「『指導力がない』と言われるけど、こんなに指導力のある総理はいないだろう」
総裁選直前の菅義偉が担当記者にこぼしていた“本音”
https://www.jiji.com/jc/bunshun?id=50263
※ 壮絶な話しだ…。
※ この人が、ワクチン接種の陣頭指揮に立たなかったら、今の日本の「コロナの落ち着き」も無かったろう…。
※ 「コロナ対策」「オリパラ対策」に、「使い捨て」にされた形だな…。
※ しかし、いかんせん「発信力」が弱点だった…。
※ 「選挙の顔」向きじゃ、無かった…。
※ 安部さんが「なんのかんの」言われながら、長期政権を維持できたのは、なんと言っても、「選挙に強かった」からだ…。
※ それを、支え続けたのが、この人だったんだが…。
※ まあ、このままでは「終わらない」だろう…。
※ 当分の間は、自民党の「政局」の行方を左右する、キーパーソンであり続けるだろう…。

『歴代最長の首相在任期間を誇った安倍晋三氏の突然の退陣を受け、その後釜となった菅義偉氏。就任当初は支持率も好調で、長年の官房長官経験から政策実行力にも期待が持たれていた同氏だったが、わずか1年ほどで菅政権は幕を閉じることとなった。彼はなぜこんなにも早く総理の座を追われることとなったのか。
ここでは、日本テレビで記者を務める柳沢高志氏の著書『孤独の宰相 菅義偉とは何者だったのか』(文藝春秋)の一部を抜粋。菅氏が総裁選不出馬を決意する直前の心持ち、そして、担当記者にだけ漏らしていた“本音”を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
©文藝春秋
◆◆◆
オリンピック開催も新規感染者数増に弱音
7月23日、東京五輪がついに開幕する。新国立競技場の観覧席で、天皇陛下やIOCのバッハ会長と並んで開会式を見守っていた菅の様子が、何度となくテレビ中継で映し出されたが、その表情は明らかに疲れ切っていた。天皇陛下の開会宣言の際に、当初、菅が着席したままだったことも、ネット上などで非難された。確かに、菅にとっては、五輪を楽しむような心境には到底なれない状況だった。この前日、東京の新規感染者数は1979人となり、感染は急拡大を見せていたからだ。
この3日後、ある場所に現れた菅は、開口一番、こうこぼした。
「いやあ、疲れたよ」
この日、菅は、広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたとして住民が起こした、いわゆる「黒い雨訴訟」で上告を断念する決断を下した。厚労省は、「今回の原告が、『黒い雨』により健康被害を受けた科学的根拠は乏しい」として上告すべきとの意見だったが、菅のトップダウンの判断で、上告断念となった。「あのままだと、裁判中に、原告で亡くなってしまう方も出てしまうからね。俺は最初から、こうしようと決めていたよ」
国民感覚を大切にする、菅らしい政治判断を久しぶりに見た気がした。
そして、東京五輪では、日本選手団のメダルラッシュが続いていた。
「総理は、オリンピックは見ているんですか?」
「柔道の阿部一二三・詩兄妹は安心して見ていられたね。ソフトボールも明日勝てば、金メダルか。俺、スケボーとか視察に行ってみたいんだけど、どう思う?」
「感染対策など、見に行かれるのは良いと思います」
「そうか、じゃあ、一回行ってみようかな」
「開会式は、いかがでしたか?」
「テレビで見ているのと違って、あの席では解説がないからよく分からないんだよね。パントマイムみたいなやつとか、すごい人気だったみたいだけど、会場ではよく分からなかった。ドローンはすごかったけどね」
視察は検討されたものの、世論の批判を恐れ、結局、見送りとなった。
「解散権が失われる」
五輪が盛り上がる一方で、感染は深刻さの度を増していく。7月28日には、東京で3177人、蔓延防止等重点措置の対象だった神奈川県で1051人、埼玉県で870人、千葉県で577人といずれも過去最多を更新し、翌日、3県知事は緊急事態宣言の発出を要請する。国会では、分科会の尾身会長が、「この1年半で、最も厳しい状況にある」との認識を示した上で、「国民に危機感が共有されていないことが最大の危機だ」と指摘した。
このとき、多くの地域で感染者数は急増していた一方で、重症化率や重症者用の病床使用率は、緊急事態宣言のレベルにまでは達していなかった。しかし、専門家は、首都圏や大阪府への緊急事態宣言発出が必要だと主張し始めていた。菅も悩みを深めていた。
「きょうも、東京は3865人だが、重症者数はそこまでは増えていないですね」
「そうなんだよ。でも、みんな新規感染者数だけに目を奪われてしまっている。今日も、大阪の松井(一郎)市長から連絡があったけど、大阪は重症者用の病床使用率が2割くらいだから、宣言は出してほしくないと言うんだよ」
「では、大阪には宣言は出さない?」
「いや、出さなければ、専門家はダメでしょう。難しいよね」
そして、国民へのメッセージを求める尾身について、不平を漏らした。「尾身先生は、ワクチンの効果の話を全然してくれないよね。重症化防止に効果がある抗体カクテル治療についても、まったく触れない。それで『メッセージを出せ』とばかり言うんだよ。でも、もうここまで来てしまったら、収束させるにはワクチンしかないんだよ」
7月30日、政府は、首都圏の3県と大阪府に対し、緊急事態宣言を8月2日から31 日まで発出し、さらに東京と沖縄への宣言を31日まで延長することを決定する。菅は記者会見で、「今回の宣言が最後となる覚悟で対策を講じる」と語った。この日の記者会見では、いつも以上に声はか細く、悲壮感を漂わせていた。
この宣言の延長について、菅の側近は失望の色を顔に浮かべた。
「総理の頭の中の“日程”が狂ってしまう。このままでは、解散権を失うことになる」
実は、7月の都議選以後、菅が頭の中で描いていた極秘の政治日程があった。それは、まず東京オリンピックが閉会する8月8日からパラリンピック開幕の8月24日までの間に、自民党役員人事と内閣改造に踏み切り、人事を刷新する。そして、五輪での世論の盛り上がりと新しい人事への期待感を追い風に、パラリンピックが閉会する9月5日の直後に衆議院を解散。衆院選で勝利をした上で、自民党総裁選挙で無投票再選を勝ち取る、というシナリオだった。
しかし、感染拡大が続く中で、8月中に人事を断行することは不可能となった。そして、菅はかねてから「解散よりもコロナ対策を優先する」と繰り返し公言してきたため、次に宣言を延長すれば、パラリンピック直後の解散も難しくなってしまうのだった。
総裁選をやるべきか
8月に入ると、自民党総裁選に向けた動きが出始める。前総務大臣の高市早苗は、8月10日発売の月刊「文藝春秋」に寄稿し、総裁選への出馬の意欲を示した。さらに、政調会長の下村博文も、周辺に対し総裁選に立候補する意向を伝えた。この頃、菅側近は、総裁選を総選挙後に延期できないかと模索をしていて、「いろいろ調べたが、中曾根(康弘)総理のときに総裁の任期を1年延長したことがある。だから、延期することも可能だけど、そのためには両院議員総会をやらなければいけない」などとシミュレーションをしていた。
そして、菅にとって痛いミスが重なる。8月6日、広島市で開かれた平和記念式典で、挨拶の一部を読み飛ばしてしまったのだ。冒頭から、「原爆死没者」と言うべきところを、「原発」と読み間違えるなど、言葉がおぼつかない様子だった。そして、読み飛ばしが起きたのは、演説で最も重要な箇所だった。読み上げるべき原稿は、事前に報道陣にも配られていた。
「私の総理就任から間もなく開催された国連総会の場で、『ヒロシマ、ナガサキが繰り返されてはならない。この決意を胸に、日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くします』と世界に発信しました。我が国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり、『核兵器のない世界』の実現に向けた努力を着実に積み重ねていくことが重要です。近年の国際的な安全保障環境は厳しく、核軍縮の進め方をめぐっては、各国の立場に隔たりがあります」
しかし、菅は、次のように読んでしまう。「私の総理就任から間もなく開催された国連総会の場で、ヒロシマ、ナガサキが繰り返されてはならない。この決意を胸に、日本は非核三原則を堅持しつつ、核兵器のない、核軍縮の進め方をめぐっては、各国の立場に隔たりがあります」
まったく意味の通らない文章だった。菅は、直後の記者会見で読み飛ばしを認め、陳謝した。秘書官は「原稿を蛇腹状に糊で貼り付けた際に、ページがくっついてしまった」と悔やんだ。この広島訪問は、直前に菅が「黒い雨訴訟」の上告断念を決断したこともあり、原告団との面会も準備され、本来は菅にとってはアピールの場になるはずだった。
そして、今度は8月9日、長崎市で行われた平和祈念式典に、1分間遅刻したのだ。総理の一行は、式典の会場には4分前に到着していた。駐車場に到着すると、警護官から「ここで時間調整をさせてください」と言われたため、菅は「では、トイレに行かせてください」と手洗いに向かった。しかし、警護官の想定よりトイレの場所が遠く、式典に遅れてしまったのだ。車に同乗していた秘書官は「申し訳ありません」と頭を下げたが、菅は「俺が悪いから」とかばった。そして、翌日、報道陣に対し、遅刻についても謝罪することとなった。
自民党議員からは、「ただでさえ、総理の人気が落ちているのに、この人で大丈夫なのかという空気が一気に広がっている。これは致命的なミスだ」との声が上がった。
「ワクチンだって、俺がやらなければ一日100万回なんてできなかった」
この3日後、2週間ぶりに会った菅は、額に深い皺を寄せ、目の下は薄黒く窪んでいた。
「お疲れじゃないですか」
弱々しい笑みを浮かべた。
「疲れているよ」
「暑いし、夜も寝付けないのでは?」
「そうなんだよな」
この日、東京の新規感染者数は4989人に上っていた。新たな変異株、デルタ株は、これまでのウイルスとは桁違いのスピードで感染を広げていた。
「感染がなかなか落ち着きませんね」
「今はお盆で帰省前に検査をする人が多いから、来週になれば減ってくるんじゃないか。ワクチンも8月末で1回接種を終える人が6割になる。そうなると、今のアメリカ並みになるし、9月末にはイギリス並みになる。そうすれば落ち着くでしょう」
振り返ってみれば、ここからの2週間が第5波のピークだったのだが、当時は、どこまで感染が増えるのか、天井が見えない状態で、国民の不安も限界に達していた。
「それでも、欧米のようには減らないかもしれないのでは?」
「どうなるかだね。ウイルスも季節性の面もあるんだよね。だから、力ずくではどうにもならないんだよ。増えたり減ったりを繰り返していく。それでも、抗体カクテル治療もどんどん広げているからね。もう少しで落ち着くよ」
そして、唇を歪めて、憮然とする。
「世論調査で『指導力がない』と言われるけど、こんなに指導力のある総理はいないだろう。ワクチンだって、俺がやらなければ一日100万回なんてできなかった。俺は退路を断ってやったんだから。それが達成したら、みんな当たり前のことになってしまった」
この日、どうしても踏み込まなければいけない話題があった。
「総裁選は、やりますかね?」
「どうするんだろう」
「新潟県連がいかなる状況下でも、党員・党友投票を含めた総裁選を予定通りやるべき、との要望書を出していましたね」
点滴を打ちながら公務を…130日以上続く激務で疲労困憊
この頃、自民党内からは総裁選を先送りしようという菅の思惑を牽制する動きが表面化していた。新潟県連会長の高鳥修一衆院議員は記者団に「我々としては総裁選を先にしていただきたい」と述べた。そして、「長老や派閥の領袖が談合して、総裁選の流れを決めるということは党のあり方としてマイナスだ」と、暗に菅を支援する二階幹事長らを批判し、「総裁選は開かれた形で正々堂々とやるべきだ」と強調した。衆院選が目前に迫る中、内閣支持率が低迷する菅政権のままでは、自民党が惨敗しかねないという危機感が、党内に蔓延し始めていた。
「やるなら、やればいいじゃん」
菅は、こうした動きについて、投げやりに言い放った。
「俺からしてみれば、こんなコロナの大変なときに、よくやるなと思うよ」
「誰が出てきますかね。下村さんは出ますかね?」
「出ないでしょ」
「高市さんを、安倍さんが支援するということは?」
「それはないでしょう」
「あとは岸田さん」
その名前を聞くと、「ふっ」と鼻で笑った。
「緊急事態宣言中は、やはり解散は難しい?」
「俺は、コロナ最優先と言ってきたからね。でも、8月末になれば、ワクチン接種状況はアメリカ並みだから、まだ分からないよ」
質問を畳みかける。
「解散をしなくても、総裁選を延期することはできないのでしょうか?」
「それは知らない。党のことだから、そこは党で決めてもらう」
そして、深くため息をつくと、悲しげに苦笑を漏らした。
「支持率が少しでも上がったら、自民党の議員たちも文句を言わないんだろうけどね。みんな自分の選挙に響くと思っているからね」
この2日前にNNNと読売新聞が発表した世論調査で、菅内閣の支持率は35%と政権発足以来、最低となった。閉会したばかりの東京五輪については、開催されてよかったと「思う」が64%、「思わない」が28%だった。日本選手の過去最高のメダルラッシュで世論は大いに盛り上がったが、それが政権の追い風にはつながらなかったのだ。
この頃、外部には伏せられていたが、菅は官邸の執務室で、疲労回復のための点滴を打ちながら公務をこなしていた。3月末以来、130日以上休日も取らずにコロナ対策などの激務を続け、さらに睡眠不足も重なり、疲労困憊は誰の目にも明らかだった。秘書官たちは「せめてお盆休みは、都内のホテルで静養してください」と懇願し、宿泊の予約を取った。しかし、前日になると、菅は予約をキャンセルしてしまう。そして、秘書官に優しく言い聞かせるように諭した。
「夜になると、宿舎にいても救急車のサイレンが聞こえてくるんだ。そうすると、もしかしたら搬送先がなくて、たらい回しになっているんじゃないかと不安で、眠れなくなってしまう。国民がそんな状況のときに、私だけホテルで休むなんてできないんだよ」
【続きを読む】「総理は頭がおかしくなったのか」「引きずり下ろさなければ」…菅政権“最後の10日間”に起きていた小泉進次郎の“暗躍”とは
「総理は頭がおかしくなったのか」「引きずり下ろさなければ」…菅政権“最後の10日間”に起きていた小泉進次郎の“暗躍”とは へ続く
【続きを読む】「総理は頭がおかしくなったのか」「引きずり下ろさなければ」…菅政権“最後の10日間”に起きていた小泉進次郎の“暗躍”とは
「傀儡と見られるのでは」新総裁・岸田文雄は“あの男”に似ている…めでたいはずの首相就任に感じる「悲劇の匂い」
菅政権の肝煎り政策は「誰かが言っていたもの」ばかり…背後にいた“謎の外国人”と“大物金融ブローカー”とは 』