ゴム手袋最大手、コロナ下「勝ち組」に綻び

『【シンガポール=中野貴司】マレーシアのゴム手袋世界最大手、トップ・グローブが新型コロナウイルスの集団感染発生で停止していた工場を再開した。だが労働環境の改善は完了しておらず、ワクチン接種が一巡すれば需要が減る可能性もある。コロナ下の「勝ち組」とされる同社だが、コロナ後を見据えたかじ取りの巧拙が問われている。

トップ・グローブの28工場が集中するクアラルンプール近郊のメル地区で12月20日、最後まで…』

・12月20日、最後まで止まっていたラインが動き出した。マレーシア政府の許可によって、ゴム手袋の生産が完全に再開したのだ。同地区の工場では11月に新型コロナのクラスター(感染者集団)が発生、約9000人の工場従業員の58%にあたる5147人が感染し、約1カ月にわたり操業停止を強いられた。

・トップ・グローブは医療用などで使われるゴム手袋で世界シェア26%だ。国内41工場のうち半分以上の工場からの出荷が止まり、一時は世界規模でのゴム手袋の需給逼迫が懸念された。

・操業停止で2021年8月期の売上高は約4%下押しされる。それでも足元の好業績は揺らいでおらず、21年8月期は2期連続の過去最高益を見込む。直近の20年9~11月期の純利益は前年同期比21倍の23億7577万リンギ(約605億円)に達した。医療現場での需要が世界的に伸び続けており、この四半期だけで20年8月期通期の純利益(18億6699万リンギ)を上回った。ただし今回の感染騒動で様々な構造的問題が表面化し、対応を迫られている。

・まず外国人労働者の住環境問題が解決していないことだ。ゴム手袋の工場ではネパールなど周辺国出身の労働者が寮に住み込みで勤務している。トップ・グローブはクラスター発生前から7000万リンギを寮などの改善に投資してきたと説明しているが、劣悪な住環境がクラスター発生につながったことは否定できない。マレーシアの同業大手、ハルタレガが従業員8772人中0.4%(35人)だったのに比べ、陽性率の高さが際立っている。

・トップ・グローブのリー・キムミャウ社長は「従業員の健康と安全は最優先事項だ」と追加の対応を急ぐ。緊急対応として宿泊施設を借り上げたほか、9500万リンギをかけてメル地区の工場周辺のアパートを大量に買い上げる計画を打ち出した。さらに合計7300人を収容でき、感染防止の基準も満たした複数の大型寮をクアラルンプール近郊に建設するとしている。アパートの買収完了だけで15カ月かかるといい、これまで低コストを優先してきたツケを払わされる。

・処遇改善は主要市場の米国から迫られた面もある。米税関・国境取締局(CBP)は7月、トップ・グローブのゴム手袋の米国への輸入差し止め命令を出した。労働者への不当な処遇が理由とみられ、トップ・グローブは問題解決のために独立したコンサルタントを雇った。このコンサルタントは1000人を超える労働者にインタビューした上で、トップ・グローブに1億3600万リンギを退職者も含めた1万1千人以上の労働者に追加で支払うよう勧告した。同社はこれを受け入れ、5000万リンギの支払いを終えたという。

・しかし当初約2週間での解決を目指していたCBPとの交渉はなお続いている。北米地域の販売量は20年9~11月期に前年同期比で2%減少した。世界的なゴム手袋の需要増で全体の販売量が約34%増となる中では異例の落ち込みだ。全売り上げに占める北米地域の割合も30%から22%に急落しており、決着が注視される。

・外国人労働者に依存した生産体制からの脱却も課題だ。21年8月期には7000人の国内従業員の採用を計画している。新型コロナによる移動制限で、周辺国の外国人を採用するのが難しくなっていることへの対応で、これもコスト増の要因となる。

5000人を超える工場従業員が新型コロナに感染した=ロイター

・トップ・グローブは強気の需要予測を掲げている。現在900億枚の年間生産能力を23年末には4割増の1290億枚に引き上げる計画だ。「ワクチンを投与する度にゴム手袋が必要になるため、その分需要は拡大する」(リム・ウィーチャイ会長)とみる。

・これに対し、好業績の持続性を疑問視する声も出始めた。ワクチンの接種が始まったことが主な要因だ。JPモルガンは12月中旬のリポートで、供給不足で高騰していたゴム手袋の販売価格が21年後半には下落しはじめ、トップ・グローブの22年8月期の売上高は21年8月期の半分程度に落ち込むとの見通しを示した。21年末の予測株価は3.5リンギと、最近の株価(6.5リンギ前後)の半値近い水準に置いた。

・業界では新規参入が相次ぐ一方、各国で重要な医療用品を国産化する動きもある。トップ・グローブが中長期的な市場動向を見誤ると、過剰な生産設備に悩まされることになりかねない。

医療用手袋の世界最大手メーカーでコロナ集団感染、28工場が閉鎖へ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-11-26/QKDUZDT0AFBA01

『マレーシア政府は23日、トップ・グローブに国内28カ所の工場を段階的に閉鎖するよう命じた。同日のマレーシアでの新規感染者数は1884人だったが、このうちスランゴール州クランの同社施設での感染が1067人に上った。24日には国内全体で過去最多の2188人が新たに感染したが、半数以上を同社従業員寮に関連する地域のクラスターが占めた。…』

マレーシアが誇るグローバル企業!世界トップシェアのゴム手袋メーカー「TOP GLOVE」
2019年05月22日


『「TOP GLOVE」はゴム手袋の世界的メーカー。マレーシアは1990年代まで世界有数の天然ゴム生産国で、1991年にリン・ウィーチャイ氏が夫婦で町工場を立ち上げたのがTOP GLOVEの始まりでした。

ゴム価格上昇の試練を乗り越え、2001年にはマレーシア証券取引所へ上場。現在では世界195カ国、2,000社以上との取引があるグローバル企業に成長しました。市場シェアは25%で世界トップを誇ります。…』