「第2青函トンネル」現実味? 巨大インフラの皮算用

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC261Z60W0A221C2000000

『北海道と本州を海底で結ぶ「第2青函トンネル」構想が北海道でじわり熱を帯び始めた。事業費はざっと見積もっても7200億円。荒唐無稽で無用なインフラと長く見なされてきたが、物流コストの高騰が思わぬ追い風になりつつある。

【関連記事】
第2青函トンネル、民間事業で自動車道の現実味
自立阻む海峡のハンディ 克服へ第2青函構想も
地域物流が崩壊寸前 北海道で「先駆的実験」

北海道と本州を結ぶ青函トンネルを利用できるのはJR北海道の北海道新幹線とJR貨物が運行する貨物列車のみ。本州―四国間や本州―九州間のように乗用車やトラックを運転して津軽海峡を渡ることはできない。

北海道経済連合会が東京―札幌間(約1150キロメートル)とほぼ等距離の東京―福岡間(同1100キロメートル程度)で10㌧あたりのトラック輸送コストを比べたところ、札幌の方が34%高い21万5000円かか…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り1037文字

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

有料登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGN16C7X016122020000000&n_cid=DSPRM1AR08

無料登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGN16C7X016122020000000&n_cid=DSPRM1AR08#free

ログインする
https://www.nikkei.com/login

/

・第2青函構想が最初に浮上したのは2010年代半ばごろ。それから議論を重ね、1本のトンネル内を自動運転車専用道路の上半分と、単線の鉄道貨物列車が通行する下半分の2層構造。自動運転の車両積載車が未対応のトラックや乗用車を荷台に乗せてトンネル内を運ぶ計画にいたった。

・日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が20年11月に公表した「津軽海峡トンネルプロジェクト」によると、第2青函のトンネル部分は31キロメートル、概算事業費は7200億円。進藤孝生会長(日本製鉄会長)が同12月、赤羽一嘉国土交通相に手渡した。

・JAPICがはじいた経済効果は年878億円。道内から運び出す農畜産物が年60万トン増えることで340億円、交流人口拡大による観光需要で538億円生み出すとしている。「よく練られた案だ」と北海道大学公共政策大学院の石井吉春客員教授も評価する。

・巨額の建設コストは32年で投資回収できると見積もる。借入金利の想定は1.161%。大型車の通行料を1万8000円、普通車は9000円と想定すれば、1日あたり大型車3600台、普通車1650台の通行で採算は合う。国や独立行政法人などが第2青函トンネルを保有し、特別目的会社(SPC)が運営する手法を検討する。

・建設に27年かかった現在の青函トンネルと比べ、掘削技術は格段に進歩している。調査設計から完成までは約15年。勾配や海底からの深さを工夫し、総延長は青函トンネル(53.85キロメートル)より短くしてコストを圧縮する。

・現在の青函トンネルはJR北海道とJR貨物が青函トンネル内で共用走行しており、新幹線がトンネル内で速度を落として運転している。現在の青函トンネルが新幹線専用になればこの問題は解消できる。毎分20トンの湧き水が出るため不可欠な大規模改修の際も「バイパスがあれば物流への影響を抑えながら工事ができる」(北海道建設業協会の栗田悟副会長)メリットがある。

・事業費の7200億円にはトンネル出口と高速道路をつなぐ道路の建設費(約2000億円)やトンネルの両端と在来線をつなぐコスト(約1500億円)は含まれていない。こうした付帯コストを加えれば、総事業費は1兆円を上回ることになる。

・最短で37年の全面開業を目指すリニア中央新幹線と並ぶ国内屈指のビッグプロジェクトに浮上するか、初夢のまま終わるのか。まだ後ろ向きな政府の背中を押すには、消極的なJRや道を巻き込むオール北海道のPR活動が不可欠だ。

(高橋徹)

【関連記事】

Q.直径5mのトンネル2本、幅8mの川の下にどう収めた?

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00647/090200013/

『土木分野の知っておきたい知識をクイズ形式で紹介する「ドボクイズ」。
日経 xTECHや日経コンストラクションに掲載した記事などを基に出題します。あなたは土木にどれくらい精通しているでしょうか。

 東京都品川区を流れる幅8mの立会(たちあい)川。川の真下に外径5.85mのシールド機2台を使って、雨水放流管のトンネルを建設する工事が進んでいます。

立会川の下流側から上流側を見る。雨水放流管のシールド機は、川の真下を手前から奥に向かって掘り進む(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]

2つの坑口が横に並んだ発進たて坑(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]

 雨水放流管は立会川の下流から上流に向かって掘進します。その際、解決すべき課題が2つありました。

 1つは発進たて坑における高さ方向の制約です。発進たて坑のそばに既設の護岸杭があり、シールド機はその下を通過しなければなりません。一方、発進たて坑には下流側から既設の放流管が接続しており、新設する放流管の管底をたて坑の位置で既設管よりも高くしなければなりません。これらの条件下で要求される流下能力を確保するためには、内径5mのトンネルを2本、横に並べてたて坑から掘進する必要がありました。

 ところが、もう1つの課題が立ち塞がりました。横幅方向の制約です。雨水放流管の大部分は立会川の直下に築かなければなりませんが、シールド機の発進後、ほどなくして川幅は8mに狭まります。

 発注者や施工者は、どのような方法で課題を解決したでしょうか。

  1. 川幅が狭まる手前に中間たて坑を設け、中間たて坑から上流側は外径8mのシールド機1台で掘進した
  2. 川の両岸の地権者に補償金を支払い、川幅からはみ出してトンネルを掘進した
  3. 横2連で発進したシールド機が途中で回転し、縦2連になって掘進した

正解はこちら

  1. 横2連で発進したシールド機が途中で回転し、縦2連になって掘進した  立会川の雨水放流管は東京都が発注し、清水建設が施工しています。  周辺の市街地に整備されているのは合流式下水道。大雨が降ると、下水道で流しきれなくなった汚水混じりの雨水が立会川に放流され、川の水質悪化や悪臭を招いていました。立会川に放流していた雨水を地下の雨水放流管に取り込んで海に近い運河に直接、放流することで、立会川の水質改善や流域の浸水被害の軽減につなげます。

H&V工法によるスパイラル掘進のイメージ。直線で掘進する左シールド機に対して、右シールド機はらせん状に掘進する(資料:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示] 

 工事で採用したのは、横2連に連結した中折れ式シールド機で2本のトンネルを同時に掘る「H&V工法」でした。2台の外径は共に5.85mで、離隔はわずか9cm。超近接状態を保ったまま横2連の状態で発進したシールド機は、既設の護岸杭の下を通過した後、右シールド機は左シールド機が掘進するトンネルの外周に沿って反時計回りのらせんを描くように掘進し、上側に移動。137mを進む間に横2連から縦2連へと変化します。

2本のトンネルは下流側から上流側に向かって掘進。わずか137mを掘る間に、横2連から縦2連へと変化した(資料:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示]

 2台の単独シールド機を使って、2本のトンネルを別々に掘進する案もありました。しかし、地盤改良しなければならない範囲が広くなることや、シールド機を発進する工程が2段階に分かれることなどで、工費や工期が不利になる恐れがありました。

 1990年に開発したH&V工法の施工は、実証実験を含め今回が7例目。シールド機を横2連や縦2連のまま掘進したり、途中で分岐させたりしたケースはあるものの、実際の工事で横2連から縦2連に変化させる「スパイラル掘進」を成し遂げたのは、今回が初めてです。

関連記事

2連シールドで初のスパイラル掘進
世界初、上向き掘進のシールド機を地下から回収
2段階で掘る海底の港道
地中の「吊り橋」でトンネル変形を抑止
頻発する異常気象に備える
民間の雨水貯留施設に助成、横浜市が全国初の区域指定

2台のシールド機同士をピン接合に
 「この工事のスパイラル区間は短くて急。従来のH&V工法のように接合部を剛結して右シールド機を中折れ装置だけでスパイラル掘進しようとすると、300mm以上の余掘りが必要になる」。清水建設の太田博啓所長はこのように話します。

 そこでスパイラル掘進に向けて、清水建設は2台のシールド機の接合部にピン構造を採用しました。

シールド機の平面図
(資料:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示]

従来のH&Vシールド機
(資料:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示]

スパイラル掘進用シールド機
(資料:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示]

 左右機の後胴を剛結した状態では、右機前胴の掘進方向に対して、右機後胴が斜めを向いたまま引きずられるようになるので、大きな余掘りが生じます。ピン接合にすれば、左機の向きに関係なく右機の前胴に後胴が追随でき、余掘りは10mm程度に抑えられます。ただし、左右のシールド機で推進力が異なると、接合部に大きな負荷がかかるため慎重な掘進管理が必要でした。

右機内部から見たシールド機同士の接合部。セグメントで左半分が隠れている(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]

接合部の挙動を常に監視
 太田所長は「接合部をピン構造にすると、シールド機の外殻に穴を開けることになる。そこを補強したうえで、掘進中は接合部に設けたレーザー距離計や変位センサー、ピンを固定するボルトにはひずみセンサーを取り付けて、挙動を監視した」と語ります。

H&V工法でスパイラル掘進したシールドトンネルの坑内。工法名のHはHorizontal(水平)、VはVertical(垂直)を意味する(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]

シールド機内部。シールド機のローリングに応じて作業足場が回転する。排泥管も異なる高さに3本ある(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]

雨水放流管は全長約778m。立会川に放流されている雨水を放流管に取り込む(資料:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示]

位置図(資料:日経コンストラクション)
[画像のクリックで拡大表示] 』

極上の眺望へいざなうデザイン

極上の眺望へいざなうデザイン
長崎稲佐山スロープカー(長崎市)

大井 智子 ライター
2020.08.07
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00013/073100020/ 

『「移動自体を楽しんでほしい」
 最大勾配は20度余り。丸みを帯びた車両が緑深い山の尾根伝いに最大毎分80mの歩くようなスピードで上っていく。2020年1月に運行を始めた斜面走行モノレール「長崎稲佐山スロープカー」だ(写真1、2)。

写真1■ 長崎市が整備した斜面走行モノレール「長崎稲佐山スロープカー」。夜景の名所である稲佐山山頂展望台(写真右奥)と山の中腹とを結ぶ輸送施設として2020年1月に開業した。レールの下には遊歩道が通る(写真:長崎市)
[画像のクリックで拡大表示]

写真2■ スロープカーは1編成2両で、2編成が運行。最大で約20度の勾配をゆっくりと行き来する。写真奥は山頂駅。駅から200mほど離れた場所に展望台がある(写真:長崎市)
[画像のクリックで拡大表示]

 稲佐山は標高333m。山頂展望台からは、香港、モナコとともに「世界新三大夜景」に選ばれた長崎の街や港を一望できる。観光に力を入れる長崎市が、山頂と中腹の駐車場とを結ぶ輸送施設として整備した。「乗車時間は8分。景色を楽しみたいので、もっとゆっくり走ってほしいという声もある」と市中央総合事務所地域整備1課の末川久司主事は明かす。

 KEN OKUYAMA DESIGN(山形市)が車両のデザインを担当した。同社の奥山清行代表はフェラーリのスポーツカーなども手掛ける世界的な工業デザイナーだ。

 スロープカーは稲佐山の広葉樹林を眼下に見ながら行き来する。車両は天井から足元までガラス張り。「森のカーペットの上を滑るように進む。用事もないのに乗りたくなるような乗り物を目指した」。こう話す奥山代表は、スロープカーに乗る体験そのもののデザインを目指した。

 市はスロープカーが走るレールや支柱、駅舎など、車両デザイン以外の設計を一括で発注した。デザインコンセプトや景観を統一するためで、周辺の公園とともに17年に完成した出島表門(おもてもん)橋でも採用した手法だ。

 一連の設計業務はトーニチコンサルタントがプロポーザル方式で受託した。市は約500mある中腹駅から山頂駅までのルートを尾根上に設定。尾根には既設の遊歩道があり、施工時に木を極力切らずに済むからだ。「急斜面での工事は費用がかさむ。尾根は比較的平らで見晴らしも良い」と同社九州支店技術部の田辺敏宏部長は説明する(写真3、4、図1、2)。

写真3■ 施工中の様子。手前の中腹駐車場から山頂まで尾根伝いのルートを通る(写真:長崎市)
[画像のクリックで拡大表示]

写真4■

ロープウエーは市街地を望む稲佐山の東側斜面をルートとするのに対し、スロープカーは北側斜面の尾根伝いにアプローチするため、西側に広がる五島灘の夕景も楽しめる。スロープカーを含む稲佐山公園とロープウエーは、リージョナルクリエーション長崎(長崎市)と一般財団法人長崎ロープウェイ・水族館の事業共同体が指定管理者となる(写真:長崎市)
[画像のクリックで拡大表示]

図1■ 地形に逆らわず高架レールを架設
長崎稲佐山スロープカーの全体図。支柱の高さは最大で約14mに抑えた。長崎市の資料を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]

図2■ 4.5m間隔で2つのレーン
長崎稲佐山スロープカーの軌条構造図。長崎市の資料を基に日経コンストラクションが作成
[画像のクリックで拡大表示]

 駅舎の設計は、トーニチコンサルタントがMORアーキテクツ(長崎市)へ再委託した。山頂駅のプラットホームは7mも空中に張り出し、スロープカーで上ってきた人々を迎える。「山頂駅舎は市街地からも見える。山の稜線(りょうせん)に沿うように高さを抑え、ランドマークとなるように工夫した」とMORアーキテクツの一丸康貴代表は言う(写真5~8)。

写真5■ 山頂駅を正面から見る。東(写真左)側に長崎市街地、西(右)側に五島灘。中央は管理用通路(写真:ミヤザキ フジナリ)
[画像のクリックで拡大表示]

写真6■ 山頂駅のプラットホームは空中に張り出し、上ってきた人々を迎え入れる(写真:ヨコタ ケイスケ)
[画像のクリックで拡大表示]

写真7■ 山頂駅に滑り込むように到着するスロープカー。ホーム先端はトラス構造と片持ち梁で支持され、7m張り出す(写真:ミヤザキ フジナリ)
[画像のクリックで拡大表示]

写真8■ 中腹駅。ホームに入るスロープカーがよく見えるように、扉や間仕切りにガラスを多用した(写真:ミヤザキ フジナリ)
[画像のクリックで拡大表示]

 設計の過程では、関係者全員が現地を視察してルートや見え方を検証し、支柱の高さなどを調整した。市の景観専門監として事業を監修した九州大学持続可能な社会のための決断科学センターの高尾忠志准教授は次のように話す。「車両も駅舎も隔てず、稲佐山全体を味わう一連のプロセスとしてデザインした。ぜひ移動自体を楽しんでほしい」

大量輸送に向けて3案を検討
 稲佐山には麓と山頂を結ぶ既存のロープウエーがある。しかし、近年は観光客の急増で1時間待ちとなるような混雑も珍しくなかった。しかも、ロープウエーの定員は31人と少ない。修学旅行生やバスツアーなどの団体客を分散させず、一度に輸送できる手段が必要となっていた。

 長崎市は2015年度、多くの利用客を運ぶ新たな方法として「山頂まで続く既存道路を大型バスも通れるように拡幅する」「エスカレーターと動く歩道を整備する」「スロープカーを整備する」の3案を検討。道路拡幅は工事が長期間に及ぶ点が、動く歩道は工事費がかさむ点がそれぞれ懸念され、スロープカーの導入が16年度に決定した。市土木部土木建設課の馬場秋広技師は「スロープカー自体が稲佐山の新たな観光資源になるとも考えた」と言う。

 スロープカーの総事業費は約20億円。20年2月の利用者数は約2万人で、想定を5000人ほど上回った。その後、新型コロナウイルスの感染拡大による休止を経て、6月から営業を再開。1編成2両で一度に80人が乗れるが、当面は30人に絞って運行している。

[プロジェクト概要]
■ 位置図
[画像のクリックで拡大表示]
[長崎稲佐山スロープカー]

事業名称=稲佐山公園(スロープカー整備)事業
施工場所=長崎市稲佐町・大浜町
発注者=長崎市
設計者=トーニチコンサルタント(管理技術者:田辺敏宏)、車両デザイン:KEN OKUYAMA DESIGN、駅舎設計:MORアーキテクツ(旧:岡村設計)
施工者=嘉穂製作所・アダチ産業・三浦工業所JV、武藤建設、本間建設、西海興業・本間建設JV(以上、稲佐山公園斜面輸送施設・遊歩道整備)、ウエノ(稲佐岳スターハウス解体他)、西海建設、細田電気工事、住吉設備、日東建設、長崎電建工業、アトム防災設備(以上、駅舎)、田浦工務店、五島設備工業(トイレ)、九州ビルド(公園整備)他
設計期間=2016年6月~17年6月
工期=2017年12月~20年1月
設計費=約6300万円
工費=約19億8000万円(斜面走行モノレール:約10億円、中腹・山頂駅舎:約3億4000万円、土木工事:約4億7000万円、その他施設整備:約1億7000万円)
事業規模=斜面走行モノレール(レール延長約500m×2レーン)、車両(40人/両の2両連結×2編成)、中腹駅(延べ面積185.43m2)、山頂駅(延べ面積506.9m2)、中腹駅舎前舗装(約500m2)、遊歩道(コンクリート舗装の延長約220m、幅員約2m、照明灯22カ所)』

〔ビル設計AIは、ここまで来た!〕

あの超高層を手掛けた構造設計のエースが開発中、竹中工務店の「使えるAI」
木村 駿、石戸 拓朗 日経 xTECH/日経アーキテクチュア
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01000/092500001/?P=4 

『人工知能(AI)が、建築の設計や施工、維持管理を高速化し始めている。人手のかかる単純作業をコンピューターが「爆速」でこなしてくれれば、浮いた時間を人間にしかできない創造的な仕事や、ワークライフバランスの向上に充てることができる。AIをうまく使いこなせば、建築はまだまだ進化できるはずだ。

 竹中工務店、HEROZの構造設計AI 
構造設計の単純作業を爆速化
 AIで単純作業を高速化し、生み出した時間を顧客との対話や人間にしかできない創造的な仕事、設計者のワークライフバランスの向上に充てる──。竹中工務店が将棋AIで有名なHEROZ(ヒーローズ、東京・港)と2017年から開発してきたAIの輪郭が日経アーキテクチュアの取材で明らかになった〔図1〕。

〔図1〕これが竹中工務店「3つのAI」だ
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
(資料:竹中工務店の資料を基に日経アーキテクチュアが作成、写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 「リサーチAI」「構造計画AI」「部材設計AI」と呼ぶ3つのAIを設計の段階に応じて使い分け、構造設計にまつわる単純作業の7割を削減する。開発リーダーは高さ日本一の超高層ビル「あべのハルカス」(大阪市)などの構造設計を担当した竹中工務店設計本部アドバンストデザイン部構造設計システムグループの九嶋壮一郎副部長。「実務者目線で『使えるAI』を目指す」(九嶋副部長)

 最初に取り組んだのが、社内に蓄積してきた膨大な設計データの整理。同社の構造設計システム「BRAIN(ブレイン)」で設計した400プロジェクト、25万部材の情報をデータベース化した。この中から、進行中の案件と似た事例を簡単に引き出せるようにしたのが「リサーチAI」だ(図1の1)。

 構造設計の初期段階では、過去の類似事例を参考にしながら検討を進める。しかし、各事業所から情報を集めるのに時間がかかる上、経験の浅い設計者はどの事例を参照すべきか迷いがち。面積や階数、スパンなど構造を特徴付けるパラメーターは10~20個もあり、比較が難しい。

 リサーチAIでは、10次元以上のパラメーターを2次元に縮約(圧縮)し、総合的に類似度が高いプロジェクトを示せるようにする。機械学習(「AIのキホン ディープラーニングって何?」を参照)の一種で、データの集まりを類似度に応じて分類する「クラスタリング」を用いた。

 同社技術研究所先端技術研究部数理科学グループの木下拓也研究主任は、「ベテランが持つ嗅覚のようなものをAIで補い、誰でも有益な情報にたどり着けるようにする」と話す。』
『計算せずに仮定断面を出す
竹中工務店
設計本部アドバンストデザイン部
構造設計システムグループ 副部長
九嶋 壮一郎氏

(写真:日経アーキテクチュア)
 基本計画・設計の段階になると、構造設計者は建物のボリュームや空間の配置に応じて構造種別や架構形式を検討し、意匠設計に必要な柱・梁(はり)の仮定断面を出す。

 「構造計画AI」は、構造計算なしで仮定断面を自動推定する人工知能だ(図1の2)。複数案を簡単に比較検討できるので、短時間で構造設計の質を高められる。推定の精度を、詳細設計完了時の部材断面の±20%以内に収めるのが目標だ。

 開発には、機械学習の一種である深層学習(ディープラーニング)を用いる。脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」をコンピューター上に幾層も構築して大量のデータを入力すると、コンピューターがその特徴を学び、未知のデータを認識・分類できるようになる。

 効率的に学習させるため、AIには「教師データ」と呼ぶ情報を与える。構造計画AIの学習に用いたのは、データベースに登録した25万部材の設計情報だ。建物の規模やスパン、位置などに応じて異なる柱・梁の断面サイズを学んだAIは、「10階建ての角の柱の断面はこのぐらい」と瞬時に見当をつけられるようになる。

 HEROZの井口圭一最高技術責任者は、「過去の事例には特殊な構造の建物もある。うまく分けて学習させないとAIの回答がそれに引っ張られる。開発チームで事例を精査しながら学習させている」と話す。

 3つ目の「部材設計AI」は、詳細設計の際に部材の「グルーピング」を支援するツールだ(図1の3)。

 柱が全て同じ断面ならば施工性は高まるが、経済性は悪くなりがち。逆に数量を減らそうと断面サイズを柱ごとに変えると施工性が悪くなる。構造設計者は施工性と経済性が両立するよう、部材の種類をグルーピング(整理)しなければならない。部材設計AIは、施工性と経済性を両立する案を絞り込んで提示し、構造設計者の意思決定をサポートする。

 竹中工務店の九嶋副部長は言う。「AIを、人を支援し、協働する存在と位置付け、新たな構造設計の在り方を示したい。20年度を目標に開発を進めていく」』

『Iのキホン ディープラーニングって何?
 一口にAIと言っても、様々な種類がある。例えば1980年代に流行した「エキスパートシステム」は、人間が判断基準をコンピューターに入力し、コンピューターはそれに従って「もしAならばB」などとデータを分類・判断する仕組み。「ルールベースのAI」などと呼ぶ。

 一方、現在のAIブームをけん引するのは、コンピューターがデータの分類方法や判断基準を自ら学ぶ「機械学習」と呼ぶアプローチ。中でも「深層学習(ディープラーニング)」と呼ぶ手法が脚光を浴びている〔図2〕。

〔図2〕AIには様々な手法がある
手法によっては異なる分類をする場合がある(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
[画像のクリックで拡大表示]
 ディープラーニングでは、人間の脳の神経細胞(ニューロン)のネットワークを単純化した「ニューラルネットワーク」を、コンピューター上に幾層も構築する。これに大量のデータを入力すると、コンピューターが自らデータの特徴を学び、未知のデータを認識・分類できるようになる。それまでの機械学習に比べて高い精度で正解を導き出せる〔図7〕。

〔図3〕脳の神経回路を模したニューラルネットワーク
中間層を多層化したものをディープラーニングと呼ぶ(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
[画像のクリックで拡大表示]
 機械学習には、「教師なし学習」「教師あり学習」「強化学習」の3つの学習方法がある。教師なし学習は、極めて大量のデータをコンピューターに入力し、データの傾向や規則性などを自動的に学ばせる方法だ。

 教師あり学習は、正解付き(ラベル付き)の「教師データ」を用いて効率的に学習する方法。例えば、コンクリートの画像から健全性を診断するAIをつくる場合、画像データと専門家による診断結果をセットにした教師データを学習させる〔図4〕。

〔図4〕産業用途は「教師あり学習」が大半

学習に必要なデータをそろえ、ラベル付け(アノテーション)をするには、人手と時間を要する(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
[画像のクリックで拡大表示]
 建築を含め、産業用途でディープラーニングを活用する場合は、ほとんどが教師あり学習だ。教師なし学習と比べてデータの数こそ少なくて済むが、ラベル付きのデータをそろえるのには多大な労力がかかる。このため、教師データ集めで挫折するケースは少なくない。』
『竹中工務店とHEROZの自動制御システム 
AIで「建築設備が成長」
 竹中工務店とHEROZが共同でAIを開発するのは、構造設計の分野だけにとどまらない。人工知能を用いて空調や照明などのビル設備を自動制御するシステム「Archiphilia Engine(アーキフィリアエンジン)」を開発した。管理員の手動に頼っていたビル設備の制御を自動化し、管理業務の効率化や省エネ性の向上を図る。

 アーキフィリアエンジンは、センサーなどから取得したビッグデータを基に設備の運転条件を制御する。竹中工務店が開発したビル設備の管理システム「ビルコミュニケーションシステム(ビルコミ)」とHEROZのAIサービス「HEROZ Kishin(キシン)」を組み合わせた。ビルコミュニケーションシステムが収集する温度や照度などのデータをAIに学習させ、ビル設備を最適な形で自動制御する。消費エネルギー量を最適化するだけでなく、利用者の好みに合わせた制御も可能だ〔図4〕。

〔図5〕AIで設備を自動制御
「アーキフィリアエンジン」のシステムの概要。「ビルコミュニケーションシステム(ビルコミ)」が収集した情報を「HEROZ Kishin」で学習して、設備を自動制御する(資料:竹中工務店)
[画像のクリックで拡大表示]
2年間の実証実験で省エネ効果などを検証

 竹中工務店は2019年6月5日に、自社が設計・施工した未来のライフスタイルを提案する体験施設「EQ House」でアーキフィリアエンジンの実証実験を開始した〔写真1〕。期間は2年間。人感センサーや温度などを測るセンサー、利用者の心拍などを測るウエアラブルセンサーを用いる。延べ面積88m2の空間に約1000個のセンサーを設けて、1分おきにデータを収集する。

 さらに空調や照明などを通じて得られたデータを学習させることでEQ House内の設備を自動制御する。両社によると、データをこれほど大量に収集し、ビル設備の制御に生かす取り組みは珍しい。実験を通じて、自動制御に必要なセンサーの種類やアーキフィリアエンジンを用いた際の省エネ効果などを検証する。

〔写真1〕実際の建物で省エネ効果を検証
アーキフィリアエンジンの効果を実証する「EQ House」の外観(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 竹中工務店はアーキフィリアエンジンの導入によって省エネ性や快適性を高められると確認できれば、積極的に実プロジェクトへの提案を進めていく予定だ。』

実録・浸水タワマン復旧への道程

実録・浸水タワマン復旧への道程
木村 駿 日経クロステック/日経アーキテクチュア 森山 敦子 日経クロステック/日経アーキテクチュア 坂本 曜平 日経クロステック/日経アーキテクチュア
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00111/080500003/

 ※ 小杉のタワマンの続報だ…。

 ちょっと感心したのは、「管理組合」のみなさんが、非常にフットワーク軽く、機動的に動いておられる点だ…。

 「内水氾濫」とか、聞いたこともなく、文字通り「寝耳に水」の話しだったろう…。しかも、おそらくは、取得してからまだ数年しか経過しておらず、この先長い期間「ローン」を支払っていかなければならない立場にあるはずだ…。普通だったら、打ちひしがれて、復旧、再建への「気力」も無くしそうなところだ…。そこを、矢継ぎ早に「次のこと」を考えて、打てる策を、しっかりと打っている…。水のかき出し写真を拝見すると、まだ「お若いご夫婦」が多いようだ…。それで、腰軽く、機動的に動けたんだろう…。これが、70代、80代の「お年寄り」が多かったならば、なかなかそうは行かなかっただろう…。「若年層」の入居者が多かったことが、効を奏した形だな…。

『2019年10月、2万5000ヘクタールを超える浸水被害をもたらした東日本台風。多摩川流域の内水氾濫で電気設備が浸水したタワーマンションでは、復旧に長期間を要した。こうした被害を踏まえ、国土交通省は20年6月に浸水対策ガイドラインを公表した。

 2019年10月12日、東日本台風(台風19号)の接近に伴い、多摩川流域では四六時中、氾濫の危険性や避難情報を伝える緊急速報メールの受信音が鳴り響いていた。

 タワーマンションが立ち並ぶ川崎市中原区の武蔵小杉駅周辺では、増水した多摩川の水が、雨水を排水するための山王排水樋管を通じて逆流。広い範囲に内水氾濫を引き起こした。駅前に立つタワーマンション「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」の浸水被害はとりわけ深刻だった。

 12日夜、周辺の浸水を知ったマンションの住人は、地下駐車場や建物の出入り口前に高さ60cmほど土のうを積み上げた。そのおかげで、外構は最大約30cmまで浸水したが、建物内に泥水が流れ込むのは防ぐことができた〔写真1~3〕。

〔写真1〕地下最深部の貯水槽から雨水があふれた
2019年10月の東日本台風の影響で内水氾濫が発生し、浸水したタワーマンションの地下3階で住民が排水作業をする様子。地下4階相当に設置された貯水槽に容量を超える雨水が流れ込み、蓋からあふれて地下3階が浸水した(写真:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真2〕多摩川を望むタワーマンション
パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの外観。地下3階・地上47階建てで、総戸数643戸の大規模タワーマンションだ(写真:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真3〕武蔵小杉駅周辺が浸水
2019年10月13日午前0時過ぎの武蔵小杉駅周辺の様子。写真右手がパークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー(写真:読者提供)
[画像のクリックで拡大表示]
 しかし、水は想定外の場所から浸入した。地下3階の下に設けた貯水槽の蓋から、あふれ出したのだ。マンション内に流入した水は9000t。浸水によって地下の電気設備の多くが故障して停電し、住人は17日の復旧まで不自由な生活を強いられた。』
『特定した浸水経路への対策
 フォレストタワーの管理組合はその後、タスクフォースを立ち上げて独自に調査し、浸水メカニズムを特定。20年3月2日に被災原因と再発防止策の検討状況を公表した。

 タスクフォースの調査によると、浸水メカニズムは次の通りだ。

 フォレストタワーでは市の指導の下、建物周辺の雨水を、雨水流入升を介して建物内の貯水槽に一時的に貯め、ポンプでくみ上げて敷地外の下水管に流す仕組みを採用している。下水道や河川などに能力以上の水が流出しないようにするためだ。

 被災時は周辺が冠水していたため、雨水の流入速度がポンプの排水能力を超えたとみられる。浸水し始めた当初は住民らが人力で排水していたが、流入速度は予想以上に速く、安全を優先して作業を中断した。

 タスクフォースは調査結果を踏まえ、管理会社の三井不動産レジデンシャルサービスや設計・施工者の竹中工務店などの協力を得て、再発防止策を整理。20年6月には雨水流入升から貯水槽へ雨水を送る配管に「止水バルブ」を新設した。貯水槽へと無制限に水が流入することを防ぐのが目的だ〔図1、2〕。ただし、貯水槽は雨水を貯めて周辺地域の浸水被害を軽減するための施設なので、止水バルブを閉じる基準については運用マニュアルを作成中だ。

〔図1〕浸水経路に止水設備を増設
パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの浸水メカニズムと再発防止策。建物の西側に武蔵小杉駅がある。同マンションの管理組合は2019年10月に発生した浸水被害を検証。特定した浸水経路や、建物の開口部、地下駐車場出入り口に止水設備を増設した(資料:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーの資料に日経アーキテクチュアが加筆、下の写真2点は日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]
〔図2〕対策に優先順位を設定
パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワーのタスクフォースが作成した浸水対策案。優先順位を設定して進めている(資料:パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー)
[画像のクリックで拡大表示]
 東日本台風で、住人が自ら土のうを積むことになった経験を踏まえ、迅速に対応できるよう、地下駐車場出入り口と建物出入り口の計7カ所に止水板を設置した。外壁のガラス部分については、浸水深1mまで水圧に耐えられることを確認した。

 マンション管理組合の理事長は、「1mの浸水に耐える対策は講じた。次は多摩川が氾濫した際に想定される2m級の浸水対策だ」と話す。非常時に屋上の受変電設備を使えるよう配線系統を変えるなどの対策を検討している。』
『初の浸水対策ガイドライン
 首都圏の人気エリアに立つタワーマンションで電気設備などが浸水被害を受け、長期にわたって停電や断水が発生したことは社会に大きな衝撃をもたらすと同時に、都市部の浸水対策の甘さをあらわにした。

 タワマンの被災を受けて国土交通省と経済産業省は19年11月、「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」(座長:中埜良昭・東京大学生産技術研究所教授)を設置。浸水対策の在り方や事例を初めて整理し、20年6月19日に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を発表した。

 ガイドラインでは、消費電力量が大きく、高圧受変電設備などの設置が必要となる建築物を想定し、洪水などの発生後も機能を継続できるよう、電気設備の浸水対策の在り方や具体例を示した。対象は、建築主や設計者、施工者、所有者、管理者、電気設備関係者など建築物の電気設備に関わる者だ。ガイドラインに法的な強制力はないが、浸水対策を検討している企業や管理組合などにとっては参考になる内容だ。

 ガイドラインではまず、対策の検討プロセスについて解説した〔図3〕。建築主や設計者などは、敷地の浸水リスクを調査し、浸水深や浸水継続時間などを想定する。さらに、調査結果を踏まえて浸水を防止する箇所を選定するなどして、建物の機能継続の目標水準を設定する。

〔図3〕浸水対策は浸水深の想定からスタート
国土交通省のガイドラインで示した建築物における電気設備の浸水対策の流れ。まずは浸水リスクを調査し、浸水規模や機能継続の目標水準を設定する。目標水準を踏まえ、必要な対策を講じる(資料:国土交通省の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
[画像のクリックで拡大表示]
 具体的な浸水対策としては、浸水リスクの低い上階などに電気設備を設置することが望ましいとした。上階に設置することが難しい場合は、建物への浸水を防ぐために「水防ライン」を設定するよう促した。

 水防ラインとは、建物などを囲むように領域を設定し、ライン上の全ての浸水経路に止水板などを設置することで、ラインより内側への浸水を防止。電気設備などの浸水リスクを低減する考え方だ。

 水防ライン上に施す浸水対策の具体例については、浸水経路別に紹介している。出入り口への止水板の設置や、下水道からの逆流を防止するバルブの設置などだ。

 さらに、水防ライン内で浸水が発生した場合に備え、水密扉の設置などによる防水区画の形成や電気設備の設置場所のかさ上げなどの対策も示した。事例集ではこうした対策の参考事例を紹介し、止水設備の特徴についても解説している〔写真4〕。

〔写真4〕対策の具体例を紹介
国土交通省のガイドラインに示した浸水対策の一例。電気設備を想定浸水深より高い壁で囲んだ例や、高い位置に設置している例などがある。また、地盤面より1階床面の高さを段階的に高くして平時の建物利用の利便性を損なわないよう配慮した例も示した(写真:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]
 ガイドラインでは、建物の企画・設計の段階から平時、水害発生時などの各段階で誰が何をすべきかを整理した「タイムライン」も提示〔図4〕。関係者間で共有し、自身の役割を事前に確認しておくことを推奨している。

〔図4〕建物の浸水に備えてタイムラインで役割を確認
国土交通省のガイドラインで示した浸水対策タイムライン。企画・設計段階から発災前後まで、時系列で対策項目と役割を整理した。これを参考に、個別の建物の特徴や管理体制に合わせてタイムラインを作成することを推奨している(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]』

多摩川に姿を現す羽田連絡道路

多摩川に姿を現す羽田連絡道路、台風で遅延していた台船架設が完了
大村 拓也 写真家
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00129/082000061/

『2019年10月の台風19号で多摩川に土砂が堆積した影響などで、進捗が遅れていた「羽田連絡道路」の台船による桁架設がようやく完了した。多摩川渡河部の長さ602.55mのうち、約半分以上を架け終わった。

多摩川左岸から見た台船架設の様子。架設した桁は長さ42.5m、重量681t。午前5時前に台船の移動を開始し、桁の荷重を午前8時までに架設済みの桁とベントに受け替えた。2020年7月21日撮影(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]
 羽田連絡道路の事業は、再開発が進められる羽田空港跡地の「羽田グローバルウィングス」と、川崎市殿町地区の「キングスカイフロント」の連携強化や活性化につながると期待されている。多摩川渡河部と川崎市側のアプローチ部は、五洋建設・日立造船・不動テトラ・横河ブリッジ・本間組・高田機工JVが上下部一括で設計・施工を担っている。

羽田連絡道路の位置図(資料:川崎市)
[画像のクリックで拡大表示]
羽田連絡道路の完成イメージ(資料:川崎市)
[画像のクリックで拡大表示]
 橋は多摩川渡河部の鋼3径間連続鋼床版箱桁(複合ラーメン)と、川崎市側のアプローチ部の鋼2径間連続鈑桁から成る。台船架設は、多摩川渡河部の中央径間と左岸側の側径間で合計5回実施。1回目は3分割した中央径間のうちの1ブロックを19年9月に架設した。

 しかし、同年10月の台風19号の影響で多摩川に大量の土砂が堆積。東京湾から現場付近まで作業船が航行できなくなったため、五洋建設JVは河川内の架設工事を中断し、土砂を浚渫(しゅんせつ)した。これにより、2回目の台船架設は予定よりも約半年間遅れ、20年4月に再開したばかりだ。

 その後、河川内に仮設したベントを併用し、20年6月に左岸側の側径間に当たる長さ66.9mの桁を架設。さらに7月21日には長さ42.5mの桁を継ぎ足した。残りの左岸側70.15mは、7月21日に架設した桁の端部からトラベラークレーンで張り出し架設する。この径間は堤防や環状8号線の上空に架かる計画だ。

羽田連絡道路の平面図(資料:川崎市)
[画像のクリックで拡大表示]』

『工事費は約55億円増加
 右岸側の側径間173mは干潟が広がる「生態系保持空間」なので、台船架設ではなく、橋脚柱頭部からの張り出し架設と、右岸からの手延べ工法による送り出し架設を組み合わせる。今年度中に全ての径間の架設完了を目指す。

右岸側から見た多摩川渡河部。写真の右手は生態系保持空間で、トラベラークレーンで張り出し架設する。2020年8月4日撮影(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]
 施行主体の川崎市は当初、20年7月の開通を念頭に置いていた。しかし、着工した17年に多摩川の河床に想定を上回る土砂が堆積していることが判明し、浚渫する必要が生じたので、橋脚工事の着手が遅れた。

 さらに、橋脚付近の地盤が想定以上に硬く、基礎工事に使用した鋼管矢板の施工に時間を要した。これらの遅れに、19年の台風の影響が加わり、現在、21年度中の開通を見込んでいる。20年8月時点で工事費も当初から約55億円増え、約272億円になった。多摩川渡河部の工事費は、事業主体である川崎市と東京都が折半する。

2020年8月上旬に、右岸のヤードで地組みした長さ54mの桁と長さ76.9mの手延べ桁を47.25m前進させた。今後、後方に長さ50m分の桁を地組みし、20年12月に河川内へ向けて送り出す(写真:大村 拓也)
[画像のクリックで拡大表示]』

横浜港と東名が直結 地中から空へ駆ける

横浜港と東名が直結 地中から空へ駆ける
首都高横浜北西線
大村 拓也 写真・文
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00020/072200013/ 

『開通直前の2020年3月、首都高横浜北西線の上り線から横浜港北ジャンクション(JCT)を望む。上り線は写真中央付近で第三京浜道路を越えた後、17年に開通した首都高横浜北線につながる。ランプ橋を含め最大3層に重なる同JCTの高架橋は、19年度の土木学会田中賞を受賞した。右奥の高層ビルの付近に新横浜駅がある

 道路が幾重にループを描く横浜港北JCT。写真右手は第三京浜道路の料金所。首都高速道路から第三京浜へ乗り継ぐ車は写真中央の赤いレーンを、一般道へ降りる車は青いレーンをそれぞれ進む。同JCTは第三京浜の出入り口を移設しながら15年以降、段階的に供用を始めた

 横浜港北JCTから横浜青葉JCT方面を望む。横浜北西線は1.4kmの高架区間を進んだ後、写真右奥の丘陵地帯からトンネルに入る。高架区間は大型クレーンによる大ブロック架設を多用して、工期を短縮した

 延長4.1kmのトンネル区間。内径は11.5mで直線区間が2kmほど続く。大断面の泥水式シールド工法で世界最速クラスとなる平均月進325mを記録した。トンネル掘削後のたて坑頂版の構築には、埋設タイプの吊り型枠を採用。設備工事と同時並行で進めた

 上り線トンネルを大成建設・佐藤工業・東洋建設JVが、下り線トンネルを安藤ハザマ・岩田地崎建設・土志田建設・宮本土木JVがそれぞれ施工した。2本のトンネルの離隔は約6m。途中にUターン路が2カ所ある

 東名高速道路とつながる横浜青葉JCT側の坑口は、鶴見川右岸の田園地帯にある。JCT付近の高架を過ぎた後、坑口から約300m先の鶴見川の直下まで5%の勾配で一気に下る

延長7.1kmの首都高横浜北西線が2020年3月、開通した。事業費は2589億円。トンネルは横浜市の街路事業として整備した。17年に開通した首都高横浜北線とつながり、横浜港と東名高速道路を直結。保土ケ谷バイパスの混雑を分散する。計画初期の03年から住民の声を事業に反映するパブリック・インボルブメント(PI)方式を導入。これが功を奏し、用地取得が円滑に進んだ。施工でも工期短縮の工夫を凝らし、開通時期を事業当初の目標から2年も前倒しした。』

貨物ファースト? 海の森に現れた「裏方の花道」

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00110/00193/ 

『「東京港にできた海の森大橋へ向かってほしい」。こう頼まれて迷わず到着できる人はほとんどいないはずだ。カーナビの地図にもまだ登録されていない地点かもしれない。

 海の森大橋は、東京・お台場の先、中央防波堤内側埋立地(江東区海の森)と外側埋立地の間に架かる橋長249.5mのアーチ橋だ。2020年6月20日に開通した。工事期間中は東西水路横断橋と呼ばれていた。

海の森大橋。開通前日の2020年6月19日に撮影(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 同日には、お台場に隣接する有明地区と内側埋立地を結ぶ海底トンネル「東京港海の森トンネル」も開通した。「海の森大橋」と「海の森トンネル」を含む道路の正式名は「東京港臨港道路南北線および接続道路」と呼ばれる。

 知る人ぞ知る場所にできた新しい橋とトンネルへ、開通前日に訪れてみた。

(資料:東京都)
[画像のクリックで拡大表示]
 中央防波堤地区はごみの埋め立て処分によって造成されたエリアだ。海の森大橋が架かる内側埋立地と外側埋立地との間の水路は、東京五輪でカヌーやボートの競技が催される「海の森水上競技場」となる。臨港道路南北線は五輪の大会期間中、選手や関係者の輸送路として活躍する見込みだ。

 ただし、国土交通省と東京都が臨港道路南北線を整備したのは、五輪のためではない。「貨物ファースト」ともいえる別の目的があった。

 東京港の沿岸部にはコンテナ埠頭が多数ある。外側埋立地の一画でも、新たなコンテナ埠頭の整備が続いている。

中央防波堤外側埋立地で整備が進むコンテナ埠頭を西側から望む。写真中央やや左奥に海の森大橋のアーチが見える(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
 中央防波堤地区からは、臨海トンネルや東京ゲートブリッジがある東京港臨海道路を使って東西に移動できる。また、都心部に向かう南北方向の移動は、既存の青海縦貫線を利用すればよい。

 ところが、貨物取扱量の増加に伴って近年、トラックやトレーラーなどによる深刻な渋滞が周辺で発生。臨港道路南北線は、こうした都市の物流機能を裏方で支える混雑緩和の切り札として整備されたのだ。臨港道路南北線および接続道路の概要は以下の通り。

・開通区間:10号地その2地区(江東区有明4丁目)-中央防波堤外側地区(同区海の森3丁目地先)
・延長:約3.7km
・車線数:往復4~6車線
・事業期間:2014~20年度
・総事業費:約1900億円
 前後のアプローチ道路を含めたトンネル区間を国土交通省が、海の森大橋や東京港臨海道路との接続部などを東京都がそれぞれ整備した。工事期間は15年10月から19年11月。海の森大橋や海の森トンネルといった名称は、一般公募で19年12月に決定した。

約4年の短工期で完成した海の森トンネル
 報道関係者に公開された開通前日、筆者はまず、中央防波堤内側埋立地から有明地区方面に向かってみた。

 内側埋立地の周辺に一般車はほとんど見かけない。代わりに大型トラックが目立つ。お台場との距離はそう遠くないものの、周辺に商業施設や観光地がないので、当然といえば当然だ。

 海の森大橋の北側から海の森トンネル方面を望む。左手には東京二十三区清掃一部事務組合が運営する中防不燃ごみ処理センター、右手には東京都建設発生土再利用センターがある。正面奥には、お台場のパレットタウンにある大観覧車も見える。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森トンネルの入り口が見えてきた。陸上のアプローチ道路を含む総延長は2459.5mある。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 掘割になったアプローチ道路を進み、海底トンネルへ向かう。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森トンネルの海底部は沈埋工法で施工した。沈埋函と呼ぶ巨大な箱型のトンネルを海底に沈めて設置する工法だ。約1年前の19年7月には沈埋函の完成を披露する見学会が催された。沈埋函の据え付けから1年足らずで道路が供用されたことになる。
(関連記事:お台場の先で海底トンネルひそかに貫通、五輪の輸送路にも)

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 沈埋工法には以下のような特徴がある。

海底の浅い場所に設置できるので、前後のアプローチ道路を含めた総延長を短くできる
海底の大きな支持力を必要としないため、軟弱地盤にも対応できる
造船所のドックなどで製作するため、水密性が高く高品質なトンネルを築造できる
 海の森トンネルの沈埋函は、7つの函(1~7号函)で構成されている。1つの函は長さ約134m、幅約27.8m、高さ約8.35mで、これまでに国内で製作した沈埋函の中では最長だ。ドックなどで製作した後、現地へ曳航(えいこう)して海底に沈めた。7つの函の延長は合計で930.8mになる。

(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]
 この規模の沈埋トンネルは通常、8年から10年の工期を要する。しかし、海の森トンネルは約4年という短い工期で完成した。工期を短くするため、以下のような工夫を盛り込んだ。

・沈埋函の数を減らす
・陸上部のアプローチ道路の勾配を大きくして、施工延長を短くする
・沈埋函の最終接合の継ぎ手を省略できる「キーエレメント工法」を採用する
・沈埋函の製作場所をドックと海上に分散する
 道路の側面には消火設備や非常口がある。非常口の扉を開けると、安全な避難通路を通って地上へ避難できる。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 トンネル内を車で走行していると、いくつかの継ぎ目がある。これは沈埋函の接合部ではなく、沈埋函のクラウンシール継ぎ手部分の舗装面伸縮装置になる。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 クラウンシール継ぎ手は、沈埋トンネルの不等沈下や地震動に伴う大変形に追従できるように、函体内部に設けた可とう性の継ぎ手だ。従来の一般的な沈埋函の端部に設ける継ぎ手よりも、2倍以上の変形吸収性能を持つ。

五輪で世界にお披露目できるか
 折り返して、今度は臨港道路南北線を有明地区から中央防波堤地区方面へ戻る。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森トンネルを抜けると、中央防波堤内側埋立地に出る。直進して海の森大橋を渡ると、外側埋立地へ行ける。外側埋立地では、臨港道路南北線が東西方向に走る東京港臨海道路に接続する。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森大橋は、内側埋立地と外側埋立地の間にある東西水路をまたぐ。橋長249.5m、幅員34.3m、鋼量約6300t。アーチ橋の一種で、厳密には鋼単純ニールセンローゼ橋と呼ばれる。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森大橋の架設は、長大なアーチを海上に浮かべた台船から一括架設するという難しい工事だった。
(関連記事:アーチを台車ごと船に載せ一括架設)

 まず、架設地点から400mほど離れた場所でアーチを地組みする。次に、アーチを載せた多軸台車ごと台船に移動。「ロールオン」と呼ぶ手法だ。その後、台船で架設地点まで運び、潮位変化などのタイミングを見計らってアーチを橋台に据え付けた。

(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]
 ロールオン作業はまず、あらかじめ編成しておいた多軸台車を台船に載せて海上から運搬し、地組みしたアーチの下へ滑り込ませる。次に、アーチを多軸台車で支え、台船に移動した。

(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森大橋の銘板は、小池百合子東京都知事による揮毫(きごう)だ。漢字と平仮名の2種類が橋の両側に設置されている。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森大橋が架かる東西水路は、両端を締め切って「海の森水上競技場」として整備した。東京五輪ではカヌーやボートの競技を実施する。五輪後も国際大会が開催できる競技場や選手の育成拠点として使われる計画だ。

海の森水上競技場のイメージ図。図の左上に海の森大橋が見える(資料:東京都オリンピック・パラリンピック準備局)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森大橋を外側埋立地に向かって進む。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
 東京港臨海道路との交差点に着いた。直進すると中央防波堤外側コンテナふ頭、左折すると東京ゲートブリッジへ向かうことができる。

(写真:大上 祐史)
[画像のクリックで拡大表示]
2012年に開通した東京ゲートブリッジを東側から望む。写真奥が中央防波堤地区(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
 海の森大橋や海の森トンネルの開通によって、物流機能の効率化や国際競争力の強化などが期待できる。東京五輪が開催され、各国のメディアを通して世界の人々の目に入ることを願うばかりだ。』