新型コロナ後遺症 ひそかに上がる心血管疾患リスク
日経サイエンス
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC233ZG0T20C22A9000000/
※ 不幸にして感染してしまった人は、要注意な情報だ…。
※ 自覚される「後遺症」が感じられなくても、『心筋細胞や血管を形作る細胞には新型コロナウイルスが細胞へ侵入する足がかりとなる「ACE2受容体」が存在する。ウイルスがこれらの細胞に侵入すると、感染した細胞は救援信号を出し、大量の免疫細胞が集まる。ところが、この免疫細胞の活動が心筋内で炎症を起こすため、心筋細胞や血管が傷つく悪循環が起こる。こうした現象は急性期のコロナで知られていたが、「コロナが治った後もかなりの割合で心筋炎や心臓障害が続くことが今回の調査で明らかになりました」と野出主任教授は指摘する。』、と言うことだ…。
※ 自分で気を付けて、定期的に「検診」受けるとか、「健康診断」受けるとき「医師に申告して、特に注意してもらう」とかの策を、取った方がいい…。




『2022年9月に入って、新型コロナウイルス感染症の日本国内の累積感染者数は2000万人を超えた。ほとんどの人は回復済みだが、この感染症が厄介なのは回復後に一部の人で後遺症が残る点だ。感染者の健康状態を追跡した国内外の調査からは、自覚的な体調不良がなくても心血管疾患のリスクが高まることがわかってきた。
日本循環器学会などが実施した調査結果の概要
日本循環器学会などが実施した、コロナ感染後の心臓への影響を調査した研究がある。コロナ感染によって急性期に肺炎を起こして入院し、入院中または回復後の血液検査で「潜在的な心不全」と判明した31人を対象にした追跡調査だ。
心臓の機能が低下した状態を心不全といい、血液検査をすると心不全になりやすい状態になっているかどうかがわかる。負荷を受けると、心臓は特定の物質を血中に放出するためだ。こうした物質の濃度が高い状態を専門的には「潜在的な心不全」という。コロナ感染と関係なく、もともとこの条件に当てはまる人は一定数いる。
今回の31人は検査値こそ高いが、心不全や心筋梗塞の症状は出ておらず、循環器内科の治療を受けていない人たちだ。しかし退院3カ月後にMRIで画像検査を行うと、42%(13人)に心筋の傷害や心機能の低下が見られた。研究チームを率いる佐賀大学医学部循環器内科の野出孝一主任教授は「通常、心不全リスクのある人でMRIを撮っても明らかな異常が見つかるのは10〜20%程度です。今回の割合は想定以上でした」と話す。MRI画像から心筋炎が判明した人も26%いた。
特に気がかりなのは、全身に血液を送り出す心臓の左室でMRI画像に異常な影が見られる人がいたことだ。影が生じた箇所は、心筋が壊れたり、線維化したりしている。「皮膚に傷を負うと、傷跡が残ることがありますよね。あれと似た現象です」と野出主任教授は説明する。「ただ皮膚の傷跡と違い、傷跡が残った部位は心筋としての収縮能力を失っています」。
心筋梗塞や狭心症でもMRI画像に異常な影が見つかるが、通常は心臓の内側に集中する。心臓は内側に近い場所ほど負荷がかかりやすいからだ。しかし今回の調査では、心臓の外側部分まであらゆる所に影が見られた。「おそらく、心臓全体で炎症が起きていると考えられます」。
心筋細胞や血管を形作る細胞には新型コロナウイルスが細胞へ侵入する足がかりとなる「ACE2受容体」が存在する。ウイルスがこれらの細胞に侵入すると、感染した細胞は救援信号を出し、大量の免疫細胞が集まる。ところが、この免疫細胞の活動が心筋内で炎症を起こすため、心筋細胞や血管が傷つく悪循環が起こる。こうした現象は急性期のコロナで知られていたが、「コロナが治った後もかなりの割合で心筋炎や心臓障害が続くことが今回の調査で明らかになりました」と野出主任教授は指摘する。
6月には、米ワシントン大学やセントルイス保健医療システムの研究チームがコロナに再感染した時の後遺症発症リスクを調べた結果を公表した。まだ他の研究者の査読を受けていないが、再感染から1〜4カ月後はあらゆる後遺症状の発症リスクが初回感染後の同時期より高く、心血管疾患ではとりわけその程度が大きかった。
「再感染後の方が心血管疾患を発症するリスクが高くなるというこの論文の主張は説得力があります」と野出主任教授は話す。2回目以降の感染では初回感染時ほどの炎症は起こりにくいと考えられるが、それでも小規模な炎症は起こる可能性がある。すると心筋にダメージが蓄積する。これは「同じ場所にけがを繰り返すイメージ」(野出主任教授)だ。傷跡の程度が大きくなれば、より広い面積の心筋が機能を喪失して、残りの心筋の負荷が高まって心不全のリスクを高める。
感染後の心臓の傷跡は、長い時間がたてば癒えるのだろうか。野出主任教授は「現段階ではわからない」としつつ、「炎症自体はだんだんと収まるはずです」と話した。ただ、警戒しなくてはならない現象があるという。「リモデリング」だ。
リモデリングは風船のように心臓が膨らんで大きくなる現象だ。心筋梗塞などが起きた後、体が心臓の拍出量を増やそうとして起こる例が知られている。心臓が大きくなっても心筋の量は変わらないため、個々の心筋細胞への負荷は高まる。こうした現象が、コロナ感染の心筋傷害でも起きている可能性がある。
リモデリングは早くて3カ月、長いと数年という時間をかけて進行する。心筋梗塞が起きた後であればACE阻害薬やβ遮断薬といった薬でリモデリングを予防することが多いが、コロナ感染後は自覚症状のないまま進行する恐れがある。特に急性期に肺炎や呼吸困難など中等症以上の症状があった人では、回復後に体の異常を感じなくとも「積極的に検査を受けて、心不全だとわかったら早く治療することが大切」(野出主任教授)だ。
(日経サイエンス編集部 出村政彬)
詳細は現在発売中の日経サイエンス2022年11月号に掲載 』