分、13時00分~17時00分)
※土曜日、日曜日、祝日を除く
E-MAIL:bzl-damezowai_at_meti.go.jp
※「at」を「@」に変換してお送りください。
参考リンク

OECD外国公務員贈賄防止条約ウェブサイト外部リンク
外国公務員贈賄に関するワーキンググループ
外国公務員贈賄防止に関する研究会

Adobe Readerダウンロード(Adobeサイトへ)外部リンク

最終更新日:2023年3月24日 』

ロシアで復活の兆しを見せるソ連式の「市民権剥奪」刑

ロシアで復活の兆しを見せるソ連式の「市民権剥奪」刑
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29802

『ロシアの民主化活動家ウラジーミル・カラムルザが米ワシントンポスト紙に「プーチンは彼の批判者にソ連型の処罰を計画している」との論説を3月13日付で寄稿している。論旨は次の通り。

 プーチン政権が復活させていないソ連の異議抑圧の慣行はほとんどない。一連の厳しい新法が特にウクライナ戦争に関し政府を公に批判することを犯罪にしている。政治的反対は今や反逆罪と同一視されている。抑圧的なソ連の慣行だったクレムリンへの反対者の市民権剥奪も近いうちに戻ってきそうだ。

 エリツィン大統領(当時)が1993年に承認したポスト・ソ連の最初の憲法は、市民権の剥奪を明示的に禁止した。この規定は今もある。言論の自由や集会の自由を保証する法律もある。しかし、プーチン政権はこの2つの自由を否定している。クレムリンが市民権の原則を、侮蔑をもって扱う事を止めるものは何もない。

 クレムリンの法律家は間もなく、市民権の憲法上の保護を形式的に破らずに中立化する方法を考えつくだろう。ロシア議会は帰化したロシア人の市民権の解消の根拠を拡大するプーチン提案について投票を行う。更に、生まれながらのロシア市民にも措置を拡大することも提案されている。

 独裁は忠誠を愛国心と同一視する。そのような世界観では、どんな政治的反対者も必ず「反逆者」になり、市民権は政権の気まぐれで褒賞として与えられるか、罰として取り上げられる。ここでもプーチンはソ連の道を辿りそうである。

 しかしわれわれはこれがどう終わるか知っている。ソ連崩壊の直前に、政治的理由で市民権を剥奪されたすべての人がその地位と権利を公的に回復した。

 作家コルネイ・チュコフスキーは「ロシアでは永く生きなければならない。そうすると何かが起こる」と言ったことがある。彼はわれわれの国で周期的に起こる地殻的歴史変動に言及している。過去数十年、変化のペースは大きく加速した。次の変革はいつでも起こる可能性がある。

*   *   *

 この論説は、特にウクライナ戦争開始後、ロシア国内で締め付けがきつくなっていること、ソ連時代の市民権剥奪という処罰も復活しそうであることを指摘している。そのようになる可能性が高いと考えられる。

 ソ連時代には、クレムリンへの反対者を収監する政治的コストが高くつく場合、彼らの市民権を剥奪することが広範に行われてきた。』

『ソ連においては市民権剥奪を禁止するものはなかったが、今はエリツィン時代のロシア憲法がそれを明示的に禁止している。この憲法を改正しないで、法律によって、帰化した人であれ出生により市民権を得た人であれ、市民権を剥奪することは憲法違反である。

 こういうことを平気でやるロシアは、いわば無法地帯になっているといってよい。このほかに、言論の自由、集会の自由などの憲法の人権条項は、今は簡単に無視され、反戦集会などは政権の弾圧で蹴散らされている。

 民主主義は人権の尊重と選挙による政権交代で担保されるが、選挙の公正性もインターネット投票の操作によって著しく傷つけられている。

プーチンが法を尊重することはない

 法の支配(Rule of Law)と法による支配(Rule by Law)は違うが、プーチンは法も支配の道具と考えているのではないかと思われる。

 日本はエリツィン時代、北方領土問題について法と正義に基づく解決をロシア側に求め続け、1993年の東京宣言にはそう書いてあるが、プーチンはそういう考えに立ち戻ることはないと思われる。

 この論説の最後にカラムルザはチュコフスキーを引用し、ロシアでは周期的に地殻変動的な変化が起きる、そして歴史の進行が加速する中、そういう変化はいつでも起こうると書いている。この観察も的中する可能性がある。ウクライナ戦争の帰趨はプーチン政権の今後に大きな変化をもたらしかねない。』

TOB(株式公開買い付け)とは?目的やメリット・デメリット、事例をわかりやすく解説

TOB(株式公開買い付け)とは?目的やメリット・デメリット、事例をわかりやすく解説
https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2021/b20211006/

『近年、ニトリホールディングスの島忠に対するTOB(2020年)、NTTのNTTドコモに対するTOB(2020年)など企業買収のニュースで「TOB」という言葉を耳にする機会が増えています。

本記事ではTOBの概要、買収側、対象企業側それぞれの視点によるメリット・デメリット、国内で行われた事例を解説していきます。

TOB(株式公開買い付け)とは?
TOBとは、“Take-Over Bid”の略で、「株式公開買い付け」と呼ばれるM&Aの手法の一つです。日本では証券取引法上の制度として1971年に導入されました。

TOBは、会社の経営権に影響が生じるような大規模な株式の取引の際に行われます。

TOBの仕組み

買収企業側(公開買い付け者)は、買収対象企業の株式を保有する不特定多数の株主に対して、事前に「買い付け期間・価格・株式数」を公告し、株式の買い付けを呼びかけます。

対象銘柄を保有している株主は、通常の取引市場ではなく、TOB公告に記載の証券会社などに申し込み、取引所外で株式を売却します。
(株主は通常通り取引市場で株式を売却したり、売却せずに保有し続けることも可能です。)

TOBの目的
TOBの主な目的は、対象企業の経営権の取得や子会社化です。(その他、自社株を集める目的でも行われる場合があります。)

会社法では持ち株比率により、以下のような権利を取得できます。

持ち株比率/保有権利の一例

持ち株比率 保有権利
100% すべて自分の意志で決定する事ができる(完全子会社化)
66.7%以上(2/3以上) 株主総会の特別決議(※)を単独で成立させられる
(※会社の合併、事業譲渡の承認など)
50.1%超(1/2超) 株主総会の普通決議(※)を単独で成立させられる
(※取締役の選・解任、配当など)
33.4%以上(1/3以上) 株主総会の特別決議を単独で阻止できる
3%以上 株主総会の招集、会社の帳簿等、経営資料の閲覧ができる
1% 株主総会における議案提出権
対象企業の株式を50%超取得して、株主総会の普通決議が単独で成立可能になれば、すなわち経営権を取得したことになります。

TOBが証券取引所外で行われる理由
証券取引市場内で株式の大量の買い注文が行われると、ほかの投資家の注目を集めて株価が急上昇しかねません。
そのため、買い付け者は想定していた価格で株式を購入できないリスクが生じるため、証券取引所外で取引が行われます。

同様の理由により、TOBを行う必要がない買い付けの場合でも、証券取引所内での大量買い付けは避けることが望ましいでしょう。

TOBの買い付け価格について
TOBにおける買い付け価格は、市場価格よりも高めに提示されることが一般的です。この上乗せ分は「プレミアム」と呼ばれます。

対象企業側は市場価格よりも高い価格を提示されることで、売却の判断がしやすくなります。一方で買い手側は、市場価格より割高になるものの、大量の株式を集められる可能性が高くなるでしょう。なおTOBのプレミアムは、市場価格の約30~40%割増が相場です。

TOBとMBOの違い
MBOとは、“Management Buy-Out”の略で、日本語では「経営陣買収」ともいわれます。企業の経営陣が経営の見直しや上場廃止などなどを目的として、既存株主から自社の株式を買い取る手法です。

TOBと同様にM&Aの手法のひとつですが、以下のような違いがあります。

TOB MBO
株式の買い手 外部の第三者 内部の現経営陣
目的 ・シナジー効果を得るため
・売却益を得るため ・経営の見直しのため
・上場を廃止するため
・中堅・中小企業が事業承継を行うため
買収対象の企業 上場企業 上場企業、中堅・中小企業
上場企業の現経営陣がMBOで自社株を買い付けるにあたり、その目的によってはTOBの手法を選択することも考えられます。

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TOB実施のルール
金融商品取引法では、一定の大規模な株式の取引によって特定の株主が優遇されたり、不透明な取引が発生することを防ぐため、具体的に次のようなルールを設けTOB実施を義務付けています。

「5%ルール」
証券取引所外での買い付けによって、株式の保有割合が5%を超える場合は、TOBの実施が義務づけられています(金融商品取引法27条2第1項1号)。これを「5%ルール」といいます。株式を5%以上保有すると株価や経営に影響を及ぼすため、この5%ルールが定められています。ただし、以下の場合はTOBを行う義務はありません。

5%ルールが免除される場合
TOBによる買い付けを行う相手方の人数と、TOB実施日前の60日以内に、証券市場外にて買い付けを行った相手方の人数の合計が「10名以下」の場合
「3分の1ルール」
買い付け後の株式の保有割合が3分の1を超える場合も、TOBの実施が義務づけられています。これを「3分の1ルール」といいます。3分の1ルールは証券取引所、内外の取引いずれにも当てはまり、主に3つのケースが存在します。

①証券取引所の市場外の取引で、60日間で10名以下の株式から買い付けを行って3分の1を超える場合
②証券取引所の市場内で「特定売買」(ToSTNeT取引、J-NET取引等を通じて行われる立会外取引)で買い付けを行って3分の1を超える場合
③3ヶ月の間に全株式の10%超相当の買い付けを実施、そのうち5%超を場外または特定売買で買い付けた場合

ただし、以下の場合は3分の1ルールが例外的に免除されます。

3分の1ルールが免除される場合(免除適用の一例)
・企業グループで 3分の1超の議決権を所有する会社の株券等のグループ内での移動
・新株予約権の行使
・「兄弟会社」等からの買い付け等
「友好的TOB」と「敵対的TOB」の違いとは

TOBは「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2種類にわけることができます。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。

友好的TOBとは
友好的TOBとは、買収対象企業の経営陣に同意を得てから行うTOBのことです。

主に良好な関係にあった企業同士が、その関係性を維持したまま親会社・子会社になる(子会社化する)ことを目的として実施されます。なお、日本で実施されるTOBは友好的TOBが大半を占めます。

友好的TOBの事例
NTTによるNTTドコモに対するTOB(2020年)
2020年11月、通信事業の競争力強化のため完全子会社化を目的に行われたTOBが成立。公開買い付け額は国内最高額の約4.3兆円にのぼった。
伊藤忠商事によるファミリーマートに対するTOB(2020年)
2020年8月、ファミリーマートの完全子会社化を目的に行われたTOBが成立。ファミリーマートは同年11月に上場廃止になった。
ZホールディングスによるZOZOに対するTOB(2019年)
2019年11月、EC事業強化のためZOZOの子会社化を目的に行ったTOBが成立。買収金額は4007億円にのぼり、ZOZOは上場維持を選択した。
投資ファンドKKRによる日立物流に対するTOB(2022年)

敵対的TOBとは
敵対的TOBとは、買収対象の企業の経営陣から同意を得ないで一方的に行うTOBを指します。
主に対象企業を実質的に支配したり、経営陣を刷新したりする目的で実施されます。

敵対的TOBの事例
コロワイドによる大戸屋ホールディングスに対するTOB(2020年)
2020年9月、コロワイドによるTOBが成立。当初コロワイド側は友好的TOBを予定していたが、大戸屋側の経営陣との意見の相違や、大戸屋側の急速な業績悪化を救うため敵対的TOBに踏み切った。
伊藤忠商事によるデサントに対するTOB(2019年)
2019年3月、伊藤忠商事によるTOBが成立。長年協業関係にあった両社だが、成長戦略の違いから対立を徐々に深め、伊藤忠側は敵対的TOBに踏み切った。国内大手上場企業同士の初めての敵対的TOB事例となる。
米国投資ファンドによるブルドックソースに対するTOB(2007年)
2007年5月、当時筆頭株主だった米国投資ファンドスティールパートナーズの関連会社がTOBを実施。ファンド側がTOB成功後の経営方針や投下資本の回収方法などを明確にしなかったことから、ブルドックソース側はTOBに反対の意見を表明し、買収防衛策を発動。ファンド側は「株主平等原則違反」と「著しく不公正な方法」を主張したが、最高裁はファンド側の許可抗告を棄却した。
敵対的TOBに対する買収防衛策
敵対的TOBに応じても買収対象企業の多くにとってメリットはほとんどありません。そのため、敵対的TOBの対象となった企業は、あらゆる買収防衛策を講じて抵抗します。それでは、敵対的TOBの具体的な買収防衛策について見ていきましょう。

第三者割当増資
特定の第三者に新株を引き受けてもらうことで、増資する手法です。敵対的TOBの対象となった企業が、友好的な第三者に新株を発行して株式の希薄化をはかり、買収を仕掛けてくる企業の持ち株比率を下げる直接的な防衛策として用いられます。ただし既存の株主から反発を受けやすいというデメリットがあります。

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企業がビジネスを継続するために、資金調達は経営上の重要な課題です。企業の主な資金調達の手法には、第三者割当増資や融資などが挙げられます。本記事では、第三者割当増資の概要、第三者割当増資のメリットや注意点などについて、詳しくご説明します。第三者割当増資とは第三者割当増資とは、会社の資金調達方法のひとつで、既存株主ではない特定の第三者に新株の購入権利を付与する増資のことです。企業の主要な資金の調達手法

ホワイトナイト
敵対的TOBの対象企業が、友好的な第三者(ホワイトナイト)を見つけて株式を売却し、買収企業が目標株式数を取得できないようにする手法のことです。敵対的な企業に買収されることよりも友好的の傘下に入ることを選択し対抗します。
ホワイトナイトとなる企業にとっては予定外のM&Aとなるため、新株予約権の付与など有利な条件が提示されるケースが多く見られます。

黄金株
黄金株は拒否権付株式と呼ばれる種類株式の一つであり、株主総会の決議に対する拒否権を有する点が最大の特徴です。黄金株が発行されている会社では株主総会に加えて「種類株主総会」を開催し、黄金株を持つ株主に敵対的TOBに対する決議に対し拒否権を行使してもらいます。通常の株式より強力な権限が付加されているため、扱いには非常に注意が必要です。

パックマン・ディフェンス
買収対象業が買収を仕掛けてきた企業に対して、逆にTOBを実施、つまり買収を仕掛ける手法です。同名のテレビゲームのシステムに似ていることから名づけられました。敵対的TOBを仕掛けてくるほどの資金力がある企業を相手にするため、対象企業自身も相応の資金力がないと実行は不可能です。また、市場の注目を集め、買収企業側も第三者からの買収対象になる可能性が生じます。双方にとって非常にリスクの高い手法なので、日本ではあまり例をみません。

ポイズンピル
ポイズンピルは(Poison Pill)は「毒薬」の意味で、企業のM&Aにおいて「毒薬条項」と呼ばれています。買収対象企業が、敵対的TOBを仕掛けてきた買収企業以外の株主に対して新株を発行し、時価よりも安くする新株予約権を与える方法です。買収企業の持ち株比率を下げることを目的とします。ただし新株を発行すると株式が希薄化し、既存の株主から反発を受ける可能性があります。前述のブルドックソースの事例では、国内で初めてポイズンピルによる防衛が成功しました。

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上場企業の株主が経営陣と経営方針などを巡って対立した結果、会社の支配力を強める目的で株式を買い進める場合があります。これが、「敵対的買収」です。しかし、敵対的買収に対して経営陣も何もしないわけではありません。経営陣と敵対する株主の動きを防ぐため、敵対的買収に対する様々な防衛策を発動して対抗します。その買収防衛策のひとつがポイズンピルです。本記事では、ポイズンピルの概要、メリットやデメリット、実際に

ゴールデンパラシュート
一般的に敵対的買収後は、対象企業の経営陣や役員は解任されます。そのことを逆手にとり、あらかじめ多額の退職金等を支払う契約を締結し買収コストを増大させることで、買収企業に買収の意欲を失わせる防衛策です。対象企業から経営陣が脱出する様子からゴールデンパラシュート(金の落下傘)」と名付けられています。

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プットオプション
市場価格(時価)に関わらず、あらかじめ決められた特定の価格(権利行使価格)で期間内に株式を売却できる権利のことです。株主にプットオプションを与えておくことで、敵対的TOBを行った買収企業は、権利行使価格で買い取りに応じなければなりません。権利行使価格が買収企業にとって割高な場合は、買収を抑制する効果があります。

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TOBのメリット

「TOBを実施する企業側」と「TOB対象となった企業側」の両面から、TOBのメリット・デメリットをそれぞれみていきましょう。

TOBを実施する企業側のメリット
まずはTOBを実施する買収企業側、つまり公開買い付け者にとってのメリットは以下の3つです。

  1. 買収成立までの見通しが立ちやすい
    取引市場を通した株式の大量買い付けは、株価が想定外に急上昇してしまうこともあり、最後まで費用の見通しが立たない場合が少なくありません。一方でTOBは、あらかじめ買い付け期間・買取株数・価格を公開してから実施します。買収成立までどれくらいの期間を要するか、見通しが立ちやすいことがメリットです。
  2. 株価変動の影響を受けない
    TOBはあらかじめ公開した価格で株式を買い付けるので、市場変動の影響を受けません。
    一方、通常の取引市場を通して買い付ける場合は、株価の変動によって想定外の費用や時間がかかることもあります。
  3. 効率的に株式を取得できる
    目標株式数に満たなかった場合はキャンセルができるため、効率的な株式の取得が可能です。TOBでは買い取る株式数に制限を設けることが可能であり、目標株式数に満たない場合は取得しないことも選択できます。
    一方で取引市場を通して株式を買い付ける場合は、目標株式数に満たなかったとしてもキャンセルは無効です。

TOB対象となった企業側のメリット
TOB対象となった企業側のそれぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。

  1. 市場価格よりも高く株式を売却できる
    TOBでは、市場価格に30~40%のプレミアム分が上乗せされた価格を提示されることが一般的です。対象企業にとっては、直近の市場価格よりも高く売却できるというメリットが得られるでしょう。さらに、TOBで高いシナジー効果が認められる場合は、プレミアム分がより上乗せされたり、より高い価格を提示する別の買収企業があらわれたりします。
  2. 経営状況の改善に期待できる
    友好的TOBでは、買収企業からの資金が投入されることにより、経営基盤の安定および経営状況の改善に期待できます。買収対象の企業は、今まで資金不足で着手できなかった事業拡大や設備投資も見込めるようになるでしょう。

TOBのデメリット
「TOBを実施する企業側」と「TOB対象となった企業側」には、以下に挙げるようなデメリットもあります。

TOBを実施する企業側のデメリット
TOBを実施する企業側のそれぞれのデメリットについて、詳しく解説していきます。

  1. 取引市場で買い付けるよりも高いコストがかかる
    TOBでの買い付け価格は、市場価格にプレミアム分を上乗せすることが一般的です。したがって、TOBを実施する企業側は、取引市場を通して株式を買い付けるより高いコストがかかります。
  2. 敵対的TOBは買収の成功率が低い
    過去の事例をみても、敵対的TOBは友好的TOBよりも買収の成功率が低い傾向にあります。なぜなら、敵対的TOBを仕掛けられた買収対象企業は、防衛策を講じて抵抗してくるからです。たとえ買取が成立しても、想定外の買収費用がかかったり、目標株式数を取得できないことが多いでしょう。

TOB対象となった企業側のデメリット
TOB対象となった企業側のそれぞれのデメリットについて、詳しく解説していきます。

  1. 経営権を奪われる
    TOBを行う企業の目的は、買収対象の企業の経営権を取得することです。逆にいえば、買収対象の企業の経営陣は、経営権を奪われることになります。経営権を奪われれば、当然ながら経営陣は買収企業の経営方針に口を出せません。敵対的TOBの場合は、今まで推進してきた事業を縮小されたり、望まない経営方針に転換されたりするリスクもあるでしょう。このようなリスクを回避するため、敵対的TOBを仕掛けられた企業は防衛策を講じて、何としてでもTOBを阻止しようとします。
  2. 防衛策が株主に反対される可能性がある
    敵対的TOBの防衛策を講じたとしても、株価が下がるなどの理由から既存株主の反発を受ける可能性もあります。たとえば、新株を発行する「ポイズンピル」は株価の低下を招くため、既存株主に損失を与えるリスクをはらんだ防衛策といえます。また、防衛策が成功して敵対的TOBを阻止したとしても、結果的に株価が下がって株主が損失を被るリスクも考慮しなければなりません。

保有株式がTOBの対象になった際の対応(対象企業の株主)
自分が保有する株式がTOBの対象となった際に、TOBに応じる場合、応じない場合それぞれの対応について紹介します。

TOBに応じる場合
「TOBに応じる」場合は、上述のとおり市場価格よりも高値で株式を売却できるメリットがあります。プレミアムは市場価格よりも30~40%程度高いことが一般的であるため、お得に株式を売却したい場合におすすめです。

TOBに応じる場合は、取引市場を通して株式を売却する際にかかる売買手数料もかかりません。ただし、買収企業が買い付ける株式数に上限を定めている場合は、上限に達した時点でTOBに応じても売却できない場合がある点に注意が必要です。

TOBには応じない場合①(取引市場経由で売却)
「TOBに応じない」場合の1つ目の選択肢は、取引市場経由で株式を売却することです。一般的にTOBが公開されると、対象銘柄はTOBでプレミアム分が上乗せされた価格付近まで値上がりする傾向にあります。

したがって、タイミングを見計らって取引市場経由で株式を売却すれば、市場価格でも十分に売却益を得られます。
取引市場経由であれば、目標株式数に達しなかったために買い付けがキャンセルされる事がないため、株式を確実に売却して利益を得たい場合におすすめです。

TOBに応じない場合②(保有し続ける)
「TOBに応じない」場合の2つ目の選択肢は、TOBが公開されてからも対象銘柄を保有し続けることです。ただし、TOB成立後には株価が元の水準に戻る傾向にあります。

保有し続ける場合の注意点は、TOB成立後に買収対象の企業が上場廃止となった際に、TOBの買い付け価格で強制的に株式を売却しなければならないことです。これを「スクイーズアウト」といいます。

そのほか新聞などで公告された後、対象銘柄を市場で購入してTOBに申し込めば応募することが可能です。(ただし、対象銘柄がTOBの買い付け価格よりも安く購入できた場合に限ります。)

TOBの手続き
TOBは、買収企業による情報開示(公開買い付け開始の公告、株式売却の募集)によって始まります。それを受けた買収対象会社の意見表明等を経て、買い付け期間が終了すると買い付け数量等が確定され、株式の買い付け代金の決済が行われて、TOBが終了します。

実際は、買い付け期間中に対象企業が前述のような買収防衛策を講じるなどの状況が生じ、買い付け条件の変更やTOBの撤回等の検討を迫られるケースもあります。ここでは主な手続きの流れを見ていきましょう。

①公開買い付けの公告・届出書の提出
株主に公平に売却機会を与えるため、買収企業はまず公開買い付けの目的、買い付け期間、買い付け価格、買い付け予定株式数等を公告する必要あります。公開した同日、公告内容を記載した公開買い付け届出書の提出も求められます。

なお、買い付け期間は、株主が売却を検討するために必要な期間として20~60営業日と定められています。
公告は、金融庁が運営するEDINET上の電子公告と新聞公告のいずれかを選択できますが、いつでも内容を確認できる電子公告が普及しています。

参考:EDINET

②意見表明報告書の提出・回答
買収対象会社は、公告日から10営業日以内に公開買い付けに対して賛成か反対か立場を表明した「意見表明報告書」をEDINETを通じて内閣総理大臣に提出する必要があります。意見表明報告書の写しは、買収企業や金融商品取引所等に送付します。

報告書には意見のほか、公開買い付け者に対する質問を記載することもできます。
買収企業側は報告書に質問が記載されている場合、5営業日以内に報告書に回答を記載し、同様にEDINETを通じて内閣総理大臣に提出、対象企業や金融商品取引所等へ写しを提出する必要があります。

両社の主張・反論を明確に示す意見表明報告書は、株主がその後投資判断を行う際の重要な手掛かりとなるため提出が義務づけられています。

③公開買い付け説明書の作成・交付
公開買い付け届出書の内容に加えて、公益または投資家保護のために必要な事項を記載した内容の公開買い付け説明書を作成し、売却予定の株主に対してあらかじめまたは買い付けと同時に交付を行います。

④TOBの結果公表
公開買い付け者は、買い付け期間の最終日の翌営業日に「応募があった株式数」「その他所定事項」を公告、もしくは新聞やテレビなどメディアを通じて公表する必要があります。そして公告または公表と同日に、その内容を際した公開買い付け報告書を提出します。

そのほか:公開買い付け撤回届出書の開示
原則的に、公開買い付け開始公告をした後は撤回することは認められていません。ただし、開始公告や公開買い付け届出書に撤回条件が記載されている場合は、撤回が認められます。

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終わりに
以上、TOB(株式公開買い付け)の概要やメリット・デメリット、手続きについて紹介してきました。
TOBは企業の経営権の取得や子会社化が主な目的ですが、日本の中小企業のTOBは友好的TOBが成立しやすい傾向にあります。敵対的TOBはハイリスク・ハイリターンの手法であることや、友好的TOBと比べて買収の成功率が低いことが理由として挙げられます。

また、日本の企業の特徴である「株式持ち合い」も理由として考えられるでしょう。株式持ち合いは、複数の企業がお互いの株式を保有する状態のことです。
日本では外資による株式買い占めや経営乗っ取りへの対処として、株式持ち合いが定着した背景があるため敵対的買収が採用しにくい要因の一つとも言えます。
TOBを検討されている買い手企業の経営者の方は、経験豊富な専門家と連携し、どの手法を採用するか慎重に検討するようにしましょう。

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https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/362234?display=1

 ※ 『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し』と、書いてあるぞ…。

 ※ 「両性の合意のみ」と、ハッキリ書いてある…。

 ※ これを、「同性の当事者間で」婚姻成立となれば、「憲法違反」じゃないのか…。


 ※『(※ 日本国憲法)第二十四条

        婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

        配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

『立憲民主党は、同性婚を法制化するための民法改正案を提出しました。

立憲民主党が提出した民法の一部を改正する法案では、「異性又は同性の当事者間で婚姻が成立する」と明記し、法的に同性婚を可能にするとしています。さらに、同性婚の当事者も特別養子縁組やその他の養子縁組ができるよう「所要の規定を整備する」としています。

立憲民主党は、2019年に同様の法案を提出していますが、政府・与党が同性婚に慎重姿勢を崩さないなか、法案提出により、議論を活性化したい狙いです。』

「二重国籍」認めない判決 1審に続き訴え退ける 東京高裁

「二重国籍」認めない判決 1審に続き訴え退ける 東京高裁
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230221/k10013986781000.html

 ※ 『日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務
第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。』

 ※ 『国籍法

(この法律の目的)
第一条 日本国民たる要件は、この法律の定めるところによる。

(国籍の選択)
第十四条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が十八歳に達する以前であるときは二十歳に達するまでに、その時が十八歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。

2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。』

日本はなぜ二重国籍を認めていないのでしょうか?
https://jp.quora.com/nippon-ha-naze-nijuu-kokuseki-wo-mitome-tei-nai-node-shou-ka

『Youji
日本に在住していた執筆者は1,289件の回答を行い、709.4万回閲覧されています更新日時:4年前

1930年の国際連盟の国際法典編纂会議で二重国籍を各国で廃止するという決議に従っているからです。

当時は移民が今よりも自由だっただけでなく各国間での戦争も多かったのでそれによる問題が多く発生していました。

例えば祖国に里帰りした時に移民先の国と移民元の間で戦争が勃発して徴兵されたあげく捕虜になった時点で反逆罪に問われるとか、祖国の独立運動や紛争に参加する(例えばアイルランド系アメリカ人がアイルランドの独立運動に参加してイギリス政府から反逆罪で逮捕される)特に血統主義の場合は二世でも三世でも国籍を引き継ぐので、親戚に会いに里帰りしたら言葉も話せない国で徴兵されたとかが頻繁におこり外交問題に発展していました。

そこで、国籍法を各国で統一して二重国籍を廃止しようという機運が各国でおこり、上記の会議で二重国籍を廃止する努力をするという決議が採択され、日本はそれに従ったというのが正確な事情です。

ところが第二次世界大戦後は先進国間での戦争が事実上はなくなっただけではなく、EU間やカナダ・アメリカ間や南米国の間などでは移動の自由がさらに増えるなど、友好国間での交流がさらに加速したこともあり、これらの国では二重国籍廃止の機運が途絶えます。
この点では日本の場合は朝鮮半島、中国本土、東南アジアの隣国がすべてが紛争状態で、多くの国とも1970年代になるまで友好条約を調印していなかっただけではなく、経済的格差も大きく近隣諸国の移民を制限せざる得なかった日本とは多きく異なります。

また明らかに敵性国家で平和条約どころか日本が国家として認めていない北朝鮮に忠誠を誓う在日朝鮮人が国内に数多くいたことも日本が二重国籍に消極的であった大きな理由でもあります。

最近は日本も二重国籍を認めるようという機運が高まっていますが、移民問題に直面するヨーロッパの幾つかの国(ドイツやオランダなど)では二重国籍を制限する動きが出てきています。

自分は海外で生活する者ですし、子供らは二重国籍者ですので以前は自分の子供が成人するぐらいの時には日本も二重国籍を認めているのではないかと安易に期待していたのですが、これから世界が不穏な方向に向かうのであれば逆流して二重国籍廃止の方向に向かうかもしれません。世の中が平和で良い方向に向かってほしいと思いますが、最近はちょっと不安というのが本音です。

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坂 慎弥
さんがリクエストした回答
せき けいさんのプロフィール写真』

『外国の国籍を取得し日本国籍を失った人などが、国籍法の規定によって二重国籍が認められないのは憲法違反だと訴えた裁判で、東京高等裁判所は「弊害が生じるおそれがある二重国籍をできるかぎり防ぐという法律の目的は合理的だ」として1審に続いて憲法に違反しないと判断し、二重国籍を持つことを認めませんでした。

日本の国籍法は外国の国籍をみずからの希望で取得すると日本国籍を失うと規定し、複数の国籍を持つことを認めていません。

これについてスイスやリヒテンシュタインに住み現地の国籍を取得して日本国籍を失った人など8人は「意思に反して国籍を奪う法律の規定は個人の尊重を定めた憲法に違反し、無効だ」と主張して、国に対し、日本国籍があることの確認と賠償を求めていました。

21日の2審の判決で、東京高等裁判所の岩井伸晃裁判長は「複数の国籍を認めると、どの国が個人を保護するかをめぐって国家間の摩擦が生じたり、納税や兵役などの義務について矛盾が生じたりするおそれがある」と指摘しました。

そのうえで「国籍法の規定は弊害を解消し、その原因となる二重国籍をできるかぎり防ぎつつ国籍を変更する自由を保障していて合理的だ」として1審に続いて憲法違反ではないと判断し、訴えを退けました。

原告側は上告の方針 明らかに

裁判のあと原告と弁護団は会見を開き、判決を不服として最高裁判所に上告する方針を明らかにしました。

原告の1人でスイスの国籍を取得したために日本国籍を失った野川等さん(79)は「幼少期を日本で過ごした思い出など、日本国籍は自分のアイデンティティーだ。誰にとっても大切なものだと思うので、最高裁の裁判官にも訴えていきたい」と述べました。

弁護団によりますと、世界195の国と地域のうち2020年の時点で二重国籍を認めているのは150とおよそ4分の3にあたるということです。

仲晃生弁護士は「複数国籍を防ぐためなら日本国籍を奪ってもかまわないというような指摘で日本国籍の重要性を低下させるような判決だ。国籍法の規定は海外で日本国民として活躍する機会を奪っている」と批判しました。』

法の支配

法の支配
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%94%AF%E9%85%8D

 ※ 以下の記述は、もっぱら「国内法体系」における「法の支配」の説明のようだ…。
 ※ 「国内法における法の支配」ですら、こういうもの(多義的、多解釈の対立、収斂せずに拡散する)だ…。

 ※ いわんや、「国際法」においておやだ…。

『法の支配(ほうのしはい、英語: rule of law)は、専断的な国家権力の支配を排し、権力を法で拘束するという英米法系の基本的原理である。法治主義とは異なる概念である。

「法の支配」とは、統治される物だけでなく統治する側もまた、より高次の法によって拘束されなければならないという考え方である[1]。大陸法的な法治主義とは異なり、法の支配では法律をもってしても犯しえない権利があり、これを自然法や憲法などが規定していると考える[1]。

法の支配における「法」[注釈 1] とは、全法秩序のうち、「根本法」と「基本法」のことを指す[2]。

法の支配は、歴史的には、中世イギリスの「法の優位」の思想から生まれた英米法系の基本原理である[3]。

法の支配は、専断的な国家権力の支配、すなわち人の支配を排し、全ての統治権力を法で拘束することによって、被治者の権利ないし自由を保障することを目的とする立憲主義に基づく原理であり、自由主義、民主主義とも密接に結びついている[3]。

法の支配は、極めて歴史的な概念で、時代や国、論者により異なる様相を呈する多義的な概念である点に留意が必要である[3]。

歴史

古代

「法の支配」の原型は、古代ギリシアのプラトン[4] やアリストテレスの思想[注釈 2] を経て発展したローマ法やヘレニズム法学に求める見解や[5]、古き良き法に由来する中世のゲルマン法に求める見解もあり、一定しない。

市民の誰が支配するよりも、同一の原則である法が支配する方が適切だ。仮に特定の人々に最高権力を置く利点がある場合には、彼らは法の守護者および執行者としてのみ任命されるべきである。
— 政治学、アリストテレス、3.16

我々が自由であるために、我々は皆、法の奴隷でなければならない。(ラテン語: Omnes legum servi sumus ut liberi esse possumus)
— キケロ、[6]

中世

「法の支配」が、明確な形としてあらわれたのが中世のイギリスにおいてであることには、ほぼ異論がない[7]。

ヘンリー・ブラクトンの「王は人の下にあってはならない。しかし、国王といえども神と法の下にある」という法諺が引用されるように少なくとも中世のイギリスに「法の優位」(Supremacy of Law) の思想は存在していたとされる[8]。

中世のイギリスでは、国王さえ服従すべき高次の法(higher law)があると考えられ、これは「根本法」ないし「基本法」(Fundamental Law)と呼ばれ、この観念が近代立憲主義へと引きつがれるのである[2]。そのため、法の支配は、立憲主義に基づく原理とされている[3]。

当時はボローニャ大学で、ローマ法の研究が進み、1240年にローマ法大全の『標準注釈』が編纂されると、 西欧諸国から留学生が集まるようになり、英国にもオクスフォード大学、ケンブリッジ大学が相次いで設立されるなどしてローマ法の理論が研究され、一部持ち込まれたという時代であるが、既に英国全土の共通法ともいえるコモン・ローの発展を見ていた英国では、大陸において発展した「一般法」(ユス・コムーネ、jus commune)を取り込む必要は乏しかった。

そのため、後にローマ法に由来する主権の概念とコモン・ローとの緊張関係が問題となったが、英国では、「法の主権」の概念の下、「法の優位」が説かれたことがあった。

しかし、その思想は、封建領主と領民との間の封建的身分が前提とされた関係理論に基づいていたのであって、マグナ・カルタにおいては、バロンの有する中世的特権の保護するために援用されたのである。また、その思想は、被治者の権利・自由の保護を目的としていたわけではなく、道徳・古来の慣習法と密接に結びついた当時のキリスト教的な自然法論と親和性のあるものであったのである[2]。

以上に対し、被治者の権利・自由の保障を目的とする近代的な意味での「法の支配」は、中世以後徐々にコモン・ロー体系が確立していったイギリスにおいてマグナ・カルタ以来の法の歴史を踏まえ、中世的な「法の優位」の思想を確認する形で、16世紀から17世紀にかけて、法曹によって発展させられた[2]。

1606年、エドワード・コーク卿は、王権神授説によって「国王主権」を主張する時の国王ジェームズ1世に対し、ブラクトンの法諺を引用した上で、「王権も法の下にある。法の技法は法律家でないとわからないので、王の判断が法律家の判断に優先することはない。」と諫めたとされる[9][注釈 3]。

ここでは、コモン・ロー裁判所裁判官の専門的法判断の王権に対する優位が説かれており、中世的特権の保護から、市民的自由の保護への足がかりが得られるきっかけを作られたといえる[10]。

1610年、コークによる医師ボナム事件の判決は、コモン・ローに反する制定法は無効と判示し、司法権の優位の思想を導くきっかけを作ったとされる[11]。

1610年、トマス・ヘドリィ(Thomas Hedley)の庶民院における長大な演説によってノルマン征服以前の古き国制(ancient constitution)の伝統を理由にコモン・ローの本質が明らかにされ、以後、議会ではヘドリィによって定式化されたコモンローの優位が繰り返し説かれることになった[注釈 4]。

ここでは、「庶民」(commoner)[注釈 5]が議会に政治的参加をすることによって制定される法律の王権に対する優位が説かれており、民主主義と法の支配が密接に結びつくきっかけが作られたのである。そのため、法の支配は、民主主義とも密接に関連する原理とされている[3]。

1688年、メアリーとその夫でオランダ統領のウィリアム3世(ウィレム3世)をイングランド王位に即位させた名誉革命が起こると、これを受けて1701年王位継承法で裁判官の身分保障が規定されることによって法の支配は現実の制度として確立したのである[12]。

アメリカ合衆国における法の支配

1787年、アレグサンダー・ハミルトンらによって成文憲法として起草されたのがアメリカ合衆国憲法であるが、これは「法の支配」を成文憲法によって実現しようとするものであった。

合衆国は、イギリスが立憲君主制をとるのと異なり、共和制を採用し、執政体としては、君主に代わり大統領を選挙によって選出するものとした上で間接民主制をとって立憲主義を採用したのである。

ここでいう共和制とは、人民主権の下、選出された代表者が権力を行使する政体のことである[13]。

1803年、マーベリー対マディソン事件をきっかけに米国で発祥した違憲立法審査権は、コークの医師ボナム事件の判決にヒントを得て、「法の支配」から発想された憲法原理の一つである。

解説

法の支配における法(Law)とは、不文法であるコモン・ローおよび国会が制定する個々の法律(a law、laws)を含めた全法秩序のうち、基本法(Fundamental laws)のことを指す。基本法は、形式的意義の憲法(憲法典)と区別する意味で、実質的意義の憲法と呼ばれている[注釈 6]。アメリカ合衆国、日本では、成文憲法典を制定されているので、基本法は原則として憲法典のことを指すが、それに限定されるわけではない[注釈 7]。

法の支配は、国会が権限を濫用して被治者の自由ないし権利を侵害することがあり得ることを前提とするものであって、権力に対し懐疑的で、立憲主義、権力分立と密接に結び付いている。

ただし、どのように権力を分離するのかはその国の歴史によって異なり、合衆国のように厳格に三権に分立するというものでは必ずしもなく、イギリスのように議会と裁判所を明確に分離しないというような国もある。詳細は英国法#歴史を参照。

法の支配は、名誉革命によって近代的憲法原理として確立したものであり、上掲のヘドリィの庶民院での演説によって明らかにされているように民主主義とも密接に結びついている。

ただし、イギリスのように立憲君主制とも、合衆国のように共和制とも結びつき得るものであり、その国の歴史によって異なる多義的な概念である。ここでいう共和制とは、人民主権の下、選出された代表者が権力を行使する政体のことである[13]。

その目的は、人の支配を排し、全ての統治権力を法で拘束することによって、被治者の「権利ないし自由」を保障することである。

法の支配は、戦後現代的変容を余儀なくされており、その多義性ゆえ議論は錯綜を極めている。

ダイシーと法の支配

法の支配を理論化したのは、ダイシーの『憲法序説』であり、以後国会主権(Parliamentary Sovereignty)と法の支配がイギリス憲法の二大原理とされるようになった[14]。

ダイシーによれば、法の支配は以下の三つの内容をもつものとされる。

専断的権力の支配を排した、基本法の支配(人の支配の否定)

すべての人が法律と通常の裁判所に服すること(法の前の平等、特別裁判所の禁止)
具体的な紛争についての裁判所の判決の結果の集積が基本法の一般原則となること。

(具体的権利性)

ただし、ダイシー流の法の支配に対しては、ダイシー自身の政治思想や当時のイギリスの政治状況、例えば、コレクティビズム(集産主義)という概念を作り出し批判するのは、自身の政治信条であるホイッグを擁護する点にあるのではないか、フランスでは行政行為に司法審査が及ばないと誤解したことに端を発する行政法に対する不寛容、法の支配の第3番目の内容は国会主権を否定するに等しいなどジェニングズ(W.I.Jennings)による体系だった批判がなされているが、ダイシー流の法の支配は現在でもイギリスの公法学界において多大な影響力を有している[15]。

また、国会主権と法の支配との関係については、ハートVSロン・フラー論争を代表に議論がなされているが[16]、ダイシー流の法の支配は、国会を上訴権のない裁判所ととらえることなどにより国会主権が多数者支配を是認するものとはとらえず、コモン・ローの伝統的理解にむしろ忠実なものであるとの理解がイギリスの公法学界では通説とされている[17]。

法の支配と法治主義

大陸法系においては、ローマ法が普及するに伴い「法の支配(Rule of Law)」は衰退し、19世紀後半にドイツのルドルフ・フォン・グナイストが理論的に発展させた「法治主義」(rule by laws、独:Rechtsstaat)が浸透していった[18]。

法治主義は、法律によって権力を制限しようとする点で一見「法の支配」と同じにみえるが、法治主義は、手続として正当に成立した法律であれば、その内容の適正を問わない。
したがって、「法の支配」が民主主義と結びついて発展した原理であるのと異なり、法治主義はどのような政治体制とも結びつき得る原理である。

このような意味での法治主義を後に述べる実質的法治主義と対比する意味で「形式的法治主義」と呼ぶこともある[3]。

他方、「法の支配」の下においては、たとえ「法律(立法)」の手続を経てなされるとしても、法律の内容は適正でなければならず、権利・自由の保障こそ本質的であるとする点に法治主義との差がある。

このような違いが歴史的に生じたのは、イギリスにおいては、法とは、「古き国制」に由来する人の意思を超えたものであって、人の手によって創造され得るものでなく、発見するものであると伝統的に考えられてきたことが背景にあるとされている[19]。

もっとも、現在では、ドイツでは、法律の内容の適正が要求される「実質的法治主義」の考え方が主流となっているが、反対に、イギリスでは、アンドレ・マルモーが代表する「古き良き法と法の支配は異なる」とする論調のように、多義的な概念である法の支配に政治哲学的な価値を持ち込むこと自体を批判し、法の支配と(形式的)法治主義を同視する見解が多い。

日本での展開

日本の法体系は、長らく慣習法を基調としてきたが、近代化の推進の為、明治憲法は、プロイセン・ドイツ法に準拠することとなり[注釈 8]、以後、法体系は大陸法系を基調として、明治憲法下でも(形式的)法治主義(法律による行政の原則)は認められてきた。

その後、アメリカ法に影響を受けた日本国憲法が制定されると、日本国憲法が法の支配を採用しているものなのかが問題となったが、制定法主義をとり、判例法主義をとるものではないという前提がある以上、ダイシー流の法の支配は採用されていないという点には異論はなく、結局は多義的な法の支配の内容をどのように解するかによってその結論が導かれると解されるようになった。

現在の日本の憲法学においては、「法の支配」の内容は以下の4つとされている[3]。

1、人権の保障 : 憲法は人権の保障を目的とする。

2、憲法の最高法規性 : 法律・政令・省令・条例・規則など各種法規範の中で、憲法は最高の位置を占めるものであり、それに反する全ての法規範は効力を持たない。

3、司法権重視 : 法の支配においては、立法権・行政権などの国家権力に対する抑制手段として、裁判所は極めて重要な役割を果たす。

4、適正手続の保障 : 法内容の適正のみならず、手続きの公正さもまた要求される。この法の適正手続、即ちデュー・プロセス・オブ・ロー(due process of law)の保障は英米法の基本概念の一つでもある。

日本国憲法は、権利の保障は第3章で、憲法の最高法規性は第10章で、司法権重視は76条・81条で、適正手続の保障は31条で、それぞれ定めているので、「法の支配」を満足していると見なされている[3]。

これに対しては、日本国憲法施行の当初から、GHQによる検閲や農地改革等により権利の保障は大きく歪められ、また、最高裁の下す違憲判決の少なさから、日本において「法の支配」は十分に機能していないとする見解もある[要出典]。

このように、現在の日本の公法学において、「法の支配」という概念が広く受容されるようになったが、そのため戦前とられていた法治主義との関係が問題とされるようになった。

現在の日本の憲法学では、ドイツと同様に実質的法治主義と法の支配を統一的に理解する見解が多数であるが[20]、以下に述べるとおり両者を厳格に区別し、法の支配に一定の積極的な意義を見出す論者もいる。

佐藤幸治は、伝統的な「法の支配」における「法」という観念が自律的で自然発生的なルールという意味合いを有していることを指摘して、日本の「法律」という観念との違いに言及し[21]、法の支配を採用して、行政裁判所を廃止した日本国憲法下においても、公定力といった旧憲法下での行政法理論が生き続ける日本の公法解釈のあり方に疑問を呈するだけでなく[22]、(実質的)法治主義は行政による事前抑制に親和的であるのに対し、法の支配は司法による事後抑制に親和的で、国民の司法への積極的な参加とこれを支える多くの法曹の存在が必要であるという積極的な意義がある点に違いがあるとする[23]。

これに対して、阪本昌成は、法の観念については、佐藤と同じく自生的秩序であるとして法の支配と法治主義を厳格に区別しつつも、法の支配を主権者も法律さえも拘束するメタ・ルールであるととらえ、佐藤とは正反対に、国民に一定の行為を要求するものではありえず、むしろ法の形式に着目し、それが一般的・抽象的でなければならず、その内容も没価値的・中立的なものであることを要求するものであるとして、法の支配に政治哲学的な価値を持ち込むことに反対する。英国の公法学界の通説と結論を同じくするが、阪本の学説は、スコットランドの古典的自由主義の渓流を継ぐものなので、当然のことといえる。
国連・持続可能な開発目標2030アジェンダ

国連の2030年までに達成すべき目標として掲げる持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット16.3において、法の支配を国家及び国際的なレベルで促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供することを謳っている。[24]

脚注
[脚注の使い方]
注釈

^ lawは、ラテン系のフランス語起源の単語の多い英語には珍しく、イングランドを支配したヴァイキングのデーン人の用いた古ノルド語の「置かれた物」という言葉が語源。それが掟(オキテ)、法という意味となった。イングランド東部にはデーン(北海帝国)支配時代の慣習法などの残ったデーンロー地方がある。
^ 政治学の項参照。
^ コーク卿の『英国法提要』・『判例集』は、現在でも法の支配に関する不朽のテキストとされ、ウィリアム・ブラックストンの『イギリス法釈義』は、このコークの法思想を19世紀に継ぐべく書かれた、英国法の体系的なコメンタリーである。イギリスの植民地であったアメリカにおいては、不文法(非成文法)である英国法を知る手段は限定されたものであった中で、『英国法提要』・『イギリス法釈義』はアメリカの法曹に広く読まれるテキストとなり、アメリカ法に強い影響を与えることになる。
^ 「古き国制」の思想は、古くはジョン・フォーテスキューが主たる論者であり、後にエドマンド・バークの「時効の憲法」(prescriptive Constitution)の思想に引き継がれていくが、バークの時代は法の支配の衰退期とされている。
^ 庶民といっても、騎士(Knights)と一定の資産を有する「市民」(Burgesses)のことを指す。
^ 憲法典のないイギリス法の訳語としては、端的に「統治構造」と訳すべきとの者もいる。
^ 成文憲法典を持つ国では、最高法規である憲法に違背した制定法は無効とされ、裁判所が合憲性を判断する違憲審査制がとられているが、成文憲法典のないイギリスでは当然のことながら違憲審査制はない。成文憲法典のある国での違憲審査制の下では、合憲性判定の基準となる「憲法」は憲法典に限られ、基本法である実質的意義の憲法全てが含まれるわけではないとするのが通説である。
^ 明治十四年の政変の項を参照。

出典

^ a b 宇野p58
^ a b c d 芦部信喜『憲法(新版補訂版)』岩波書店、5頁
^ a b c d e f g h 芦部信喜『憲法(新版補訂版)』岩波書店、14頁
^ プラトン著・森進一、池田美恵、加来彰俊訳『法律(上)』(岩波文庫)255頁
^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』77頁、阪本昌成『憲法理論Ⅰ』59頁
^ Wormuth, Francis. The Origins of Modern Constitutionalism, page 28 (1949).
^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』77頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』54頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』71頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』142頁
^ 別冊ジュリスト『英米判例百選(3版)』(有斐閣)90頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』8頁
^ a b アメリカ大使館資料室「アメリカ早わかり」『米国の中央政府、州政府、地方政府の概要』 (PDF)
^ 上掲『現代イギリス法辞典』51~65、127頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』55頁
^ 上掲「現代イギリス法辞典」75頁
^ 上掲『現代イギリス法辞典』66頁
^ 阪本昌成『憲法理論Ⅰ』59頁
^ 上掲樋口・129頁
^ 芦部『憲法(第3版)』岩波書店、15頁など
^ 佐藤幸治『憲法(第3版)』81頁
^ 佐藤幸治、田中成明『現代法の焦点』有斐閣リブレ、1987年
^ 第154回国会「参議院憲法調査会」第2号
^ “「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミット”. 外務省. 2016年11月30日閲覧。

参考文献

伊藤正己『法の支配』有斐閣、1954年
伊藤正己『英米法における法の支配』日本評論社、1950年
伊藤正己・木下毅『アメリカ法入門(第4版)』日本評論社、2008年(初版は1961年)
田中和夫『英米法概説〔再訂版〕』有斐閣、1981年
佐藤幸治『憲法(第3版)』青林書院、1995年
樋口陽一『比較憲法(第3版)』青林書院、1992年
阪本昌成『憲法理論Ⅰ』(成文堂)、1993年
戒能通厚編『現代イギリス法辞典』(新世社)、2003年
宇野重規 『西洋政治思想史』有斐閣、2013年。ISBN 978-4-641-22001-0。

関連項目

立憲主義
法治国家
国際法律家委員会
欧州評議会
法の支配ミッション
デュー・プロセス・オブ・ロー』

「法の支配」で公開討論 林外相主宰、中ロ反発―国連安保理

「法の支配」で公開討論 林外相主宰、中ロ反発―国連安保理
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023011200812&g=int

『【ニューヨーク時事】国連安全保障理事会は12日、「法の支配」をテーマに公開討論を開いた。今月の議長国を務める日本の林芳正外相が主宰した。参加国から国連憲章などに基づく世界秩序の維持が重要だとの意見が相次ぐ一方、中国やロシアは「西側諸国が恣意(しい)的にルールを作っている」と反発した。

安保理改革へ問われる手腕 日本、年初から非常任理事国

 ロシアによるウクライナ侵攻は、国連加盟国間の分断深刻化を浮き彫りにした。中国も東・南シナ海で、力による一方的な現状変更の試みを続けている。
 林氏は演説で、法の支配が存在しなければ「世界は野蛮な力と威圧のジャングルになる」と警告。中ロを念頭に、国連決議や国際裁判所の判決などに従うことが肝要だと訴えた。

 その上で、国連に代わる組織はなく、安保理を含む国連機能の強化が必要だと強調。分断克服のためにも「法の支配という理念の下に結集しよう」と呼び掛けた。

 これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は「西側が作り出したルールに基づく秩序には同意できない」と主張。中国の張軍国連大使も「国際的なルール作りは、一部の国の特権ではない」と米欧をけん制した。 』

中国、対米関係再悪化を懸念 首脳会談の成果に冷や水

中国、対米関係再悪化を懸念 首脳会談の成果に冷や水
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM193CE0Z11C22A2000000/

『【北京=羽田野主】米議会が対中強硬姿勢を強めていることについて、中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は一時的に緊張が緩んだ米中関係が再び悪化することを懸念している。2022年11月の習氏とバイデン米大統領との首脳会談の成果に冷や水を浴びせられかねないからだ。

習氏とバイデン氏は11月中旬、インドネシア・バリ島で約3時間にわたり対面会談した。中国側は首脳会談により米中関係は悪化に歯止めがかかったと評価してきた。

米中高官の往来も活発になり、12月には米国のクリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)らが訪中し、謝鋒外務次官と河北省で会談した。23年1月にはブリンケン米国務長官が訪中する予定だ。

習指導部はブリンケン氏の訪中が緊張緩和に向けた当面の山場とみてきただけに、米下院による特別委員会の設置には神経質になっているとみられる。中国共産党系メディアの環球時報は13日付の社説で「中米関係を本当によくしたいと思うのなら、米国は裏表のある行動をとることはできないはずだ」と主張した。

中国は共産党が立法、行政、司法のすべてを指導し、国会にあたる全国人民代表大会が習氏の意向と異なる決定をすることはありえない。米国の三権分立を頭では理解していても、腹の底では信じていないフシがある。

このため、米議会がバイデン大統領の方針と異なる行動を取ると「議会の裏では政権の意向が働いている」と疑いがちだ。実際、8月にペロシ米下院議長が台湾を訪問した際も、中国外務省の報道官は「米議会は連邦政府を構成する一部だ。米国の『一つの中国』政策を厳守せよ」とバイデン政権を批判していた。

【関連記事】米下院、中国特別委を年初設置 新委員長「共産党は敵」』

https://nkis.nikkei.com/pub_click/174/REchOH1XPgK5L9YtK2y_wM801vxiK7_p6WRes0I5dkAZ6l_xDpBRHOSnM35SMNUaffofXvRQopBqJZJ5oQIOh5eBOopUT0GhyEo4UdiMrRouSLeRV18y2KwZmplQBYdIt7MbRzgIQubZc-TFlSlUhEwRP1H1pI_Y6pkmpx0Iy3nSNbFXFAZE_hifwBRIgr4BWht6dFQuJZUqOBsEXBMYA_0pRv3nYfqEU4Zljupsk1tkXomI1pakHC1q8JxZEqBwAbIpyuOmi33hLGZzI09afo_1OHTJyUGce3UY7BlX5b6F5fc7nJC2sY5vh570hVLZHpT00Q5BHdKVoQ8_f-g0iRyvKx9glfhRxv4l_wD73xEqwHLDgSUAQPwXDrCNxEMgHaFK4_4STCwGElyWhfQDFx-t6GdcezJxyX-PLil6jLDhMwH9rpbtlGNQD4927WPk5kOFhNV7u-PVcSCRe5s4i2iDPlHxerci1tuVap8CmMfVlT1xnfaGwoumC6T3//113417/151711/https://www.nikkei.com/promotion/campaign/line_friend/?n_cid=DSPRM1DP01_2022linea

オランダ首相、奴隷制謝罪 「人道に対する罪」

オランダ首相、奴隷制謝罪 「人道に対する罪」
https://nordot.app/977689401321111552?c=302675738515047521

 ※ こりゃ、いよいよ「停戦間近」かもしれんな…。

『【ブリュッセル共同】オランダからの報道によると、同国のルッテ首相は19日、ハーグで演説し、オランダが過去に250年間にわたり奴隷制に関与したことについて「人道に対する罪」だと述べ、政府を代表して正式に謝罪した。

 ルッテ氏は、60万人以上のアフリカ人がオランダの奴隷商人によって主に植民地だった南米スリナムに「家畜のように」運ばれたと指摘。「醜く、恥ずべきものだ」と訴え「オランダ政府は奴隷にされた人々と子孫が受けた甚大な苦しみに責任を負う」と語った。

 奴隷制の問題に関する教育などのため2億ユーロ(約290億円)の基金を設立する予定だという。

© 一般社団法人共同通信社』

ドイツで国家転覆計画、陰謀論と極右共鳴 民主主義試練

ドイツで国家転覆計画、陰謀論と極右共鳴 民主主義試練
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR113LY0R11C22A2000000/

『【ベルリン=南毅郎】ドイツで国家転覆を計画した疑いでテロ組織が摘発された事件の全貌が明らかになってきた。主犯格は貴族出身の「ハインリッヒ13世」を名乗る71歳の男で、現役の裁判官や軍人も一斉に逮捕された。過激な陰謀論を唱える「Qアノン」と極右が共鳴し「第二帝国」の復活を狙っていたとされる。

インターネットを通じた陰謀論の浸透が、米欧の民主国家にとり大きな試練となっている。

ドイツ東部チューリンゲン州。保養地で知られるバート・ローベンシュタインは騒然となった。ハインリッヒ13世が所有する狩猟小屋が武器倉庫になっている――。覆面をかぶった捜査員が7日に突入した。

独検察当局はテロ組織に参加した疑いなどで25人を逮捕した。遅くとも昨年11月までに活動を始め、独連邦議会を襲撃する準備など、クーデターによって独自の国家樹立を企てた疑いがある。さらに逮捕者は膨らみそうだ。フェーザー内相は11日付のドイツ紙ビルトで、銃規制の強化に乗り出す考えを示した。

主犯格は2人とみられている。1人は現在のチューリンゲン州の一部を支配していた貴族ロイス家の子孫にあたる、ハインリッヒ13世。一族と距離を置き、極右思想に傾倒していたという。同じく逮捕されたロシア人の容疑者を代理人として、ロシア政府と接触を試みた疑いもある。

もう1人はドイツ連邦軍のエリート、空挺(くうてい)部隊を指揮していたフォンペスカトーレ元中佐。ハインリッヒ13世を頂点に独自の武装集団を立ち上げようとした疑いがある。陸軍の特殊部隊である「KSK」のメンバーも捜査対象となり、警察や軍の関係者を引き込もうとしていた。

ドイツではかねてドイツ至上主義や反ユダヤを掲げるネオナチの存在が危険視されてきたが、今回は1国にとどまらない危うさがある。Qアノンの影響が色濃いためだ。

2017年に謎の人物「Q」がネット掲示板に投稿を始め、米国を中心に拡散した陰謀論であるQアノン。「ディープステート(闇の政府)」が世界を操っているなどと主張し、著名人を小児性愛者と決めつけたり、新型コロナウイルスに関する偽情報などを広めたりしてきた。

トランプ前米大統領の支持者らが賛同し、21年1月に起きた米連邦議会占拠事件にも信奉者が加わっていた。

ドイツのクーデター未遂では、極右勢力「ライヒスビュルガー(帝国市民)」が関与した疑いもある。独検察当局は事件の思想的な背景について「Qアノンのイデオロギーと帝国市民の物語からなる陰謀神話の集合体」と分析する。

帝国市民は東西ドイツ統一前、冷戦時代の1980年代からの右翼活動が底流にある。表だった行動に乏しく、実態をつかみにくい。第2次世界大戦後の民主国家としてのドイツの歩みを認めず、ビスマルク時代のドイツ帝国に倣い、第二帝国の復活をもくろむ。

Qアノンに代表される過激な陰謀論は、SNS(交流サイト)や動画サイトなどを通じて世界中で閲覧でき、各国の事情に即した「翻訳」が増殖する。非合法、暴力手段で政治主張をかなえようとする極右との共鳴は容易だ。

独連邦刑事庁などによると、帝国市民のメンバーは21年末時点で約2万1000人とされる。うち1150人は過激派で、およそ500人は合法的に銃を所有する。フェーザー内相によると、直近は2万3000人にまで増えるなど着実に勢力を広げる。16年には南部バイエルン州でメンバーが警官を殺害する事件も起きている。

今回摘発された組織や帝国市民が、現時点で国家転覆を実行できるほどの力を備えているとの見方は限られるが、フェーザー氏は「過小評価してはいけない」と話す。

ドイツでは、ウクライナ危機によるエネルギー価格高騰への不満が広がり、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を伸ばしている。今回の事件ではAfDの元議員で現職の裁判官も逮捕された。

陰謀論は暮らしや雇用の安定に不安を抱く人々の心理につけ込み、土壌とする。インフレに苦しむ世界にあって、民主主義をむしばむ影響力は無視できないものとなっている。

【関連記事】

・ドイツ検察、国家転覆未遂で25人逮捕 議会襲撃を計画か
・ショルツ首相「ドイツは堅固」 国家転覆未遂事件で 』

〔外患罪〕

〔外患罪〕

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E6%82%A3%E7%BD%AA

『外患罪(がいかんざい)は、外国と通謀して日本国に対し武力を行使させ、または、日本国に対して外国から武力の行使があったときにこれに加担するなど外国に軍事上の利益を与える犯罪である。

現在、「外患誘致罪」(刑法81条)、「外患援助罪」(刑法82条)および両罪の未遂罪、予備・陰謀罪が定められており、刑法第2編第3章に外患に関する罪として規定されている。

刑法が規定する罪で最も重罪のものであるが、現在まで適用された例はまだない。 』

『概説

外患罪は国家の存立に対する罪である。いわゆる国家への反逆となる戦争犯罪(売国行為)であり、刑法の中でも最も厳しい刑罰を科すものである。未遂・予備に留まらず、陰謀をすることによって処罰されうる点でも特異である。内乱罪が国家の対内的存立を保護法益とするのに対し、外患罪は国家の対外的存立を保護法益とする。

本罪の罪質については、国民の国家に対する忠実義務違反であるとする説[1]と国家の存立の危殆化を罰するものであるとする説[2]とがある。

本罪は国内犯はもちろん国外犯にも適用がある(刑法1条・刑法2条3項)。通常、「武力の行使」は国際法上の戦争までは意味しないと解されるが、何を以って武力とし(たとえば国内の自衛隊や警察の装備及び人員の利用など)、どのような手段を以って行使とするかについて明確な法解釈は存在しない。

非常に強権的法規であり、かつ外交問題と直結するため、訴追側(検察)、審判側(裁判所)ともに適用に非常に消極的で、同罪状で審判した例はもちろん、訴追した例すらいまだにない。1942年に起訴されたゾルゲ事件において適用が検討されたが、公判維持の困難さのために見送られ、国防保安法、治安維持法等により起訴された。

外患誘致罪と外患援助罪は裁判員制度の対象となる。

なお、裁判員制度には「裁判員や親族に対して危害が加えられるおそれがあり、裁判員の関与が困難な事件」(裁判員法3条)については、対象事件から除外できる規定がある。

元来は戦争状態の発生及び軍隊の存在を前提とした条文だったが、日本国憲法第9条の関係で、昭和22年(1947年)の「刑法の一部を改正する法律」(昭和22年法律第124号)により根本的に改正され、「戰端ヲ開カシメ」「敵國ニ與シテ」等の字句や、利敵行為条項(第83条?第86条)・戦時同盟国に対する行為(第89条)等、日本国政府が戦争の当事者であることを意味する規定を削除・改正している。

ただし、武力の行使が前提となることに変わりはない(サイバー攻撃や金融・通貨を含む経済戦争には対応していない)。』

『 刑法新旧条文の比較は以下の通り。

旧条文

第81条[外患誘致] 外國ニ通謀シテ帝國ニ對シ戰端ヲ開カシメ又ハ敵國ニ與シテ帝國ニ抗敵シタル者ハ死刑ニ處(処)ス
第82条[外患援助] 要塞、陣營、軍隊、艦船其他軍用ニ供スル場所又ハ建造物ヲ敵國ニ交附シタル者ハ死刑ニ處ス
兵器、彈藥其他軍用ニ供スル物ヲ敵國ニ交附シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
第83条[通謀利敵] 敵國ヲ利スル爲、要塞、陣營、艦船、兵器、彈藥、汽車、電車、鐵道、電線其他軍用ニ供スル場所又ハ物ヲ損壊シ若クハ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
第84条[同前] 帝國ノ軍用ニ供セサル兵器、彈藥其他直接ニ戰闘ノ用ニ供ス可キ物ヲ敵國ニ交附シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
第85条[同前] 敵國ノ爲メニ間諜ヲ爲シ又ハ敵國ノ間諜ヲ幇助シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ五年以上ノ懲役ニ處ス
軍事上ノ機密ヲ敵國ニ漏泄シタル者亦同シ
第86条[同前] 前五條ニ記載シタル以外ノ方法ヲ以テ敵國ニ軍事上ノ利益ヲ與ヘ又ハ帝國ノ軍事上ノ利益ヲ害シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ處ス
第87条[未遂] 前六條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第88条[外患予備・陰謀] 第八十一條乃至八十六條ニ記載シタル罪ノ豫備又ハ陰謀ヲ爲シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス
第89条[戰時同盟國ニ対スル行爲] 本章ノ規定ハ戰時同盟國ニ對スル行爲ニ亦之ヲ適用ス

新条文

第81条[外患誘致] 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。

第82条[外患援助] 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。

第83条乃至第86条 削除

第87条[未遂] 第八十一条及び第八十二条の罪の未遂は、罰する。

第88条[外患予備・陰謀] 第八十一条又は第八十二条の罪の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の懲役に処する。

第89条 削除 』

『外患誘致罪

保護法益

本罪の保護法益は国家の対外的存立である。

行為

外国と通謀して日本国に対して武力を行使させることを内容とする(81条)。

この場合の「外国」とは、外国人の私的団体ではなく外国政府を意味する。ただし、日本国政府との国交の有無はもちろん、国際法における国家の成立要件を完全に備えていることは要件とはならない。「通謀」とは、意思の連絡を生ずることをいう。

内容としては、外国政府に働きかけ武力行使することを勧奨したり、外国政府が日本国に対して武力を行使しようとすることを知って、当該の武力行使に有利となる情報を提供する行為をいう。「武力の行使」とは軍事力を用い日本国の安全を侵害することを言うが、国際法上の戦争までを意味しない。具体的には、外国政府が、安全侵害の意思を持って、公然と日本国領土に軍隊を進入させたり、砲撃・ミサイル攻撃等を加えることをいう。

本罪の着手時期は、武力行使の目的を持って通謀行為を開始したとき、又は、継続的な連絡行為後、外国政府が武力行使の意思を生じた時に画されるであろう。既遂は、外国が武力を行使したときに成立する。

法定刑

本罪の法定刑は死刑のみ(絶対的法定刑)であり、現行刑法上で最も重い罪である。

また、未遂罪も処罰されるため(刑法87条)、死亡者が発生しなくても死刑となる。

但し、法定減軽・酌量減軽は可能である。たとえば、大掛かりな犯罪であるのでまず考えられないが、少年法上において死刑を科すことのできない18歳未満の者がこの犯罪を犯した場合は無期懲役刑を科すものと考えられている。本法が制定されて以来、現在までにこの犯罪を犯した者および裁かれた者は存在しない。

未遂

本罪の未遂は罰する(刑法87条)。

共犯

外患誘致の教唆をなし、又はこれらの罪を実行させる目的をもってその罪のせん動をなした者は、7年以下の懲役又は禁錮に処される(破壊活動防止法38条1項)。

この場合に教唆された者が教唆に係る犯罪を実行するに至ったときは、刑法総則に定める教唆の規定の適用は排除されず、双方の刑を比較して重い刑をもって処断される(破壊活動防止法41条)。

外患援助罪

保護法益

外患誘致罪の保護法益と同様に、本罪は国家の対外的存立を保護法益とする。

行為

本罪の行為は日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えることである(刑法82条)。

「軍務に服すること」とは、外国政府の組織する軍隊に参加することであり、戦闘への参加の有無、役割(兵站、諜報、医療等)に拘らない。「軍事上の利益を与えること」とは、軍務に服さず協力することであり、その態様は、外国軍に協力し軍事行動を行う、兵站・諜報活動等の後方支援、占領地域において占領政策への協力等全ての形態を含む。しかし、人道的な医療行為等は緊急性における違法性阻却事由として、また、占領下における強制による協力行為は期待可能性を欠くものとして、責任を阻却ないし軽減されるものであると解される。

法定刑

本罪の法定刑は死刑または無期もしくは2年以上の懲役である。本罪は、場合によっては政治犯ないし確信犯であることもあるが、態様として破廉恥犯であるため、内乱罪と異なり、法定刑として禁錮ではなく懲役が定められている。

未遂

本罪の未遂は罰する(刑法87条)。

共犯

外患援助の教唆をなし、またはこれらの罪を実行させる目的をもってその罪のせん動をなした者も、外患誘致の教唆の場合と同様に7年以下の懲役または禁錮に処される(破壊活動防止法38条1項)。

この場合に教唆された者が教唆に係る犯罪を実行するに至ったときは、刑法総則に定める教唆の規定の適用は排除されず、双方の刑を比較して重い刑をもって処断される点も同様である(破壊活動防止法41条)。

外患予備罪・外患陰謀罪

罪質の重大性に鑑み、予備・陰謀をした者も1年以上10年以下の懲役に処せられる(刑法88条)。』

(過去の投稿)

「強力に人権(自由)が制約されている例」…。
https://http476386114.com/2020/05/04/%e3%80%8c%e5%bc%b7%e5%8a%9b%e3%81%ab%e4%ba%ba%e6%a8%a9%ef%bc%88%e8%87%aa%e7%94%b1%ef%bc%89%e3%81%8c%e5%88%b6%e7%b4%84%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%a6%e3%81%84%e3%82%8b%e4%be%8b%e3%80%8d%e3%80%82/ 

『 ※ 外患誘致罪なんて、法定刑は「死刑」だけだぞ…。「無期懲役」ですら規定されていない…。

 だから、「死刑廃止論」を声高に唱える人には、気をつけた方がいい…。もしかして、暗に「外患誘致罪」の廃止を狙っているのかもしれない…。そこいら辺を、よくよく見極めないとな…。

 その周辺罪として、「外患援助罪」というものもある…。こっちも、「死刑又は無期若しくは二年以上の懲役」だから、相当な「重刑」だ…。

 さらには、「外患誘致罪」「外患援助罪」は、「未遂罪」も処罰される…。

 そればかりでは無い…。両罪の「予備罪」さらには、「陰謀罪」も処罰される…。「予備罪」とは、一定の「予備行為」を必要とする…。「陰謀罪」だと、そういう「予備行為」すら必要無い…。

 「陰謀」する行為だけで、処罰される…。まあ、そういう「陰謀」が発覚して、逮捕される…、なんて事態は、ごくごく稀なケースだろうがな…。』

 ※ ドイツのケースでは、どの段階だったんだろうな…。

 ※ 外患罪ではなく、内乱罪が疑われたんだろうが…。

 ※ 一応、「保護法益」の「侵害からの距離」という観点からは、

 順に、既遂 → 未遂 → 予備 → 陰謀…、となる。

〔内乱罪〕

〔内乱罪〕

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E4%B9%B1%E7%BD%AA

『この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。』

『内乱罪(ないらんざい)は、国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をする犯罪である(刑法77条)。内乱予備罪・内乱陰謀罪(刑法78条)や内乱等幇助罪(刑法79条)とともに、刑法第2編第2章に内乱に関する罪として規定されている。』

『概説

内乱罪は国家の存立に対する罪である。本罪は国家の秩序を転覆せしめる重大な罪であるが、仮に内乱が成功した場合、革命成功ということでその行為は(「勝てば官軍」の論理により)正当化されて犯罪性が否定されるので危険犯として規定する他ない。

本罪について刑法学では、刑罰が国家制度を維持するための機構であるという性質から「最も犯罪らしい犯罪」と表現され[1]、それとは反対に、仮に目的が完遂すればもはや犯罪として処罰することができなくなるという性質から「最も犯罪らしくない犯罪とすらいえる」と表現されることもある[2]。

内乱罪は国内犯はもちろん国外犯にも適用される(刑法1条・刑法2条)。

非常に強権的な法規であるためか、訴追側(検察)、審判側(裁判所)ともに適用に非常に消極的で同罪状で訴追された例は以下の数件のみであり、いずれも判決においては内乱罪適用を回避している。

なお、刑法施行後、最大の内乱といえる二・二六事件では、刑法の適用はなく、陸軍刑法による軍法会議で関係者は死刑に処されている。

また、戦前においては、内乱罪の特別法ともいうべき大逆罪が存在したことにも留意すべきである。

第二次世界大戦後は、オウム真理教事件の際に新実智光の弁護側が一連のオウム事件について内乱罪の成立を主張し、首謀者を除いて死刑は適用されないとして裁判で争われたが、判決において否定された。

このほか2018年9月以降、普天間基地移設問題に関連し、元参院議員の平野貞夫らにより内閣総理大臣の安倍晋三が内乱予備罪等で刑事告発されたが[3]、いずれも不起訴となっている[4]。

五・一五事件 - ただし、軍関係者は陸海軍の軍法会議にて処断。農民決死隊を組織する橘孝三郎ら民間人のみが刑法の適用となった。
神兵隊事件
三・一事件 - 検察官は内乱罪の適用を求めたが、朝鮮高等法院は公訴事実につき内乱罪ではなく騒擾罪が成立するとし事件を京城地方法院に移送した。

内乱罪の第一審は高等裁判所が管轄する二審制(裁判所法16条4項)。従って、地方裁判所で行われる裁判員制度の対象外である。三審制の例外として代表的なものである。』

『 条文

第77条(内乱)国の統治機構を破壊し、またはその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。

    一 首謀者は、死刑または無期禁錮に処する。

    二 謀議に参与し、または群衆を指揮した者は無期または三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。

    三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。
二 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。

第78条(予備及び陰謀)内乱の予備または陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。

第79条(内乱等幇助)兵器、資金もしくは食糧を供給し、またはその他の行為により、前二条の罪を幇助した者は、七年以下の禁錮に処する。

第80条(自首による刑の免除)前二条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する。』

『内乱罪

保護法益

本罪の保護法益は、国家の対内的存立である。なお、内乱罪の保護法益が国家の対内的存立であるのに対し、外患罪は国家の対外的存立を保護法益とする。

主体

本罪の主体は多人数である(必要的共犯)。本罪の行為である暴動には多人数を要するため、本罪は必要的共犯の一種たる多衆犯である。国家にとって危険思想を持ち、クーデターなどの具体的な行動を引き起こそうとする団体・個人を指す。

本罪の主体は次の区別にしたがって処断される(刑法77条1項)。

首謀者

死刑又は無期禁錮。

謀議参与者・群衆指揮者、諸般の職務従事者

謀議参与者・群衆指揮者については無期又は3年以上の禁錮、諸般の職務従事者については1年以上10年以下の禁錮。

付和随行者・単なる暴動参加者

3年以下の禁錮。

行為

本罪の行為は暴動である。暴行・脅迫は最広義の暴行を意味する。騒乱罪と同様に少なくとも一地方の平穏を害することで足りるとする説と、本罪の保護法益からみて国家の存立を危うくする程度のものであることを要するとする説がある。

着手時期

本罪の着手時期は、暴動を行うための集団行動が開始された時とされる。

既遂時期
暴動が行われた結果、少なくとも一地方の平穏を害するに足りる程度に至ると既遂である。

主観的要件

本罪の成立には、統治機構を壊乱する目的が必要であるから本罪は目的犯である。憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的としていなかった場合は騒乱罪(刑法106条)となる。

共犯

本罪が行われるにあたり、集団外にあって内乱に関わった者(教唆者等)に刑法総則の共犯に関する規定が適用されるかには争いがあり、本罪はその性質上必要的共犯であり刑法はそのうち一定の行為を内乱罪の行為として限定しているものと解する否定説と、共犯処罰を前提としながら独立行為として処罰規定を設けていないに過ぎないとみる肯定説がある。
破壊活動防止法41条も参照

罪数

内乱の目的で暴動に付随して行われた殺人、傷害、放火などは本罪に吸収される(通説[5]・判例[6])。犯罪類型上、殺人、傷害、放火などが起こる事は、大方予想の範囲内であるからである。ただし、本罪は目的犯であり内乱の目的とは無関係の殺人・傷害・放火等は、本罪には吸収されず別罪を構成する。

未遂

本罪の未遂は罰するが、付和随行者・単なる暴動参加者については、この限りでない(刑法77条2項)。

内乱予備罪・内乱陰謀罪

内乱の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の禁錮に処する(内乱予備罪・内乱陰謀罪。刑法78条)。

暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する(刑の必要的免除。刑法80条)。実行着手後の自首は刑法42条1項(刑の任意的免除)による。

内乱予備罪・内乱陰謀罪を教唆した者は、5年以下の懲役または禁錮に処される(破壊活動防止法38条2項1号)。

この場合に教唆された者が教唆に係る犯罪を実行するに至ったときは、刑法総則に定める教唆の規定の適用は排除されず、双方の刑を比較して重い刑をもって処断される(破壊活動防止法41条)。

電波法では、無線設備又は電線路に十キロヘルツ以上の高周波電流を通ずる電信、電話その他の通信設備によって日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する通信を発した者に対して、刑事罰が規定されている。

内乱幇助罪

兵器、資金もしくは食糧を供給し、またはその他の行為により、内乱、予備・陰謀を幇助した者は、7年以下の禁錮に処する(内乱等幇助罪。刑法79条)。暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する(刑の必要的免除。刑法80条)。実行着手後の自首は刑法42条1項(刑の任意的免除)によるのは予備・陰謀の場合と同様である。

内乱等幇助罪を教唆した者は、5年以下の懲役または禁錮に処される(破壊活動防止法38条2項1号)。教唆された者が教唆に係る犯罪を実行するに至ったときの扱いは、内乱予備罪・内乱陰謀罪の教唆の場合と同じである(破壊活動防止法41条)。』

〔国家の存立に対する罪〕

〔国家の存立に対する罪〕

 ※ 刑法各論の問題を考える場合、出発点となるのは「保護法益」だ。

 ※ すなわち、「刑罰」という重い措置を科してまで、法が保護しようとしている「法益」は、何であるのかという問題だ。

 ※ 「国家の存立」は、それ自体、保護法益となり、関連の諸犯罪を規定している。

『国家的法益
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E7%9A%84%E6%B3%95%E7%9B%8A

(この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。出典を追加して記事の信頼性向上にご協力ください。
出典検索?:?”国家的法益”???ニュース?・ 書籍?・ スカラー?・ CiNii?・ J-STAGE?・ NDL?・ dlib.jp?・ ジャパンサーチ?・ TWL(2012年2月))

国家的法益(こっかてきほうえき)とは、法益の帰属主体が国家であるものを指す。』

『国家の存立に対する罪

内乱罪
    反政府武装闘争を行う行為。
    日本国からの分離独立を宣言する行為。

以上の行為を行った場合、死刑とされるのは首謀者だけで、現場指揮者は最高でも無期禁錮となることから、あさま山荘事件(1972年)でも地下鉄サリン事件(1995年)でも実行犯が主張した。特別永住者が犯した場合、国外退去の対象になる。一審は高等裁判所。ただし、内乱が成功したら、内乱行為が裁かれることは無い。

外患罪
    外国軍隊に、日本国に対し武力を行使させる行為(外患誘致罪)。
    日本国に侵攻した外国軍隊に、従軍する行為(外患援助罪)。

外患誘致罪の法定刑は死刑のみ。祖国に対する裏切りとして、最大の破廉恥行為とされる。内乱罪と同様、特別永住者が犯した場合、死刑にならなくても国外退去の対象となる。
国家の作用に対する罪

公務執行妨害罪
逃走の罪
犯人隠避罪
証拠隠滅罪
証人威迫罪
偽証罪
虚偽告訴等罪
公務員職権濫用罪
贈賄罪・収賄罪
通貨偽造罪(社会的法益にも分類される)
公文書偽造罪(社会的法益にも分類される)

国交に対する罪

外国国章損壊等の罪
私戦予備等の罪
中立命令違反罪

廃止された罪

皇室に対する罪(旧73条から76条)
利敵行為罪(旧83条から86条、旧89条)
外国元首等に対する暴行等の罪(旧90条、91条)
皇居等侵入罪(旧131条)

関連項目

個人的法益
社会的法益
国益

カテゴリ: 刑法 』

「ゼロコロナ」批判デモ参加者を追い詰めるIT技術 牙を剥く「監視社会」の実態

「ゼロコロナ」批判デモ参加者を追い詰めるIT技術 牙を剥く「監視社会」の実態 – 孤帆の遠影碧空に尽き
https://blog.goo.ne.jp/azianokaze/e/e2cfccccd29235aa959415ba2356bd18

 ※ デジタル・マルクスレーニン主義の「面目」、躍如たるものだな…。

『【抗議活動への封じ込めには、最先端技術を使って弾圧】
中国・習近平政権の「ゼロコロナ政策」への不満が、単にコロナ対策だけでなく、「白紙運動」のような自由を抑圧する現行支配体制への批判にも拡大したことは周知のところです。

この事態に政権側は、公安を大量動員して人々を威圧し、人が集まれるようなスペースを物理的に封鎖する、あるいはSNSへの規制を強化するといったデモ・集会が行えないようにする封じ込めの一方で、「ゼロコロナ」の看板は降ろさないまま、実質的に規制を緩めて住民不満のガス抜きをはかるという「硬軟両様の構え」で対応していることは、12月1日ブログ“中国 SNS規制強化と実質的コロナ規制緩和で硬軟両様の構え 死去した江沢民氏追悼にも神経使う”でも取り上げたところです。

中国共産党は、途上国の独裁国家のように、あるいはかつての天安門事件当時の中国のように、デモ隊に実弾を撃ち込んだり、戦車で踏みつぶしたりするような粗野なむき出しの暴力をつかうことなく、静かに、かつ、的確に不満分子を抑制できるほどに“洗練”されています。

****中国、「敵対勢力取り締まり」指示=ゼロコロナ抗議デモ、参加者調査か****

中国各地で厳格な行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策への抗議活動が広がる中、中国国営新華社通信は29日、警察・司法を統括する共産党中央政法委員会トップの陳文清氏が28日に会議を開き、「敵対勢力の取り締まり」を指示したと報じた。陳氏は会議で「断固として法に基づき社会秩序を乱す違法犯罪行為を取り締まり、社会の大局的安定を確実に守らなければならない」と強調した。

中国ではこの週末、ゼロコロナへの抗議デモが各地で発生。北京市中心部でも27日夜から翌日未明にかけて若者らが集まり、「自由をよこせ」などと訴えた。ゼロコロナは習近平指導部の看板政策で、当局は抗議の動きに神経をとがらせている。当局はデモ現場に警官を配置するなど、再発防止に向け警備態勢を強化している。

ロイター通信によれば、警察当局はデモ参加者に関する調査を始めている。北京デモへの複数の参加者はロイターに対し、警察から27日夜の行動記録の報告を要求されたと証言。デモの情報をどこで仕入れたかや、集まった動機についても聞かれているという。【11月30日 時事】

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前回ブログでも触れたように、地下鉄車内で乗客のスマホを公安がチェックするようなアトランダムな方法も行っていますが、世界最先端を行く「監視社会」の技術を使ってデモ参加者をピンポイントで威圧する取締りが展開されています。

****デモ参加の翌日、警察が自宅に。完璧に構築された中国監視システム****
2億台ものカメラが街のあらゆる場所に設置され、完璧に近い監視システムが構築されている中国。そんな社会の「刃」が、ここに来て一般市民に向けられる事態となっています。

今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、北京での抗議デモ参加者の身に起きた恐怖体験を、米有力紙オンライン版記事を引く形で紹介。

さらにこの問題は中国に限ったこととは言い切れないとし、テクノロジーの進化を享受するすべての人間に対して警鐘を鳴らしています。

中国政府の国民統制はジョージ・オーウェル『1984年』の世界そのもの
「ゼロコロナ」政策を推進してきた中国。行動制限やロックダウン(都市封鎖)などへの抗議活動が各地に広がっています。

政府は不満を沈静化させようとして、規制を徐々に解除しています。広州市は複数の地区で封鎖を解き、外食禁止を解除しました。

北京市当局もこれまで全市民に事実上義務づけてきた数日ごとのPCR検査について、長期間外出しない高齢者や幼児などは免除すると通知しています。

民衆の不満を考えて妥協しているようにみえる中国政府ですが、その一方で抗議活動への封じ込めには、最先端技術を使って弾圧しています。
以下、ニューヨークタイムズのオンライン版12月3日の記事抜粋です。

「中国の警察が電話機と顔写真を使って抗議者を追跡した方法」
中国当局は、週末に行われた抗議デモの後、全方位を見渡せる監視装置を使って、抗議する大胆な人々を見つけようとしています。

日曜日、北京で中国の厳しい共産主義政策に抗議に行ったとき、張さんは発見されないように準備して来たつもりだった。顔には目出し帽をかぶり、ゴーグルをつけていた。私服警官に尾行されそうになると、藪の中に潜り込み、新しい上着に着替えた。

その夜、20代の張さんは逮捕されずに帰宅し、事なきを得たと思った。しかし、翌日、警察から電話があった。
彼の携帯電話がデモのあった場所にあったことが探知されたので、彼が外出していたことがわかった、という。

その20分後、彼は住所を伝えていなかったにもかかわらず、3人の警官が彼のドアをノックした。

今週、中国全土の抗議者たちから同様の話が聞かれた。
警察は、顔認識や携帯電話、情報提供者を使って、デモに参加した人々を特定してきた。通常、彼らは追跡した人に二度と抗議しないことを誓わせる。

デモ参加者は、追跡されることに慣れていないことが多く、どのようにして自分たちが見つかったのか、困惑の表情を浮かべている。

さらなる反響を恐れて、多くの人が、抗議活動の調整や海外への画像拡散に使われていたテレグラムのような外国のアプリを削除している。

中国の警察は、世界で最も洗練された監視システムを構築している。街角やビルの入り口には数百万台のカメラが設置されている。

強力な顔認識ソフトウェアを購入し、地元市民を識別するようプログラムしている。特殊なソフトウェアが、拾い集めたデータや画像を解析している。

監視システムの構築は秘密ではないが、中国の多くの人々にとって、監視システムは遠い存在に感じられていた。
「何も悪いことをしていないのなら、隠すことはない」という考えのもと、多くの人がこのシステムを支持してきた。

先週行われた取調べは、その考えを揺るがすものかもしれない。中国の最も裕福な都市に住む多数の中産階級に、監視国家が正面から向けられたのは初めてのことだ。【12月6日 MAG2NEWS】

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【「何も悪いことをしていないのなら、隠すことはない」ではすまない、監視社会の負の側面】

犯罪を抑止し、社会の利便性を高める一方で、政治への不満・批判は徹底的に封殺されるという監視技術の二面性については、これまでもたびたび取り上げてきました。

ネガティブな面を気にする日本・欧米の声に対し、中国国内では「何も悪いことをしていないのなら、隠すことはない」といった寛容な対応、利便性を歓迎する風潮がこれまで一般的でした。

そのあたりは今も基本的には変わっていないのでしょうが、今回のデモ参加者は改めて自分たちがどんな社会に位しているのは、「監視」されるというのはどういうことなのかを改めて実感しているのではないでしょうか。

下記記事は6月16日ブログ“監視社会 中国で「健康コード」を乱用した抗議行動抑圧が物議 「幸福な監視社会」の実態”でも紹介したものです。

****中国人が監視国家でも「幸福」を感じられるワケ 『幸福な監視国家・中国』梶谷懐氏、高口康太氏インタビュー****

(中略)
個人情報によってレイティングされたり、個人の行動が監視カメラで監視されていたりするなど、日本人が聞くと「どうせ、中国は専制国家だから、プライバシーに無頓着で、監視されることにも慣れているんでしょ……」などと思ってしまいがちだ。しかし、実はそうではない。

そんな中国の実態を、中国経済論が専門の神戸大学経済学部教授・梶谷懐さんと、中国問題が専門のジャーナリスト・高口康太さんが現地取材を交えながら執筆したのが『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)だ。お二人に、「監視=幸福」という、一見、相反することがなぜ中国で成立しているのか? 聞いてみた。(中略)

強制ではなく、インセンティブを与える

「社会スコア」が導入されつつあるのも、強制力で従わせるのではなく、お行儀の良い行動をとったほうが「得」というインセンティブを与えることで、自然にその方向に向かわせるという狙いがある。

こうしたことから、中国では「便益(幸福)を求めるため、監視を受け入れる」、「プライバシーを提供することが利益につながる」という考え方が一般化している。

二人はどのような場面でそれを最も実感したのか?

「中国では、医療体制に問題を抱えていました。オンライン診療ができることになったことで、何時間も並んで診察を受けるといったことがなくなりました。サービスを提供しているのは大手保険会社で、個人が差し出す医療情報をビッグデータとして蓄積・解析することでビジネスに活用しています。これにより、迅速かつ低コストで、医療サービスを提供することが可能になっています」(梶谷さん)

「一つだけあげるのは難しいですが、梶谷さんのおっしゃる医療でもそうですし、顔認証だけで様々なサービスが受けられたり、自動車を駐車場に停めても勝手に精算が済んでいたりと、生活するなかでの面倒が日々少なくなっていくのを実感することができます」(高口さん)(中略)

信用スコアはもちろん、QRコード決済など、中国で新しいサービスが急速に普及する背景には、もともとそうしたインフラが整っていないということも関係している。(中略)

日本など先進国だと、先に整ったインフラや規制(ルール)が弊害となって新しいサービスがすぐに社会実装化されることは少ない。米ウーバーのサービスが「白タク」として許可されていないのは、その典型例だ。

「レギュラトリー・サンドボックス方式」と呼ばれる、規制緩和を行って新技術の実証事件を行う仕組みが、イギリスやアジアで導入されているが、中国ではまさにそれを地で行き「先にやって後で許可を得る」という形で、日常的に新しいサービスの試行錯誤が行われている。こうした環境がベンチャー企業を育み、中国発の新サービスを生む土壌となっている。(中略)

新疆ウイグル自治区というディストピア

一方で、デジタル・監視国家の負の側面もある。代表例として本書でも挙げられているのが、ウイグル人の問題だ。彼(女)らは日常生活を監視カメラやスマホのスパイウェアで管理されている。(中略)一般の中国人(漢民族)はこの問題をどのように考えているのだろう。

「私が中国に留学していた際の経験からも、マジョリティである漢民族の中には、新疆人(ウイグル人)は何をするか分からない、怖い人たちだ、という意識があるのを感じました。(中略)ですから、他地域で実施されれば激しい反発が予想される厳しい監視体制も、ウイグル人を対象にしたものである限り、抵抗なく受け入れられている面があるように思います」(梶谷さん)

「やはり、民主主義の欠如ということが問題です。同時に、99%の中国人にとって、そのリスクは捉えられていません」(高口さん)

使い方次第で、ディストピア社会も生み出してしまうが、多くの中国人にとって、それは圏外の問題なのである。

もう一点、不気味さを感じさせるのが、民意を先回りして政策を実行できるという点。
「言論の自由が保障されていないにもかかわらず、買い物の履歴やSNSの発言から情報を収集することで「民意」をくみ取り、それを政策に反映することが可能になっています」(梶谷さん)

「(中略)こうしたシステムを駆使すれば、選挙ではなく、監視によって民意を察知することも可能です。たとえば焼却場の建設計画を進めている時、住民の反発が非常に強く大規模な抗議活動が起きかねないと、世論監視システムが予測します。そうすると、地方政府は先手を打って説得したり、あるいはスピン情報を流したりという対策が打てます。場合によっては建設計画を撤回することもあるわけです」(高口さん)

これまで、社会課題などを議会で議論することで解決するという形をとってきたわけだが、情報を収集して解析すれば、そのような手間のかかる作業をしなくても、多くの人にとっての最適解が出されてしまう。

社会に対して大きな不満を持つことなく(ということは、投票率は益々下がり、今でも少ないデモなどももっと起きなくなる)、無風のまま政府によって飼いならされていく……。

テクノロジーの発達によって人の仕事が奪われるということが話題になっているが、民主主義社会を支える土台においても、人間が積極的に関与しなくてもよい状況が生まれつつあるのかもしれないと思うと、背筋が寒くなる。

中国に限った問題ではない

(中略)「ブレグジット、トランプ大統領の登場などによって、『民主主義って機能しているの?』というイメージを中国人は持っています。人に任せるよりデータに任せたほうが良いのではないかという。日本にも民主主義が機能不全だと考えている人は増えているのではないでしょうか。だからといって、中国と同じになるのがいいとは思いませんが、民主主義をバージョンアップさせるためにも、中国がどう課題に取り組んでいるかを知ることは必要不可欠でしょう」(高口さん)(後略)【2019年8月23日 WEDGE】

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【抵抗しない市民には安心と利便性を提供・・・しかし、抵抗・批判は許されない社会】

下記は、9月11日ブログ“中国 習近平国家主席が目指す完璧に設計された社会、抵抗しない市民には安心と利便性を提供”で紹介したもの。

****中国の監視国家モデル、相反する二つの顔****

習氏が目指す完璧に設計された社会、抵抗しない市民には安心と利便性を提供

(中略)3期目の新体制では、習氏の壮大なる野望の一つに注目が集まりそうだ。習氏はデータと大量のデジタル監視が支える新たな政府の在り方を目指しており、世界の民主国家に対抗する存在になるかもしれない。

中国共産党は完璧に設計された社会という未来像をちらつかせている。具体的には、人工知能(AI)企業と警察が連携して犯罪者をとらえ、誘拐された子どもを発見し、交通規則を無視して道路を横断する者を戒める社会だ。つまり、当局は市民の善行に報い、悪行には罰を与え、しかも数理的な精密さと効率性を持って実行する。

習氏がこの構想の実現にこだわるのは、必要にかられてのことだ。(中略)ここ10年は成長が鈍化。爆発的な債務の伸びや新型コロナウイルス禍に絡む厳格な規制、高齢化など人口動態の問題によって急激に失速する恐れが出てきた。

習氏はここにきて、新たな社会契約を結ぼうとしている。豊かな未来像を示すのではなく、安全と利便性を提供することで市民の心をつかむのだ。数千のアルゴリズムが脅威を制圧し、円滑な日常生活を阻害する摩擦を排除する予測可能な世界だ。

だが、世界は中国の国家監視プロジェクトの暗闇も目の当たりにした。新疆ウイグル自治区で行われているウイグル族などイスラム系少数民族に対する強制的な同化政策だ。

ウイグル人らは顔や声、歩き方まで検出され、デジタル上で徹底的に追跡される。警察が常にスマートフォンをスキャンし、宗教上のアイデンティティーや外国とのつながりを調べる。問題を引き起こすと判断されたウイグル人は刑務所か、地域にある「教育センターを通じた変革」のための施設へと送られる。その結果、第二次世界大戦以降、最大規模となる宗教マイノリティー(少数派)の投獄が起こった。

新疆が共産党の大衆監視によるディストピア(反理想郷)的な悪夢に陥っている所だとすれば、経済的に豊かな浙江省の省都、杭州はユートピア(理想郷)の極みを必死で目指している場所かもしれない。

杭州でも、新疆と同じように至る所に監視カメラが設置されている。だが、これらの監視網は市民を管理するとともに、生活を改善するためにある。集められた膨大なデータはアルゴリズムに送られ、交通渋滞の解消や食品の安全性の徹底、救急隊員の迅速な派遣に寄与している。杭州は、習氏の野望の中でも、世界に変革をもたらし得る、魅力的な一面を体現しているのだ。

杭州の中心部には、慎重に育成され、異例の成功を遂げたテクノロジー企業が集積している。(中略)ハイテク企業がタッグを組んだことで、杭州市は中国で「最もスマート」な都市に変身し、世界が追随を目指すようなひな形になった。

市が収集するデータが観光地の人の流れを管理するとともに、駐車場のスペースを最適化し、新たな道路網を設計する。市内の随所にある監視カメラは、長らく産児制限が続いた中国ではとりわけ、行方不明になった子どもの発見に寄与したとして高く評価されている。

杭州市内の「リトル・リバー・ストリート」として知られる地区で行われている「シティー・アイ」という取り組みは特に注目に値する。ここでは「城管」と呼ばれる都市管理部隊の地元支部がAIツールを使い、警察がわざわざ介入しないような任務に当たっている。具体的には、露天商人を追い払う、違法なゴミ放棄者を処罰する、駐車違反者にチケットを切るといった仕事だ。(中略)

シティー・アイは、ハイクビジョンがリトル・リバー・ストリートに警察の監視カメラ約1600台を設置し始めた2017年に運営が開始された。カメラの映像とAI技術をつなぎ、24時間体制で監視しており、何か不審な動きがあるとスクリーンショットともに自動で警告を送る。(中略)

ハイクビジョンが杭州市の路上に監視の目を提供したとすれば、アリババは頭脳を提供した。AIを駆使した「シティー・ブレイン」と呼ばれるプラットフォームが、交通量から水資源管理まであらゆる政府の任務を最適化する手助けをする。同時に、アリババのサービスやプラットフォームは、光熱費の支払いや公共交通機関の利用、融資取得といった市民生活の利便性を高め、ネット裁判所の登場で地元企業を提訴することさえも容易にした。
シティー・ブレインはとりわけ、ひどい交通渋滞で知られる杭州を変えたと言われ、国内ワーストランキングでは5位から57位へと改善した。アリババは交差点の動画データやリアルタイムの全地球測位システム(GPS)位置情報を解析するシステムを開発。同市の交通当局が信号を最適化し、老朽化する交通網の混雑を緩和できるようにした。

2019年10月には、農村地区で77歳の住民女性が洗濯中に小川に転落する事故が発生。女性を救急車に乗せた隊員は近くの病院まで最速で到着できるよう、シティー・ブレインの道案内ツールを作動させた。アルゴリズムにより、病院まで14カ所ある交差点がいずれも通過時に青信号になっていたことで、通常ではよくても30分かかるところを、12分で病院に搬送することができたと報じられた。(中略)

ウイグル人への組織的な弾圧が行われている新疆と同じように、杭州も社会管理のいわば実験場であり、何が機能して、何が機能しないのかを理解する材料を共産党に提供する。2カ所で行われている実験からは、共産党の権威に抵抗すると思われる人物を脅し、強制的に変えようとするまさに同じ技術が、党の支配を受け入れる人々を大事に扱い、安心させる手段にもなることが分かる。

習氏によるAIと独裁主義の融合は、戦争や新型コロナウイルス禍、経済減速、崩壊寸前の組織制度に見舞われる時代において、安心と効率性の世界を提供できるかに見える。

完璧につくられた社会の魅力は現実のものだ。このモデルがどこまで浸透するかは、習氏の野心とパフォーマンスのみならず、世界の民主国家が同じ問題にどううまく対処できるかにもかかっている。【9月9日 WSJ】
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抵抗しない市民には安心と利便性を提供、しかし、抵抗は許さない社会。日本や欧米的価値観からすれば抵抗・批判が許されない国民と言うのは“奴隷”ではないか・・・という話にもなります。』

〔資本主義というものに対する理解〕(再掲)

〔資本主義というものに対する理解〕(再掲)
https://http476386114.com/2020/07/07/%e7%bf%92%e8%bf%91%e5%b9%b3%e3%81%af%e3%81%aa%e3%81%9c%e9%a6%99%e6%b8%af%e5%9b%bd%e5%ae%b6%e5%ae%89%e5%85%a8%e7%b6%ad%e6%8c%81%e6%b3%95%e3%82%92%e6%80%a5%e3%81%84%e3%81%a0%e3%81%ae%e3%81%8b%ef%bc%9f/ 

『「資本主義」ということが言われているので、オレの理解を語っておく…。

 「資本主義」とは、「資本自由主義」ということで、「生産手段」「利益を産出するもの」である「資本」の、自由な活動を「国家として」「法秩序」として「認める」ものだと、考える。平たく言えば、「自由に利益を獲得すること」を認める、「獲得した利益を、自分のものにする(私有する)こと」を、国家として、法秩序として認めるという制度だ、と考える。

 その前提として、人間の生存・生活にとって、「私有財産(自分のものである財産)」は、必要欠くべからざるものだ…、という認識がある…。

 そのさらに前提として、そういう「私有財産」は、「人間としての尊厳」には、必要欠くべからざるものだ…、という認識が横たわっている、と考える。

 しかし、現実社会においては、こういう「自由」を制度として肯定すると、「格差」が拡大してしまう…。「自由競争」の名の下に、「利益を獲得していく」能力に差異がある以上、それに長けている者とそうでない者の差異が生じてしまうからだ…。

 その「弊害」「問題点」を鋭く抉り出したのが、カール・マルクスの「資本論」なんだろう(全部を読んではいない)…。

 「人間としての尊厳」に資するものだったはずの制度が、結局は「人間としての尊厳」を破壊してしまうことになるという、大矛盾だ…。

 さりとて、この「私有財産」を否定して、「共産革命」なるものを起こして、資本家・大地主を打倒し、彼らからその「私有財産」を実力で奪取したところで、次の問題が生じる…。

その「財産」を、どう「管理」していくのか、「誰が」管理していくのか、という問題だ…。

「国有財産」「公有財産」「共有財産」と呼称を変えたところで、「どのように・誰が管理していくのか」という問題は、消えて無くなるわけじゃない…。

 「財産」というものが、「人間の生存」にとって必要不可欠であるということは、消えて無くならないし、数が限られている以上、それの争奪戦、あるいは、「その管理権」の争奪戦は、消えて無くなるものじゃない…。

 人は、永遠にそういうことを、争っていく存在なんだろう…。』

〔「英米法」というものの話し…。〕(再掲)

〔「英米法」というものの話し…。〕(再掲)
https://http476386114.com/2021/01/11/%e3%80%94%e3%80%8c%e8%8b%b1%e7%b1%b3%e6%b3%95%e3%80%8d%e3%81%a8%e3%81%84%e3%81%86%e3%82%82%e3%81%ae%e3%81%ae%e8%a9%b1%e3%81%97%e3%80%82%e3%80%95/

『 概要

英米法ないし英米法系とは、イングランド法やニューヨーク州法といった特定の法秩序ないし法体系に着目した概念ではなく、ヨーロッパ大陸諸国の法体系である大陸法系と対比した場合の、複数の国の法体系の共通性ないし類似性に着目して総称した類概念である。
ゲルマン法に由来する中世的慣習法として成立した判例法たるコモン・ローがイングランド法の基礎として発展したことから、イングランド法を基礎とする英米法を指して「コモン・ロー」(common law)とも呼ばれる。

英米法は、イギリスの支配下にあった地域の多くにおいて採用されており、アメリカ合衆国の法体系(アメリカに買収されるまではフランスやスペインが旧宗主国であった関係で大陸法の影響が強いルイジアナ州を除く)もその1つであることから、「英米法」(Anglo-American law)と呼ばれる。もっとも、アメリカ合衆国は比較的早期(18世紀後期)にイギリスから分離したため、他の英米法地域と比べて多くの独自性を有する。』

『 特色

大陸法系は、ローマ法・カノン法の全面的継受を受けたことから、私法の重要な部分が法律(特に法典)の条文によって規定されるのに対し、英米法系は、中世の英国において、ゲルマン法の一支流であるアングロ・サクソン法を背景として成立した慣習法であり、判例が第一次的法源とされ、司法的である点に基本的な相違点があるとされている。

そこから英米法系は、大陸法系と異なる次のような具体的な特色を有するものとされるが、それは、1066年のウィリアム征服王による封建制の確立から始まる英国の歴史に基づく極めて偶有性の高いものであり、英国法の歴史であるとともに、コモン・ローの歴史そのものでもある。詳細は、それぞれ英国法#英国法の歴史、コモン・ロー#歴史を参照。

大陸法系がローマ法・カノン法の継受による法の断絶を経験しているのに対し、英米法系はゲルマン的な中世慣習との歴史的継続性を有していることである。

英米法系は、マグナカルタのような中世の伝統との連続性のある法の支配を基本理念とするのに対し、大陸系の公法では、法の断絶によって法の支配が衰退し、法治主義がとられるようになったことである。

英米法系は、コモン・ローとエクイティからなる法の二元性をとるのに対し、大陸法系はそのような区別を知らないことである。

英米法系の裁判が中世からの伝統のある陪審制をとるのに対し、大陸法系では、法の断絶を経験したことによって陪審制は衰退し、素人が裁判官と一緒に審理に参加する参審制をとられるようになったことである。

英米法系の司法制度が法曹一元制をとるのに対し、大陸法系はキャリア裁判官によるキャリアシステムをとることである。

英米法系の法体系では、訴訟中心主義をとり、実体法は手続法の隙間からにじみ出てきたという性格が強いのに対し、大陸法系が実体法を中心とした理論的な体系となっていることである。

英米法系は、大陸法系における総則規定や抽象的な法律行為概念等の理論を嫌い、日常的な人間の経験を重視することである。

英米法系の私法は、中世の身分社会の影響から現実の社会の中の個人と全体との関係を重視する「関係理論」をとるのに対し、大陸法系が個人の意思から出発する「意思理論」をとることである。

英米法系の刑法は、中世の身分社会の影響から現実の社会の中の個人と全体との関係を重視し、社会に与えた客観的な結果や影響を問題にするのに対し、大陸法系が個人の意思から出発し、その行為の目的や反倫理性を問題とすることである。

英米法系は、犯罪も民事上の不法行為も共に国王の平和(King’s peace)に対する罪にあたるとされて、刑事法と民事法の区分が曖昧でむしろ公法を中心に発達したのに対し、大陸法では、公法と私法が理論上区別され、個人の対等な関係を基本とする私法を中心に発達してきたことである。』